2016年7月19日火曜日

2016年7月16日(土)19:00 明治安田生命J2リーグ第23節 ファジアーノ岡山vs北海道コンサドーレ札幌 ~怒りの矛先~

スターティングメンバー

 北海道コンサドーレ札幌のスタメンは3-4-1-2、GKク・ソンユン、DF菊地、増川、福森、MF石井、深井、上里、堀米、荒野、FW都倉、ヘイス。サブメンバーはGK金山、DF前貴之、櫛引、MF河合、マセード、ジュリーニョ、FW内村。GKは前節途中交代したク・ソンユン。全治1ヶ月の肉離れで離脱していたマセードが、ビジュを髣髴とさせる回復力を見せてメンバー入り。
 ファジアーノ岡山のスタメンは3-4-2-1、GK中林、DF澤口、竹田、篠原、MF加地、関戸、矢島、片山、FW赤嶺、豊川、伊藤。サブメンバーはGK椎名、DF金 珍圭、MF渡邊、三村、島田、田中奏一、FW久保。前節欠場した片山が左WBに復帰。開幕から全試合先発していた岩政は累積警告で出場停止。押谷は前節試合中に左足を裂傷した影響で欠場。3バックの中央には竹田が入る。

0.前回対戦を振り返る+α


 前節アウェイで東京ヴェルディ1969に敗れた岡山だが、3位セレッソと勝ち点差5の4位と、依然として自動昇格も狙えるプレーオフ圏内に位置している。7/20以降オリンピック代表に主力の矢島慎也を派遣することは痛いものの、6月末には元韓国代表のDF、キム・ジンギュ(ロングレンジのFKをいつも壁に当てることで有名)を獲得するなど、更に上位を伺おうかという状況にある。
 前回対戦となる第7節の試合は、それまで3勝3分けと無敗の岡山を札幌ドームに迎えた一戦。札幌は菅が初先発でトップ下に入り、ホームゲームながら矢島を中心とした岡山の攻撃を警戒し、リスクマネジメントに主眼を置いた戦い方を選択。序盤の福森のフリーキックからの得点を守りきり1-0で札幌が勝利している。
 この試合以降、岡山は従前の3-4-2-1から3-1-4-2にシステムを変更している。3枚の中盤はアンカーに矢島、インサイドハーフに伊藤や島田、渡邊といった選手を起用している。しかし前節の東京ヴェルディ戦は再び3-4-2-1に戻しており、この試合も3-4-2-1を継続している。注目は3トップの並びで、赤嶺がシャドー、豊川がセンターとなっている。

1.前半

1.1 想定された均衡状態とその崩し方

1)サイドから前進させていく岡山


 まずこの試合を見ていく上での大前提として、岡山はここ数シーズン基本フォーメーション3-4-2-1で戦っており、札幌は昨シーズン途中から3-4-1-2であるがそれまでは3-4-2-1、加えて同じカテゴリで戦うのは5年目、シーズン折り返しを迎えた後の試合で研究するサンプルとなる試合・データも集まっている状況…要するに両チームとも3-4-2-1やそれに近い構造をしている両チームのシステムの長所や短所は知り尽くしている。また両チームとも守備を5-2-3でセットすれば、サイド、中盤、前線と各ポジションでの枚数が揃う所謂ミラーゲーム気味の状況となる。
 そのうえで、蹴り合いが落ち着いた5分頃~の序盤のプレーでまず目についたのが、岡山のポジションチェンジによりサイドでミスマッチを作ってボールを運んでいくプレー。特に左ウイングバック、片山を高い位置に押し上げようとする動きで、具体的には左シャドーの伊藤が中盤左サイド、札幌のボランチの脇~タッチライン際のエリアにポジションニングすることで、後方を気にする必要がない片山が高い位置を取ることができる。片山は今シーズンクロスやロングスローでアシストを量産しており、逆サイドにウイングバックとしては守備的な加地が起用されていること、右シャドーにはストライカーの赤嶺が起用されていること等を考えると、岡山としては左で作って、片山を高い位置に張らせて勝負させたいとの意図があったと思われる。
伊藤が半端な位置に下がって片山を押し上げる
赤嶺は裏抜けとフィニッシュに専念

