スターティングメンバー |
北海道コンサドーレ札幌のスターティングメンバーは3-4-1-2、GKク ソンユン、DF菊地直哉、増川隆洋、福森晃斗、MF石井謙伍、前寛之、宮澤裕樹、堀米悠斗、ヘイス、FW都倉賢、内村圭宏。サブメンバーはGK金山隼樹、DF永坂勇人、MF河合竜二、上里一将、中原彰吾、小野伸二、FW上原慎也。ここ2試合左ウイングバックで出場していたジュリーニョが、10/6の練習中に故障(右ハムストリング肉離れ)し離脱。
別に機会に書こうと思うが、今期の札幌は戦術構造上、サイドの選手の攻守にわたる負担が大きく、マセードが少なくとも3回、石井が1回、筋肉系の故障で離脱している。またサイドを担当する選手では上原、堀米、荒野もちょくちょく離脱していた時期がある。 ジュリーニョの離脱も、サイド起用されたことで一層のハードワークを強いられたことと無関係ではないだろう。10年前に西谷正也を頑なに先発で使わなかった柳下正明監督の気持ちが今となっては非常によくわかる。ジュリーニョの代役には堀米が起用され、また中原がベンチに入っている。
水戸ホーリーホックのスターティングメンバーは4-4-2、GK笠原昂史、DF田向泰輝、細川淳矢、福井諒司、内田航平、MF白井永地、佐藤祥、兵働昭弘、湯澤洋介、FW平松宗、佐藤和弘。サブメンバーはGK本間幸司、DF今瀬淳也、佐藤和樹、伊藤槙人、FW山村佑樹、宮本拓弥、久保裕一。登録上は3-6-1だが実際は4-4-2で、平松と佐藤和弘の2トップ。
前回対戦時とかなりメンバーが変わっているが、スカパー中継の情報ではロメロ フランク、船谷、萬代が故障者扱いされておりFWが足りていない様子。佐藤祥はSBでよく起用されているようだが、この日はボランチに入っている。
またエースだった三島は7月下旬に松本に移籍。もっとも、三島を失った後の10試合は3勝5分け2敗とまずまずの戦績でここまで乗り切っており、更にこの10試合は、バンディエラである本間から笠原にGKを変えた期間と一致している。
1.前半
1.1 またしてもヘイスの先制ジャブ
開始直後ペースを握ったのは札幌で、発端となったプレーは3分頃、中盤で受けたヘイスへのファウルによりフリーキックを得てから。このロングレンジのフリーキックをヘイスが直接狙うと枠内に無回転気味の強烈なシュートが飛び、水戸GKの笠原が右手1本で掻き出すが、厚別はどよめきに包まれるとともにCKを得る。
CKは水戸が跳ね返すが、セカンドボールを左サイド堀米、福森と展開したところでサポートしてきた宮澤がフリーで左足のクロス。この時、ゴール前に札幌はCKのまま残っていた増川、都倉、ヘイス、内村がおり、水戸も4選手を確保しているが、水戸のDFは全く人に付き切れていない。特に4人のDFのうちボールサイドから数えて2番目、白井の動きが謎で、宮澤がクロスを上げる体勢になると守備位置と札幌の選手を放棄して宮澤のほうへ向かっていってしまう。
結果クロスを受けた瞬間、札幌はヘイスが一瞬フリーになるが、バウンドさせたトラップ(本人曰くトラップミスだったらしいが)から素早く体を畳んでジャンピングボレーを叩きつけるという美しいゴールで開始5分、先制に成功する。
サポートした宮澤からフリーのヘイスへ |
1.2 水戸ナチオ2016 秋 ~前進守備戦術の用意~
1)前進守備なくして勝利なし
アウェイゲームではここ4試合無得点と苦しんでいる札幌だが、前のホームゲームである33節町田戦に続くヘイスの序盤のゴール。このゴールで、基本的な試合の構図も町田戦とやや似た状況…守りからリズムを作りたい、順位が下のアウェイチームに対してホームの首位札幌が先行するという展開になる。
先行された側のアウェイチームとしては、勝ち点を得るためには当然、ボールを奪い返して攻撃の局面を作らなくてはならない。後ろで待ち構えて札幌のミスを待つだけのサッカーでは、そもそも札幌がバランスを崩すかしょうもないミスをしなければ永遠に攻撃機会を得ることはできないし、またパスを回されて疲弊してしまう。そうしたチームの末路は第25節の岐阜のようになってしまう。
