1.ゲームの戦略的論点とポイント
スターティングメンバー:
スターティングメンバー&試合結果 |
- 広島はベン カリファがスタメンで起用されるようになったリーグ戦12節からは、塩谷を最終ライン右にスライドさせ、中盤を野津田アンカーの3枚とするシステムにしています。森島&満田がインサイドハーフ、野津田がアンカーと、スキッベ新体制のスタンスを徐々に示しながらも悪くない戦績に感じます。
- この試合は、森島が直近のリーグ戦に続いて欠場で、中盤の右に東。そしてベンカリファを「右シャドーと2トップの中間」くらいの運用とした、ただ全体として見ると1-5-4-1で守ることが多い1-3-4-2-1っぽいシステムを採用してきました。なおGK川浪はカップ戦で優先起用されているわけでもなく、林と大迫で出場機会をシェアしているようです。
- 依然として興梠、小柏(復帰間近)、高嶺、田中駿汰、菅野、大谷らを欠く札幌は、トゥチッチと深井が詳細不明の欠場で中盤センターに西。
- 駒井のFW起用を割と気に入っている(おそらく「ダメなところを直接指摘しない外国人マネージャー」タイプだと思うので、編成上の不満も多分に含んでいるのでしょう)ようで、彼を前線に回すと頭数は揃っていたはずの中盤センターも心もとなくなります。
【コンサドーレ】ミシャ監督 “外国人ツートップは非常に個の能力が高く危険な2人”ルヴァン杯広島戦 #FNNプライムオンライン #北海道文化放送 https://t.co/ZUZt55zthB
— FNNプライムオンライン (@FNN_News) June 3, 2022
2.試合展開
広島の基本的なスタンス:
- 広島はリーグ戦4節、5節とFC東京&川崎相手に2失点で敗れていますが、6節以降は(なぜか)磐田&清水の静岡コンビニ2点取られた以外は全て1失点以下。GK大迫のビッグセーブもあったりはしますが、まず相手のストロングポイントを消し、ゲーム展開をコントロールする意識はチームに根付いているように感じます。
- 対・札幌の文脈で論じると、札幌の場合はstrongというほどでもないけど、丁寧にビルドアップをしてクリーンにボールを届けて前線で勝負、というよりは、適当に放り込んでセカンドボール争奪戦からのカオス局面が常態化してから、ピッチ上にスペースができまくっている展開でオープンに殴り合う…が再現性のある試合展開である。
- ですので広島としては、札幌に対してボールを持たせた状態からスタートして、ピッチ状のゾーン2(ピッチの奥行きを3分割した時の真ん中のエリア)でボールを奪ってからの速攻を狙いながら、互いにボールを奪い合う落ち着かない展開にはならないよう、注意を払いつつプレーするのがゲームプランだったように思えます。
- マイボールは、だいたいトップのジュニオールサントスに当ててセカンドボールを拾うところからスタートするスタイル。サントスが岡村のところに流れてくるなら、札幌としては即座に問題が生じることはない。宮澤だと微妙ですが、仮に競り負けても対処のしようはある。ですので、やはり焦点はトランジションでした。
インテリジェンスの欠如:
- 具体策としては、先述の通り広島は1-5-4-1の陣形でほぼ自陣に引いて、そこまでは札幌にボールを持たせてよい、とする。
- 効果的なビルドアップができない(ビルドアップの目的、というか最後どういう形で誰にボールをクリーンに渡すかが見えず、かつそのための戦術的リソースも弱い)札幌に対し、広島は最終ラインの「5」とその前の「4」の間、かつ3人のCBの前方をボールの奪いどころとしていました。
- 広島の2点目、ジュニオールサントスのカウンターが典型ですが、”なんとなく札幌が中央に縦パスを送る”と、FWとしての仕事ができない(それでもミシャいわく現状ではできる人らしいです)札幌の選手に容赦無くアタックして、脆弱なディフェンスを速攻で強襲する姿勢を見せていました。
🎦 ハイライト動画
