前段
- コンサドーレのここ4シーズンほどを簡単におさらいします。
- ミシャ監督就任1年目の2018シーズンは、おそらく何人かの中堅〜ベテラン選手が複数年契約中で選手の大幅な入れ替えができない過渡期的なシーズン。そこでリーグ戦4位に躍進したのは、望外の結果でした。
- 2018シーズンオフに、このチームとしては前例のない大型補強を敢行します。U21日本代表の主力FWだった岩崎、ヴィトーリアでスタメンだったルーカスフェルナンデス、ベガルタ仙台の崩しのキープレイヤーだった中野嘉大、長崎でリーグ戦11得点(得点ランキング10位タイ、日本人5位タイ)を挙げた鈴木武蔵、2シーズン前に広島でリーグ戦10得点を記録したアンデルソンロペス。
- ルーカスを除く各選手はいずれも複数年契約を結んでいて、これは2021シーズンに照準を合わせたチームづくりの一環(東京オリンピックの翌年で、札幌ドームがフルに使えるため増収が見込まれる⇨先行投資分の赤字をペイし、クラブライセンスを維持できる)だったと思われます。
- そして2020シーズンの開幕早々に新型コロナウイルスの流行が拡大。ここからクラブが描いたシナリオと実態が乖離していきます。
- 主要な動きとしては、①Jリーグでは2020シーズンが「降格なし」として扱うことが決定(3月)、②韓国籍のGKクソンユンが韓国軍入隊準備のためにKリーグでプレーすることを決断(5月末、本来は2021年末にKリーグ移籍を想定)、③鈴木武蔵がベールスホットに完全移籍(7月)そして④Jリーグで厳しい入場制限など感染防止策がとられ入場料収入や広告収入が大幅に減少。
- ②③は勝負の年と位置づけていた2021シーズンに勝負するために不可欠だった選手で、彼らを失ったことでサイクルの巻き直しを強いられることになります。④は、仮に戦力を維持していたとしても、主要パートナーの撤退もあり投資分の回収が不可能になり、編成に少なからず影響することになります。
- そしてクラブは①を考慮して、2020シーズンを”捨てる”決断をします。これは「降格がないからこのシーズンの順位は気にしない、次のシーズンに向けた準備期間としたい」とする方針を、フロントからなんらか現場に伝えたということ。
- これを受けて、まずピッチ上では荒野がFWに入り、敵陣高い位置からピッチ上の全域で相手をマンマークで守る「トータルフットボール」と監督が表現していたスタイルが採用されます。
- 選手起用ではこのほか、アンデルソンロペスやジェイがベンチスタートとなったり、終盤に特別指定選手のGK中野小次郎が起用されたりと、”捨てる”(目先の結果ではなく他を取る)姿勢が顕著になります。結果は、序盤に稼いだ勝ち点を夏場の10試合勝ちなしなどで吐き出して、最終順位は12位でした。
- そしてこの頃から、クラブのフロントから(主にスポークスマンである野々村社長(当時))、「チャンスはたくさん作れているので、あとは決めるだけ」、「アタランタのようなサッカーを目指している」といった発言がされるようになります。前者については、ならばFWをリプレースすればある程度、結果は好転すると期待される。後者については非常に唐突な話で(なぜいきなりアタランタ?)、どの程度本気なのかわからないですが、ある程度の実効性のある話であれば選手獲得や強化方針の方向性として、「なんらか」思うところがあるのでしょう(「なんらか」については、何がアタランタなのかはいまだに謎ですが)。
- 前のシーズンを捨てたことで戦術が浸透して、「あとは決めるだけ」で迎えた(そうですよね?)2021シーズン。20チームで降格4枠、夏場に東京オリンピックの中断期間を挟む長期戦でしたが、このシーズンの札幌の新加入選手は青木(名古屋)、岡村(群馬)、柳(FC東京)と、いずれもおそらくフリートランスファーと思われる、J1でさほど実績のない選手たち。決める役割のFWは新卒の小柏や中島を除くと加入はなし、でした。
- 2020シーズンに選手が年俸返還を申し出るということもありましたが、FWを獲得するにせよ無い袖は振れない状態。これは「現状維持」というと聞こえは悪くないかもしれませんが、よそのチームが戦力強化に成功している中で札幌が現状維持であれば、相対的には弱体化していることになります。
- ピッチ上では、戦術的に何が浸透したのかわからないサッカーが繰り広げられる。それでもハーフシーズンでは11位、最終順位は10位と悪くない結果になったのは、実際のところ何が良かったのかよくわからないのが実情だと思います。
