2016年4月5日火曜日

2016年4月3日(日)13:00 明治安田生命J2リーグ第6節 FC町田ゼルビアvs北海道コンサドーレ札幌 ~インテンシティの源~

スターティングメンバー

 北海道コンサドーレ札幌のスタメンは3-4-1-2、GKク・ソンユン、DF進藤、増川、福森、MF前寛之、深井、稲本、堀米、宮澤、FWヘイス、ジュリーニョ。2試合採用した3センターの3-5-2から、開幕時の3-4-1-2に回帰する。インフルエンザの都倉に加え、マセード、石井と右サイドのレギュラークラス2人を欠くのが痛い。期待のヘイスが初先発。
 FC町田ゼルビアのスタメンは4-4-2、GK髙原、DF三鬼、畠中、ヨン・ア・ピン、土岐田、MF鈴木崇文、リ・ハンジェ、森村、谷澤、FW鈴木孝司、中島。2013年シーズンにJ3に降格第1号チームとなった町田は、J2復帰に2シーズンを要した。メンバーを見ると関東や在京クラブに所属していた選手を中心に、案外知っている名前が多い。


1.前半の展開

◆町田の戦術


 町田はオーソドックスな4-4-2ゾーンディフェンスで、2トップがセンターサークル頂上付近からプレッシングを開始する。
 札幌のボール回しをFW2枚でサイドに追い込み、中を切るが、この時極端に横幅を圧縮して中のコースを切り、逆サイドはほぼ捨てる、もしくはサイドチェンジされないだけの圧力で圧縮する。
 中を切って縦のWBに出させたところでSBとプレスバックのSHでサンドして奪い、手数をかけずに速攻を狙う。FW(主に中島)に当ててから2列目の選手がサポートし、ボールを下げずにシュートまで持ち込む。サイドで厳しく寄せれば、札幌ボールのスローインになったとしても、再びスローイン(手で緩いボールを投げる)を受けた選手に複数で当たり、同じような形で奪いに行く。
 こうしたプレッシングを基調としたサッカーにはコンパクトな陣形の維持が生命線で、最終ラインはアグレッシブに高いラインを維持する。特に相手がバックパスでボールを下げると必ず押し上げる。
4-4-2でセット、ボールが中央にあるので、中央を閉める
札幌は深井から左の福森へ
町田のFWが福森にプレッシング、全体が左にスライド
福森から堀米に渡ったところでSBが中を切り、SHがプレスバックで挟む
全体がボールサイドに寄せる

◆前後圧縮で活動スペースを奪う


 町田の4-4-2に対し、札幌の3-4-1-2は3(深井、稲本、宮澤)vs2(相手ボランチ)の中盤で数的優位が作れる。ただ町田はDF-MFのライン間を非常にコンパクトにすることで、このライン間で受けようとする宮澤やジュリーニョを窒息させてくる。札幌としては、FWが裏を狙う動きで攻撃の奥行きをつくり、町田のDFラインを下げさせることも必要になってくる。
中央は数的優位。町田はライン間を圧縮させて対抗

◆奪ったらシンプルに前に:サイド基点で運ぶ意義


 そしてボールを拾ったら、基本的に町田はシンプルに前に運ぶ選択肢をとる。特に、バックパスと横パスが2度続くことはほとんどなく、一度バックパスをしたら次はほぼ必ず前に放り込んでくる。
 この時、①奪ったサイドと同一サイドでの展開、②サイドチェンジして逆サイドからの展開、の2つがある。基本的には①同一サイドで縦へ素早く展開することをまず狙い、難しい場合にサイドを変えてボールを運ぶ。
 ①同一サイドでの展開は、3-4-1-2の札幌相手だと、下の図のように例えば札幌の右サイド・町田の左サイドでボールを奪ったとき、右の前寛之はある程度高い位置にいるので背後が空いている。場合によっては直前のビルドアップの流れから、ストッパーの選手も前に出ていることもある(特に福森のような、攻撃に自信のある選手の場合)。このスペースにFWの鈴木孝司が走り込むと、進藤がカバーリングするが鈴木が先にポジションに入れるので優位な体制で競り合うことができる。ロングボールを蹴る以外にも、FW又はSHがボールを持ったら後ろの選手がオーバーラップすることで数的優位を作り、縦に運んでいくやり方もある。
 いずれにせよ、この同一サイドでの展開において重要なのは、ボールを中央に入れずサイドからボールを運ぶことである。町田の2トップ、中島と鈴木孝司はいずれも空中戦は並みで、中央で札幌のCBと競ると分が悪い。サイドに流れて、相手よりも先にポジションに入った上で競れば勝率を上げることができ、またサイドハーフとの距離も近いのでセカンドボールも拾いやすい。
奪ったら無理せず前へ。FWがサイドに流れて競る

