スターティングメンバー |
北海道コンサドーレ札幌のスタメンは3-4-1-2、GK阿波加、DF進藤、増川、櫛引、MFマセード、前寛之、深井、堀米、福森、FW都倉、ジュリーニョ。
小野を欠いた前節の清水戦からさらに宮澤、金山らが離脱し、ソンユンが代表招集のため阿波加がスタメン。杉山、イルファン、ヘイスがベンチ入り。CBは清水戦に引き続き増川。宮澤が離脱したためトップ下のレギュラークラスがほぼいなくなり、前節に引き続き3センターを採用。堀米がキャプテンマークを巻く。
京都サンガF.C.のスタメンは4-4-2、GK菅野、DF石櫃、菅沼、染谷、本多、MF山瀬、アンドレイ、佐藤健太郎、石田、FWイ・ヨンジェ、有田。京都はこの試合まで開幕4戦連続で引き分け。
※この記事は5/3第11節金沢戦の後に作成しました。
1.前半の展開
◆いきなり機能した3センター
開始早々に試合は動く。1分30秒頃、札幌は阿波加のゴールキックが跳ね返されたところを櫛引がダイレクトで前に蹴り込む。このボールをジュリーニョが左サイドで収める。ジュリーニョは上がってきた福森を使わずキープし、堀米に渡す。この間に京都は石田、アンドレイが戻ってきて人数は足りており、4-3のラインはできているがボールホルダーへの寄せは甘い。ジュリーニョがキープする間に4-3のライン間に前寛之が侵入。堀米が持った時に完璧な間受けポジションにいると、堀米は見逃さず前寛之に縦パス。これに染谷が飛び出して対応するが前寛之はスルー、都倉が受けると、都倉が本多をワンモーションでかわして右足で強烈なシュートを叩き込む。
立ち上がりの、まだ試合が全く落ち着いていない段階で札幌のファーストオフェンスだったが、ジュリーニョのキープを見て積極的に前寛之が攻撃参加し、また最高のポジショニングからのスルーも最高の選択であった。
ジュリーニョがキープする間に前寛之が京都の2ライン間に 堀米から前寛之へのパスをスルー、都倉に渡る |
前寛之の絶好のポジショニングからのスルーで勝負あり |
◆マッチアップ
開始2分で先制した札幌は序盤から前がかりになる必要がなく、試合はアウェイの京都がボールを持つ展開が多くなる。なお、菅野はパントキック等でFWに当てることはほとんどなく、ほぼすべてのプレー機会でセンターバックにパスで繋いでいた。
京都のポゼッション時の陣形は基本的に4-4-2。最前線では札幌の2トップ、都倉&ジュリーニョと京都の菅沼、染谷で数的同数で、プレッシャーを受ける前に早めにボールを展開する。
図で示した通り、中盤が3枚の札幌に対し、京都のサイドバック、石櫃と本多が空きやすくなる。
札幌の5-3-2守備に対するマッチアップ 左利きの佐藤健太郎が左寄りにポジショニング |
◆サイドの攻防
京都のセンターバックがボールを保持すると、石櫃と本田は先の図のようにタッチライン際に開いたポジションをとる。このとき、札幌は横方向は前寛之や堀米、縦方向は福森とマセードが全力で寄せてパスコースを切る。全力で寄せても、スタートポジションの時点ではフリーにしているので、寄せ切る前にワンタッチ、ツータッチでボールをさばく時間は石櫃や本多には与えられている。
ただ、京都はCB⇒SBという展開が全体的に安直で、中央に位置するボランチを絡めたりした展開に乏しいため、札幌の前寛之、堀米としてはボールの出しどころが読みやすい。そのため、石櫃や本多のところで、システムのミスマッチをうまく利用できず、思ったようにボールを保持できない状況が見られた。
サイドに出されたら、基点を作らせないため全力で寄せる |
WBの福森も対面のサイドハーフを捨ててSBに寄せる |
この位置ならWBは寄せない。インサイドハーフの1枚のみで対応 |
◆京都の狙いは外→中
京都のSBが持った時のパスコースは、①縦方向の山瀬や石田(外→外)、②中央のイ・ヨンジェや有田(外→中)の展開であるが、京都が主に狙っていたのは、②の外→中。
石櫃が持った時の札幌の対応と、石櫃のパスコース ①外→外の山瀬 ②外→中のイ・ヨンジェ |
