2016年9月22日木曜日

2016年9月18日(日)19:30 明治安田生命J2リーグ第32節 V・ファーレン長崎vs北海道コンサドーレ札幌 ~妥当な取捨選択~

スターティングメンバー

 北海道コンサドーレ札幌のスターティングメンバーは3-4-1-2、GKク ソンユン、DF菊地直哉、河合竜二、福森晃斗、MF石井謙伍、前寛之、上里一将、堀米悠斗、ヘイス、FW都倉賢、内村圭宏。サブメンバーはGK金山隼樹、DF永坂勇人、櫛引一紀、MF神田夢実、小野伸二、ジュリーニョ、FW上原慎也。宮澤が累積警告で出場停止、前節の前半途中で交代したマセードは全治4週間の右足肉離れで離脱。また増川は試合前の段階で情報がなかったが、スカパー!中継の予想スタメンでは故障者扱いがされており、3バックの中央には河合。トップ下はヘイスで、ジュリーニョはジョーカーとして控える。
 V・ファーレン長崎のスターティングメンバーは3-1-4-2、GK大久保択生、DF趙民宇、村上佑介、坂井達弥、MF田中裕人、岸田翔平、宮本航汰、梶川諒太、パク ヒョンジン、FW永井龍、木村裕。サブメンバーはGK三浦雄也、DF田上大地、MF中村慶太、碓井鉄平、白 星東、李 栄直、FW畑潤基。最終ライン中央の髙杉、前回対戦で右インサイドハーフに入っていた前田の2名が累積警告で出場停止。髙杉の代役は村上佑介。FW佐藤洸一は体調不良で欠場。前回対戦時からの変化として、レギュラークラスでは坂井、白星東がシーズン途中に加入している。畑潤基は特別指定選手に登録されたばかりの大学生。長崎は試合前の段階で9勝12分10敗の勝ち点39で順位は13位。8/11の清水戦以降、リーグ戦は2敗3分けと勝利がない。


1.前半

1.1 長崎の中央封鎖

1)基本的な構図


 この日は台風16号が九州地方に接近しており、19:30キックオフで気温24.7℃、湿度100%というコンディション。立ち上がりから両チームとも体力を温存し、人よりもボールを動かすことを意識した試合運びとなっており、特に長崎は札幌にボールを持たせる展開を選択。試合開始直後の数回のプレーでは高い位置からプレッシングを見せるが、5分を過ぎたころには2トップを自陣に引かせてリトリートの構えを見せる。もっとも守備の開始位置については、札幌も長崎同様にハーフウェーラインより手前ということで、リトリート志向の強い両チームの対戦である。

 長崎と札幌では守り方がやや異なる。長崎の守備は5-3-2。端的に言うと3人のCB、3人のMFで中央を固めて守るのがコンセプトで、2トップの永井と木村は中央を封鎖、サイドに展開したところをインサイドハーフがタッチライン際まで寄せてパスコースを奪う。
長崎の5-3-2守備:札幌陣内は捨てて撤退、中央封鎖

 要するに基本的な対応の仕方は、一般的な4-4-2ゾーンディフェンスとほぼ同じで、DFとMFの人数を変えている。DFの人数が5枚になったので、4-4-2の弱点であるトレーラーゾーン(又はニアゾーン、ペナルティエリア角)を埋めやすくなっている。反面、中盤は3枚で構成するので、この3人ではピッチの横幅をカバーすることは不可能。下の図のように札幌がサイドに展開するとき、ボールと反対サイドは大きく空いているため、札幌としてはうまくサイドチェンジを使いたいところ。
サイドに追い込んで封じ込めたい長崎と、サイドを変えたい札幌

