2022年5月8日日曜日

2022年5月7日(土)明治安田生命J1リーグ第12節 北海道コンサドーレ札幌vs京都サンガF.C. 〜クリエーターを排除したファイター〜

1.ゲームの戦略的論点とポイント

スターティングメンバー:

スターティングメンバー&試合結果
  • リリースがなく憶測ですが、京都は左SB荻原、アンカー川崎、前線の両ワイドを務める武富といった選手が負傷か何かで起用できない状態のようです。
  • 荻原不在により、CBが不安定なこともあって中央に回っていた麻田が左。数試合スタメンを外れていたメンデスとアピアタウィアのユニットが中央。またCBだった井上がアンカーに入っていますが、これは前節この役割だった福岡の不在によるようです。
  • 札幌は荒野と宮澤がメンバー外。宮澤は試合後ピッチに姿を現したようで、深刻ではないでしょう。またトレーニングでは岡村が主力組に入っていたのは、少なくとも連休の前半では見ましたし、現場レベルではそこまで混乱はないかもしれません。


京都のプレースタイルの考察:

京都・チョウ貴裁監督の独特すぎるサッカー用語「リードアクセル」「ホールディング7」…命名の根底にある信念

2022年3月24日 17時0分スポーツ報知

  • 面白い記事があったので貼っておきます。どうやら、曹貴裁監督は役割をこんな感じで定義しているようで

  1. 「リードアクセル」:4バックのSB。上下動によってチームのアクセルとブレーキになる
  2. 「ホールディング7」:アンカー。自身とCB以外の7選手をコントロールする
  3. 「BB」:インサイドハーフ。アップダウンによって両方ペナルティエリアでで攻守に絡む
  4. 「コマンド」:センターバック。主に最終ラインの高さを指示する
  5. 「シャトルカバー」:GK。最終ライン裏のスペースをカバーする
  6. 「スイッチ」:サイドのFW。攻撃の起点だけでなく、守備の先陣も切るスイッチ役
  7. 「クリエーター」:センターFW。攻撃のアイデアを出す役割

  • まぁTwitterを見る限り京都サポーターも普通に「アンカー」って言ってましたけど…サッカー観を垣間見ることはできる情報だと思います。


  • ただこの用語は個人的には結構わかりやすいなというか、京都のやっているサッカーはこうした用語と結びつきやすいプレーやチーム設計が随所に見られます。
  • まず全体のコンセプトというか原則として、縦方向に陣形を圧縮して、相手のプレーするスペースを奪いつつ味方はサポートを手厚くできるようにしている。これは各所で局所的な数的優位を作って、例えばセカンドボールの争奪戦に強くするなどの利点があります。
  • そのために「コマンド」が常に強気のライン設定をして、というかほとんどautomaticに最終ラインを上げてくる。パターンが見えるので裏を取りやすそうに見えますが、そこは「シャトルカバー」に任せる。
  • ラインを高めにして押し上げることは、縦方向のプレーエリアが広めで負荷が大きい「リードアクセル」、「BB」の身体的、認知的な負荷を軽減します。

  • この試合では白井が対面の菅を圧倒するくらいの勢いでスプリントを繰り返していましたが、背後をリスクマネジメントする約束事がある方が思い切って前に出やすいんですよね。
  • また10節の福岡戦だと、福岡の選手が「京都のSB(白井)はサイズがないのでクロスボールではファーが狙い目だった」と、試合後のインタビューで露骨に指摘していましたが、これも織り込み済みで、ラインを上げて守っていればクロスボールからのヘディングシュートもゴールから離れた位置で撃たせられるので、本来そこをしっかりできていればシュートの威力は半減させられる。白井の身長が問題なんじゃなくてラインコントロールの方が問題だ、ということになります。その分、白井は抜群のスプリント能力と一定の突破力があるので、チームに必要なのはそっち、と考えた設計になっている。

  • ウタカのポジションを「クリエーター」と呼ぶのも非常に面白いですね。京都は「リードアクセル」、「BB」、「スイッチ」のタスクがそれぞれ、かなり運動量を要求されるので労働者タイプの選手が集まる。それらを、ボールというリソースを持って活かす特別な選手を一人だけ置くというバランスになっている。
  • 特に昨シーズンから京都の得意な攻撃が、「リードアクセル」と「スイッチ」で大外を突いて、ハーフスペースに「BB」または「スイッチ」が入ってくるパターン。

  • 一般に「Box to Box」というとランパードなり、ミリンコビッチ=サビッチなり、ターゲットの1枚になることが多いですが、京都はウタカが真ん中固定で6人がチャンスメーカーとして働くので、確かに真ん中で待っているウタカはストライカーだけでなく「クリエーター」っぽさを感じます。

  • ただ、「クリエーター」とストライカーのタスクができる選手がウタカ以外に確保が難しいのが課題でしょうか。この試合は山﨑が途中から出てきましたが、彼はあくまでターゲット。
  • となるとイスマイラもいるんですが、タイプ的には大前が、クリエーターのバックアップのイメージだったのかもしれません。いずれにせよウタカに何かアクシデントがあると、単にストライカーを失うこと以上に影響は大きいと予想します。


前哨戦の影響:

  • 今シーズンここまでカップ戦で既に2試合対戦しています。サンガスタジアムでの1試合目は、京都が3得点を奪って逆転勝ち。札幌ドームでは札幌が4得点で雪辱を果たしています。
  • 1試合目は京都が4バックでスタート。しかし京都の4バックは前半から札幌のサイドチェンジに振られまくって、「縦方向にはラインプッシュで圧縮すればいいけど、横方向には圧縮できない」問題に直面していました。
  • そのため後半からは「スイッチ」の長井を最終ラインに下げる、5バックで守る形を取り入れましたが、そうすると「スイッチ」が本来の役割を果たせなくなる。
  • 札幌ドームでの2試合目も似た形でしたが、この時は札幌の右WB、カップ戦には豪華すぎるタレントであるルーカスフェルナンデスが対面の「スイッチ」荒木を蹂躙して、札幌の大量得点につながりました。


  • これらの前哨戦を踏まえると、京都としては札幌の速い攻撃に対して4バック⇄5バックで形を変えるやり方を採用しても、中途半端になってしまうと判断して、今回は普段通りのスタイルでぶつかることを選択したのかなと思います。


2.試合展開

creatorの戦術的欠陥:

  • 戦術的な話をしますと、京都はボール保持の際にSalida de balón(ビルドアップの出口)をそこまで明確に考えておらず、基本的には「前に蹴ってセカンドボールを回収」の原則でプレーしていました。
  • 札幌がマンマークでどこまでもついてくるとしても、例えば「ホールディング7」の井上が下がるとか、左の「リードアクセル」麻田が下がるとかで枚数と配置を変えてフリーになろうとすることはおかしくはないですが、「リードアクセル」はあくまで高い位置をとってアップダウンが必要だし、「ホールディング7」は中盤の真ん中に置いてボール回収させたいと言った考え方なのでしょう。
  • ただ、京都のターゲットは「クリエーター」のウタカで、長いボールのターゲットにはあまり適さない。
  • ウタカが岡村とのデュエルを嫌って中央から離れたり下がった位置どりをすると、京都は前線からクリエーターとストライカーを同時に失うことになります。岡村は正面からのボールには特に強いので、ウタカはかなり嫌そうにしていたと思います。序盤背後を取られかけたりはしましたが、この時も右足は最低限切っていて、このマッチアップで優位に立っていたのは終始札幌側でした。

automatismの背後:

  • ハイラインはpressingとセットであるべき(ラインだけ高くても背後を取られて終わりだから)なので、京都は札幌がボールを持つと「スイッチ」の選手がアプローチしてきます。ウタカは真ん中から動かさず、pressingにはあまり参加せず、ボール回収後のクリエイティブな仕事を担っています。
  • 京都のやり方だと、仕組み上、どうしても札幌の中央部分が空きやすく、ここにボールが入ると右利きの深井や青木(あまり前にいない)から右のルーカスフェルナンデスに展開される。京都の、前で運用したい「アクセル」が自陣でルーカスに釘付けになって、アクセルが入りにくい状態になります。
中央のケアが課題
  • 加えて進境著しい高嶺が、京都のpressingを独力で回避してしまうと、そうなると京都はボールの奪いどころを失って、自陣に撤退し、9人ブロックの1-4-5-1に近い陣形で対処することが多くなる。
  • そこから京都は陣地回復の意図もあって、ある種、機械的にラインを押し上げて札幌陣内に押し戻そうとするのですが、札幌はこれをおそらく理解していて、ウイングバックが京都の「リードアクセル」の背後に飛び出すことで、再び京都を押し返していて、白井や麻田に背走を強いて、京都に得意なパターンを発動させていなかったと思います。

  • 札幌が相変わらずルーカスフェルナンデスのサイドアタック以外に攻め手がない(そしてターゲットもない)のでスコアは動きませんでしたが、building-upとしての再現性はともかく、力関係的にはウタカが沈黙する京都とルーカスが躍動する札幌で、差が現れていた前半でした。


クリエーターなき迷走:

  • 互いにゴール前では決め手がない中、52分にCKから高嶺。

  • この京都の守り方(ニアにストーン1人+中央ゾーン2人)だと、キッカーの選択は限られてくるのですが、まず福森の狙いとボールスピードが非常に良かったと思います。ゴールからやや遠い位置からのシュートだと、速いボールを強くヒットさせないと威力のあるシュートにならないので、このシチュエーションだと一番速いボールを蹴れる福森の良さが生きた格好でした。


  • 直後53分に京都は宮吉→山田。動き出すスペースが得られにくい中だと宮吉よりも、左足シュートのあるフィニッシャーを入れて様子を見る考え方は理解できます。
  • 62分に試合を左右する交代。井上→荒木とメンデス→山﨑。山﨑が中央「クリエーター」でウタカが左の「スイッチ」にシフトしますが、両者の選手特性を考えると、それぞれ「フォワードとウイング」ならまだしもクリエーターとかスイッチには不適な交代が選択されます。
  • 意図としてはビルドアップに苦戦するのでターゲットの山﨑が欲しい。ウタカはフィニッシャーでもクリエーターでも残したいってところなんでしょうけど、前節名古屋戦では山﨑が右でイマイチだったので実験的に形を変えたのでしょうか。

  • ただ京都は山﨑の使い方をわかっていない感じがして、結局左のウタカがボールを運んだり、スペースに流れて収めたりしていて、やはり中央にクリエーターもフィニッシャーもいなくなってしまう。札幌としては楽に守れる構図で、特に事故なく終わりました。


3.雑感

  • 長期政権の割には、チームとしてビルドアップもセットディフェンスもプレッシングもいまいち整理されない数年を過ごしている中で、高嶺や田中駿汰のように個人で頑張れる選手が台頭してきて、今年に入って序列が上がっている岡村がそれに続くとしたらまぁ「結果オーライ」なのかなと思います(かつて語っていた話からすると、三上GMの理想はそういう育成なのかもしれませんが)。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。

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