京都のこの狙いが見えた攻撃は下の図、15:47頃の展開で、菅野のスローからCBがボールを運び、染谷はこの日(恐らく)初めて中央の佐藤健太郎を使う。佐藤は都倉の脇で受けて前を向くと、降りてきた有田に楔のパス。ここで有田が中央で受けることで、札幌は深井が対応するが、前寛之も一瞬深井のカバーリングポジションをとる。
これによ有田から外の本多に渡した際、前寛之の対応が一瞬遅れ、本多は中央のイ・ヨンジェに入れることができる。イ・ヨンジェが札幌のつり出され無人となった中盤で収め、アンドレイが前を向いて受けると大外から飛び出してきた山瀬にスルーパス。
中→外→中と動かした15:47頃の展開 最初に中を使ったため外の本多が一瞬空く 中央で収まるとボランチのアンドレイが前を向ける |
◆SBの背後をカウンターで狙う
一方、外→中の展開を使い場合、中央へのボールの精度がいまひとつだと、中央でFWのイ・ヨンジェや有田が収めることができない。ここでボールを失うと、京都はSBの石櫃や本田が上がってきた背後のカバーリングが怪しく、カウンターの起点を与えることになる。
中央で奪えれば、上がってきた京都SBの背後でカウンターチャンス |
26:48頃には京都のクロスが流れたところを自陣深くでマセードが拾う。マセードから前寛之にパスを繋ぐと、京都は本多は撤退せず前寛之に食いついてくる。本多が空けたスペースに流れてきたジュリーニョとのワンツーで前寛之が突破し、再びジュリーニョにパス。京都は染谷が必死に戻りジュリーニョのシュートを足に当てて辛うじてコーナーに逃れる。
本多が出た背後を佐藤がカバーするが、前寛之のパス&ムーブで剥がす |
下の図、33:30頃も同様で、左サイドのスローインから堀米がインターセプトし、ジュリーニョが本田の背後を突く形でカウンターを発動させている。このように中盤に3枚を配しているため、中盤でインターセプトしやすいのが3-5-2の特徴で、高い位置で奪えればカウンターのチャンスも期待できる。
中央でインターセプトし、上がったSBの裏をFWが突く |
◆京都の変化:3バック化しサイドを押し上げる
20分過ぎ頃から、京都は佐藤を最終ラインに下げて3バックにした状態からのビルドアップを見せ始める。実はファーストプレーでもこの形を見せていたが、先制された以降はこうした変化はしていなかった。これにより両CBの菅沼、染谷が押し出され、SBに近いポジションをとる。
佐藤が落ちて3バックでのビルドアップ。サイドに人を集める |
この変化による影響が早速現れたのが22:15頃からの京都のオフェンスで、京都は菅沼がボールを持つと堀米が菅沼に寄せる。菅沼から縦の石櫃に渡すと札幌は福森が前に出て対応するが、京都のサイドにはまだ山瀬が残っている。山瀬をフリーにできないので札幌はCBの櫛引が出て前を向かせないが、櫛引が出たことで最終ライン左側にはスペースができる。
ここに京都の"4人目"有田が出てくると、山瀬から受けた石櫃がスペースの有田へパス。有田はペナルティエリア付近で前を向いて仕掛けることができる。増川が対応するが、有田は中に切り込んでそのままシュートを放つ。シュートがやや距離がありミートしなかったためGKの阿波加がキャッチしたが、有田はスペースで受けてからシュートまでに十分な時間、余裕を与えられいた。
同一サイドでの展開に4人(菅沼、石日津、山瀬、有田)が出てくると捕まえきれなくなる |
25:58頃~にも似たような展開で京都が崩す。最終ラインで3バックの左のようなポジショニングの佐藤がボールを受けて前を向く。この時京都の左サイドはSBの本多がサイドに張り、石田が前で張っている。マセードは本多へのパスを読んだが佐藤は石田に縦パス。石田は進藤のチェックを体でガードしながら中央へドリブルし、トップのイ・ヨンジェにパス。この瞬間にトップ下にいた有田が増川の背後に飛び出すと、イ・ヨンジェからスルーパス。
わずかに有田に合わずシュートが打てなかったが、一度外に注意を向けられたことで札幌の中央の守備が手薄になり、最後は縦のスルーパスでど真ん中を割られてしまった。
