2024年5月4日土曜日

2024年5月3日(金)明治安田J1リーグ第11節 セレッソ大阪vs北海道コンサドーレ札幌 〜言うほどミニクーパーか?〜

1.ゲームの戦略的論点とポイント

スターティングメンバー:

  • 開幕10戦を5勝4分1敗で乗り切りわずかな差で首位に立つ創設30周年のセレッソ。
  • フォルランと柿谷の2トップが観客を魅了した20周年のシーズンほど名前は派手ではないにせよ、両ワイドにルーカス、カピシャーバ、(序列低いけど)クルークス、その後ろの毎熊、登里と充実の陣容で、センターラインもレオセアラ、健在のキムジンヒョン、ヨニッチは抜けたけどどこかで見覚えのある田中駿汰、進藤と上位を狙えるメンバーが揃っています。
  • ただインサイドハーフは香川、清武と費用対効果がやや悪そうなビッグネームを2人抱えており、ここがどう転ぶか、そして昨年失速した後半戦をどう乗り切るか、という展望でしょうか。


  • メンバーは、カピシャーバ、進藤、清武、(おそらく)ヴィトールブエノが負傷、西尾とジャスティンハブナーはU23代表招集中。最終ラインは舩木が左利きCBとして存在感を日に日に高めており、インサイドハーフは柴山が3試合連続のスタメン起用。外国人選手枠の兼ね合いもあり、クルークスはルーカスが出られない時だけ右ウイングでスタメンという扱いですが、カピシャーバ不在のこの日はクルークスを左に持ってきました。

  • コンサは負傷の岡村が強行出場という報道もありましたが、前節45分間プレーしてまずまずの出来だった家泉がJ1初スタメン。岡村によると「ミシャは最初に決められた序列を覆すまでが大変」だそうですが(菅野のYouTube参照)、負傷者の状態を考慮しても、前節のプレーは家泉に賭けてみる勇気が湧く水準だったのでしょう。


チーム力 簡易カルテ(セレッソ編):

  • 以前こんな⇩事を書きましたがちょっとアレンジして、かつ簡易に印象を評価してみます。
  • ◎(基本的にはつけない)◯、△、×の4段階評価でリーグ平均を△としましょう。
  • ここまでのセレッソの印象は、
相手ゴール前のクオリティ:△〜◯ 違いを作れる選手は揃っている
自陣ゴール前の強度:△ 平均より少し上くらい
前進してクリーンな状態を作る能力:△ あまり上手くない。ジンヒョンのフィードと登里ののポジショニングが重要
相手のクリーンな前進を阻害する能力:△〜◯ 前線は意外と?守備意識が強い
トランジションやゲームのコントロール:△ 平均くらい。最低限の対応はしている印象

  • こんな感じで、首位ではありますがJリーグの他のチームと同様にbuild-upはそこまで上手くない。どちらかというと相手にボールを持たせた状態で奪ってのショートカウンターが重要で、ルーカスはむしろこの奪取の局面で活躍が光っていると感じます。
  • また速攻の局面においては、前線にそこまでロングカウンターが得意な、スピードのある選手がいないため、そこはロティーナ監督時代からずっとネックであるかもしれません。
  • というのを頭に入れて試合を振り返ります。

2.試合展開

「決めるべき時」がいきなり到来:

  • まず序盤はセレッソがコンサのbuild-upの不安定さに乗じて何度かシュートチャンスを得ていたと思います。
  • セレッソは柴山か奥埜、主に柴山が前に出て1-4-4-2の陣形からpressingを開始します。菅野、荒野、家泉のユニットが全員右利きのコンサは、スムーズにボールを持てそうな家泉のところからbuild-upを始めようとしますが、スペースに出すから受けて欲しい家泉と足元でボールを欲しがる駒井の連携がいまいちでした。

  • 駒井は1-4-4-2の2トップの背後を取ることがほとんどできておらず、セレッソはコンサのパスミスを拾って序盤の20分ほどで3〜4度ほどショートカウンターからゴールに迫ります。主に柴山にシュートチャンス、前を向いて仕掛けるチャンスが生じますが決め切ることはできず。ここで決められないのがセレッソのウィークポイントでもあるし、試合を難しくした要因でした。

不十分だったミニクーパー対策と武蔵の重要性:

