0.プレビュー
スターティングメンバー |
北海道コンサドーレ札幌のスターティングメンバーは3-4-2-1、GKク ソンユン、DF進藤亮佑、キム ミンテ、石川直樹、MF駒井善成、深井一希、宮澤裕樹、菅大輝、三好康児、チャナティップ、FWジェイ。サブメンバーはGK菅野孝憲、MF兵藤慎剛、白井康介、早坂良太、荒野拓馬、小野伸二、FW都倉賢。福森は左内転筋痛で欠場。他は中断空けから不動のメンバーで、中5日でのホーム連戦となる。
セレッソ大阪のスターティングメンバーは3-4-2-1、GKキム ジンヒョン、DF木本恭生、マテイ ヨニッチ、オスマル、MF松田陸、山口蛍、ソウザ、丸橋祐介、清武弘嗣、高木俊幸、FW杉本健勇。サブメンバーはGK丹野研太、DF田中裕介、山下達也、MF水沼宏太、福満隆貴、山内寛史、秋山大地。柿谷、山村、ヤン ドンヒョンといった前線の選手がコンディション不良で欠場。
8/8の水曜日にスルガ銀行チャンピオンシップを長居で戦い、CAインデペンディエンテに0-1と敗れた。この時のメンバーは秋山がキャプテンを務めるなど完全にメンバーを落としていたが、オスマルと高木俊幸は中2日でスタメン起用されており、またユン ジョンファン体制下では恐らく初めてとなる3-4-2-1が採用された。特にオスマルはインディペンディエンテ戦では3-4-2-1の中盤センターでスタート、途中から3バックの左に移っておりこの新布陣でのキープレイヤーと目される。
1.基本構造
6分にセレッソが最初に得たコーナーキックから、丸橋のニアを狙ったボールに、マテイ ヨニッチが合わせて先制。ストーン役のジェイの前方に、ヨニッチがキム ミンテを振り切り全速力で飛び込んできたためソンユンは成すすべなし。ジェイはミンテをどついて怒りを露にした。
この直後の札幌のオフェンスで、キム ミンテが左サイドでポジションを上げていた石川に浮き球のパス。石川が頭で中央に折り返したボールを、ワントラップからチャナティップのスーパーボレーが決まって、前半7分にしてスコアは1-1となった。
もっとも6~7分に生じた上記のスコアの動きはあまり試合展開に影響を及ぼさなかった。前半の45分間は両チームとも似た陣形、似た狙いを持ってゲームを進めており、端的に言うと膠着気味の進行となった。
1.1 いつものソリューション
1)出しどころを与えないセレッソの守備
尹晶煥のチームの基本形は、攻守両面においてもあまり自分からバランスを崩そうとせず、オリジナルの陣形を保つよう動く設計となっている。いつもの4-4-2から3-4-2-1へと陣形を変えて挑んだこの試合も、そうしたコンセプトは変わらず、セレッソは通常の布陣から1枚削ったFWがそのままCBに入ったかのようなコンパクトな5-4-1の守備陣形を形成する。
序盤、セレッソは1トップの杉本の周辺で殆ど札幌に対して守備のアクションを仕掛けない。よって杉本の周囲に位置取りをするキム ミンテ、宮澤、深井がボールを持つことが多くなるが、一方でセレッソの残り9人の選手は、5-4のラインを形成するとともに常に守備対象の選手を視界に入れ続ける。
よって、先の3人以外にボールの出しどころがない札幌は、最終的に得意の放り込みで局面解決およびボールの前進を図ることが多くなる。ターゲットは、そのためにピッチに立っていると言っても過言ではないジェイと、対面の松田に対して度々競り勝っていた菅。また放り込み役は、福森がいないこともあって持たされてもいたキム ミンテがその役割を務めることが多くなっていた。
勝てる選手に放り込むことで前進 |
2)単発だった直樹アタック
先述の7分に生まれたチャナティップの同点ゴールも、実に札幌らしい形からの得点だった。例の「杉本の周囲」でボールを保持した状態から、石川が一気にポジションを上げると、セレッソの5バック化した右WB・松田の視界には石川と、中央に絞っていく菅の2選手が捉えられることとなる。松田が一瞬対処を迷ったこともあって、身長差が10センチある石川は用意に頭で競り勝ち、中央に折り返したボールがチャナティップに繋がった。
