1.ゲームの戦略的論点とポイント
スターティングメンバー:
- 今シーズンの湘南は永木アンカー、インサイドハーフに平岡やタリクが入る1-3-1-4-2を採用していますが、この日は茨田が初スタメン、奥野と並んで、町野の下に阿部と平岡が入る1-3-4-2-1を採用。最近あまりこの手法をとるチームは少ないですがまぁ札幌対策で、特にWBのところでマッチアップを明確にしたかったのでしょう。
- 札幌は大勝した前節とスタメンは同じ。サブは小林がメンバー外で中島が復帰しています。
Jリーグ - J1 第13節 湘南ベルマーレ vs. 北海道コンサドーレ札幌 - 試合経過 - スポーツナビ https://t.co/XHQspbtbeS
— アジアンベコム (@british_yakan) May 16, 2023
2.試合展開
昨今のトレンド?:
- 10年前、いやもっと前でしょうか。ティエリアンリやイブラヒモビッチのようなFWが台頭した頃くらいから、「長身だけどあまりヘディングシュートが得意ではないFWが増えた」という言説をよく聞くようになりました。
- 今日だとポジショナルプレーの大流行もあってか、特に最前線の選手はスペースがない(相手にがっつりマークされている)状態で強引にシュートを枠に飛ばすよりは、いかにdesmarqueしてフリーになってシュートチャンスを作るかがより重視されているとするなら、「ヘディングシュートというオプションは重要だけどその担い手の身長はあまり重視されていない」と言えるかもしれません。
- そりゃでかい方がいいこともあるのですが、例えばハーランドはどう評価されるでしょうか。デカいから小さい選手が触れないところまでリーチがあるというよりは、彼の場合はオープンスペースに突進する際の強さのマテリアルがあの体躯であるように思えます。
- というのは余談なのですが、この2シーズンほどJ1を見ていて思うのは、「サイズはあるけど空中戦や競り合いに強くないセンターバックが増えたな」という雑感です。これは散々言ってますけど、2021シーズンの徳島ヴォルティスの敗因はセンターバックの強度不足で、簡単に放り込まれるだけで自陣撤退を余儀なくされたからです。
- そんな徳島の二の舞になりそうなチームが、今年の新潟や、(サッカーの質は違うけど)横浜FC、そして湘南。新潟は今のところ勝ち点をそこそこ拾っていますがベテランのCBのコンディションは今後気になります。
- 横浜は、ちょうどこの試合の裏で柏とのビッグゲームを制して最下位脱出。今シーズン2度目の無失点試合でしたが、最後は全員がペナルティエリアに入って跳ね返していて、まさにこれこそがCBの強度不足を示しています。
- さて湘南は、何年も前から(坂がCBだった頃、その前くらいからも)このような編成でCBにサイズもないし放り込みにも強くない。けどしぶとく生き残っているのはたいへん賞賛に値します。
- その湘南とコンサの対戦になると、コンサは基本的にボールは全てロングフィードで敵陣に運ぶ(時に例外あり)ので、コンサの対戦相手のCB強度はゲームでまずキーになります。今シーズンも浦和や鹿島のようなCBが強いチームには苦戦していて、福岡には先行しましたけど相手が中央を固めてからは崩せず。
- 逆に、横浜FCみたいなCBが1発で跳ね返せない、強度に難があるチーム相手には押し込んでプレーすることに成功していて、それはFWにキムゴニのようなサイズのある選手の有無は関係ありません。
- 湘南のゲームプランはこの辺の力関係を考えていて、基本的にコンサ相手に簡単に放り込まれて押し込む展開は避けたい。ただし、それでもロングフィードが蹴られると対処できないこともあるので、①放り込まれる展開になるのは想定する(≒自陣でスペースを消して守る準備)、②可能ならフィードを蹴らせない道を探る、③放り込み展開で間延びした後半に勝負する、こんな感じでしょうか。後ろが重い1-3-4-2-1というシステムを採用して、引いた時に1人枚数を多くして守れるようにしたのは、ロングボールが多いコンサ対策だったのでしょう。
- しかしその甲斐なく?6分に好調のコンサの攻撃陣が早速火を吹きます。やはり精度が良くなっている感じがする金子の右クロスを小柏が潰れて駒井。
🎦 ゴール動画
— Jリーグ(日本プロサッカーリーグ) (@J_League) May 13, 2023
🏆 明治安田生命J1リーグ 第13節
🆚 湘南vs札幌
🔢 0-1
⌚️ 6分
⚽️ 駒井 善成(札幌)#Jリーグ#湘南札幌 pic.twitter.com/53acziTzCf
- まずWBの畑とシャドーの平岡の連携がよくないですね。湘南は9人で撤退して平岡も金子とダブルチームの準備ができていたので、これなら畑はもっと金子の縦方向を切る対応が必要でした。どうしても金子に右足でフィニッシュさせるとかの意図がなければ。CBに高さがないので左足インスイングのクロスが嫌とかは、可能性としてはなくはないかもです。
- 湘南DFの立ち方、切り方は別にするとクロスは非常にいいボールだったと思います。空振りした小柏も駒井も、相手をブロックしながら右足で打てるところにボールが転がったためです。だからもっとボックス内で駒井や小柏に(ファウル未満の強さで)強く寄せてバランスを崩させたりとかしないとDFは他にできることは少ない。ほぼクロスがここに送られるとノーチャンスに近いと思います。
