2024年7月7日日曜日

2024年7月6日(土)明治安田J1リーグ第22節 鹿島アントラーズvs北海道コンサドーレ札幌 〜そもそも誰に問うべきか?〜

1.ゲームの戦略的論点とポイント

スターティングメンバー:




  • 鹿島は前節神戸に敗れて久々の黒星となったものの、10節から20節を7勝4分けの無敗で駆け抜けて首位町田と勝ち点差5の3位につけます。
  • リーグ戦のメンバーは、流動的だった右SHに師岡が定着してほぼ固まったようですが、この週の7/3に佐野海舟が1.FSVマインツ05に完全移籍が決定。柴崎が知念とのユニットで、今シーズン初のスタメン起用となり、また左サイドは仲間ではなく樋口が起用されています。
  • コンサは大﨑が中盤センターで初スタメン。左は菅が欠場で、原もリーグ戦初スタメン。他、長谷川が欠場で、トップは大森から武蔵に戻してきました。回復が伝えられていた青木は7節ぶりにメンバー入り。家泉と児玉もベンチを外れておりGKは小次郎。

2.試合展開

25分間ずっと鹿島のターン:

  • 27分の給水明けにDAZN中継で示されたスタッツは、ボール保持率が鹿島:札幌=38:62、シュート3:1、チャンスクリエイト4:2。HT時点では支配率46:54、シュート8:3、うち枠内シュート6:2。コンサがボールを持つ時間がやや長かったようですが、よりゴールに迫っていたのは鹿島の方だったと言えそうな数字です。

  • もう少し詳しく見ていくと、鹿島が相手ペナルティエリア内でプレーした場面はこれだけありました(ワンタッチしたくらいのプレーはいくつか除いています)。
  1. 7分、鈴木優磨→樋口→名古で菅野と1v1も枠外。
  2. 直後にセットプレーから鈴木と名古の枠内シュート。コンサDFがブロック。
  3. 11分、植田のフィードに左サイドで師岡が抜け出す。
  4. 12分、安西のフィードに師岡が抜け出す。
  5. 18分、コンサが右サイドで田中宏武へのフィードをカットされ、鹿島は左に走る名古への縦パス→落としを受けた師岡がドリブルでゴール前へ侵入。
  6. 19分、左サイド中村桐耶→駒井のパスが失敗して鹿島が回収、鈴木優磨が裏抜けを試みるも合わず。
  7. 23分、師岡が中村桐耶の背後を裏抜けし、知念の長いパスに反応するも合わず。
  8. 34分、鈴木優磨のポストプレーを大﨑が潰せず、左の安西→中央で名古が反転シュート。
  9. 36分、鈴木優磨がロングフィードを右サイドで抜け出し、菅野が飛び出すも空振り。リカバリーしたボールを中央で師岡がシュートもポスト直撃。
  10. 43分、ボックス内で安西→鈴木優磨のスルーパスも追いつけずゴールラインを割る。
  • 一方コンサがボックス内でプレーした場面は以下で、
  1. 24分、武蔵がボックスギリギリでボールタッチ(タッチしただけでその後の展開は特になし)。
  2. 37分、右からサイドチェンジ、原がドリブル(カットイン)で粘ってシュートもブロックされる。
  3. 41分、武蔵が大﨑の縦パスに左サイドで抜け出して強引に左足クロスも誰にも合わず。
  4. 44分、中村桐耶が鹿島右サイドのフィードをインターセプトからそのまま攻撃参加し左クロス。GK早川が弾いたボールを武蔵がシュートも植田がライン上でブロック。
  • 私の集計では、コンサは24分まで全くボックス内でボールタッチできず。この時間帯は鹿島の一方的な展開だったと言えるでしょう。44分の決定機が典型ですが、コンサが鹿島ゴールに迫るには中村桐耶のドリブルのような個人技の炸裂が必要な状況だったのに対し、鹿島はひたすら裏抜けを繰り返して幾度もコンサゴールに迫っていました。

鈴木優磨へのコンサの対応:

