スターティングメンバー |
北海道コンサドーレ札幌のスタメンは3-4-1-2、GKク・ソンユン、DF進藤、増川、福森、MF石井、深井、前寛之、前貴之、ヘイス、FW都倉、内村。サブメンバーはGK金山、DF上原、櫛引、MF上里、河合、荒野、ジュリーニョ。進藤が3試合ぶりにスタメンに復帰、前節に続き堀米、更に金曜の練習で負傷(肉離れ)の宮澤、マセードが欠場と中盤が一気に苦しくなっている。前貴之は今シーズン初出場。増川がキャプテンマークを巻く。サイドは両足で蹴れる前貴之が左、石井が右に回っている。
ザスパクサツ群馬のスタメンは4-4-2、GK清水、DF船津、乾、坪内、高瀬、MF山岸、松下、中村、高橋、FW瀬川、常盤。サブメンバーはGK鈴木、DF青木、一柳、MF小林、永井、平、FW小牟田。
2016年シーズンの群馬は開幕戦で岐阜に4-0と快勝、続く金沢にも勝利し2連勝を飾ったが、第3節から第12節まで未勝利と苦しむなど、ここまで4勝5分け10敗で勝ち点17、20位と厳しい戦いが続く。試合前の興味深いデータとして、ここまで消化した、第19節までの19試合において相手が3バックのチームと対戦した5試合では1勝もできていない(vs岡山0-1、松本1-2、徳島1-1、愛媛1-2、長崎2-2)というものがある。
1.前半
1.1 序盤の蹴り合い
この試合の前半は、ホーム側からアウェイ側、前半は群馬にとって追い風となる方向にやや強い風が吹いており、序盤は追い風を生かしたい群馬、リスクを回避したい札幌の両チームともにロングボールを蹴り合い、ボールが落ち着かない展開となる。群馬としては、札幌の最終ライン裏にボールを蹴ることで陣形を押し下げたいとの狙いもあったと思われるが、札幌の陣形が下がれば、仮に放り込んだボールが跳ね返されたとしても札幌の最終ラインと中盤、又は前線の3枚が分断されてしまう。
一方、札幌がボールを持つと群馬は低い位置で4-4のブロックを形成するので、札幌としては陣形を押し下げるというよりも、安易に繋ごうとして中盤で奪われてカウンター、という展開を回避することや、やはり都倉の強さを活かしてボールを前進させたいといった意図があったと考えられる。
ロングボールで札幌守備を押し下げて中盤を空ける 跳ね返されたボールを根性で拾って素早く二次攻撃 |
そして札幌はロングボールを繰り返されると、やはり本来5-2-3でセットしたい守備陣形が縦に間延びし、前線の「3」が守備に加わることが難しくなるのでそこをカバーしようとバランスを崩したエリアに隙ができてしまう。例えば下の図の8:00頃の展開は、ピッチ上を何度か行き交ったボールが最終的に群馬の左サイドに展開されるが、このボールの移動中、当初はFWのヘイスや都倉が守備に加わっていたが、ボールが前後左右に飛び交う展開に着いていけず、群馬の左・札幌の右サイドでは石井と、最終ラインから進藤が飛び出して対応せざるを得なくなる。すると進藤が出たスペースを瀬川が狙って、後方からやはり長いボールで裏を狙っていく、という攻撃である。
「3」のサイドの選手が札幌右サイドをカバーできないので サイドを石井と進藤で対応すると、進藤の担当エリアが空く |
序盤の蹴り合いで、セカンドボールを回収できていたのは札幌よりも群馬のほうが多かったように思えるが、これは戦術の差というよりもゲームへの準備や臨み方、こうした割り切ったサッカーを上等だと考え、ボールを前線に当てたら後方の選手が根性でサポートする草津と、できれば消耗戦は避けたい札幌の考え方による部分が大きいだろう。
1.2 2トップのワイドなポジショニング(フィジカルモンスター・都倉がサイドに流れる意義)
1)相手SBに都倉をぶつけることでミスマッチを作る
ここ数試合で札幌がボール保持時に見せている陣形として、前線の3枚、特に都倉と内村の2トップがサイドに開いて横幅をとるポジショニングから、サイドでボールを受けて運んでいくという形式が見られる。
