スターティングメンバー |
北海道コンサドーレ札幌のスターティングメンバーは3-4-1-2、GKク ソンユン、DF菊地直哉、河合竜二、福森晃斗、MF石井謙伍、前寛之、宮澤裕樹、堀米悠斗、荒野拓馬、FW都倉賢、ジュリーニョ。サブメンバーはGK金山隼樹、DF増川隆洋、進藤亮佑、MF神田夢実、FW内村圭宏、上原慎也、菅大輝。
前節今シーズン初の連敗を喫し、ここ3試合で勝ち点1しか上げられず、「振り向けば山雅」ともいうべく勝ち点差3、3位の清水とも勝ち点差6と一気に縮まってきた。必勝を期して菊地がスタメンに復帰、故障で離脱していたジュリーニョ、荒野もスタメンに名を連ねている一方、増川を外してDF中央には河合。精神的支柱ではあるが、このポジションでの河合⇒増川のアップグレードが今シーズンの躍進のポイントであった。疲労も考慮したと思われるが、この決断がどう出るか。河合を引っ張り出して負けてしまっては目も当てられない。
カマタマーレ讃岐のスターティングメンバーは4-4-2、GK清水健太、DF藤田浩平、DFエブソン、永田亮太、砂森和也、MF渡邉大剛、高木和正、山本翔平、馬場賢治、FW木島良輔、西弘則。サブメンバーはGK瀬口拓弥、DF藤井航大、MF綱田大志、荻野広大、FWアラン、森川裕基、我那覇和樹。試合開始前の段階で19位、最下位の岐阜と勝ち点差5、21位の北九州とは勝ち点差3と、J2残留争いに巻き込まれている状況で、こちらも尻に火がついている。
シーズン中盤には故障者続出でセンターバックがおらず、我那覇がCBを務めるような試合もあったが、この試合はチーム1位の9ゴールを挙げている木島徹也、2位の7ゴールを挙げている仲間がともに出場停止、西を2トップの一角に起用し、また7月に加入して以降、主に右SBを務めていた渡邉大剛が右の中盤に入る。また不動のボランチの永田をCBに移動させるなど、もともと讃岐は相手によって戦い方をコロコロ変えてくる印象だが、この試合も何か秘策を持っていることを感じさせるメンバーになっている。
1.前半
1.1 心配は杞憂だった
1)終盤のJ2は気が抜けない
例年、「終盤のJ2は下位チームによる上位食いが多い」とよく言われる。これは長丁場のリーグ戦による疲労の蓄積や、試合数が多いことでスカウティング情報の蓄積の多さ、下位チームの戦術の浸透など、上位と下位の差が順位ほどではなくなる、さまざま理由があると思われる。
札幌がシーズンの後半戦で対戦した下位チームは、いずれも前半戦の対戦に比べて守備戦術を整備したうえで札幌に対抗してきている。パターンとしては2つで、水戸、群馬、熊本などはハイプレス&ハイライン戦術で札幌のビルドアップを阻害し、高い位置からのショートカウンターを狙うパターン。一方ヴェルディ、長崎、愛媛、北九州などはより低い位置での守備ブロック形成を意識していて、攻撃は前線の選手のタレントに頼る傾向があるものの、ゴール前にしっかりとバスを止め、点を取られない、負けないことを念頭に置いた試合運びを徹底してきた。
2)"終盤戦モード"になっていない讃岐の守備
この試合に臨むにあたり、讃岐がハイプレスで来られるとまずいな、と思っていたが、キックオフ直後の展開を見ていると、讃岐は下の図のようにかなり低い位置まで4-4ブロックを撤退させ、2トップを前線に残している。それはまさしく典型的な前後分断サッカー、前線の2人と後ろ8人の間に大きくスペースが空いている。
これならば札幌としては安心、というのは、ビルドアップ段階において讃岐は2トップと後ろの8人が連動した守備を行ってこないので、木島良輔と西の2人をいなしてボールを運ぶことだけを意識すればよい。そしてこの2人も、2人だけではまともな守備ができないということがわかっているのか、ボールを運ぶ福森や菊池に対して殆ど有効な守備を展開しない。
そのため札幌はキックオフ直後からバイタルエリアにボールを運び放題。こんな試合展開はシーズン後半になってからほとんどなかったというくらい、非常にルーズな守備対応である。
8人と2人が分断、MFの前を開け渡すとともにFWが守備放棄 |
3)幸運な先制点
そうしてキックオフ直後から両ワイドの石井、堀米が仕掛ける局面を作り、石井のシュートから得た3分の右コーナーキック。福森が一度動かしてからゴール前に上げたクロスを都倉が頭で折り返したボールは、いいタイミングで走りこんだジュリーニョの腿のあたりに当たってゴールに吸い込まれる。狙ったプレーだったかというと微妙だが、ともかく札幌が先制し、連敗中の停滞ムードを振り払うことに成功する。