- このシーズンは、最終的に降格した4クラブがかなり力の落ちるチームで(徳島は最終節まで頑張りましたが)、札幌はこの4クラブとの8試合で6勝2分と、総勝ち点51のうち20を稼いだことが大きかったのと、ハーフシーズンの在籍でしたが離脱時に得点ランキングトップだったアンデルソンロペスの活躍で、そこまでの決定力不足に悩まされることはなかったということを書いておきます(少なくとも、ハーフシーズンは「あとは決めるだけ」:外国人FWが悪い と言い訳することはできなかったでしょう)。
2022シーズンとはなんだったのか
- 前段を踏まえて、このシーズンの位置付けを考えます。私の見解では、語弊があるかもしれませんがこの2022シーズンも”捨て”のシーズンだったと思っています。フロントは拷問を受けてもこのように言うわけないでしょうが、実態はそのように見受けられます。
- というのは、ジェイが引退、チャナティップが年明けに川崎に電撃移籍し、ミシャ体制4シーズンを通じてゴール前及びbuild-upの局面で決定的なキャストだった2人がチームを去りました。チャナティップの代役として急遽ガブリエルシャビエルが迎え入れられましたが、ジェイに代わるFWは35歳の興梠を期限付き移籍で獲得しただけ。代役がいずれもベテランなので、年俸は”割高”なのでしょうけど、このシーズン絶対失敗しないように計算できる選手を連れてきた、という動きではありませんでした(実際にこの2人はコンディション不良や故障による離脱が断続的に生じました)。
- 結果的には”捨てた”とも言われかねない編成で、最終順位10位なのですから、このシーズンを経てフロントのミシャ監督への信頼や評価は更に高まったのではないでしょうか。このチームはどうやら、「とにかく残留」が唯一の共通認識(どんなチーム作りをするか、とかは二の次)のようなので、最小の投資で最低ラインを4シーズン連続でクリアしてくれる監督に対してネガティブな見解は、ほとんどなくなっているのではないでしょうか。
CS18からGX18へ
- というわけで、クラブが結果以外にあまりコメントしないので、一介のサッカーファンにすぎない私がここにいくつかピッチ上での出来事を記録することとします。
- といっても、前のシーズンから継続で見た時にこの2022シーズンのコンサドーレは何かが変わった、というと違いを見出すことが難しくて、大半の試合で、すでに検証され尽くしたこと…このチームは何ができて何ができないのか、をリフレインするような試合が続きました。違いがあるとしたらキャスト(選手)と、対戦相手の振る舞いによるものですので、それらを中心に書いていきます。
- キャストに関しては、まずチャナティップの移籍とシャビエルの加入が最大のトピックです。ライトなファンの方からには、チャナの代役としてJリーグで実績十分の選手が入ってきて一安心、といったストーブリーグだと映ったかもしれません。
- しかし両者のパフォーマンスにはいくつか相違点があって、まず決定的なのは、シャビエルはチャナティップほどフィジカル的に力強くプレーできないという点。
- チャナは元々ムアントンユナイテッドや、タイ代表で1-4-1-2-3のインサイドハーフでプレー7得て、まず中盤センターでポジションで相手の中盤の選手をマーキングしたり味方の空けたスペースをカバーリングしたり走り回ることができる。
- そして最大の特徴は、守備に回り身体的負荷のある状態からトランジションが生じてボールを持った際に、ドリブルで20-30mの距離を1人で運んで味方を自陣ゴールから遠ざけ、敵陣ゴールに近づける能力がある。
- これに対してシャビエルはもっと前でプレーすべき選手で、チャナのようにインサイドハーフや相手のMFをマークする役割はできない(これは、チャナは実質ボランチとして振る舞っていた)ので、コンサだと基本的にシャドーでしか起用できない。
- 丁寧に説明すると、チャナは自分でボールを運べる選手だけど、シャビエルは味方がボールを運んでくれるのを前線で待って、最後に(シュートもしくはその手前で)仕事をすることに特化した選手。もっともコンサでは興梠の不在(や、他のFWの計算の出来なさ)もあって、シャドーだけでなくFWで起用されもしましたが、チャナとは違ったタイプの選手が来たことになります。