2)4バック化によるミスマッチの活用


 また前半20分頃から増えていったのは、ボランチの矢島を最終ラインに落として4バック化するプレー。3バックのチームが行う一般的なビルドアップのパターンで、前回対戦でも岡山は島田を落とした形からよく見せていたものである。
 ただ前回との相違点は、前回は4バック化してからミスマッチになる4バックのサイドの所からボールを運ぶプレーにイマイチ推進力がなく、単に4枚にして札幌ブロックの外でボールを循環させているだけ(しかもスピードに欠ける)という印象だったのが、この試合では下の図のように札幌の守備の泣き所である3トップの脇のスペースを、3トップに中央を意識させたうえでサイドのDFの選手を高いポジションに押し上げることでボールを運ぶこと、札幌の守備ブロックの「3」を突破することに成功している。

澤口のポジションを押し上げてからボールを供給することで
札幌の「3」を突破することができる

 こうした最終ラインからのビルドアップにおいては、岡山は最終ライン中央に岩政を欠いていることが吉と出ていたのかもしれない。3バックに入った竹田や澤口は中盤の経験がある選手で、竹田からの左右に散らすパスのスピードは古典的ストッパーである岩政のそれを上回る。この竹田を中心とした左右への散らしから、札幌の5-2-3の「3」…都倉・荒野・ジュリーニョのラインが横幅を守りきれないところで素早く両ウイングバックに縦パスを出す一連の流れを見ると、やはり札幌の5-2-3の構造的な弱点をよく研究しているなとの印象を抱いた。

1.2 素早く攻め切りを狙うも厚み不足


 「3」を突破した後の岡山の攻め筋は、主に①サイドで片山が勝負、②ボランチ脇を起点にして(逆サイドに振る等)アーリークロス、③矢島が前を向いて縦パス1本…といったところで、共通しているのは、札幌が手薄な5-2状態で守っている間に素早くフィニッシュまで運ぶことと、ボランチ脇を起点にすること。②については、赤嶺が下がってきてクロスを上げたり起点になるプレーも非常に多く見られたことは意外だった。
 ただその結果、③も含めてゴール前で勝負する選手がほぼ豊川1人に限定されており、ゴールを奪うには厚みや枚数の不足を感じさせる。
「3」を突破した後の攻め筋
札幌がプレスバックでボランチ脇をケアする前に素早く攻め切るが
ブロックの中で仕事ができる選手がいない

 また、5-2で中央を固める札幌の守備ブロックを動かし、中央を攻略できる選手…間で受ける選手が岡山にはいない。上記の③、矢島の縦パス1本で裏を狙う以外は、勝負するサイドや仕掛ける選手が違えど、5-2の外で回して、角度をつけてクロス…というパターンでほぼ決まりなので、ゴール前を固める札幌の選手を動かすことができず、パスはそれなりに回っているように見えても、単調なフィニッシュになってしまう。
 岡山の前半最大の決定機にして、この試合唯一の枠内シュートは上記の③の形で、31分にボランチ脇でのキープから中央でフリーで受けた矢島が素早く裏にパス。札幌はボールの出所も裏のケアも怠っており、豊川がク・ソンユンと1vs1になるがソンユンが体に当ててセーブ。
5-2-3で守る札幌のボランチ脇を起点にすることでポゼッションは可能だが
(伊藤からのサイドチェンジ、札幌の対応している選手はヘイス)
札幌の5バックを全く動かせていない状態でクロスを上げても可能性は低い
赤線のパス(&赤丸に受ける選手を配置)でDFを動かすことが必要

