2022年8月14日日曜日

2022年8月13日(土)明治安田生命J1リーグ第25節 北海道コンサドーレ札幌vsヴィッセル神戸 〜ご先祖様にお参りを〜

1.ゲームの戦略的論点とポイント

スターティングメンバー:

スターティングメンバー&試合結果
  • リーグ戦、天皇杯、ルヴァンカップ、そしてACLと4つのコンペティションを並行して消化するヴィッセル神戸。ルヴァンカップのベスト8で敗退したのは後々より重要な意味を持つかもしれません。
  • リーグ戦では、橋本拳人が先発した5/29(vs札幌)-7/16の7試合で13ポイントを稼ぎましたが、その橋本のバイト期間が終了して以降の2試合は連敗。空いたポジションには大崎や、夏のマーケットで加入した小林祐希(元ジュビロの4番)が試されていました。
  • 戦力を底上げしそうなのは、前節のセレッソ戦でデビューしたCB・マテウス トゥーレル。GKのミスとセットプレーで2点を失いましたが、個人としてはいきなり最終ラインのリーダーとしての風格を感じさせていました。負傷中の菊池を補ってあまりあるクオリティがありそうです。
  • 飯野は右SBまたは3バックにしてWBかと思っていましたが、山川をステイさせて1列前での起用。大迫と武藤がいるトップには長身FWのムゴシャが加わり、今夏もっとも精力的に動いたチームでしょう。

  • 前節、湘南相手にかなり久々に会心の勝利をおさめた札幌は、いい流れを継続すべく?ほぼ同じメンバー。菅が出場停止から復帰しましたが、青木はメンバー外となっています。

佐々木の先発起用:

  • イニエスタの欠場と佐々木の起用については、監督会見でやりとりがあったようで、これを読むと、前日に判明したとのことで、吉田監督としては緊急処置的な対応を迫られたのだと思います。
  • SPORTARIAのグラフィックからも感じられるように、神戸はマイボールになるとパスを繋いでプレーするという選択をほとんど取らず、ほぼ全てをトップの大迫に放り込む選択をとります。
  • そして佐々木はトップ下やインサイドハーフではなく、大迫と横並びの2トップの一角としてプレーしていました。イニエスタの代役ということで、大迫とは縦関係を予想していたため意外でしたが、これも監督コメントから推察すると、ボールを持っている時のプレーでは大迫と共に、ロングフィードのターゲットになることを期待されていたようです。佐々木がスターターとして攻守で試合を作って、勝負どころで武藤の個人能力を使って得点するゲームプランだったのではないでしょうか。

  • 改めてですが、神戸は札幌対策や、残留に向けてモデルチェンジした戦い方を準備してきたというよりは、あくまでイニエスタの欠場が直前に決まった事による応急処置の結果がこの試合のパフォーマンスだったように見えます。
  • 汰木のコメントを読んでも、特段そうしたトレーニングを熱心にやっているわけではないようです(少なくともイニエスタがいる限りはやりづらいでしょう)。
  • こうした選択はある意味で”相手を選ぶ”ところがあると思いますが、結果的にはこの選択が、札幌相手にはうまくハマったということで、まだ神戸は完全に運に見放されたわけではないのかもしれません。

2.試合展開

和製サグラダファミリア:

  • イニエスタが来日、Jリーグデビューしてからちょうど4年くらいが経過して、この日、札幌に乗り込んできた神戸のサッカーは、バルサというよりも手倉森ベガルタか、いつぞやのジムナスティック・タラゴナみたいなテイストを醸し出します。
  • 先述の通りトップには身体を張れる選手を2人。最近グアルディオラが「ゴール前から動かないFWを起用するのは好きじゃない」と言っていて、FWにもオールラウンドな能力を要求しているような感じでしたが、(オールラウンドの定義はともかく)センターフォワードを2人並べるのはかなりクラシカルな感じがします。
  • 中盤には相手を操ってスペースを作るというより、ハードワークのできる山口と、CB兼任のアンカー大崎。両ワイドは単騎で突っ込む汰木と飯野。山川は札幌によってある程度、放置されていましたが、山川が起点になる感じはしませんでした。
  • しかし前半で2点のリードを奪ったのは、これらの選手の頑張りや個人能力によるもので、ある意味ではイニエスタがいないことで、スカッドに最適化されたプレーができたともいえます。

いつもと異なるマッチアップの意図:

  • 神戸がボールを持っている時は、ほとんどが大迫に放り込むことになっていて、かつ、そこから何かが創造された感じもしないので、あまり深く追求しませんが、神戸に対する札幌のマッチアップはいつもと違っていたので確認します。
マッチアップ

