2016年11月23日水曜日

2016年11月20日(日)14:00 明治安田生命J2リーグ第42節 北海道コンサドーレ札幌vsツエーゲン金沢 ~チャンピオンの実像~

スターティングメンバー

 北海道コンサドーレ札幌のスターティングメンバーは3-4-1-2、GKク ソンユン、DF進藤亮佑、河合竜二、櫛引一紀、MF石井謙伍、宮澤裕樹、上里一将、堀米悠斗、荒野拓馬、FW都倉賢、ヘイス。サブメンバーはGK金山隼樹、DF永坂勇人、MF前寛之、小野伸二、マセード、FW内村圭宏、上原慎也。ジュリーニョ、福森が累積警告4枚で出場停止。マセードはこの週半ばの練習から完全合流しており、スタメンに予想するメディアもあったがベンチスタート。増川は前日練習で膝を痛めてベンチ入りせず。
 ツエーゲン金沢のスターティングメンバーは4-4-2、GK原田欽庸、DF馬渡和彰、太田康介、廣井友信、野田紘史、MF嶺岸佳介、小柳達司、大槻優平、熊谷アンドリュー、FW山﨑雅人、中美慶哉。サブメンバーはGK大橋基史、DF阿渡真也、作田裕次、MF秋葉勝、安東輝、FW金子昌広、安柄俊。
 バックグラウンドとして、両チームの置かれた状況を確認すると、札幌は2位清水、3位松本にいずれも勝ち点差3をつけており、引き分け以上でJ2優勝が決まる。負ければ松本の結果次第だが、ホームで最下位金沢相手ということで、ひとまずそれは考えていないというのが選手、関係者、サポーターの共通認識だっただろう。
 一方、金沢は試合開始前の段階で最下位の22位。21位は勝ち点同じで北九州、20位は勝ち点差2で岐阜となっている。よって金沢としては、もちろんベストは岐阜の順位を上回って20位に滑り込むことだが、北九州-山形戦の展開次第では、勝ち点1でもOKという状況も十分に生じる可能性があり、札幌以上に試合運びに留意する必要がある状況だと言える。
 20位 岐阜 勝ち点40 得失点差-26 ホーム東京ヴェルディ戦
 21位 北九 勝ち点38 得失点差-18 アウェイ山形戦
 22位 金沢 勝ち点38 得失点差-24 アウェイ札幌戦


1.前半

1.1 平常運転(札幌最終ラインの低さ)


 キックオフ前に、金沢のゲームキャプテン・山﨑がコイントスに勝った際、エンドを入れ替えたが、これは「他会場含めてゲームが動くであろう後半に、ベンチからの指示が聞こえるように」という思惑があったということで、金沢は札幌以上にこの試合に入念な準備をして臨んできたことがうかがえる。
 J2降格後最多となる3万人を超える観衆の前でいいところを見せたい札幌だが、序盤は金沢ペースで試合が進む。これについて、この試合、出場停止の福森は昇格後の特番で「皆ガチガチになってると思った」と評していたが、確かに硬さもあったと思うが、本質的には両チームの選択したスタイルの問題…キックオフ直後のロングボール合戦で、よりリスクを回避すべく、ラインを下げて対応した札幌と、勇気をもってラインを上げ、コンパクトにしてきた金沢というスタイルの違い、また札幌の最終ラインは元々裏に強くない選手がそろっているので、放り込まれるとなかなか上げられないという個人のクオリティの問題があったと思う。

 典型的な局面を一つ挙げると、以下に示す10:13はロングボールの競り合いから、石井が一気にポジションを上げて競り勝ち、ボールを15mほど前方に押し出したところ。この時、札幌の選手は赤破線の動き…つまり当然のことながら、前方に転がったボールを追いかけていく。
 この時、セオリーとしては札幌はボールが前に転がっている限り、最終ラインの裏を突かれることがないのでラインを上げることが望ましいが…
石井が競り勝ちボールを前方に押し出す

 静止画ではわかりにくいが、この時、河合を中心とする札幌最終ラインは全くラインを押し上げられていないため、ポジションを上げる前線と上げない最終ラインに挟まれた中盤は大きく間延びしてしまう。
ボールに従ってFWがポジションを上げるが、後方は上げれていない

