2016年3月22日火曜日

2016年3月13日(日)13:00 明治安田生命J2リーグ第3節 北海道コンサドーレ札幌vs愛媛FC ~主役は宮澤~

スターティングメンバー

 北海道コンサドーレ札幌のスタメンは3-4-1-2、GKク・ソンユン、DF進藤、河合、福森、MFマセード、深井、上里、石井、宮澤、FW都倉、ジュリーニョ。前節に引き続き小野が欠場し、トップ下に宮澤、中盤に深井。進藤は開幕から3試合連続のスタメン。
 愛媛FCのスタメンは3-4-2-1、GK児玉、DF林堂、茂木、浦田、MF玉林、藤田、小島、内田、瀬沼、河原、FW阪野。主力の西岡がベンチスタート、瀬沼を右シャドーに配し、トップに阪野。


1.前半の展開

◆試合開始

愛媛の特徴は一言で、果敢なプレッシングからボールを奪い、手数をかけずにシュートまで持っていくのが狙い。相手の最終ラインがボールを持つと全線の3人でプレッシングの構えを見せるが、そこで奪えないとなると素早くリトリートして5-4-1の陣形をつくる様相は、ヒット&アウェイのボクサーを髣髴とさせる。
 札幌は前線を中心に(J2水準では)そこそこのタレントを持っているが、最終ラインからの組み立て、ボール配給に難を抱えている。
 結果として、札幌、愛媛両チームともにリスクをかけず、前線のFWに蹴り合う立ち上がりとなる。札幌のターゲットは都倉。

◆ファーストディフェンス

試合が落ち着いてくると、愛媛は他の3-4-2-1のチームと同様、ボランチの1枚(藤田)を最終ラインに落として4枚で回す形を作る。
 これに対し、札幌は宮澤をトップに上げた前線3枚のプレッシングで対抗する。
2015シーズン後半から、札幌は小野をトップ下に配した陣形を採用することが多くなったが、小野はトップ下から最前線に移動し、プレッシングを開始(守備のスイッチを入れる)仕事に関して、走力やボールへのアプローチが不十分で、簡単に相手に蹴らせてしまうことがあった。
 この試合に関しては、宮澤は敵陣センターサークル付近から、中央を切りながらサイドにボールを追い込み、都倉/ジュリーニョが愛媛のサイドDF(ストッパー)に当たり、ボールの出どころをケアする形が何度かできており、トップ下に宮澤を配した効果が見られていた。
この位置からプレッシングのスイッチを入れ、サイドに追い込む

 しかし札幌の場合、河合の設定する最終ラインが低くなりがちであり、また中盤の2枚(この試合では深井・上里)が愛媛のボランチ(小島)を見つつ、インターセプトを狙おうとすると、最終ラインと2列目が大きく空くことになる。ボールの出どころが潰せていなければ、たちまち愛媛に使われてしまう。
 もっとも、前回対戦(2015/7/26)では、高いラインの裏に出されたロングボール1本から瀬沼のパワフルな突破に櫛引がちぎられて決勝点を献上しているだけに、札幌の最終ラインのクオリティを考慮すると、こうした対応がベターであるとも言えなくもない。
札幌は最終ライン~中盤が間延び。愛媛のシャドーが落ちてくると浮く

 7:30頃~の愛媛の攻撃のシーンは、この点を忠実に突いた形で、札幌の前線のチェックが来る前にサイドDFからシャドー(瀬沼)に素早く当てる、瀬沼がフリック、シャドーとWB(玉林)が囮となりできたスペースにFW(阪野)が走り込む。
 ここは札幌の河合が素早く応対し、ヘディングで跳ね返しているが、セカンドボールを拾われ、左に展開され、最後は内田のクロスがGKのク・ソンユンを脅かしている。このように前線のプレス強度が下がると、中盤~最終ライン間が空く傾向にある札幌の守備は後手に回り、簡単にシュートチャンスを作られてしまう。
下がってきた瀬沼のフリックから札幌の最終ラインを揺さぶる

 但し、愛媛の3バック+2ボランチのビルドアップもそこまで洗練されているというものではなく、特にアンカーの位置に入ることが多い小島のところで前を向いて展開することや、最終ラインからドリブルで持ち上がるといったパターンはほとんど見られず、札幌の前線3枚+小島を見るボランチ1枚の計4人で対応されると手詰まりになるシーンも見られた。
茂木から小島に出したところに深井が小島にプレッシャー
小島から茂木のリターンが大きくずれてターンオーバー

