0.スターティングメンバー
スターティングメンバー&試合結果 |
- このカードで毎回、ルーカスフェルナンデスと熾烈なマッチアップを繰り広げる吉田は前節の負傷(骨折)により欠場。しかしフィッカデンティにはオジェソクがいます。一方、太田は暫くスタメンから遠ざかっており、このチョイスはいかにも、という感じですが、ベンチに入っているということは”ある部分”では頼りにされているとも言えるでしょう。その”ある部分”が今の名古屋のようなチームには重要かもしれません。
- 金崎は殆ど休養せずにプレーしていますが、FWには山﨑がチョイスされています。
- 札幌は前節と全く同じメンバー。理想?というか机上論と現実の中間で、このメンバーが現状最も妥当と考えているのでしょうか(答え合わせは「雑感」に)。
1.ゲームプランの推察
- このゲームに限らず、名古屋のストロングポイントは右の前田、左のマテウス。この2人は突破で終わり、ではなく、その先の決定的な場面を演出することができる能力があります。彼ら2人がどこから、どのようなシチュエーションからスタートするかが名古屋のポイントで、引いて4-4ブロックに組み込めば、前方にスペースはありますがゴールからは遠くなる。アップダウンの負荷を考慮する必要があります。かといって、前で運用したいなら背後のサポートは不可欠です。
- これに加えてフィッカデンティ監督の試合後のコメントですが、
まずプレスにいく時に、相手のプレーを消すための距離感、そしてタイミング。どのタイミングでボールを奪いにいく、あるいは受け手にプレスをかけるかという部分での理解が素晴らしかったと思います。そういう部分で、どういう狙いを相手が持ってプレーしても、相手ボールになった瞬間にほとんどの選択肢を塞いでいました。そして札幌を相手に、奪ったことがイコール、攻撃での大きなチャンスとなる、フルコートで1対1となるサッカーとなります。その理解が素晴らしかったと思います。
- 札幌相手に「フルコートで1対1となるサッカーとなります」と語っています。
- ここで、札幌は相手にボールを持たせたときに1on1主体での対応を繰り広げますが、そうではなく、フィッカデンティ監督が言っているのは、札幌がボールを持っている状態から名古屋がボール回収に成功して、攻守が切り替わった時に「フルコートで1on1」なので大きなチャンスになると言っている。札幌が普段能動的に仕掛ける1on1については、ミシャはポジティブに語っています(ネガティブな要素しかなかったら、そもそもそんなことはしないですが)。
- 一方、フィッカデンティ監督が指摘する点は、札幌の明らかなウィークポイントで、名古屋はここを狙っていました。結果的には晩夏の札幌での対戦と異なり、名古屋は非常にアグレッシブなスタイルで勝ち点3を取りにきたゲームだったと言えるでしょう。
2.ゲームの基本的な構造
2.1 見切られていたパターン
- 名古屋の具体的な札幌への対応を見ていきます。
- 今や世界は「大・ポジショナルプレー時代」といったところですが、札幌はどちらかというと、ボール保持の際に誰がどこに立ってどんな役割を担うかが決まっている。一部流動的な部分は残されているにせよ、言い換えればパターンが決まっているので、名古屋に限った話ではないですが対策は立てやすいと思います。
- 具体的には、初期配置はやはり▼の形で始まる。そして中央を切れば、左右に開いているサイドのDFからの縦パスで、相手の1列目突破を図ることが多く、中央で枚数調節をしてギャップを作ってのビルドアップを試みたりはそう活発ではない。
札幌の形は見え見えなので名古屋は明確に対策をとる |
- ですので名古屋としては、中央を切ることも重要ですが、それ以上に札幌は必ずサイドを経由するので、ここにボールが出されることを予め読んでおいて守備を用意しておけば、それはフィッカデンティ監督が言うところの「奪った時が大きなチャンス」の序章となります。
- この役割は前田とマテウスが担います。福森と田中にボールが出されそうになると、必ずこの2人はトラップの瞬間に距離を詰めてミスを誘う、タイミングが合えばボールを奪えるようにアプローチする。距離を詰めると入れ替わられるリスクもありますが、DFの選手はそうそう簡単にドリブルで仕掛けたりはできないので、基本は距離を詰めて正面を切れば味方を探してパスで対処することになります。