 金沢の左SB野田がボールを前に繋いだところに宮澤が寄せていくが、この広大なスペースに宮澤1人しか人を配置できていない。結果、悠々と金沢はボールを落ち着かせることに成功している。
金沢が悠々とボールキープに成功

1.2 金沢が見せた勇敢さとロジカルな札幌対策


 下位に沈む金沢だが、先述の通りかなり入念に準備をしてきたという印象で、個人的にはもっと確度の低い、一か八かのようなサッカーを仕掛けてくるのかと思っていたが実態は全く逆、極めてロジカルな札幌対策を用意していた。

1)SBの解放


 金沢がボールを保持することに成功した際、まずCBが低いポジションを取り、CB2枚ないしボランチの大槻を含めた3枚でボールを回す。
 ここで、札幌はいつも通り5-2-3でリトリートするが、都倉-荒野-ヘイスの前3枚としては、金沢のビルドアップは大したことないと判断したのか、CBにプレッシャーをかけてミスを誘おうとするかのように、特に3トップ中央の守備を受け持つ荒野が、低いポジションにいるCBを追いかけていく。
 すると金沢はCBに札幌の前3枚の守備を食いつかせたことで、SBが完全に解放される。金沢の4バックで横幅を取るようにポジショニングすれば、3枚の札幌のFW陣では元々カバーしにくいが、CBに食いつかせることでより万全にする。そしてオープンになった馬渡や野田がドリブルでボールを運んでいくことで、札幌の5-2-3の「3」を突破し、5-2ブロックの状態を作らせる。
SBの解放からのドリブル等による前進

2)ウイングバックの裏~CBを動かす


 上記のプレーで金沢のSB(主に馬渡)からのドリブルによる前進が成功すると、札幌としてはSBを放置しにくくなる。
 3トップがサイドを見れなくなった時、札幌は5バックになっている最終ラインからウイングバックが前進するのがルール。特に金沢のストロングポイント・馬渡がたびたび空くようになると、堀米が積極的に前に出ていくが、堀米が出れば、今度は金沢はその裏のスペースを待機させておいたサイドハーフに使わせる。
 下の図では、馬渡→嶺岸というサイド2人で外→外のパスコースを用意し、ボールを前に運べる。ここでサイドに張る嶺岸には札幌は櫛引がカバーに出てくるが、仮に櫛引がスローインに逃れたとしても、ボールを前進させたことで、札幌を押し込むことに成功しているので、金沢としてはOK。ベストなのは、櫛引が釣り出された状態で中にクロスを上げ、札幌の5バック-堀米、櫛引の3人しか残っていない(場合によっては河合も釣り出されて2人)というカオスな状況で、中美や熊谷が飛び込んで何とかシュート、というところだろう。
外→外で前進し、札幌のCBを動かす

 22:55頃の金沢の決定機もやはり右サイドからで、サイド深い位置まで運ぶと、札幌は堀米一人に対応を任せるが、人数をかけて粘る金沢がボールをキープし、馬渡がクロス。ニアで山崎が触り、ファーの中美に流れるが進藤が必死のシュートブロック。ただ、狙いとしては金沢はこの形だったと思われる。

3)縦1本で押し下げれば中盤を支配できる


 また、仮に札幌のハイプレス(金沢のSBにウイングバックが当たる)に引っかかってしまうならば、ウイングバックの裏にFWの山崎や中美を走らせてロングフィードで裏を突く。このロングボール1本によるプレーは、堀米の裏を櫛引がカバーすることにより、そう簡単には成功しないが、それでも裏を何度か見せておけば一種の"抑止力"として働き、SBからの前進がしやすくなるとともに、やはり札幌の中盤が間延びするので、金沢としては中盤を経由したサイドチェンジがしやすくなる。
ロングボールで押し下げれば、FW~MF間を支配できる