佐藤にはパスコースが2つ(本多、石田)ある |
画面外のマセードが外の本多へのパスだと読んで一瞬釣られる |
◆札幌のビルドアップ
率直な印象を述べると、この試合の札幌のビルドアップは要改善といったレベルで、下の図のように、京都の2トップに対して札幌の3バック+アンカーの深井でひし形を作れば、2トップの守備を無力化できる(この後の徳島戦や金沢戦ではできている)。
ただこの試合ではこうした基本設計が感じられず、特に深井が中央(2トップの間)なのか、最終ラインに加わって4バックを形成するのかが中途半端で意思統一が図れておらず、局面での数的優位を活かせていなかった。その結果、増川から進藤や櫛引に展開した際に京都の2トップによるプレッシングを受け、簡単にロングボールを蹴ってしまう状況が散見された。
後ろ3枚+深井で全く問題なく2トップを剥がせる 2トップを無力化したら2トップ脇を使えばよい |
堀米が最終ラインに加わろうとするが 京都の2枚相手なら3人でよい。中盤に残るべき |
◆京都の右が気になる
38分ごろ、札幌はジュリーニョを左サイドに配す変則的な守備陣形を敷く。
スカパー!!解説の大森健作氏は「5-4-1だ」としていたが、中盤の3センターは従前通り中央に3枚並んで、ジュリーニョがその左に片方だけいるサイドハーフのような位置取りをしていて、どちらかというと石櫃へのマンマークのように思えた。
ジュリーニョは左サイドで独立しており5-4-1には見えない 石櫃が上がるとジュリーニョは着いていく |
またジュリーニョは対面の石櫃が上がっていくと受け渡さずにずっと着いていくので、局面によっては札幌の3センターよりも背後にジュリーニョがポジショニングする6-3-1のような状況となっていた。ただ変則的な点として、札幌がクリアしたりボールを保持するとジュリーニョは2トップの位置に戻る。
石櫃にジュリーニョがずっと着いていく 5バック+1の6バックのような陣形に |
これによって前線は都倉1枚になり前線での守備が難しく、京都の最終ラインからの展開がより容易になる。京都としては、石櫃にべったり着いているのならば石櫃を使わず、左を使うか手薄になった中央で基点を作ることでいくらでも解決できるのでは、と思って見ていたが、この数分後の前半ロスタイムに福森の直接フリーキックが決まって2-0。ハーフタイムが明けた後半は、3-5-2に戻していた。
2.後半の展開
◆続・京都の右が気になる
前半終了間際に上記のような微修正があり、後半をどのように入るか注目していたが、札幌はマセードと前寛之の位置を入れ替えてスタートしている。前半、前寛之は中盤でボールを拾いカウンターの起点となったプレーがいくつかあり、守備もまずまずといったところだと思っていたが、考えられる理由は①SBと対面することが多いインサイドハーフにマセードを出したい、②WBを経由したビルドアップの精度を高めたいので前寛之をサイドに置きたい、等が思い当たるが、理由はよくわからなかった。
後半スタート時のメンバー 京都は石田→堀米で山瀬が左に回る 札幌はマセードと前寛之を入れ替え |
◆堀米(勇輝)の投入
むしろ後半開始早々の展開で、ゲームに影響を与えたのは京都の堀米(勇輝)の投入で、右サイドに限定せずピッチをフラフラと移動してボールを触るほか、右サイドで受ければ左利きなので中を意識したドリブルでの仕掛けがあり、開いてプレーするSBの石櫃と併せて、京都の右サイドでの攻撃にバリエーションを与えていた。
◆続・京都の右が気になる②
そうした状況を見てか、四方田監督は56分頃から京都のボール保持時に都倉を右サイドに下げる形での5-4-1への配置転換を行う。また、地味に堀米と深井の位置を入れ替えている。
前半のジュリーニョの配置転換と異なり、ほぼ完璧な5-4-1 |
前半終了間際から続いた一連の戦術変更の中で、もっとも判断に困るのが59分頃の局面で、2トップの位置関係が都倉右、ジュリーニョ左となっていたところで、京都が中央のアンドレイから右の石櫃に展開すると、ジュリーニョが中盤に降りた5-4-1の陣形を敷いている。