1.2 とんでもなくルーズだった讃岐
1)インテンシティの低い攻撃から始まっていて…
開始早々に札幌が先制したが、常識的な感覚で言うと、リードされた讃岐が前がかりになって攻撃に比重を置き、後ろにスペースができる展開になっていくと考える。しかし讃岐はそうした前がかりのオフェンスモード、ビルドアップからのセット攻撃を殆ど仕込んでいない。そのためマイボールになっても、札幌の最終ライン裏…中央に蹴ってもク ソンユンの守備範囲内なので、サイドのスペースにボールを蹴って木島か西を走らせる、という単純なものしか用意されていない。
2)攻守切替後も低いインテンシティのまま
そしてこの讃岐の意図がよくわからないオフェンスが散発的に終了する(札幌の選手がボールを奪う)と、両チームの攻守関係が入れ替わるが、讃岐の意図が良くわからないオフェンスはそのまま、チームとして戦術的に整備されていない緩い守備へと直結している。
例えば下の8:26の場面は、まさに讃岐がサイドに意図のないロングボールを放り込み、FWの選手1人で何とかしようとするが、札幌の菊池、河合、石井に囲まれてボールを奪われたところ。札幌は石井がボールを運んでいくが、この時讃岐は「意図のない攻撃」…ロングボールを蹴って、その受け手となるFWの選手をフォローしたりというアクションが皆無のため、攻守が入れ替わった時もボールサイドに選手が殆どいない。そのため石井は無人の野を突き進むがごとく、ドリブルでボールを運んでいく。
サイドの深い位置で石井が奪う |
石井が15メートルほど運んだところで、讃岐の選手(馬場?)が画面内に現れるが、ここでもこの選手は殆どボールに寄せてこない。カカシのような対応である。
石井がドリブルで運ぶもほとんど寄せてこない |
このカカシが立っているエリアを、石井がジュリーニョとのパス交換から素通りしていく。ここでも讃岐はまだディフェンスをする様子が見られない。また映像を確認すればわかるが、ここまで画面に映っている選手は皆ジョギング程度の速度で走っている。
ジュリーニョとのパス効果で石井が縦に運ぶも、まだ寄せてこない |
結果どうなったかというと、讃岐は下の写真、8:37で確認される位置に最終ラインをセットしていて、ボールがどのような状況にあろうと、こうした低い守備位置を押し上げて対応しようとの意図を持っていない。要するに札幌がこの位置まで侵入するまでは、全くのユルユル対応で、ボールを奪おうとしてこないので、札幌はマイボール時に殆どフリーパスで前線までボールを運ぶことができる。
比較対象として、後半立ち上がり、札幌が石井のクロスバーを叩いた強烈なシュートで攻撃を終了した局面の展開を見てみる。
この場面、正確には石井のシュートのリバウンドをジュリーニョが詰めようとしたがシュートミス。讃岐のGK清水は素早くリスタートするが、下の48:23を見てもわかるようにジュリーニョはまだ手で顔を覆って切り替えられていない。一方石井もGKになった直後は同様のリアクションだったが、プレーが再開されるとすぐに切り替えて、スローが渡った選手に向かって全力でプレスバックし、距離を詰める。
石井が全力で戻ったことで、讃岐の選手は縦方向のスペースへの素早い展開を阻害される。まだ札幌の選手が戻り切れていない逆サイドに振る。
しかし写真左上の時間表示を見ればわかるが、上の写真で石井がストップしてからサイドチェンジが渡るまでに4秒程度ある。4秒というのは、アスリートならば30メートルは走れる距離。この4秒の間に、天を仰いでいたジュリーニョもプレスバックし、サイドチェンジを受けた讃岐の西の縦突破をストップ(結果的には西が切り返したところを引っ掛けてファウル)。
DF4人がかなり低い位置で待ち構えていて、ここが守備の基準点になっている |
3)札幌のトランジションと比較する
比較対象として、後半立ち上がり、札幌が石井のクロスバーを叩いた強烈なシュートで攻撃を終了した局面の展開を見てみる。