元々、中盤の選手でありドリブルや足元の技術に長ける内村に加え、元来9番タイプである都倉も持ち前のフィジカルの強さを活かし、サイドで受けてドリブルでボールを運ぶというプレーが徐々に向上しており、また都倉がサイドで相手のサイドバックの選手と対峙すると、現代サッカーのトレンドとしてサイドにはスピードや運動量が特徴の選手が配され、あまりフィジカルコンタクトに強くない選手を置いているチームも多いので、都倉とミスマッチが作れるということも考慮しているのかと考えられる。
札幌のボール保持時、前線3枚は2トップ+1トップ下の縦関係がベースだが 都倉や内村がサイドに開いた横関係にし、レシーバー、運び役として活用する この時は左サイドからの展開、都倉が開いてファーの内村は開かず裏を狙う役割 |
2)攻撃⇒守備への切り替え時のリスクを考えたポジショニング
また、こうしたFWがサイドに開いたポジションをとることによるもう一点のメリットとして、攻撃→守備のトランジション時に迅速に5-2-3の陣形に移行できることが挙げられる。第17節の松本山雅FC戦では、前線の3枚が中央に寄った3-4-1-2の陣形のままロングボールをFWやトップ下のジュリーニョに当てることが多かったが、ここでマイボールにできればよいが、相手ボールとなり攻撃→守備の転換が発生すると、前線の3枚のうち2枚がサイドに広がって守備陣形を形成しなくてはならなくなる。
図や文字で示すと単純なように思えるが、FWの選手にとって、ボールを失った後にすぐに守備に切り替えて20mを走るというのは簡単なことではない。攻守の切り替えが速い松本にはこのトランジションのまずさを突かれて何度かボールを運ばれてたが、この試合のようにあらかじめFWがサイドに広がっていれば、相手ボールになった時に守備陣形を構築しやすい。
言い換えれば、5-2-3にいつでも移行できる状態のまま前進して攻撃しているようなもので、通常の3-4-1-2よりもリスクマネジメントの点で優れている。
1.3 群馬の守備の問題点
前半15分頃から徐々にボールが落ち着き、札幌が後方でボールを保持できる時間ができてくる。序盤の札幌のビルドアップに対する群馬の守備の問題点は、常盤と瀬川の2トップの守備開始位置が定まっていないことで、ある時は敵陣(札幌側)のセンターサークル頂点を越えた位置、ある時は自陣に運ばれてからプレッシングに行くといった様相であった。
高い位置から2トップで追いかけても後ろが連動しないと、2トップの頑張りは空転で終わってしまう。特に札幌は3バック+ボランチの1枚でスクエアを形成するが、ここを2枚でカバーすることは不可能なので、群馬としては2トップの守備の役割と開始位置の明確化が必要であった。
後ろ4枚のスクエアで群馬の2トップの高い位置からの守備は無力化 |
守備の開始位置が高すぎると後ろが連動できない FWの2枚だけでは4枚に対抗できないので空転に終わる |
1.4 剥がしてからどうするか
ただ札幌としては、群馬の前線による積極的なプレッシングはあまり問題としなかったが、ここを回避してボールを中盤まで運んでから、どのように群馬の4-4の守備ブロックを崩していくか…という点が基本的には個人技頼み、具体的にはゴール前の都倉やヘイスに放り込んで、強さを活かしてキープしてもらい強引にシュートに持ち込むか、展開しているのと反対のサイドが空けば、大きく張っているウイングバックの石井や前貴之に渡し、個人技で突破してクロスや切り込んでシュート…といったパターンが大半で、大味かつ読みやすい攻撃になっていて、このやり方ではそれこそヘイスや都倉がマッチアップする相手を圧倒しなければシュートまで持ち込むことは難しくなる。
