1.ゲームの戦略的論点とポイント
スターティングメンバー
- 14節までで1勝4敗9分と大きく出遅れたガンバ。以降の11節を8勝2分1敗と破竹の勢いで降格権脱出し試合開始時点では11位まで上がってきました。
- 開幕からいくつかの試行錯誤を経て、CBには福岡、前線はジェバリ、アラーノと倉田または食野、中盤はネタラヴィがセンターでダワンと山本とメンバーが固まってきて、(予想通り)戦術的に浮き気味だった宇佐美や武蔵をフェードアウトさせることに成功しましたが、サッカーの中身や質としては、監督が選手の指向性に結構な妥協をしたことで方向性が定まってきていると感じます。
- 表記上は山本をトップ下とした理由はその方が実態に即しているためで、詳細は後述します。
- 対照的に9試合勝ちなしの札幌は、小柏が負傷から復帰。浅野もベンチスタートとしたのはこの週、体調面で何らか問題があったのかもしれません。
- ここまで全試合スタメン出場だった岡村が出場停止で、宮澤が今シーズン初のCBでのスタメン出場。中村はぎっくり腰で前節欠場で、この日もベンチスタートで福森が左DFに。1年ぶりにこの2人が最終ラインにスタメンで並ぶことになりますが、ガンバとしてはここでスピード勝負に持ち込みたかったと思います。
Jリーグ - J1 第26節 北海道コンサドーレ札幌 vs. ガンバ大阪 - 試合経過 - スポーツナビ https://t.co/EAX1IiJ5yf
— アジアンベコム (@british_yakan) September 2, 2023
2.試合展開
ガンバのコンサ対策①:
- 端的にガンバの対応を書きます。
- まずコンサのゴールキックなど、コンサのGK高木やその周辺からプレーが始まる時は、ガンバは以下の形で対応します。
- 1列目はジェバリ1人で山本がアンカーをマンマーク気味に対応。ジェバリと山本は受け渡しをせず役割固定で、ジェバリ1人でGKとCB2人を見るのはちょっと無理がある。食野とアラーノもあまり前に出てこないで、ここはコンサにボールを持たせてある程度ガンバ陣内に引き込む狙いが見えました。
- コンサが前進すると、ガンバのウイングは中央を切ってサイドチェンジを阻害し、攻撃のサイドを決めさせます。
- 福森のサイドが多かった気がするので(私がそっち:バックスタンドから見てたからかもしれませんけど)そこから例示すると、コンサがサイドが決まって更にガンバ陣内に入るところでガンバは最終ラインのマークが決まる。対応はボールサイドでマンマーク基調のものでした。
- ポイントは、CB2枚にネタラヴィが加わってコンサのFWとシャドー計3枚を捕まえる。枚数を合わせてCBやSBがボール周辺の選手に積極的に出ていきやすくなります。
- ただ、このネタラヴィのマッチアップが気になるところで、まず彼はそこまで平面で広く守れる選手ではない。典型的なアンカーに見えます。
- かつ構造上、マッチアップが駒井や小柏で、いずれも広範に動き回るタイプでかつ俊敏な選手なので、受け渡しながらスペースを消して守るならまだわかるのですが、ネタラヴィが基本的にずっとついていくと不都合が生じそうだな、と思って見ていたところ、小柏が広範に動いてボールを収めたところからスパチョークの先制ゴールが生まれます(13分)。まぁシュートのクオリティを褒めるべきなんですが、反対サイドまでついていったネタラヴィが小柏を切れなかったところが発端でした。
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- 構造的な話に戻しますと、ガンバは自陣ゴール付近ではネタラヴィが最終ラインに吸収されて(基本的にはCB2人の間に入る)ほぼ完全に5バックになる。ここでは山本も戻ってきて1-5-4-1のような陣形で対抗します。
- これはおそらく、コンサは中盤を省略したようなアバウトな放り込みが中央/サイドを問わず多いので、放り込んでくることが想定される状況では最初から後ろに人を集めてスペースを消して何もできないようにしよう、ということだったと思います。
- まぁコンサのスタメンにゴニのようなサイズがある選手がいたらどうしていたかわからないですが、小柏、スパチョーク、駒井の前線だとこのようにしてスペースを消せばほぼ何もできなくなるので、この選択はスカウティングを踏まえたアウトプットとしては正しいと思いますし、実際にネタラヴィ付近でボール回収に何度か成功していたと思います。
ガンバのコンサ対策②:
- そしてボールを持っている時は、シンプルにいうとジェバリが引いて宮澤を動かして、創出したスペースでウイングの選手が背後を突くイメージだったと思います。
- これもコンサ相手だと、マンマークベースで必ずDFがついてくるということでスペース創出は本来容易だし、特にこのユニットだと足が遅い、というか背後の動きに弱いので、対策として最初に思いつくものでしょう。札幌ドームで対戦した川崎はこのパターンから得点しています。
- そしてコンサはどのような状況でも基本的に対応は全部マンマーク基調なので、↓のようにGKから組み立てる場合以外でも、↑の図のようなガンバが自陣ゴール付近で奪ってからすぐの展開などでも似た形は狙っていたと思います。
- ただ、ガンバは前半シュート2(枠内0)、後半合わせても計6本(スポナビより)うち枠内1(距離のあるミドルシュートで高木が難なくキャッチ)と、この攻撃の形はほぼ全く機能しませんでした。