一方、前のホームゲームで対戦した町田や、その前のホームゲームで対戦した群馬もそうだったが、これらのチームはポゼッションを行う札幌に対し、効果的なプレッシングを仕掛けることができるので、ボールを回収して攻撃機会を作ることができていた。
2)用意していた水戸
そしてこの試合の水戸はというと、5分でスコアが動いた直後から水戸が繰り出してきたのは高い位置からのプレッシング。増川を中央に置いた札幌が低い位置からポゼッションを開始すると、2トップはセンターサークルを超えた高い位置からサイドに追い込むようにプレッシャーをかけていき、3バックの横に落ちていた宮澤に渡ったところでサイドハーフの白井と連携して挟み込む。
高い位置から4-4-2ゾーン守備を開始して札幌のポゼッションを阻害 |
この時は宮澤が冷静に、ドリブルを挟んでから縦パスを通すことに成功しているが、水戸は最終ラインもアグレッシブに押し上げて都倉にプレッシャーをかけ、都倉→堀米の雑なパスからボールを回収することに成功している。
こうした能動的なアプローチ…柳下正明氏の言葉を借りれば"アクションサッカー"、もしくは、かつて"水戸ナチオ"と揶揄された受け身の守備とは全く異なる戦術で札幌に対抗している。
常々思うのは、群馬にせよ水戸にせよ横浜FCにせよ、J2の数チームはリーグ戦の後半、残り1/4くらいの試合を残した時期になると急速に戦術がチームに浸透し、前半戦とは別のチームに変貌したかのような戦いぶりを見せる。そして毎年、上位を争うチームを喰っているのだが、選手の入れ替わり等はあるにせよ、そうした戦術はリーグ戦序盤から落とし込むことはできないのか?という気もする。
但し、水戸の守備で町田や群馬よりもやや練度が足りないと感じる点は、FWのプレッシング開始位置がややアバウトで、例えば2トップが札幌側陣地のセンターサークル頂点付近にいる時に、プレッシングを開始する時とそうでない時がある。
この場合、問題になるのは"そうでない時"で、プレッシングを開始する準備として最終ラインを押し上げているので、ボールにプレッシャーがかからないと、札幌は裏を狙い放題になってしまう。
先述のように水戸の守備は整備されていて、ある程度機能していたが、Football Labのポゼッションデータが示す通り、この試合の前半は主にボールを保持する時間が長かったのは札幌であった。言い換えると、水戸はボールを回収することはできていたが、そこからボールをキープしてなかなか攻撃に繋げることができなかった…札幌は時間をかけず、再びボールを奪い返すことに成功していたという前半の試合展開であったといえる。
下の図は13:45頃の札幌のポゼッションに対する水戸の守備。札幌が一度深い位置までボールを運んだあとで、水戸は陣形が押し下げられているが、菊地→福森の横パスでFWがプレッシングのスイッチを入れ直したところで、福森の縦パスのコースを佐藤和弘が限定している。この動きに連動して、福森→宮澤のパスは佐藤祥が潰し、水戸がボールを回収したところである。
水戸は田向がボールを回収した後、舵取り役である兵働にパス。この時札幌はすぐに攻→守を切り替えていて、前寛之が兵働に前を向かせないディフェンスを行う。兵働はターンできず、攻撃方向に背を向けたままのパスを強いられる。
この時、前寛之が兵働の右背後から迫ってきたということもあって、兵働は逆側、兵働から見て左…水戸の攻撃方向で右サイドの白井にパスを送る。
3)開始位置はややアバウト
但し、水戸の守備で町田や群馬よりもやや練度が足りないと感じる点は、FWのプレッシング開始位置がややアバウトで、例えば2トップが札幌側陣地のセンターサークル頂点付近にいる時に、プレッシングを開始する時とそうでない時がある。
