1.ゲームの戦略的論点とポイント
スターティングメンバー:
- 直近4シーズンで優勝、優勝、2位、8位と下降気味だったとはいえ、また例年団子状態になるJリーグとはいえ、川崎が9月になってもこの位置(8勝10分9敗で勝ち点34、1試合未消化ながら14位)にいるという状況を想像していた方はどれほどいるでしょうか。
- 12節までを3勝4分5敗と早々に上位争いから脱落し、13節ではコンサ相手にゴミスのハットトリックで勝利しましたが、その後14-23節を1勝6分3敗とさらにブレーキがかかります。ただ24-26節は柏、神戸、FC東京相手に3連勝を飾っており、その後マリノスに敗れ浦和戦の中止を挟んで迎えるこの試合では、再びズルズルと下降してしまうのか順位を上げていくのか重要な位置付けになるでしょう。
- システムは、開幕時に1-4-3-3。トップ下を置く1-4-2-3-1を試した後でまた戻しましたが、20節以降は再び1-4-2-3-1としているようです。メンバーは山田がトップに定着し、中盤センターで22節以降大島がピッチに立っているのはポジティブなトピック。ただ夏のマーケットで大南と瀬古がベルギーへ旅立ったこととは、特にジェジエウの離脱が続く最終ラインを依然として不安定な状況にさせています。
- お互いに3日後にルヴァンカップを控えており、川崎は等々力で甲府と、コンサは光沢でF・マリノスとの試合を控えています。コンサは前節の磐田でのゲームと同じスタメン。ベンチは馬場・フランシスカン→荒野・田中克幸。荒野は8月半ばの時点で割とコンディションは上がっている印象でしたが、大﨑の加入等もあって無理せず調整に充てられたことは好材料でしょう。
2.試合展開
川崎のゲームプラン:
- 71分にスコアが動くまでに、両チームがカウンターやカウンター気味の形からシュートまたは相手ゴール前まで到達した場面をカウントすると、私の集計では川崎は11回そうした場面がありました。
- 8分、川崎の自陣でのボール保持は左CB佐々木のパスをコンサがカット。高い位置でショートカウンター気味に狙うも近藤→武蔵のパスを佐々木がカット。橘田→脇坂→引いて受ける山田と渡って中央で川崎が大﨑を剥がしてカウンター。山田は斜めに走るマルシーニョにスルーパスを選択するも髙尾が戻ってシュートブロック。
- 9分、中央で大﨑から大島が奪取し山田、家長、マルシーニョの4枚でボックス内まで運ぶも最後は中央密集になってしまい家長のシュートはコンサがブロック。セカンドボールから脇坂がミドルシュートも菅野がキャッチ。
- 10分、右CB大﨑の浮き玉に駒井がSB-CB間を抜け出しかけるが大島がカバーリングからボール回収。大島からの浮き玉パスを中央に絞った家長がコントロールしてカウンターか、という展開は家長がスローダウンさせてシュートには至らず。
- 17分、髙尾→中央の武蔵への斜めのパスをプレスバックした脇坂が武蔵を挟んで回収。右に展開し家長とファン ウェルメスケルケン(以下VW)で打開を狙うもVWのパスを読んでいた青木がカバーし回収。
- 19分、右CB岡村→武蔵の頭を狙ったフィードを佐々木が回収。一度コンサが回収するも、武蔵に橘田が執拗にアタックして個人で回収からカウンター。ボックス内で山田から右に走る家長にラストパスを送るもパスがやや弱く岡村がカバー。
- 21分、川崎のCKから連続したプレー。コンサが回収し中央ボックス外で駒井が落ち着きかけるが脇坂が回収。マルシーニョを使って脇坂がリターンを左足シュートも大﨑がゴール前5mほどでブロック。
- 29分、コンサのボール保持から、右CB岡村→落ちてきた駒井を使ってアンカー青木を解放し近藤に縦パスを送るも三浦が潰して回収。マルシーニョが低い位置から仕掛けるが近藤が戻って対処。
- 32分、大島の浮き玉パスで山田がパクミンギュの背後をとるがボックス内で山田の仕掛けを岡村が難なくストップ。岡村は自陣ボックスすぐ外で菅に渡すが、菅の切り返しを家長が引っ掛けて回収から右足クロス。菅野がマルシーニョの目先で触ってクリア。最後はボックス外から橘田のミドルシュート(枠外)。
- 55分、チョンソンリョンのゴールキックを山田と岡村で競り合う。セカンドボールをコンサが回収したが背後から寄せられた大﨑のワンタッチパスをvWが拾い、脇坂→佐々木→三浦→と左に展開しマルシーニョが抜け出してクロス(大﨑が戻ってCK)。