- この理由をシンプルにいうと、中央ないしは宮澤の背後にそこまでスペースが作れていなかったというのが大きいと思います。
- ガンバのウイング、食野とアラーノは開始直後こそアウトサイドからスタートしますが、流れの中で中央に入ってくるとまたそこから外にもどってやり直す…ということをあまりしない。これはなんらか制約があって(例えばポジションを取り直す時間を味方が与えてくれない とか)できなかったのかもしれませんが、結果として彼らをマークする福森と田中駿汰が中に入ってきてガンバは使いたいスペースがなくなる。
- そしてジェバリにボールを届けるのも、GKやCBからシンプルに長いボールを放り込むことに終始していて、そうするとコンサの選手は次第にターゲットのジェバリに寄ってくる。
- 例えばダワンや山本がより低い位置でボールを触れば、馬場や荒野を食いつかせてジェバリ周辺にスペースを作って彼が前を向くとかしやすくなったと思いますし、またSBの高尾と黒川を経由させれば、ルーカスと菅が高い位置をとることになって最終ラインにスペースができやすくなると思いますが、そうした展開があまりなくシンプルにジェバリに当てる形が目立ちました。
- そしてジェバリもそこまでDFに背中を向けたプレーが得意ではなさそうで、宮澤を背中でブロックするようなプレーはあまりしない。どっちかというと、割とアバウトに放り込まれたボールをジェバリは競らずに宮澤を先に飛ばせて、そのクリアが不十分になったところを前を向いてタッチして味方を使う…みたいな前を向いてからのプレーが得意そうに見えて、まずガンバはジェバリにボールを押し付けるだけでは不十分だったと思います。
見え隠れするポヤトス監督の取捨選択、優先順位:
- 後半の選手交代は58分にガンバが食野→倉田。倉田も割と自由にやるタイプでウイングとしては微妙に感じましたが、ポジショニングは割とサイドに張ることを意識しており、後半のガンバはそこまでゲームプランを変えてなかったように思えます。
- その倉田が入った直後にコンサが2点目。コンサ得意のアバウトな放り込みからの二次攻撃で、ガンバの選手(ネタラヴィとクォンギョンウォン)のセルフジャッジで決まりました。
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好調の選手にボールは転がる
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小柏剛のシュートのこぼれをプッシュしたのは
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- 一ついうなら、(前から思っていて、書いたか書いてないか忘れましたけど)小柏はボールを持っていない時の走る能力が売りなのでFWよりも2列目から飛び出す役割の方が合っていると思います。ヨーロッパで多い1-4-1-2-3の陣形ならインサイドハーフとか。走れればいいという話でもないですけど。
- 66分にガンバはネタラヴィ→DFの佐藤で完全に3バック⇔5バックの1-3-4-2-1になります。以降はガンバが選手交代で徐々にコレクティブさが減衰していき、特にFWがジェバリから、更にDFを背負うのが得意ではない武蔵になると、この試合展開だとほぼ何もできなくなった印象でした。
【北海道コンサドーレ札幌×ガンバ大阪|ハイライト】2023明治安田生命J1リーグ 第26節 | 2023シーズン|Jリーグ https://t.co/2jUTsvwmcC @YouTubeより
— アジアンベコム (@british_yakan) September 2, 2023
雑感
- 後半のネタラヴィ→佐藤の交代で監督の取捨選択や優先順位みたいなのが見え隠れします。要はコンサのロングボールを使った攻撃を警戒していて、部分的に5バックを採用しないといけないと考えたのでしょう。
- でもそこまでする?って感じですけど、確かにDF4枚でコンサに対してうまくいかなかったチームはいくつかありました(だいたいは下位ですね)。またポヤトス監督の徳島は2021シーズンに札幌と対戦して、いずれも放り込み主体の攻撃で敗れていますし、その時のDFの中心が福岡でもあったので、そうした力関係も把握した上での選択だったのかもしれません。
- 個人的には、コンサはGKとDFのところでしつこくpressingをするとミスを誘発されやすい(これはJリーグ他のチームもあるあるですが)ので、ガンバも前線を多めにしてpressingしやすいシステム…具体的には1-4-3-3で前線のジェバリ、アラーノ、食野の3枚でコンサの後方の選手を捕まえるやり方でいいんじゃないか、という感想でした。
- ただそれを採用できないのは、FWや中盤の選手の基礎的な走力やコンディション、交代選手を含めたスカッドの状態、あとそもそも暑すぎてそういう「長い距離を走って広く守ってpressing」みたいな練習すらできない状態なのかもしれません。色々な要因があってこのゲームプランになったのかなと推察します。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。
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