2016年10月20日木曜日

2016年10月16日(日)19:00 明治安田生命J2リーグ第36節 愛媛FCvs北海道コンサドーレ札幌 ~迷った時はミラーゲーム~

スターティングメンバー

 北海道コンサドーレ札幌のスターティングメンバーは3-4-1-2、GKク ソンユン、DF菊地直哉、増川隆洋、福森晃斗、MF石井謙伍、前寛之、宮澤裕樹、堀米悠斗、神田夢実、FW都倉賢、内村圭宏。サブメンバーはGK金山隼樹、DF前貴之、永坂勇人、MF河合竜二、上里一将、中原彰吾、FW上原慎也、菅大輝。前節のメンバーから、ヘイスが左太もも裏痛で離脱し、神田がトップ下でリーグ戦初先発。菅と前貴之は久々のメンバー入り。ボランチが深井、稲本と離脱しており、宮澤はボランチから動かしたくないということで、9年前、西大伍が初ゴールを決めたニンジニアスタジアムで神田にチャンスが回ってきた。
 愛媛FCのスターティングメンバーは3-1-4-2、GK児玉剛、DF林堂眞、西岡大輝、浦田延尚、MF藤田息吹、白井康介、安田晃大、小島秀仁、内田健太、FW瀬沼優司、阪野豊史。サブメンバーはGK原裕太郎、DF茂木力也、深谷友基、鈴木隆雅、MF近藤貴司、FW表原玄太、西田剛。キャプテンの河原らがベンチ入りしていないが、スカパー!の表示では故障者、出場停止ともになしとのこと。
 愛媛は試合前の段階で10勝17分け9敗、勝ち点47で9位につける。得点・失点共に33の得失点差0という数字からも分かるように、リスクを抑えたヒットアンドアウェイ戦法というか、ロースコアに持ち込むのが得意なチーム。この傾向はここ数年、不変である。また、望月⇒バルバリッチの政権交代があった2011シーズン以降、一貫して3-4-2-1の印象が強いが、この日は安田をアンカーに置き中盤を増やした3-1-4-2。初めて採用する布陣でこの試合に臨む。
 上位6チームとの対戦で、白星こそないが引き分けが多く(vs札幌1分け、松本1分け、セレッソ1分け、清水2分け、岡山1分け1敗、京都1敗)、攻め込む試合展開を作っても簡単にはやられないしぶといチーム。一方、徳島と岐阜にダブルを食らい、金沢にも敗れているなど、順位が下のチーム相手に結構勝ち点を落としているのは面白い。


1.前半

1.1 3-1-4-2を採用した愛媛


 普段と違う愛媛の3-1-4-2採用理由は、素直に考えればトップ下を置く札幌の3-4-1-2を意識したもの。ヘイスの離脱情報が試合当日になってオープンにされたため、おそらくトップ下に攻撃の中心でボールが収まるヘイスが起用される、ここをうまく守りたいので、攻撃の選手を1枚削ってアンカーを置き、トップ下を見やすくしたという予想である。

1)数的同数プレスを捨てて撤退する


 結局ヘイスではなく神田が先発で起用されたわけだが、恐らく札幌のトップ下がヘイスでも神田でも変わらず、愛媛は問題を抱えていたと思われるのが、下に示す札幌のセット攻撃時の対応である。
 過去の試合の記事で同じ話を何度か書いているので、長々と記述しないが、札幌の3バックで横幅を使って運んでいくビルドアップに対して、愛媛は2トップにしたことで、サイドから運ぶドリブルを2トップが見ることが難しい。右の菊地が持ち上がると、図のように左インサイドハーフの安田が出て対応することになる。
愛媛の撤退守備と札幌の組み立て