この場面、正確には石井のシュートのリバウンドをジュリーニョが詰めようとしたがシュートミス。讃岐のGK清水は素早くリスタートするが、下の48:23を見てもわかるようにジュリーニョはまだ手で顔を覆って切り替えられていない。一方石井もGKになった直後は同様のリアクションだったが、プレーが再開されるとすぐに切り替えて、スローが渡った選手に向かって全力でプレスバックし、距離を詰める。
赤円が石井がシュートを放った位置 |
石井が全力で戻ったことで、讃岐の選手は縦方向のスペースへの素早い展開を阻害される。まだ札幌の選手が戻り切れていない逆サイドに振る。
石井が最初の速攻を止める |
しかし写真左上の時間表示を見ればわかるが、上の写真で石井がストップしてからサイドチェンジが渡るまでに4秒程度ある。4秒というのは、アスリートならば30メートルは走れる距離。この4秒の間に、天を仰いでいたジュリーニョもプレスバックし、サイドチェンジを受けた讃岐の西の縦突破をストップ(結果的には西が切り返したところを引っ掛けてファウル)。
要するに石井の素早い切り替えが、4秒の時間と、ジュリーニョが30メートル戻る時間を稼ぎ、無防備な状態でカウンターを受けることを防いでいる。
海外のトップリーグなどでは、こうしたトランジション時の迅速な切り替えと、それを可能にするだけの選手配置などは既に常識化しているが、札幌のそれは海外のトップリーグ並みとは言わなくとも、J2のトップとしては恥ずかしくないレベルではある。シーズン当初、特にジュリーニョをトップ下で起用していた時期は攻撃→守備の切り替えがやや甘く、アウェイ松本戦などはその隙を存分に突かれていたが、四方田監督の選手起用等によって幾分か改善された。
ジュリーニョが戻る時間を稼ぐことができた |
海外のトップリーグなどでは、こうしたトランジション時の迅速な切り替えと、それを可能にするだけの選手配置などは既に常識化しているが、札幌のそれは海外のトップリーグ並みとは言わなくとも、J2のトップとしては恥ずかしくないレベルではある。シーズン当初、特にジュリーニョをトップ下で起用していた時期は攻撃→守備の切り替えがやや甘く、アウェイ松本戦などはその隙を存分に突かれていたが、四方田監督の選手起用等によって幾分か改善された。
一方の讃岐は、一般に言う選手のクオリティがほかに比べて劣るならば、せめてこの緩さだけでも改善しないと、今以上のランクに進むことは厳しい。
1.3 都倉の追加点以降も札幌の攻勢が続く
前回対戦時も感じたことだが、讃岐は形の上では4-4-2で守っているが、その対応は基本的に持ち場に現れた選手を捕まえにいくマンマーク的な性質が強いもので、基本的に多くの局面で1vs1で対応している。そのため、札幌の選手がボールをもって正対している状況であれば、その選手に勝てるだけの守備能力があるならばよいが、そうでなければ基本的にはボールを持っている方がサッカーは有利ということで、後手に回る対応が多くなり、ファウルもかさむ傾向があると感じる。
先に書いたように、讃岐は守備ブロックの設定位置がかなり低めで、ここに札幌がボールを運ぶまではほとんど守備を展開してこない。そのため、札幌としては警戒すべきは讃岐が低い位置で奪う→ロングボールで木島と西を走らせてのカウンター、くらいしかなく、これをケアできるだけの人数を後ろに確保していれば、DFも攻撃参加し放題となる。
讃岐のこうした戦い方は、前回対戦時にも見られた傾向だが、10分を過ぎたころから、札幌は讃岐のやり方が前回と変わらないことを確認すると、福森の攻撃参加を増やしていく。札幌左サイドでは、堀米vs右SBの藤田という構図が多かったが、低い位置でスタートし、タイミングよく攻撃参加する福森を讃岐は捕まえられない。
讃岐のカウンターの脅威がそこまでないということで、前半中ごろからは福森だけでなく、宮澤や荒野もオリジナルのポジションを崩し、左サイドを中心に自由に動き回るようになる。
TV中継では前半開始当初から怒号のような大きな声が聞こえていたが、これは讃岐の北野監督によるもので、指示の内容はどうやら、「下がりすぎるな、もっと押し上げろ」という旨のもの。この指示を前半からずっと送っていた甲斐があり、20分頃から讃岐は守備の開始位置が従前よりも高くなり、FW-DF間もコンパクトになる。