  • 鹿島がコンサのゴールに向かってプレーする際は、その多くが、鈴木優磨がトップの位置から引いてボールを受けるところから始まっていたと思います。
  • まずコンサは岡村が鈴木優磨に対してついていかず対応はほぼ毎回ステイでしたので、鹿島のエースは毎回容易に簡単にコンサ陣内、しかもゴールまで30mほどの絶好の位置でボールを受けてターンでき、それだけでなく味方にパスを配球することができていました。
  • おそらく岡村(この場合の主語は迷います。駒井監督、岡村、大﨑新監督、コンサ、守備を考えているコンサのスタッフの誰か…)としては、鈴木優磨が岡村を誘い出して生じたスペースに鹿島の選手が入り込んでくるのは、前回ドームでの対戦時にも何度も繰り返されていたので手の内はわかっている、岡村は最終ラインに残しておきたい、と考えたのでしょう。
  • しかし岡村が動かずに我慢していても、鹿島は2列目の3人(+時折濃野や安西)が、コンサのDFの選手の間または背後の死角に走り込むことを徹底していたので、岡村1人が最終ラインに残ったところで走り込んでくる鹿島の選手全員をケアすることは不可能でした。岡村を鈴木優磨にぶつけず最終ラインに回した駒井監督(仮)の判断は裏目に出たということになります。
  • ↑の図でもう少し補足すると、例えば名古が岡村と中村桐耶の間に走る。この際、岡村は左寄りでボールを持つ鈴木優磨を見ているので、名古に背中を取られていて死角になる。その岡村の背後は中村桐耶がカバーしてくれるのか?というと、中村桐耶は自分の背後に走り込んでくる樋口を見なくてはならないので、あまり岡村に近いポジショニングをとりづらい状況で、岡村が鈴木優磨だけを見ていると名古は簡単に浮いてしまう状況でした。
  • 一応、大﨑も数に含めるとコンサの方が数的優位っぽいのですが、この場合の数的優位というのは誰かがチャレンジして制限をかけて、余った選手がその制限を踏まえてカバーリングに回ることで活かされるというもの。
  • この試合、大﨑が名古や鈴木優磨のマークを味方と受け渡すようコーチングを熱心に行っていたように、コンサはあくまで各々が人を捕まえる(チャレンジ)ことには執心ですが、余った選手がカバーリングに回る意識はまちまちで、背後を取ってくる鹿島のアタッカーは捕まえられない、ボールホルダーもケアしていない、という、とてもまともに守れそうにない状況に陥っていました。

大﨑新監督のコンサの狙い:

  • 相手がプレッシャーをかけてくる状態でのいつものコンサのbuild-upは、DFやGKから前線のFWに長いボールを放り込むことで試行されますが、鹿島の関川&植田のように正面からのボールに強いDFを擁するチーム相手には当然苦戦します(逆に、3ゴールを奪って優勢だったホームでの湘南戦は、武蔵がDF大岩にほぼ全勝でした)。
  • いつもは駒井がボールタッチ数(ボールを引き取りに来る頻度)や味方への態度からしてこのbuild-up(と呼びたくないけど広義のbuild-upではある)フェーズにおけるリーダーでしたが、この試合ではその役割は明らかに大﨑が担っていました。

  • 駒井から大﨑に単に権限が移っただけではなく、大﨑はそのプレービジョンによって7年間の集大成のはずのミシャ・チルドレンたちとの違いを見せつけます。
  • 「後ろの5人」から「前の5人」に長いボールを蹴るだけの既得権者と異なり、大﨑は鹿島の1列目を食いつかせて外して、鹿島の1~2列目の間のスペースで前を向いて(クリーンに)ボールを持つ状態を作って、前線の選手になるべくクオリティを発揮しやすい形でボールを届けようと試みていたと思います。

  • 最初大﨑は自らはボールに寄らず、岡村や髙尾、菅野にボールを運ばせて、自らはFW背後のスペースで待っていました。

  • ただ蹴っ飛ばすことを仕事だと思い込まされて数年経過した選手には要求水準として厳しいことがわかると、大﨑は運ぶ側にシフトします。
  • この際、小林が中央付近のスペースに入ってくることで大﨑の試みとしての1列目突破をサポート。そこからシュートに繋がったのかというと冒頭に列挙した通りですが、少なくとも初期ミッションは達成だったと言えるでしょう。

  • その小林は負傷で32分に大森と交代。
  • 大森もシャドーとして振る舞おうと頑張っていたと見えますが、右利きの大森は意識しないとプレーベクトルが”右前”に偏ります。ですのでピッチ中央を使ってプレーするというよりは、大森にボールが入ると右サイド、中央よりもスペースない方向へのダイレクトな展開が多くなる。ダイレクトかつフィジカルで戦う展開だと鹿島のDFは対応が容易になったと思います。