この場合、問題になるのは"そうでない時"で、プレッシングを開始する準備として最終ラインを押し上げているので、ボールにプレッシャーがかからないと、札幌は裏を狙い放題になってしまう。
1.3 札幌がデュエルを制していたのは何故か
1)奪い返した後にボールを持つ時間を作れなかった水戸
先述のように水戸の守備は整備されていて、ある程度機能していたが、Football Labのポゼッションデータが示す通り、この試合の前半は主にボールを保持する時間が長かったのは札幌であった。言い換えると、水戸はボールを回収することはできていたが、そこからボールをキープしてなかなか攻撃に繋げることができなかった…札幌は時間をかけず、再びボールを奪い返すことに成功していたという前半の試合展開であったといえる。
下の図は13:45頃の札幌のポゼッションに対する水戸の守備。札幌が一度深い位置までボールを運んだあとで、水戸は陣形が押し下げられているが、菊地→福森の横パスでFWがプレッシングのスイッチを入れ直したところで、福森の縦パスのコースを佐藤和弘が限定している。この動きに連動して、福森→宮澤のパスは佐藤祥が潰し、水戸がボールを回収したところである。
宮澤が潰されて水戸がボールを回収 |
2)狭いエリアで奪った後はボールを逃がさなくてはならない
この時、前寛之が兵働の右背後から迫ってきたということもあって、兵働は逆側、兵働から見て左…水戸の攻撃方向で右サイドの白井にパスを送る。
しかしこれでは下の図のように、右→中→右と同一サイドの狭いエリアでの展開になってしまい、直前の攻撃で選手を集めていた札幌のディフェンスにかかってしまう。結果プレスバックした堀米が白井に追いついて引っ掛け、福森がボールを回収する。
この時に水戸がとるべき選択肢は、オープンな反対サイドへの展開だった。白井ではなく湯澤サイドにボールを逃がし、確実にポゼッションから攻撃陣形に移行する時間を作ることができる。
下の写真は、画質が荒くてわかりにくいが、田向が兵働に左手で逆サイドのパスコース(湯澤)を指示しているのがわかる。もっとも、この選択はその場で判断するというより、技術と経験を買われてボランチで起用されているベテランの兵働ならば戦術上のセオリーとして叩き込んでおきたいところで、ここで適切なかじ取りができないと攻撃の時間を作ることは難しい。
また湯澤は中央に向かって走っているが、これはスピードに乗ってゴールに向かい、カウンターで仕留めようという動き。湯澤と平松で仕留められる計算があるならばよいが、サイドに開いてキープし、陣形を押し上げる時間を稼ぐという選択肢もある。おそらくだが、中央のコースは石井の献身的なスプリントで埋められているので、サイドに開いたほうが得策だったように思える。
下の写真は、画質が荒くてわかりにくいが、田向が兵働に左手で逆サイドのパスコース(湯澤)を指示しているのがわかる。もっとも、この選択はその場で判断するというより、技術と経験を買われてボランチで起用されているベテランの兵働ならば戦術上のセオリーとして叩き込んでおきたいところで、ここで適切なかじ取りができないと攻撃の時間を作ることは難しい。
セオリーと逆方向に展開してしまう |
また湯澤は中央に向かって走っているが、これはスピードに乗ってゴールに向かい、カウンターで仕留めようという動き。湯澤と平松で仕留められる計算があるならばよいが、サイドに開いてキープし、陣形を押し上げる時間を稼ぐという選択肢もある。おそらくだが、中央のコースは石井の献身的なスプリントで埋められているので、サイドに開いたほうが得策だったように思える。
狭いエリアで展開してくれたことが幸いし、札幌がボール回収に成功 |
1.4 水戸に65分間シュートを撃たせなかった札幌の守備
1)水戸のビルドアップ
水戸がボールを持った時、札幌の守備対応はいつも通り、自陣に撤退して5バックを中心にブロックを構築して迎撃するやり方。
