2016年11月15日火曜日

2016年11月12日(土)13:00 明治安田生命J2リーグ第41節 ジェフユナイテッド千葉vs北海道コンサドーレ札幌 ~拠りどころとなった強烈な個~

スターティングメンバー

 北海道コンサドーレ札幌のスターティングメンバーは3-4-1-2、GKク ソンユン、DF進藤亮佑、河合竜二、福森晃斗、MF石井謙伍、上里一将、宮澤裕樹、堀米悠斗、荒野拓馬、FW都倉賢、ジュリーニョ。サブメンバーはGK金山隼樹、DF櫛引一紀、増川隆洋、MF前寛之、小野伸二、FW内村圭宏、ヘイス。
 チーム状態は良いとは言えない状況で、レギュラーメンバーの疲労も蓄積されている。ただ入れ替えを考慮するにせよ、変えられない選手、又は替えの利かない選手も何人かいる中で、四方田監督の選択はCB中央に河合、ボランチには9試合連続スタメン中の前寛之に代えて上里。札幌の苦しい時期を知っている2人にこのビッグゲームで大事な役割…ディフェンスリーダーとアンカーの先発を託す。またサブには内村と、帰ってきた小野とヘイスを入れ、慎重派の四方田監督には珍しい"前がかかりなベンチメンバー"。得点が欲しい状況でのカードを多めに残し、総力戦で臨む態勢を用意してきた。
 ジェフユナイテッド千葉のスターティングメンバーは4-4-2、GK岡本昌弘、DF丹羽竜平、岡野洵、近藤直也、乾貴哉、MF船山貴之、長澤和輝、アランダ、井出遥也、FWエウトン、町田也真人。サブメンバーはGK佐藤優也、DF若狭大志、北爪健吾、MF小池純輝、菅嶋弘希、FW吉田眞紀人、オナイウ阿道。
 千葉は25節終了後の7/25に関塚前監督を解任し、代行監督として前コーチの長谷部茂利氏が就任。巻き返しを図っていたが、戦術を浸透させる時間が足りず、10月の4連敗でJ1昇格争いから完全に退場。監督交代後の成績は5勝4分け6敗で、「17試合で勝ち点27」とノルマを課されていた長谷部監督代行も退任が決定、との報道がある。こうした事情から、ここ数試合は来季を見据えた戦いに切り替えていて、最終ラインではCBにU18から昇格1年目の岡野、高卒2年目の乾が起用されている。


1.前半

1.1 仕込みの10分間

1)失うものがない強み


 試合の入り方としては、まず初めにボールを落ち着かせたのは千葉。絶対に負けられない試合で、慎重に、リスクを回避して試合に入りたい札幌と、失うものがない、札幌ほどはプレッシャーを感じることなくやれる千葉、という互いの立ち位置も大いに展開に影響する。
 キックオフ直後の蹴りあいと、その延長戦上にあるボール争奪戦が落ち着いたのは6分頃。先に形を作れたのは千葉の方で、サイドハーフが中に絞り、サイドバックが開いた4-2-2-2の形からゆっくりとボールを動かしつつ、札幌の出方を伺う。
 この辺は気持ちの問題とかだけではなく、両チームのスタイルの相違点にもよるが、やはりリスクを冒したくない札幌は、ボールを回収しても形を作らず、すぐに前線の都倉やジュリーニョに蹴りだしてしまう。一方の千葉は勿論負けてもいいとは言わないが、目先の1勝よりも今後を見据えた戦いがより重要ということで、理論派・長谷部茂利監督代行が仕込んだ戦術遂行が札幌よりもしやすい「強み」はあるかもしれない。

2)横パスを多用する意味


 ここ数試合、アウェイの熊本や徳島では、守備ブロックを整える前に攻め込む、早い攻撃でやられていた札幌。この日の相手の千葉は熊本や徳島と比べると、横パスを多用して最終ラインでじっくりとボールを動かす。
 ボールを回収した後、千葉はなぜ早く攻めないのか、と思うかもしれないが、横パス、バックパスでポゼッションすることには、先に言及した「出方を伺う」以外にもいくつかの意図があって、その主要なものは
 ①札幌の5-2-3でセットする「3」を横に動かして疲れさせる
 ②横へのスライドが甘くなったところを縦パスで中央突破
 という思惑だったと思う。(このうち②については1.2で言及する)
場合によってはGKも使ってまで、ボールを後ろで動かす