— Jリーグ(日本プロサッカーリーグ) (@J_League) June 5, 2022
🏆 JリーグYBCルヴァンカップ プレーオフステージ 第1戦
🆚 札幌vs広島
🔢 0-3#ルヴァンカップ
試合レポートはこちら👇https://t.co/1K0wtpUKQ5 pic.twitter.com/q20yDRa2OM
- 配信で見ている限りは、広島は守備の達人のようなチームには見えず、色々とツッコミどころというか、ボールを持たせてもらえるチームとしては狙いどころは存分にありました。
- 一つ挙げると、ベンカリファはシャドー(または、中盤4枚の右)として守備タスクの遂行が難しく、自陣に下がってMFとしてスペースを埋める意識が高くない。その割にはフラフラと前に出て、ジュニオールサントスと並んで1列目のように守る(が、ボールを獲得できるような守備対応ができるわけでもない)
- ですので広島の5-4のブロックは彼のところで人を見る、スペースを埋めるといった要素が抜け落ちることが多い。札幌がこのシチュエーションの重要性を認識しているとチャンスになりやすいのですが、見た感じ、例えば福森がベンカリファの背後でボールを受けても簡単にバックパスするなど、何も生産しないプレー選択に終始しており、広島の綻びにつながるというインテリジェンスを感じることはできなかったと思います。
ベンカリファの対応を突きたい札幌だが |
やさしさが邪魔をする:
- 「チャンスは作れているので、あとは選手が決めるだけ」。何回これを聞かされたでしょうか。
- この念仏のようなワードは、私の解釈では、コンサの場合は編成上、(じゃあ誰が決めるんだ、に対する答えとして)自然と、外国人FWが槍玉に上がることになるのですが、要は、「日本語のニュース記事も読めない外国人選手が悪い、ということにしておけば、誰も疑問を持たないし、誰も傷つかない」から、こういう言説が一般的なものとしてムラ社会に定着するのだろうな、と思っています。
- 反面、本当は、「下部組織出身のMFたちに個人戦術が足りなくてチャンスクリエイトできてない」「監督スタッフの提示、指導するグループ戦術が効果的ではない」のだ、と問題提起すると、多数の人が傷つくと思っているのでしょう。チーム内外を取り巻くナイーブな関係者たちを保護して既得権を守るためには、factだとしても言論は統制されないといけません。一種のやさしさかもしれませんが、正当な競争や発展を阻害する、そんな危険性もあるのではないでしょうか。
- ただ、この試合に関しては、例えば7分くらい?に札幌が高い位置でルーズボールを拾って、駒井のスルーパスに抜け出したルーカスがGKと1対1になるシチュエーションが生じます。ここはチップキックによるシュートを広島のGK川浪が右手で触って阻止。
- 個人的には、「決めるだけ」って簡単に言っちゃう連中の顔を拝みたい(それこそリスペクトはあるんでしょうかね、そこに)ところではありますが、確かにこのチャンスは得点の期待値(xG的な意味でも感覚的な意味でも)は高めで、決めると展開は変わったかもしれません。
- 一方、13分くらい?に自陣で菅への横パスが流れてカウンター、という危機管理意識のカケラも感じない場面から、広島の藤井がゴールに迫ります。
- 藤井はカバーに入った福森の突っ立っているだけの対応をものともせず(毎度のことながら寄せが甘すぎて、いくらでも足を振り抜ける)右サイド角度のないところからグラウンダーのシュート。これは札幌のGK小次郎が右手で触ってCKに逃れます。
- 外国人FWとGKは、素人でもなんとなくタスクがわかる、ということで小次郎もチーム不振の槍玉に挙げられやすいですが、ここは確実に1点を防いで、かつゲームプラン的にここで失点するか否かは、広島のようなチーム相手だと非常に重要になります。
- なお、広島が小次郎に対して低い弾道のシュートを狙っていたのか?と思ったのですが、90分トータルで見るとそうでもないかもしれません。
