1.ゲームの戦略的論点とポイント
スターティングメンバー:
スターティングメンバー&試合結果 |
- 浦和は約1ヶ月ぶりの公式戦。東京オリンピック開催に伴う中断期間に酒井宏樹、ショルツ、江坂が登録されましたが、江坂以外はおそらくコンディションの観点で招集外。
- また名前が明かされていませんが、7月末に新型コロナウイルスの陽性者が1名発表されており、該当者抜きでメンバーを組んでいると予想します。左は明本が所謂「幅を取る選手」で、宇賀神と並べるチョイスは珍しい。ゴールラッシュでチームを牽引してきたユンカーのベンチスタートは戦術的な理由でしょうか。
- 札幌は、2ヶ月半前の16節の鳥栖戦以来に深井がスタメン復帰。荒野との序列は流動的ですが、唯一の左利きでキープレイヤーになっていた高嶺を下げることでの影響が注目されます。
- ルヴァンカップでの活躍により重用されてきた青木がベンチスタートで、菅の起用も含め、対人守備での強さを重視しているような印象もあります。ジェイ投入のタイミングでルーカスを右からずらしそうなスカッドである点は依然として気になりますが。
ゲームプランと「解釈」の推察:
- サクッと試合展開(スコア推移)を振り返ると、ユンカーがベンチスタートの浦和に対し、札幌が8分に深井、58分に小柏の得点で先行。2-0となった後の62分にユンカーの投入が浦和の最初のカードで、66分に明本の見事なボレーシュートで1点差に迫りますが札幌が逃げ切る、というゲームでした。
- 札幌の試合への入り方はいつも通りなので割愛するとして、浦和はユンカーの起用法もそうですし、チーム全体の振る舞いを見ても、札幌の足が止まる60分まで仕掛けるのを待っていたのだと思います。
- ユンカー以外にその論拠を挙げると、両ワイドの選手起用があります。右に関根、左に明本でしたが、左で起用されることが多い右利きのドリブラー・汰木ではなく明本を起用し、タッチライン際からスタートさせることで、浦和のボール保持からの展開はゴール方向よりも、コーナーフラッグ方向に向かってプレーすることになります。
- 汰木が左サイドで右足でボールを持つと、そこからの展開はドリブルにしろクロスボールにしろゴール方向に向かってプレーすることになる。札幌相手にそれを試合序盤からやると、アップテンポな試合展開になりやすい。撃ち合って問題なく勝てるならいいのですが、中断明け初戦ということもあってか、札幌の足が止まるまではスローテンポで進めたかったのだと思います。
- EUROのスペイン代表も、ルイス・エンリケ監督は、スタートは右に右利きのフェラン・トーレス、左に左利きのサラビアを配置して、両者があまり中央に入ってこないようにプレーさせる。30分前後でゲームの”スキャン”が終わったところでポジションを入れ替えて、カットインやゴール方向に向かうプレーを解禁していたのと似た考え方だと思います。
予想通りの展開と相違点:
- 浦和がボールを保持するときの配置とマッチアップから確認します。
- DAZNのカメラワークの問題もあって一部は想像の範疇です。具体的には、浦和ゴール付近で(ゴールキック等のシチュエーションで)プレーが開始するとき、西川、槙野、岩波、柴戸、伊藤、宇賀神あたりの配置は確認できますが、例えば西は画面に殆ど登場しない位置にいる。
- 断片的なshotからの想像ですが、西はSBでありながら敵陣ハーフスペース付近のポジションをとっていたようです。右CBの岩波が、”予想通り”、札幌のマンマークに対峙してボール運びに苦しむとき、浦和の右サイドに出てくるのは西ではなくて、ワイドポジションから下がってくる関根であり、中央から下がってくる江坂or興梠だったのでこう判断しています。
- 逆に、明本と宇賀神が並ぶ左サイドは、宇賀神は比較的、画面に登場する機会があり、明本も大外をアップダウンしていたようなので、レーンをシェアするというよりは高さを意識したポジショニング及び役割になっていたのでしょうか。
浦和のボール保持時の移動とマッチアップ |
- 予想通り、としたのは、最近このブログでよく書いている話です。