黄泉がえり:

  • 後半頭から鹿島は樋口→チャブリッチで1-4-4-2にシフト。対するコンサは、ボール非保持の際の対応を1-5-2-3でリトリートする懐かしの形に変更。チャヴリッチと鈴木優磨の関係性は鈴木優磨がフリーマンっぽくなるので以下の表記とします。(大森と武蔵は流れの中で入れ替わりがありました)


  • 狙いとしてはとにかくコンサは最終ラインにもっと人が余る状態にしてスペースを埋めたい、そしてペナルティエリア付近に走り込んでくる鹿島の選手に対して、必ず誰かが捕まえられるようにしたい、という感じだったのかもしれません。
  • 鹿島は鈴木優磨が相変わらずフリーマンで前半と同じく左寄りの位置に流れることが多い。
  • しかしながら、鈴木優磨が移動した際のコンサの対応は、前半以上に彼を放置し、ボールを受けても特定のマーカーに対応させないという方針になっていて、システム変更をしたけれど試合後ミシャが執拗にその存在を強調する鹿島のエースに対しては、コンサは彼をどう抑えるのかは後半になっても提示できないままだったと思います。


  • そして配置的には、鹿島は濃野が右では馬場の脇のスペースに入る形になっていて、これも前半からやっているプレーなので鹿島は特に方針は変えていないと言えますが、このスペースでボールに関与することが増えると、大﨑と馬場の2人で2列目を管理することは困難になり、結果として駒井や武蔵が下がって対応する1-5-4-1の形で撤退せざるをえない状況だったと思います。

  • この配置的にあまり優位とは言えなさそうなシステム変更を行うにあたってどこまでそこを考慮していたかは難しいところです。
  • この形で守備をセットすると、コンサは鹿島のボール保持の形をマンツーマンでハメていくことが難しくなるので、コンサが後半ボールを5秒以上握ったのは、50分のリスタート(菅野のFKを武蔵が競り合って駒井がドリブルでボックス内侵入)まで待つことになります。

判断ミスのツケを払う:
  • 後半、お互いがペナルティエリア付近でプレーした機会としては、先にコンサが、
  1. 52分、中村桐耶の左からのロングパスを濃野の背後で武蔵が抜け出してボックス内でシュートもブロックされてCK。
  2. 59分、菅野から右シャドー大森に正確なフィード。大森がキープして駆け上がった田中宏武にスルーパス→クロスも合わず濃野がクリア。クリアボールを回収した二次攻撃で大﨑のスルーパスに駒井が走り込んでボックス内、右の角度のないところからシュート。
鹿島は、
  1. 53分、縦パスフリックから柴崎が中央右より、馬場の脇で前を向いてチャブリッチにスルーパス、菅野が1v1をセーブ。
  2. 56分、コンサGKとDFで1列目突破を試みる状況で大﨑のバックパスがズレて鹿島ボールに。ボックス付近でボールを動かし、鈴木優磨のポストプレーをコンサがファウルして近距離でFKに。
  • というのが互いの60分までの状況。依然として鹿島の方が、ダイレクトな展開以外でもボックス付近に侵入できる状況になっていて、コンサは鹿島のDFが整っていない状況にスピードアップすることがほぼ唯一の打ち手となっていました。

  • そんな状況で鹿島が61分に先制します。
  • 完全にコンサの中央、DFとMFの間の一番ケアすべきとされるスペースが数秒間空いていて、鈴木優磨が要求しなくてもボールが出そうな状況でした。
  • 遡って確認すると、左に張っていた安西に対しては大森がマンツーマン気味の対応。一方中央では、大﨑が最終ラインに吸収されていたので、その前のスペースがガラ空きだったのはこの判断によるでしょう。
  • 大﨑はおそらく中央に入ってくる名古を見ていたのでしょうけど、走り込んでくる選手に対しては前半は選手間で声をかけながら受け渡して対応する、後半は最初から5バックにして枚数確保するということだったので、大﨑が早い段階でDFラインに吸収されたのは個人の判断ミスだったように思えます

