2018年8月31日金曜日

2018年8月25日(土)19:00 明治安田生命J1リーグ第24節 清水エスパルスvs北海道コンサドーレ札幌 ~今なお染まり切らない~

0.プレビュー

スターティングメンバー

 北海道コンサドーレ札幌のスターティングメンバーは3-4-2-1、GKク ソンユン、DF進藤亮佑、キム ミンテ、福森晃斗、MF早坂良太、駒井善成、深井一希、宮澤裕樹、白井康介、FW都倉賢、ジェイ。サブメンバーはGK菅野孝憲、DF菊地直哉、MF荒野拓馬、小野伸二、FW内村圭宏、宮吉拓実、菅大輝。チャナティップは累積警告4枚で出場停止。前節FC東京戦で途中から採用し、逆転勝利を呼んだ3-1-4-2でスタートだが、シャドーができそうな選手を複数ベンチ入りさせている。
 清水エスパルスのスターティングメンバーは4-4-2、GK六反勇治、DF 飯田貴敬、ファン ソッコ、フレイレ、松原后、MF金子翔太、白崎凌兵、河井陽介、石毛秀樹、FW北川航也、ドウグラス。サブメンバーは GK西部洋平、DF水谷拓磨、角田誠、MF村田和哉、兵働昭弘、FW長谷川悠、クリスラン。立田はアジア大会に参加中。中断期間に加入したドウグラスは出場5試合4得点と好調だが、チームはここ5試合で1勝1分け3敗。



1.基本構造と試合の入り

1.1 清水の入り


 序盤から、清水がボールを保持した局面では、大半のその機会においてGK六反かCBによる2トップへの放り込みが行われていた。ここで2トップに収まったり、セカンドボールを回収できれば清水はSBが攻撃参加する機会もあったが、基本的に大半は前線の選手だけで完結するローリスクなアタックに終始していた。これ以上の説明は割愛するが、21分(ちょうど、様子見から転換するような時間帯でもあったか)にセットプレーから先制に成功した清水は、以降も大きく戦い方を変えることはなかった。昨年11月によく見た松原の攻撃参加は、前半殆ど見られなかった。

1.2 札幌の入り

1)4枚目は駒井


 一般に、ビルドアップにおいて相手の1列目に対して数的優位性を作ることを出発点と考えると、清水のような4-4-2のチームに対しては最終ライン3枚でビルドアップを考えるチームが多い。しかしミシャチームの特徴として、基本的に最終ラインは4枚で考えられている。四方田札幌のレガシーを基盤にチームを作っていることもあり、哲学と言えるほど個室はしていないようだが、それでもやはり4枚を横に並べた形からスタートする光景がこの試合でも頻繁にみられた(ただし、3枚しか残さなかったり↓のような変則的な形もあった)。
初期配置のパターンの例

 札幌で通常、最終ラインに加わることが多いのは深井。しかしこの試合は、駒井が「4枚目」の役割を務めることが多くなっていた。駒井は初期配置では右のインサイドハーフに配されているので、キム ミンテと進藤の間に落とす形が最も無難である。
基本は駒井が落ちていた

2)筋肉兄弟


 清水は序盤、高い位置からの守備が目立った。2トップに加え、福森がボールを保持すると対面の金子が早いタイミングで出ていき、簡単に蹴らせない対応をしていた。ここで、石毛も前に出過ぎてしまうとかなりアンバランスな形となることもあって、石毛は駒井や進藤にあまり高い位置から当たっていなかった。
 清水が高い位置から守備を行うと顕著になるのは、札幌の2トップ+WBの計4枚と、清水4バックの数的同数関係。清水は中央密集で守る意識を強く持っているが、それでもサイドは受け持つ選手が札幌WBをケアできる位置取りをしなくてはならない。また、前線守備に連動する形で2列目が高い位置取りをすると、白崎と河井も都倉、ジェイと距離が離れやすくなる。
清水のライン間が開いてくると2トップの質的優位が際立つ

 必然と清水最終ライン、特にCB2枚はは1on1のデュエルに晒される機会が多くなる。中央のマッチアップで質的優位性を見せていたのは都倉とジェイ、いずれも札幌の選手だった。ここで勝てるなら、後ろで手数をかける必要はないということで、札幌もシンプルに放り込む局面は少なくなく、また非常に効果的だった。

