0.プレビュー
スターティングメンバー |
北海道コンサドーレ札幌のスターティングメンバーは3-4-2-1、GKク ソンユン、DF進藤亮佑、キム ミンテ、福森晃斗、MF駒井善成、深井一希、宮澤裕樹、菅大輝、三好康児、チャナティップ、FWジェイ。サブメンバーはGK菅野孝憲、DF石川直樹、MF兵藤慎剛、白井康介、荒野拓馬、小野伸二、FW都倉賢。7/28に開催予定だった、アウェイでの第18節名古屋戦は台風12号接近の影響により開催延期となった。酷暑のアウェイゲームで中7日で挑めることは少なからずプラスになると思われる。
V・ファーレン長崎のスターティングメンバーは3-4-2-1、GK徳重健太、DF徳永悠平、ヨルディ バイス、髙杉亮太、MF飯尾竜太朗、黒木聖仁、島田譲、翁長聖、澤田崇、鈴木武蔵、FW平松宗。サブメンバーはGK増田卓也、DF田上大地、香川勇気、MF前田悠佑、米田隼也、新里涼、名倉巧。7/10に加入が発表されたヨルディ バイスは前節アウェイでのFC東京戦で初出場し、1-0の完封勝利に貢献。一方でここまでリーグ戦6得点の中村慶太のほか、札幌戦の出場不可条項が付いていない中原、ファンマ、新加入のハイロ モリージャスが故障でベンチ入りしていない。
1.真夏の暑さといつも通りの安全地帯
1.1 札幌は5-4撤退を選択
この試合、公式記録では気温29.4度だが、(涼しい札幌ドームではなく)諫早で行われた今回の対戦では、どこで体力を温存し、どこで使うか、という考え方も重要になる。札幌ホームでの前回の対戦は、序盤から札幌がボールを保持し、長崎がそれを二種類の守備(前線からの守備、ゴール前の2ライン撤退守備)で迎え撃つ展開だったが、今回長崎がボールを保持する時間が多くなったのは、札幌があまり守備にエネルギーを割かないやり方を選択したからということが大きい。
長崎がボールを保持すると、札幌はジェイを最前線に1人残して自陣に撤退し、三好とチャナティップはジェイではなく、深井と宮澤とラインを形成しているかのようなポジション取りが多かった。長崎の3バックは殆どプレッシャーを受けずボールを保持し、時間も空間も視野も存分に与えられる。冒頭で「ミシャがジェイのポジション取りを気にしている」とのピッチレポートがあったが、恐らくジェイは中央にいてくれ、という程度の指示はあったのだと思われる。開始3分頃は中央に位置取りをする黒木、または島田を気にするような構えをしていたが、すぐにその意識は弱まっていって、長崎はジェイの前方、左右だけでなく、その背後でも自由にボールを受けることができていた。
ジェイの周囲は長崎の安全地帯 |
1.2 CBを動かしてスペースを狙う長崎
ジェイの周囲の「安全地帯」における優位性というか、長崎が陣地を存分に使える状態であることによって、次の局面の攻防においても長崎が先手を取ることになる。
徳永が陣地を活用している状況を下の図で示すと、まず徳永は札幌の2列目の選手が出てくる位置まで持ち上がる。通常はシステムのかみ合わせもあってチャナティップが徳永に出てくるが、それにより中盤センターの深井の脇にスペースが生じる。これは札幌のシャドーが前に出てくる(ジェイと並んで5-2-3で守備をする)場合も同様に生じるスペースで、長崎は札幌がどの形で挑んできてもここにスペースができることは意識していたと思われる。
この位置でボールを受けるためにシャドーの澤田が半身の体勢でポジション取りをすると、札幌は福森が澤田を迎撃するためマンマーク気味に対応する。すると福森の背後のスペースに、平松が走り込み、ここに徳永から直接放り込む、というパターンが序盤何度か見られた。シャドーの澤田のところにもっと小回りが利いて前を向ける、又は収められる選手がいるならば別だが、長崎の場合はロストからカウンターのリスクを考えてもシンプルに裏を狙う意識が強かったと思う。
最終ラインにギャップを作りシンプルに放り込む |
1.3 サイドの役割分担
長崎の裏を狙う攻撃でもう一つ特徴的だったのが、WBが中に絞って札幌のWBを中央に引きつけ、シャドーがその裏を狙うもの。これは札幌のマンマーク気味の守備対応を利用することと共に、サイドでの攻守のタスクのうち一部をシャドーに分散させることで、WBの負担をコントロールする考え方もあったと思う。酷暑の中のゲームで、Jリーグでよく見るWBの運用法(攻撃の横幅を作り、サイドの守備に蓋をする)を適用することは現実的ではない。両チームともネガティブトランジションの局面やプレスバックが必要な局面で、徐々に中盤の選手の足が鈍っていく中、本来の位置からあまり必要以上に動かさない形で攻守を完結させようという考え方は持っていたと思う。
この「本来の位置から選手をあまり動かさない」という考え方は札幌も持っていたと思われる。長崎がロングボール等で札幌陣内に侵入後、札幌はシャドーがプレスバックすることはまれで、大半の局面を最終ライン5枚+中盤センターの2枚が対面の選手を意識した位置取りをしつつ対応するやり方となっていた。