1.3 チャンピオンの実像

1)河合に起因する全体の低さ


 一方、札幌のビルドアップは、金沢と比べて勇気も準備も不十分で、となれば当然そのクオリティも3万人を超える観客を満足させる水準には到達しえないものであった。
 この試合、札幌のビルドアップはいくつかの問題を抱えていたが、まず根本的に改善したいものとしては、最終ライン、特に中央で基点となるべき河合のポジションの低さ。下に写真を示したが、この試合に限ったことではないが、河合はボールをドリブルで運ぶというプレーが極めて少ない。そのため、相手がハイプレスを仕掛けていない時、リトリートしていてボールをドリブルで運べる状況でもポジションを上げることなくプレーしてしまう。増川が3バックの中央を務めている時と比較すると、一目瞭然である。
運べる状況にもかかわらず運ばない
増川はここまで持ち上がる(8/11横浜FC戦)
増川は相手とこの距離感でプレーできる(7/16岡山戦)

 河合のポジションが上がらないと、両隣の選手…進藤と櫛引もポジションを上げることができない。すると、4-4-2のチームに対するビルドアップ時に有効なFW脇を使うプレーが展開しにくくなり、低い位置から長い距離のパスを前線に繰り出す、単調なプレーが増えていく。
河合の低さが基準になり、3バック左右の選手がFW脇を使えない

2)逆足サイドに配された櫛引:2人の仕事に3人を要する


 もっとも、河合が増川のようにボールを運べるなら攻撃面の諸問題は解決していたかというとそうではない。この試合、最大のネックとなっていたのは、試合後に札幌ドームMVPに選出が発表された、今や最も替えのきかない選手となった福森が出場停止で、代わって左のCBを務めた櫛引の攻撃面でのクオリティが福森には遠く及ばないということが大きかっただろう。
 攻撃面での福森と櫛引の違い、差はあらゆる要素において大きい(それはある意味当然というか、福森が凄すぎて仕方ない、J2ウォッチャーである浦和のペトロビッチ監督が目をつけるのも当然だろう)が、3-4-1-2の左DFとして見たときには最も櫛引のネックとなるのは、利き足が右で、左足は苦手なので、右足でしか基本的にボールを持てないこと。
 右足でしか持てないと、下の図のように右側から相手に寄せられた時に、相手がいる側にボールをさらしている状態なので、体でブロックして左側(タッチライン側)にドリブルで逃げつつボールを運ぶといったプレーができない。また、縦の堀米に展開する際も、右足から一度持ち替えで左足インサイドキックで出そうとすると、ワンテンポ遅れてしまう。こうした問題があるため、櫛引も河合同様に、相手とある程度距離を保った状態(要するに、持ち上がれない)でのプレーが基本になってしまう。
櫛引が持ち上がれないので、堀米が下がってくる

<堀米が下がってくる・荒野がサイドに流れる>


 すると、櫛引が十分に持ち上がれないということで、堀米がボールを貰いにサイドの低い位置に下りてくる。堀米は昇格後の特番で四方田監督にも褒められていた通り、成長が著しく、特にサイドアタッカーとして開眼しつつある選手だが、高い位置に張らせて相手SBとの1vs1の状況を作り、仕掛けさせることでチャンスメイクに繋がるのであり、そのためにはサイドの高い位置にとどまらせなくてはならない。

 またこの試合、堀米が下がってきたことでサイドのスペースに流れてきたのがトップ下の荒野。おそらく荒野としても、中央のブロック内(相手の間)で待っていてもなかなかボールが出てこないということで、サイドに流れたのだと思われるが、荒野はサイドをえぐるというスタイルではなく、どちらかというと中央に侵入していく選手。堀米に代わって、サイドで横幅を作るという役割は担えない。下の21:03~の局面も、8人ブロックで中央を固める中に突っ込んでいき、ヘイスを使って中央に侵入しようとするが、囲まれてロストしてしまう(結果櫛引がカウンターをファウルで止めてイエローカード)。
堀米が引いたところに荒野が流れてくるが
人が多いところに突っ込んでいきロスト

 こうした構図は、単に福森がいないのでサイドアタックが機能していない、ということに加えて、通常、福森と堀米の2人でやっている仕事を、櫛引・堀米・荒野の3人をかけているともいえる。となれば当然中央は薄くなるので、ヘイスや都倉は孤立しやすくなる。