水戸のポゼッション時の基本陣形は、ここ数試合札幌の対戦相手が見せてきたのと同じく、中央でCB2枚+2ボランチの4枚を確保し、サイドバックを高い位置に押し上げるやり方。どちらかというと左サイド、CBの福井を起点にし、内田を押し上げる形がよく見られた。
内田がタッチライン際で高いポジションに進出すると、サイドハーフの湯澤はクロスする動きで中に絞る。すると下の図のように、札幌は対面の石井がどちらに付くべきが迷いが生じる。
ここから湯澤に縦パスをつけることもできるが、水戸が前線で頼りにしているのは大型FWの平松で、平松に当ててから湯澤なり周囲の選手が拾って二次攻撃、という形を狙っていた模様である。
中央4枚で安定させてサイドバックを押し上げる |
2)中央から押し出す守備と5-2ブロックを補強するFWの守備貢献
この水戸の攻撃に対し、札幌は5バック+2ボランチの5-2ブロックで中央を固め、積極的な迎撃守備で水戸の攻撃をブロックの外に押し出していく。そうしてゴールから遠ざけて時間を稼ぐとともに、前に残っていた3人のFWもプレスバックすることで中盤でボールを持とうとする選手を挟み込むことができる。
札幌は中盤にボランチの2人しか選手を配していないが、これは言い換えれば、FWが中盤まで下がり守備に加わる形を作れれば、守備の連動性、堅牢さは格段に増す。下の図、12:45の水戸の攻撃では、湯澤がピッチを横切るように中央をドリブルしたところで、都倉が進路をふさぐようにプレスバックし、前寛之がボールを奪うことに成功している。
5-2ブロックでの迎撃とFWのプレスバックで包囲する |
3)FWが気持ちよく守備ができる展開?
これまでの試合を見ていると、札幌のこのFWのプレスバックによる守備は結構アバウトで、試合や選手個人によるばらつきが結構ある。もっとも、アバウトというか、そもそも前3人は攻撃の選手で、攻撃7:守備3くらいの考え方で起用しているとも言え、あえて守備に加わらず攻撃に力を残しているとの見方もできるが、内容が悪い試合というのは大体、守備が機能していない試合、そしてその要因の大きなものは、FWが守備に加わらず、中盤を2人で守る構図ができてしまっている傾向が多くなっていると思う。
選手個人では、最も貢献度が高いのは都倉。恐らく四方田監督も都倉をなかなか下げないのは、攻撃以上に守備での貢献度を買っていると思われる。ヘイス、内村、ジュリーニョは大差ないと思うが、ヘイスは比較的頑張っている印象である。
試合展開によっては、ほとんど守備に加わらず中盤がスカスカになってしまっている試合もたびたび見られているが、この日は早い時間に先制したこともあり、普段の試合以上に、前線の選手が守備にエネルギーを割くことを厭わず、献身的な姿勢を見せる。
都倉のプレスバックで挟み込む |
1.5 徹底したいニアゾーンのカバー
1)前半の数少ないピンチ
前半見ていて、おそらく水戸の左サイドから崩しが成功しかけたのは1度、下の図で示す19:27頃の攻撃で、サイドに流れた兵働からの縦パスを佐藤和弘がフリック、湯澤がニアゾーンに侵入した場面。この時、札幌はボールサイドで石井が内田に対して出ていき、5バックから1枚減って4バックになるが、まず左サイドの堀米の絞りが甘く、4バック化できていない。
加えて菊地が湯澤を迎撃しに出てスペースを空けているので、増川と福森はスペースをカバーしなくてはならないが、増川は佐藤和弘に釣られてサイドに釣り出されてしまう。するとニアゾーンを見れる選手が誰もいなくなり、湯澤にボールが渡って決定的な場面になりかけるが、何とか福森と前寛之がブロックしてコーナーに逃れた。
菊地が迎撃に出た背後はちょうどニアゾーン |
2)札幌は何故5バックなのにニアゾーンが空くのか
<迎撃型守備ならば4バック化すべき>
札幌の守備は5バックで最終ラインに人数を確保し、間で浮いた選手を捕まえに行く迎撃型の守備と、一般的なゾーンディフェンスを応用した守備のやり方を併用しているが、この時、迎撃守備だといって浮いた選手を全員で捕まえに行くと最終ラインはスカスカになってしまう。