  • ただそこは誰が悪いというのは簡単ですけど、コンサの場合はそもそもそうした基本的な約束事というかプレーの指針が示されていなくて、選手間で都度決めている疑惑があるので、突き詰めると選手にそこを投げているのが原因ではあるのですが。

  • そして基本的にマンマークのはず(というか、それしかできない)コンサですが、前半からいかなる形で対応していようと、鈴木優磨をずっとフリーにしていたのは、これだけ列挙できるほどボックス付近でのチャンスを許している状況を見ても、彼に特定のマークをつけないやり方を貫いたのはチームとしての判断ミスというか裏目に出た、ということになるでしょう。

  • 得点直後の62分に鹿島は師岡→藤井。コンサは65分に大﨑→田中克幸、原→大森。
  • そのコンサの2人交代直後、66分に鈴木優磨のアーリークロスを藤井がボレーで合わせて0-2。
  • 「出たけど触れなかった」ということでGK菅野の判断ミス(例のアプリという名のYouTubeで言及するかと思いましたが特になかったですね)。アシストの鈴木優磨のところは、駒井がついていってはいるのですが、やはり1-5-2-3でこの「2」の脇の部分だと、普通はここから直接ゴールが生まれることは少ないのもあって対応が曖昧になっています。基本的にはゴール前がしっかり守れているなら駒井の対応でも問題ないと思うのですが。

  • なお先制点以降で、得点以外のボックス付近でのプレーをカウントすると、鹿島は
  1. 62分、コンサ後方でのボール保持の際に駒井が引っかかりカウンター、チャブリッチがボックス内右からシュートも菅野がセーブ。直後、コンサのフィードを鹿島が回収して、前に残っていた鈴木優磨→左でフリーの藤井がダイレクトで折り返すも味方に合わず。
  2. 69分、青木の左クロスが跳ね返され、そのまま岡村の背後を取られチャブリッチが菅野と1v1も菅野がストップ(意外とループで打つか切り返す余裕がないんですね)。
  3. 71分、チャブリッチへのフィードを岡村が跳ね返し→鈴木優磨が拾って左から藤井がボックス内に侵入→カットインからシュート。
  4. 75分、藤井の突破を拾ってチャブリッチが左足シュート。
  • コンサは、
  1. 70分、中央で武蔵が潰れて田中克幸→田中宏武へのパス、宏武のクロスに中村桐耶が長い距離を走ってゴール前に飛び込むもミートせず。
  2. 73分、田中克幸の浮き玉スルーパスに髙尾が走り込むがコントロールできず。
  3. 83分、田中克幸が左で倒されてFK。克幸のクロスを岡村がゴール至近距離で頭で合わせますが早川がビッグセーブ。
  4. 88分、鹿島自陣でのボール保持の際に、知念に駒井が(ファウル気味に見えるが)アタックしてボール回収。田中克幸のボックス内右からの右足シュートは大きく枠外。
  5. 90+2分、田中宏武が長い距離を走って右クロス→セカンドボールを田中克幸が青木にスルーパス→ダイレクトシュートも早川の正面でブロック。大森が続けてシュートも席側がブロック。その後CKの流れから右に残っていた中村桐耶がドリブルでボックス内侵入もシュートには至らず。
  • という感じでした。名目上の監督であるミシャのバイアスがかかると、鈴木優磨がいなければコンサが勝っていたみたいな雰囲気が醸成されますが、カウントしてみるとこのような状況だったと記しておきます。

雑感

  • チームの内情までは知りませんが、見ていて推察される状況としては、コンサの選手は戦術という名のプレーの指針を求めている状況であり、本来スタッフが担うべき仕事を駒井や大﨑といった選手が率先して担うという奇妙な状況が自明のものとなっている。
  • それも、駒井は監督の片腕のような存在だと主張することは可能かもしれませんが、全く脈略のない存在である大﨑が、7年間の集大成だとされるシーズンに加入早々、多大な影響を及ぼしている(ように見える)という点は、このクラブが今後も存続する気があるのでしたら後世に伝えた方がいいかなと思ったので記事を書きました。
  • あとは細かい話では、途中にも書きましたが、安西にはマンツーマンで対応するのに鈴木優磨にはそうしないのは判断ミスだったと思います。ただそもそもこのチームは誰の判断なのか?という部分が謎なので、誰にそれを問うていいのかがわかりません。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。

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