 普段の愛媛の守備時のシステムは、札幌と同じ形、前に3枚を置く5-2-3。これだと札幌の3バックに対して3枚をぶつけることができるので、マンマーク的な対応でひとまず菊地らのドリブルによるビルドアップを阻害することができるが、この日のように数的同数が作れていなければこの守り方は成立しない。
普段の5-2-3なら札幌最終ラインにプレッシャーをかけやすいが

 よってFWのスライドやインサイドハーフを出すことでFW脇のスペースを管理する必要がある。札幌が32節に対戦した長崎はこうした守り方がある程度できていたが、愛媛は不慣れなシステムということで、長崎に比べるとFW脇の管理が甘い。
 ゲームプランとしては、恐らくハーフウェーラインまでFWを撤退させて札幌を引き込み、カウンターを仕掛けるということを狙っていたと思われるが、これによりFWの守備開始位置が低くなっただけでなく、横へのスライドが不十分。菊地に対して安田は一気にポジションを上げて詰めてくるが、阪野の絞りが甘いので菊地のプレーを限定させられていない。

2)ズルズルやん、ズルズルやんか


 ということで、札幌の攻撃の起点となる両ストッパーの持ち上がりをケアできない中、内村や都倉に裏を狙われ続けるので、愛媛は最終ラインが必要以上にズルズル下がってしまう。また、2トップは一旦ドリブルで運ばれるとプレスバックをあまりしないのでFW-MF間の距離が空く。 
 そのため下の図のように、札幌はボランチやトップ下の神田を使って容易にサイドチェンジができる。特に神田が普段、ヘイスがやっているようなサイドチェンジを何度か見せていたのが印象的で、サイドを変えて堀米or石井で勝負、というのはチームとして意図していた形だと思われる。
右から運び、FW-MF間を使ってサイドチェンジ

1.2 愛媛のポゼッション時の展開

1)基本は札幌のボランチ脇を狙う


 愛媛がボールを持っている時のマッチアップは以下の図の通りで、必ずアンカーの藤田を落として4バック化してから、基本的にはサイドのDFを使ってボールを縦に入れてくる。この時インサイドハーフの選手か、2トップの一角が札幌の選手が配置されていないエリア…ボランチ脇に移動して受けることで起点を作ろうとするほか、オリジナリティのある要素としては、右ウイングバックの白井がたびたび中に入ってプレーする。
 札幌のボランチ脇が明白に空いているので、使える選手が使おうという発想だろうが、基本的にウイングバックの役割はサイドで攻撃の横幅を作ることであり、中に入ってくる白井は元々ボランチだとか、中央の選手なのかな?と思って調べたが、wikipediaによると大学時代"ナニワのロッベン"と呼ばれていたとか。
 ただ、当然札幌もここを突いてくることはわかっているので、主にCBの迎撃によって起点を作らせる前に潰していく。
 また最終ラインの中では左CBで起用されている浦田が比較的、ビルドアップに自信のある選手だと見受けられ、サイドに開き、フリーになるポジションを取ってドリブルで運んでいくプレーを見せる。右利きだが、こうした左サイドでのプレーも苦にしない印象である。
前進策としては2つのパターンを持っているが

2)ボランチ脇で受けた後どうするのか


 ただ愛媛はここで小島や瀬沼が受ける、浦田が運ぶ、というプレーの次にどう展開するという策をあまり持っていないように見える。そのため、札幌の選手を動かしたスペースを突くような連動性がないので、ボールを動かせない。システム変更により、守備のやり方はいつもと明らかに変わっている愛媛だが、ボールを持っている時のプレーの展開の乏しさはあまり変わっていない。3回ほどパスを繋いで、出しどころがなく一か八かでゴール前に縦パスを狙うが、増川にカットされるという局面が何度かあった。

 愛媛の前線でのキーマンを一人あげると、フィジカルコンタクトに強く、裏抜けもできる瀬沼である。瀬沼をスペースに走らせ、相手DFとのフィジカル勝負に持ち込み、その質的優位性によって高い位置で瀬沼が前を向く状況を作ることが攻撃のスイッチになっている。こうしたプレースタイルや使われ方など、札幌時代の近藤祐介を連想させる選手である。