上記の局面で言うと、最もパスが出やすく、ターンされると危険な位置にいる湯澤を迎撃した菊地の判断が正しい。一方、石井は早い段階で内田にマンマーク的に付いていたが、内田はサイドにおり優先度が低い。石井は内田につくのではなく、中央に絞ってほかの選手と4バックを構成すべきであった。これができていれば、増川がサイドに流れる佐藤和弘についていくこともなかったと思われる。
5バックから菊地が離脱すると、残り4名で4バックを作るのが基本 |
<4-3に変形する場合はボランチのスライドが甘い>
ただ難しいのは、札幌は相手のサイド攻撃に対して下の図のようにウイングバックを前に出し、5バックから離脱させて4-3の後方ブロックで守る形も併用している。この場合、間で受ける湯澤の対応に菊地が出るというのは、後方を更に手薄にしてしまうためリスクが大きく、前寛之がスライド対応するというやり方が定石になる。
前寛之の大胆なスライドが求められる |
今シーズン後半戦の戦いを見ていると、おそらく札幌の基本的な守り方は後者…サイドの広範囲をウイングバックがカバーするやり方を採用しているため、今回のケースでも、前寛之がスライドできなかったことと、釣り出されてしまった菊地の判断がピンチを招いたということになるのだと思われる。
1.6 ヘイスのふわふわ時間
1)四方田札幌におけるヘイスの重要性
今シーズンの札幌の守備のコンセプトは、一言でいうと「無理をしない」。具体的には、CB中央に定着した増川を中心に深めのDFラインを設定し、最終ラインの裏のケアを特に重視している。その甲斐あって、今シーズンのリーグ戦で34試合を戦っているが、縦パス1発で裏を取られて失点、という局面は未だにない(天皇杯の岡山戦で矢島⇒豊川ラインにやられたが)。
ただこの戦術の問題点は、ボール回収位置が低くなること。一度押し込まれる状態を作ってしまうと、そのまま2次攻撃を受けて押し続けられるということになりかねない。
これを回避するためには、ボールを高い位置に押し出し、札幌の選手の陣形を押し上げる必要があるが、この時重要な役割を果たしているのが前線の都倉やヘイスで、特にトラップが上手くボールをキープできるヘイスの能力は非常に重要である。札幌の選手としては、ボールを回収したらヘイスに預ければ、確実に数秒時間を作ってくれるので、その間にポジションを押し上げ、ぽぜっションを安定させ、守勢に回ったとしても盛り返すことができる。
序盤戦、ヘイスのコンディションが上がらず、ドリブラーであるジュリーニョがトップ下で起用されていた期間は、札幌は勝ち点を拾ってはいたものの、力のあるチーム…セレッソ大阪やジェフ千葉、松本山雅との試合では、ボールが収まらず、攻守が頻繁に入れ替わる(=オープンな展開になりカウンターの応酬)という展開になりがちだったように思える。
2)ヘイスが浮いた理由
この試合でも、ヘイスのキープ力は水戸相手に存分に発揮されていた。ヘイスの"巧さ"はたびたび言及してきたが、①相手選手を背負った対人プレー、②相手ディフェンスの間で浮く"間受け"、の両方がJ2レベルでは傑出している。
特にこの試合では上記②、相手DFから浮いて受ける局面が非常に多く、水戸の守備が捕まえられない状況が非常に多かった。
ヘイスがなぜ浮くことができていたかというと、一つはシステムのかみ合わせ上、4-4-2の水戸はヘイスへのマークを用意しにくいという点。もう一つは、水戸の2トップが高い位置からプレッシングを開始し、それにMFも連動して動いていったが、最終ラインはそこまで高い位置に押し上げることができなかったから。
水戸は序盤こそ、最終ラインをハーフウェーライン付近まで押し上げる、かなり強気なラインコントロールを見せていたが、10分過ぎころからラインをそこまで上げられなくなる。これは札幌の2トップ、都倉と内村が代わる代わる2人で水戸の最終ライン裏を狙い続け、福森や菊池からの縦パスを引き出すとともに、水戸の最終ラインを押し下げる役割を担っていたため。すると水戸はMFは前方向、DFは後ろ方向に引っ張られるので、必然的にDF-MF間のスペースが空き、ヘイスに使われてしまう。
