1.ゲームの戦略的論点とポイント
スターティングメンバー:
(この項目のみ試合前に書いています)
- 5月の連休にヨドコウスタジアムで行われた前回の対戦は、首位を走るセレッソと最下位に沈むコンサという状況でしたが、7月からセレッソは2ヶ月半もの期間リーグ戦で勝ちなしと失速。ただしここ5試合は湘南、ガンバ、浦和に3勝、柏に引き分け、前節は不調の磐田に敗れたものの最悪の時期は脱したと言えるかもしれません。
- システムは、国立でマリノスに0-4と敗れた次の30節(vs神戸)を機に3バックの1-3-4-2-1の採用が増えており、その神戸戦では右から鳥海、西尾、舩木の並び。続く湘南戦(1-2で勝利)は4バックでスタートしたものの、後半途中から進藤を投入して、右から西尾、進藤、鳥海の並び。この際は北野を下げて進藤なので、シンプルにに4バックにDFを1人追加したという形でした。
- その次のガンバとの大阪ダービーから、右から進藤、田中駿汰、西尾の並びが3試合続けて採用されており、鳥海は起用できる状態のようですが、舩木はおそらく何らか故障等があるようです。駿汰がスライドした中盤には喜田。30周年ということで期待を集めたシーズンですが、前線に比べるとセンターラインの後ろ側の選手の確保が物足りなかったという印象を受けます。
- また今夏には毎熊のAZアルクマールへの移籍があり、空いた右サイドには4バックの際は大卒1年目の奥田、3バックになってからは右WBにどちらかというと前目の選手と思われる阪田が起用されており、ルーカスでいいじゃんという印象しかないのですがルーカスは左シャドーをやっていて、ここもおそらく適任者が少ない、そんな編成にもかかわらず1-3-4-2-1を採用しているのはシンプルに5バックで守った方が横スライドが楽だから、と見ています。
- コンサは浅野が26節(8/10 vs福岡)以来のメンバー入り。前節からの変更点は、馬場がスタメンに復帰して白井がベンチスタートとなった点のみ。
2.試合展開
近藤を止めたいが強度がないセレッソの5バック:
- 開始早々の6分にセレッソの阪田が負傷し奥田と交代します。
- 試合開始から、コンサがボールを持っている時のセレッソは、人の配置を数字で表した時に1-5-2-3というより1-5-4-1でセットしていることが多く、コンサがセレッソ陣内に侵入した際は[5-4]のブロックを作り、レオセアラを残して早々に撤退していました。
- コンサボールの際にセレッソが前に出てくる唯一のシチュエーションは、コンサのゴールキックによるリスタート。↓の噛み合わせを意識してコンサのDFを捕まえて嵌めようとします。
- 36分、(おそらく)この試合で1回だけコンサが右サイドでこの形からボールをロストして、セレッソのショートカウンターが発動、レオセアラが菅野と1v1で左足シュート…も枠外という場面がありました。
- この1回以外はどうなっていたかというと、コンサはボールを早々に武蔵に蹴ることが多く、その結果は、武蔵が田中駿汰や西尾、進藤相手に持ち前の身体の強さを発揮してマイボールにして、コンサがセレッソ陣内でボールを持つことに成功…という形が何度かありました。セレッソの5バックだと中央がそこまで強靭ではない田中駿汰ということもあって、全体的に武蔵の頑張りはこの日も光っていました。
- 重要なのは、簡単に武蔵に蹴ってそれを武蔵がキープしてくれるだけで、コンサはセレッソの前4〜5人くらいを剥がして5バックをむき出しにした状態で前線のアタッカーにボールを渡す機会を作れるということ。これだけでビルドアップをどうするという問題はかなり解決します。
- そしてコンサは好調を維持する右サイドの近藤が、この日も敵陣でプレーする際は非常に頼りになる存在でした。
- セレッソはサイドでシャドー(ルーカスと北野)がWBと連携して守るというよりはWBの為田と奥田が1人で菅や近藤を見ることが多かったです。これは先に書いたようなシチュエーションで、セレッソが前に出てきたところでコンサがロングボールを使って回避するため、シャドーが戻れる時間がないというのもあるのですが、それ以外のシチュエーションでも全般に同じことが言えると思います。
- 近藤の対面の為田は割とフィジカル的には優れている印象なのですが、対峙した時の力関係はシンプルに近藤が上回っている印象で、相変わらず近藤は基本的に右足で縦にしか突破しないのですけど、為田1人だと止められない。
- 右足で近藤が仕掛けると、セレッソは↓の黄色の円のあたり、ローポスト付近に侵入されることになり、ここを取られるとゴールに近い位置から、ゴール方向に直接シュートや速いクロスもあるし、マイナス方向にも折り返しがある…という状況になって、セレッソは5バックのメリット(中央に人が多くセンターFWやシャドーが前を向いてプレーするスペースを消している)が全く活きない状況になっていたと思います。