3)エウトンへの放り込みでリセット


 序盤、千葉がなかなかボールを縦に入れず、むしろGKの岡本も含めたポゼッションを行い、バックパスも積極的に使うので、札幌は千葉のバックパスの際に河合がきっちりとラインを上げて対応する。すると千葉は最前線のビッグマン、エウトンにロングフィードを送り、河合や進藤と競らせる。この単純に高さを使った放り込みに対して、進藤はソツなく対応できたかというと微妙だが、百戦錬磨の河合は流石と言ってよい強さを見せて対応していた。
 しかしこのエウトンへの放り込みは、それ自体…エウトンが収めたりフリックして素早く攻める、というよりも、ラインを上げてきた札幌のDF陣を牽制することが目的で、万一クリアボールが千葉に渡ればラッキー、というようなもの。
 開始直後こそ、"らしからぬ"ハイラインのコントロールを見せていた河合だったが、エウトンとのエアバトルに自身も頻繁に駆り出されることで、徐々にラインが下がって"いつもの河合の守り方"になってしまう。
後ろで回し、ラインを上げてきたら放り込み

 千葉でこうしたプレーの舵取り…横パスで揺さぶるか、縦でリセットするか、を決めていたのが、最終ラインの近藤。岡野については情報がなく、どのような特徴かよくわからなかったが、近藤の安定感やチームでの信頼度を考えると、札幌の前3人の守備…特にプレッシングの切り込み隊長である荒野には、もっと近藤潰しを意識した役割(後述する、船山の福森潰しのような感じで)を与えてもよかったかもしれない。

1.2 見透かされていた"3人"の甘さ

1)前3枚はユニットと言えないレベル


 千葉が"仕込み"を済ませて徐々に攻撃に移っていくのは開始10分頃。先に述べた、最終ライン+GKでのボールを横に動かすフェーズから、縦パスを入れて札幌ゴールに迫り始める。
 札幌は5-2-3でセットし、「3」のジュリーニョ、荒野、都倉がボールの左右への動きに従ってサイドにスライドして守る。ただこの時、従前から感じていたことだが、札幌の3人の動きはユニットと言えるだけの完成度がなく、下の図、8:40のプレーのように、個々人の判断で危険だと思った人やスペースを見るようなレベルのもの。
 この時も、この3人を「5-2-3」の「3」のユニットとして見るならば、本来ジュリーニョは荒野の位置を基準にしたポジション…荒野の斜め後方にいなくてはならないが、ジュリーニョは乾がボールを持った際、自分の判断で近藤に寄った動きをする。恐らく乾→近藤に戻されるボールを狙って一気にプレッシャーをかければボールを奪えると判断したのだろうが、乾が荒野を切り返しで外したため、乾→アランダのパスコースが生まれる。
前3人があまりにもイージーに中央のパスコースを与えてしまう

 するとジュリーニョが「荒野の斜め後ろ」のポジションを取っていないので、乾は難なく中央のアランダにパス。札幌は最優先で守るべき中央のパスコースを切れていないということ、もはや、荒野-ジュリーニョ間は守備ユニットではなく、バラバラな個人の守備者となっている。千葉の横パスはいわば、この状況を生むための"仕込み"である。

 特にジュリーニョは、試合後の涙を見てもこの試合に懸ける思いは相当だったと思われるが、戦術的には完全に穴になっていて、基本的には持ち場を守っているもの、荒野や都倉がチャレンジした後のカバーリングポジションをとったりといったアクションで甘さが見られる。下の写真、18:41のように、足元の技術も経験もある近藤はジュリーニョの甘さを見抜いていて、1mほどポジションをずらした瞬間に縦パスを入れられてしまった。
ジュリーニョのわずかなポジショニングミスを見逃さない近藤

2)強力Wボランチがコンニチワ からの ようこそ うちのボランチ脇へ


 そして仕込みが成功すると、それまで中央でパスコースを切られていた両ボランチ、長澤とアランダが活動を開始する。この8:40の局面ではボールサイドに寄っていたアランダが、乾からのパスを受けて中盤で難なく前を向く。
 そしてアランダが前を向いたときに、前3人のFWが剝がされた札幌は5-2ないし4-3ブロック(ウイングバックが出て中盤に)で対応しているので、ボランチ脇がぽっかりと空いている。ここに絞ってるサイドハーフの船山や井出、場合によってはトップ下の町田が待ち構えていて、ボランチからの縦パスを受けて、こちらも難なく前を向けてしまう。

3)5バックをこじ開ける武器が必要


 ただ千葉の攻撃の問題点を指摘するならば、バイタルに侵入したところからの崩しはあまり用意されていないようで、多用されていたのはポスト役のエウトンに縦パスが入ってからフリックを使って町田や船山が飛び出すパターンだったが、これも次第に札幌に読まれて効果的ではなくなっていく。
 むしろより有効だったのは、札幌のDFが寄せきる前に放たれる井出や町田のミドルシュート。結果的には井出のミドルから先制点が生まれている。