そうしてコンパクトにした上で、カカシ同然だった前線の守備も改善される。札幌のビルドアップの開始点となる河合が持った時に、西や木島がチェックに行くようになり、また河合の両脇の菊池と福森、ボランチの宮澤と前寛之に入った時にも、押し上げた4人のMFが簡単に前を向かせないようにチェックする。
これにより、札幌としてもそこまで整備されたビルドアップを持っているわけではないので、ボールを動かすことが難しくなり、結果的には河合や福森が苦し紛れのロングボールで逃げる場面も散見されるようになる。この20分~25分過ぎころが、一時的だが讃岐の守備が最も整理されていた時間帯だった。
持ち直しかけた讃岐にとって厳しかったのは、27分の札幌の3得点目。中央でのルーズボールをキープしたジュリーニョが、中盤サイドで開いていた堀米にパス。堀米が受けた位置はゴールからかなり距離があったが、一度視線をゴール前…クロスを意識させてから思い切りよく放たれたロングシュートは、無回転で急激に落ち、讃岐のGK清水は弾くのがやっと。こぼれ球に反応した荒野が詰めて、札幌が3点目を挙げる。
ただこの時の讃岐の対応を見ると、下の写真、26:20でジュリーニョから堀米に出されたときに、ゾーンで守るなら守備陣形全体が、マンマーク的に対応するならば、右SBの藤田が堀米にもっと厳しく寄せなくてはならない。
この時の藤田の対応は、堀米がかなり大きいモーションで余裕をもってシュートなり、クロスなりを仕掛けられるような距離感と緩さで、やはりこうした緩い対応は、チーム全体に染みついてしまっているかのように感じられる。
30分頃、札幌は菊地が足に違和感を訴え、プレー続行が不可能になる。プレーが切れた32分に進藤が急きょ投入されるが、交代直後の讃岐の右コーナーキック、ゴール正面でエブソンが強烈なヘッドを叩き込み、讃岐が1点を返す。
スコアが2-1となった直後、札幌は右サイドでボールを運んでいくと、サイドに流れた都倉に渡ったところで後ろから都倉が倒されてファウル。福森のクロスは讃岐DFに当たってオウンゴール、すぐさまリードを2点に戻す。
先の2点目に関する記述でも書いたが、やはりこの場面も都倉に対して讃岐はマンツーマン気味に、無理にボールを奪いに行こうとしていて結果ファウルを犯してしまっている。
讃岐としては、問題点は把握しているが、ピッチ上で継続的に解決策を示すことができなかったという45分間だっただろうか。前半42分に異例の2枚替え、藤田と山本を引っ込め、我那覇と藤井が投入されている。藤井は本来エブソンとCBを組むレギュラーの選手で、「ラインを上げてくれ」との指示が北野監督から送られていたとのことで、普段とメンバーをいじったことがかえって裏目に出てしまった格好となった。
スカパー!中継のリポートによると、ハーフタイムの讃岐・北野監督の指示は 「押し上げろ」「ワンタッチで回していこう」というもので、3点のビハインドを追いつくためにより攻撃的にプレーしよう、との意図が伺える。
しかし見ていて感じた、讃岐が2点目を奪うに足りない要素は、札幌の5-2-3でセットする守備を前後左右に揺さぶることであり、またそれが難しい要因は、最終ラインのCBとボランチのビルドアップ能力によると思う。
札幌のセット守備時の基本構造は下の図のようになっていて、まず5-2-3の「3」…3人のFWで中央を切る。言うまでもなく「2」…Wボランチも中央を守るので、相手からすると、①サイドバックの位置、②ボランチの脇、が空く。
ここで、ボランチ脇については最終ラインからの迎撃で対応する。この点は通常の5バックのチームと同様である。一方、相手のSBのポジションについては2通りの対応がある。
パターンAは、3人のFWのスライドでSBの位置をカバーするもので、下の図のようにCB→SBにパスが出されると、一番近い位置のFW(図ではジュリーニョ)が中央からサイドに20mほど走ってスライドする。これが決まれば、マッチアップは下の図のようにSBにジュリーニョ、SHに堀米、ボランチには荒野か宮澤が付くので、数的同数以上で守ることができ、相手としては対面の選手に勝たない限り打開が難しくなる。
ただこれによってFWが何度も動かされると、体力を消耗することに加え、そもそもの問題として、ボールは人よりも早く動くので、人間の運動能力ではずっとボールの動きに追随してスライドすることが不可能になる。すると、下の図のように中央やボールと反対サイドをケアできなくなり、そこから突破されてしまう。