3枚(5枚)のメリットをあまり感じない:
- そしてコンサが9分に先制します。
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- 近藤の低くて速く飛距離が出るスローイン、岡村の菅へのパスと奥田のクリアミス(空振り)、が重要な要素でしたが、もう一つ言及しておくとセレッソの3人のCBユニット(進藤、駿汰、西尾)はあまりスピードがない印象で、コンサはこの時は菅が進藤に向かってスピードを上げた状態でのドリブルからラストパス…という一連のプレーで、進藤は下がって時間を稼ぐしかできませんでした。
- これは試合を通じて、武蔵にボールが入ってコンサがカウンター…という場面ではより顕著で、セレッソはCBが3人いるので、1人アタックしてダメならカバーリングすればいいと思うのですけど、そうではなくセレッソのDFは武蔵やカウンターで仕掛けてくるコンサの選手に全然アタックできず、ズルズル下がって味方の応援を待つという対応が基本でした。慎重といえばそうなのですけど、結局それだと前線の選手が毎回自陣に戻らないといけないので負担は大きくなります。
- この点も含め、セレッソが3バック(5バック)でプレーしている時間帯はとにかく武蔵にボールを入れていれば、セレッソが嫌がる状態になることが多く、大体の問題をコンサは解決できていたと思います。
孤立無援からシステム変更:
- 前半セレッソがマイボールになる機会というのは主に2パターンで、
- コンサに自陣に押し込まれるもなんとか頑張って守って自陣ペナルティエリア付近でボール奪取
- コンサの攻撃がシュートミスや、GKキムジンヒョンのキャッチ等で終了して、GKからゴールキックなどでリスタート
- というもので、あまり高い位置でボールを奪うことができなかったので、セレッソボールで始まるシチュエーションは基本的に後ろの方から、ということになります。
- こうしたセレッソボールになったシチュエーションで、セレッソは前線にレオセアラのみが残っていることが多く、彼がサイドに流れるなどしてキープして味方の攻撃参加を待って、味方が長い距離を走ってサポート…という展開が多かったです。
- シャドーの北野とルーカスが前残り気味で、最初から前に2〜3人がいる形にしておけば、人数的には3人でカウンターというのは十分にありうるものですけど、それはホームで戦うコンサに対してリスクが大きいから慎重にいきたい、ということだったのでしょう。
- 29分には北野が自陣で馬場からボールを奪ってそのまま50mほどを走り、レオセアラとのワンツーでゴール前正面からフリーでシュートを放ちますがミートせず絶好機を逸してしまいます。このくらいの距離をスプリントして運んでからシュート、というプレーは足に負担が大きくかなりの走力が要求されるので、北野がこうした役割を担うのは大変だったかもしれません。
- 30分過ぎにセレッソはシステム変更を行います。西尾を左SBにする1-4-2-3-1の並びに。
- これを(ほぼ)純粋なマンツーマンで対応するコンサが認識すると、↓のようにコンサも対応を変えることになります。
- コンサの視点だと、岡村はレオセアラのマークで変わらないですけど、パクミンギュはルーカスの担当になるなど他の選手はマンツーマンで意識する対象の選手が変わります。
- ただ例えば、ルーカスはいかにも右ウイングって感じのポジショニングとプレーをしますし、またセレッソの選手のポジショニングは前半はあまり曖昧な形はなくはっきりしていたので、いきなりこのシステム変更が行われても、パクミンギュとしては自分のマーク対象がルーカスになっていると認識するのは容易だったと思いますし、他の選手のところでも誰が誰をマークしたらよいかわからない、という状況には、コンサは陥っていなかったと思います。
- ですので前半は特に”事故”もなく終了しますが、ゴール以外ではペナルティエリア内、または付近でのシュートという決定機は、先のレオセアラと北野の1本ずつと、コンサは近藤の左足シュート(枠外)くらいで、そこまでコンサが決定機が多かった(≒「あとは決めるだけ」)という展開ではなかったと思います。
重戦車カピシャーバ:
- コンサから見て雲行きが一気に怪しくなるのは、後半開始と同時にセレッソが喜田→カピシャーバの交代を行ってから。
- キックオフの際は↓のように、為田を左SBに下げた形なのは理解できましたし、実際にセレッソが自陣で守る時などは為田は間違いなくSBなのですが、