札幌の場合、この問題点は、FWの選手…都倉、内村らのうち複数が前線に張り付いてパスを待つ時間帯が増えると顕著になる。やはり守備を崩すには、複数選手がボールに絡める局面をつくり、相手に複数の選択肢を頭に入れさせることが重要で、そのためにはボールホルダーとの適度な距離感を保ったポジショニングが必要になる。札幌のスカッドでこのポジショニングが最も得意なのはジュリーニョで、ジュリーニョを先発から外したここ2試合(長崎戦、北九州戦)はともに勝利しているものの、やや攻撃が単発になっていることはスタメンの変更と無関係ではないだろう。
上記のように前方の守備では問題を抱えていた群馬だが、ゴール前に築く4-4のブロックは比較的整備されている印象を受けた。
下の写真、18:18は札幌が福森を基点とし、左サイドからボールを前進させる得意の攻撃パターンに対応する群馬の守備の状況だが、札幌は左サイドにWBの前貴之に加え、内村が流れて守備をサイドに広げたところに、後方からクロスの砲台である福森がオーバーラップし、深井も攻撃参加してきているところだが、この時、深井に本来狙わせたいのは4バックのチームの泣き所となるSBとCBの間、所謂ニアゾーンだが、このスペースをボランチの松下が埋めることで、深井をブロックの外に追い出している。
攻撃参加してきた札幌の4人目、福森がやや空いているが、ここから福森がアーリークロスを上げても、中央に3枚…CB2枚とSBの高瀬を確保しており、またボランチの中村も最終ライン前のスペースを見ているので、福森のクロス(SHの山岸が寄せてくるのでダイレクトでないと上げられない)が都倉にドンピシャで合い、都倉のヘッドが枠に飛ぶ…といった展開でなければほぼ対応できる守備組織を築くことができている。
また先に指摘した、2トップのファーストディフェンスの問題も開始位置が少しずつ定まり、中盤の選手と連動できる位置からプレッシングを開始できるようになると、札幌としては3バックが開いてピッチを幅広く使うようなプレー、3-4-1-2と4-4-2のミスマッチを突くことを徹底していかなければ、なかなかボールを前線に運ぶことが難しくなっていく。
前半の札幌の最大の決定機は26:30頃、前線でキープした都倉が左サイドの前貴之に展開し、前貴之がキープする間に福森が前貴之を追い越し、群馬は4-4のブロックを整えるという状況。札幌が前貴之→前寛之→福森とポジションをパスを繋ぐと、群馬はやはり松下がニアゾーンを管理しに下がるが、この時反対サイドでは群馬の左サイドハーフ、高橋が最終ラインに吸収されて群馬は6バックのような状態になっている。
そうなると群馬は最終ラインには人が確保できているもののバイタルがスカスカという状況で、ここをヘイスは見逃さず手薄なボールサイドのバイタルで受けると、DFを背負って受けて反対サイドのボランチ脇スペースに走り込んだ深井に横パス、深井が内村に縦パスを通し、内村がペナルティエリア内でDFをかわして左足シュートを放つもわずかに枠を外れる。
この局面はボールと反対サイドで、群馬の高橋が最終ラインに吸収されたことで中盤にスペースができたということも大きかったが、左サイドで福森と前貴之、前寛之のトライアングルでボールを保持し、前貴之と福森の流動的な動きで左サイドを意識させた上で、草津が6-2になってスペースができた瞬間にヘイスと深井がスペースを見つけに移動し、福森から的確なタイミングで攻撃の起点となるパスを出せたことがフィニッシュに繋がっている。長崎戦からここ3試合トップ下で起用されているヘイスだが、前線で張るだけでなく相手のライン間で受けるプレーも効果的で、また球離れが良いので、運動量がある若い選手を活かすこともできている。
前半終了間際~後半立ち上がりにかけ、再び札幌がボールを支配する時間帯が増えていったっ背景には、札幌の3バックに対する草津の前線の守備の問題が大きい。札幌の最終ラインでのビルドアップは、この日は3人でワイドに開いて幅を作るよりも福森と進藤が増川に近い位置をとっており、増川から受けた進藤や福森がドリブルで前方、つまり群馬のFWの脇のスペースにドリブルで運ぶプレーを多く見せる。このプレーに対して群馬はFWがプレスバックしてついていくのか、中盤がの選手がラインを崩して早めにケアしていくのか…という対応が定まらず、進藤や福森のボールを運ぶプレーにズルズルと下がって対応せざるを得ない場面が何度か見られる。