1.3 札幌がボールを保持した時の展開

1)バランスが良くなった千葉の4-4-2


 千葉の守備時の基本システムは4-4-2、関塚前監督と変わらず、またメンバーも極端に入れ替わってはいない。ただ微調整を行い、前任者のころに抱えていたいくつかの問題を解消し、バランスの改善に成功している。
 主要なポイントとしては、まず開始位置は「敵陣センターサークルの頂点」で統一し、またFW脇のスペースについては、FWのスライドを徹底させることで安易に起点を作らせないようにする。これによって、ボランチの長澤やアランダ(古くはパウリーニョも)が4-4のブロックを崩してフリーな選手に食いついしまうという問題点が改善されている。

2)福森と進藤の差異


 それでも札幌としてはやることは一緒で、所謂4-4-2の泣き所、FW脇のスペースを起点に攻撃を組み立て、ボールを前進させようとする。マッチアップ上、このポジションに収まる選手は進藤と福森。
 札幌としては、そのどちらがビルドアップにおいて信頼できる選手かというと、言うまでもなく福森である。このことはJ2の各クラブにも周知されていて、福森は特に夏場以降、それまで以上の徹底マークを受けることになっているが、千葉の福森への対応はそう強烈なものではなかった。あくまで町田とエウトンがほどほどの圧力でスライドしてくる、という程度で、福森ならば難なく持ち前の展開力を発揮できる圧力だった。

 札幌としては、進藤サイドからの組み立てはそもそも捨てていたのかもしれない。というのは、下の図のように、左サイドには元々宮澤とサイドに張る堀米がいて、福森が持った時には荒野も宮澤と入れ替わるようにボールサイドに流れてくるほか、ジュリーニョも中央のポジションから、右SB丹羽の近くまで流れてくるので、福森に対してパスのレシーバーを複数用意することができている。
 特にジュリーニョは、身体はごついが、DFを背負ってのプレーがあまり得意ではない。よってなるべくプレッシャーの薄いエリアに逃がしたいという意図があったため、こうした形をとったと思われる。

 一方、進藤サイドでは、宮澤も荒野もジュリーニョもいないので、進藤のパスコースは大外の石井くらいしかおらず、都倉もほとんど降りてこない。これではボールを持った時に、金髪に変身していて威勢はいいが経験の浅い進藤は困ってしまう。それでも福森の左からのビルドアップに注力するため、進藤からの組み立ては殆どオトリとして、又は捨てられていたのだと思われる。
進藤はそもそも見捨てられていた?

<船山の福森潰し?>


 千葉はミスマッチとなる札幌の3バックに対し、基本的には2トップのスライドで対応していたが、スライドが間に合わない場合は1列後ろのサイドハーフが前進して、福森や進藤に着く場合もある。
 特に福森については、今や誰もが認める札幌の攻撃の最重要人物。福森に気持ちよくプレーさせないため、前回対戦時は関塚前監督が右サイドハーフに山本を起用し、福森に渡ったところで強烈なプレッシャーをかけるという仕掛けを仕込んでいた。やり方はともかく、長谷部監督代行にも同様の問題意識はあるかと想定していたが、この試合では、右サイドハーフの船山はそこまでのミッションは求められていない印象だった。
 ただ、福森に渡るときにFWのスライドが完全に間に合っていない時など、船山が厳しく寄せていく局面が前半2度ほどあり、やはり少なくとも進藤サイドと比較して、福森潰し、とまでいかなくとも、要注意だと考えられていたと思われる。

3)ジュリーニョは居場所を見つけられたか


 前節に続いて2トップの一角として起用されたジュリーニョだが、ここ数試合のジュリーニョはシーズン開幕当初ほどの輝きを放っていない。これは他チームにプレーが研究され、読まれているというのもあるが、本質的にはジュリーニョはFWの選手として、DFを背負った状態でキープしたり、裏に抜けたりというプレーが得意ではないという問題がある。ブラジル時代はサイドバックだったということだが、狭いスペースではプレーできないので、もっとボールを持った際に時間と空間が得られる状況を作る必要がある。

 この試合、チームとして札幌が意図していたのかはわからないが、序盤からジュリーニョは左サイドに流れてプレーする時間帯が多かった。これはジュリーニョを中央に置いても起点を作れないということで、中央からサイドに流れてボールに触らせて、得意のトリッキーな仕掛けを発揮できる局面を何とか作りたい、という発想が、チームもしくはジュリーニョ個人にあったと思われる。

