1.ゲームの戦略的論点とポイント
スターティングメンバー:
- 11月の平塚というと13年前、古田と宮澤のゴールで逆転昇格へ望みを繋いだ2011シーズンを思わせるシチュエーション。あの時は勇退が決まった反町監督と、アジエルのホームラストゲームで、それについて湘南サポーターのご夫婦となんとなくお喋りした記憶がありますが、記録を見ると18歳の遠藤航もCBとして出場していたようです。
- 湘南はそんな時代を経ていつしか、終盤戦に強いチームとして認知されるようになっていましたが、このシーズンも21節までは3勝6分12敗で19位、要するにコンサよりちょっとだけ上の位置にいながら、22節から35節までで9勝1分4敗。計44ポイントの勝ち点を積んで残留争いからは抜け出しています。
- 選手起用では後半戦からいくつか変わったところはありますが、最も注目するのが、あ変わらずパワー不足が否めなかった最終ライン、左に鈴木淳之介が起用されたのが17節以降、ここ数試合欠場していますが右DFに高橋が入ったのが22節以降。この日は鈴木淳之介ではなく松村が起用されていますが、懸念の最終ラインにこうした若手の起用で突き上げがされた上での安定化が図れたのは非常に好循環でしょう。
- 夏には杉岡が首位・町田に移籍するという栄転がありましたが、左サイドの畑も好調を維持しており、23節以降の8試合に出場して3ゴール5アシスト。
- 前線は見るからにポテンシャルがありそうな鈴木章斗が直近11試合で6ゴール。開幕直後に鮮烈な印象を残してから尻すぼみになってしまうかと思っていましたが、ルキアンの不在を埋めて余りあるパフォーマンスで前線を牽引します。
- コンサは17位の柏と勝ち点差6。今節敗れ、かつ柏が1ポイントでも積んで差が7以上になるとJ2降格が決まるシチュエーション。今週半ばから札幌市内でも積雪がありトレーニングが満足に行えないという情報もありました。メンバーは髙尾が欠場で、右DF、というか「湘南のインサイドハーフとマッチアップする役割」に馬場が入ります。
2.試合展開
(相変わらず)スペースは気にしないコンサと福田の奮闘:
- 湘南がボールを持つ際の対応として、コンサは①基本となる、マッチアップを合わせて10人で対面の選手にマンツーマン、というやり方と、②前線を1枚削って湘南の2トップに対し3バックで守る、という2パターンが考えられましたが、この試合の90分を通じてコンサは①の対応でした。
- 図にすると↓になるのですが、コンサはほぼ2バックの状態。湘南はこの構図をあらかじめ予想していたかのように、岡村と大﨑の横にあるスペースを使って攻勢を仕掛けます。
- 湘南のGK上福元やDFは、コンサよりも明らかにボールを大切にするプレースタイルに変貌しており、いきなり前の選手に放り込む選択こそそこまで多くなかったと思います。
- 例えばDFからアンカーの田中聡に入れたり、インサイドハーフの小野瀬や平岡がコンサの前線3人の間にポジショニングして、パスコースを作ることはほぼ毎回やっていました。ただコンサがこれらの選手にもマンツーマンで対応し、コンサのDFは明らかに枚数不足の2人で守っているので、コンサの選手を一定程度、DFがボールを動かして引きつけて(前で追いかけるプレーを誘発)から、福田や鈴木章斗にフィード、というのが、FWがキープできるならば最も理にかなった選択だったのはいうまでもありません。
- コンサは岡村と大﨑だと、こうしたロングフィードへの対処の際、やはり生粋のDFである前者と本来アンカーである後者には明らかな差を感じます。
- 岡村は主に左で鈴木章斗を見ており、パワフルで反転した際のスピードもある鈴木章斗によく対処していましたし、ロングフィードを鈴木章斗がコントロールする前に潰せることも少なくはありませんでした。
- これに対し、福田は公称173cmということですが、湘南の前線の選手(ルキアンやフェリッピを含む)の中でも身体を張ってマイボールにしたり、コンサボールになった際に切り替えて1st DFとして振る舞うプレーが別格に上手く、大﨑とは一度競り合いの際にかつての芳賀vsヴェルディ齋藤将基(今何してんのかと検索したらまさかのツエーゲンユースの監督でヤンツーの元同僚でした)を彷彿とさせるバトルもありましたが、ともかく福田へのフィードを大﨑が潰しきれないのはかなり湘南を助ける展開だったと思います。