- 加えて、開幕時の攻撃の軸と目されていた小柏、興梠との相性が良いとはいえず。それはシャビエルは右シャドーが得意で、小柏もどうやら右シャドーが定位置になりそうなので、併用するとどちらかが左に回らないといけない。
- 加えて、これは相手が3バックで、相手DFを同数でマンマークするコンサが1トップ2シャドーの陣形を採用できる時の話。相手が4バックだとコンサは2トップになるので、この3人のうち誰かがMF(センターハーフないしはボランチ)の役割をしなくてはならなくて、それは小柏が回されることが多かったです。かつ、開幕戦でも露見しましたが、興梠とシャビエルの2人では相手をマーキングできる範囲が狭いので、コンサは(それまで採用してきた)FWが走り回って広く守るやり方からの転換を強いられることになります。
- 実際は小柏が怪我が多くて、スタメンで3人揃うことは少なかったものの、チャナティップからシャビエルへのリプレースは、故障は抜きにしても思ったほど戦術の幅を広げることにはならず、むしろこの前線セットでは前線守備の強度もない、カウンターにもあまり向かない。「できない」こと、「捨てること」が増えて、チームとしてどんなサッカーに向かっていくのかがより曖昧化することを助長していたと思います(アタランタとは逆方向になる)。
黄金時代の終焉
- このシーズンの最大の事件は、チームにおける福森の序列が明らかに下がったことです。
- これまでカップ戦を含め、過密日程でも福森のターンオーバーはほとんどなく、またどれだけ疲労があっても(結果サボっても)途中交代も稀でした。このことは左足のロングフィードにいかにこのチームが依存してきたかを示しています。
- 代役候補だった選手(石川直樹etc)は一応いたものの、福森のタスクは代替できないことは過去何度か証明されていて、守備全般に目を瞑っても起用し続ける理由になっている。
- かつて四方田監督が、ペナルティエリア内にDF5人を並べる極端に守備的な戦術を採用したのは、守備範囲が狭い福森を使うためだったと思うのですが、ミシャ体制になってマンマーク色が強くなり、また2020シーズン以降のトータルフットボール路線への転換で、コンサのDFが守るべき範囲はさらに広くなったのですが、これまでは騙し騙しやれていたのが、このシーズンのFC東京戦(20節、前半で福森は交代)辺りでミシャも無視できなくなりました。
- シーズン終盤になると、福森は相手が2トップ(コンサが4バック化して、左CBは左SBの役割になって相手の右SHとマッチアップする)の時はスタメンを外れるようになって、代役は身体的に無理の効く菅か、菅よりはサイズのある高嶺。相手が1トップ2シャドーの時は、福森は相手のシャドーをマークしていればいいので、まだ使いやすい状況ではありました。
- 菅は対人では粘り強く対応し、空中戦でも身長ほどハンデは感じさせないのですが、ボールを持った時に受け手が前を向けたり仕掛ける準備ができるような、福森が持っているパスは菅にはない。菅がこの位置にいると、コンサは安心してボールを預けられる選手が1人減ることになり、結果、これまで以上にボールを捨てるスタイルに傾くことの一因でもあったでしょうか。
- 期待の若手・中村は、14節(vs磐田)でリーグ戦初スタメン、決勝ゴールに絡む活躍がありましたが、DFとしては中央を守る能力にまだ課題があり(少なくとも福森の方が計算が立つとミシャは見ている模様)、中村は中央よりは現状サイドの選手として見られている状態。
#レオシルバ 選手 #grampus 初ゴール⚽️
— 名古屋グランパス / Nagoya Grampus (@nge_official) July 30, 2022
2022.7.30 北海道コンサドーレ札幌戦
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- 希少な左利きDFを探す旅はおそらく簡単ではないでしょうけど、引き続きマンマーク基調の守備を採用するなら最終ラインに空席があり続ける状態は今後アキレス腱となるかもしれません。
新たなDFリーダー
- その福森と共に序列が下がったのがキャプテンの宮澤。CBとしての宮澤の貢献は読みやカバーリングによるところが大きく、スピードや1対1での対応はかなり”微妙”(と、しておきます)なのは2019シーズンに起用されてからの認識でしたが、6月に33歳になったキャプテンは、相手のアタッカーに振り切られることがさらに増えた印象があります。