1.3 5人目は宮澤

1)左で張る白井へ


 都倉とジェイが強さを発揮する展開になると、清水はまずそこを抑えなくてはならない。20分頃から清水は撤退して守る時間が徐々に増えていく。8枚で縦横の距離を狭めて守るが、これは第3節の札幌ドームでの対戦でも見られた光景。
 札幌はここでも起点は駒井の右。駒井や進藤がボールを持つと、北川や石毛が対応するが、全体の守備の重心が下がっていることもあって試合序盤のような圧力はない。
札幌が中央ラインを超えると撤退守備に切り替え

 ボールに圧力がかからず、また中央密集で守るのでWBが空いている。右サイドから、左に張るフィードが何本も決まる。
ボールに寄せられる前に対角へフィード

2)後方支援は諸刃の剣


 白井へのフィードが成功すると、清水はサイドからのクロスを想定した守備…都倉とジェイに、より明確な対応をする守備に切り替える。札幌は白井が単独で勝負するよりも、後方を支援する福森や宮澤を使ったフィニッシュを選択することが多かった。白井にボールが入ると、福森は斜め後ろのポジションを取り、宮澤はハーフスペースへの侵入を狙う。これはシャドーで起用されている時に宮吉がよく繰り出しているムーブに近い。
白井がDFを引き付けて時間を作る

 ここから福森のクロスが、恐らく札幌が用意していた清水の撤退守備への対抗策。白井は何度もサイドで1on1の局面を迎えながら、自身でクロスを上げる機会は少なく、特に逆足である左足はほとんど使わなかった。ボールを受けると、意図的に時間を使い、清水の飯田や金子を引き付けてから宮澤や福森に渡すまでが白井の仕事だった。
福森が上がってきてクロス

 一方で福森が攻撃参加すると、その背後には必然とスペースができやすい。特にこの試合は、中盤で宮澤も攻撃の局面に投入すると、左サイドでスぺースを埋められる選手がいなくなるという状況に陥っていた。試合開始当初、左サイドで活動していたドウグラスはこのアンバランスさを察知したのか、徐々に左寄りの位置で活動するようになっていく。20分にドウグラスが札幌左サイドを突いたカウンターアタック以外にも、清水のチャンスの多くはこのエリアからの似たような形で創出されていた。
裏を狙っていたドウグラス

3)いい意味で染まらない宮澤


 それでも左サイドで福森と宮澤がどれだけ高い位置を取れるか、という点は札幌にとって非常に大きなポイントとなっていた。ミシャチームが得意とし、かつ崩しの出発点でもある前線に5枚を並べたアタックを敢行するにあたり、2トップ+WBでは1枚不足する。そのためもう1人、選手配置を考えると駒井か宮澤を投入することが望ましいが、駒井はビルドアップにおいて重要な役割を担う。よって宮澤の方がこの点では合理的で、加えて数年前まで前線でプレーしていた「元・バイタルエリアの住人」である宮澤はまだこのエリアでの感覚を失っていないということも、設計を考えるにあたり考慮していたと思われる。
 毎年3列目にコンバートされたかと思えば、チーム事情等で必ず1回は2列目ないし2.5列目で使われてきた宮澤は、いい意味で3列目のプレーに染まりきらないというか、バイタルエリアでの起用に耐えうるクオリティがまだ感じられる。この宮澤を加えた5枚を4バックにぶつけることで、いつもと異なる形であっても攻撃の威力を落とさないように、との考えが感じられた。
後ろ5・前5の配分はいつもと同じ

 清水もずっとハイペースを続けるわけにはいかないこと、またスコアが1-1となったことや白井の攻撃参加等もあり、30分過ぎころから清水は撤退して守ることが多くなる。逆に札幌は、ドウグラスのカウンターの脅威を認識してか、福森があまり高い位置をとらなくなる。立ち上がり自重していた白井のクロスは、こうした状況変化があった30分過ぎ以降に多くなっていった。

2.中盤以降の変化

2.1 サイドで後手に


 スコアがイーブンとなってから、清水は2トップに蹴る以外の攻撃も徐々に繰り出していくようになる。札幌の3-1-4-2⇔5-3-2の守備とのかみ合わせで考えると、札幌2トップは中央で清水CBと2on2、そして宮澤と駒井は、基本的に白崎と河井を見ていた。
 すると清水のSBはどう対処するかがポイントとなる。この整理は、前節後半から2点差をひっくり返したFC東京戦と同じだが、FC東京は太田と室屋の両SBが高い位置を取ること多く、5バック化する札幌WBが追いかけなくてもマッチアップが成立することが多かった。そのため2トップと中盤2枚で相手の中央4枚での組み立てを阻害すれば、ボール回収はが非常にしやすくなったのだが、清水のSBは最初から高い位置を取らない。
清水がボールを持ち始めるとSBへの対応が問題に