何度も戻らされるコンサ:
- ↓はDFから福田にフィードした際の人の動きをそれっぽく書いたものですが、このような湘南がボールを持っている展開ではなくて、コンサが失ってカウンター、という場面でもコンサは後方に人がいない(馬場やパクミンギュが”必要以上に”気を利かせてこのDF側方のスペースにいるということはしない)ので、湘南がコンサのサイドのスペースにまず展開してから前線に選手がオーバーラップして攻撃、というのは、試合を通じて数えられないくらい生じていたと記しておきます。
- そしてこのサイドのスペースにボールが入った時のコンサの選手の動きを見ると、大﨑が一度サイドについていく。岡村は中央にまず移動する。
- 他の選手はその間、全力で戻ってくるのですが、馬場や荒野は、ゴール前に戻って岡村と共に一番危険なエリアを固める、ということも重要ですが、その前のスペース…いわゆるバイタルエリアとかいうのか分かりませんが、図の赤円で示した、ゴール前からやや離れたエリアもケアしないといけません。ここにボールがこぼれたりマイナスクロスが湘南の選手に渡るとミドルシュートの射程に入るためです。
- ただ荒野は田中聡、馬場は平岡をマンツーマンで見ていて、そこから30〜50mほど全力で戻り、かつゴール前なのかバイタルエリアなのかを瞬時に判断して適切なポジションをとりつつ人とボールを見る…という、非常に難度の高い役割を強いられます。
- 一方、湘南はゴール前でそれこそコンサの近藤のような、単独で突破できる選手がいないので(鈴木章斗が仕掛けるにはもう少しスペースでスピードに乗った状態が必要)、ワンツーやスペースへの飛び出しでフィニッシュを狙います。
- 湘南はWBに左右で特徴の異なる選手が起用されています。左の畑は走力に優れ、自ら突破を試みることもあります。左サイドでキープから、畑が縦に抜け出し、福田や平岡がカットインを狙うことでコンサはこのサイドに3人程度の選手が必要になりますし、近藤からすると畑が追い越してくると数十メートルを後ろ方向に走って戻らないといけないのはタフな仕事だったと思います。
- 右の鈴木雄斗は自ら突破を仕掛けることがほとんどなく、言い換えれば彼はボールを失うことに繋がるリスキーなプレーを避けるようにしています。右サイドは鈴木雄斗がためを作るというか、ギリギリまでボールを持って、彼のパスから小野瀬や鈴木章斗がコンサDFを外そうとします。
- いずれのサイドでもコンサは枚数が揃わないとアタックできないこともあって、湘南の攻撃を自陣ペナルティエリア付近でやり過ごす時間が、特に前半には続いていました。
- そうしたサイドのスペースを使った攻撃を湘南が幾度も繰り出し、コンサの対応が後手に回る展開が続く中、湘南が後半早々に先制します。
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— DAZN Japan (@DAZN_JPN) November 9, 2024
迷いのない一撃💥
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- 後半開始からこのゴールまでの3分くらいは湘南がボールを持つ展開が続きます。この際、コンサは駒井がやや下がり目にいることが多く、これは対面の松村をケアするというよりは、長いフィードで押し下げられる中で中央のスペースを埋めることを考えていたのでしょう。
- ただこの得点の際も一連のプレー(動画で見切れている部分も含め)で松村に3度ほどボールが渡った時に、駒井が下がっていることもあって松村のところにプレッシャーがかからないようになっている。そしてフリーの松村が縦パスを選択すると、コンサは中央には枚数が揃っているものの、それを潰し切ることはできず湘南の人とボールの動きに遅れてついていくだけに陥っている。