先に書いたように、讃岐は守備ブロックの設定位置がかなり低めで、ここに札幌がボールを運ぶまではほとんど守備を展開してこない。そのため、札幌としては警戒すべきは讃岐が低い位置で奪う→ロングボールで木島と西を走らせてのカウンター、くらいしかなく、これをケアできるだけの人数を後ろに確保していれば、DFも攻撃参加し放題となる。
讃岐のこうした戦い方は、前回対戦時にも見られた傾向だが、10分を過ぎたころから、札幌は讃岐のやり方が前回と変わらないことを確認すると、福森の攻撃参加を増やしていく。札幌左サイドでは、堀米vs右SBの藤田という構図が多かったが、低い位置でスタートし、タイミングよく攻撃参加する福森を讃岐は捕まえられない。
讃岐のカウンターの脅威がそこまでないということで、前半中ごろからは福森だけでなく、宮澤や荒野もオリジナルのポジションを崩し、左サイドを中心に自由に動き回るようになる。
福森が上がり放題 |
1.4 北野監督の咆哮も空しく
1)一時的な押上げ
TV中継では前半開始当初から怒号のような大きな声が聞こえていたが、これは讃岐の北野監督によるもので、指示の内容はどうやら、「下がりすぎるな、もっと押し上げろ」という旨のもの。この指示を前半からずっと送っていた甲斐があり、20分頃から讃岐は守備の開始位置が従前よりも高くなり、FW-DF間もコンパクトになる。
そうしてコンパクトにした上で、カカシ同然だった前線の守備も改善される。札幌のビルドアップの開始点となる河合が持った時に、西や木島がチェックに行くようになり、また河合の両脇の菊池と福森、ボランチの宮澤と前寛之に入った時にも、押し上げた4人のMFが簡単に前を向かせないようにチェックする。
これにより、札幌としてもそこまで整備されたビルドアップを持っているわけではないので、ボールを動かすことが難しくなり、結果的には河合や福森が苦し紛れのロングボールで逃げる場面も散見されるようになる。この20分~25分過ぎころが、一時的だが讃岐の守備が最も整理されていた時間帯だった。
2トップが何らかの守備をすると、後ろも多少連動する |
2)無回転ゴメス砲
持ち直しかけた讃岐にとって厳しかったのは、27分の札幌の3得点目。中央でのルーズボールをキープしたジュリーニョが、中盤サイドで開いていた堀米にパス。堀米が受けた位置はゴールからかなり距離があったが、一度視線をゴール前…クロスを意識させてから思い切りよく放たれたロングシュートは、無回転で急激に落ち、讃岐のGK清水は弾くのがやっと。こぼれ球に反応した荒野が詰めて、札幌が3点目を挙げる。
ただこの時の讃岐の対応を見ると、下の写真、26:20でジュリーニョから堀米に出されたときに、ゾーンで守るなら守備陣形全体が、マンマーク的に対応するならば、右SBの藤田が堀米にもっと厳しく寄せなくてはならない。
中央からサイドに展開されると、サイドに寄せなくてはならないが… |
この時の藤田の対応は、堀米がかなり大きいモーションで余裕をもってシュートなり、クロスなりを仕掛けられるような距離感と緩さで、やはりこうした緩い対応は、チーム全体に染みついてしまっているかのように感じられる。
堀米に対して緩すぎて、シュートもクロスも防げる距離にいない |
1.5 4点目もセットプレーから
1)菊地のアクシデントと讃岐が1点を返す
30分頃、札幌は菊地が足に違和感を訴え、プレー続行が不可能になる。プレーが切れた32分に進藤が急きょ投入されるが、交代直後の讃岐の右コーナーキック、ゴール正面でエブソンが強烈なヘッドを叩き込み、讃岐が1点を返す。
2)やはりバイタルでのファウルがかさむ讃岐
スコアが2-1となった直後、札幌は右サイドでボールを運んでいくと、サイドに流れた都倉に渡ったところで後ろから都倉が倒されてファウル。福森のクロスは讃岐DFに当たってオウンゴール、すぐさまリードを2点に戻す。
先の2点目に関する記述でも書いたが、やはりこの場面も都倉に対して讃岐はマンツーマン気味に、無理にボールを奪いに行こうとしていて結果ファウルを犯してしまっている。
讃岐としては、問題点は把握しているが、ピッチ上で継続的に解決策を示すことができなかったという45分間だっただろうか。前半42分に異例の2枚替え、藤田と山本を引っ込め、我那覇と藤井が投入されている。藤井は本来エブソンとCBを組むレギュラーの選手で、「ラインを上げてくれ」との指示が北野監督から送られていたとのことで、普段とメンバーをいじったことがかえって裏目に出てしまった格好となった。