 ただ、結果的にはこの策は抜群に当たっていたと言えるレベルにはなく、ジュリーニョは左に流れても、千葉の右SBの丹羽のタイトなマークを受け、なかなか仕掛けられるチャンスがなかった。また、本来左サイドで張っている役割の堀米との連携もいまいちで、チームとして仕込まれている印象はあまりなかった。

 更に、ジュリーニョがサイドに流れたことで、"副作用"として、中央で都倉が孤立する局面も多くなる。こちらもDFを背負ったプレーがあまり得意ではない都倉が、近藤を背負った状態で楔となるボールを受けると、千葉のアランダや長澤のプレスバックで挟み込まれることもあり、ボールを収めることは非常に困難になってしまう。

1.4 左サイドでエアポケットを作ったのは誰か

1)全く危機を察知できていないジュリーニョ


 「エアポケット」…31分の千葉の先制点は、数秒間に生じた札幌守備の隙から生まれた。このエアポケットを生んでしまった要因を考えるが、結論としてはボールサイドにいた3選手…ジュリーニョ、上里、福森のアクションにまずい部分があり、最後は中央で井出にシュートチャンスを与えてしまったことになる。
 まず下の写真、30:41の局面では、千葉が攻撃をやり直すところで、町田がSBの位置におり、SBの丹羽は直前の攻撃のまま、高い位置を取っている。この町田がいる白円、SBのポジションは、前半頭から荒野や都倉が勤勉にチェックしていたエリアで、この時はジュリーニョが担当になるが、ジュリーニョはこの時、その後の展開をまったく予期できておらず、ボールホルダーに当たろうとしない。
千葉の攻撃のやり直し:ジュリーニョは町田をフリーにさせる

2)えっ…誰も行かないの?


 このジュリーニョの緩すぎる対応で、右SBのポジションで時間を得た町田は、近くの長澤を使った壁パスで縦突破を図る。長澤に対しては、ボランチの上里が先の局面から視界に入れており、ボールが入った後に寄せていくが、この上里の長澤への対応はあまりに緩い。まるで初心者の女性プレイヤーとフットサルをするときの経験者プレイヤーのような寄せの甘さで、長澤に対して全くプレッシャーがかかっていない。
 そして長澤に預けた町田は、ボランチ脇に侵入していくが、このボランチ脇のケアは福森の役割。ただ、いつもこのスペースに食いつきすぎなほどである福森は、町田を傍観しているだけでこれまた緩い対応に終始する。
ドフリーの町田が長澤とのパス交換でバイタル侵入、福森は迎撃に出れない

3)ノープレッシャーのまま反対側のボランチ脇からこんにちわ


 ここまでろくにプレッシャーを受けていない町田は、エウトンとのパス交換から、反対側のボランチ脇で待ち構えていた井出にパス。井出が切り返しで進藤を外し、強烈なミドルシュートが枠を捉える。守護神ソンユンが弾くも、こぼれ球に詰めていた町田が決めて千葉が先制。
エウトンに渡ると慌てて周囲の選手が寄せるがもはや遅し

1.5 コマンダー宮澤

1)ビルドアップにおける宮澤の2種類のタスク


 千葉の攻撃が近藤から始まっているとしたら、札幌の攻撃の形を決めているのは宮澤。通常ビルドアップにおける宮澤の役割は、ボランチの位置からバイタルに飛び出して縦パスの落としをもらったり、自らが縦パスの受け手になること。ただもう一つ、最終ラインに落ちて4バックに変形する判断とアクションを行う、という重要な役割も担っている。

2)4バック変形で改善を試みる


 この試合、千葉のFW脇でそこそこボールを持てるが、そこ(主に福森)からの縦への展開が今一つ機能しないと見た宮澤は、先制点を献上した直後に4バック化したビルドアッププレーを敢行する。
 これにより、宮澤がCBに落ち、福森がSBの位置に開くことができると、連動して堀米もポジションを上げる。すると千葉の右SB丹羽が堀米に釣り出される形でポジションを空けるので、ここにジュリーニョが走りこむ。ジュリーニョの動きを見て、福森から丹羽の背後を狙った浮き球の縦パスが送られ、ジュリーニョがゴールに迫るが、最後は千葉のCB岡野が体を張って防いだ。フィニッシュまで持っていくことはできなかったが、福森をオフェンシブに振舞わせ、サイドに堀米だけでなくジュリーニョも投入し、現存戦力で千葉の4-4-2ゾーンディフェンス攻略のヒントとなるようなアクションだった。
4バック変形で福森をワイドに逃がし、千葉の守備の基準をずらす