1.3 愛媛の第二形態


 10分を過ぎたころになると、完全に試合の構図が明確になる。すなわち、ビルドアップから相手に混乱を与えることができる札幌と、それができない愛媛というもので、必然と札幌が優勢で試合を進めることになる。
 愛媛は10分過ぎころになると守備のやり方を少し変えてくる。一つは選手配置で、インサイドハーフの左右、つまり安田と小島を入れ替えている。おそらく序盤、札幌が右サイドから菊地のドリブルによるボール運びを何度か試みていたので、より守備能力がありケアできる小島を菊地にぶつけたのだと予想される。
 もう一つは、FWの位置をさらに下げたことで、これにより札幌最終ラインはほぼ放置。代わりに中盤のスペースを埋め、札幌の中盤の選手が見せていたサイドチェンジを封じる。また攻め込まれれば、下の図のように阪野や瀬沼が中盤まで下がって対応する時間帯もあった。
札幌最終ラインを放置する代わりに中盤守備の安定を得る

 これにより愛媛は中盤守備の安定を得るが、対価としてFWが更に低い位置に押し込まれ、カウンターを仕掛けることが難しくなる。またコンパクトにして中央を固めても、札幌が攻撃の横幅を使い続ければ必ず片方のサイドが空く。札幌の選手の中で、菊地はこのことを非常によくわかっていて、愛媛が完全に撤退し、カウンターの脅威がないとみるや、更に攻撃参加の頻度を高めていた。

1.4 内村の先制ゴールと30分以降のミラー状態

1)内村のゴールで先制


 札幌としては正直なところあまり相手に脅威を感じない試合展開の中、26分に先制に成功。右サイドの石井がDFを背負った状態でアバウトなボールを左足ダイレクトで中央に入れると、愛媛が跳ね返したセカンドボールを都倉がフリーでシュート。ジャストミートしないシュートは内村へのスルーパスとなり、内村がゴール左隅に流し込んだ。このプレー自体は偶発的なものだが、愛媛としては石井→都倉→内村とダイレクトで渡ったプレーで、サイドの石井には厳しく内田が当たったが、肝心の中央をルーズにしてしまった。

2)3-4-2-1に戻してきた愛媛


 このゴール後、愛媛はシステム変更を行い、安田を左シャドーに上げた3-4-2-1、いつも採用している布陣に変えている。よって前線3枚の形は違うが、各ポジションで札幌と愛媛の選手数が一致する所謂ミラーゲームになる。
先制後(28分頃) 愛媛は3-4-2-1へ

3)依然として前線の守備は曖昧


 愛媛としては、3-4-2-1に変えて各ポジションで札幌と人数を揃えるとともに、前線の人数を増やし、攻守ともに重心を上げていくことで試合の主導権を奪い返したかったのだと予想する。
 しかし、愛媛のシステム変更に対して札幌が極めて冷静に対応したことで、その目論見は外れることとなる。
 札幌は愛媛が前線の人数を増やして5-2-3に守り方を変えてきたことを把握すると、それまで最終ライン~中盤でゆったりとボールを回していたやり方を変え、裏を狙う内村に早めに放り込むようになる。内村の裏を取る動きで再び愛媛の陣形を押し下げ、逆に札幌は押し上げることで再びハーフコートに愛媛を押し込むことに成功する。
 また愛媛の問題点は、5-2-3にしたものの、前線での守備がほとんどゼロに等しい消極的なものだったことで、例えば瀬沼-阪野-安田で札幌の3バックに高い位置から当たっていくという方針がチーム内で共有化されていれば、悠然とボールを回す札幌のビルドアップ部隊に対し、それなりの混乱を与えることができていたと思う。しかしシステムを変えたはいいが、この点の方針が定まっておらず、結果としてはシステム変更前と同じく、ドン引きリトリート守備を展開している。
5-4-1になってしまうと、札幌のビルドアップ部隊へのプレッシャーはさらに弱まる