2)長崎の巧みな5-3-2中央封鎖とサイドで起点を作れない札幌


 上記の「基本的な構図」を踏まえ、実際の試合展開をより詳しく追っていく。
 下の写真は2:20、札幌のおそらく最初の攻撃で、サイドに開いた菊地を起点としてビルドアップを試みる札幌に対し、先述したように長崎はインサイドハーフの梶川がチェックする。このとき梶川の背後に示した黄色のラインで示したように、中央へのパスコースが梶川によって切られている。
 また菊地が中央のヘイスへ展開(=ヘイスからのサイドチェンジ)をしようとしても、ヘイスは木村と田中が見ている。よって菊地は①タッチラインを沿うように、石井に縦パスを通すか、②河合までボールを戻さざるを得ない。また菊地が攻撃参加した際、菊地の後方に大きなスペースが空いていることにも注目。
ボールホルダーをチェックする梶川と、隣の選手によって
中央への展開を阻害しサイドに追い詰める

 菊地の選択は石井へのパス。石井に渡ると、対面のウイングバック・パク ヒョンジンが石井に寄せてくることに加え、中盤から梶川が石井を挟み込むように対応する。2人に挟み込まれる形でプレッシャーを受けた石井は斜め前方(内村を狙った)へのワンタッチパスで逃げようとするが、これがパク ヒョンジンに引っかかり、ボールは木村の前へ転がり、一転して長崎のカウンターチャンス。菊池の背後のスペースを木村と、切り替えて攻撃参加した梶川が一気に駆け上がり札幌ゴール前まで運んでいく。
石井に渡ると、タッチラインも利用して挟み込む
追い詰められた石井の苦し紛れのワンタッチパスが引っ掛かり長崎のカウンターへ

 この1シーンだけを切り出してみても、長崎の中盤の守備はポジショニングから寄せ方、体の向きまでなかなか鍛錬されていて、簡単に中央を使わせない対応ができている。
 対する札幌のビルドアップだが、菊地の縦への選択は悪くない。外→外のビルドアップは、中央で奪われるリスクを回避することができる手法で、問題は石井の軽率なワンタッチプレー。プレッシャーを受けており厳しい状況だったが、せめてスローインで逃れるべきだった。

 この局面で露見されている問題点は、このように長崎に巧みに中を切られると、外→外しかコースがなくなってしまうが、札幌のワイドは石井と堀米という、体力はあるものの、ボールを収めたり攻撃の起点を作ることができるタイプではないため、サイドの選手にボールが入った状況が長崎にとっての恰好の奪いどころとなってしまう。
 また恐らく長崎も、札幌の前線でボールが収まる、言い換えれば無理がきく選手はブラジル人のヘイスやジュリーニョしかいないことをスカイティングで把握しており、ヘイスだけは特に徹底してチェックしようという姿勢がみられる。

3)真ん中の選手を動かす…3人目、4人目となるFWの移動が鍵


 冒頭に書いたように、長崎は3センター&3CBで中央を固く守っているので、札幌としてはこの中央の壁を中央から動かすことで活路を見出したい。
中央の壁を動かせない状態での縦パスは通らない

 札幌の前半の攻撃で可能性を感じた数少ないものは、下で示す、ウイングバックにボールが入った段階で内村が中盤に下がって受ける動き。札幌の菊池からのビルドアップに対し、長崎は中盤の3選手がサイドにスライドしながらサイド→中央のパスコースを切ることに成功していたが、サイドにボールが入った段階で、"4人目"として内村が的確なタイミングで出てくると、対応できる選手は3バックのストッパー、図の状況では坂井しかいない。
 内村が下がることについては「ビルドアップ不全のバロメーター」と先に書いたが、先ほど書いたビルドアップ不全で内村が下がってくるときは、札幌の中盤、上里や前寛之が「いるべきエリア」にいないので、長崎の中盤の選手に内村のマークを任せればよい。ただ上里や前寛之が中盤に顔を出している時は、内村は坂井が"迎撃"しなくてはならない。
内村が的確なタイミングで顔を出すと坂井が迎撃しなくてはならない
一瞬判断が遅れると背後にスペースができる