この、CBを上げることで5バックの数的同数で守る相手に対してギャップを作ることは、ここ数試合でも何度か見られていて、特に進藤は空中戦の的として使われることもあれば、足元で受けてアクションを開始することもあり、日に日にオプションとしての重要性が高まっているように思える。
石川の攻撃参加で1on1関係が一瞬崩れた |
一方で上の図を見ればわかるが、石川が攻撃参加した背後には広大なスペースが生じている。石川の頭での折り返しがチャナティップに通った(そして得点した)から結果は大成功だが、これが仮に折り返しが相手DFに引っかかっていれば、石川の背後は格好のカウンターの餌食となる。
要は自分から動いてミラー状態を崩し、ギャップを作るということは相手にもつけ込む余地を与えやすくなる。このことを嫌ってか、ここ数試合何度か使っていた「直樹アタック」は、空中戦に頼りがちな試合展開であっても前半これ以降、殆ど使われなくなっていた。
四方田前監督時代から、守備の構図整理においてマンマーク(又は、それに近い数的同数対応)を適用できそうな状況では積極的にマンマークを活用する札幌。この日も3-4-2-1で、しかもあまり形を変えたがらないセレッソということで5-2-3ないし5-4-1で守るとマッチアップがほぼ噛み合うため、マンマーク基調の対応が非常に多くなっていた。
セレッソは3バックで攻撃を開始するので、札幌は序盤、3枚に人数を合わせる5-2-3…三好とチャナティップを前目に配して試合に入る。しかしいつも通りながら、ジェイが前から追いかける守備にあまり積極的ではないので、セレッソの3バックが低い位置でプレーするようになると、札幌は前3枚で捕捉することが難しくなる。
となると、三好とチャナティップを前に置いていることの有効性が薄くなり、むしろシャドーが中盤センター2枚の脇を閉めていないことの問題が大きくなる。ということで、札幌もセレッソ同様に5-4-1でリトリートする時間が多くなっていく。
1.2 セレッソのビルドアップ
四方田前監督時代から、守備の構図整理においてマンマーク(又は、それに近い数的同数対応)を適用できそうな状況では積極的にマンマークを活用する札幌。この日も3-4-2-1で、しかもあまり形を変えたがらないセレッソということで5-2-3ないし5-4-1で守るとマッチアップがほぼ噛み合うため、マンマーク基調の対応が非常に多くなっていた。
セレッソは3バックで攻撃を開始するので、札幌は序盤、3枚に人数を合わせる5-2-3…三好とチャナティップを前目に配して試合に入る。しかしいつも通りながら、ジェイが前から追いかける守備にあまり積極的ではないので、セレッソの3バックが低い位置でプレーするようになると、札幌は前3枚で捕捉することが難しくなる。
枚数は合っているが圧力はかからない |
となると、三好とチャナティップを前に置いていることの有効性が薄くなり、むしろシャドーが中盤センター2枚の脇を閉めていないことの問題が大きくなる。ということで、札幌もセレッソ同様に5-4-1でリトリートする時間が多くなっていく。
リトリートした札幌に対し、セレッソがよく見せていた形は、右サイドを起点に杉本に縦パスを入れる下の形。木本が持ち上がると、チャナティップのチェックを受けるが、セレッソのWBは札幌と異なりCBをサポートできる高さに配されている。その松田が木本をサポートすると、清武がサイドにラン。石川を引っ張ってから杉本がボールサイドの寄って、周囲の札幌の選手がいなくなった状態でポストプレーを試みる、という形だった。かつてザッケローニが3-4-2-1の優位性として、「サイド2人のシステム(4-4-2等)に対してサイドに3人を配せるのでミスマッチを作ってのビルドアップがしやすい」と語っていたが、それの亜種というか5バック相手であっても同様の原理を利用した形だと言える。
同じサイドに3枚を寄せる |