重要そうで、そうでもない:
- 24分にCKから東の見事なミドルシュートで広島が先制します。
【ファーストゴール】#サンフレッチェ広島#東俊希 のビューティフルゴール✨
— スカパー!サッカー (@sptv_football) June 4, 2022
東はルヴァンカップ2️⃣得点目❗️#ルヴァンカップ🏆
プレーオフステージ 第1戦
🆚札幌×広島
📺フジテレビNEXT/スカチャン6
この試合のご視聴はこちらから👇https://t.co/3r5ecHaQGq@consaofficial@sanfrecce_SFC pic.twitter.com/aEfFomLGh2
- 広島の誰かが札幌の対応(GK、DF、システムその他)について言及するかと思いましたが、スキッベ監督はこのように述べています。
俊希の今日のゴールに関しては、我々のセットプレーの時に札幌は一人前線に残っているが、『勇敢に後ろは1対1で(守る)』という話をしていた。そのため、俊希がこぼれ球から素晴らしいゴールを決めてくれた。
— アジアンベコム (@british_yakan) June 5, 2022
- 要は、セオリー的には東は後ろに置いてカウンターに備えさせるのがいいのですが、セカンドボールを意識してペナルティエリアのすぐ外で待たせていた、ということ。
- なお札幌の「一人前線に残る」は青木なのですが、青木が前にいても一人でカウンターするのは難しいでしょうから、広島が同数で守るのはこの点でも割と理にかなっている。
- 確実に言えるのは、札幌が経験の浅いGKだけを論点にしている間に他所のチームは戦術的にその上を行っています。
- 解説の吉原宏太氏は「止めてほしいですね〜」と語っていましたが、リプレイを見た感じ宮澤がブラインドになっている。吉原氏よりも実績のある人の言葉を引用すると、ジャンフランコ・ゾラ曰く「FKは壁がGKの視界を遮るからPKよりも簡単」。
- なお33分、札幌の福森のCKをペナルティエリアすぐ外で金子がシュートを狙いますが、広島は全力で2人寄せていますね。そのほか、35分のCKで、広島はペナルティアーク付近に柏を置いて菅のミドルシュートを哨戒していることがわかる。ロティーナの「クロスボールに対するDFのL字配置」もそうですが、だいたいボールが落ちてくるエリアは決まっているので、準備のしようはいくらでもあるんですよね。
- 札幌は先制点以降は青木がおそらく自分の判断で、CKの際に下がるようになっています。まぁ、後の祭りなのですが。
雑感
- 感想はなんというか、「普通」ですね。特段悪くもない。2020年夏以降のコンサはずっとこんな感じの試合なので、私には騒いだり不安になる方の心情がわかりません。
- 3失点については、コンサの課題はディフェンス以前のボールの失い方(ボールを持ってどうプレーしたらいいかわからないまま相手に誘い込まれて失ってカウンターになる)でしょうか。
- よく「戦う」という表現があって、それは球際で体をぶつけるとかスライディングするとかそういうイメージでみなさん話していると思いますが、サッカーはボールを使った知的な競技なので、相手と「戦う」シチュエーションには基本的にボールがあります。
- 私の考えでは、ボールを持って相手ゴール方向にプレーして相手に脅威を与えることが「戦う」だし、逆に相手が自陣ゴールに迫ってくるなら、それを個人なりグループなりでストップさせるだけでなくボールを奪いにアタックすることが「戦う」かな、と思います。
- それでいうと、ボールを持った時にどうやってシュートまで持ち込むかわからないとか、この試合の3点目みたいに枚数が揃っててもボールにアタックに行けないでズルズル下がるとかは、典型的な戦えていないチームの振る舞いだと言えます。
- それではみなさん、また逢う日までごきげんよう。
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