 坂井はこの判断…中盤の選手に内村を任せるか、自分が潰しに行くか、が一瞬遅れて、内村をフリーにしてしまうことが何度かあり、遅れたタイミングで坂井が出ていくと、内村が一瞬フリーになり、また坂井の背後を村上がカバーすることが遅れる局面が何度か見られた。
 ただ札幌も、おそらくこれはチームとして仕込んだというより即興的なプレーのため、内村のパスを受ける石井があまりこうした展開を察知しておらず、決定的なチャンスに繋げることはできなかった。

 もう一つ、左サイドからの展開で惜しかった展開は下に示す28:35頃のもので、福森から始まった左サイドでの展開において、長崎の3センターの宮本と田中はそれぞれ、福森と前寛之をマークしている。特に前寛之に田中が動かされていること、上里と前寛之が中央でボールに関与できるポジションにいることがポイントで、田中が動くと長崎の中盤は一気に手薄になり、また堀米から下がって受ける都倉を潰す判断が、先に指摘した坂井と同じく趙民宇も、潰しの判断がやや遅い。
 都倉が収めて中央の上里を経由し、中央やや右の内村に渡る。この段階で長崎の3センターは梶川が中央に残っている以外、ボールが左サイドに置き去りにされていて、また最終ラインもサイドで張る石井にパク ヒョンジンが引っ張られていて手薄になっている。
前寛之と上里が中盤に顔を出している
"3人目"都倉が下りてくると、どちらかがフリーになりやすい

 チャンスと見て後方から菊地も上がってくるが、内村の選択は中央方向(赤波線)へのドリブル。これではわざわざ長崎のDFに向かって突っ込んでいくようなもので、せっかく手薄なサイドを作ったのに有効に活用できなかった。
ヘイスとのワンツー等、ゴールに最短距離で向かっていくことができたはず

 長崎の守備開始位置の低さにより、前半途中から札幌はある程度ボールを保持する局面はできるが、そこからの崩しについては、恐らくなんとなく「サイドチェンジが必要」、という考えは選手の中にあったと思われる。
 ただ、具体的にどうシステマチックにそれを実践していくかという部分は、あまりチームとしての共通理解が感じられず、数人の選手の即興的な動きに頼っているため、パスが3回ほど繋がると攻撃がノッキングしてしまう。

1.2 長崎の取捨選択

1)菊地の攻撃参加が重要な理由:長崎に取捨選択を強いる


 上記で言及した2:20~の局面では、サイドで起点を作れない(ボールが収まらない)ことに加え、菊地の背後を誰もカバーしていないためカウンターの機会を長崎に与えてしまっている。
 しかしそれでも菊地(と、逆サイドの福森)の攻撃参加は札幌にとって重要である。というのは、長崎の守備の構造上、菊地や福森が最終ラインからミスマッチを利用して浮いた状態から攻撃参加すると、中盤3枚の選手がサイドに出て対応するので中央は3枚から2枚へと手薄になる。これに対し、札幌はダブルボランチの上里と前寛之、トップ下のヘイスの3枚がいるので(これも机上論だが)、必ず誰かが空くことになり、菊地のところで作った"ズレ"をそのまま中盤の展開へと持っていき、長崎の守備に矛盾を突きつけることが可能になる。
菊池や福森が攻撃参加することで
最後尾の3vs2のミスマッチを中盤にも適用できる

2)長崎の拾捨選択①:バイタルのヘイス徹底マークと、優先度の低い中盤の"3人目"


 では、札幌が菊地の攻撃参加でズレを作った際にどのような展開になっていたかを見ていく。
 下の写真、4:55~では、やはり先ほどと同様にサイドで菊地vs梶川というマッチアップ。このとき長崎の守備はボールを基準に危険なエリア…①バイタルエリア及びそこに侵入するヘイスのケアを最優先し、次に②ピッチ中央の上里を見る。それぞれ田中と宮本がボールサイドへスライドする。すると写真の上側、札幌から見て左サイドは完全に空いている。
 菊池は体の向きで梶川に外の石井を意識させ、"裏のインサイドキック"で中央の上里へ。
菊池の攻撃参加に対し、梶川がサイドに出て対応(=梶川を引っ張り出す)
長崎はボールサイドにスライドしながらバイタルエリアを守る