群馬の中盤の選手としては、やはり2トップが適切なタイミングでプレッシングを開始できればそれに連動して当たることができるが、群馬の2トップはプレッシングを開始するか否かの判断が各プレーでバラバラで、札幌がどの位置まで運んでくると当たる・当たらないといった決まりごとが徹底されておらず、中盤の選手としては連動して前から当たっていくことが難しく、ディレイせざるをえないのだと思われる。
札幌はこのプレーが決まってくると、上の図のように群馬の2トップの背後~4枚のMFの前方のスペースを支配できるようになり、守備の基準点をつくれない群馬を徐々に押し込んでいく。
札幌は最終ラインやボランチから前線にある程度、意図を持った(苦し紛れの放り込みでない)ボールが入るようになると、キープ力のあるヘイスの能力が活きてくる。
64:39~の局面は、草津の中盤の前のゾーンで受けた前寛之が、4-4のブロックの隙間を縫う縦パスを左足でヘイスに通すと、都倉がフリックしてワンタッチで内村→ヘイスと繋ぐ。
この時、内村→ヘイスのパスが浮くが、ヘイスは群馬の中盤~最終ラインの間のスペースで、DFを背負った状態でトラップし、最終ライン背後に走り込む都倉に浮き球のパスを通す。裏に走り込んだ都倉が受けてシュート体制になるところで倒されるが判定はノーファウル。
シュートまで持ち込むことはできなかったが、バイタルエリア中央の密集地帯で受けてラストパスを供給したヘイスの巧さが光る。現代サッカーにおいて、トップ下というポジションは従前に比べると死滅しかけていて、その中で一時期のヤヤ・トゥーレや日本代表の本田圭佑などのように、簡単に潰されない強さ、巧さを持つ選手がバイタルエリアの中央で起用される傾向が一時期は見られた。ヘイスがトップ下を務めることでもたらしているメリットも、中央で簡単に潰されないという点で、役割としてはむしろ所謂ポストプレイヤーのそれに近い。前線で収めてくれるので後ろは押し上げたり、この都倉のように飛び出したりすることができ、重要なピースとなりつつある。
68分、札幌は内村→ジュリーニョに交代。直後のプレーで、結果的にこの試合の決勝点となった札幌の先制点が決まる。札幌がセカンドボールを拾っての二次攻撃で、左の福森に展開した際、群馬は全員が自陣に戻って4-4-2のブロックを構築しており、福森が持ち上がるとFWの常盤がついていく。しかし福森が常盤を引き連れながら左足で群馬のDF~GK間でバウンドする、低くて速く、高精度のアーリークロスを入れると、群馬のGK清水は左手で触るので精いっぱい、こぼれ球がヘイスの前に転がり、ヘイスが頭で押し込んで札幌が先制する。
群馬は80分にFW常盤→永井、MF高橋→小林の2枚替えを敢行する。この時間帯になって、群馬はようやく左SBの高瀬を起点とした攻撃の形を作れるようになる。
札幌は前線の3枚が守備に加わわらなくなる時間帯で、群馬がサイドバックに展開するとサイドの守備はウイングバックの石井が担当することになる。しかし群馬は4-4-2でサイドに2枚を配しているので、石井が出ると同サイドのサイドハーフ(図では小林)が空くことになり、群馬はサイドの深い位置を使うことができる。
又は高瀬から前線のFWへの斜めのボールも入るようになり、この時も札幌は石井が前に出ているので後ろは4-2のブロックになり、群馬の中盤の選手がFWをサポートしていけば、シュートまで持ち込むことはそう難しくはない。
群馬が最初からこうしたアクションを仕掛けなかった背景は、おそらく札幌の前線の攻撃力を警戒してのものだと思われるが、この試合の札幌は序盤のロングボール攻勢で早くから前線が分断されかけていたので、この時に群馬がボールを保持し、動かしていく勇気を持っていれば札幌はもっと守勢に回っていたと思われる。