- セレッソがボールを持っている時は、為田は左ウイングのようなポジショニングになり、システム1-4-2-3-1というよりは1-3-2-1-4のような配置からスタートします↓。
- これを契機として後半、一気にセレッソペースとなりコンサは自陣で守る時間帯が多くなるのですが、改めて丁寧に要因を挙げていくと、
- 前半レオセアラに蹴っ飛ばしていたセレッソが、長いボールを蹴らずに味方を探すようになる。対するコンサはマンツーマンでハメてセレッソのボール保持を阻害するという(コンサにできる唯一の)対策をせず自陣に撤退することを選択する。
- ウイングというより左シャドーに入ったカピシャーバが縦パスの受け手となって、レオセアラの負荷を軽減。髙尾がカピシャーバへの縦パスを潰せず。
- カピシャーバの前を向いた状態での突進を髙尾が止められず。中央で注意を引きつけてから為田の大外オーバーラップや、中盤センターの2人や奥田のオーバーラップでセレッソは局所で数的優位を作る。
- といった要素がセレッソは噛み合い、コンサは常に後手に回る展開でした。
- 1.について。コンサは為田に近藤がついていくのは理解できますが、奥田をマークするはずの菅も最終ラインに下がって、5バック+大﨑の6枚が最初から自陣ゴール前に撤退するようになります。
- ハーフタイムにおそらくコンサは、セレッソが1-4-2-3-1という4バックベースのシステムに変えてきたということ、それに伴いマーク対象を調整する必要があることは最低限確認したでしょう。
- ただコンサは基本的に「純粋なマンツーマン」しかできないので、セレッソが幾分か人の配置を変えようと、菅のマークは奥田で変わらない。
- 菅が奥田のマークを担当しないことで前線で3-2の数的不利になって、武蔵と青木の2トップがセレッソのDF3人にどう対応するか迷ったということなのか、それとも菅を後ろに置いておくのは想定内というか何かプランがあったのか、真相はわかりませんが(コンサの1番の補強ポイントはこういうところを突っ込んでくれる番記者のような人かもしれません)、ともかくセレッソがボールを持っている状況に対してコンサはセレッソが嫌がるようなプレッシング等の対応がとれなくなります。
- 2.について。カピシャーバは左サイドでドリブルで仕掛けて左足クロスでフィニッシュ、というプレーが多い印象で、為田と2人が並ぶと特徴が似ている選手が被るのでは?というのが後半開始時の予想でした。
- 50分くらいからカピシャーバが中央付近に移動して、彼は普段のウインガーとしての姿とは違った顔を見せます。味方に前を向かせてもらうのではなく、自らがDFを背負って潰れ役となることで味方に前を向かせるプレーを積極的にするようになり、セレッソはひたすら左からカピシャーバへの縦パスを続けます。
- これで恩恵をうける選手は中央で勝負するために動く必要がなくなるレオセアラ、大外で近藤に対して勝負を仕掛ける為田、背後に飛び出して大﨑を引っ張る北野など多数。
- またコンサは北野を大﨑が見ていて、ここもマンツーマンでついていくとDFの前のフィルターとなる選手が一時的に誰もいなくなります。そのスペースに奥田や奥埜が出ていってフリーになることもありましたが、カピシャーバが前を向いてからこの中央スペースでの重戦車のようなドリブルでの侵入(髙尾は速い選手は得意なのでしょうけどカピシャーバ相手だとパワーも問われます)が発動する要因でもありましたし、また中央に放り込んだ後でセレッソがセカンドボールを拾えていたのも、コンサがここに人がいなかったことと無縁ではないでしょう。
後手に回るというか何もできなかったコンサのベンチワーク:
- システム変更から構造的にセレッソがうまく回る展開になったのもあり、ベンチワークが重要になります。
- コンサは56分に馬場→浅野。浅野は複数の役割ができますが、そのまま2トップに入ったので、普通に考えれば浅野と武蔵のスピードで2点目を奪って試合を決めたいということでしょう。
- ただ、「2点目を奪って試合を決める」という考えは全くもっておかしくないと思いますが、得点するにはFWを変えれば十分なケースとそうではないケースがある。この状況でのコンサの場合、セレッソに押し込まれていて、どこでボールを奪えるのかも不明瞭になっているので、FWを変えれば十分というのはちょっと甘いように思えます。
- ただ浅野は昨シーズンからその個人技で何度もチームを救ってきたので、期待は高かったのでしょう。コンサの監督は試合後のコメントで「選手のコンディションが万全ではなく選手交代をしてもイマイチ強度が上がらなかった」みたいなことを言っており、浅野もその対象に含まれるかもしれません。