 上里には宮本がぴったりとついており前を向くことは不可能。ただ下の写真を見てもわかるように、後方でビルドアップに関与しようとしていた前寛之がポジションを上げ、中盤の攻防に加わっている。これで先に説明した通り、中盤で札幌3vs長崎2人、前寛之が浮いていることになる。長崎はFWの木村がプレスバックして加勢しようとするが間に合っていない。上里はワンタッチで前寛之へ。
 しかしこのとき、前寛之には反対サイドの状況が把握できておらずオープンな逆サイドに展開することができない(写真の×印)。また上里→前寛之のパスがやや足元に入ってしまったということもあるが、左足ダイレクトで前方の内村を狙ったパスはフィットぜず、弱弱しく短いキックになる。
中盤は札幌3人vs長崎2人、前寛之がやや空いているが
上里から受けた前寛之のワンタッチでのパスはミスキックに

 長崎DFがインターセプトに成功する。菊地→上里→前寛之とワンタッチで続いた展開はターンオーバーで終わってしまう。
内村の前で長崎DF・趙民宇がインターセプト

<安牌な前寛之>


 一連の展開が示すように、中盤を少ない3枚で守る長崎としては、セオリー通りに一番危険なバイタルエリア(及び、そこに入り込むヘイス)のケアを優先し、中盤の浅い位置や逆サイドはある程度、札幌に使える余地を与えても仕方ない(=捨てる、といっても完全に捨てるのではなく、木村のプレスバックでケアしたように優先度を下げる)という対応をする。
 対する札幌としては、ヘイスがケアされているので、捨てられて浮いた格好になる選手…上里や前寛之がゲームを動かしたいところだが、3枚目の写真のように、狭いスペースに限定されて少ないタッチ数でのプレーを強いられると、札幌のボランチで4番手の上里と5番手の前寛之という組み合わせでは、展開できるプレーが限定され(ドリブルで運んだりキープしたりができない)、またパスの精度も低下する。そのため、ここを"捨てた"長崎に脅威を与えることができないでいる。

3)長崎の拾捨選択②:捨てられた元・キャプテン


 更に、冒頭でも触れたが長崎が捨てているもう一つのポイントは、札幌の最終ラインが自陣で持っている時。河合や上里から前線の都倉やヘイスを狙ったフィードを殆ど自由に蹴らせている。一方、ボールのレシーバーである都倉やヘイスに対しては、複数の選手で挟み込める状況を作る。長崎は3バックの中央が村上、アンカーが田中とそこまでサイズのある選手が起用されておらず、単純なフィジカルコンタクトでは都倉やヘイスのほうが恐らく勝っているが、複数の選手で的確なポジショニングから体を当てていくことでボールを収めさせない。
 札幌が最終ラインからロングフィードを蹴る状況というのは、下の図のように殆ど長崎のブロックを動かすことができていない状態、つまり長崎の3CBと3MFが中央に鎮座している状況なので、いくら強い選手が中央にいても、かなり精度の高いボールが供給されなければ分が悪い勝負であり、またキッカーが河合であれば猶更、上里であっても特段ケアする必要性は低いということになる。
ブロックが動かされていない状態では3CBと3センターが中央を固めており
放り込まれても怖くない(しかもキッカーは河合)