  • 相手が2トップの時は、そのFWをマークするのは、以前はCB中央の選手(岡村)と、中盤センターの2人のうちサイズのある方の選手(宮澤)。
  • しかしこの試合は、宮澤が後ろに下がるのではなくて、菅が下がって4バックのSBに。岡村と高嶺で大迫と佐々木を見て、駒井が左に開いて山川を見るマッチアップ(配置、組み合わせ)に変えていました。

  • 狙いとしては、おそらく宮澤と深井を中央からあまり動かしたくないという考え方でしょうか。
  • 次に述べますが、ミシャスタイルの代名詞というか典型的な現象だった、中盤の選手が(プレッシャーの薄い)後ろに下がってCBの隣で最初のパス出し役を担う、をここ数試合は封印して、前節の湘南相手にもそうでしたが、ボールを持った時には中央の2人をピッチ中央にステイさせてプレーするように、ここ数試合は変えている。新聞報道で「スタイルを変えないことを確認」としましたが、すでに色々試行錯誤はしているわけです。
  • ボールを持った時に中央の2人をステイさせてプレーするのは、私の解釈では、ミシャの中では4年前、就任直後に札幌でやっていたのと同じ考え方になる。
  • つまり、パスを繋いでスペースを使って攻撃するというよりは、シンプルに前線に蹴って、セカンドボールを拾うために、本来よりも中央の枚数を+1としてボールを拾いやすくしたい、という狙いだと思います。
  • そのためには、宮澤と深井が中央から移動して、別の仕事をする機会を減らしたい。宮澤が下がってCBの仕事をするのではなくて、そこは高嶺に任せて、中央で神戸の選手と対峙することに集中する、というのが最初のプランで、マッチアップの変更もここだったとみます。

効いていた大崎:

  • 本題というか、この試合のメイントピック、最もシチュエーションとして多かった、神戸が札幌にボールを持たせて迎え撃つ場面での話をします。

  • ここもマッチアップや選手配置の話からします。以前よくやっていたミシャチームの典型的な形は、3人のDFのうち左右の選手が開いてサイドバックのような位置でスタート。CBの左(札幌では途中から左に固定された)に中盤の選手が1人下がって、オリジナルのCB(この試合だと岡村)と並んで4枚になる。
  • 7月の柏戦からは採用しているのは、(再度の話になりますが)中盤の選手を下げるのをやめて後ろは3枚のまま。この3枚の配置が左右非対称で、右には田中駿汰がいるけど、左SBの位置には誰もいないようにしている。
マッチアップ(左SBに誰もいない)
  • 再度の話ですが、理由としては中央に2人を置きたいからだと思います。その発端の一つが、退場者を出しながらも善戦した7月の京都戦。1人少なくなってから左SBを”空席”にしましたが、京都相手にボールはそこそこ前に運ぶことができていて、この試合はその後の何らかのヒントになったのでしょう。

  • さて、この試合に話を戻すと、神戸の狙いは、「中央でボールを奪っての速攻」。汰木の先制点も、2点目につながった宮澤のファウルもこの形からでした。
  • 中央でボールを奪うためには、コースを限定させた上で中央にパスを出させる必要があります。神戸はサイドハーフの飯野と汰木が札幌のサイドバックを切るポジショニングでスタート。ただし、飯野の背後には札幌の配置上、元々サイドバックがいないので、飯野はそこまで外に立つ必要がなかったところです。
高嶺からの展開を中央に誘導する神戸
  • 2トップは高嶺と岡村の正面に立って、まずそこから宮澤や深井に簡単に出させないように制限をかける。高嶺や岡村がもたついたら距離を詰めていくこともしますが、基本的にはパスを出させるためにコースを誘導します。
  • この前4人で誘導した上で、ボールを奪う役割が山口、大崎、CBのマテウストゥーレルと小林。場合によってはSBの酒井や山川も、近くの選手にパスが出たらまずアタックします。
  • 特に、山口もそうなのですが、大崎が中央でボールを回収することに何度か成功していて、1点目も大崎のボール回収から。この時は札幌の選手を潰したというかは安易なパスが大崎のところに転がってきたものでしたが、それ以外でも局面で大崎が強さを見せていて、CBだとあまり強い選手とのイメージがないのですが、中盤センターで起用されたこの日は札幌相手にいい働きをしていたと感じます。

高嶺の憂鬱:

  • スタンドの上の席で見ていると、神戸の狙いは見え見えで、また札幌相手にこうしたやり方をするのは過去にもいくらでもあったし、中央に誘導して速い攻撃を狙うのは今とても流行っているスタイルで普遍的ではあるのですが、札幌はそれに対して有効な策をほとんど示せずで、(声出し応援ができないこともあって)札幌ドームは沈黙の45分が流れます。

