0.スターティングメンバー
スターティングメンバー&試合結果 |
- 札幌は深井、田中、進藤、高嶺を残して直前のリーグ戦から7人替え。広島は藤井、茶島、野上が中3日での試合です。
1.人生とフットボール
- かつて、とある人物は「サッカーと人生にはミスがつきものだ」と言いました。
- 近年、グアルディオラのバルセロナのような驚異的なチームの登場により、以前とは比較にならないほどボールを巧く扱うGKやDFの出現、それらの選手を活用したクリエイティブなプレースタイルを志向するチームが増加傾向にありますが、”とある人物”の言う通りミスのないサッカーは存在しません。得点の多くは誰かの、何らかのミスやエラーから生まれます。
- サンフレッチェ広島のスタイルはこの、サッカーの本質的な部分に非常に忠実で、中3日アウェイのカップ戦で極力無理をせず、リスクを回避し、相手のミスを誘い攻撃機会を誘発することにほぼ専念していました。
- 札幌ゴール付近で札幌のGKやDFがボールを保持している際は、まずバックパスによってやり直す選択をとれる余地が限られています。横パスもそのリスクを考慮すると忌避されるため、意外とこのエリアでは前方向以外にボールを動かす選択はとりづらい。広島はボールの出し役であるキム ミンテや深井の前に早めに立ちます。ミスを避けたい札幌の選手はこのエリアから中盤をすっ飛ばして、トップのアンデルソン ロペスやドウグラス オリベイラに当てる、ミシャがあまり好まない消極的な選択に終始します。もっとも、2人ともサイズがある選手なので、そこまでネガティブにとらえていなかったかもしれませんが。
少人数でプレッシャーを与えられるエリアでのみアグレッシブに |
- 自陣ゴール前では全く別の認識でプレーします。ここでは、広島は極力リスクを排除したい。例えばイーブンな状況でボールにアタックし、50%は勝つ、50%は負けるような状況ならアタックしない。もっと確度が高くなるまで待ち構えます。
- 特に、札幌はJリーグの中でも、ゴールやチャンスを「クリエイトしたい」志向のチームなので、ボールホルダーは仕掛けに積極的ですし、また一か八かのパスも多用します。広島としては、待っていればボールは勝手にやってくるし、それはボールだけやってくる場合もあるけど、ドリブルやフリーランなどでボールだけでなく札幌の選手も一緒に飛び込んでくる場合がある。狭いスペースでプレーできる唯一無二の存在、チャナティップを欠く札幌に対して広島の撤退守備は効果的で、札幌は広島の5-4ブロックを打開する策がほぼ全く見えませんでした。
自陣ではリスクを冒さず相手のミスを待って速攻 |
- 札幌の選手が動いたスペースに、広島は前3人のスピードを活かしてカウンター。このシンプルな狙いで何度も札幌ゴールに迫ります。特に、右ウイングバックにルーカスでもなく白井でもなく早坂を置いている札幌は、2018シーズン終盤に何度か見せた、ウイングを中に絞らせる1-5-0-5っぽい形を序盤から繰り出し、進藤が大外に開きます。その背後を土居や藤井が爆走するだけで、広島はゴールに迫ることができていました。この点で、札幌のDFの中では最もスピードのあるキム ミンテの起用は当たっていました。
2.何かを起こそうとするがゆえに
- 14分に札幌は高嶺のコーナーキックから、ドウグラス オリベイラの落としを金子が決めて先制。試合を通じ、広島のブロックを打開する策を殆ど持ち合わせていなかった札幌ですが、三浦俊也師匠がかつて教えてくれたようにセットプレーはクリエイトできないチームでも活用できるゴールのリソースです。
- しかし22分に広島の”ミス待ち”が奏功します。ミンテが浅野へプレゼントパスで、浅野の左足ミドルシュートはカウィンの右手をすり抜けて決まります。ミンテは通常、ボール保持時に右のCBの位置でプレーしますが、この時は左のCB。右からのパスを右足で処理しようとしましたが、慣れない視界や久々の公式戦先発ということがあってか痛恨のミスでした。
- 以降も札幌が「何かを起こそうとする」、広島がそれをやり過ごしてミスを待つ展開で進みます。札幌は、特にシャドーの金子がボールに触って何かを起こそうとしてか、時にポジションを逸脱してでもやむなし、とする活動を開始します。
- 金子だけでなく他の選手にも言えることですが、ボールを保持して何かを起こせるならいいのですが、何も起きないとなるとボールは負債になります。正確には、味方にボールを預け、例えばそれを信じて味方がオーバーラップすると、そこでボールをロストすると背後を使われてカウンターになります。金子は大外に流れたり、時に左サイドに流れてボールを受けることもありましたが、そうすると金子が本来いるべきタイミングでクロスが上がってもゴール前に走りこめない、のような弊害も生じていました。