1.3 高みを目指すチームのボトルネック:河合のビルドアップ貢献度


 この試合に限らず、札幌の3バックの中央で河合が出ているときに顕著なのは、攻守ともにポジションが低くなり、特に攻撃の際はビルドアップの起点となるポジション(=ボールを裁く位置)が低いため、隣の選手…福森や菊池も低いポジションを取らざるを得なくなる。
 近年の3バックシステムの復権や、4バックから3バックに変形してのビルドアップといった手法が世界のサッカーシーンで広く使われている背景には、2トップの相手に対して、3人のビルドアップ部隊を確保できれば安全にボールを動かすことができるというロジックが根底にある。
 しかし札幌の場合、特に河合が出場している時は、そのスキルであったり、またボールを失ったときのリスクヘッジ(河合は裏に弱いので高いポジションを取るとカウンターで一発で裏を突かれる)の観点から、河合+2人ではビルドアップが難しいと判断しているのか、河合+2CB+ボランチ1人の計4人で後方でボールを動かそうとしている状況がよくみられる。
長崎の前線からのプレッシングはさほど強烈ではなく
後方は少ない人数でも対応できそうだが、上里が下がって河合をサポートする
→中盤に割ける人数が減る

 しかしそうすると上の写真のように、本来3バックでのビルドアップにおいて河合が担うべき役割を下がってきたボランチの上里が担い、そして上里が本来取るポジションに前寛之がスライドする…という具合に芋づる式に選手がポジションを下げていくと、結果、前線に割ける人数がどんどん少なくなっていく。まさに先に述べた、「菊地が上がるべき理由」と逆の現象が生じてしまっている。
 また写真の下側の菊池のポジションを見ればわかるが、中央から適切なタイミングでサイドにポジショニングボールが供給されないと、サイドの選手も中央にどんどん寄ってきてしまう。

1.4 前線守備を放棄する札幌


 この試合、長崎がボールを持っている時の基本構造として押さえておくべきは、下の図のように長崎が3バック+3MFの6人が絡むビルドアップで、後方で札幌の3人に対して4人を確保し、インサイドハーフの宮本と梶川を3人の間に配置。この形を作ることで4人-2人間で悠々と前後にボールを出し入れする。
 これに対する札幌の対策はあったかというと、ほとんどなし。5-2-3でいつも通りセットし、「3」が突破されることは仕方ないと割り切っているかのようなルーズな対応を繰り広げる。時折3人が中央に寄ったポジションをとることはあったが、それも両サイドの坂井と趙のドリブルで無力化される。長崎は札幌の対応(なにもしない、できない)を確認すると、宮本や梶川が札幌のボランチの脇にドリブルで運ぶことで易々と前線にボールを運んでいく。
 札幌としては、長崎の崩しのクオリティが高くなかったこと、また永井の速さを生かしたいのか、ボールを保持することよりも手数をかけずにゴール前まで運ぶ意識が強かった(ポゼッションで振り回されなかった)ことが結果的に幸いした。
6人のビルドアップになすすべなし

1.5 長崎の攻撃面の狙いその①&それでも竜二が選ばれる理由


 先述のように攻撃面では極端な言い方をすると"札幌のボトルネック"になってしまっている河合だが、では札幌にはほかに選手がいないのか、バルバリッチは一時期、櫛引を河合よりも優先して使っていたが櫛引や永坂ではダメなのか?DFで代役がいないなら、欧州のトップクラブがやっているように、足元に優れてそこそこ守れるMFをDFにコンバートする等の策があるのでは?とも思うかもしれないが、現状の札幌では、守備面を考慮すると増川であったり河合であったり、"本物のDF"(もともと河合は本職がボランチだが)の力が必要になると考える。
 というのは、3バックの中央というとかつてのリベロシステムのイメージ等もあり、なんとなく守備での役割は1vs1でボールを奪ったりデュエルを制したり、といったものが少ないように思うかもしれないが、札幌の5-2-3守備においてはその構造上、3バックの中央の選手の対人能力が重要になる局面も多く発生する。