3)スペースを必要とするレフティモンスター


 もう一つ、物足りなさを感じたポジションがボランチの一角、上里が務めたと思われるアンカーの役割。札幌のWボランチは、レギュラーの深井・宮澤というコンビであれば、攻撃時は深井が下がってアンカー(かじ取り役)、宮澤はビルドアップに加わるよりも、基本的に中盤の位置から前線に飛び出していってフィニッシュに絡んでいく役割を担う(後ろが不安定な場合は、後ろのサポートを優先する)。
 深井と稲本の両方を失って以降の札幌は、アンカーに前寛之または上里を起用しており、ここ2試合は上里が起用されているが、上里は非常に長所短所がはっきりしている。長所は言うまでもなく破壊力抜群のロングキックで、短所は(いくつかあるが、今のチームスタイルで一番気になる点は)、ボールを受けてプレーする際にスペースを必要とする点だと考える。というのは、上里のキックはモーションが大きく、極端な例だが、これが例えばマンUのポグバなら膝下だけの動きで小さいモーションでサイドを変えるキックを蹴れる。上里の中~長距離キックは、全身を鞭のようにしならせたモーションから繰り出されるので、これを出していこうとすると、ある程度のスペースが必要になる。

 そうした理由により、上里はアンカーの役割を担う、また得意なプレーを出していくために、プレッシャーの少ないエリアにどんどん逃げていく傾向がある。
相手ブロックの前に出てこないとプレーできない

 すると下の図のように、 札幌のDF・ボランチの計5人の選手が全員相手のブロックよりも後方にいる、というような状況が頻発する。後ろにそれだけいるということは、前に人数をかけられていないということで、しかも札幌の場合、大抵2トップは最前線で張っているので、中盤でパスを受けるために投じられる選手がトップ下のみになってしまう。
 となれば、札幌は必然的に出し手と受け手がどんどん離れていき、単調な、またショートパスに比べて確度の低いロングパス主体の展開が多くなっていく。
必然とロングボール主体に

<プレッシャーのあるエリア(相手2トップの間)にアンカーを配する重要性>


 これが例えば深井や稲本ならば、FWの間でプレーできる、というよりFWの間に自分がいることの重要性をわかっているので、チームとしてもそれを活かし、下のような展開ができる(この試合…アウェイ町田戦は、福森に渡してからの準備が皆無だったのでうまく活かせなかったが)。
 特に深井はアンカーの役割を担っている時、観察していればわかるが、そう何本も縦パスを入れまくっているわけではない。むしろ、増川からの縦パスを受けてバックパスですぐ戻すという、一見無意味なプレーも多い。ただ深井が常にFWの間にいる、たまにそこで受けて戻す、という単純なプレーを繰り返すことで、相手DFの意識は中央に集中する。
 相手の目が中央に向けば、サイドが空くことになる。サイドには札幌のストロングポイントである福森の左足という武器があるので、深井や稲本の中央でのポジショニングは、福森を解放するオトリであるともいえる。
4/3町田戦より 稲本が中央で2トップをピン止め

4/3町田戦より 2トップが福森を見れないので町田はSHが動かされる

<妄想(福森不在を逆手に取った上里の活用)>


 個人的には、繋げない櫛引を左で起用するならば、FW脇を起点にした組み立ては上里に任せばいいのでは?と思っていた。そうしたパターンはクルピのセレッソにおける扇原落としなど、いろいろな事例がある。櫛引のウィークポイントも隠せるし上里の特徴も活かせて一石二鳥だと思う。
福森不在を上里の左落として解決する

【成功例】


 上記で指摘した、①櫛引が高い位置(2トップ脇)を取る、②上里が中央から逃げない、を実践した局面が1度だけあったが、この時は非常にいい展開ができている。
 まず櫛引がFW脇で河合から受けたことで、金沢の2トップとSHを動かしている。そして櫛引からのパスコースを確保すべく、上里が中央にステイしつつ櫛引に寄っていく。
櫛引がFW脇

 上里が受けるとき、金沢のボランチが寄せていくが、上里のポジションは「FWの背後」であり、金沢のボランチの守備範囲外。またダイレクトで出した判断も良かった。
中央で上里 

 金沢はSHとボランチが釣り出されているので、その背後が大きく空いている。上里からのパスを待っていた都倉による間受けが難なく成功し、都倉がスペースを得た状態で前を向ける。
前を向ける