1.3 蘇る松本の記憶~危ない橋は渡らない

1)松本戦以来となる対・数的同数プレッシング


 岡山としてはホームで首位札幌を叩くために、直近で札幌が敗北を喫した試合で、しかも岡山と同じ3-4-2-1のシステムを採用する6月8日の松本戦は当然チェックしていたはず。松本が序盤、札幌に対し優位に試合を進めた要因の一つに、札幌の3バック3人で行おうとしたビルドアップに対し、前の3枚、「2-1」の部分で数的同数となるプレッシングを高い位置で行ったことがある。結果札幌は進藤らが松本のプレッシングに引っかかり、思うようにボールを運べなかったのは記憶に新しいところ。

2)突破口は前線の質的優位性


 そしてこの試合の岡山も、5-2-3気味の守備陣形から、豊川を頂点とする3トップで札幌の3バックに対して高い位置からプレッシングを仕掛ける様子を見せるが、札幌はこれに引っかかる前に、増川やGKのク・ソンユンから最前線へ、どんどんロングボールを放り込んでいく。札幌としても、このシステムのかみ合わせを意識した岡山の出方は想定していたと思われ、また札幌には都倉とヘイスがおり、岡山には岩政がいない。澤口-竹田-篠原の3バックは全員、身長170センチ台という状況も考えると、高さの優位性を活かさない手はない。

 ということで序盤からいつも以上に札幌はロングボールが多くなる。下の図のように、ボール周辺の人数は岡山のほうが多いが、ヘイスと都倉が強さを発揮し、印象としては6割~7割程度競り勝ってしまう。すると札幌がボールを運ぶことに成功したことで、岡山は撤退守備のフェーズに移行するが、この時岡山は5-4のブロックを構築するために、赤嶺と伊藤が長い距離を走って戻らなくてはならない。札幌としてはヘイスや都倉に収まればよし、収まらなくても岡山の陣形を押し下げることができれば十分意義ありといった状況で、おまけに先述のようにヘイスや都倉が競り勝てるので、序盤のパワーバランスはやや札幌のほうに傾いていた印象を受ける。
 特にヘイスの体の当て方、懐を使ったボールキープはまさに「ものが違う」という三上大勝氏のコメントに値するレベルで、軽量級の選手が揃う岡山の守備陣を子ども扱いしていた。
札幌からみて後方は3vs3の数的同数、豊川がまず増川に当たっていくが
札幌はリスクを回避し、ヘイスと都倉を目がけて放り込む
放り込まれて収まると、岡山はシャドーがプレスバックしなくてはならない

3)岡山はどこまでついていくべきか


 また前半途中から、札幌は両ボランチやトップ下の荒野もビルドアップ部隊のサポートに加わる動きを見せる。それに対し、岡山も前線3人に加えて両ボランチも前から捕まえに行こうとすると、中盤には誰もいない奇妙な陣形が互いにできてもいる。ただこの時主導権を握っているのはあくまでもボールを持っている札幌で、岡山としては後ろに5人が一直線に並ぶという極めて守りにくい状況になってしまっている。
岡山が前からプレッシングを行うと
札幌は中盤3枚も後方支援に回り、最大6人まで人数をかける
札幌の後方からのビルドアップを止めようと、ボランチが飛び出すと前後分断に

1.4 違いを生み出す菊地の「個」


 岡山の両ボランチ、関戸と矢島が前から捕まえたくなる要素の一つに、札幌の後方の選手による運ぶ能力の向上があると考える。前回対戦時、札幌の3バックは進藤-増川-櫛引というユニットで、今回は菊地-増川-福森。特に両サイドの選手は前方にスペースがあればドリブルで運んでいける能力があり、この試合でも菊地や福森がそれぞれそうしたプレーを序盤に見せている。
 岡山としては、札幌に深井が最終ラインに加わって数的優位を作られてからこのプレーを発動されると簡単にボールを運ばれてしまうので、前にさらに人を加えて運ぶドリブルを阻害したいとの判断で、こうした前後分断になってしまったと考えられる。
 下の写真のように、練度の低いプレッシングであれば進藤や櫛引と違って菊地は難なくいなすことができる。岡山が前から来るという状況は、ビルドアップの精度が向上した札幌にとっては岡山の「3」を突破するチャンスとなっている。菊地が加わった前節のセレッソ大阪戦は、岡山陣営も当然チェックしていたであろうが、実際に対戦してみてそのクオリティ、更には従前、左一辺倒だった札幌のビルドアップが右でもできるようになっていることはスカウティングした情報との相違、誤算だったかもしれない。
事例①:増川から菊地への展開
豊川と伊藤による「数的同数プレス」でビルドアップ阻害を試みる
菊地は後方へのドリブルで伊藤との距離を取り、
深井がパスコースに出てきたら落ち着いて深井に繋ぐ
荒野が画面奥で関戸を引き連れていて、深井はフリーで前を向ける
事例②:深井から菊地に渡ったところ
伊藤に加えウイングバック片山が出てくる
菊地は都倉へのパスコースもあるが
すぐにパスせずドリブルで引き付けてから出すことで
都倉をフリーにし、次の展開を容易にする