 例えばこの試合の14:10頃の長崎の攻撃は、下の図のように展開されているが、図の①にテキストで書いたように、長崎の3バック+アンカー田中の4枚から、中盤の宮本と梶川を使って縦横にボールを動かされると、札幌のヘイス-都倉-内村の3枚はついていけなくなる。このこと自体は、そもそも3枚で横幅を守ることは無理なので、札幌の戦術において「仕方ない」という扱いになっている。
 前3枚が"無力化"されている状態で、長崎のサイドの選手(この場合は、サイドに張り出したDFの趙)にボールが渡ると、②札幌は5バック化していたウイングバックの堀米や石井が前に出て対応する。5バックから1枚減って4枚になり、残りの4選手はボールサイドにスライドするが、このときサイドにもう一人選手(図では岸田)がいると、図の福森の動きのように、その選手に釣り出される形で対応する。
 札幌はこの状況で、人を捕まえるマンマーク的な動き、守り方をしていて、サイドに基準となる選手がいる場合、ボールが出そうな状況かどうかは関係なく、福森は大抵サイドに釣り出されている。
最前方の守備が無力化されると、サイドから芋づる式に選手が釣り出され
最終的に相手FWに対応する河合の1vs1能力が問われる
(このときは勝ったが、クリアミスから決定的ピンチ)

 すると③、5バックの中央にいたはずの河合が3バックのサイドとして、サイドに開いた選手と1vs1で対応しなくてはいけない状況ができてしまう。この14:10の局面ではスピードのある永井との1vs1で、河合が体を入れてボールを奪っている(奪ったはいいがクリアミスで梶川にボールを渡し、シュートを撃たれてしまった)。

 という具合に、札幌は一見5バックのシステムでガッチリ分厚く守っているように見えるが、その守備の構造(前3人の守備関与は限定的である)上、5枚いるはずの最終ラインがどんどん目減りして対応する局面が非常に多くなる。そのため最終ラインを構成する各選手には、どの選手にも一定水準の対人能力が欲しくなる。よって四方田監督の起用の序列も、増川のサブが河合であったり(バルバリッチは一時期、櫛引を河合よりも優先して使っていた)、序盤戦で右ストッパーに前に強い進藤を使ったり、という序列になるのだと思われる。

<河合の好プレーその2>


 河合の見事な対応がされていた局面をもう一つ。
 長崎の中央から右サイドへの展開で、ボールを受けたのはインサイドハーフの宮本。宮本のスタートポジションはサイド寄り、堀米の前方だったが、ボールを受ける直前に下がって受けている。これを見て、宮本に付こうとしていた堀米はキャンセルしてヘイスに受け渡す。また福森は中央に出てきた岸田にマンマーク気味に付いている。
 ここで、マンマーク的に守る前提ならば、福森→堀米のマーク受け渡しは生じず、マーク対象がいなくなった堀米はカバーリングに切り替えないといけないが…
堀米が宮本へのマークをキャンセルしたところ

 堀米はカバーリングに切り替えられず、岸田に食いついて背後をとられてしまう。しかし河合がこのスペースを使われることを読んでいて、鋭い出足の読みから永井に体を当ててノーファウルでボールを奪い返す。
堀米と福森、両方が岸田に食いついて背後が空く
河合のカバーで難を逃れる

 上記の写真での福森の対応のように、ボランチ脇/ストッパーの前方で受けようとする選手への札幌の守備対応は基本的にマンマーク気味に迎撃する。よって福森や菊池(特にどんどん前に出ていく福森)の背後のカバーリングはCB中央の選手の重要なミッションで、河合は昨シーズンから福森と共にプレーしていることも関係してか、この仕事については増川よりも優れている印象を受ける。

1.6 長崎の攻撃面の狙いその②:ボランチ背後のスペースの創出と侵入


 もう一つ、長崎が前半から何度か狙っていたと思われるプレーが、札幌のWボランチの上里と前寛之を誘い出して創出したバイタルエリアのスペースへの侵入。
 順を追って説明すると、上記の「狙い①」と同様に、最終ラインが4バック化し、札幌の前3枚の守備の基準を曖昧にさせると、宮本や梶川が札幌のFW-MF間に頻繁に顔を出してボールを受ける。宮本や梶川がここで受け、前を向いて、一発ですぐに"何か"を起こそうという意図は基本的にないのだが、それでも中央でフリーにさせるわけにはいかないので、上里と前寛之は半端な位置で受ける宮本や梶川に食いつくようになる。
 すると札幌Wボランチの背後が空くのだが、このタイミングでここに梶川や両ウイングバックの岸田、パク ヒョンジンが侵入してボールを受ける。ウイングバックが斜めに走ってくるというのは、前を向いた状態でパスを受けやすい利点がある。特に右サイドで展開し、フリーになった逆サイドのパク ヒョンジンが走りこむという形が何度か見られた。
札幌DF-MF間の活用