42分~ 我那覇・藤井の投入 |
2.後半
2.1 ボールを持った時のクオリティの欠如
1)札幌の守備構造(今更)
スカパー!中継のリポートによると、ハーフタイムの讃岐・北野監督の指示は 「押し上げろ」「ワンタッチで回していこう」というもので、3点のビハインドを追いつくためにより攻撃的にプレーしよう、との意図が伺える。
しかし見ていて感じた、讃岐が2点目を奪うに足りない要素は、札幌の5-2-3でセットする守備を前後左右に揺さぶることであり、またそれが難しい要因は、最終ラインのCBとボランチのビルドアップ能力によると思う。
札幌のセット守備時の基本構造は下の図のようになっていて、まず5-2-3の「3」…3人のFWで中央を切る。言うまでもなく「2」…Wボランチも中央を守るので、相手からすると、①サイドバックの位置、②ボランチの脇、が空く。
ここで、ボランチ脇については最終ラインからの迎撃で対応する。この点は通常の5バックのチームと同様である。一方、相手のSBのポジションについては2通りの対応がある。
基本構造:中央を閉じる |
<パターンA:"いける時は"FWがスライドする>
パターンAは、3人のFWのスライドでSBの位置をカバーするもので、下の図のようにCB→SBにパスが出されると、一番近い位置のFW(図ではジュリーニョ)が中央からサイドに20mほど走ってスライドする。これが決まれば、マッチアップは下の図のようにSBにジュリーニョ、SHに堀米、ボランチには荒野か宮澤が付くので、数的同数以上で守ることができ、相手としては対面の選手に勝たない限り打開が難しくなる。
中央を閉じた状態からFW(ジュリーニョ)がサイドにスライド |
ただこれによってFWが何度も動かされると、体力を消耗することに加え、そもそもの問題として、ボールは人よりも早く動くので、人間の運動能力ではずっとボールの動きに追随してスライドすることが不可能になる。すると、下の図のように中央やボールと反対サイドをケアできなくなり、そこから突破されてしまう。
もっともJ2だと、そもそもミスなしで何度も左右にボールを動かせるチームが少ないということもあり、この欠陥はあまり露見されていない。
「ピッチの横幅を3人では守れない」 |
<パターンB:FWが対応不可な場合はウイングバックが前に出て対応する>
パターンBは、SBに対してFWが対応できない場合…CBから素早くサイドに展開されたり、ボランチとのパス交換などで中央を意識させられてからサイドに展開された場合の対応である。
この時はSBが完全に空く格好になるので、ここで自由に持たせないため、ウイングバックが最終ラインから全速力で寄せる。ウイングバックはボランチと同じか、それよりも高い位置まで出て対応するので、5-2から4-3に近い形に変形する
ウイングバックが出て4-3に変形 |
しかしこの時、サイドはFWが守備に参加できないのでウイングバックの1枚のみ。そのウイングバックが相手SBに対して出ると、相手SHやウイングの選手が空いてしまう。ここにはストッパー(図では福森)がスライドして対応するが、ここでも福森のスタート位置はあくまで中央なので、サイドに出る際に一瞬相手のSHやウイングがフリーの時間を作ってしまう。
また、福森がサイドに出ると中央は5枚から2枚減った状態の3枚。3vs2または3vs3となり、5バックでガッチリ固めていたはずの強固さは完全になくなってしまう。
讃岐のビルドアップを見ていくと、讃岐はあまりボランチを落とさずCBの2人、後半は藤井とエブソンのコンビにビルドアップをほぼ任せている。しかし、この2人のビルドアップ能力は極めて凡庸で、例えば下の写真のように、中央からサイドに展開する際、写真2枚目、48:58の局面では荒野とジュリーニョの間が空いている。ここにボランチの選手がいるので、ここでパス交換すればジュリーニョを中央に引き付けることができるのだが、そうしたボールの動かし方ができず、エブソンから来たボールを藤井はそのままサイドに流すだけ。