なお図にも示したが、前半20分頃より山口とソウザも低い位置でどちらかがプレーする局面が増えていた。ミシャシステムのように、後ろを3枚から増やすと中盤が薄くなってしまうので、尹晶煥のチームはあまりこの形を好まないはずだが、マンマークの意識が強い札幌は、この下がっていく山口やソウザを宮澤、深井が追いかけるようになる。そのため、特に右寄りに配されている山口が引くことで、札幌の中盤センターで左に配されている選手(図では宮澤)を定位置から退けることができるという理由で、山口やソウザのプレーエリアが低くなっていたと思われる。
2.30分以降の仕掛け
守備で最初に動いた(「リトリート合戦」の基本構造を崩した)のは30分前後からの、セレッソの側だった。札幌が後方でボールを保持して時間を作ろうとすると、セレッソも(いつもの札幌同様に)マンマーク気味に守備を整理して高い位置から圧力をかける。特に宮澤か深井が下がって4バック化し、ボールを落ち着かせることを許さないため、ソウザが高い位置を取って監視する。
札幌は前掛かりになったセレッソの、ソウザの背後もしくは山口の脇をシャドーが使おうとするが、三好とチャナティップにはオスマルと木本が迎撃守備で対抗。特に、背負ってのボールキープの形を持っているチャナティップに対し、ターンを頻繁に狙う三好はここで基点となることができない。
数的同数でのオールコートプレス |
セレッソはこの状態で、高い位置で奪えればそのまま杉本、清武、高木にソウザの最低4枚が攻撃参加した状態を作れる。結局、地上戦での突破が難しい札幌は、唯一空くソンユンから、やはり菅やジェイへのへのロングボールで解決を図ることになる。
3.崩れぬ構図
後半の展開は一言で言うと、両チームともシャドーのポジションが前掛かりになることによって、互いにスペース生じて前半よりはオープンな攻防が繰り広げられることとなった。48分、セレッソがリスタートから高木が決定機を迎える(ク ソンユンが1on1をセーブ)が、この直後頃から両チームとも攻撃参加したシャドーがあまり戻らなくなる。もしくは、帰陣が難しくなる程度のポジションに攻守両面でいることが多くなる。
これによって、札幌はチャナティップと三好がジェイをサポートできるようになって、前に放り込んだボールをジェイ1人ではなく最低3人でマネジメントし、攻撃を展開できるようになって、特にボールを運べるチャナティップが高い位置をとったことは、そのままチームの重心を押し上げることに繋がる。
一方で、シャドーが前掛かりになると、相手のシャドーがその空けたスペースを使いやすくなるのが5-2-3による守備の問題点。両チームとも縦パスが入りやすくなり、ダイレクトな攻撃の応酬となる。
シャドーの守備関与度合いが低くなり、5-2に近い形での守備が常態化すると、最終ラインの選手の役割も変化、調整していくことが望まれる。83分の木本の決定機は、チャナティップが守備に関与できなくなったことで札幌のハーフスペースを防備する選手は石川しかいない状態になっていた。石川は、この試合前半から積極果敢に対面の清武に付いていく守備を徹底していた(時に、清武が山口やソウザの隣まで下がると、石川も付いていくことがあった)が、シャドーが守備に関与しなくなった後も清武だけを見ていたため、ハーフスペースが完全無防備になってしまった。
木本の決定機(83分) |
後半の選手交代は、両チームとも基本的に同じポジションの選手を入れ替えただけで会って、戦術的に大きくバランスを変えるものはなかった。一時的にガードが緩んだ状態で殴り合う時もあったが、終始硬い展開のままスコアは動かず試合終了。
4.雑感
布陣を合わせて膠着化を狙うセレッソに対し、札幌はどこかで仕掛けるのかと思っていたが膠着状態の維持に付き合う形で90分を戦っていた。カウンターが怖いこともあったが、ジェイやチャナティップのところで質的優位が作れるという目算があったと思われるが、それ以上にゴール前にボールが入った時の対応(セットプレー以外にも、キム ミンテは徐々に怪しくなってきている)が怖く、快適な札幌ドームの環境を考えても、もう少し仕掛けるという選択もあったのはないか。
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