  • よく「決めるべき時に決めないと流れが変わる」と言います。この試合前半も、徐々にセレッソはチャンスを作れなくなってその格言のような展開だったかもしれません。
  • ただそこにはいくつかの戦術的、構造的な要因はあったと思います。
  • まず20分過ぎから駒井が家泉と荒野の間に落ちて前を向いてプレーするようになります。セレッソのpressingは、2トップは人を捕まえる対応を頑張るのですが、中盤と最終ラインは4枚ずつのラインを作ってスペースを消すのを優先していたような対応で、コンサが変形すると局所で枚数不足に陥っていたと思います。
  • これまでの試合だとウイングのカピシャーバやルーカスが1-4-3-3のような陣形で、1列目でpressingを担っていたので、おそらくコンサ対策として、コンサがWBを使った攻撃をしてくることを想定して、両ウイングが下がっても対応できるように調整していたのだと思いますが、結果的には守備における両ウイングの運用は中途半端になっていた感じがします。
  • またセレッソはコンサのロングボール、長い距離のフィードからボールを回収できずコンサの攻撃の時間が徐々に散発的に登場します(シュートまで到達したのは相変わらず多くなかったですが)。
  • セレッソがロングボールに手こずった理由は、まず武蔵とマッチアップしていた鳥海のところで、鳥海が武蔵の前でボールに触ることが90分を通じてほぼ全くできなかったからです。
  • やはりこの試合でも武蔵のパワーはミニクーパー軍団ことコンサにとってのbuild-up…文字通り試合を組みたてる上で大きな助けになっていました。
  • そして鳥海は武蔵相手に分が悪いと悟るとディレイというか撤退の判断が早いのですが、それは武蔵に完全にポストプレーを許すことになって、武蔵からコンサのWBへの展開を誘発する。WBに渡るとセレッソは4バックだけでは守りきれないので、後ろに枚数をかけなくてはならなくなって前線からのpressing→ショートカウンターとの両立が大変になります。なので選手個々の能力差の問題はありますが、鳥海はもっと武蔵にアタックして全体が下がりすぎないよう努めるべきだったと感じます。

  • もう一つセレッソがロングフィードに苦戦した理由は、セレッソは4-4のブロックで中央からスペースを埋めるところがセット守備のスタートなので、コンサのWBはタッチライン付近に張っているだけで簡単にフリーになれたことです。
  • かつての名古屋のクロちゃんこと吉田豊のような、4バックで守りながらワイドに張る選手に渡ると全力で距離を詰めてくる…みたいな対応はセレッソのSBはしないので、WBに渡すことも比較的簡単だし、WBに渡ったら早めに仕掛ければ、ウイングが戻ってくるのに時間がかかるセレッソは毎熊や登里が1on1での対応で、かつクロスを許せば基本的にCB2人で対応しなくてはならないので、セレッソのSBはここでもコンサのWBにアタックしづらい状況だったと思います。

  • 27分の浅野の先制ゴールも、武蔵が鳥海を背負った状態のプレーから生まれます。コンサはこのシュートがセットプレー以外では初めてのシュートだったはずです。相変わらずシュートまでなかなか到達はしないのですが、浅野の決定力が貴重なリードをもたらしました。

強力ウイングを活かせないセレッソ:

  • セレッソはボール保持の局面でもいくつか課題を抱えていました。
  • いつも通りコンサはマンツーマンでセレッソの人についてきます。ですのでセレッソとしては、この状態からボールを持っている選手が(ドリブルやワンツーなどで)マークを剥がすか、受け手がマークを外す動き(desmarque)でボールを受けられる余地を作るか、が求められるのですが、これらがチームとしてデザインされて備わっていないので、前線でレオセアラが頑張って動き直したりスペースに裏抜けするところにジンヒョンのフィード、くらいしかできることがなかったと思います。


  • 特にインサイドハーフの奥埜と柴山が、基本的には前線に張ったところからスタートしており、おそらくレオセアラとの連携でシュートチャンスに絡むことが期待されている(特に柴山)のか?と考えたのですが、にしてもこの2人が中盤の選手としてボールを運ぶプレーの量も質も欠けていたと感じます。
  • ウイングを活かすにはウイングがサイドに張って、そのウイングに相手が寄せ切れない速いパスを配球する必要があるのですが、(コンサのマンマークを掻い潜ってボールを受けられるか否か以前に)セレッソの中盤やDFにそうしたパスが得意な選手はいないようで、レオセアラのポストプレーからサイドへの展開…が、ウイングに前を向かせる最も有効な手段でした。

  • おそらくセレッソのウイングが前半、タッチライン付近にあまり張らず、ペナルティエリア幅くらいでプレーすることが多かったのは、タッチライン付近に張っててもあまりパスが来ないのと、そうしたクリーンにbuild-upしてボールを届けてウイングが仕掛けるというよりはカウンターやトランジションの場面でカオス展開を利用してウイングに仕掛けさせようとする意図があったのではないかと思います。
  • ペナルティエリア幅からのスタートとなると、ルーカスとクルークスにはクロスボールだけでなくシュートの選択肢も生じるのですが、それならこの2人は逆足配置でも良かったと思います。そうしないのは柴山と奥埜との利き足重複問題もありそうですが、加えて逆足配置だとウイングに渡った時の1st choiceがカットイン→シュートに偏重してゲームが必要以上にオープンな撃ち合いになるのを避けたかった、という意図があったのではないかと思います。
  • なので、ある程度はゴールに向かってプレーして欲しいけど、極端にそればかりな展開だとまずい、というある意味での折衷案みたいなところではないでしょうか。単にルーカスの左がイメージできなかったということかもしれませんが。

  • ただルーカスの右はいいとして、全てのプレーを左足で行うクルークスは馬場にほぼ全てアクションを読まれていましたし、馬場との対人プレー関係なくともイージーなミスが目立ったりと完全にこの起用は誤算になっていたと思います。