この単調なボールの動きでは、守る側としては容易に対応可能で、ジュリーニョも十分ついていける。要するに先に例示したパターンA、ピッチの横幅を3人のFWで守れてしまう状況なので、讃岐はここからサイドで展開しても詰まってしまう。
この試合は前半で札幌が3点のリードを奪ったこともあり、余裕をもってアグレッシブな守備を展開できる状況で、中央の讃岐ボランチに対しては札幌の宮澤、前寛之のコンビが積極的に前に出て守りやすく、讃岐としては中央を使いにくい状況でもあった。それでも、ボールを持った時にサイド一辺倒では守りを固める相手に脅威を与えることは難しい。
63分に札幌はジュリーニョ→内村に交代。3点のセーフティリードを守り切ろうとの意図が感じられる交代カードだが、内村投入直後の2,3のプレーが札幌にとってはやや"危険な時間帯"になってしまった。
というのは、フレッシュな内村はジュリーニョ以上にチェイシングに積極的で、特に讃岐のCBのビルドアップ能力が大したことない、ということで、CBの藤井に対して深い位置までチェイスする。ただこの時、下の図のように西を誰が見る、という問題が生じる。ジュリーニョはあまりオリジナルポジションから動かず、サイドに出されたときの西へのチェックを重視していたが、内村は動けるがゆえに、動きすぎることによって西が空きやすくなってしまう。要するに先に説明した、「パターンA」で守っていたのが、内村投入で札幌の左サイドは「パターンB」での守備に切り替わっている。
堀米だったり、宮澤だったりが押し上げられていて、西を見れる位置にいるとよいが、そうでないと西が浮いてしまう。そしてその西を起点に縦の渡邊や、逆サイドへの展開という選択肢が讃岐に与えられる格好となっていたのが、内村投入直後の5分間程度だった。
ただ内村は最初の2,3プレーで守備がハマっていないと理解して、あまりCBを追わずにディレイし、中央を切りつつSBを見るというジュリーニョに近いタスクに切り替えている。ケースバイケースだが、CBからの展開が乏しい讃岐相手ならばこれが正解で、状況を見てすぐに切り替えたのは流石にベテランである。
70分以降の時間帯は札幌にとって危なげない展開。讃岐は前回対戦時もそうだが、やはりFWの守備を仕込めておらず、セット守備からのボール回収に非常に難がある。よって札幌としては、いとどマイボールになれば極端にリスクを冒さない限りはボールを回し続けることができる。
最後は足が止まり、3トップが守備できなくなり5-2ブロック状態になっていたが、中央を固めていればクロスは跳ね返せる。3点のリードを守り切り札幌が勝利。
北海道コンサドーレ札幌 4-1 カマタマーレ讃岐
3' ジュリーニョ
11' 都倉 賢
27' 荒野 拓馬
33' エブソン
35' オウンゴール
マッチデータ
福森のセットプレーが冴え渡り、早々と2点を先行したことが大きかったが、後半戦で一番楽なゲーム、相手だったなというのが正直な感想で、歯車が狂いかけていた段階で当たれたことはラッキーだった。札幌は基本的にキャスティングのチームなので、中盤に荒野、トップにジュリーニョ、サイドに石井と、適材適所なメンバーが復帰したことも、前節の戦いぶりから大きく持ち直した要因である。
2)「パターンA」で対応できてしまう讃岐の攻撃
讃岐のビルドアップを見ていくと、讃岐はあまりボランチを落とさずCBの2人、後半は藤井とエブソンのコンビにビルドアップをほぼ任せている。しかし、この2人のビルドアップ能力は極めて凡庸で、例えば下の写真のように、中央からサイドに展開する際、写真2枚目、48:58の局面では荒野とジュリーニョの間が空いている。ここにボランチの選手がいるので、ここでパス交換すればジュリーニョを中央に引き付けることができるのだが、そうしたボールの動かし方ができず、エブソンから来たボールを藤井はそのままサイドに流すだけ。
ボールが中央にある時、札幌は中央を切りながら寄せていく |
CB同士でパス交換すると、荒野とジュリーニョの間が空くが、簡単にサイドへ |
この単調なボールの動きでは、守る側としては容易に対応可能で、ジュリーニョも十分ついていける。要するに先に例示したパターンA、ピッチの横幅を3人のFWで守れてしまう状況なので、讃岐はここからサイドで展開しても詰まってしまう。
ジュリーニョを中央に引き付けられていないので、サイドで追い込まれてしまう |