2.後半

2.1 スコアを見ながらの進行


 ハーフタイム時点で、昇格・降格にかかわる各会場のスコアは、徳島-清水が1-1、松本-横浜FCが1-1、山形-北九州が1-0、岐阜-ヴェルディが2-2。
 札幌としては、ドローでも優勝・昇格が決まるということでさほど難しい話ではない。問題は金沢で、北九州がこのまま敗れた場合、ドローならば確実に順位が上回る。ただ岐阜が負けた場合は、金沢が勝てば岐阜も上回り、20位で自動残留という可能性もある。要するにドローで良しとするか、勝ちに行くかという判断を試合中に迫られることになる。

 後半立ち上がりからの展開を見ていると、恐らく金沢は現状維持、前半の戦い方を続けつつ、まず落ち着いて札幌と、他会場の結果の動向を見よう、という考え方だったと思われる。点を取りに行くならば、札幌の攻撃が失敗した際のトランジションは狙い目で、素早くシュートまで持っていけば得点の期待は高まるが、そうはせずボールを回収した後にゆっくりと後方でボールを回し、陣形を整える状況が多かった。

 一方、札幌は最終的には"あのような"選択をしたことからもわかる通り、金沢以上に「積極的に」引き分け、つまり0-0の現状維持を狙っていたと思われる。ただ、その意識は前3人と後ろの8人で微妙に相違があったのか、守備時は都倉・荒野・ヘイスの前線のトリオは積極的なフォアチェックを見せる場面も散見されていた。
 もっとも全体的な傾向としては、遅攻のオプションに乏しいチーム、しかも福森を欠いているということもあり、後ろでボールを回して様子を見た後に、河合→都倉の縦ポン、というケースは少なくなかった。またこの時、ウイングバックをあまり高い位置に上げず、ボランチ2枚も金沢のブロックよりも後ろに残した状態、つまり前3人だけを高い位置に置いた状態で都倉を狙って蹴る、という形が多かった。
MFは金沢のブロックよりも積極的に前に出ていかない


2.2 不確定要素の排除


 63分、金沢はコーナーキックのタイミングで大槻→秋葉。このコーナーキックに至るプレーは、札幌が前線に人数をかけて奪われてカウンター、という流れで、コーナーキックを挟み、セカンドボールを回収した金沢が再び札幌ゴール前に侵入していくが、この一連のプレーは後半数少ないバイタルエリアでの攻防が繰り広げられたプレーだった。

 札幌は67分、ヘイス→内村に交代。ヘイスは2トップの一角に入ったこの試合、左のFWとしてプレーする時間帯が多かったが、となるとマッチアップ対象は金沢の右SB馬渡。個人的には、馬渡はものすごく危険、というプレイヤーではないと思うが、むしろ問題は、金沢が両SBを起点にボールを前進させていくプレーを前半から展開している状況で、ヘイスはあまりそこを潰すことに熱心ではないという点。
 特に札幌は積極的に攻めない、またボールも回収しようとしないということで、金沢にボールを持たせる展開なので、各選手はボールを追いかけている時間が多くなっていくが、ヘイスはこうした展開で"連続性のある守備の動き"があまり得意ではないように見える。

 ヘイスが変わる直前、65:39頃のプレーを抽出すると、金沢が中央からサイドに一度展開する際、ヘイスは中央のコースを切りながらSBに寄せていく。
サイドに展開したところ

 金沢のSB馬渡はタッチラインを背にしていて、恐らく65:40の局面で厳しく寄せればヘイスは奪えたかもしれないが、あまり強く寄せていない。ただ前進を阻んでいるのでとりあえずOK。
ヘイスがSBに寄せて前を切る

 問題はその次で、サイドで詰まった金沢はボールを一旦CBまで下げる。すると都倉と荒野はこのボールを下げる動きに連動してポジションを上げる(宮澤も同様)が、ヘイスだけポジションを上げておらず歩いている。これで荒野-都倉-ヘイスで構成する前3枚のラインが崩れてしまい、ヘイス-都倉間で熊谷が縦パスを通すことに成功している。
ボールが下げられるとポジションを上げるが、ヘイスだけ連動していない
熊谷に前を向かれて縦パスで突破されてしまう