- ただ、もっと気になるのは、宮澤がボール回収して小柏と浅野がキープするところで、ここでもっと小柏や浅野に強くアタックできないかなという感じはします。完全に撤退して枚数確保前提の対応になっていて、まぁそれでも悪くはないのですが、冒頭から書いているようにCBの強度がなくてボール回収したりとか、遅らせたりができないと都度9人で撤退するコストが発生してしまうため。この点はいかにコンサだと岡村が1人で守ってチームを助けているか、と対照的です。
- あとは特に前半書くほどのことがなくて…湘南はボールを持つと、基本的にはこちらも全部町野へのフィード。町野は右サイドによく流れて岡村相手になんとかしたいですが、岡村が相変わらずの強さを見せて、(これこそ湘南のCBと対照的なのですが)少なくとも町野から湘南ボールになったとしても、湘南はクリーンにコンサのゴール前に侵入できる状態ではありませんでした。
- コンサのDFが揃っている状態なら、湘南はWBの突破が主な手段になるのですが、WBにボールを届けるフィードなどに難があり、だとすると何本かパスを繋いでゆっくりサイドに到達することになる。特にコンサに危ない場面はありませんでした。
しぶとさは一瞬:
- 後半もそんな感じで、お互いにボールを捨てる。その選択ならセンターラインに岡村や駒井のような力強いプレーができるコンサに部がある展開でした。
- 一応、湘南は後半からややプレッシングの開始位置を高くしてはいました。前半は町野と阿部が2トップみたいな感じでコンサのCB2人を監視して、アンカーかSBのところにボールが出たら寄せるというやり方。後半は最初からCBに寄せて、1トップ2シャドーのシステムを活かしたやり方に変えてはいました。ただ結局コンサはそれでも放り込むので、あんまり展開には影響ないように思えました。
- 試合が動いたのは59分。CKから町野のシュート、岡村の手に当たってPKとなり町野が決めて同点。そして直後の60分、トランジションを制してゴール正面でフリーの阿部が決めて2−1。
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— DAZN Japan (@DAZN_JPN) May 13, 2023
連続した50-50の奪い合い
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球際を制したベルマーレが一気にひっくり返した‼️
町野のラストパスから阿部浩之
🏆J1第13節
🆚湘南×札幌
📺 #DAZN LIVE配信 pic.twitter.com/I3qoQCiJyG
- 同点ゴール直後のキックオフからの流れでした。コンサのキックオフ。岡村のフィード。湘南がヘディングでクリア。コンサもヘディング、湘南もヘディング…何回か行ったり来たりして菅が左足アーリークロス。湘南が跳ね返したボールを拾って動画の場面へ。
- 町野がサイドに流れて岡村がついていくと、中央は誰もいなくて荒野が必死で戻って足を伸ばします。厚別区民としては異次元の運動能力を誇る荒野はよくこういう場面で「無理が効くプレー」で窮地を脱したのですけど、この時は疲労もあったのかプレーをクリーンに切ることはできず。
- そして荒野がスライディングしたところで、菅はボール回収に成功したと思ってプレスバックをやめます。結果的に菅が戻っていれば、福森の外側で阿部を捕まえられたかもしれませんけど、そもそも50m以上走って戻ること自体が大変なので、これは人間なら仕方ないプレーでしょう。
- まぁ、なんというか、「何も考えずにボールを前に蹴り合っているとコントロール不能になる」という話の典型みたいなゴールだったでしょうか。このチームはこういうのを全く気にしないようなので、これ以上はやめましょう。
ゲームをクローズさせるために:
- 湘南としてはゲームを寝かせて勝ち点3を持ち帰る展開。ただ、ちょっとまだ時間が早すぎて、コンサの選手の足が止まる時間でもなかったかもしれません。
- 70分に田中駿汰のアーリークロスっぽいパスから小柏のヘッド。
🎦 ゴール動画
— Jリーグ(日本プロサッカーリーグ) (@J_League) May 13, 2023
🏆 明治安田生命J1リーグ 第13節
🆚 湘南vs札幌
🔢 2-2
⌚️ 70分
⚽️ 小柏 剛(札幌)#Jリーグ#湘南札幌 pic.twitter.com/MmjJUZ9ckz
- まず駿汰のボヌッチみたいなパスの精度が良かったですね。
- 湘南の方は、このプレーの前に金子が低い位置でドリブルしてFKになってからのリスタートでした。このファウル前後での湘南の対応は、1-5-2-3っぽい、やや前体重の布陣で、コンサのボール保持者に対して1列目から追い込んでいくもの。だからこの時は、湘南は高い位置、少なくともミドルゾーン、ゾーン2くらいででボール回収のイメージがあったと思うのですが、それを意識してボールサイドに寄せるとCBが動いてマークがズレて、最後小柏は湘南CBとGKの間のスペースにアタックできているし、ファーサイドのCB舘のマークが外れている。