似たような構図で追いつくセレッソ:

  • コンサが1-0とリードして折り返した後半。セレッソは奥埜が駒井を見るようになって、前線3選手でのマンマークの色が濃くなります。
  • 中央は田中駿汰1枚というか、駿汰は最終ラインのサポート役みたいな役割なのであまり前に出られず、中央にはスペースができる。コンサは浅野が後半途中(お互いに足が止まってよりスペースができる頃)に気づいて後半は浅野のボールタッチおよび彼の能力を活かしたドリブルでの運びやウイングバックへの展開といったプレーが増えます。
  • この浅野に対してセレッソは舩木が対応することは、鳥海と武蔵の関係性が変わらず武蔵優勢なので難しく、登里も縦に走って裏を取ってくる近藤の対応優先ということで、コンサは浅野にもっと気づいていればより楽な展開だったかもしれません。

  • 58分にセレッソはクルークス→為田、柴山→香川、奥埜→北野で3枚を投入。クルークスは「よく引っ張ったな」という印象で、為田は特別なミッションを持っている(近藤の対応など)というよりは普通にリプレースだったと思います。

  • 香川と北野も「あまり良くない選手のリプレース」かと感じました。
  • 香川は体力的には動きの速さや動きの量・頻度が我々のイメージする香川とはかなり低下していて、速さは相手GKやDFへのpressing能力やカウンターの際に自分も走って枚数確保する能力に関係し、これらが物足りないと感じますし、動きの量や頻度に関しても、香川は中盤の広いスペースを走って埋められる感じでもなさそうで、ここに柴山のような若い選手を台頭させたいという思惑はなんとなく理解できました。
  • これは北野にも奥埜にも柴山にも言えることで、セレッソはこの布陣だとインサイドハーフの2枚に入る選手のところに、①レオセアラと絡んでゴール前で仕事をする能力(特に得点力)、②敵陣でpressingを仕掛ける総力やフィジカルと戦術理解、③ウイングを使う展開・組み立て能力、④撤退して守る能力…が全体的にもう少し欲しいなというところです。
  • ただ香川は③は持っている(パススピードはもう少し欲しいかもしれないが)ので、コンサのマンマークがもたない時間帯に入ってきたこともあってルーカスにはそれまでよりはボールが出てきそうな雰囲気になっていました。

  • 71分のレオのゴールのPKも浅野のゴールと似たような構図で、コンサの縦パスを登里が引っ掛けて、香川が反転しながらDF背後のレオセアラに浮き球のパス、レオのポストプレーから右のルーカスに展開し、菅がルーカスを倒してPK(練習で何度もマッチアップしてるし絶対右足だろ、って感じでしたが菅には疲れはあったと思います)。
  • この時間帯になると、いつも通りコンサはより雑になってきて、広大なDF背後のスペースを管理する気がないので、コンサがボールを持ってセレッソ陣内に入ってくるだけでセレッソにはカウンターのチャンス。しかしセレッソの前線にはそうしたスペースを強襲できる速い選手がいないので、結局レオセアラが裏抜けなり家泉を背負ってなりでポストプレー、一度トップに当てるのを経由しないとゴールに迫れないのが致命的な弱点かなと感じました。
  • この時は流れの中からルーカスがたまたま高めの位置にいて、ブロックに入っていない時にちょうどコンサのミスが生じて、ルーカスが前残り気味だったことがカウンター成功の要因として大きかったです。
  • レオがPKを決めて1-1となった後も、コンサは勝ち点1でOKなのか点をとりに行くのかよくわからないというか、少なくともボールを持っている時にDFを1人か2人しか残さない(しかもそのポジショニングもレオセアラしか見ていないのでサイドには広大なスペース)ので、ワイドに速い選手がセレッソにいれば簡単に逆転できた感じもしますが、そこはないものねだりで、セレッソはひたすらレオセアラに当ててからゆっくり攻撃しようとしていたので、コンサでも守り切ることができました。

雑感

  • まず私は車はランクルと実家のデリカしか知らないので、実はフェラーリとミニクーパーの例えがよくわかっていません。
  • ただ確実に言えるのは、(毎回これは言ってるけど)前提として新潟以外のJリーグのチームはクリーンにbuild-upをするのが上手くないためJリーグではポストプレーやターゲットマンと呼ばれる選手が重要なのですが、武蔵と鳥海のマッチアップは武蔵が圧勝していましたし、レオセアラに対する家泉もほぼ互角というか、少なくとも鳥海ほど押されてはいなかったはずです。
  • ですので、そもそもコンサの選手はそこまで監督に惨めな思いをさせるようなクオリティなのか?という疑問があるのですが、やはり多くのコンサドーレサポーターは200勝監督ミシャの魔法の言葉をまだまだ信じたいようです。それは好きにしてもらっていいですが、武蔵が4バックのチーム相手だと相手の右CBとマッチアップすることになるので、湘南の大岩もそうでしたがここがあまり強くないチーム相手には今後も互角くらいにはやれるはずなので、あとはディティールをどこまで突き詰められるか、本気になれるかでしょうか。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。

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