- 大型補強で巻き返しの雰囲気を醸し出す浦和ですが、槙野、岩波、柴戸、伊藤のユニット(ほか、サブの阿部、金子、トーマスデンetc)には改革の手が及んでいない。
- これらの選手はフリーの状態でロングフィードを蹴るとか、所謂”ギャップ(もしくはスペース、人の間)で受ける”のは一定の能力があると思いますが、それこそミシャチームが昨今展開するような、ボールを持った瞬間に正対した角度から突っ込んでくる守備者をCaracolesとか180度のターンで回避するようなスキルはない。
- マンマークの札幌は”ギャップ”を許容しないポリシーとも言えるので、岩波は常にチャナティップが目の前にいて、柴戸も駒井を背負っている。浦和には、相手と正対している、または背負った状態でボールをキープし、味方に繋げる(展開する)ことが可能な選手が何人いたでしょうか。
- 私の見た限りでは興梠は頼りになるとして、江坂もこの日はともかく柏でのプレーをみていると、できる。しかしこの2人は本来最前線の選手で、そこにボールを届ける中盤の選手からこうしたスキルは検出できませんでした。
- 何度も書いていますが、札幌の守備が機能するのはこうした1人1人のスキルによる力関係のところが大きい。マンマークされると簡単に沈黙するのは、リーグでは予算規模が大きいはずの浦和も他のチームと同じでした。
かつてハリルホジッチが言ってた、「Jリーグは大抵ミスマッチの局面から何かが起こる試合が多い」はこの点で非常によくわかる。
— アジアンベコム (@british_yakan) August 9, 2021
- ハリルが言ってたのはこういうことだったのかなぁというか、数的同数で対処しないといけないようなシチュエーションでも、数的優位という名のミスマッチを作る。それでうまくいくならいいけど、手薄な反対サイド使われたらどうするの、とか数的不利になってるエリアはそのままでいいの、とかそうした問題提起をしたかったのでしょうか。
- 以前も言いましたが、この意味ではミシャの言うZweikampfの重要性は、原則論では正しいと思います。
- 予想との相違点の話です。これは札幌が設定したマッチアップにあり、前線は右に金子、左に小柏でチャナティップがインサイドハーフが通常の設定ですが、この日は右に小柏、チャナティップを左のFWに上げ、金子をインサイドハーフとして相手を捕まえるシチュエーションが多かったと思います。
- これによって何が違うかというと、小柏、チャナティップといった選手が浦和の誰をマークするかがまず変わります。ただ、例えばチャナティップの対人の強さは守備でも効きますが、これを浦和の誰にぶつけたかったかというとわからないです。
- もう一つは、ボールを回収した際にチャナティップが前、金子が下がり目、小柏が右寄りからスタートすることが多くなります。前に配置される選手は一般に、ディフェンスの際に極端に下がって対応するタスクからも免除されます。
- 小柏の2点目は、チャナティップが前残り気味の位置でボールを回収したことですぐにラストパスに移行することができ、この普段と違う配置が活きたといえます。金子は低い位置からでもボールを運ぶ能力があるので、こうしたオフェンス時の得意なプレーを意識した措置だったのかもしれません。
🎥Match video🎥
— 北海道コンサドーレ札幌公式 (@consaofficial) August 9, 2021
【2021明治安田生命J1リーグ 第23節】
札幌 VS 浦和
後半21分
チャナティップ選手からボールを受けた小柏選手
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2.試合展開(前半)
最初の温度感:
まずお互い誰がどういうシチュエーションでフリーになるか、を見てたけどヒーローの人があっさり点取ったね。
— アジアンベコム (@british_yakan) August 9, 2021
🎥Match video🎥
— 北海道コンサドーレ札幌公式 (@consaofficial) August 9, 2021
【2021明治安田生命J1リーグ 第23節】
札幌 VS 浦和
前半8分
福森選手の絶妙なクロスに深井選手が高い位置で頭を合わせゴール!