- 福森は実はビルドアップではそこまで重要な役割を担っておらず、縦パスで敵陣に運ぶこともあるのですが、札幌は福森がこのプレーをしなくても敵陣に運ぶこと自体はできる。なので、左足を活かすべくフリーマン的な振る舞いが徐々に拡大しているのがここ2シーズンなのですが、この試合も左に拘らず中央に流れてきます。この時は名古屋は前田がそのままついていくことが多く、このあたりの対応はマンマーク基調でした。
- 福森がポジションを変えても、札幌は前と後ろの枚数がほぼ決まっている(前後を横断するのは駒井くらいしかいない)ので、福森が空けたポジションを前田が捨てても、そのポジションを使う別の選手が登場するケースは非常に限定的だとすると、このマンマーク基調の対応は理にかなっています。
人を監視しながら宮澤→福森に誘導 |
- 中央を切った際に、最終ラインは中央密集でゾーナルにスペースを守っています。こうなると、幅をとっている札幌のWBはややオープンになりますが、名古屋はSHがパスコースを消していれば、菅やルーカスへの配球は全て浮き球になる。浮き球は到達するまでに、グラウンダーのボールよりも時間がかかるので、パスが出てもDFのスライドで間に合ってしまう。このあたりの設計はゾーナルディフェンス的で、それぞれの特徴がミックスされていると感じます。
- 「スライドが間に合う」だけではボールは奪えないのですが、スライドしていれば有効な選択肢が、自分がドリブルで対面の選手をぶち抜かない限りはないのでバックパスでやり直さざるを得ない。やり直すとDFやGKがボールに関与する機会が増えるのですが、札幌のメンバー的にはやり直しが増えると負荷が増えます(なので、全般にバックパスの活用は限定的なのだと思います)。
2.2 相反する2つのセオリー
- 田中駿汰と福森にボールが渡った瞬間が名古屋の最大の狙いどころです。前田とマテウスは先述の通りアプローチして距離を詰める。パスを誘導しますが、誘導先にも全てプレッシャーをかけてボール回収を狙います。
- 左で福森が持ったシチュエーション▼を例示すると、菅にはSB成瀬、シャドーの駒井には米本もしくはCB。中央方向(バックパス)は、FW山﨑とトップ下の阿部で消します。ここでも札幌はポジショニングが決まっているので、動きがないなら名古屋としては非常に対処しやすかったはずです。
受け手は全員捕まえる |
- そして奪った時にどうなっているかを見てみましょう。直前まで札幌はボールを保持して攻撃しようとしていましたが、菅とルーカス、福森と田中の左右のポジション、そして宮澤が下がってキムミンテと並ぶ縦のポジション移動、これらは全てピッチを広く使ってボールを動かすための戦術的なアクションに分類されます。
- 何度かこのブログでも書いていますが、攻撃は広く、守備は狭く、というのがセオリーです。その意味では札幌、ミシャは(大まかな方向性としては)セオリーに忠実なスタイルではあるのですが、問題はボールを失って攻守が切り替わると、今度は狭くプレーしたいのだけど、トランジションの瞬間は広く選手が配置された状態で対処しないといけなくなります。
- これがフィッカデンティ監督が指摘する札幌のウィークポイントで、広く攻める意識が強く、このセオリーには極めて忠実にプレーするので、ボールを奪った瞬間は確実に、広く守らざるを得ない状態の札幌に対してオープンに攻撃を仕掛けられる。
拡がってビルドアップを試みているのでそのまま「広く守る」必要がある |
- そして名古屋はマテウスと前田、この2人なら1on1で勝てる。札幌に広く守らせ、2人に優位なシチュエーションで勝負する形を作るまでが監督の仕事で、後は選手の才能、イタリア人的にはファンタジーアが炸裂するのを見守る(ダメそうなら選手を入れ替える)ことになります。
2.3 狭くて速い
- この試合、名古屋はボール保持/非保持ともに一貫したコンセプトが感じられます。それは、常に「狭く攻撃して狭く守る」という札幌と対照的なものでした。