- 代わって18節(vsガンバ、1-0勝利)以降、CB中央に岡村が定着します。岡村は前のシーズンから右DFでの起用が多く、このシーズン右で起用されたのは神戸戦(16節、1-4で負け)のみ。コンサの左右のDFは福森にせよ田中駿汰にせよ、フリーになりやすい配置を活かしてボールを運ぶ役割を担っていて、この点では岡村は全くいいところがなく、使うなら中央しかないのだろうなと思っていました。
- 中央で出た最初の試合、5節のセレッソ戦では失点に直結するミスをして70分に交代。それでも、私が5月の帰省時に見学したトレーニングでは宮澤を控え組に追いやって主力組のCBで出ていたので、岡村の力が必要なことはコーチングスタッフも早い段階からわかっていたのでしょう。
- 夏以降、岡村は期待に応え、宮澤がCBの14試合では2勝8分4敗に対し岡村は20試合で9勝4分7敗。宮澤はシーズン序盤のドローが多いのですが、鳥栖、鹿島、柏、神戸といった大量失点の試合で起用されていたこともあって、テコ入れはコンサにしては珍しく迅速に行われた感があります。
- 最終節の記事でも書いた通りですが、コンサのディフェンスは1on1で勝つ(少なくとも負けないしサボらない)ことが全ての前提になっている。物事100%はないので「んなアホな」と言いたくなるのですがこれは真実です。
- 例えば相手のウイングが裏に抜ける時に、福森がサボってそれについていかなければ、そこでフリーの選手が自陣ゴール付近で1人生まれて、誰かがそこをカバーするとさらにマークがずれる。宮澤が屈強なFWと競り合って負ける、とかも同じだし、興梠やシャビエルがゆったり前線で構えていて相手のDFがフリー!とかも同じ。
- ですので岡村が、相手の屈強なFWに体を当てて、勝てなくても簡単に負けない(競り合いを五分五分くらいにしてくれる)のは、約束事が極端に少ないこのチームでは極めて重要ですし、翌シーズンの編成を考えるにあたり、宮澤はDFとして数に入れられないのでは?と思わされるシーズンでした(ミンテを戻せないか?)。
最後は頭(というかサイズ)
- なんとも言えないシーズンのターニングポイントだったのは、28節のセレッソ戦。
- 遡ってその前の名古屋、湘南、神戸、鳥栖、セレッソ、磐田との6試合で、「勝ち点12をとる」とミシャが言っていて、結果セレッソまでの4試合で勝ち点4、特に神戸と鳥栖には全くいいところがなくホームで完敗でした。
「6試合で勝ち点12」MF深井がミシャからのノルマ達成に意欲
— 道新スポーツ (@doshinsports) July 28, 2022
https://t.co/4q1f1k1NNW @doshinsportsより#深井一希 #consadole
- 三上GMからのお気持ち表明があったのもセレッソ戦の直前。
【サポーターの皆さまへ】#consadole #コンサドーレhttps://t.co/R2kSwNmETe
— 北海道コンサドーレ札幌公式 (@consaofficial) August 28, 2022
- この後の対戦相手が磐田、マリノス、川崎、福岡、浦和、広島、清水となっていて、磐田以外は簡単に勝ち点を拾えそうにない相手が続くのですが、結果的にはセレッソ、磐田、マリノス、川崎から勝ち点10を奪って下位グループから抜け出すことに成功します。
- セレッソ戦も、内容はそれまでのゲームと同じく大変乏しいもの。チームを救ったのは85分のキム兄ことキムゴンヒ(ゴニ)のヘディングシュートとシャビエルのアシスト。
- 「あとは決めるだけ」の使命を背負って札幌にやってきた興梠ですが、ポストプレーでチームを救ってきたものの、結局コンサはクロスボールからのヘディングシュートしか得点パターンらしきものがないので、ゴニが終盤に交代で入るオプションが生まれたのはピッチ上の選手としては大きかったと思います。
- ゴニはこのゴールと最終節のゴール、川崎戦のアシストと、勝ち点に直結する印象的な活躍があり、間違いなく救世主となりましたが、コンディションなのか戦術理解なのかスタメン出場はゼロ。次のシーズンは期待がさらに高まりますが、FWは”保険”がいた方がいいかもしれません。
- こんな感じでしょうか。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。
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