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- 浦和のボール保持・札幌のボール非保持のシチュエーションでは、冒頭に書いたように札幌は浦和の人の移動にも決めた通りのマッチアップでついていきます。
- この状態では、基本的には札幌の誰かがマークを極端にサボらない限りは簡単にフリーの選手が生まれない。
- 浦和のバックラインに、同数関係下でボールを運ぶ個人戦術が乏しいとすると、浦和は唯一フリーの西川が砲台となって長めのフィードを前線に当てていくか、柴戸や伊藤のところで前を向けるか模索するか、といったところですが、後者に関しては札幌は駒井や金子が狙いどころとしていて、前を向こうとする選手を刈り取る守備が機能していました。
- 浦和の特徴的な構図を一つ挙げると、ボールを運べなくて苦労しているシチュエーション下で、冒頭に書いたように西はあまり画面に映り込まない(下がってこない)。むしろ、前線の興梠や江坂が中盤センターや、サイドバックみたいな位置まで下がってきてボールを収めようとします。
- 言うまでもなく彼らは本来ゴール前で仕事をする選手なので、組み立ての段階で極端に下がってくると、その”本来”の仕事をするためにゴール前に顔を出せなくなります(2人ともシュート1本に終わっています)。
下がってくる江坂と興梠 |
- ただ、冒頭で見たように浦和のゲームプランを考えると、ユンカーが入るまではゴールに向かってプレーする気がないなら、中央の選手がトップレス気味になっても狙いは達成できますし、特に興梠は相手を背負ってのプレーが得意な選手なので、ユンカーの温存とは別に彼の特徴を序盤は活かした試合運びを期待していたのかもしれません。興梠が下がってボールを収める展開はゲームプランと紐づいていたとも考えられます。
- それでも興梠と江坂以外は、札幌がボールを奪えなさそうなところはあまりなくて、浦和は総じて窮屈そうにプレーする時間が続きます。次第に札幌ボールの時間が多くなります。
微妙なかみ合わなさ:
- 札幌がボールを持つ展開になります。浦和としてはこれは想定内、許容範囲内で、あまりこのシチュエーションを嫌っているような(≒とにかくボールを奪い返そう、みたいな振る舞いにつながる)印象はありませんでした。
- 浦和は1-4-4-2でセットします。札幌は、特筆するなら駒井がアンカーで、浦和の2トップの背後でプレーするというより宮澤と深井の間に頻繁に落ちてきます。いずれにせよ、札幌は深井か宮澤がサイドに展開するところから始まり、浦和の2トップは中切りでどちらかのサイドに誘導します。
- シンプルに札幌にとってありがたく、浦和にとって対処が難しかったのは、福森からの展開だったと思います。タッチライン際の狭いスペースでも、利き足に収めてしまえば簡単に失わないので、深井はこのシチュエーションにおいては福森を非常に信用していました。
- 加えて、浦和はサイドハーフが深井と宮澤に出てくる形になりがちで、関根が福森をケアするのは遅くなる。これは西がスライドするとか、特定の人を決めるというよりゾーナルに対応する方針なのですが、左サイドに福森、菅、チャナティップと3人いることもあって、ここで浦和が札幌の選手を捕まえることは難しく、最後は得意の長いサイドチェンジもしくはフィードで展開して、勝負する役割の選手…右のルーカスが登場することが多く、このパターンが出ているときは、札幌はスムーズにボールが動きます。
浦和はサイドハーフが深井と宮澤に出てくる形になりがち |
- ただしゴール前にターゲットがいないので、ルーカスのクロス以降は尻すぼみな展開でもありましたし、浦和陣営としてはこの点を考えて、最終的には自陣ゴール前でサイドからクロスボールを上げられる分には問題ない、という対応に見えました。
- 時折ルーカスは変化をつけてマイナス方向に折り返したり、金子(インサイドハーフの役割を担うので低い位置からスタートし、この日はルーカスとあまりかぶらない)が内側をインナーラップしてそれを使うとか”アイディア”を見せていましたが、散発的な思い付きはあまり効果的ではありませんでした。
- ルーカスの仕掛けを止めれば、札幌の攻撃らしい攻撃はかなり薄れるので、宇賀神に期待された仕事はこの点だったのかもしれません。セットプレーでの得点以外は静かに前半が終了します。
3.試合展開(後半)
今日は先を行く:
- 後半立ち上がりから浦和の変化は、前線守備に柴戸や伊藤が加わって、駒井がボールを保持するときに1列上がってプレッシャーを強めてきたことでした。駒井が前半からすごく効いていた、とは感じないですが、簡単に前を向けなくなると、札幌がボールをリリースするタイミングは早くなり、ややオープンな展開になっていきます。
- その意味では小柏の得点時の槙野の対応は、プロ15年のキャリアがある選手としては残念なものだったでしょうか。2点のリードとなったことで、札幌は珍しく?守りのメッセージのある交代を早めに行い、高嶺と荒野が投入されます。
- これ以外にも、82分の柳と岡村の投入もそうですし、浦和としては時間経過と共にオープンになっていって、フレッシュなユンカーが脅威になる想定だったのでしょうけど、札幌が妙に警戒心が強く、ATにクロスボールからユンカーのヒヤッとするシュートはありましたが、全般には先手を打つ選手起用で対処できていたと感じます。
4.雑感
- 久々のリーグ戦ということもあってかお互いローテンションというか、オリンピックの(サッカーに限らない)パッションがプレースピードとなって表出する試合と比べるとおとなしい展開でした。こうなると飛び道具を持っている福森の、相手守備を打開する能力は頼りになりますね。
- あとは、ミシャはやはり浦和戦になるとまとも、というと多いに失礼ですが、例えばルーカスを左で使うとか、とにかくジェイを入れて放り込むとか、凡人には理解しがたい采配が減り、深井の起用だったり現実的な采配が増えるように思えます。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。
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