- 56分、コンサのゴールキックから左サイドで青木が下がってボールを引き取るも、脇坂に捕まって川崎が回収(家長がボックス外でファウルを受けてFK)。FKからマルシーニョのヘッドはタイミングは合うが枠外。
- 67分、コンサのゴールキックからCBとGKで動かしたところでミスが生じて川崎が前の4選手で回収。遠野の左足クロスを中央で家長が合わせるもミートせず枠外。
- 対するコンサは↓の2場面くらいだったかなと思います(私がどっかの勢力から金品をもらってコンサを下げるために手を抜いたり恣意的に集計をしているわけではないので、ぜひ試合を見返してください)。
- 49分、コンサが自陣でパクミンギュ→スパチョーク→菅と渡るが菅のワンタッチパスは佐々木が回収。しかしその佐々木もワンタッチの縦パスを選択し、青木に引っかかって青木から裏に走る武蔵へ浮き玉のスルーパス。大島が武蔵をカバーするもスパチョークが拾ってボックス外からシュート(ミートせずチョンソンリョンがキャッチ)。
- 61分、スローインから三浦→大島のパスがずれて荒野がインターセプト。青木→右の近藤が橘田との1v1で仕掛けてCK。
- それはともかく、川崎はコンサにボールをいい形で持たせないことは徹底していましたし、そうするとコンサは不用意にボールを手放して、前線の武蔵や駒井の頑張り次第という雑な展開になる傾向は相変わらずなので、川崎はおそらくそうした展開(コンサに好きなように持たせない、自陣に入らせない、雑に蹴らせて回収して速攻)を描いていたでしょう。この川崎の思惑は私の集計結果からも、ある程度うまくいっていたと言えるのではないでしょうか。
まず青木、次に…:
- 川崎のボール回収やカウンターは色々なシチュエーションで生じているので全部をこうだと説明することは難しいです。
- ですのでどうしても説明しやすい、お互いに配置が比較的整ったシチュエーションから言及するのですが、まずコンサは↓のように青木がアンカーに入る1-4-1-5の配置が多かったかなと思います。前節磐田戦では1-4-2-4の配置で駒井と青木が並んでいましたが、トレーニングでは基本的に1-4-1-5しかやっていないので、やはりあの形はイレギュラーなものだと理解してよいでしょう。なお駒井は全体的に中途半端な位置にいて、少なくとも後ろ(青木と横並びになる)のタスクではないと推察します。
- これに対し、川崎は基本的にマンツーマン気味に担当を決めていて、コンサの選手に対して誰が担当なのかわからない、という状況が生じることは稀でした。
- 特に、青木と駒井に対してそれぞれ橘田と大島。コンサはこの2人がボールを引き取りに下がってくることが多いのですが、この2人に対しては川崎は中央のスペースを開けることになっても中央で簡単に前を向かせない、ターンさせない対応は徹底していました。
- 23節の神戸戦以降、コンサは青木が左WBではなく中央でスタートするようになり(大変イージーだった鳥栖戦を除く)、アウェイで浦和、磐田を下した際は岡村・大﨑に加えて低い位置に青木がいることで、相手の1列目の守備を回避して、かつ青木が展開役となることで敵陣でプレーする機会を確保できてなっていました(加えておそらくピッチコンディション的に、対戦相手があまりコンサのDFまでpressingをするプランを持っていなかったので、浦和や磐田の前線守備が全体的にイマイチだったことも影響しているでしょう)。
- 川崎の対応で、この日は青木が前を向いてプレーする機会が減ります。ピッチ中央のアンカーの位置で前を向いて前方向に展開できないと、コンサはいつものDFが前に長いボールを蹴るだけの選択に陥ります。
- また川崎は三浦の近藤への対応も徹底しており、三浦はほとんど背後を気にすることなく近藤にボールが渡ると距離を詰めて、近藤をトップスピードに乗らせない対応をしていました。
- 近藤は先の、青木からの展開の受け手として1stチョイスであり、ここ2節の鳥栖、磐田はいずれも近藤への対処に失敗し、得点に関与する活躍を許しています。基本的にはスピードで勝負するパターンがほぼ全てなので、スピードに乗らせない対応ができれば近藤はほぼ沈黙するのでは?と思っていましたが、三浦の対応と時折大島のカバー、そして供給役の青木を断つことで、川崎はコンサの右サイドを71分まではほぼシャットアウトしていました。