- セレッソは65分に北野→山﨑、奥埜→柴山。こちらも監督コメントを参照すると、小菊監督的にはこのシステムは1-4-4-2らしいのですが、北野はトップ下かシャドー的なスタイルで、山﨑のそれとは異なります。山﨑は詰まった時に長いボールを当てて頭で競ってくれる選手で、この点もレオセアラの負担軽減になるといえます。
- 柴山は典型的な足元でもらってからアクションが始まるタイプの選手で、役割的に中盤センターはどうか?と思っているのですが、これもコメントを参照すると、「チャンスメークをしてくれ」「時間をうまく作ってほしい」みたいなやり取りがあったようです。中盤にスペースができていたのでそこに技術のある選手を置いて、コンサが誰か食いつくかカバーリングに出てきたところで柴山が剥がしたらよりチャンスになる、というような考えだったのでしょう。
- 71分にコンサは大﨑→宮澤。マーク対象が北野から山﨑に変わったことで、フレッシュな選手を入れるということでしょう。
- 80分にコンサは近藤→中村桐耶、駒井→荒野。近藤は足を攣ったか、スタッフから「×」が出ての交代でしたが、コンサは浅野投入後は白井やキムゴンヒ(ゴニキ)といった攻撃的なカードを切ることができない状況に陥ります。
- 相変わらずボールの奪いどころがない、カピシャーバの突進などセレッソの波状攻撃を止められない状況のコンサは、前線で体を張れるターゲット役とカウンターの際のスピードを両立する武蔵を変えにくい。同じくカウンターの際に前に出ていける中村桐耶の投入は、2点目を取るならもう少し早くてもよかったかもしれませんが、そこはそうした勇気を持つことが、色々な観点で難しい状況だったのは理解できます。
- セレッソは80分にルーカス→上門。後半のルーカスは、左サイドでの展開が主となったことでボールタッチ回数もかなり少なくなっていた印象でした。
- セレッソが攻め続ける試合展開を踏まえ、実態に即した配置にすると↓のようになります。
- セレッソの同点ゴールは上門投入から3分後の85分。
🎦 ゴール動画
— Jリーグ(日本プロサッカーリーグ) (@J_League) November 3, 2024
🏆 明治安田J1リーグ 第35節
🆚 札幌vsC大阪
🔢 1-1
⌚️ 85分
⚽️ 山﨑 凌吾(C大阪)#Jリーグ pic.twitter.com/kfsSUFpfJa
- 直前の見切れているプレーは、宮澤のインターセプトでコンサボールになりますが、青木に渡ったところでセレッソの田中駿汰と上門?が(ファウル気味に)強めに当たってボール回収からのカウンター。
- ここも後半再三脅威となっていたカピシャーバの突進があって、右に回った柴山の仕掛け(結局ゴールに向かってプレーされるのが一番怖い。後ろで足元で貰っても怖くない)から。
- 最後、1点挙げるとするなら、左サイドでコンサは菅(のちに中村桐耶に交代)が1人余るという状況が後半ずっと続いていたのですが、この失点の場面でも、大外のウイング柴山に対応するのが左DFのパクミンギュなのか、WBとして余っている菅→中村桐耶の役割なのかが不明瞭で、中村は中央にいることを選択したのですが、結果的にはパクが剥がされたときにカバーリングできず、「いるだけ」というか中途半端な対応になってしまっている。
- これは個人に対しての文句というより、基本的に人を捕まえるマンツーマン!でほぼ話が済んでいるコンサの対応だと、人を置いておいてもその人が余っている状況から、どういう状況でどう対応するのかが完全に人任せで、結果人はいるけどあまり効果的な役割になっていない…というのが本当に多いなぁ、ということを考えていました。
雑感
- 失礼な表現かもしれませんけどお互いに「無策」というか何してんの?と感じてしまう時間帯が前後半それぞれにあり、その意味では1-1は妥当なスコアなのでしょう。ただ前半は死んだフリ作戦という言い訳もできるので、後半セレッソに対して全く手を打てなかったコンサの方が何してんの感がやや強めかもしれません。
- コンサは前節の名古屋戦で効果的だった、純粋なマンツーマンではなく最初から1人余らせてスイーパーを置くというオプションもあったと思うのですけど、ホームゲームということでやらなかったのか、別の理由があるのか、そもそもあれはたまたまうまくいっただけでオプションにカウントできないのか。ともかく絶好調の湘南、優勝争い中の広島相手にアウェイで2連勝が必要な状況ですので踏ん張って欲しいものです。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。
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