1.5 不完全な5-4の砦:クリロナ状態の赤嶺


 5-2-3気味にセットしてから、先述のロングボール戦法やビルドアップによって札幌に「3」を突破された岡山は、両シャドーが下がった5-4-1に移行して守る時間が多くなる。ただこの日の岡山は、右のシャドーで起用されている赤嶺が5-4のブロックから勝手に離脱してしまうなどして、ケアすべきエリアを頻繁に空けている。
 下の写真のような赤嶺のアクションを見ていると、やはり「中盤の選手ではないな」という印象は拭えない。札幌の攻勢が続いて、チーム全体で明らかに守りに入っているような時間帯では一応5-4のブロックに加わっているが、トランジションを挟んだりして、5-4-1なのか5-2-3で前から行くべきかという判断が難しい局面になると、どっちともつかないポジションでフリーズしてしまう。
事例 堀米からの縦パスを澤口がカット、矢島に繋ぐも深井が奪い返したところ
この瞬間(12:40)に岡山は攻⇒守と切り替わる
深井はライン際でキープして手前の福森へ
5秒後も赤嶺は中途半端なポジションにおり、ブロックに加わっていない
ボランチ脇にスペースを作っている

 そして赤嶺が対峙する札幌の左には福森がおり、更にヘイスや上里もスペースに流れてきて、中に張る都倉へのアーリークロス等で勝負する形を簡単に作ることができる。札幌の右・岡山の左サイドでは、伊藤が勤勉なプレスバックやプレッシングを見せていて赤嶺のような隙をなかなか作らない。となると札幌の攻撃は必然と左サイドに偏る。
赤嶺のポジションニングが甘く5-4ブロックになりきれない
福森やヘイス、上里がスペースを使う

 ただ札幌としては、フィニッシュが都倉の高さ、強さに頼ったハイクロスという形が多く、堀米や石井がサイドをえぐる形やミドルシュートといったバリエーションに乏しかったことが、前半のうちに得点できなかった要因だともいえる。

2.後半

2.1 後半立ち上がりの展開:主戦場はタッチライン際へ


 後半開始時点で、岡山は赤嶺をトップ、豊川をシャドーに入れ替え、「いつもの形」に戻している。結局この赤嶺と豊川の配置換えの理由はよくわからないままだったが、攻撃時は伊藤が引き気味、豊川と赤嶺の2トップに近い形なので、入れ替えることで影響が大きいのはむしろ守備時である。もしかしたら試合途中で入れ替えることで両選手の体力配分という意味合いもあったのかもしれない。
 後半立ち上がりに可能性を感じさせたのは岡山の方で、基本的に後ろを3枚で回しているが、パススピードを上げてきたこともあり、札幌は3トップによるプレッシングが仕掛けられない。最終ラインでの素早い横パスの交換から札幌の最前線による守備を難しくさせたうえで、5-2-3の脇の部分で運べそうな隙ができると、降りてきた伊藤やDFの選手が運ぶドリブルを試みる。これに対し、札幌はボランチを中心に中央を封鎖して外に追いやる守備対応をとることで、岡山はサイドの片山や加地、特に左サイド高い位置で片山が石井と勝負する場面が少しずつ増える。
素早い横パスから運ぶドリブルでボランチ脇を使おうとする岡山
→札幌が中央を封鎖し、サイドでのバトルが増える
(図は最終的に岡山左サイドからの攻め、ヘイスは勤勉にプレスバックする)