 愛媛の3-4-2-1は、守備時に5-2-3と5-4-1を使い分けるもので、いわば前者がハイプレスモード、後者はリトリートモード。ピッチ上の選手としては、この試合、札幌相手には慎重に入る、ハイプレスは行わないということで、瀬沼と安田が下がった5-4-1を基本形として守備を展開するが、5-4-1では最前線に阪野1人ということで、ほとんど効果的な守備はできなくなる。結果、札幌が再び後方で安定的にボールを保持する構図ができあがる。

 ただ一つ言えることは、札幌-愛媛のようなあまりリスクを冒さないチーム同士の対戦で、ミラーゲームになると、お互いにリスクヘッジをより意識し、ボールを繋ぐことよりも簡単に前に放り込む→跳ね返すというプレー選択のプライオリティがより高まるのは確かである。前半のラスト5分は、それまでのスローな展開から、特に札幌がボールを保持している時にロングボールが増え、やや落ち着かない試合展開となる。

4)攻撃は少しずつ可能性が見えてくる


 一方、愛媛は攻撃面ではいつもの3-4-2-1に戻したことで、 ボールを運んだ後の展開は徐々に可能性を感じるものが見えてくる。
 基本的なやり方は、前回対戦でも見せていたように、シャドーの選手(主に瀬沼)をウイングバックの裏に走らせることで、札幌のストッパー(瀬沼に対しては福森)を動かす。
シャドーの流れる動きを使ってサイドからボールを前進させる

2.後半

2.1 突如投じられた変化球による混乱

1)表原の投入


 後半頭から愛媛は小島→表原。安田がボランチに下がる。安田はやはり基本的にボランチの選手で、愛媛が通常シャドーに起用している選手(瀬沼、河原、近藤…)とはタイプが異なる。
 一方、代わってシャドーに入る表原は、サイズはないが小柄で俊敏なアタッカー。恐らく10年ほど前(メッシがプロデビューした頃)から日本中で養成され始めたカットイン型のドリブラー、別名量産型メッシのうちの1人である。
46分~

2)ボランチ脇の支配が意味を成してくる


 これまでピッチ上にいた選手と全く異なるタイプである表原の投入が、札幌の守備陣…特に対面の菊地に混乱を引き起こすこととなる。
 投入直後、49:25頃のプレーでいきなりその危険性が表れていたが、定石通りに札幌の空きやすいボランチ脇に浮いたポジションを取った表原が受けて高速でターンし、阪野とのワンツーで突破を試みると、菊地は迎撃に出るものの触れることすらできず、置き去りにされてしまう。
ボランチ脇を使う表原への対応が遅れてしまう

 守備の構造上、札幌のボランチ脇はどうしても空きやすいのだが、前半は福森や菊地の迎撃で対処することができていた。これは前半にボランチ脇を使おうとしていた選手…瀬沼だったり阪野は強さはあるものの、ギャップで受けてターンをするというところまではいかないので、DFを背負ってバックパスや横パスに逃げてしまい攻撃がなかなか前に展開されない。
 一方、表原は強さはないが、狭いスペースで前を向けるアジリティがある。前を向いてドリブルで仕掛けたり、阪野とのワンツーでゴールに向かっていくプレーをたびたび見せるようになると、元々速さが売りではない菊地と表原の対面は明らかにミスマッチになってくる。