2.後半

2.1 3トップvsリトリート

1)事実上の3トップシステムへ


 後半頭から札幌は上里に代えて内村を投入。これにより、形式上はジュリーニョがトップ下、荒野がボランチにシフトチェンジするが、実態としてはジュリーニョは自由にフラフラと前線で漂うので、都倉、内村、ジュリーニョの3トップと化す。タイプが違う3人のアタッカーが同時にピッチに立つことで、ハマれば大きいが、そもそもハマるのか、前線にボールが供給される状況を作れるか、という問題が生じる。

 前線にボールを届ける部分の問題を解決しようとしていたのが、札幌のFW陣の中で最も動き出しが優れている内村。ポゼッションの開始段階では最前線で、DFとマッチアップするポジションをとりながら、縦パスのコースが空いたタイミングでDF-MF間に下りてくる。この繊細な動きは前半のジュリーニョや都倉になかったもので、荒野は2,3度見せていたが、トップ下の荒野は最初から間のポジションを取ることが多く、かえって潰されやすくなってしまっていた。
3トップ状態で繋ぎ役不在になるが、内村が降りてきて何とか供給される

2)千葉が撤退し、ようやく縦パスが供給される


 もっとも、内村の働き以上に大きかったのが、後半頭から千葉が守備の開始位置を下げてきたこと。前半は敵陣(札幌陣内)センターサークルの頂点付近から守備を開始し、河合から福森や進藤に展開された際には、ほとんど時間を与えることなくFWのスライドで縦への展開を封殺していたが、後半頭からは上記46:56の写真のように、札幌が千葉陣内に侵入するまで、守備を開始しないような状況になる。
 これによって、特に恩恵を受けていたのが進藤。前半は町田やエウトンのスライドに封殺され、ボールを2秒持てればいいほう、という状況だったが、千葉の2トップ脇で数秒の時間を得ることができるようになり、ようやく持ち前の積極性、思い切りの良さが発揮される。
 またチームとしても、前半は左の福森一辺倒だった組み立てが、右の進藤からも徐々に出てくるようになり、またジュリーニョが左に張るので内村は自然と右に流れる、ということで進藤→内村のラインが機能すると一気に攻撃が改善される。札幌としては、最終ラインに足元に難ありの河合、前半から浮足立つ進藤が並んでいるので、この千葉のスローダウンは非常に助かる動きであった。

 バイタルの内村に縦パスが入った形から生じた、最大の決定機が57:50頃。この時も攻撃の始まりは右サイドだったが、中央に入ってきた福森がセンターサークル付近から内村に高速の縦パス。千葉は4-4-2でセットしているが、ここでも宮澤や福森に対するチェックは前半と比べて明らかに甘くなっていて、エウトン-町田間を縦パスで通されてしまう。もっとも福森の縦パスもコース、精度共に完璧で、全くずれがなく内村が難なくターンできた。内村がDFを引き付けてからサイドに張る石井へ、石井のクロスもGK-DF間を狙った早いクロスで十分な精度だったが、ベストポジションにいた荒野ではなく都倉が触ってしまいシュートはゴールを捉えなかった。
内村の間受けで中を使ってからサイド展開で完全に崩した

2.2 キャスティング主義が招く必然のアンバランス

1)札幌の無茶苦茶なバランスを考慮した返し技狙いの千葉


 では千葉は何故、札幌の最終ラインに攻撃を組み立てる猶予を与えるかのようなスローダウンをしたかというと、恐らく札幌が前がかり、という言葉では足りないほどのアンバランスさで前に出てきたため、しっかり後方でブロックを組んで対応すれば、カウンターで仕留められるだろう、という算段だったと思われる。

2)取捨選択がおかしい


 事実、札幌はボールを手放し、守備に回るととすぐにボロが出始めている。四方田監督は内村の投入について「攻守でスイッチを入れられる」としているが、確かにFWが所謂フォアチェックをすると後ろは連動した動きをすることはできるが、本質的には連動以前に「どこを捨てて、どこを守るか」というのが重要である。
 これに関していうと、前半から千葉がずっと狙っていたのは、札幌のボランチ脇に受け手を用意して縦パスを通していくことであり、いかにここを守るかが重要なはずだが、早く点を取り返したい札幌は都倉やジュリーニョ、内村までもが気持ち優先の無意味なフォアチェックに終始する。
高い位置からボールホルダーに当たるがパスコースは全く切れていない

 一見ボールホルダーにはそれなりに厳しく当たっているように見えるが、ボランチ脇へのパスコースは消されておらず、また後ろが押し上げられていない状態で必要以上に高い位置から守備を開始するので陣形が間延びする。そんな状態なので、前半と変わらず易々と縦パスを通させてしまう。
間延びした中盤をWボランチでカバーする無理ゲー、進藤の「連動」も徒労に終わる