水戸のMF-DF間が空き、ヘイスが浮く |
具体例を写真で示すと、下の15:03の段階では水戸DFはヘイスを見れる、仮に縦パスが入れば背後から潰しに行けるポジションにある。4秒後、15:07の段階では、福森から裏へのパスを警戒して水戸のDFはラインを下げているが、ヘイスはこれをわかっていて、ほとんどポジションを移動しない。すると水戸のDFが動いた分だけ離れることができ、フリーになれる。
オシムが日本に現れたころくらいから、「動く」「走る」という動作はよくフィーチャーされるようになったと思うが、ボールを受ける技術として、「動かない」という選択肢もある。これを有効に使える選手は、一見サボっている、淡白なように見えるが、相手DFからすると非常に厄介な存在である。
ヘイスはDFの守備範囲内 |
DFがラインを下げるので、ヘイスはステイしていれば浮く |
1.7 ポジティブな異変 ~ハイプレスの応酬で押し込む~
1)水戸に裏はないと気付く
基本的に今シーズンの札幌の守備は、FWを下げることで陣形をコンパクトにした5-2-3での10人ブロック構築が成り立っていて、あまり高い位置からのプレッシングは行わないが、この試合では25分頃から前線3人がハイプレスを敢行する場面が目立つ。
25分頃からの札幌のハイプレス |
ハイプレスが機能していたのは、まず一つはシーズン当初に比べて札幌の組織的な守備能力が向上していること、都倉・内村・ヘイスの3人で水戸の4枚のビルドアップを巧みにコースを消し、数的不利にもかかわらずうまく追い込むことができていたのは、ひとえにトレーニングの賜物である。もっとも、水戸の選手の個人能力…必ず空く選手ががいるので、ポジショニングの修正や寄せられた時のターンの判断など、幾分かは上位クラブの選手と比べると見劣りする面もある。
もう一つは、恐らく前線の選手のキャラクターの問題もあり、水戸には縦パス1発で裏を狙うという形がほとんどない。そのため、札幌の最終ラインは裏を取られるリスクをあまり感じることなく、積極的に押し上げることができるので、縦パスが通ったとしても前に出て潰すことが容易である。
2)ローブロック撤退守備に加えハイプレスの確立が急務
2016年のJ1で最下位に沈むアビスパ福岡の例を見ても、もしくはこれまで1年でJ2に逆戻りしてきたかつての札幌自身の姿を見ても、ローブロックでの守備と共に、ハイプレスで相手の攻撃を高い位置から阻害していくという"二刀流"守備の確率は、今後J1を戦ううえで不可欠。今季これまでの試合で殆ど見られなかったので非常に心配していたが、シーズンも佳境に入り、四方田監督も来シーズンを見据えてようやく着手してきたのかもしれない。
2.後半
2.1 依然として前からハメに行く札幌
1)ボールを持つ時間を作らせないハイプレス
ハーフタイム明けも前半のラスト15分と同様の展開で、両チームともにハイプレスを基調としたアグレッシブな試合展開となる。
どちらかというと、前線だけでなく後方の選手まで連動してプレスを実践できていたのは札幌のほうで、水戸は下の図のようにサイドバックのポジションを下げるなどして、ボールを繋ごうとするが、サイドバックにはウイングバックの石井や堀米が、長い距離を一気に詰めてボールを自由に持たせない。ボランチやCBも、それぞれ中央に絞ってくるサイドハーフや下がって受けようとするFWについていくので、水戸はなかなかボールを落ち着けることができない。
どんどん食いついていく |
前から石井や菊池までもイケイケで食いついていくということで、当然背後にはスペースが空くことになり、奪えなければ一転してピンチにもなりかねない状況だが、各選手の寄せの鋭さや対人の強さもあってそうしたピンチを迎える場面はなく、リスクが顕在化しなかった時間帯だったと思う。