2.後半

2.1 ポジションを上げた札幌のボランチと迎撃に難ありの長崎DF


 後半開始4分、49:20頃に札幌の良い展開が見られた。右サイドの石井からヘイスへの楔のパス、ヘイスは一度上里に戻す。この時は間で受けるヘイスを長崎のDF坂井が迎撃しようとしており、ヘイスは潰されるのを避けるためダイレクトで上里に戻した。一見無意味なプレーのように見えるが、このワンプレーの間に前寛之が上里と近い位置にポジションを上げてくる。
石井からヘイスへの楔パス

 そして石井が長崎のMF梶川をサイドに釣り出し、石井⇔上里のパス交換を行うと、下の写真のように長崎は中盤を2枚でカバーしなくてはいけなくなる。一方札幌は上里とヘイスに加え、ポジションを上げてきた前寛之が上里と非常にいい距離感でボールを受けることができる。

 この時点で、前半一度触れたように中盤の人数関係は札幌3:長崎2。この数的不利をカバーするため、長崎は前半であればFWの木村や永井のプレスバックで札幌の中央で受けるボランチを潰していたが、このときは対応が遅れて前寛之に時間を与えてしまっている。
 またヘイスに対しては、このときほぼフリーでボールを持たせて逆サイドへの展開を許しているが、長崎の守備は5-3のゾーンが基調なので、このようにゾーンの間で受ける選手に対する対応が時折曖昧になってしまう。ただ5バックというのはその問題を解決する(あらかじめ多めのDF枚数を確保して、半端なポジションの選手にはマンマーク気味に迎撃する)ための守備戦術でもあり、ここは坂井がヘイスに対し、マンマーク気味にもっと厳しく当たらなくてはならない。
 この辺の対応は、福森の前に出て潰すプレーのイメージがあると思うが、同じ5バックシステムでも札幌のほうがより徹底できている。
FWのプレスバックがなく中盤のスペースをカバーできない
間で受けるヘイスはDFがケアしなくてはならない

2.2 両チームMFの運動量低下と長崎のライン間圧縮による対処

1)60分頃からFW脇を見れなくなる長崎


 中盤を3枚でカバーしていた長崎のMFは、60分頃から運動量の低下が顕著になる。これによる変化や影響は、従前長崎のインサイドハーフがケアしていたFW脇のスペース(下の写真、上里がいる位置)が空くようになり、札幌はこのエリアで自由にボールを持てるようになる。
 そしてここを札幌が占拠すると、写真では都倉が長崎のDF村上と駆け引きしているが、都倉にボールが出てくる状況になるので長崎はラインが下がってしまい、結果として間延びし、DF-MF、MF-FW間が空きやすくなる。
MFの運動量低下で長崎のFW脇が空く

2)絡めなくなる札幌のボランチ


 となると札幌は、長崎のライン間を有効に使いたいところだが、札幌も長崎と同様に中盤の選手の運動量が低下している。上の写真では上里から落ちてきたヘイスに渡り、ヘイスがサイドに展開するところだが、このとき前寛之は数秒前の段階からセンターサークル付近を動けていない。単にこの展開を感じていなかったという可能性もあるが、おそらく疲労の影響が大きいと思われる。
 仮の話だが、前寛之がヘイスのポジションをとっていれば、ヘイスはここまで落ちてくる必要はなくなる。すると下の写真に赤線で図示したように、DF-MFの間での"間受け"の仕事にヘイスを投じることができ、縦パスからヘイスがバイタルエリアで前を向く危険な形を作ることができたはずである。しかし実際の展開は、ヘイスが持った時にライン間で受ける選手がいないため、ヘイスは右サイドに展開するしかなく、札幌のフィニッシュは大外からのクロスで終了している。
ヘイスが下がってくると間で受ける選手がいなくなる