2.3 諸問題を丸投げされた河合の驚異的な踏ん張り ~お前竜二様は赤と黒の男~

1)いつ試合が壊れてもおかしくない異常なバランス無視で攻め込む


 リトリートしていればカウンターし放題、そんな千葉の思惑に存分にハマっていた札幌。試合展開だけを見ると、後半早い段階で2失点目を失い、早々と試合が壊れてもおかしくなかった。それが追加点を与えずに踏ん張ることができたのは、中盤~前線に至る諸問題を丸投げされた格好となった最終ライン、特に河合の驚異的なパフォーマンスがあったから。
 典型的なシーンを一つ挙げると、49:01、札幌はスローインから都倉がバイタルで前を向くが、宮澤への横パスはアランダがカット、ボランチが上がっているので中盤はがら空きで、一気に千葉のカウンターチャンスとなる。
バイタルに人数をかけている状態であっさり失う

 千葉は町田のドリブルから前で残っていたエウトンへ。札幌は懸命に戻るが、エウトンに渡った段階はボールより後ろに河合しか残っていない。
河合しか残っていない

 絶体絶命の状況だったが、ここでの河合の対応は極めて冷静で、エウトンに飛び込むことなくディレイで時間を稼ぐ。何とか進藤が戻ってペナルティエリア直前で2vs2の状況を作ると、エウトンから町田に出されたところでタックルでボールを掻き出す。このボールは右サイドの内村に渡る。
ディレイして時間を稼ぎ、タイミングを見てインターセプト

2)河合が踏ん張れば3トップの前残しが意味を成す


 セカンドボールを回収できれば、今度は前に最低3枚(都倉、内村、ジュリーニョ)が張り続ける札幌のカウンターチャンス。河合が食い止めてくれたおかげで、前に3枚を残している意味が出てくる。正直なところ、こんなのが何回も続けば確実に失点してしまうようなレベルのルーズさだが、38歳河合のこの試合の冴えは圧巻で、この局面以外にも何度か決定的なシュートをブロックするなど獅子奮迅の働きだった。

2.4 60分でempty

1)チームも個人も60分で完全にガス欠


 先述の57:50、石井のクロス→都倉のヘッドの局面など、後半に入っての千葉の対応は「ちょっとルーズかな」、と思った面もあるが、大局的には、札幌にある程度攻めさせてカウンター狙いという策は非常に妥当だったと思う。前半は千葉のビルドアップで左右に振られ、後半頭から同点を狙って飛ばしていた札幌は、60分頃でほぼ完全にガス欠してしまう。
 特に運動量低下が顕著だったのは前線の選手で、途中交代の内村は別にして、都倉とジュリーニョは既に連続性のあるアクションを行うことは相当困難になってていた。そうした状況でも、守備時は相変わらずボールホルダーに突っ込むことはできる範囲で行うが、そうすると猶更、かわされた時のリカバリーが困難になっていく。
貴重な体力を消費して無謀なチェイスを繰り返す

 都倉やジュリーニョが高い位置から単騎で突っ込んで交わされた結果、下の写真のようにFW-MF間が恐ろしく間延びする状況になってしまう。これでもまだ62分、30分残った状態である。
剥がされると戻らないので豪快に間延びする

2)ガス欠状態なのに"赤黒のガソリン"を下げる


 札幌のもう一人の切り札、ヘイスが投入されたのは67分。バテバテの都倉、ジュリーニョが前線に並んでいる状態では、攻める以前にボール回収もままならないので、ヘイスでボールを収めて攻撃の時間を作りたい、ということに加え、守備面を改善する意図もあっただろう。ヘイスの投入は内村同様に効いていて、自陣ゴール前で何とかマイボールにすれば、ヘイスに預けることで時間を作れるようになり、徐々に札幌がリズムを取り戻す。
67分~

 しかし疑問が残るのは、この時ジュリーニョを残して左サイドにシフトし、堀米を下げた交代策。前半から前線で体を張り続け、また守備では横幅を使ったジェフのビルドアップに走らされたジュリーニョは、明らかにウイングバックでアップダウンできる体力は残っていなかった。
 確かにジュリーニョは左足の一発があるが、攻守両面でまだ確実に働ける堀米を捨ててまでジュリーニョに固執するのは得策ではなかったように思える。

3)左サイドに出現した"フリーマン"


 そんな心配をしながら交代直後の成り行きを見守っていたが、やはりジュリーニョはウイングバックを任せられるだけの体力がないのは明らかで、これを見た千葉も狙いを一気にジュリーニョサイドへ変更する。
 シフトチェンジ早々の、68分の千葉右サイドからの崩しは早速その不安が的中したもので、一度はクロスを進藤が掻き出すものの、こぼれ球を拾ったジュリーニョは怠慢なクリアで、なんとゴール前の井出にパスしてしまう。これを拾った井出の左足ミドルシュートはポストを叩き、リバウンドを船山が狙うが、進藤が何とかブロック。ひとまず危機は脱したものの、これであと30分近くを過ごすのは流石に無理じゃないかと思ってしまった。
左サイドのカバーにみんなが駆り出される