先制された群馬にギアが入ったのを見て、札幌は82分にヘイス→荒野に交代。荒野はそのままトップ下に入る。守備を固めて逃げ切りを図るに際し、四方田監督としては①前線の守備強度を補強する、②5-3-2にして後方に撤退する、の2つの選択肢があったと思われるが、荒野のトップ下起用は①に該当する。
投入直後の数分間、87分頃までの展開を見るとこの起用は当たっていた。荒野-ジュリーニョ-都倉の3枚で中央を固め、群馬のCBに対峙すると、ボランチを落とさないで2枚でビルドアップを試みる群馬はCB→SBやCB→ボランチのボール供給が難しくなり、ロングボールを放り込むしかなくなっていく。
ただ88:10頃の局面は、群馬の松下が最終ラインに降りて3バック化した際に、ボールの出どころとなる松下を前線の3枚が放置したことで裏を狙ってきた高瀬にロングパスが通り、結果的にはオフサイドとなったが危険な局面だった。
またアディショナルタイムに左サイドで河合が突破されてヘディングシュートを撃たれた場面は、直前に進藤(河合投入に伴い、右ウイングバックにシフトしていた)が飛び出してポジションを空けてしまったことが河合が抜かれたこと以上に問題で、ただ進藤個人の判断の質(ウイングバックは不慣れで重要な場面では任せられない)だと片付けるのでなく、やはり従前から指摘している、5-2で守るボランチ脇のスペースをFWを使って埋める仕組みなど、見直しが必要だと感じさせる。
ザスパクサツ群馬 0-1 北海道コンサドーレ札幌
・70分:ヘイス
この試合後の6月29日付で、サガン鳥栖から菊地直哉の期限付き移籍加入が発表された。菊地は中盤センターと最終ラインをこなせる選手で、中盤としても長期離脱した稲本を補って余りある能力を持つ選手だが、個人的には最終ライン中央での起用が良いと考える。札幌の3バックの中央は増川や河合が務めており、守備で周囲に見配りできるベテランが重用されている印象だが、プレッシャーを受けるとすぐにボールを放棄(前に蹴りだす)してしまう河合のビルドアップ能力はJ2でも失格レベルで、増川は河合よりは数段上のボールを繋ぐ能力があるが、それでもJ1の選手と比較すると見劣りし、3バックの中央に菊地のようなビルドアップ能力の高い選手が入れば、ポゼッションプレーの質は確実に向上すると期待できる。期限付き移籍での加入なので、シーズン終了後にも札幌に残る確証はないが、今後どのような起用がされるのか注目したい。
1.5 徐々に整理されてくる群馬
上記のように前方の守備では問題を抱えていた群馬だが、ゴール前に築く4-4のブロックは比較的整備されている印象を受けた。
下の写真、18:18は札幌が福森を基点とし、左サイドからボールを前進させる得意の攻撃パターンに対応する群馬の守備の状況だが、札幌は左サイドにWBの前貴之に加え、内村が流れて守備をサイドに広げたところに、後方からクロスの砲台である福森がオーバーラップし、深井も攻撃参加してきているところだが、この時、深井に本来狙わせたいのは4バックのチームの泣き所となるSBとCBの間、所謂ニアゾーンだが、このスペースをボランチの松下が埋めることで、深井をブロックの外に追い出している。
攻撃参加してきた札幌の4人目、福森がやや空いているが、ここから福森がアーリークロスを上げても、中央に3枚…CB2枚とSBの高瀬を確保しており、またボランチの中村も最終ライン前のスペースを見ているので、福森のクロス(SHの山岸が寄せてくるのでダイレクトでないと上げられない)が都倉にドンピシャで合い、都倉のヘッドが枠に飛ぶ…といった展開でなければほぼ対応できる守備組織を築くことができている。
サイドに内村が流れ、群馬のSB船津が付いていくとニアゾーンが空くが ボランチ松下がカバーしていて、深井が走り込むスペースがない |