  • 札幌はほとんどのプレーで、左DFの高嶺にボールを集めてスタートします。
  • このあたりは、チーム内での信頼度のようなものが影響していると思っており、プレーでもパーソナリティでも中心で信頼があればボールは集まるのは、男でも女でも同じでしょう。岡村と並ぶと、高嶺にボールが集まるのはまぁそうだろうな、って感じですし、福森がいるときは、ボールを持っているときに最初に何とかしてもらう、との期待を仲間から背負っていたのは福森でした。
  • ただ、そのCB高嶺が持った時にどうするか、を神戸は明確に決めていて、中央へのパスを何度も回収してカウンターに成功していましたし、ならば一人で全部背負わせるのではなくてグループとして戦術的なソリューションが望まれるところ。
  • 例えばGKの菅野に一旦渡して、神戸がそこにpressingを仕掛けてくるかを見る。佐々木が菅野のところに来るなら高嶺への監視が甘くなり、中央にパスコースができるかもしれません。
  • あとは、大迫が90分守備で走り続けるのは難しいとするなら、高嶺が左、岡村が右でもっと広がったポジションをとって、5月の対戦で宮澤が試みたように▼、大迫が中央にステイしていてはいられなくなるような変化をするとかも、なくはなかったと思います。
  • しかしそうした戦術的なアクションがこの試合では全く見られなかった札幌。かつて、DAZNのドキュメンタリー番組で、横浜FCの下平監督(当時)が、「戦術はみんなのプレーを助けるためのもので縛るものではないよ」とミーティングで語っていましたが、コンサにはそうした、個人を助ける戦術がほとんどなかったと言えます。

  • そして高嶺が苦境に陥って、中央でのパスを拾われた理由をもう一つ述べると、札幌は左SBを置いていないので、中央で詰まった時にサイドに一旦避難するような選択が取れないという構図だったことが挙げられます。これは▼を見れば一目瞭然でしょうか。中央に誘導されても中央にパスを出すのは、高嶺の左には誰もいなかったからです。
左に誰もいないから、わかってて中央の罠にかかるしかない

  • この左右非対称陣形を採用した京都戦の途中と、柏戦と、湘南戦でどうしていたかというと、京都戦は右の田中駿汰に渡った時に攻撃が加速してチャンスを作っていたのと、柏や湘南相手には、シンプルに前に放り込んでいたのです。そして柏は上島を筆頭に強いDFがいますが、湘南は最終ラインが揃って空中戦に弱いので、放り込みがそのまま攻撃機械になった。それだけです。
  • 神戸は最終ラインが一定の強さがあるので、仮に放り込む選択をとっても、湘南のようにチャンスにはならなかったと思いますが、最低限、カウンターを避けるという点では、選択肢としては排除するほどではなかったかもしれません。

  • あとは、札幌の得意のパターンである、逆サイドのウイングバックに放り込む選択も一応あって、これは、高嶺に佐々木が寄せてきてもできなくはないのですが、これをしなかったのは、ボールを持たされて、考える時間があったので、シンプルな選択に逃げないようにした、とかそんなところでしょうか。なお私ならいきなり酒井の裏に放り込むよりも、最後にゴール前で左クロスから酒井のところを狙うようにします(スペースで言いました)。

ご先祖様のサッカーが帰ってくる:

  • 神戸の28分の先制点は、完全に狙い通りの形だったでしょう。

  • 得点と前後しますが、その少し前の25分前後から札幌は形を変えていて、最初は宮澤が左に出てくるようになって、”空席”の左SBを埋めます。
  • しかし宮澤が左で何かができる訳でもないし、ここは、元々は左足で非常に射程距離の長いフィードを持っている福森が蹴っ飛ばすことで、何かの形になっていた領域で、宮澤にボールが渡ってもかえって怪しくなるというか、神戸が奪って速攻に持ち込めるチャンスがさらに増える、程度の話だったと思います。

  • 最終的には、宮澤がCBの位置、佐々木の対面に下がって、高嶺が左。数週間前までいつもやっていた、中央に1人しかいない空洞化する形に戻します。
ご先祖様サッカー(中盤空洞化スタイル)へ

  • ただ、こうした形とかフォーメーションはあくまでhow to play…それで、どうプレーすんの?という話とセットになる。札幌の場合、この形は、中盤をすっ飛ばして前線に長いフィードを蹴るのとセット(チャナティップという稀代のボールプレイヤーがいると、チャナ一人で前と後ろをリンクしてくれることはあったが)。
  • 前半途中で、長いフィードを蹴るところまで、選手間で共通理解はおそらくなかったでしょう。形を変えたけど、それでどうすんの?という段階で、形を変えること自体はソリューションにはなりませんでした。