 加えてサイドでボールを運べばスローインになりやすいが、スローインがもし相手ボールでも、手でスローされて緩いボールが入れられたところでタイトなプレッシングができれば奪い返すことができる。このようにFWが競り勝つことよりも、競り合いで発生するトランジション、セカンドボールの回収がより重視されている。
サイドで谷澤がキープ、鈴木孝司がオーバーラップ

上原のタックルが決まるが、外外のボール運びならスローインで再開できる

◆札幌の3バックvs町田の2トップの攻防


 一般に3-4-1-2は4-4-2に対してミスマッチを作りやすい。典型的な個所では、3-4-1-2の最終ラインの3枚に対して4-4-2の2トップのみで対応すると、枚数が3vs2なので必ず1人余り、その1人がパスなりドリブルなりでボールを運びやすくなる。
 ただ2トップであっても、3バックに対してうまく追い込むことは不可能ではなく、この試合でいうと下の図のように札幌のサイドのDFが持った時に町田のFWが全力で寄せ、パスコースをWBに限定させれば、WBには4-4-2のSHとSBが当たることができるのでここが奪いどころになる。
FWをストッパーに当てればWBのところで2vs1を作れる

 一方3-4-1-2の札幌としては、これを回避するためには、町田のFWがサイドの守備に加勢できない状況を作ればよい。
 具体的には、下の図のようにボランチの1枚が中央、FWの間に位置することで、増川から進藤、福森に加え稲本へのパスコースができる。ここで中央の稲本へのパスコースは最優先でケアしなくてはならないので、FWは稲本に寄ったポジショニングをとらなくてはならない。すると増川から福森にパスが出たときに、先ほどの図の状況と異なりFWの中島が福森の寄せるのが難しく、その役割はSHの鈴木崇文になる。すると堀米に寄せる枚数はSBの三鬼1人となり、先の状況と比べると堀米へのプレッシャーは格段に軽減される。
稲本がFW2人をピン止めしFWのプレッシングを遅らせる
福森にはSHの鈴木がつき、堀米にはSB三鬼の1枚のみ

 上記のやり方を札幌が実践したのが10:23~の局面で、札幌は稲本がFWの中間に位置し、相手をピン止めする。すると増川から福森への展開に町田の鈴木孝司は間に合わず、SHの鈴木崇文が福森に着く。ここで福森が堀米に展開すると、堀米はワンタッチで出せる間が生まれる。
稲本がピン止め

福森にFWではなくSHの鈴木崇が出てくる

堀米をSHとSBでサンドできていないので、堀米はワンタッチでならパスが出せる

◆前線の引き出しが少ない


 この時、堀米から宮澤への右足でのパスは飛び出してきた畠中のスライディングに引っかかる(セカンドボールをヘイスが拾う)。
畠中のスライディングで間一髪でボールを奪う

 ただこの時、町田は右SBもつり出されているのでSBの裏のスペースが大きく空いている。宮澤の動き出しもよくなかったこともあるが、ヘイスは福森→堀米→宮澤の展開を予期してこのスペースに走るべきで、ここで中央に滞留してしまうと、ボールサイドに密集する町田の守備網にかかってしまう。
サイドバックが出た裏のスペースを使いたい
赤実線…宮澤からワンタッチで出せたコース、赤破線…ヘイスが走るべきコース

 このように町田はボールサイドに全選手が寄ってくるので、反対サイドが薄くなるリスクを抱えている一方、ボール周辺の密度は高く、仮にワンプレーでボールを奪えなくてもすぐ次の選手がサポートし、継続的にボールにアタックできる。札幌としては詰まる前のサイドチェンジや、スペースを突く動きなどで"局地戦"に持ち込まれないようにすべきだが、前線の選手の流動性、特にラインの裏を突く動きが乏しく、ジュリーニョや宮澤、ボランチの稲本がプレーする間を作れない。