また先に指摘した、2トップのファーストディフェンスの問題も開始位置が少しずつ定まり、中盤の選手と連動できる位置からプレッシングを開始できるようになると、札幌としては3バックが開いてピッチを幅広く使うようなプレー、3-4-1-2と4-4-2のミスマッチを突くことを徹底していかなければ、なかなかボールを前線に運ぶことが難しくなっていく。
プレッシング開始位置が妥当になってくる |
1.6 二手先に同じ絵を描いた時の威力
前半の札幌の最大の決定機は26:30頃、前線でキープした都倉が左サイドの前貴之に展開し、前貴之がキープする間に福森が前貴之を追い越し、群馬は4-4のブロックを整えるという状況。札幌が前貴之→前寛之→福森とポジションをパスを繋ぐと、群馬はやはり松下がニアゾーンを管理しに下がるが、この時反対サイドでは群馬の左サイドハーフ、高橋が最終ラインに吸収されて群馬は6バックのような状態になっている。
群馬は4-4を作るが松下がニアゾーンのカバーに下がる ヘイスが4-4の間にポジショニング |
そうなると群馬は最終ラインには人が確保できているもののバイタルがスカスカという状況で、ここをヘイスは見逃さず手薄なボールサイドのバイタルで受けると、DFを背負って受けて反対サイドのボランチ脇スペースに走り込んだ深井に横パス、深井が内村に縦パスを通し、内村がペナルティエリア内でDFをかわして左足シュートを放つもわずかに枠を外れる。
中盤の松下と高橋が最終ラインに下がり群馬は6-2のような状態に ボランチ脇にスペースができ、ヘイスからの展開で深井が前を向いて受け 深井から内村に縦パス→シュート |
この局面はボールと反対サイドで、群馬の高橋が最終ラインに吸収されたことで中盤にスペースができたということも大きかったが、左サイドで福森と前貴之、前寛之のトライアングルでボールを保持し、前貴之と福森の流動的な動きで左サイドを意識させた上で、草津が6-2になってスペースができた瞬間にヘイスと深井がスペースを見つけに移動し、福森から的確なタイミングで攻撃の起点となるパスを出せたことがフィニッシュに繋がっている。長崎戦からここ3試合トップ下で起用されているヘイスだが、前線で張るだけでなく相手のライン間で受けるプレーも効果的で、また球離れが良いので、運動量がある若い選手を活かすこともできている。
中央にスペースを見つけて使えるヘイスと深井に 後方・サイドから供給できる福森の左足 前貴之の的確なインナーラップがかみ合っての崩し |
2.後半
2.1 再び前線の守備問題からのMF前の支配
前半終了間際~後半立ち上がりにかけ、再び札幌がボールを支配する時間帯が増えていったっ背景には、札幌の3バックに対する草津の前線の守備の問題が大きい。札幌の最終ラインでのビルドアップは、この日は3人でワイドに開いて幅を作るよりも福森と進藤が増川に近い位置をとっており、増川から受けた進藤や福森がドリブルで前方、つまり群馬のFWの脇のスペースにドリブルで運ぶプレーを多く見せる。このプレーに対して群馬はFWがプレスバックしてついていくのか、中盤がの選手がラインを崩して早めにケアしていくのか…という対応が定まらず、進藤や福森のボールを運ぶプレーにズルズルと下がって対応せざるを得ない場面が何度か見られる。
群馬の中盤の選手としては、やはり2トップが適切なタイミングでプレッシングを開始できればそれに連動して当たることができるが、群馬の2トップはプレッシングを開始するか否かの判断が各プレーでバラバラで、札幌がどの位置まで運んでくると当たる・当たらないといった決まりごとが徹底されておらず、中盤の選手としては連動して前から当たっていくことが難しく、ディレイせざるをえないのだと思われる。
進藤と福森が増川に近い位置でボールを受け FW脇のスペースをドリブルで運んでいく 札幌がFW~MF間で前を向くと、群馬は後退せざるを得なくなる |