  • そしてATの2点目も、札幌の縦パスなのかクリアなのか微妙な縦へのボールを、神戸のCBマテウストゥーレルが前進守備で興梠を潰すところ、つまりは1点目と似たような形から。シュートは確かにGKにとって難しい反応でしたが、それまでの流れはゲームの中では非常に典型的なものでした。

  • 神戸は、札幌からボールを拾って早く攻める以外の形は、多分そんなに練習してないのでしょうけど、一つ言及するとしたら、大迫が中央〜左寄りでターゲットになって、汰木は左から中央方向に入ってプレーする。
  • 大迫のところを札幌のDFが1発で処理できず、札幌の意識が左サイドに寄ると、右サイドは比較的手薄になって、そのスペースに飯野がトップスピードで長い距離を走って、左からの斜めのパスの受け手としてボールを呼び込みます。
  • 飯野は止まった状態からドリブルで仕掛ける、とかだとそこまで違いを生み出すイメージはないのでしょうけど、札幌のように人をマークする守備でスペースを明け渡すチーム相手だと、その走力は効いている印象で、イニエスタがいないこの試合の戦い方では、前線のキーマンの一人だったと思います。

オプションは、あると言えばあるけど…:

  • 神戸相手に、ここ数試合のスタイルでうまくいかず、25分くらいで”ご先祖様のサッカー”に戻した札幌。前半終了時点での私の予想は、「福森を入れて完全に以前のサッカーにする」でしたが、後半スタートでは両チームとも選手交代なし。
  • 神戸は変える必要はないのでいいとして、札幌がすぐに動かなかった理由は、神戸のアタッカーに対処する能力を有する選手が限られているからでしょう。

  • 例えば、岡村は大迫に苦戦していたとはいえ、相手のFWとの競り合いではチームで一番。前半、ボールを持つ高嶺を菅野や岡村が助けられなかったので、岡村のところを宮澤や田中駿汰に変えてビルドアップを改善するのは、オプションとしてはなくもないのですが、そうすると誰が大迫を見る?となる。
  • どのオプションも、ディフェンスでのリスクを低減させるものではないので、1点もやれない状況では採用しにくかったのだと思います。

  • 結局、15分様子を見て、福森と荒野が準備。宮澤と深井を下げますが、福森は宮澤の位置に入って、サイドバックではなくてセンターバックとしての役割でプレー。高嶺が左でした。おそらくなのですが、左だと福森と飯野のマッチアップになるし、福森は攻撃参加したあとの戻りが遅いので、中央の方がリスクが低いと判断したのでしょう。
  • ただ、福森が一番後ろ、中央から角度のないボールを放り込んでも、神戸のDFなら難なく跳ね返すことができますし、そこから何をする?は札幌はあまり用意していたようには見えず。結局、後半は高嶺のやぶれかぶれっぽい左からのオーバーラップでカオスな展開を作るくらいしかできませんでした。

  • 神戸は福森が入った直後の67分に佐々木→武藤。大迫と武藤が並んで、コンディションの問題はともかく、今日本人で最も能力のあるFW2人のユニットになります。
  • 対するは岡村と福森。札幌をどれだけ意識していたのかはわかりませんが、福森が入ったタイミングで武藤をぶつけるのは非常に理にかなっているし、神戸はスカウティング自体はちゃんとしている印象なので、そこまで考えていた気がします。

雑感

  • 2年ぶりくらいにホームゲームに見参しましたが、90分を通じて静かで、ホームチームにとっては盛り上がるところもなくてびっくりしました。声出し応援がないのも理由ですけど、声を出せたとしても盛り上がるシーンがあったか…
  • 書いていない話としては、神戸がボールを持った時に、大抵はGK前川が蹴って終わりでしたが、札幌は興梠と小柏の前線守備があまり良くないというか、前川にはプレッシャーをかけられていなくて、それは興梠の守備でのパフォーマンスが一つ関係しているかもしれません。小柏は走力があるので、小柏ともう一人、守備が得意な選手がいれば、相手のGKやDFを困らせる展開にもできると思うのですが。

  • 神戸の試合はたまに見るのですが、イニエスタがいると、狭くてかつ低い位置からの守備にどうしてもなってしまう。かつ、今は低い位置からボールをあまり運べないので、大迫が頻繁に下がってくる、という印象でしたが、この試合に関してはイニエスタ不在でうまくプレーできた印象があります。
  • 個人的には、低い位置で守るならフィンク時代のような3バックで、前線に大迫とイニエスタ、さらに労働者タイプのアタッカー(武藤にやらせる?)みたいな組み合わせか、いっそ65分くらいからイニエスタが出てくる方がバランスが良くなるような気もします。
  • ともかく仏様がいるといないとで展開がガラッと変わりますが、ここまでボールを捨てるのは少し予想外ではありました。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。

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