◆整理されていない札幌のビルドアップ

このように、運動量とアグレッシブさ、切り替えに一歩勝る愛媛がボールをよく拾うものの、そこからの展開に工夫と精度が乏しく、札幌もボールを保持する場面が出てくる。
 ただ、札幌の問題点は、最終ラインの3人からビルドアップを開始する際に、愛媛の1トップ+2シャドーの3枚が数的同数のプレッシングを仕掛けられると、どのように対応してよいのかが整理されていない点である。
 17:10頃~、札幌のビルドアップの場面があるが、この時、両ストッパーの進藤と福森がサイドバックのように大きく張り出し、河合のみが最終ラインに残される奇妙な形になる。
 3バックのチームでボランチやセンターハーフの1枚又は2枚が最終ラインに加わる場合、数的同数から2枚加えて数的優位を形成する意図であることが多いが、この時の札幌は「2枚が加わり、2枚が消える」ので数的同数のままであり、特に最終ラインからの組み立てが決してうまくない河合を、福森や進藤が離れることで孤立させてしまっている。
両ストッパーが上がると河合が孤立
中盤の誰が降りて河合を助けるのかが決まっていない
宮澤も降りてきて中盤に誰もいなくなる

 上の図と写真の瞬間は、福森と進藤がサイドに押し出され、サイドバックのようなポジショニングをとっており、この状態から素早く福森に展開すれば、外を循環するボール運びもできなくもない。
 しかし、この後に福森はサイドバックのポジションも超過し、ウイングのような位置まで上がっていく(17:32)。これにより上原はFWに近い位置まで「押し出されている」。
 これについては、もしかしたら空中戦に強い上原、左足でボールが持てる福森の特性を生かそうとした変形なのかもしれないが、おそらく①上原がアクシデントによる途中出場であること、②最終ラインに河合が取り残されていること、から、札幌としては意図した形ではないと思われる。
福森のいなくなった位置に宮澤が降りてくる
福森によって上原がFWの位置に押し出されている

このシーン以外にも、札幌は福森、進藤がサイドバック然としてサイドに大きく張り出し、河合を孤立させてしまう(=ボールを逃がせず放り込むしかない)状況を頻繁に作ってしまっている。
 下の写真、25:54のシーンはリスタートからであるが、福森が同様に高い位置でボールを要求する。福森は縦の上原につけたいとの意図であり、河合からパスが出るが、瀬沼のチェックに遭い縦に展開できず、結果的に河合に戻すことになっている。またこれにより河合と福森の距離が大きく離れ、リターンを受けた河合の選択肢(パスコース)が、河原の監視下にある進藤に逃がすことしか残されなくなっている。
河合→福森のパス、福森が離れていて河合がこのモーションで蹴ると
相手にはバレバレで福森に寄せてくる

結果、福森は河合に戻す
河合が出したときよりも更にボールが下がる

 逆に、福森が河合と適度な距離、かつ縦にコースを確保できる場所にポジショニングした下の写真(38:19)の場面では、河合→福森→上原、とサイドを迂回し展開できている。
 福森は昨年から攻撃参加する場面を良く見せているが、福森の攻撃参加が成功するパターンは、ボランチ近い位置をとり、相手守備と2対1の関係を作ってからパス交換し、相手のチェックをはがして持ち上がるケースが多く、味方と距離が離れると相手守備に"各個撃破"されてしまいがちである。
瀬沼は写真の瞬間、河合→上原のコースを切っているので
この距離(瀬沼→福森)なら福森に寄せられない

◆中を通す勇気はあるか

また愛媛が(札幌のロングボールの効果もあって)やや下がり、ボールを持てるようになった札幌だが、中央を通すパス、食いつかせるパスが殆ど見られなかった。
 下の写真のシーンは、5-4-1で撤退する愛媛に対し札幌は河合が最終ラインでボールを持つ、ボランチの1枚(深井)が愛媛の2列目4枚の前に移動し、間受けのパスを要求する、この時宮澤が愛媛の4枚の背後でパスコースを作る動きを見せるため、小島は深井を捕まえられない。しかも4枚の右の瀬沼のスライドが遅れ、宮澤へのパスコース以外にも、左サイドへ展開するコースも大きく開けている。
 河合から半身の状態になっている深井にこの時パスが出ていれば、深井→宮澤と繋ぎ、愛媛の2列目を簡単に突破できていたと思われる。

河合が持ち上がると愛媛が一瞬4枚のラインを形成する
ラインの前に深井、背後に宮澤が移動

深井が両方向(河合と宮澤)への視野を確保し受けられるポジションに。ターンすれば左にも出せる
ジュリーニョも河合→深井の展開を予測して移動
愛媛はコースを消せていない

 このシーンは河合が深井に出せず、進藤がマセードとの連携で縦に持ち上がろうとするも、2列目4枚の左(阪野)のチェックに進藤が潰され(靴が脱げた)、ターンオーバーとなってしまった。河合としては中央のリスクを避けてサイドに展開したところだが、サイドばかりでは逆にジリ貧になってしまう。