 しかし片山が何度か仕掛けたりするが、石井との1on1を制して中央で待つ赤嶺や豊川が良い形でシュートを撃つには至らない(岡山は後半シュートゼロ)。石井の頑張りもあったが、中央を切られて片山…という形が多く読みやすかったこと、また札幌最終ラインvs岡山FWでは高さで札幌がかなり優位であることを考えると、岡山も札幌同様に、もう少し工夫が欲しかったところ。

2.2 突如訪れたフィルターの耐久限界

1)両チームとも運動量低下が如実に


 58分に札幌は堀米→内村に交代。ヘイスがトップ下、荒野が右サイド、石井が左サイドにシフトする。
58分~
堀米を下げて内村を投入

 この時間以降、両チームの運動量が目に見えて低下、特に両チームの前3枚の選手に影響が見えはじめ、打って変わってスローテンポな展開となる。5-2-3の守備陣形で、前3枚がフィルターの役割を果たさないため、「2」と「3」の間や「2」の脇で札幌はヘイス、岡山は伊藤らがボールを簡単に受けられるようになる。恐らく前半に繰り広げられた蹴り合いからのトランジションの応酬が、かなり影響していたと考えられる。
5-2-3の「3」によるフィルターの崩壊
間を簡単に通されてトップ下の選手が受けることができる
プレスバックができず、ボランチ脇が頻繁に空く

 札幌は元々、前3枚は基本リトリートで高い位置からのプレッシングはそこまで重要ではないが、岡山は前3枚による高い位置でのプレッシング→運ばれたら撤退して5-4ブロック構築、という守り方が基本であり、前3枚が動けない→守備にスイッチが入らない、という具合に、運動量低下による影響をもろに受けた格好となる。
ハーフウェーラインを越えているのに出し手(上里)、受け手(ヘイス)共にノープレッシャー
前3枚で並んでいる間を簡単に割られる

2)元々緩い札幌と、一気に緩さを露呈する岡山


 加えて下の写真(ヘイスから菊地に展開された際の片山の守り方)を見てもわかるように、前段階(ヘイスに対する守備)で守備のスイッチが入らず、非常に緩い、フワッとした対応をしている状態を片山はまるで引き継いでいるかのように、ヘイスから菊地に展開された状況でも片山もタイトなマークができていない。これでは札幌に好きなように攻めて下さいと言っているようなものである。
 岡山が60分を境に、どうしていきなりこのようなルーズな状況になってしまったのか、ロジカルな要素を一つ挙げられるとしたら、5-4で守る形が基本である為、ここまで極端な5-2になってしまう状況をあまり想定しておらず、守り方がわからないということはあるかもしれない。ただそれとは別に、岡山は岩政を欠いていることもあり、経験のあるベテランやチームを締められる選手がいないという点も緩さを生んだ要因だったかもしれない。
ヘイスがブロックの中で悠然とドリブル
右の菊地に展開しても片山が寄せきれない
菊地のリターンを受けたヘイスが難なく縦パス
→都倉の落としから内村が前を向いて仕掛けられる
岡山の防衛ラインはペナルティエリアすぐ前

2.3 "流れ"の実体

1)70分以降は再び岡山ペースに


 内村が入った直後の10分間、60分~70分頃の時間帯は札幌がボールを回す時間帯が続くが、おおよそ70分以降は一転して岡山がボールを支配する展開となる。ある時点を分水嶺として試合の流れがガラッと変わったとも言えなくもないが、要はこの時間帯は体力的な問題で札幌も岡山も能動的なプレッシングでボールを奪い返すことがかなり難しくなっているということで、札幌の場合は、最前線のヘイスのガス欠で守備に参加できなくなってしまったため、プレッシングのスイッチが入らなくなり、連動した守備ができなくなっている。ミスさえなければ札幌が70分以降もボールをキープすることは可能だったが、ミスでボールを失って岡山がポゼッションを開始すると、今度は札幌がボールを回収できなくなるという形勢逆転が起こったのがだいたい70分頃であった。
ボールホルダーに当たれないヘイス