2.5 疑惑の同点ゴール~終盤の展開

1)福森の飛び道具と微妙な判定と都倉の意地が生んだ同点ゴール


 徐々に千葉が試合の支配を強めていくが、71分、札幌は右サイドに流れた都倉が体を張ってファウルを得る。ここで福森の正確無比な左足クロスに、直前にトラップミスでカウンターのチャンスを喪失していた都倉がヘッドで合わせて同点。スローで見ると、オフサイドに見えたが、ゴールは認められともかく追いついた。
 このゴールで札幌は一時的に息を吹き返し、FWがディフェンスに戻るようになるなど、再びチームに一定のディシプリンが生まれる。ただ体力的には相当厳しくなっており、進藤が足を伸ばしたり、ベンチが石井に状態を確認するなど慌ただしくなっていく。

2)オナイウと吉田の投入


 千葉は76分、船山→吉田に交代。続く78分には井出→オナイウのカードも切られ、立て続けに2枚のアタッカーを投入する。
76分~

 オナイウも吉田も、与えられたタスクは恐らくはそう変わらない、ボランチ脇で受けてはたいてゴール前に入っていくこと、ただ吉田は対面の札幌左サイド、ジュリーニョとのマッチアップも多くなる。千葉はここに丹羽も絡めば、ほぼ確実にこのサイドを制圧できるが、サイド突破からのクロスは5バックを確保している札幌が何とか跳ね返す。

3)櫛引投入前後の大混乱


 このとき、数十キロ離れた町田で1時間遅れでキックオフしていた町田-松本戦は前半12分に町田が先制。1-0で試合が進んでいた。この試合の情報を札幌ベンチがどこまで把握、また重視していたかわからないが、札幌は84分頃に3枚目の交代カード、DFの櫛引を用意する。引き分けで勝ち点1なら、町田-松本で松本が逆転で勝利を収めれば首位転落してしまうが、3位の清水とは勝ち点1のリードをもって最終節のホーム金沢戦に臨めることから、クラブの未来を考えた時にこの判断は極めて妥当である。

 櫛引は当初、接触プレーで痛んでもいた石井との交代で、進藤を右ウイングバックに上げる形を想定していたようで、「5 19」と表示された交代ボードが用意されていた。
 しかし櫛引が入ろうとした直後、札幌は都倉が足を攣る。ここでベンチは一度様子見、交代をストップさせる。都倉は足を伸ばしてひとまずプレーを続行するが、87分頃に試合が止まった時に自ら交代を申し出る。
 結果的に、櫛引が都倉に代わって投入されたのは90分。この時ベンチの意図としては、福森がウイングバック、ジュリーニョがトップ下に再び戻る想定だったが、急きょ方針を変えたためこの意図が2分ほど伝わっていなかった。ピッチ上で選手が状況を確認して、ジュリーニョをトップ下に上げるまで、守備の局面では最終ラインに6人が並ぶ奇妙な状態になる。
90分~

<強運も名将の条件>


 試合が終わった今になって思うのは、恐らくポストワークが苦手な都倉が最後までピッチに残っていたら、河合が狙った先がヘイスではなく都倉だったら、アディショナルタイムの逆転ゴールは生まれていなかっただろう。その意味では、櫛引投入をベンチが決めたタイミングで都倉が傷んだのは、四方田監督の強運だったと言うしかない。

4)オナイウと吉田のクオリティ


 ここ2試合で3ゴールと好調のオナイウ、スピードのある吉田を投入して勝ち越しを狙った千葉だが、この両者は共にパスの受け手としては微妙で、それまで井出や船山、町田を使って続けてきた、ボランチ脇を使ったプレーの精度が微妙に狂っている。特に上記、札幌が6バックの「6-2-2」状態になっていた終盤の局面は、千葉からすると殆ど守備圧力を受けていないので、慌てなければ確実にボールをバイタルエリアまで運べる大チャンス。しかしながら、千葉はこのサービスタイムも有効に使うことができなかった。
 例えば下の89:27の局面、長澤から吉田がボランチ脇で受けるところまではOK。吉田は札幌のこのプレッシャーならターンしてゴール方向に向かいたいところで、オナイウは札幌のDF-MF間にいるが、オナイウがあと2m程吉田に寄ればワンツー等で札幌DFの裏を取れただろう。
札幌は6バックの6-2-2状態 吉田とオナイウが近くで絡めば決定機に

