2019年4月25日木曜日

2019年4月24日(水)YBCルヴァンカップ グループステージ第4節 V・ファーレン長崎vs北海道コンサドーレ札幌 ~横幅の暴力~

0.スターティングメンバ―

スターティングメンバー

 札幌(1-3-4-2-1):GK菅野孝憲、DF進藤亮祐、キムミンテ、福森晃斗、MF白井康介、中野嘉大、宮澤裕樹、菅大輝、檀崎竜孔、岩崎悠人、FW早坂良太。サブメンバーはGK阿波加俊太、DF濱大耀、中村桐耶、MF本間洋平、FW菅大輝、藤村怜。思った以上にベストメンバーに近い布陣となった。メンバーを更に落とそうと思えばできるが、プレーオフステージへの進出を意識すると、ここでグループ首位タイで並ぶ長崎を叩いたほうが得策だと判断したこともあるだろう。
 長崎(1-4-4-2):GK富澤雅也、DF米田隼也、鹿山拓真、高杉亮太、翁長聖、MF名倉巧、黒木聖仁、島田譲、大本祐槻、FWイ ジョンホ、畑潤基。サブメンバーはGK鈴木彩貴、DFチェ キュベック、亀川諒史、イ サンミン、MF吉岡雅和、新里涼、FW長谷川悠。J2では10試合を消化して4勝2分4敗で10位。ここ2試合は岐阜、栃木に連勝とようやく調子を上げてきた。GK徳重とFWの玉田以外はまだベストメンバーを探っている状況で、この試合は直近のリーグ戦スタメンから11人全てを入れ替えてきたが、開幕戦にスタメン出場した黒木、島田、翁長といったメンバーも名を連ねている。


1.互いの基本戦略と構造

1.1 基本戦略


・札幌
 押し込めそうなら、ボールを保持して押し込む。無理そうなら、シンプルに蹴って肉弾戦でやり過ごすが、基本的にはスタートから勝負をかけるためのメンバーだろう。

・長崎
 まともに撃ち合うと分が悪いメンバーを送り込んでいる。引いてブロックを固め、トランジションを狙うなど、リアクションを意識した戦いで勝ち点を拾う想定だっただろう。

1.2 基本構造(札幌ボール保持時)


 札幌は序盤、宮澤と中野を中盤に残した3-2-5の陣形から前進を試みる様子が見られた。これは中盤に2人を置くことでセカンドボール争奪戦に備える陣形であり、このことからは、攻守の切り替わりが早い展開を想定していたと考えられる。
 対する長崎は自陣にまず引く。4-4-2の頂点は自陣にあり、かつ3ラインは圧縮され、ブロックは中央密集で守る。
自陣に引く長崎だが早い時間に先制を許してしまった

 この密集ブロックで自陣低い位置でボールを奪い、カウンターを仕掛けるプランだったと思うが、開始3分に宮澤のミドルシュートを富澤がファンブルし、反応した白井を倒してPK。武蔵が決めて札幌が先制。いきなりゲームプランに暗雲が漂う長崎だった。

 札幌は先制後、数分間の様子見…すぐにボールを前進させずボールを後方で回すことになるが、それでも長崎はあまり前から守備をしてこない。あまりに早い時間の失点で、どうしようもなかったこともあっただろうが、やはり前半は最少失点で、との考え方があったと思われる。

1.3 基本構造(長崎ボール保持時)


 札幌の守備は5-2-3で、そのマッチアップはシャドーが長崎のSB、中盤センターの2人はそのまま長崎の中盤センターを基準点としていた。
 長崎は札幌の5-2-3の「2」の脇、宮澤と中野の脇を”ビルドアップの出口”としたい様子が見受けられたが、起点のCBは放置されている一方で、その中継点のSBもしくは中盤センターの2枚は札幌の4選手に監視されている。よって、”出口”は意識しているものの、その経路が確保できていない様子だった。
 となれば、中継点を飛ばしてCBから直接縦パスを狙うのが解決策の一つ。しかし今シーズン初出場の髙杉と、大卒ルーキーの鹿山はいずれもボールを運ぶ意識が低い。開始からしばらくは、特段脅威となるボール保持の形は作られなかった。
札幌はCBは放置してSBと中盤センターをマーク

2.スライド練習の成果は


 10分前後からは、札幌の様子見が終わり、前進により積極的になるフェーズが始まる。中央密集の長崎に対し、まずサイドから前進の機会をうかがうと、長崎の4-4-2守備の特徴が見えてくる。それは2列目の4枚はボールサイドにスライドして守るが、最終ラインの4枚はスライドに消極的で、基本的にペナルティエリアの幅で守る。
 そのため、サイドは実質的にサイドハーフの名倉と大本がそれぞれ1枚で見ていて、足りなくなると翁長や米田が加勢することになっていたが、名倉と大本も死ぬほど守備で走れるタイプでもない。よってサイドは札幌がシンプルに白井や早坂にボールを渡すだけで、常に長崎は後手になっていた。
2列目はスライドするが最終ラインはペナ幅を守る