- あとは大﨑もこの試合はボールロストが多かった(シュートに繋がらなかったので列挙していないものも含めると71分までに計4度ほどありました)選手で、ここは川崎が大﨑を警戒していたというよりは、川崎のプレースピードの速さ(ボールを失った後の切り替えの速さ等)の影響がコンサの選手全般に及ぼされた結果だったかなと思います。
- 結果、川崎にキープレイヤーをマンツーマン気味に消されたコンサが、ボール保持からゴール前まで到達したプレーはごく僅かで、
- 7分、左CB大﨑から菅へスルーパスで抜け出し、ボックス横からマイナス気味に低いクロスを武蔵がスルーして近藤が中央で左足ボレーで狙うもミートせず。
- 53分、リスタートから武蔵が高井の近くで競り合ってボックスすぐ外でキープに成功。コンサは数人で押し上げて大﨑の縦パスから武蔵→パクミンギュ→武蔵がボックスすぐ外から右足シュートもチョンソンリョンが右手1本でセーブ。
- 71分まででボール保持からシュートに到達したのはこの2回くらいでしたし、かつ、いずれも川崎のプレスを剥がしたというよりは、DFのパス1本で菅が抜け出したものと、リスタートから武蔵に放り込んだものでした。
- 川崎はボール保持からシュートまで到達した場面は71分までに5度あって、以下の「2」以外はコンサのDFを同時に数人超える浮き玉のパスやロングフィードを使った攻撃。この点については、ボールを持った状態では川崎も苦労していました。
- ただコンサのように前線のターゲットにシンプルに放り込んでそこの頑張り次第、というよりは、受け手の動き出しを見て選択していた印象で、川崎のこうしたプレーは前線の選手がスペースに走ったりマークを外した状態から成功していたと思います。
- 4分、コンサの前線守備を剥がさない状態で大島が左で高い位置を取る三浦に浮き玉のパス。三浦が近藤の背後をとってワンタッチで中央のマルシーニョに折り返すもミートせず。
- 38分、右サイドのスローインから橘田→左の三浦と渡って、マルシーニョがバックステップで髙尾と距離をとってボックス内で巻いたシュートも枠外。
- 49分、山田へのロングフィード(DAZNでは見切れていたがそうだと思われる)をコントロール、左のマルシーニョがカットインから枠内シュートは菅野がセーブ。
- 60分、川崎GKからvWが家長へフィード→パクミンギュがヘッドで跳ね返すも家長に当たって山田が拾う→マルシーニョのドリブルから山田がボックス内でダイレクトで狙うもミートせず。
- 65分、佐々木→家長のフィードを胸でコントロールから中央に展開し、左の大島→中村桐耶の背後をとったvWへの斜めのパスが成功し、落としを家長が右足ダイレクトで狙うも菅野がセーブ。
川崎のカウンターの精度:
- カウンターアタックだけで10回以上、川崎は仕留めるチャンスがあったと思いますが無得点に終わります。
- これも状況の再現性というか復元性?反復性?みたいなのがあまりない話なので、かといって個別にここが悪い、とする話でもない気がするのでどう論じるか難しいですが、まずカウンターの枚数は山田、脇坂、家長、マルシーニョで十分だったはずです。マルシーニョや家長は自陣深くまで下がって対応する守備タスクはあまり要求されていないようで、特にコンサの近藤のサイドで三浦1人で対応させるのはリスキーだったかもしれませんが、マルシーニョを前に専念させるという点では三浦は役割を果たしていたと思います。
- 足りなかったのは、ラスト1/3のところで中央に入るタイミングが早いのでスペースを食い合うというか潰しあっていた印象はありました。
- 60分過ぎに立て続けに惜しいシュートの場面が2本ありましたが、いずれも左サイドをゴールライン付近までえぐってマルシーニョと遠野がクロスをボールを供給したもの。特にコンサのDF相手だと深いところからマイナス方向のクロスボールだと、視界をリセットされたDFがマーク対象を頻繁に見失う傾向があるので、そんなに綺麗な形じゃなくてもこれだけでチャンスになる。
- 川崎のカウンターは基本的には前線の選手の即興によるところが大きいのだと思いますけど、マルシーニョと家長に合わせようとするといかにこの2人にカットインから撃たせるか、というアクションになりがちだったかもしれません。
- あとはタイミングを合わせるというと、基本的なところなのですけど、受け手と出しての走るスピードだったりボールを渡すタイミング。そうした微妙なところにコンサは助けられた面もあったと思います。
髙尾の前に滑走路が:
- 59分にコンサは大﨑、スパチョーク、菅→荒野、宮澤、中村桐耶の3枚を交代。64分に川崎はマルシーニョ→遠野。
