2022年6月12日日曜日

2022年6月11日(土)JリーグYBCルヴァンカップ プレーオフステージ第2節 サンフレッチェ広島vs北海道コンサドーレ札幌 〜錆びつく看板〜

1.ゲームの戦略的論点とポイント

スターティングメンバー:

スターティングメンバー&試合結果
  • 1戦目からの変更は、広島が、東が左に回って中央に青山。左シャドーに森島、右WBに茶島。右DFに野上。柏、藤井、ベンカリファ、塩谷と、割と重用されてきた選手を外した格好になりました。
  • 戦術的にはディフェンスで妙にまったりしていたベンカリファを外したことと、タイプの違う藤井→茶島の変更が大きいように思えますが、監督コメントを読むと茶島、森島、青山といった選手はターンオーバーの観点があったことを説明しています
  • 札幌は、中央に深井を入れて西を前線に、金子を右WBに。ルーカスは負傷なのかよくわからないですね。なお20分くらいで西が右、金子がシャドーに入れ替わっていました。
  • 2日前の天皇杯で120分出場したシャビエルはベンチスタート。コンディション以外には、おそらく、シャビエルは金子やチャナティップみたいに低い位置から長い距離を一人で突進できない(=ゴール前で待っていて、味方がボールを届けてくれる必要がある)ので、かつコンサはビルドアップに難があるので、シャビエルは後半両チーム足が止まってスペースができてからジョーカーとして使う、という考え方でしょうか。

2.試合展開

広島の狙い:

  • サッカーは試合内容と最終スコアが一致しづらい競技だと思いますが、それでも3ー0でリードしている広島が敗退条件となるスコアで敗れることは殆ど、”事故”と言ってよいでしょう。広島としては、守備的とか攻撃的とか極端な二極論ではなく、まず事故を回避することから考えていたと思います。

  • 前線が青木、駒井、西の札幌は、広島からすると速さも強さもなく、狭小なスペースでプレーする能力もそこまでない。怖い相手ではない。
  • ですので広島は、最終ラインを高い位置に設定して、札幌を押し込むような戦い方もできたと思いますが、それをやらないのは、札幌をある程度、広島陣内に引きこんでから、ボールを奪って速い攻撃を仕掛けて”刺す”方が、岡村以外は最終ラインに速さも強さもない札幌相手には効果的だからです。
  • ターンオーバーの話がありましたが、ジュニオールサントスは一人で50mを持ち込んでシュートする能力があるので簡単に外せない。まぁ浅野もいますけど、それだけ彼の能力を買っているのでしょう。

  • 広島にとって、速攻に加えてもう一つポイントだったのが、柏と藤井という2人のドリブラーを外した両ワイドでのプレー。茶島と東だと、一対一で突破を仕掛けるタイプではないので、彼らにボールを渡して終わり、ではなくて、何らか工夫が必要になります。
  • 広島はWBがタッチライン際からスタート。FWはボールサイドに寄ることがなく、中央からファーサイド付近で待ちます。これで、人をマークする意識が強い(スペースの優先順位が低い)札幌のDFは、広島の選手のポジショニングによって中央とサイドに分断された格好になります。
  • ▼の図だと、福森がその中間にいるのですが、福森1人だと守れない(それは福森の能力を考慮した話でもあるし、福森ではなくとも難しいくらいの)くらいにスペースができて無力化されている。
ウインガーがいなくても何度もアウトサイドを突破してクロス供給に成功
  • そのスペースにWBまたはシャドーがワンツーやワンタッチプレーを使って札幌のマークを外すことで、広島はドリブル突破なく札幌陣内のコーナーフラッグ付近に侵入することに成功します。
  • よく、札幌だと荒野や駒井がワンタッチでプレーする時がありますが、札幌によく見られるのはパスコースが見えていない時の苦し紛れのプレー。本来ワンタッチプレーというのは苦し紛れに使うのではなくて、こうやってパスコースを確保した上で使うものです。
  • そしてクロスボールでのフィニッシュの際に顕著だったのは、ターゲットは主にジュニオールサントスで、札幌のマークは宮澤。ただ、札幌は宮澤一人では対処できないとの考えからか、岡村や福森が宮澤の背後をフォローする関係性になっていることが多く、これらの選手が本来みるべきシャドーがファーでフリーになりやすく、広島としてはクロスボールのオプションが一つ生まれる形でした。

錆びつく看板:

  • 広島ボールになったとき全体の傾向なのですが、札幌はボールに対してすぐにアプローチして即時奪回、という場面がほとんどなく、だいたい自陣に撤退からの対応になっていました。似た話で、広島のビルドアップに対して高い位置からpressingを仕掛ける場面も、この日はほとんど見られず、ずるずると自陣に下がることになります。
  • これは構造的には、札幌にはジュニオールサントスと勝負できるDF(それこそ、キム・ミンテのような、速さと強さのある選手)がいないので、高い位置どりをして広島のFWにアタックして入れ替わられてしまうと1発でピンチになる。ですのでDFが押し上げて高い位置をとる判断がしにくい。
前で守れないDFでカウンターに対処しつつ攻撃

  • これは現実的な判断ではあるのですが、自ずと陣形が間伸びした状態でプレーすることになるし、トランジションから攻撃に繋げることも難しくなります。
  • 特に、前線に駒井や荒野、シャビエルのような選手をトップで使って、一応FWであるトゥチッチやドウグラスオリヴェイラを起用しないなら、相手守備がセットしていない状態でフィニッシュに持ち込むイメージが恐らくあるはずで、そのためにはトランジションの整備は不可欠なはずですが、札幌の場合はCBの能力が不足していてそのための前提を満たせない状況だと言えます。
  • 低いDFラインによって、これまで打ち出してきた「リスクを冒して攻撃するサッカー」だったり、「強力なFWがいない分トランジションで優位に立つサッカー」みたいなコンセプトはもはや形骸化しています。

小次郎のセーブ(とシュートミス)で踏みとどまる:

  • 強度不足の札幌の守備をものともせず、広島が序盤から札幌ゴールに迫ります。
  • 札幌がノックアウトステージ進出の望みをラスト20分ほどまで維持できたのは、前半に3つの決定的な場面をセーブしたGK中野小次郎の活躍によるもの。開始早々にジュニオールサントスの叩きつけるヘディングシュートを左手1本でセーブして勢いに乗り、19分にもサントス、33分にはCKから荒木のシュートを顔面でセーブ。このほかサントスが小次郎との1対1など決定機を2本ほど外していて、これだけで前半で決着してもおかしくない展開でした。

ゼロトップというより…:

  • 20分くらいで札幌は西が右WB、金子が右シャドーにスイッチします。
  • よく「ゼロトップ」と言いますが、皆が恐らくペップバルサを思い浮かべるんでしょうけど、あれは簡単にいうとトップの選手が引くことで中央にスペースができて、そこにワイドや中盤から人が飛び出すことでスペースを使うもの。とにかくスペースがないと話になりません。
  • 札幌の場合は、駒井、青木、西で最初から高い位置にいてスペースを埋めているので、0というより普通にここだけ見ると3トップとするのが自然でしょう。スペースができないので使う以前の話です。

  • そして、駒井も西も、もともとは中盤や最終ライン(かつ、右寄りのエリア)で前を向いた状態でセーフティにボールを受けてから特徴が発揮される選手。前に「トップ」として張ると、マンマーク気味に守る広島のDFから、背後からプレッシャーを受けてボールをコントロールすることすら、ままなくなります。
  • 駒井がシャドーで本領発揮するシチュエーションは、ジェイやアンデルソンロペスのような、DFを背負える選手がトップにいて、彼らがDFを引きつける時に駒井はDFとMFの間でボールを受けて仕掛けられる状況になっている時。
  • ミシャはドドちゃんやトゥチッチが「DFに背中を向けてプレーして味方にスペースを作る」タスクを担うことをもはや諦めている感がありますが、かといって駒井がそれをできるか?というとかなり間違った方向に感じます。

  • 西は1対1で突破する(regate)タイプではない、ということでサイドで考えられなかったようですが、34分の青木のゴールは右の西によるアシストから。
  • 最後は速いクロスボールを選択したところは「センス」というか選手の即興的な部分ですが、その前段階、ボールを受けて前を向くところでは、西は右サイドに置く方がロジカルでしょう。中央だと360度の視野で相手を見ながらプレーしなくてはならないですが、サイドで180度の視野で良いし、背負うのはタッチラインであって相手DFではない。

  • 以降は、広島の5バックを攻略する場面はほとんど見られず(中央が駒井であることを考慮した西の右クロスが一番効果的だったでしょうか)。ほとんどがブロックの外でプレーしていたように思えます。いつもと同じなので詳しくは書きません。

雑感

  • 私のカウントだと、決定機を前半に川浪が1回(駒井のシュート)、小次郎が4回防いでおり、あとジュニオールサントスのシュートミスが3回くらい。2試合トータルで見ても札幌の敗退は順当でしょう。ただ、小次郎がきっかけを掴んでくれれば、次のステージ進出以上の価値があると思いますので、今後も見守っていきたいところですね。それではみなさん、また逢う日までごきげんよう。

0 件のコメント:

コメントを投稿