一方で前半25分頃に設けられた給水タイムの前後くらいのタイミングから顕著だったのは、深井もしくは宮澤が下がり目に位置する黒木、島田を高い位置からケアするようになっていた点。これはジェイの周囲をあまりにも簡単に使われ過ぎ、ということでの対応だったと思うが、高い位置をとると、裏に放り込まれた時に撤退しての対応が困難になる。よって放り込みと同時に複数の選手が前線に侵入していく長崎に対し、札幌は時折5枚、6枚での対応を強いられることになる。
一方で前半25分頃に設けられた給水タイムの前後くらいのタイミングから顕著だったのは、深井もしくは宮澤が下がり目に位置する黒木、島田を高い位置からケアするようになっていた点。これはジェイの周囲をあまりにも簡単に使われ過ぎ、ということでの対応だったと思うが、高い位置をとると、裏に放り込まれた時に撤退しての対応が困難になる。よって放り込みと同時に複数の選手が前線に侵入していく長崎に対し、札幌は時折5枚、6枚での対応を強いられることになる。
2.札幌のターン
2.1 基本的にはスローな展開に持ち込む
先述のように、ワントップにジェイを配しておりほぼ完全な2ライン守備が常態化していたことや、長崎が早いタイミングで裏に放り込むプレーを多く選択していることで、札幌は中盤でボールを奪取するような局面が前半殆どなかった。札幌がボールを回収し、攻撃機会を得る局面は、長崎の攻撃失敗(クロスや楔のパスの失敗等)が大半で、さながらターン性のゲームを想起させる展開でもあった。
札幌ボールの局面で何が起こっていたかというと、長崎のシャドーは札幌のシャドーに比べて上下の可動域が広い。前3枚の5-2-3、中盤に4枚並べた5-4-1の両方で対応できる準備がされていて、まず札幌の後方でのボール保持が怪しそうならば3枚で圧力をかける構えを序盤から見せていた。
長崎のシャドーはより動ける |
札幌は相手が最大3枚で圧力をかけてくるから、ということもあるが、基本的に酷暑の中でスピーディな展開を志向していなかったと思われ、後方で4~5枚を必ず確保してボール保持を安定させ、自らスローな展開に持ち込もうとしていた。
もっとも後方でのボール保持は速攻の機会を捨てることにもつながる。長崎の状況(トランジションの際、後方に残している枚数)を見て、長崎3バックと札幌1トップ2シャドーで3on3に近い関係性の時は、シンプルにジェイや三好に長いボールを送り込んで個の力での速攻も狙っていた。
2.2 酷暑下での攻め方
1)リスクを最小化しよう
長崎の守備の枚数が揃っている状態で、札幌が頼りにしていたのは福森。前半のシュートチャンスの大半は、福森の人を飛ばすパス、もしくは左サイドで近接するチャナティップへの斜めのパスが組み込まれたものだった。
これは、難しいコンディションの中で消耗を抑えるために、ボールロストの機会を減らしたい、かつロスト時のパターンを限定的にし、またロスト時にカウンターを受けるリスクを小さくしたいといった考え方があったと思われる。ミシャチームは通常、攻撃を開始する際に横幅と共に縦幅をとるポジショニングによって相手の圧力を回避する。しかしこの試合では、ハーフタイムでのミシャのコメント「コンパクトにプレーしよう」からも伺えるように、選手間の距離を近づけ、DF~FW間の距離を短くして札幌はプレーしていた。その上で、1人、2人を飛ばすパスで決定機を作れ、かつその精度が最も信用できる福森のからの展開をファーストチョイスとすることで、あえて攻撃のパターンを限定的にし、ロスト時に対応しやすくしていたように見えた。
2)シャドーが自由に動ける状態に
長崎の守備の特徴として、CBが持ち場を離れず、札幌のシャドーについていかない点が挙げられる。札幌はジェイを頂点として、チャナティップと三好は下がり目の位置で斜めの位置関係を作り、ミシャ得意のフリックとスルーを使ったプレーで裏を狙う他、フリックせずシャドーが受けて仕掛けることを狙っているが、長崎は下がり目の三好とチャナティップを、髙杉と徳永が迎撃しない。この2人への対応は中盤の選手マターと考えられていたが、黒木と島田も完全にシャドーについていく対応は難しい(中央を空けてしまう)ので、終始札幌のシャドーへのマークは曖昧になっていた。
このように受け手がフリーな状況かつ、4バック化した左からスルスルと攻撃参加する福森も長崎は捕まえきれていなかった。福森の角度をつけたチャナティップへのパス、複数選手を飛ばした三好へのパスは前半からたびたび決まっていて、攻撃の機会はともかく、決定機の数と質は札幌の方が優勢だとも言えた。
福森からシャドーへのパスはよく通っていた |
3.次第にオープンな展開へ
3.1 ジェイの得点で札幌が先制
後半頭から、長崎は鈴木と平松の位置を入れ替える。恐らく長崎は、キム ミンテと鈴木武蔵のマッチアップを多くし、武蔵がセンターから隣のレーンに頻繁にダイアゴナルランすることで、ミンテを中央から動かしたいとの狙いがあったと思われる。