2.2 愛媛の第3形態

1)近藤の投入とスクランブル化


 57分に愛媛はDFの浦田に代えて近藤を投入。近藤はこれまた小柄で俊敏なアタッカーで、右のシャドーに入る。左WBの内田が浦田の抜けた最終ライン左、白井が右から左WB、そして右WBにはまさかの瀬沼。残り30分以上ある段階だが、バランスを大きく崩す覚悟でスクランブル化してくる。
 スカパー!中継の実況アナウンサーがやたらと「この試合は愛媛にとってプレーオフ進出圏内に残るラストチャンス」と、かつて日本代表戦の実況で一世を風靡した、角澤照治アナウンサーを彷彿とさせる語り口で煽りまくっていたが、木山監督のこうしたなりふり構わぬ采配は、この言葉が確かに嘘ではないんだなと思わせる必死さを感じさせる。
57分~

2)シンプルなメッセージと札幌ビルドアップ部隊の混乱


 戦術的見地とは別に、この交代策は木山監督からピッチ内の愛媛の選手への強烈なメッセージとして伝わる。これによって、この試合ずっと低い位置に設定されていた愛媛のファーストディフェンスの位置は一気に高くなる。
 この急激な変化が起きた直後、札幌の数人の選手…特に後方でビルドアップを担当している3バックの選手やボランチの前寛之は対応策を明快に示せず、プレッシャーに負けてロングボールで逃げる局面が増える。
 特に61分、菊地が出しどころがなく阪野に奪われてク ソンユンと1vs1の状況を作った局面は、まるで一瞬眠っていたかのような状態だった。愛媛はやってくることはそこまで高度ではなく、前線の選手が体力と気持ちの限り走り回るというものだったが、札幌はそれに対するソリューションを数分間、用意することができなかった。

 こうして愛媛の気持ち守備によって、試合展開は前半までのスローかつ両チームともリトリートを意識した展開から一変し、シンプルに蹴り、跳ね返し、間延びするという展開に変わっていく。

2.3 中原の投入とマンマークに「なってしまう」札幌


 愛媛のこうした動きを見て、63分に札幌は神田→中原。神田はまだ体力的には残っていそうだったが、攻守において重要なトップ下にフレッシュな選手を入れて、引き締めていこうとの狙いは理解できる。

1)マンマークを併用する5-2-3ゾーン守備


 近藤が入って攻撃的になった愛媛は、ボランチを落として4バック化したビルドアップを行わず、後方3枚でのビルドアップに切り替える。これにより、札幌と愛媛は両チーム攻守ともに、ほぼ完全に各ポジションで人数が合うことになる。
 愛媛の攻撃・札幌の守備時の図式を示すと、各選手に破線で矢印を書いたが、愛媛がポジションチェンジをしない限り、基本的にすべての選手に対面に守備対象がいる状態になる。

 この状態を少し詳しく説明すると、ミラーゲーム状態下だが、札幌の守備戦術は純粋なマンマークではなく、「マンマークを部分的に併用するゾーン守備」である。
 例えばボールが西岡の位置にあるとき、瀬沼が斜め後方、ボランチのようなポジションに移動したら、対面にいた堀米は瀬沼についていくべきかというと、マンマークならばついていくが、ゾーンなので瀬沼を放置してよい。あくまで堀米が守るべきは、サイドのゾーンであり、ボールの位置によってポジションを変えつつ、5-2-3という陣形を崩さないように守る。
 例外的に、マンマーク的な対応が必要なのはバイタルエリア、主に空きやすいボランチ脇のエリアで、ここで前を向いてボールを持たせることは危険なので、パスが渡る前に、このポジションに移動する選手に菊地や福森が付いていき、自由にプレーさせないことが求められる。
マンマークを併用するゾーン守備

 ボランチ脇で受ける選手は、主に愛媛のシャドーの近藤と表原。それぞれスタートポジションは菊地と福森の前にいるが、パスが出そうな時には下がって受けようとする。この時、菊地と福森がついていくか、ほかの選手に任せるかという判断と、1人がついていった場合は5バックのうち、残りの4人が絞って4バックを形成するが、この判断と対応が難しいところである。
ボランチ脇は使われないようについていく