◆効かないサイドチェンジ


 先述のCB-WBの展開と併用して札幌が狙っていたのは、両ストッパー(又は落ちてきた深井)から対角のWBへのサイドチェンジのパス。町田のブロックはワンサイドに密集するため、札幌の逆サイドのWBはスペースを享受することができる。しかし、町田もこのことは充分に考慮していて、札幌がサイドチェンジを蹴ると4-4-2のブロックが高速で横スライドを行う。
 また札幌はシステム的にサイドチェンジのレシーバーとなるWBが持ったところでサポートがいないので、WBが受けたら自分で勝負するしか選択肢がない。町田の選手が寄せてくる前にドリブルで素早く運ぶ等ができれば良いが、サイドチェンジを蹴った後どうするのかがチームとしても、また選手個人としても意図が見えない。
 これらの要因により、前半何度か蹴ったサイドチェンジはいずれも効果的なものにならなかった。下の30:54の写真は、前寛之のスローインを受けた深井が堀米へのサイドチェンジを蹴る瞬間だが、長い距離のキックではスライドが間に合ってしまい失敗する。
手前の深井~画面奥の堀米の距離と、町田の右SH鈴木崇~堀米の距離を考えると
かなり正確で速いキックが必要

キックが自陣方向にややずれ、町田のスライドが間に合う

◆町田のインテンシティの高さとその源


 上記のように、町田は守備時のプレッシングの圧力や奪った後のカウンターの鋭さが札幌よりも明らかに優れており、ザッケローニのことばを借りると"インテンシティが高い"チームだと言える。
 ではなぜ町田のインテンシティが高いのかというと、プレッシングの圧力を生み出しているのは、フィールドの10人のポジショニングの密度の高さ、的確さと、ボールホルダーの追い込み方といった共通理解が優れている。下の写真を見てもわかる通り、札幌が自陣でボールを保持している時、町田はハイラインかつ非常にコンパクトな陣形を敷いている。センターサークルが半径9.15mなので、町田のFW~DF間はおおよそ25m程度だとみられる。また4-4の2ラインで構成する"横幅"も適切かつ高密度なポジショニングで構成されており、これだけコンパクトであれば、仮にファーストディフェンダーがかわされてもすぐに他の選手がフォローし、相手を追い込むことができる。
センターサークルの直径+5m程度に3ラインを圧縮

 また4-4-2というオーソドックスかつバランスよい陣形で守っているため、各選手が守備時に担当するプレーエリアが比較的均等で、特段負担の大きい選手がおらず、ボールを奪う際のポジショニングがほとんど乱れていない。
 このため、奪った時に誰がどこにいるかがわかりやすく、奪ってからすぐに展開することができる。基本的にはオープンスペース…相手が攻めてきたサイドと反対サイドを狙うことで、ボールを前進させることが容易で、また相手が戻りきらないうちにどんどん選手が追い越し、ブロックを造られる前にフィニッシュで終わることが徹底されている。
ポジションが崩れていないので、奪った時にだれがどこにいるのかわかりやすい

2.後半の展開

◆選手交代でリズムを生む


 札幌は後半からヘイス→内村、稲本→上原。後半立ち上がりは札幌がやや攻撃の形を見せる。町田のプレスの強度がやや落ちたこともあるが、前半のヘイスでは見られなかった、シンプルに内村がラインの裏を狙う動きを見せることで町田のライン間にスペースが生まれる。
 またボランチを最終ラインに落とすことで、町田の守備の基準点を曖昧にし、福森を余らせ、福森から対角へのパスや裏の内村を狙うパス、高い位置に張らせた上原への増川からのロングフィードといった、前半にない攻撃の形で町田の守備を徐々に無力化させていく。
内村が攻撃の奥行きを作る
深井を落として町田の守備の基準をぼかし、増川から両サイドへのフィード
または福森から裏へのパス
町田のプレッシング強度が落ちてくる
福森はこの位置、この状況なら一発でチャンスを作れる

 この交代による影響が大きく、また町田の運動量が落ちたことから、後半の札幌は53:25のカウンターから堀米→内村の縦パス、内村のラストパスへの宮澤の飛び出し、58:20の福森→ジュリーニョの楔から右の上原に展開してのクロス、61:50の福森→内村の縦パス1本、など、決定機も生まれるが、髙原のファインセーブもありゴールを奪えない。