- 単刀直入にいうとCBステイでもいいんじゃないの?という感じですけど、どうなんでしょうね。杉岡がスライドして浅野のマークが大岩、となったけど、杉岡がスライドする意味はない気がするけど、そういうやり方なら仕方ないのでしょうか。いずれにせよそうしたギャップをつくパスのクオリティは突出していましたね。
- こんな感じで低い位置でスペースを消して守れないとするなら、ゲームをクローズするのはきついです。結果前に出るしかないし、足が止まってpressingの強度が下がるなら展開はもっとオープンな殴り合いになる。
- 75分の浅野のゴールも、このプレースピードならオープン展開に強いコンサの前線に分がありますね。
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— DAZN Japan (@DAZN_JPN) May 13, 2023
すごいシーソーゲーム
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火がつくとコンサドーレは止まりません
浅野雄也が7ゴール目で再逆転‼️
🏆J1第13節
🆚湘南×札幌
📺 #DAZN LIVE配信 pic.twitter.com/0HoaamNvqn
- コンサの攻撃陣はなぜ好調なのか?という質問が最近多くて、
サッカーは相手の存在があるので、正直なところ、自分らがどう、という話と同等に相手の話をする必要がある。だから「なぜコンサは強いのか」みたいな記事はだいたい意味がないんですけど、要因というか挙げるとしたら、
— アジアンベコム (@british_yakan) May 15, 2023
私は結構サッカーって内容カスでもセットプレー… https://t.co/D8OfGqhulO
浅野はスコアもそうなんですけど、2トップのオプションが増えたというか、2トップで今以上にしっくりくるメンバーがこれまで見つかってなかったので、そこが特に大きい補強と思いますね。前線から守備できるし切り替えて長い距離を攻撃したり、後ろの選手を助けたりでき… https://t.co/d5wPKl93Zo
— アジアンベコム (@british_yakan) May 9, 2023
- まず言えるのは、今のコンサには相手のブロックを崩す能力がそこまでないので、オープンな展開や速攻から時間をかけずに相手ゴールに突っ込むことが重要になります。そしてこれはかつてミシャが言ってたように、「相手がボールを持っている時に奪ってすぐに守備→攻撃に切り替える」が重要であるし手っ取り早いと言えます。
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— DAZN Japan (@DAZN_JPN) May 6, 2023
ワントラップで勝負あり👏
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ショートカウンター完結
浅野雄也が自己最多タイ6ゴール目‼️
🏆J1第12節
🆚札幌×FC東京
📺 #DAZN LIVE配信 pic.twitter.com/5dMN8xDPAA
- そして湘南戦は相手が3バックだったので違ったのですが、今のJリーグはCB2人で4バックのチームが多いのでコンサも2トップベースのシステムになる。これがキムゴニがいると、ゴニ+浅野or小柏or誰か、になるのですが、ゴニはプレースピードがそこまでないので、ゴニに最後クロスボールetcでフィニッシュを構築すると、その間(ゴニ他選手が適性配置についたりする時間)に相手の守備が整ってしまう。小林もあまり速くない選手ですね。
- これが小柏+浅野だと、彼らは守備で低い位置まで下がってもそこから30m走ってゴールに向かうアクションができるし、相手のDFが整うまでの数秒を利用できる。これまでは小柏1人がその役割を担っていたのが、浅野と並ぶと2人で速攻を成立させられる。あとは個人のクオリティの問題ですね。
- 切り替わりが速く落ち着かない展開はアンバランスでもあります。そこは駒井がやや下り目にいて、常に次の展開を予測している。これは主に、例えば浅野の仕掛けが失敗した時に駒井が後ろですぐディフェンスに切り替えられるようにしているというものです。
- シーズン序盤の記事で書いたけど、やはりゴニ・コバ兄だと遅いんですよね▼。その遅さを活かせない状態だったけど、メンバーを変えてプレースピードを上げた、が今のところは(一部のチーム相手に)うまくいってる状態でしょうか。
雑感
- 私としてはこれまで何十試合、コンサ以外のJリーグでも含めると100試合以上は見てきた、「お互い1-3-4-2-1ミラー布陣でボールをどんどん放り込んで、結果センターラインの強度で決まる試合」なので戦術面では特に感想はないです。
- 今後もセンターラインが脆弱なチーム相手にマッチョなサッカーで勝ち点を積むと予想します。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。
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