- 一言で「マンツーマン(基調とする)での対応」といっても色々ありますが、(試合を通じて)コンサのこうした対応は、まずどこで最初に湘南に対して制限をかけるかが決まっておらず湘南の選手はずっとフリーのままになっており、そのままマンツーマンでの対応を続けると常に相手に遅れた状態で必死に人とボールについていくというもの。
- 最後、田中聡のシュートは大﨑に当たらなければ枠外に飛んでいましたが、シュートまでのプロセスは湘南がかなりコンサを崩した状態になっていましたし、相手(コンサ)の対応を見ながら、誰がフリーでボールを持てるかを都度判断することができるのが今の湘南の強みというか、好調はフロックではないと感じさせます。
近藤の突破:
- 先に書きましたが1v1で仕掛けられる局面が生じてしまえば、コンサの近藤や武蔵といった選手は湘南にとって警戒すべき存在だったと思います。
- 近藤に関しては、湘南は近藤に2人で対応する意識を随所に感じました。まずコンサがボールを持っている時に、湘南は↓のように1-5-3-2でセットします。この際、割とコンサは全然に速い選手がいるのですが、湘南はラインの設定は高めでした。
- 湘南は前の5人で真ん中を切って、WBが前に出てサイドの選手をケアするというやり方でした。コンサの右サイドに対しては、図のように畑が前に出て馬場を見て、松村はスライドして近藤に対して出ていくという具合です。
- しかし湘南の選手が寄せていく速さ以上にコンサが速くボールを動かすと、馬場のところで畑が捕まえることができず、DFがズレた状態を作るだけになってしまっていて、そこから近藤と松村の1v1になることが開始15分ほどで2度ほどあったと思います。
- そこからは近藤に対して畑が出ていくようになり、最終ラインには5枚が揃っている状態になります。しかし畑の1人での対応だと、近藤には縦とカットインとの両方の選択肢があるとするなら、畑だけでは対応が難しい状況で、依然として近藤が湘南の脅威であり続けます。
- 後半になると、湘南は平岡が畑のサポートに向かうようになります。ただ59分のコンサの同点ゴールの場面でも、平岡はまず中央をケアしてから畑と近藤の1v1が繰り広げられるサイドに向かっている。畑が近藤の縦方向を切って、平岡が中央方向を見るという役割分担ができれば良かったのですが、畑は縦を切れておらず近藤の鋭い突破からのクロスで仕事をされてしまいます。
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— DAZN Japan (@DAZN_JPN) November 9, 2024
渾身のヘディング弾
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互いの切り札がイマイチ:
- スコア1-1となって互いに前線の選手を投入します。まずコンサが62分に荒野→浅野。湘南が67分に小野瀬→ルキアン。71分にコンサがパクミンギュ→キムゴンヒ。
- コンサは前節と同じような時間帯に浅野を投入しましたが、おそらくはややオープンな展開から浅野のワンチャンスでの決定力に期待でしょうか。
- 湘南はルキアンを大﨑のサイドに入れて、福田を下げるのかと思えば右インサイドハーフで残しています。個人的にはルキアンは、ブラジルのFWにしてはそんなにプレーの幅がなく意外性のある感じでもない(強さや速さで勝負する)タイプと思っていて、また左右でいうと右サイドの方がプレーしやすい印象があります。
- 72分のシュートチャンス…ルキアンがゴール前左で大﨑と1v1になり、大﨑は完全に右足を消して左なら撃たれてもいいよぐらいの対応でしたがルキアンがシュートミス、はまさにそうした彼の選手特性を現していましたし、また福田が下がった分の起点創出役としても、ルキアンだと福田と比べてプレーの連続性がなさすぎて、コンサとしては助かった印象でした。