- 結果的には中村のドリブルが先制点の”起点”になっていましたし、荒野を入れて青木を前に出した後に1ゴール1アシストの活躍を見せたということで、コンサとしては非常に当たった選手交代策だったでしょう。
- 三浦のフィードをパクミンギュがカット。このフィードは受け手(家長)と合っていなかったかもしれません。それまでの試合展開からすると脈略のないゴールでしたので、結果論ですがこのフィードのミスからのトランジションが試合を動かしたということになります。
- 拾った中村桐耶の特徴を発揮というか、意外性のあるドリブルから、この試合初めての攻撃参加だった髙尾。髙尾の前に出ていくタイミング、川崎のDFを横切りながらDFの視線を引きつけるドリブル(conducción)のコースどりとスピードとも完璧で、5人を引きつけてのラストパス。結局はサッカーって何回走ったとか何回蹴ったとかよりもいかに味方とタイミングを合わせるか、相手を見て仕掛けるかが重要だと示すようなプレーでした。
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— DAZN Japan (@DAZN_JPN) September 1, 2024
ホームの意地を見せ均衡を破る一撃!🔥
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髙尾瑠のアウトサイドパスからフリーの#青木亮太 の狙い澄ましたシュートで
札幌が欲しかった大きな1点を獲得!
🏆明治安田J1第29節
🆚札幌×川崎F
📺 #DAZN ライブ配信中#札幌川崎F pic.twitter.com/SIEsqkXT9K
- ここから色々な要因があって少しオープンというか、両ゴール前に簡単に到達するようになります。
- 75分にはコンサの中央でのFK岡村が合わせますがチョンソンリョンがビッグセーブ。
- 79分に川崎は家長・vW→小林・エリソン。コンサの2点目は80分ですのでその投入直後でした。
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— DAZN Japan (@DAZN_JPN) September 1, 2024
ピンポイントクロスからのドンピシャヘッド!💥
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青木亮太のクロスボールに #鈴木武蔵 の
お手本のようなヘディングシュートが決まる!
🏆明治安田J1第29節
🆚札幌×川崎F
📺 #DAZN ライブ配信中#札幌川崎F pic.twitter.com/YnNcSKLRBv
- ルーズボールを駒井が競り合って、佐々木が確保しかけましたがコントロールが乱れたところを荒野が回収。前半だとこうした局面でも川崎が確保していましたが、中央に荒野と宮澤を先に入れたコンサが確保できたのは、スタートから出ている選手の疲労の影響もあるでしょう。
- このゴールも言ってしまえばトランジションとタイミング、味方の動きと合わせるといった要素がキーで、小さいモーションで速く蹴ると自ら説明していましたが、武蔵に合わせた青木の技術が光りました。
雑感
- 互角〜川崎の方がゴールに迫っていたという点で、シーズンの序盤〜中盤ならば落としていたゲームだったかなと思います。そうした展開で勝てたことについて、何か構造的にチームが劇的に変わったとか説明できるなら多分このサイトのPVも増えてお金になるのでしょうけど、個人的にはそんな劇的な変化は感じませんし、サッカーってそういうもの、Jリーグってそういうリーグかな、くらいに思っています。
- 記事中に書いたように、髙尾や青木といった少ないチャンスで得点機会を作れる選手がいるということでやはりそんなに悪いスカッドではないはずですし、となると毎試合準備が重要になるはずです。この日は川崎の方が準備は上回っていた気がしますが、交代カード(川崎は前で待つアタッカータイプが多くて中盤に梃入れが難しかった)の選択は影響したかもしれません。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。
川崎は台風の影響で練習出来なかったから準備不足だったかと思います。
返信削除なるほど
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