2)中途半端なマンマークと化してしまう


 上記のように、あくまでマンマークは、ゾーンで守りにくい部分を補完する手段に過ぎないのだが、ミラーゲームとなったことで、対面に選手(=守備の基準点)がいる時間が長くなった札幌は、ボールの位置や状況がどうであろうと、マンマーク的な守備対応を見せる局面が多くなる。
 別にマンマーク自体を否定しているのではないが、マンマークを徹底するとゾーン守備、オフサイドトラップといった現代サッカーのセオリーから乖離することになるので、マンマークで対応すると決めたら人への対応を徹底しなくてはならない。

 しかし例えば、下の図で示す69:50のスローインからの局面では、下がってプレーする愛媛のFW…近藤と阪野に福森や増川がついていき、一度は跳ね返したはいいが、セカンドボールを安田が拾った際に福森は近藤を離してしまっており、オフサイドトラップがかからない状態から裏抜けで決定機を許している。
マンマークなのでラインディフェンスができない

 この時、マンマークとして徹底するならば福森は一度前に出て近藤と競り、スローインを跳ね返した後、近藤を離してはならない。ただ競った後、すぐさま裏を取る動きをする近藤に付いていくのは常識的には難しい。よって、そもそもマンマーク的な対応をしてしまっている時点で、現実的には守るのはほぼ不可能ということになる。
 そのためにあくまでゾーンで、チャレンジ&カバーを徹底しないといけないが、この時間帯の札幌は守備を統率する役割の増川も含めて、そうした的確な判断ができずどんどん人についていくという、マンマーク守備に「なってしまう」危険な時間帯が続いていた。

2.4 一気に破れた膠着状態

1)瀬沼の同点ゴール


 上記のまずい守備からの大ピンチと、その後のコーナーキックは菊地のカバーリングと、ク ソンユンのセーブもあって凌ぎ切ると、札幌は落ち着きを取り戻したかのように見えたが、直後の72分、愛媛はセンターサークル内で受けた安田が、近藤の迎撃に出た福森の背後を狙ってピンポイントでの浮き球のスルーパス。この40メートル級のパスに大外から瀬沼が福森の裏を取って反応し、巧くバウンドに右足で合わせたシュートで同点に追いつく。
 札幌は中原の寄せがやや甘かったことも問題だが、この大外から中に入ってくるプレーはおそらくこの試合で初めてで、絞ってスペースをケアすべき堀米も、福森の隣を守る増川もほとんど無警戒だったと思われる。本来FWの瀬沼だからこそ発揮された即興的なプレーだと思われるが、愛媛としては一か八かのスクランブル化から15分で同点に追いついた。
瀬沼が大外から背後を取る

2)中原のゴールは束の間のリード


 しかし直後の73分、キックオフ直後に左の内村からのパスを中央で受けた中原は、ファーストタッチがやや乱れたものの次のボールタッチで右足に巧く置き直し、対面の西岡の足が届かない位置から右足で巻いたシュートをペナルティエリア外から流し込む。美しいゴールで再び札幌が2-1と勝ち越しに成功する。

 中原のゴールで勝ち越したところで、札幌は内村→上原に交代。これは瀬沼の得点直前に用意していたところで、一時同点に追いつかれてとりやめ→勝ち越しで再び投入決定という慌ただしい流れだった。
 この交代で上原は左ウイングバックに入り、札幌は3センターの3-5-2にシフトかと思いきや、堀米を前線に上げるという選択がされている。おそらく守り切ることを考えたとき、中盤を厚くする選択肢もあるが、ゲーム展開をみて、5-2-3の守備陣形のままでいること…愛媛の3バックに前3枚をぶつけることが妥当だと考えたのではないか。
74分~