2)クオリティの差が表れる展開
両チームともプレッシングの手を緩めず、中盤~前線の選手は殆ど常に、また最終ラインの選手も多くの時間を相手チームによるプレスに晒されてプレーすることになり、またスペースを創出するためにフリーランニングの量も多くなる。
こうした展開では、野々村芳和社長の言うところの「クオリティ」の差異が露呈される。走りながらでもプレー精度が落ちない選手、プレッシャーを受けると逃げのプレーをしてしまう選手…いろいろな形があるが、強化費で勝り、順位が上のホームチーム、札幌のほうが、この時間帯はクオリティを発揮できていたように思える。一方、水戸はボールを回収しても、高いインテンシティ化が恒常的に続く試合展開の中で、ボールをゴール前まで運ぶ段階に至る前にミスが出てしまい、なかなかシュートまでもっていくことができない。
2.2 執拗な裏狙いによるボディブローと水戸のガス欠
札幌がこの試合、主に都倉と内村によって絶えず裏を狙う動きを繰り返していたことは先述したが、前半から続けてきたことで水戸は徐々にハイラインを維持できなくなっていく。70分頃になると、水戸の前線~最終ライン間は大きく間延びし、札幌にスペースを与えてしまう。
ただこの時、札幌はプレッシャーの薄い自陣のサイドでボールをポゼッションして落ち着かせようとするのに対し、水戸は2トップと中盤の選手だけでも高い位置まで押し上げて、サイドで3~5人ほどの選手を集めて札幌のミスを誘おうとする。これはまだ元気のある選手、ボールに近い選手が頑張るというレベルのもので、グループとしての機能性は失われているが、それでも得点を奪うために必須である"何か"を起こそうとする。
サイドでキープさせないように人を集める |
2.3 "何か"が起こりかけた80分
75分を回ったところで水戸が2段階で選手交代を行う。1段階目は75分、田向→宮本で、佐藤祥がSB、白井がボランチにスライドするが4-4-2は変わらない。札幌も77分、内村に変えて上原を投入している。
77分~ 宮本と上原の投入 |
その2分後、FWの山村と久保を同時投入し、宮本をトップ下にスライドさせる。自信がないが、おそらく湯澤が右に張る変則的な陣形のように見える。意図としては、とにかく前線にフレッシュな選手を入れて圧力をかけようということ、加えて湯澤を右に張らせ、クロスを上げる形を作り、2トップと宮本を飛び込ませることだったと思われる。
79分~ 山村と久保の投入 |
直後の80分、水戸は立て続けに札幌DFの背後にボールを放り込み、その3回目が背走した増川のクリアミスを誘う。ボールはペナルティアーク付近に転がり、走りこんだ内田がフリーでダイレクトシュートを放つがクロスバーに嫌われる。狙い通り、札幌DFのミスを誘発してシュートチャンスを得たが、あと少し精度と運が足りなかった。
その後は水戸のパワープレーと湯澤の右からのサイドアタックを封じ、時間を使い切った札幌が逃げ切り1-0で勝利。
北海道コンサドーレ札幌 1-0 水戸ホーリーホック
5' ヘイス
マッチデータ
3.雑感
船谷やロメロ フランクを欠く水戸は狭いスペースでプレーできるだけの力量のある選手がいない。積極的なプレッシングにより、狭いスペースでの局地戦に持ち込んだのはいいが、攻撃に転じる際にボールを拾いエリアに逃がせていないため、トランジション時に札幌の選手がそう強烈なプレッシャーを与えていなくてもボールを失う場面が多かった。
そうした"個"の部分の差を別にしても、特に前半の札幌の守備のバランスはここ数試合で最も良かったように思える。3トップのフォアチェックと最終ラインの押し上げが連動し、中盤がコンパクトになったことでWボランチ、特に前寛之のボール回収能力が際立っていた。
やっと読めましたわ(σ・∀・)σ
返信削除守備の話ごちそうさまです。次も期待してますー(・∀・)ノ