2.3 神の怒り ~曽田さんがおこだお~


 このころ他会場では、ヴェルディと対戦していた岐阜が難波のドッピエッタで4-2とする。これで金沢が20位、残留確定となるにはヴェルディがまず3点を返さなくてはいけない、非現実的なシチュエーションとなる。63分の得点だったので、この状況をモバイルデバイス等で両チームのスタッフが知ったのは、ちょうど内村が投入される直前くらいの時間だっただろうか。
 スタンドから見ていて、どのようにベンチからピッチ内に状況が伝わっていたかはわからないが、70分過ぎの時間帯は、まだ両チームの選手たちに意思統一が図られていない状態。例えば72分に金沢のターンオーバーからク ソンユンのもとへボールが転がった際、ソンユンはあからさまな時間稼ぎをしている。一方、直後の74分に内村は石井とのパス交換から、右サイドを裏に抜けだし、クロスを上げるなど攻める気満々の振る舞いをしていたり、77分には河合の安直なロングフィードが炸裂する等、まだ札幌は攻める気が合ったように思える。
 最も興味深かったのは、77分~78分頃にかけて2,3度見られた、内村が右サイドの低い位置まで落ちてきて、石井を押し上げようとするプレー。1度目、77分頃のプレーでは具体的に内村が石井に声と動作で指示している。
内村の石井を押し上げる動き

 75分、札幌は上里→前寛之。前寛之はそのままWボランチの一角に入る。この時はまだトップ下に荒野を残していて、まだサッカーをする気は合ったと思われる。
 おそらく札幌がサッカーをすることをやめたタイミングは、80分に堀米のスルーパスに都倉が抜け出してコーナーキックを得たとき。スカパー!中継では映っていなかったが、四方田監督が櫛引を呼び出して何等か指示をし、河合や進藤など各選手に伝わる。
 そしてコーナーキックからの一連のプレーが終わり、82分に金沢のゴールキックでプレーが再開した際、札幌は荒野を1列下した3-5-2にシフトし、金沢にボールが渡ったタイミングで、例の論議を呼んだ"イタリア式フィナーレ"が幕を開ける。
 その後は一度、86分に内村のフォアチェックから札幌が右サイドでボールを奪うが、石井がボールを戻すと、今度は札幌最終ラインで回し始める。そこからは特に何も起こらず、札幌の優勝、金沢の21位が静かに確定した。



北海道コンサドーレ札幌 0-0 ツエーゲン金沢
マッチデータ


3.雑感


 終わりだけでなく、全体的に緩い試合だった。札幌最終ラインでは、金沢もそれなりにボールを持たせてくれたので、その意味では後ろの選手のクオリティの問題、確かに菊地も増川も福森も深井もいない、という言い訳はある程度通じるかもしれない。増川の長期離脱もあり、このポジションの補強は必須だろう。

 終わり方については、色々な意見があるが、筆者の見解は、「80分で決めれる強さがないんだから仕方ない」。「つまらない、金返せ」という方、「久々に見に来た人に見せる試合ではなかった」との意見ももっともだが、それまでの80分間のゲームのクオリティが、紛れもない今の札幌の実力であり、下位に沈むチーム相手にホームで違いを見せられない以上、何よりも大事な結果を勝ち取るためには、あのような選択肢も十分ありうる話だったと思う。
 確かに個人的には、羽田からの往復航空費+SS席のチケット代に見合う興行ではなかったと思うし、筆者の席の周りでもタイムアップ前に席を立つ人がみられたが、仮にリスクを冒して、1年間の努力がゼロになってしまうかのような戦い方をするべきかというと、それは違うのではないか。

=========================================

 皆様へ
 J2リーグ戦も閉幕し、(研究対象がないので)一旦本ブログの更新も来シーズン開幕までストップします。拙い文章ながら毎回ご愛読、コメント、叱咤激励、ツイッターでのご支持等を下さりありがとうございました。

 正直なところ、昨シーズンの監督交代の経緯を疑問に思ったので、試合内容をアウトプットとして残して後で検証できるようにしたい、と思ったことが本ブログ立ち上げの動機で、昨シーズンの試合、経緯、ならびに今シーズン中盤ころまでの戦いぶりを見ていると、四方田監督体制でJ2優勝・J1昇格を成し遂げられるとは思っていませんでした。
 ブログを書くために毎試合一時停止を駆使しながら試合を何度も見返していましたが、J2ということで、どうしても試合のクオリティがJ1と比べて低いこともあり、何としてもJ1に昇格してもらって、J1のゲームを対象にしたブログを書きたいなぁ、というのが率直な感想で、その点でも非常にうれしい結果になりました。