- ボール保持は最終的に右サイドから開始されることが多かったと思います。これは、左SBのオジェソクが専守防衛型の選手であることも影響しているでしょう。札幌のマッチアップについては特段語ることがないので、割愛します。
説明を追加 |
- 上記のままだと、中央でトップ下の阿部-アンカー宮澤のマッチアップが発生しているのですが、
説明を追加 |
- 阿部は頻繁に中央から移動します。特に右サイド寄りに、下がってくる動きが多く、これは宮澤を動かすとともに、低い位置でボールに関与する作用があります。札幌はアンカー1枚で守っており、駒井と荒野はそれぞれマーク対象を持っている(他の選手も皆そうですが)ので、これだけで中央を空けることができます。
- そして中央が空くとそこに前田とマテウスがドリブルで突っ込みます。この2人がどこに向かってプレーするかは非常に重要です。サイドで、コーナーフラッグに向かってドリブルするなら、そこには札幌のDFは誰もいないのですが、「拡がった攻撃」になる。逆に、この試合のように中央でゴールに向かってドリブルすると、「狭い攻撃」(ピッチの横幅をあまり使わない)になります。繰り返しになりますが、一般には攻撃の際にはスペースが必要なので広く攻めることが推奨されます。しかしながら、狭く中央に向かって攻撃した方が最短距離でゴールに迫ることができ、そしてそのデメリットは、阿部のスペースを作る動きによって解消されています。狭い攻撃ではあるが、マテウスと前田のクオリティを発揮するだけの、十分なスペースは確保されている状態で、彼らが直線的にゴールに向かってくる状況は札幌には間違いなく脅威になります。
- そして狭く攻めることのもう一つの意義は、ボールを失う場所が常に中央になります。このことがわかっていると、名古屋の中盤~後方の選手はボールを失う場所とシチュエーションが明確になっているので、ネガティブトランジションの際に対応しやすく、それこそ札幌のようにどこで失うかもわからず、失った後は広いスペースで常に1on1の状態になっているということがなくなります。名古屋はそこまで即時奪回に命を懸けている様子はなかったですが、少なくとも失った後も中央を封鎖できていたので、札幌は1on1でせっかく勝利しても、狙いとするダイレクトな攻撃はあまり仕掛けることができませんでした。
3.簡単に試合展開
- 札幌ボールでのキックオフ直後、いきなり山崎が宮澤へのアプローチからボールを奪ってシュート。宮澤と福森という、あまりプレースピードがない(しかも可変システム故に機能停止時間が長い)札幌の左のラインに対して、前田と共に山﨑のアグレッシブなアプローチが序盤から襲い掛かります。
- 10分、この時は中央やや左寄りで神出鬼没な阿部。広大なスペースで反転し、中央に入ってきた前田にラストパス。福森を容易く振り切って右足シュートはセーブされますが、寝たきりの福森のクリアミスを拾って再びシュート。山﨑が押し込んで名古屋が先制します。
- 同数で対応されると、実は最終ラインにボールを運べる選手が乏しい札幌。受け手が駒井だとして、配球役は左側の、福森か宮澤がまず考えられますが、この2人がポジションを移動している間に名古屋のディフェンス…山崎と前田は捕まえてくるので、足元にボールを各駅停車させているだけではまともに前を向いてプレーできない状況です。
- 解決策になりそうだったのは、唯一フリーになれるGKの中野。21分には左サイドから中央寄りへとポジションを移動するフリーマン福森へ見事な浮き球パス。札幌は1on1で名古屋に対応されるとドリブルで運んだり誰もできないのですが、中野のパスだけは名古屋のディフェンスを無力化してビルドアップに成功する可能性を見せていました。
- しかし終始コレクティブな名古屋が押します。44分、これも中央のスペースを使ったマテウスが田中に倒されてFK。これをマテウスが自ら、中野が1歩も反応できないドライブ気味のシュートでスコアは2-0。
- 後半から札幌は宮澤→ドウグラスオリヴェイラ、福森→高嶺。前半の出来を見れば妥当でしょうか。
- 後半は名古屋がプレスのラインを下げたことで、札幌は高嶺の存在もあり敵陣にボールが入るようになります。焦点は、札幌での対戦と同じく、名古屋のDFに対して効果的な形でシュートを撃てるか?に変わりますが、やはりチャナティップ不在の札幌は敵陣ラスト30mで相手DFを動かすことができない。選手を入れ替えてのクロス攻撃に終始します。