ここで石櫃が堀米に預けてオーバーラップし、右サイドを崩す動きを見せると札幌は5-4のブロックで対抗するが、ボールに一番近いジュリーニョは「その場にいるだけ」といった非常に怠慢な対応で、守備を強化する戦術変更にしては明らかに悪手のように思えた。
また、都倉とジュリーニョのうち、左サイド(京都右サイド)の選手がプレスバックするのか、ボールと反対サイドの選手がスペースを埋めるという考え方なのか、プレスバックする人を都倉とジュリーニョのいずれかで固定するのかも一連の流れの中で不明瞭で、3-0のセーフティリードにもかかわらず非常に混乱している印象を受けた。
ジュリーニョがトップからスライドして中盤に加わるが、非常に緩い対応 |
◆続・京都の右が気になる③と京都の選手交代
上記の局面の直後、61分に札幌はマセード→内村に交代。内村は右のFWに入る。これにより札幌は開幕から採用している、攻撃時3-4-1-2・守備時5-2-3に戻る。キャンプからずっとトレーニングしている布陣に戻すことで安定化を図るほか、フレッシュな内村を入れることで前線で守備をしてほしいとの意図があったと思われるが、中盤を1枚削ったので戦術的には守備が薄くなっている。
◆終盤の展開
一方、京都は63分に有田→ダニエルロビーニョ。ロビーニョが左サイドに入り、前線は右から有田、イ・ヨンジェ、ロビーニョの3トップ、中盤は山瀬、アンドレイ、佐藤健太郎の3センターとなる。この交代により両チームとも中盤の枚数が減り、また京都は3トップにしたもののスクランブル的な対応なので、前線で効果的なプレッシングができず、次第にオープンなゲーム展開となり、ロングボールも増え、ずっと四方田監督が気にしていた前線の守備の問題は終息する。
内村、ダニエルロビーニョ投入後の標準的なマッチアップは下の図のようになっていて、札幌は前線を1枚増やして3トップにしたが、サイドに開く京都のSBへの対応をFWが行うことは難しい時間帯となっている(内村はフレッシュだが、中央を閉めることを優先していた)。よって京都のSBにはWB、中に入り込んだポジションをとる堀米とダニエルロビーニョにはCBが突撃して対応する。
前線は積極的にプレッシングしない 京都SBにはWB、FWにはCBが対応 |
ただ、いずれも京都の選手への距離があるので、特にダニエルロビーニョや堀米にボールが入ると前を向ける時間が得られることになる。結果的に89分の失点も、福森(イルファン投入に伴いCBに入っていた)のチェックが及ばない低い位置で受けた堀米がイ・ヨンジェに楔のボールを入れたことが起点となっている。
北海道コンサドーレ札幌 3-1 京都サンガF.C.
・3分:都倉 賢(PK)
・45+3分:福森 晃斗
・51分:都倉 賢
・89分:下畠 翔吾
【雑感】
四方田監督は非常に守備のバランスを気にしていたが、清水戦、京都戦と見て、札幌には3センターの3-5-2は予想以上に向いている印象を受ける。攻撃面では、前線に収まるジュリーニョと、競り負けなず裏を狙える都倉がおりカウンターを遂行できる。中盤に運動量ある若手選手を並べれば、基本形としている3-4-1-2よりもスペースを効率的に管理できる。何よりもFWの守備負担が軽減され、中盤に1枚増やせるので、後半に走れなくなり中盤にスペースが空き放題といった現象を解決できると思われる。スタートが3-5-2で、膠着した際にMFを1枚削って小野投入、でもよい。
これ以後の試合での起用法からもわかることが、四方田監督の中では、内村は基本的に右サイドの選手だとみなされているようで、固定はしていないが基本的にスタート位置は右サイドであることが多い。これは内村がこれまで札幌で見せてきたプレースタイルや得点パターンと相反する起用法だが、中に入らずサイドに流れてカウンターの起点となることが恐らく大きいと思われる。ガンバ大阪のパトリックの使い方に共通する点があるかもしれない。
0 件のコメント:
コメントを投稿