 加えてゴール前のドウグラスに対して、札幌はCB3枚で対応したいという事情もあった。清水の左サイドからのアタックに対し、早坂が前に出て進藤がスライドすると、背の低い白井が中央寄りを守ることになりゴール前、空中戦の不安が増すという考えもあったと思われる。
 こうした状況があって、清水のSBは徐々にボールの収めどころとして使われていく。サイドでボールにアタックできない札幌は徐々にタックルラインが下がっていく。
早坂はステイせざるを得ない

2.2 いくつかの問題に対応


 札幌は64分、深井に変えて宮吉。「深井を変えるタイミング」、「攻撃時に5トップを作るいつもの形に戻す」、加えて「2列目4枚の5-4-1にすることで清水のSBをケアする」という意図もあったと思われる。
 清水はすかさずヨンソン監督が「脇を使っていこう」との指示を送る(DAZN中継68分頃のピッチリポートより)。すぐに金子と石毛は、下の図のように中央に寄ったポジションで間受けを狙う。この早い対応を見ると、もしかすると清水は札幌が試合開始から3-1-4-2で来るとは思っておらず、いつもの3-4-2-1対策に注力していたのかもしれない。
札幌が5-4でサイドの枚数を増やすと清水は中央を狙う

2.3 小野のクオリティ


 73分に札幌は白井→小野。清水は北川→クリスランに交代。札幌は早坂が左、宮吉が右に回り、小野がシャドーに入る。両チームとも点を取りに行く選手交代だが、札幌の小野が投入直後にクオリティを見せつける。
 投入直後の札幌のボール保持は、清水の守備に熱心でない2トップの脇で福森がボールを保持するところから。この時、福森-早坂-駒井-小野と小野を頂点にするような菱形を作っていたが、小野投入前にもこれに近い形を2回ほど左サイドで作っていて、また前半右サイドでも似た形があった。通常駒井はこの位置にいない(最終ラインに落ちている)、また早坂も最前線で張っていないことを考えても何らか準備していたことを匂わせる。
菱形で前進を狙う

 金子は福森の縦(小野)を切るが、福森はインスイングの巻いたキックで小野に1発で 1発で通してしまう(小野への供給ルートを作るために早坂がいるのだが、ここを簡単に通してしまうのが福森の恐ろしいところ)。この速く正確なパスでスイッチがが入る。清水はボールサイドから最終ラインは人を捕まえるが、例によってCB2枚で都倉とジェイを見ているので、飯田は1人で小野と早坂の両方を見れるポジションを取るため、小野への対応が遅れた。
 小野に入ると、ジェイがハーフスペースに移動してくる。これでファン ソッコを中央から引き剥がすことに成功する。ジェイがおとりとなるパターンはあまり見ない気がする(勝手にゴール前からいなくなるのはよくあるが、こうした効果的なタイミングで相手を動かすような動きは少なかった)が、ポストになること自体はよくあるので、これも用意していた形かもしれない。後はゴール前で思い切り左足を振りぬくだけの空間を得た都倉に、小野から極上のパスが供給され、期待通り都倉が初の2桁得点となるシュートを豪快に叩き込んだ。
小野への対応が不明瞭になってしまった

3.雑感


 4バックのチームに対しここ何試合か苦戦していたが、清水は序盤からSBのミスマッチを有効活用せず予想外に蹴ってくる。またホームでの対戦と異なり高い位置での守備を志向していたことで、「9番」を2人並べた札幌としてはプラスに作用した面があったと思う。

2 件のコメント:

  1. こんにちは にゃんむるです。連発でアップきてるのー。
    駒井という選手が思っていたよりもかなり器用&能力高くて本当に助かってるなーという印象。
    これで宮吉がもうちょっとチームにハマってくれればなー。白井は徐々にいい感じになってるし、ホント宮吉さん頼みますわ。

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  2. 駒井は最も替えのきかない選手になりつつありますね。荒野も期待値からいくと、あれくらいやってほしいんですけど…

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