札幌はこのプレーが決まってくると、上の図のように群馬の2トップの背後~4枚のMFの前方のスペースを支配できるようになり、守備の基準点をつくれない群馬を徐々に押し込んでいく。
2.2 潰されないトップ下
札幌は最終ラインやボランチから前線にある程度、意図を持った(苦し紛れの放り込みでない)ボールが入るようになると、キープ力のあるヘイスの能力が活きてくる。
64:39~の局面は、草津の中盤の前のゾーンで受けた前寛之が、4-4のブロックの隙間を縫う縦パスを左足でヘイスに通すと、都倉がフリックしてワンタッチで内村→ヘイスと繋ぐ。
前寛之の素晴らしい縦パス |
都倉が落として内村→ヘイスへ |
この時、内村→ヘイスのパスが浮くが、ヘイスは群馬の中盤~最終ラインの間のスペースで、DFを背負った状態でトラップし、最終ライン背後に走り込む都倉に浮き球のパスを通す。裏に走り込んだ都倉が受けてシュート体制になるところで倒されるが判定はノーファウル。
シュートまで持ち込むことはできなかったが、バイタルエリア中央の密集地帯で受けてラストパスを供給したヘイスの巧さが光る。現代サッカーにおいて、トップ下というポジションは従前に比べると死滅しかけていて、その中で一時期のヤヤ・トゥーレや日本代表の本田圭佑などのように、簡単に潰されない強さ、巧さを持つ選手がバイタルエリアの中央で起用される傾向が一時期は見られた。ヘイスがトップ下を務めることでもたらしているメリットも、中央で簡単に潰されないという点で、役割としてはむしろ所謂ポストプレイヤーのそれに近い。前線で収めてくれるので後ろは押し上げたり、この都倉のように飛び出したりすることができ、重要なピースとなりつつある。
完全にターンせず半身の状態から都倉に浮き球のラストパス |
2.3 またも試合を決めた福森の飛び道具
68分、札幌は内村→ジュリーニョに交代。直後のプレーで、結果的にこの試合の決勝点となった札幌の先制点が決まる。札幌がセカンドボールを拾っての二次攻撃で、左の福森に展開した際、群馬は全員が自陣に戻って4-4-2のブロックを構築しており、福森が持ち上がるとFWの常盤がついていく。しかし福森が常盤を引き連れながら左足で群馬のDF~GK間でバウンドする、低くて速く、高精度のアーリークロスを入れると、群馬のGK清水は左手で触るので精いっぱい、こぼれ球がヘイスの前に転がり、ヘイスが頭で押し込んで札幌が先制する。
DF~GK間のスペースにピンポイントのボール |
2.4 ようやく出てきた得意の形
群馬は80分にFW常盤→永井、MF高橋→小林の2枚替えを敢行する。この時間帯になって、群馬はようやく左SBの高瀬を起点とした攻撃の形を作れるようになる。
80分~ 群馬は高橋→小林、常盤→永井 札幌は内村→ジュリーニョの交代が74分に行われている |
札幌は前線の3枚が守備に加わわらなくなる時間帯で、群馬がサイドバックに展開するとサイドの守備はウイングバックの石井が担当することになる。しかし群馬は4-4-2でサイドに2枚を配しているので、石井が出ると同サイドのサイドハーフ(図では小林)が空くことになり、群馬はサイドの深い位置を使うことができる。
又は高瀬から前線のFWへの斜めのボールも入るようになり、この時も札幌は石井が前に出ているので後ろは4-2のブロックになり、群馬の中盤の選手がFWをサポートしていけば、シュートまで持ち込むことはそう難しくはない。
3トップが守備しない時間帯、石井がSB高瀬に対応すると サイドハーフの小林が空くので進藤が釣りだされる |
群馬が最初からこうしたアクションを仕掛けなかった背景は、おそらく札幌の前線の攻撃力を警戒してのものだと思われるが、この試合の札幌は序盤のロングボール攻勢で早くから前線が分断されかけていたので、この時に群馬がボールを保持し、動かしていく勇気を持っていれば札幌はもっと守勢に回っていたと思われる。