 しかし結果は、オナイウはボールと吉田から遠ざかる方向にステップを踏んでしまう。吉田はターンしたがオナイウに出せず、福森の迎撃を受けたところでサイドに展開するが、これでは札幌の5バック(先述の交代策の影響で一時的に6バックになっているが)を崩せない。
オナイウはボールから遠ざかってしまう

 加えて下の局面、89:51は最終ラインから縦パスが出されるところで、オナイウが投入される前、町田や井出、船山は札幌のボランチ脇、おおよそ黄色い円で受け、シンプルに近くの選手にはたくというプレーを繰り返していたが、オナイウはこのボランチ脇から離れて札幌DF側に寄っていく。
 なおこの時も札幌は6バック状態で、最終ラインに人はいるが前線~中盤は殆どプレッシャーがない。
札幌は6バックの6-2-2状態 ボランチ脇にステイすれば確実にキープできそうだが

 結果、CB投入されたばかりの櫛引がオナイウにぴったり寄せることができ、またオナイウはヘイスのように背中を使って櫛引をブロックするわけでもないので、櫛引があっさりと縦パスを搔っ攫っていく。
櫛引に自ら寄っていくような動きをしてしまう

5)そして伝説へ


 両チームとも3枚の交代カードを切り、アディショナルタイムは5分の表示。4分を回ったところで札幌のターンオーバーから、千葉はエウトンがロングシュートを放つが枠を外す。このリスタートのゴールキックから、河合がヘイス目がけて放り込んだボールはそのまま後ろの流れ、走りこんだ内村のボレーシュートがゴールに吸い込まれ、土壇場で札幌が逆転。ほぼラストプレー、ボールがそのまま流れてくることを読んだ嗅覚、難しいバウンドに合わせてゴール隅に飛ばした技術、とすべての要素がスーパーで、内村にとってもキャリアのハイライトとなるような素晴らしいゴールだった。

 このゴールに必然性があったかというと、そうは思えない試合展開だったが、アシストとなったパスを出したのはこの日、全盛期を思わせる圧巻のパフォーマンスだった河合で、内村が抜け出す直前に、無理にボールに競らずに背中で近藤をブロックしたのは、投入後ずっと前線でボールを収めて起点を作ろうとしていたヘイス。チームが悪いなりにも、個人で何とかしようとしていた選手達のプレーが呼び込んだということは言えるかもしれない。


ジェフユナイテッド千葉 1-2 北海道コンサドーレ札幌
31' 町田 也真人
71' 都倉 賢
90+5' 内村 圭宏
マッチデータ

3.雑感


 「キャスティングを優先して前線のアタッカーを最大限に活かし、中盤と後ろで帳尻を合わせる」…その意味で今シーズン続けてきた札幌の"自分たちのサッカー"だった。結果はご覧の通りで、やはりこの路線は限界にきていると思う。破綻する前に、又はJ1で叩きのめされる前にある程度の軌道修正を、と思って見続けてきたが、J2も残り1試合。福森とジュリーニョを欠く最終節の結果がどうであろうと、恐らく来シーズンもこの路線でシーズンインしていくことになるだろう。

 ただ内容はともかく、またオフサイドくさい1点目はご愛嬌としても、押され続けたゲームを最後の最後のひっくり返したことで、この試合を経験した選手はまた次のステップへと昇っていくことになるかもしれない。筆者もサッカー観戦で初めてうるうるきてしまったし、確保していたゴール裏のチケットを諸事情で手放したことを少し後悔するほどのゲームだった。個人的なMOMは河合。しばらく足を向けて寝られない。

1 件のコメント:

  1. |´・ω・)ノこんばんは~にゃんむるですー。
    仕事でこの試合は観られませんでした・・・。悲しいのう・・・。もしライブで観戦できてたなら、俺も叫んで&ウルウルきてたかもしれんwwwマイ兄貴はかなり叫んだらしい。
    スカパーのハイライトと一部の動画しか観てなかったんだけど、全部読んで大体感じは分かりますた。試合は観てないけど、俺も最後の所は都倉いたら成立しなかったと思ってた。彼がいるとあそこにスペースできないもんね。あまり大きな声では言えないけど、自分的には都倉入りのサッカーは好きではないのよね。もちろん今シーズンの活躍にはかなり感謝してますけど。
    さてさて、泣いても笑ってもあと1試合。福森もジュリーニョも出られないけど、他のメンバーの力を合わせて頑張って欲しいものですな。
    もし3位だったらあと1試合じゃない?そんなこと考えーん( ・ω・)つ≡つつ勝つんじゃーい。
    次回も期待しとります。またのー(・∀・)ノ

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