 恐らく北海道コンサドーレ札幌は、次のシーズンも厳しい戦いになるかと思いますし、またJリーグの視聴プラットフォームがDAZNに移行するという点で不透明な部分もあります(スカパー!がJ1の試合を対象にモニタリングしているトラッキングデータが非常に有用なので、札幌がJ1に上がるタイミングでDAZNに変わってしまうのは残念です。また家にテレビがないので、DAZNのオンデマンド視聴環境が悪ければテレビとレコーダーを投資しなくてはなりません)が、「考えるブログ」の名に恥じないコンテンツを今後も継続的に残していきたい所存です。
 来シーズンの開幕時にアクセスいただければと思いますが、可能ならばオフシーズン企画(シーズンの総括)をやるかもしれません。いずれにせよ今後ともよろしくお願いします(CBに転向した頃の曽田雄志さんを見るような温かい目で見守って下さい)。

2 件のコメント:

  1. |´・ω・)ノこんばんは~にゃんむるですー。
     1シーズン継続しての試合検証お疲れ様でした。そしてありがとうございました。今シーズンはこのブログが非常に楽しみで、試合後何度も更新されてないかを確認しに来てました。
     試合を見て消化しきれなかった事を、ここを読んだ後に「φ(゚Д゚ )フムフム…」と納得したことも一度や二度ではありませんでした。もちろん「ここは俺と考え違うなー。」ってこともありました。でもサッカーは正解のないスポーツだと考えているので、それはそれで良いと思ってますけど・・・。
     最終戦の内容については、自分的にはかなり悲しいものとなってしまって残念ですが、何十年(詳しくは秘密)もサッカーを観ていればこういうシーンも珍しくはないのでビックリはしてません。ただしビックリはしなかったけど抗議のブーイングはしました。レプリカユニも脱ぎ捨てました。試合中の両チームへの怒りは相当なものだったと思います。シーズンを通して考えれば正しい判断ですが、ただのサッカー1試合と考えればとんでもないものでした。がっかりして帰った人はかなりいるのではないでしょうか。
     しかしサッカーの観戦についても正解はないと思うので、試合の勝ち負けにこだわる人、ゴールで魂揺さぶられたい人、選手の動き見てウンウン言う人、選手の汗の臭い嗅ぎたい人wなどそれぞれがそれぞれの判断でその是非を考えれば良いと思うので、これに関しては各人が納得すれば良いでしょうというのが私の考えです。はい、抗議はやめてください( ^ω^)
     そんなわけで(無理矢理まとめw)来年はJ1での試合検証をここで読めることを楽しみにしてニヤニヤしながら待ってます。ちなみにシーズン総括大好物です。パワーアップしてJ1やる前に、前菜で総括。楽しみだなー。CBに転向した頃の曽田さんを見るような生温かい目でやはりニヤニヤしてまってます。
    今日はなんかもうめちゃくちゃだな。   にゃんむるでした(・∀・)ノまたのー

    返信削除
    返信
    1. >にゃんむるさん
      いつもコメントありがとうございます。おかげさまで何とか完走できました。
      更新タイミングについては、次の試合の開催までに…ということで、中2日の試合だとかえって尻に火がついて頑張りましたが、週1で消化している時期はどうしても甘えが出てしまい更新が遅くなってしまいました。
      外野が見て「考えるブログ」ですので、答えが書いているわけではないですし、アクセスされた方も皆さん人それぞれのご感想だと思います。また私自身も、シーズン序盤と終盤で印象が違うので、書いてることが互いに矛盾する記事もあると思います。その辺を忘れないようにということもあって、〆の総集編も書いてみることにします。
      最終節については、なんというか脱ぎ捨てたくなる気持ちはわかります。私も罵声を飛ばす気は起らなかったですが、形容しがたいですが、さっさと風呂入って帰ろうかな、というような感想でした。
      また今後ともよろしくお願いします。

      削除