◆使われる理由がある


 札幌は74分に進藤が傷み、この日がJリーグデビューとなる菅と交代する。この交代により上原が最終ライン、宮澤がボランチ、前寛之が右サイドに移動し、菅はトップ下に入る。この時間帯、町田は疲労や、先述の内村働きなどもあり、前半に比べると選手間の距離が開き始めている。
74分、菅投入時の布陣。町田は62分に鈴木崇文→重松
町田の左SH谷澤のスライドが前半に比べて甘くなっている

 菅はトップ下というより、中盤のやや右寄りにポジショニングする。個人的には初めて菅のプレーを見たが、この日の20分弱のプレーを見た限りでは予想以上に中盤の選手としての資質を持っており、先輩である神田や中原を差し置いて起用した四方田監督の決断も納得だった。
 例えば78:28頃の局面では、中盤で前寛之がルーズボールを収めてからボールを運び、町田の4-4ブロックの外側で菅がパスを受ける。菅はトラップから左足で持ち出し、逆サイドの堀米にサイドチェンジを通す。
菅のサイドチェンジで町田のブロックを動かす

 82:16の局面では、中盤で堀米→宮澤と渡った際に菅はセンターサークル内、宮澤の前方にいるが、この時背後からは町田の森村が迫っており、また宮澤についていた李漢宰もプレスバックで菅をサンドしてくる。そのためキープ力に自信のない選手であれば、この町田の選手が密集するエリアから離れてボールを受けようとするが、菅はこのポジションに留まり、背後から迫ってくる森村を確認して、利き足アウトサイドでボールを持ち出すターンで森村をかわし、スピードに乗って前線へボールを運ぶ。
町田の選手が密集しているエリアから逃げない
ターンで森村をかわしてドリブルでボールを運ぶ

町田の選手の間にポジショニングしつつ首を振って背後を確認

 このように菅はブロックの外でのプレー、狭いスペースでのプレー共に苦にしない技術やプレービジョンを持っており、U-18で主に努めているストライカーの役割だけでなく、中盤2列目の攻撃的MFとしての役割も十分にこなせることを短時間で証明している。

◆2点目もサイド起点の速攻から


 試合を決定づけた89分の町田の2点目は、札幌のゴールキックを町田の左SB、土岐田が拾うと、土岐田が左の森村に展開する間にFWの中島が左サイドに開いて降りてくるとともに、ボランチの位置にいた井上(途中出場)が全速力でペナルティエリア角付近に走り込んでくる。この時札幌の右サイドは前寛之1人で、中島に上原、井上に増川が着くと、札幌のゴール前は福森しか残っていない。森村から受けた井上はダイレクトで中島へ落とし、中島が狙いすましたクロスをゴール前に上げると、ゴール前は福森vs鈴木孝司&重松という絶望的な状況で、戻りながらの空中戦となった福森に勝ち目はなく重松のヘディングシュートが決まる。
 札幌の選手個々の判断をみると、中央に福森1枚しかいないにも関わらず持ち場を離れてしまった増川の判断が致命的だったが、根本的にはゴールキックからのトランジションであり、町田は土岐田が持った瞬間に中島と井上が素早くサイドで数的優位を作ってボールを運び、大外の重松が仕留めるという戦術コンセプトが徹底されている点でチームとして1枚上手だったといえる。
町田は同一サイドに素早く人を集めてボールを運ぶ
増川が出たためゴール前は福森だけに

FC町田ゼルビア 0-2 北海道コンサドーレ札幌
・23分:鈴木 崇文
・90分:重松 健太郎


【雑感】


 ここ2試合で成果を挙げた3-5-2からトップ下を置いた3-4-1-2の布陣に戻したが、セオリー通りにボールへのプレッシング、スライドを繰り返す町田に対し、前半は攻撃の奥行きが作れなかったため、間で宮澤やジュリーニョが殆ど受けられなかった。前線で動き出しが少ないヘイス交代は妥当。
 後半は流れは悪くなかったが、進藤の交代に伴い上原を最終ラインに下げたことが地味に痛かった。個人的にはフレッシュで馬力のある上原は右サイドに残し、宮澤か前寛之を最終ラインに下げるべきではないかと思った。

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