一方の札幌は、後半はジェイがより前目でプレーするようになった印象である。前半、守備時は長崎の中盤の選手を見るような配置だったが、後半はヨルディ バイスと常にマッチアップする位置取りをとっていた。守備時は基本的に「いるだけ」のジェイだったが、51分の先制点は、ジェイがこの守備時の関係性もあってヨルディ バイスに近い位置…下がらず前にいたことで生じたシュートチャンスだった。
3.2 コントロールしたいはずが
ジェイ-ヨルディ バイスのマッチアップ関係が明確になったことで、特に札幌の守備時において、宮澤・深井と黒木・島田の2on2の関係性も強くなる。前半はまだジェイを(非常に気まぐれではあるが)中央の守備の数合わせ程度には含めることもできたが、後半は完全に深井と宮澤の2枚のみで対応しなくてはならない。ここで、中央でスペースを埋めることも大事だが、長崎は早いタイミングで鈴木武蔵を走らせ、長いボールを放り込んでくるので、その出所を抑えたい。となると人への意識が強くなり、中央のスペースは空きやすくなる。58分に平松に代わって投入された米田はこの中央のスペースに頻繁に顔を出す。
中央のスペースによりゲームは高速化 |
3.3 高速化展開が突如スコアに表れる
こうして中央から人がいなくなり、スループット化すると必然と展開は高速化する。この高速化展開を活かして札幌もカウンターの機会を何度か得ていたが、同時に長崎のカウンターに晒される機会もコンスタントに訪れる。
そして(直前に澤田→新里、ジェイ→都倉の交代を挟んでの)72分、米田がセットプレーから得点を挙げ、試合は一旦振り出しに。しかし米田の得点直後の札幌の攻撃から続いた流れで、チャナティップが切り込んでのシュートで再び札幌が勝ち越す。来日直後から「もう少しゴールに向かうプレーが欲しい」と言われていたチャナティップ。一皮むけた感のある見事な得点だったが、この直前のプレーを見ると、長崎の三好への対応は要改善といったところだったと思う。
札幌のCKを長崎が跳ね返した後の二次攻撃の局面。宮澤と三好が互いに感じ取り、三好は相手のDF(髙杉)から離れることで空間を得られることを察知している。長崎はこの時、最終ラインは人が揃っていて、札幌の各選手を視界に捉え、中央で島田は余った状態。基本的には人を見る守備が成立していて、髙杉は三好を潰すことにほぼ専念していい状況だが、
最終ラインは数的同数対応 |
三好が髙杉から遠ざかる方向にステップを踏むと、髙杉は三好が前を向いて仕掛けられる間合いを取られてしまう。宮澤の体の向きから判断しても、パスが出る瞬間にもっと間合いを詰めて守るべきで、結果的にここで三好を潰せなかったことがチャナティップのシュートに繋がっている。またチャナティップに対しても、徳永が距離を開けてしまっている。中央で都倉を見ているヨルディ バイスの対応と比較すると一目瞭然で、上記2.2の2)でも触れたように長崎はCBによるシャドーへの対応の緩さが大きな問題となっている(三好やチャナティップのように小さくて小回りが利く選手に対し、ベテランの徳永や髙杉が飛び込むのは危険だとの意見もあると思うが、人を見る対応をするならば対面の選手に対する強度は必ず必要)。
ラスト15分は更に間延びした展開に。88分、長崎左サイドでのスローインから、鈴木が楔のパスを受けてゴール前に上がっていたヨルディ バイスへ。鈴木にはキム ミンテがついていて、バイスに一番近かったのは福森だが予想外の展開に一瞬反応が遅れる。15分前のチャナティップのシュートと同じくグラウンダーのシュートが股を抜いて長崎が同点。バイスは元々中盤センターの選手だったようで、恐らく適性はこうした中間ポジションを取るプレーができる役割なのだと思われる。ただこの試合、都倉とジェイを90分間密着マークしており、Jリーグ基準ではマーキングもリベロ的な働きもできる選手ということで長崎にとっては大きい存在となりそうである。
筆者はここでDAZNをログアウトして近所のジムに向かい筋トレを開始したが、アディショナルタイムの3分過ぎ、CBの迎撃を装備していない長崎はまたも中央バイタルエリアでの対応が薄くなる。見逃さなかった駒井のミドルシュートを石川が詰め、最後は都倉の得点で札幌が再び勝ち越し。
4.雑感
両チームとも暑さ対策として、ピッチをワイドに使うよりも選手間の距離を狭めてコンパクトな陣形でプレーしたいという考え方を感じた。それに加えて長崎は動き出しの量、札幌は三好やジェイのボールを持った時のクオリティで勝負という差異があった。三好は2アシストを記録したが、徐々にオープンになっていく展開の中で不用意なボールロストも何度かあり、それらは直接は失点には影響しなかったものの、そうしたミスがなければより容易にコントロールできたゲームでもあった。
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