2)個人がバラバラの動きをしてしまう札幌


 岡山が後方でボールを回している状況をみて、札幌は後方の選手…福森や上里が単騎で持ち場を離れて、FWの選手を追い越してまで一人でボールホルダーを追いかける…所謂気持ち前プレを見せるようになる。初めにこれを行ったのは上里だったが、こうした動き(効果的ではないがなんとなく気持ちが伝わる)はどうしても、周囲の選手にも伝染するところがある。
上里がFWを追い越して一人で気持ち前プレ
札幌随一の気持ち前プレニスタ・福森が大胆に後方を空けると
岡山にとって絶好の餌となってしまう

 上里の「気持ち」を見た福森がポジションを放棄し、前で奪おうとして迂闊に後方を空けてしまうと、能動的にブロックを崩せない岡山に対し、絶好の餌となってしまう。この時間帯は、走れないヘイスを下げるなり、中盤を増やすなりといった交代策等でベンチが方向性を示し、上里や福森がバラバラな動きをしてしまうのを収める必要があった。
最前線でヘイスがスイッチを入れれば、都倉が連動して動ける
(77分:ずっとサボっていたのでヘイスの体力がやや回復した)
都倉がコースを限定させ、後方の選手がインターセプト
チームとして能動的に奪うことができる

2.4 終盤の展開


 76分に岡山は関戸→渡邊、77分に札幌は菊地→櫛引に選手交代。それぞれ同ポジション同士の交代で、菊地は足を攣っていたとのこと。恐らく四方田監督としては、この交代カードは誤算だったと思われる。マセードとジュリーニョのどちらか一方しか使えなくなってしまった。
 選択したのはジュリーニョで、81分に投入されている。ところで試合後に都倉がジュリーニョに「GKがボールを持っているときにプレッシャーをかけなかった」として口論になったとの記事があったが、見たところ、81分の岡山がDFからGK中林にバックパスした局面を指していると思われる。ジュリーニョ投入後の時間帯では他に該当しそうな局面はなかった。
都倉のプレッシャーに岡山はバックパス
中林がこの位置にいるので追いかけても意味がない
(岡山も時間を使う意図はない)

 ただこの時のジュリーニョの対応は至極妥当(追いかけたところでどうしようもない)で、これ以外のジュリーニョのディフェンス全般を見ても、少なくともこの試合ではサボっている局面は見受けられない。
 むしろこの試合では同じく途中投入された内村の守備がイマイチで、終盤、流れの中で内村が3トップの中央でディフェンスを行う局面になると、先に指摘したヘイスの件と同様に、能動的な守備ができない要因となっており、怒りの矛先はジュリーニョ個人ではないのでは?という気もする。

ファジアーノ岡山 0-0 北海道コンサドーレ札幌
マッチデータ



3.雑感


 シュート本数は2-8、岡山は後半シュート0本という数字が示すように、チャンスは札幌のほうが多かった印象だが、崩しのクオリティを欠き2試合連続のスコアレスドローとなった。互角の展開を予想していたが、ビルドアップの改善効果が大きく、ボール保持時に困る局面が大幅に減少したことにより、運動量が落ちるまでの時間帯は、予想外に札幌が主導権を握る時間帯が多かった。
 最終ラインにボールを大切にすることができる選手が加わったことで、チーム全体のプレースタイルにも影響が生じつつあり(ロングボール以外でボールを前進させることができる→中盤の選手の縦の運動量がそれほど必要でなくなる)、今後の選手起用にも変化が表れてくるかもしれない。またこうした好影響を生む要因である菊地は、今後さらにボランチが足りなくなっても位置を動かすべきではないだろう。

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