- ただ福田は2列目に下がってからも、変わらず前線に飛び出してボールをキープするような役割は続けていましたし、それと並行してコンサのカウンターの際にプレスバックして(場合によってはファウル覚悟で)止めるような仕事もこなし、ルキアン(と、その後に投入されたフェリッピ)の微妙さを1人でカバーしているような頑張りでした。
- 浅野にも2度ほどチャンスがありました。1度は右で抜け出しかけましたが、得意の切り返しからのシュートは松村?がストップ。松村は後に投入された白井の抜け出しもノーファウルでストップしており、試合を通じて非常に印象的でした。
- ATには上福元の中途半端なクリアを拾って浅野が無人のゴールにループシュート。十分射程距離でしたがわずかに枠の右側に逸れてしまいます。
- 82分に湘南は鈴木章斗→ルイスフェリッピ、平岡→阿部。このフェリッピもどちらかというと身体を張って味方の攻撃参加の時間を作るタイプなのだと思いましたが、やはり福田が最前線にいる時の方が一番コンサには嫌でした。平岡は途中から近藤と畑のサポートをするタスクが加わりましたが、湘南はこの役割を任せられる選手がベンチにいなさそうで(阿部はどちらかというとシャドーでしょう)、平岡を結構引っ張った印象でしたが、阿部の投入と同時にコンサも近藤を下げます。
- コンサの交代は近藤→白井で浅野を右に。大﨑→宮澤の交代も結構大﨑を引っ張ったように思えます。
- 得点以外でのコンサの決定機は、他には前半23分に股抜きで抜け出した青木が得意の角度からファーに巻いて狙ったものと、85分にセットプレーからゴニのシュートか、シュート性のクロスがDFに当たったものでしたがいずれも上福元のビッグセーブに阻まれます。
雑感
- まず戦術的には、相手が2トップなら2バックで対処しようとするがここ5年のコンサですが、このシーズンに関しては純粋な2トップのチームが、ここまでは2節の鳥栖と、町田くらいしかなかったと思います(柏は細谷+下り目に熊澤)。
- 2バック相手にその脇を突こうとするのは誰もが思いつきますが、鳥栖はマルセロヒアンとヴィニシウスの個人技でコンサと勝負してきたのに対し、湘南はより戦術的というか誰がスペースを作って誰がスペースに飛び出すか、3人目はどのように動くか…が整理されており、まずこの点でコンサを上回っていました。
- またウィークポイントだった最終ラインにはサイズとスピードを両立する選手が加わり、かつコンサのpressingは大したことがないと見切ればボールを簡単に捨てずギリギリまで引きつけて味方に渡す、スピードのある選手と対峙してもハイラインを維持して簡単に退かない…など、今日のトップクラスのチームで追求されている要素が随所に見られる魅力的なチームに、山口智監督体制での3年目?4年目?にして明らかに変貌していました。
- 個人では驚異的なアクションの量がありながら、連続したプレーの中でも質が落ちない福田と、白井と競争できる速さにサイズとボール保持時の状況判断を兼ね備える松村が特に印象的で、この日は不発でしたが(孫興民のようなスケールを感じさせる)鈴木章斗のような選手もいますし間違いなく今の順位には値するチームでした。
- コンサの武蔵や近藤といった選手が前を向いて仕掛けるシチュエーションは、近藤の(金子を思わせる)低い位置からの強引な突破以外は、多くはカウンター気味の展開で、やはりコンサの場合は相手を崩すというよりは相手が勝手にバランスを崩したところがチャンスになるという印象でした。
- 近藤や武蔵が突っ込んでくると、湘南は1人で対応できないので、彼らのそうした”引力”を利用してフリーになった青木や駒井が仕留めるという関係性は何らか見出せます。後半戦の好調を牽引してきたのは大﨑とパクミンギュが加わった後方の選手の頑張りでしたが、ここ数試合を見ると(多様な役割を担う)大﨑依存ではもたなくなってきているので、残り2戦も前線の選手の頑張りがポイントになるでしょう。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。
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