◆サイドの守備の曖昧さ

愛媛の前半最大の決定機は下のシーン、ルーズボールを拾って札幌のボランチ脇に開いた瀬沼が受け、玉林がオーバーラップし上原と1vs2の局面を作る。
 ここで上原はボールホルダーの瀬沼に寄せに行かず、福森が遅れてチェックに行くが一歩先に瀬沼が林堂に浮き球のパス、林堂がヘディングで裏に抜けた河原へ。河原のフリーでのヘディングは枠外だったが非常に危険なシーンだった。①上原がボールホルダーを放置、②上里がボールしか見ていない、という主に個人の問題が重なり、決定的なシュートチャンスを与えてしまった。
(余談だが、この時しっかり戻って3バックを作っているマセードに個人的には好印象)
ボールホルダーが完全にフリー

ボールホルダーを優先しない上原

 伏線?かわからないが、この直前の30:37に似たようなシーンがあり、トランジションから愛媛がボールを拾い、札幌ボランチの斜め前方のスペースでCBの林堂が持ったところで福森が"突撃"する。
福森が寄せるが遠すぎて届かない。出るべきではない場面
林堂が蹴った瞬間でもこれだけ離れている

 この時、福森がどこから林堂に寄せていったかは、概ね下の図の位置で、ボールホルダーをフリーにしたくないとの意図はわかるが距離が遠すぎる。この時は近くの選手に任せて福森は最終ラインをケアすべきであるが、前に出たことで最終ラインに大きなギャップができている。
 林堂はこれを見逃さず、このスペースに走り込む瀬沼にパス。この時は結果的に、河合の的確なカバーリングと愛媛のボールがやや精度を欠いたため難を逃れている。
福森が簡単に背後を空けてしまい瀬沼に使われる
河合のカバーリングで脱する

2.後半の展開

◆充実の宮澤

後半、同点に追いつかれた直後(50:29~)には、上里からサイドに大きく開いた、サイドに走ってきた宮澤、上原、都倉と繋ぎ、最後は宮澤からクロスを上げてジュリーニョが飛び込む決定的なシーンが生まれている。
 この時、上里と深井の両方が最終ラインまで落ちてから福森に展開したため、先に書いたシーンのようにパスコースがなく手詰まりになるかと思われたが、宮澤のトリプルアクション(①両ボランチが不在になった中央で間受けの体制をとる、②左サイドへ長い距離を走り、福森から受け上原にはたく、③動き直してクロス)で攻撃が繋がり、福森の上がりが活きた形となっている。
中盤で受ける位置に。ここから手前の福森の近くまで移動

宮澤のトリプルアクションによる攻撃の展開

 とにかくこの試合は、間延びした中盤を宮澤が攻守両面で引き締めており、以下のシーン(62:10)では、①福森のカバー&河合の補助のため最終ラインへ移動、②河合→マセードのロングボールを見て前線の支援に移動、③深井のパスを間受けしチェックに来た相手の股を抜くパスで都倉に繋ぐ、リターンをマセードに展開、という仕事を一人で行っている。
 (余談だが、本来サイドに張って幅を作るべきWBの上原がトップに移動し、福森が上原のポジションに移動している。ボランチが福森のカバーに動いていないため宮澤が下がることになっている。前半にも似たような局面があったが、恐らく上原がトップに移動する動きが即興だと思われる。)
上原はFWの位置に。ビルドアップ部隊→福森の距離が遠い

◆ジュリーニョの才覚

当初、左サイドのMFとして獲得したというジュリーニョだが、この試合を見る限りでは、当面FWで起用したほうが良いとの印象を受けた。
 ジュリーニョの中央の選手としての適性が表れていたのが以下のシーン(58:26)で、福森が懐を使ったドリブルで持ち上がる瞬間の写真だが、福森から上里、宮澤へのコースは切られている。この時ジュリーニョがボールに寄り、狭いところで福森の縦パスを受け、上里に落とすことで最終的にはマセードに展開し(ボールが少しずれたのもありシュートまで行けなかったが)愛媛の守備を突破することができている。
福森から受けれる位置に寄ってくる
ここから"2人飛ばし"のジュリーニョを選択した福森の判断も光る

背中でブロックしつつ上里に落とす、上里が前を向いて受けられる

北海道コンサドーレ札幌 1-1 愛媛FC
・41分:ジュリーニョ
・49分:瀬沼 優司


【雑感】

間受けを成立させられ、かつボールを失わない深井-宮澤-ジュリーニョの縦のラインという最適解が見えた1戦。
 左サイドは順足で持て、攻撃の横幅が作れ、運動量もある堀米の復帰が待たれる。
改善点は、3トップを当ててくるチームに対する対応(誰が最終ラインに下がるか)と、ボランチ脇スペースのケアの徹底。
 個人では言及した選手の他、マセードの運動量、ボールを体で隠すドリブルに好印象。

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