 また内村も60:28の段階からライン間にポジショニングしているが、60:32の状況を見てもわかるように、内村の動きは細かいポジショニングの修正等が甘く、"間受け"役としては物足りない。この段階で勝負をかけるならば、小野を投入してもよかったかもしれないと思うが、四方田監督の選択は64分に内村→ジュリーニョ。

3)高密度ブロックで対抗する長崎


 前線からの守備が難しくなり、ブロックがずるずると下がると、長崎には2つの選択肢…①FWを残して前後文壇で対応する、②FWを下げて守備ブロックの密度を高める、があるが、長崎が選択したのは後者。最終ラインはペナルティエリアのすぐ前、中盤3枚はDF-MF間にスペースを作らせない位置に下げた上で、2トップの永井と木村の位置もかなり低めに設定し、10人での守備ブロックで札幌に中央を使う余地を与えない姿勢を見せる。
10人ブロックで対抗

2.3 選手交代も得点に結びつかず

1)勝負できる選手の投入


 60分~73分にかけて両チーム共に攻撃的な選手を投入していく。札幌は先述の64分に内村→ジュリーニョ、長崎は71分に岸田→中村、73分に木村→白星東。
73分時点

 このうち特に効果があったと思われる交代策は白星東の投入で、前線にフレッシュな選手を入れたことで、長崎は札幌の3バックへの対応を2トップに任せることができ、5バック+3センターで再び中央を固めることができるようになる。そして中央で起点を作れない札幌が苦し紛れにボールを放り込むと、跳ね返し→回収後にスピードのある中村を縦に走らせて堀米の背後を突く。白星東もそうだが、徐々に展開がオープンになっていく中で突破を仕掛けることができる選手を入れたことが奏功している。
2トップに3バック対応を任せ、3センターは中央封鎖に専念

2)小野の投入とジュリーニョ左サイド


 札幌は81分に堀米→小野、前節同様にジュリーニョを左サイドに配置する。結果的にはこの交代策の後、ラスト10分間で何度か攻撃の形を作ることに成功するのだが、それは小野が入ったから、ジュリーニョがサイドに移ったから、という個別の要素ではなく、小野が中央、ジュリーニョがサイドという策が同時に打たれ、攻撃のポイントが2つできたことが大きい。
左右で攻撃の起点を2つ作る

 ただ、下の図で示したような小野を使う→ジュリーニョがオープンになる、という形をあまり作れておらず、ポイントを2つ作ったは良いが、単にそのうちいずれかを選択してあとは個人に任せるという、やや大味な運用になってしまったことは改善点だといえる。
 恐らく最後の交代策として上原ではなく神田を投入したことからも、四方田監督としても、ある程度中盤で形を作ってからジュリーニョにボールを届けて勝負、というイメージだったと考えられる。
いきなりジュリーニョに預けて仕掛けさせるのではなく
中央で小野を使ってからサイドのジュリーニョを使うとよりオープンになりやすい

V・ファーレン長崎 0-0 北海道コンサドーレ札幌
マッチデータ


3.雑感


 長崎はうまく守っていたと思うが、90分を通じてはバランスが崩れたり隙ができやすい時間帯もあった。そうした勝負所を見極めて仕留められる、またはギアチェンジできる選手が札幌にはいなかった。そうした役割を望めるのは小野かもしれないが、"後半35分の男"となっている現状、やはりスタートのボランチにゲームの流れを読める、レギュラーの選手を欠いたことは痛かった、と総括できるかもしれない。

1 件のコメント:

  1. にゃんむる2016年9月22日 20:27

    |´・ω・)ノこんばんは~ にゃんむるです。
    正直見所なかったゲームだったなー。引いた相手崩せる強さが欲しいなー。
    次は町田だから、たまには打ち合いのゲームに期待することこの上なし。

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