 この状態で、反対サイドの高い位置に張る札幌のWBへのサイドチェンジを許すと、更にスライドがきつくなる長崎だった。MFの4枚で横スライドを済ませようとするが、札幌の大きな展開に横幅4枚で守り切ることは物理的にほぼ不可能。特に福森をオープンにすると、早坂への一発の展開で大本は一気に押し下げられ、しかも圧力が間に合わない。
 そして大本が押し下げられたスペースは放置されている(2トップがプレスバックして消すような仕組みはなかった)。進藤がたびたび進出し、フィニッシュに絡んでいた。
サイドチェンジされると2列目のスライドだけでは追いつかない

 もう一つ言えるのは、長崎は2トップが守備でどのような役割を担うのか不明瞭だった。中央の宮澤やキムミンテに圧力をかけるのか、サイドにスライドして福森や進藤の持ち上がりを守るのか、それともブロックに加わるのか。いくつかのやり方が考えられるが、中途半端な位置取りに終始していたため、サイドの福森だけでなく、それよりも内側のエリアで宮澤やキムミンテもサイドへのフィードを蹴ることができていた。
 中継では「長崎がこの週の練習でサイドチェンジに対するスライドを練習していた」と紹介があったが、スライド以前にサイドチェンジをイージーに蹴らせすぎている印象はあった。

 局面的な攻防に言及すると、札幌の左サイド、白井と長崎の名倉のマッチアップに非常に問題があり、白井が仕掛けられる間合いが常に確保されている状況にあった。白井の突破から、28分には中央の中野のミドルシュート、38分には左足でのクロスが長崎のオウンゴールを誘った。

 また、ミドルシュートの多さはこの試合の札幌の攻撃て特筆すべき点で、先制点の白井のPK獲得に繋がった宮澤、クロスバーをたたいた上記の中野、30分頃の武蔵、36分に自ら切れ込んで右足で放った白井、そして前半終了間際に3点目を挙げた福森のシュートと、特に前半の多くの決定機が中距離砲から生まれていた。長崎のGK

3.オープンな後半


 スコア1-3の後半開始から、長崎はイ ジョンホに変えて長谷川を投入。
46分~

 明らかに後半は「前から行くぞ」の姿勢を明確に打ち出してくる長崎。しかし開始から1分30秒で札幌に追加点が生まれる。
 自陣深くで長崎からボールを回収した札幌は、一度菅野にボールを戻す。長崎はこの時、札幌のボール保持に2トップと両サイドハーフが前から追いかける守備を敢行する。恐らく後半開始から攻勢に出るということで、決めていたのだと思う。前半はこうした守備はほとんど見られなかった。
 加えて、この菅野が関与する札幌のボール保持はク ソンユンのそれと比べても怪しく、長崎もそれを意識していたのかもしれない。
札幌の4点目は長崎が前でかわされての疑似カウンター気味


 しかし菅野が落ち着いて、降りてきた檀崎にボールを預け、檀崎がドリブルを開始すると長崎は慌てて自陣に後退を余儀なくされる。檀崎のアーリークロスが整わない長崎の最終ラインに放り込まれると、米田のクリアミスが武蔵への格好のアシストとなり4点目。
 直後、50分にはまたもオープンな展開から、早坂の右クロスがDFに当たりゴールに吸い込まれてスコアは5-1となる。
 長崎はSBの攻撃参加が増えるが、そこで攻撃が完結しないと、札幌のWBの攻撃参加による逆襲に晒される。札幌のカウンターの起点となる宮澤や中野を潰そうとしても、個人能力の差の問題で解決できないことも少なくなかった。

 札幌は武蔵がお役御免で菅と交代。長崎はカップ戦で2得点を挙げている吉岡を投入し、大本を最終ラインにシフトさせる。
58分~

 試合の大勢は決していたが、62分に菅のバックパスを菅野がクリア、クリアボールがそのまま畑に当たってゴールに入る。口元は特に動いてはいなかったが、映像に映し出されていた菅野のてめーふざけんなと言いたげな表情は同情を誘う。

 もっともゲームの構造には大した影響を及ぼさない。前4枚は高い位置から守りたい長崎。しかし後ろはそれに付き合えない。空洞化したミドルゾーンがスループットとなり札幌の5トップにボールが渡れば、4バックだけでは守り切れないので、中盤の2人はこれ以上の失点を防ぐために最終ラインに加わって6バック化する。
完全に前後分断でオープンな展開に

 74分にコーナーキックからキム ミンテ、79分に長崎は吉岡が1点を挙げて6-3で試合終了。

4.雑感


 去年は同じカテゴリだったとはいえ、J1のレギュラー主体のスカッドとJ2の控えメンバーの差は随所に表れていた(白井をあれだけ自由にさせるチームはJ1にはないだろう)。オープンな展開になった後半はその差が更に顕著になったが、一般には力の劣るチームがそうしたオープンな展開に自ら持ち込むことは得策ではない。一気にゲームが壊れてしまった感はあった。その中では、徐々にプロのスピードや間合いに慣れつつある檀崎の活躍が目を引いた。

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