ボールに触って何かを起こしたく落ちてくる、流れてくる |
3.何かを起こすための条件
- 後半頭から、札幌は菅、ルーカス、中野を投入します。深井だけでなく復帰戦のアンロペもリミットがあったのかもしれません。スタメン復帰後、ここ3試合で決定的な仕事をしているルーカスのクオリティは「何かを起こそうとするサッカー」には不可欠です。
- 広島は55分に前線の3枚を変えます。この狙いは明白で、フレッシュで走れる選手を入れてカウンターで1発で仕留めてやろう、というものだったと思います。
55分~ |
- 前半から、広島は野津田がフリーダムに動いて(主に後ろ方向に)ボールに関与します。リーグ戦ではここ2試合、再び同数プレッシング主体のやり方に戻してきた札幌ですが、この日はそこまで相手に枚数を合わせて圧力をかけようとの意図は見られない。野津田が落ちて広島が枚数を増やすと、そこは放置するので、ボールに対して有効なプレッシャーがかからず、ずるずる下がるだけの対応になっていました。
- これに関して、札幌はまずトップのアンロペの対応が前半からあまり強度がなかったのですが、アンロペはやろうと思えばプレスのスイッチを入れられる選手なので、ある程度、織り込み済みだったと思います。ただ、最終ラインのうち進藤やミンテは撤退しての守備に耐えられるとして、高嶺がどこまでボックス内で対応できるかはまだ図らないといけないところがあるのと、「ズルズル下がる」と、最終ラインの前のスペース(バイタルエリア)で人を捕まえにくくなっていた、もしくは1列目3人の守備基準が曖昧で、引いて守る共通認識に乏しかったと感じます。
- もっとも野津田が札幌の1列目の手前で下がって受ける、そこから何かを生み出すことはありませんでした。何か…ゴールやシュートチャンスは相手のDFやGKを操作することで生まれますが、70mのパスを通せるスーパーなキッカーでない限り、このゴールから遠く離れたエリアでは何かを起こすことはできません。味方のために、相手を引き付けてパス、から攻撃を組みたてる役割はありますが、野津田は特段そうした仕事をしていたわけでもありませんでした。
後ろで受けても列を越えない限りは脅威にはならない |
- ドウグラスヴィエイラの投入で、広島は崩しのオプションを得ます。撤退する札幌(しかも、本職らしいDFは最終ラインにゼロ)に対しては、サイドから侵入してゴール前での空中戦でも可能性を感じるようになります。78分には、右クロスにドウグラスヴィエイラがキムミンテに突っ込んで頭で合わせますが枠外。城福監督も入ったと思ったのか、変顔が炸裂します。
- 試合を決めたのはドウグラス オリベイラと、野津田のプレゼントパスでした。61分、さほどプレッシャーはなかったと思いますが、バックパスがミスとなりドウグラス オリベイラの足元へ。微笑みの戦士が冷静に林の重心を外して流し込みました。
- 以降は広島がスピードとドウグラスヴィエイラの高さで仕掛けます。札幌は、DFに後ろへの速さがある菅を入れていたのが意外とミソだったかもしれません。ミンテ、菅のコンビは速さには強く、後半の方がこの対応力は増していたと思います。
4.雑感
- 城福監督の広島戦はこのパターンが多く、特に札幌相手だとミラーの1-3-4-2-1同士ということもあって硬い試合になりやすいです。得点源はお互いミスとセットプレー、そして昨シーズンのルヴァンカップでアンデルソン ロペスが見せたような個人のスーパーゴール。セットプレーで有効なキックを持つ福森、ルーカスをスタメンから外すと、札幌も広島のミス待ちが最も有効だったと思いますが、かなり危なっかしいプレーや選択が随所に垣間見れていました。
- 選手個人に関して言うと、金子は思っていたよりもボールに触ることが好きな選手なのか?という印象でした。日大では1-4-4-2の右サイドだったらしいですが、この試合に限らず大外レーンからスタートしたい意図を感じます。そうすると、ウインガーと被ってしまうので使いどころが難しくなります。
- カウィンはマッチョなイメージでしたが、思ったほど体がでかいな、とは思いませんでした。あと、キックは割と丁寧に蹴っていましたが、ボールを持つことにはまだ積極的ではないのかもしれません。
別に、サッカーって何かをクリエイトしたり何かをビルドアップするゲームではなくて、単に枠内にボールを入れるか守り切るかしかないと思ってるんですけど、広島のやり方は極端ですね。札幌はチャンスを作ろうとしてたくさんミスしていますが、広島はとにかくミスを待っている。
— アジアンベコム (@british_yakan) August 5, 2020
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