- 78分には名古屋の、ピッチの縦幅を見事に使った攻撃で3-0。最後は稲垣が荒野を振り切るランから見事なシュートを突き刺しましたが、縦に動かされると、ずっとマンマークを維持するのはきつくなりますね、とだけ言っておきます。
雑感
- 答え合わせとしては、「いい流れを保つために、同じ11人で臨んだ」。これはかなり端折った訳だと思うんですけど、流れやスピリチュアルな考えで勝てるゲームではありませんでした。
- 仙台や湘南のように、攻守の切り替えにそこまで質が高くない(湘南は走りや球際の強さを押し出すチームだと思うんですけど、対人なども含めたトータルな部分ではそうでもない)チーム相手なら、札幌のボール保持と非保持でガラッと配置を変えるやり方はアリかと思いますが、この日の名古屋のように、切り替えの際に一息つかせてくれない、シームレスにプレーできるチームが相手になると、札幌のやり方だと、広く守れる選手が必要になります。
- スペースを限定した状態で狭く守るということは、攻撃側にとっては選択肢が少ない状態になります。広いと無数に選択肢がある状態で、それを消せるのは単純に対人能力が高い選手。例示すると宮澤は前者、狭く守ることが得意な選手で、キムミンテは後者としての評価が高い(私は外せない選手だと思うのですが、トータルで見てミシャの中では乱高下?しているのでしょうか)じゃあ福森は…?広く”攻める”のが得意な選手でしょうか。そんなマッチアップが、マテウスと前田に対して設定されるとフィッカデンティ監督としては笑いが止まらなかったと思います。
- これまで、この「ミンテ以外に広く守れるDFがいない」問題がそこまでクローズアップされなかったのは、ゴールキーパーが凄いから、相手にマテウスや前田のような決定的な選手がいないから、そしてジェイがいれば、ビルドアップがなんとかなってしまうので、攻守の切り替えをそこまで設計しておく必要がない、といったところでしょうか。
いつも勉強になります。ありがとうございます。
返信削除怪我明けからの福ちゃんはなんだか難しそうにサッカーしているなと思っていましたが、福ちゃんは周りの選手のバックアップを得て能力を発揮していたのだなと理解しました。そうなると疑問なのですが、ここ2年の福ちゃんの頭の中はどんな感じだったと想像しますか?また最近もプレイを見て福ちゃんはどんなことを考えているのかなとも。
スーパーな左脚を持っている事は本人も自覚していたり、考えていたとは思いますが、ここ最近の周りの振る舞い見るに普通にDFやらされて(それが普通?)いたりして、相手に置き去りにされるシーンが目に着きます。もちろんトレーニングはしていたでしょうし、物凄く葛藤しているのかなとは思うのですが、ここから抜け出す一歩が何かないかなと、僕なんかが考えてもとは思いますが、なんとか壁を乗り越えて欲しいなと思っています。
遅くなりました。見ていただいてありがとうございます。
削除あまり選手のパーソナリティに踏み込む話題は流石にわからない面もあるのですが、まず福森選手の能力はバルバリッチ氏も四方田ヘッドコーチも非常に高く買っていたと思います。元々は「プレースキックやフィードの巧いDF」の扱いだったのが、徐々に攻撃面では求められる役割、期待が大きくなり、守備面ではそのウィークポイントをカバーするやり方が確立されてチームの成績に繋がったというところでしょうか。
ミシャ体制下でも、劇的にがらっと求められる役割やその水準が変わったのはここ数ヶ月だと思いますが、本人が何を考えているかはわからないですけど、チームとしてはこれまでの絶対的な位置づけとは、やや見方を変えて、他の選手と横一線で見ているように思えます(ポジション争いもそうですし、例えば副キャプテンとしても、荒野選手の存在感が高まっているように感じます)。個人的には、福森選手のポジションのアップグレードは不可欠なので、悩むというか、それまで無風状態だった状況から変わり、現在は競争関係があることを本人が自覚するのはチームにとってはいいことですし、そうした健全な競争関係を作ることをチームとしても狙っていると予想します。