2.5 逃げ切り策は75点
先制された群馬にギアが入ったのを見て、札幌は82分にヘイス→荒野に交代。荒野はそのままトップ下に入る。守備を固めて逃げ切りを図るに際し、四方田監督としては①前線の守備強度を補強する、②5-3-2にして後方に撤退する、の2つの選択肢があったと思われるが、荒野のトップ下起用は①に該当する。
投入直後の数分間、87分頃までの展開を見るとこの起用は当たっていた。荒野-ジュリーニョ-都倉の3枚で中央を固め、群馬のCBに対峙すると、ボランチを落とさないで2枚でビルドアップを試みる群馬はCB→SBやCB→ボランチのボール供給が難しくなり、ロングボールを放り込むしかなくなっていく。
荒野投入で5-2-3からの守備が復活 |
ただ88:10頃の局面は、群馬の松下が最終ラインに降りて3バック化した際に、ボールの出どころとなる松下を前線の3枚が放置したことで裏を狙ってきた高瀬にロングパスが通り、結果的にはオフサイドとなったが危険な局面だった。
3バック化した群馬最終ラインの出所を押さえないと 裏に放り込まれて一発でやられる危険性 |
またアディショナルタイムに左サイドで河合が突破されてヘディングシュートを撃たれた場面は、直前に進藤(河合投入に伴い、右ウイングバックにシフトしていた)が飛び出してポジションを空けてしまったことが河合が抜かれたこと以上に問題で、ただ進藤個人の判断の質(ウイングバックは不慣れで重要な場面では任せられない)だと片付けるのでなく、やはり従前から指摘している、5-2で守るボランチ脇のスペースをFWを使って埋める仕組みなど、見直しが必要だと感じさせる。
進藤は背後を空けてはいけない このゾーンは前の選手のプレスバックでカバーするようにしたい (以前の試合ではやっていた) |
ザスパクサツ群馬 0-1 北海道コンサドーレ札幌
・70分:ヘイス
3.雑感
3.1 試合内容について
スカパー!!中継の集計では、群馬はアディショナルタイムのヘディングシュートまではシュート本数3、枠内ゼロでありほぼ完勝と言ってよい。中盤~前線の個の力、特に深井のボール奪取と、中盤戦以降はヘイスのボールキープが効いていた印象で、群馬が複数で挟み込んで対応することができなかったこともあり、意図する形でボールを動かすことができていた。
3.2 菊地直哉の加入について
この試合後の6月29日付で、サガン鳥栖から菊地直哉の期限付き移籍加入が発表された。菊地は中盤センターと最終ラインをこなせる選手で、中盤としても長期離脱した稲本を補って余りある能力を持つ選手だが、個人的には最終ライン中央での起用が良いと考える。札幌の3バックの中央は増川や河合が務めており、守備で周囲に見配りできるベテランが重用されている印象だが、プレッシャーを受けるとすぐにボールを放棄(前に蹴りだす)してしまう河合のビルドアップ能力はJ2でも失格レベルで、増川は河合よりは数段上のボールを繋ぐ能力があるが、それでもJ1の選手と比較すると見劣りし、3バックの中央に菊地のようなビルドアップ能力の高い選手が入れば、ポゼッションプレーの質は確実に向上すると期待できる。期限付き移籍での加入なので、シーズン終了後にも札幌に残る確証はないが、今後どのような起用がされるのか注目したい。
読んだよー。現時点(函館終了時点)でもうヘイス中心で良い感じ。ただヘイスずっといるわけじゃないしなー。
返信削除菊池に関しては最終ライン中央で使うのが最善手でしょう。ずっといてくれると助かるんですけどね・・・
にゃんむるさん
削除いつもコメントありがとうございます。
菊地は中央任せたいところですが、今シーズン途中から組み入れるとしたら進藤のところが一番、バランスを崩したりといった影響がなさそうでもありますね。元々インターセプトが巧い選手なのではまると思います。ボランチは運動量的に今のやり方だと難しいと思います。3-5-2のアンカーだとありでしょうか。