3)(結果論だが)3センターで最終ラインをプロテクトすべきだった


 ところが札幌のリードはわずか3分で終わりを告げる。上原を投入し、時間を使った後でのキックオフ直後。愛媛はセンターサークル付近で受けた表原が強引にターンし、ドリブルで運んでいくと、菊地がファウルで止めてゴール正面でフリーキックを与えてしまう。内田のシュートは跳ね返されるが、こぼれ球を左サイドで拾った"ナニワのロッベン"白井がカットインで石井を外し、ミドルシュートを叩き込んで同点に追いつく。

 右ストッパーの菊池がファウルを犯したポジションは中央やや左。表原がセンターサークル付近からドリブルを開始した時は、まだ中原のゴールの余韻が残っているキックオフ直後というやや特殊なシチュエーションだったが、後半、再三スピード勝負で脆さを露呈している菊地と表原というマッチアップをあまりにも簡単に作ってしまった。
 完全に結果論だが、おそらく取るべきだった策は堀米を上げることではなく、3-5-2にしてボランチ脇・CB前のスペースを埋めることを優先すべきだったと思われる。

2.5 殴りあった末の痛み分け


 2度追いつき、勢いづく愛媛は白井の得点直後の78分、安田に変えて鈴木。本職は左SBだったはずの鈴木だが、入ったポジションは恐らく安田と同じ左ボランチながら、機を見てどんどん前線に飛び出していくなど、非常にアグレッシブな振る舞いを見せる。
 札幌は81分に堀米→菅。"札幌のガソリン"堀米ならばまだ体力は残っていたと思うが、勝ちに行くために1発のある選手を投入する。
最終の布陣

 両チームとも前線に攻撃的な選手が途中投入されていたこともあり、ラスト10分はオープンな状態で殴り合う展開。特に愛媛は相変わらず、表原が非常に札幌に脅威を与えていて、ボールをもって前を向くと必ず仕掛けてくるので、菊地や増川は難しい対応を迫られる。
 アディショナルタイムに、愛媛は札幌の宮澤と増川のイージーなミスから阪野がGKと1vs1になるが、ク ソンユンのビッグセーブに阻まれる。札幌もその直後、右クロスから決定機を迎えるが、都倉のシュートがポストに嫌われる。2-2で試合終了。

愛媛FC 2-2 北海道コンサドーレ札幌
26' 内村 圭宏
72' 瀬沼 優司
73' 中原 彰吾
78' 白井 康介

マッチデータ


3.雑感


 前半は愛媛が自ら受けに回っていたため楽な展開。愛媛は途中、布陣を何度かいじったが、札幌が最も嫌だったのは、ミラーゲームで人数を併せて突っ込んでくる形。もっとも、対処法はいくらでもあったはずだが、表原や近藤の投入に伴う急激なゲームテンポのアップもあり、増川や菊池といった経験のある選手でもスピード勝負に持ち込まれてしまい、対応を難しくしていた。

 注目の神田だが、特にファーストディフェンスの意識、緻密さ共に明らかに向上していて、この点で穴になることはない。長い距離を走った後のプレーなどは、もう少しフィジカル面で向上の余地があるかもしれない。見ていて思ったのは、ボールの受け方や背負った状態でのシンプルな展開など、恐らくヘイスのプレーを参考にしているのではないか。ユースから昇格して、適正なポジションや戦術的役割がなかなか与えられない難しい時期を過ごしていたが、ヘイスという手本を近くで見ていた今シーズンは、これまでよりも実りのあるトレーニングができているのかもしれない。

1 件のコメント:

  1. ヴェルディ戦の前に読みますた(・∀・)ノ
    ゾーンとマンマークの話は多くの人に読んで欲しいです。
    神田&中原は段々と育ってきてますな。中原好きなんで頑張ってくれ。
    敵チームだけど、河原が最近使われてないのが心配でふ。顔は「えなり」だけどプレーに華があって好きな選手。3年くらい前はすごく獲得して欲しい選手だった。今でも欲しい選手だけど。
    最後に「量産型メッシ」は笑った( ^ω^)
    次回も期待してますよ。

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