この試合は前半で札幌が3点のリードを奪ったこともあり、余裕をもってアグレッシブな守備を展開できる状況で、中央の讃岐ボランチに対しては札幌の宮澤、前寛之のコンビが積極的に前に出て守りやすく、讃岐としては中央を使いにくい状況でもあった。それでも、ボールを持った時にサイド一辺倒では守りを固める相手に脅威を与えることは難しい。
2.2 内村登場でバランスが変わる
63分に札幌はジュリーニョ→内村に交代。3点のセーフティリードを守り切ろうとの意図が感じられる交代カードだが、内村投入直後の2,3のプレーが札幌にとってはやや"危険な時間帯"になってしまった。
というのは、フレッシュな内村はジュリーニョ以上にチェイシングに積極的で、特に讃岐のCBのビルドアップ能力が大したことない、ということで、CBの藤井に対して深い位置までチェイスする。ただこの時、下の図のように西を誰が見る、という問題が生じる。ジュリーニョはあまりオリジナルポジションから動かず、サイドに出されたときの西へのチェックを重視していたが、内村は動けるがゆえに、動きすぎることによって西が空きやすくなってしまう。要するに先に説明した、「パターンA」で守っていたのが、内村投入で札幌の左サイドは「パターンB」での守備に切り替わっている。
堀米だったり、宮澤だったりが押し上げられていて、西を見れる位置にいるとよいが、そうでないと西が浮いてしまう。そしてその西を起点に縦の渡邊や、逆サイドへの展開という選択肢が讃岐に与えられる格好となっていたのが、内村投入直後の5分間程度だった。
内村がCBを見ると、SBを見る選手が別に必要 |
ただ内村は最初の2,3プレーで守備がハマっていないと理解して、あまりCBを追わずにディレイし、中央を切りつつSBを見るというジュリーニョに近いタスクに切り替えている。ケースバイケースだが、CBからの展開が乏しい讃岐相手ならばこれが正解で、状況を見てすぐに切り替えたのは流石にベテランである。
2.3 無風状態のままクローズ
70分以降の時間帯は札幌にとって危なげない展開。讃岐は前回対戦時もそうだが、やはりFWの守備を仕込めておらず、セット守備からのボール回収に非常に難がある。よって札幌としては、いとどマイボールになれば極端にリスクを冒さない限りはボールを回し続けることができる。
FW-MF間ががら空き |
最後は足が止まり、3トップが守備できなくなり5-2ブロック状態になっていたが、中央を固めていればクロスは跳ね返せる。3点のリードを守り切り札幌が勝利。
北海道コンサドーレ札幌 4-1 カマタマーレ讃岐
3' ジュリーニョ
11' 都倉 賢
27' 荒野 拓馬
33' エブソン
35' オウンゴール
マッチデータ
3.雑感
福森のセットプレーが冴え渡り、早々と2点を先行したことが大きかったが、後半戦で一番楽なゲーム、相手だったなというのが正直な感想で、歯車が狂いかけていた段階で当たれたことはラッキーだった。札幌は基本的にキャスティングのチームなので、中盤に荒野、トップにジュリーニョ、サイドに石井と、適材適所なメンバーが復帰したことも、前節の戦いぶりから大きく持ち直した要因である。
おはようございます。徳島戦前に発見して一読。
返信削除シーズン後半戦でもっとも楽な試合だったのは同意ですな。苦しい状態の時に対戦できてラッキーでした。あわよくば後半もう1~2点欲しかったなー。松本との得失点差を考えると・・・。
内村の守備の切り替えのところはφ(゚Д゚ )フムフム…と思いながら読みました。ピッチ上の選手ポジションの微妙な変化なんかは、試合途中で気付くと、あれ?なんかさっきまでと違うぞとなるんですが、この内村のは分からんかった(´・ω・`)きっと大黒摩季で熱くなり過ぎてたからに違いない( =゜3゜)~♪
さて徳島戦頑張りますかー。今朝は良いサッカーの夢見たし・・・。
次回も期待してますー。
>にゃんむるさん
削除いつもコメントありがとうございます。
3トップの守備は難しいところです。相手が4バック⇒3バックに変形したら見る相手が変わりますし、マンマークしかできない選手だと一発でアウトです。意外とヘイスが上手いのは、若いころにオランダで揉まれたのが大きいかもしれません。
それにしても振り向けば松本、どころか清水になってきました。得失点的に、ドームで岐阜をボコったのが効いてますね 笑