2016年4月19日火曜日

2016年4月17日(日)14:00 明治安田生命J2リーグ第8節 モンテディオ山形vs北海道コンサドーレ札幌 ~ジュリーニョのクオリティ~

スターティングメンバー

 北海道コンサドーレ札幌のスタメンは3-4-1-2、GKク・ソンユン、DF進藤、増川、櫛引、MFマセード、宮澤、深井、福森、菅、FWジュリーニョ、都倉。
 マセードが故障から復帰し即スタメン、トップ下には前節に引き続き菅。開幕戦以降離脱していた小野がベンチ入り。
 モンテディオ山形のスタメンは4-4-2、GK山岸、DF山田、渡辺、田代、高木、MF伊東、川西、松岡、汰木、FWディエゴ、大黒。
 山形は開幕から3-4-2-1を基本形としてきたが7試合勝ちなしで、この試合は4-4-2に切り替えてきた。守備は4-4-2でセットするが、攻撃は4-2-3-1に近い。ディエゴと大黒の縦関係は大黒が前、ディエゴがその裏で固定。伊東、汰木は2列目をやや流動的に動く。ボランチは開幕からスタメンのアルセウが出場停止、松岡と組むのは川西。


1.前半の展開

◆山形のビルドアップと札幌の守備戦術


 札幌の守備の基本形5-2-3は、この日はジュリーニョが頂点で、菅が右、都倉が左となることが多かった。ジュリーニョが頂点なのは、走行距離が長くなるサイドに菅を置いた方が良いとの判断の他、ジュリーニョが空中戦の的になることが多いので流れの中でそのまま中央にいた状況が多いことも考えられる。
左:いつもの守備陣形 右:山形戦で多く見られた守備陣形
中央を担うジュリーニョの負担(走る距離)が少なくなる

 山形はボール保持時、4バックでビルドアップを行う。札幌は3枚で中央を固め、まずジュリーニョが山形のCBから中央のボランチ・松岡へのパスコースを切る。山形がCBからSBに出したところで都倉や菅が中を切りつつプレッシング。圧迫を受けた山形のSBがSHに着ければWBの福森、マセードがケアし、中央へのパスはボランチの深井・宮澤がインターセプトを狙う。前線の大黒やディエゴへの斜めのパスを狙えば、CBが前に出て潰す設計である。
中央を切ってSBに出させたところでサイドのFW…都倉・菅が厳しく当たる
この試合の平均的なマッチアップ・山形のボール保持時
ディエゴが左サイドに降りてきている

 札幌の守備の問題点の一つは、最終ラインが低いためボランチ~DF間で受けるスペースを与えやすいことである。この試合で言えば下がってくるディエゴや、時折中央に侵入する伊東が間で受ける役割を担う。但し、最初からサイドを捨てて中央に入ると、SBが持った時にサイドでのパスコースがなくなってしまう。そのためビルドアップ段階では伊東と汰木はサイドに張り、パスコースを作りつつ札幌の陣形を横に広げることが重要となる。

◆SBの運ぶドリブル


 上記の点に加え、この試合で札幌の守備のギャップとなっていたのが山形のSBに対する札幌のFWの守備で、札幌はSBに都倉や菅がコースを切りながらついていくが、山形の両SB、特に左の高木利弥はパスだけでなく、ボールを受けてからドリブルで縦にボールを運べる。SBがドリブルで運ぶと、FWの位置からスタートした都倉や菅がずっと追い続けるのは難しく、SBがボールを保持した状態でボールにプレッシャーがかからない局面ができる。
 運ぶドリブルで札幌のFWの守備が無力化されると、山形はSBからボランチに展開するパスコースができる。この時、札幌のボランチは中央で受けるディエゴや伊東をケアしているので、松岡や川西にチェックにいけない。松岡が前を向いてボールを持つと、中央は札幌のボランチ2枚vs山形の松岡、川西、ディエゴ(+伊東、汰木)とバイタルの密度を高めた攻撃が展開できる他、札幌の2枚のボランチが片側のサイドに寄ってくるので、手薄になった逆サイドへのサイドチェンジで揺さぶる選択肢も生まれる。
SB高木の運ぶドリブルでFWの守備を剥がすと、中を経由して展開できる

事例① 21:09
菅がCBに不用意に食いつく
SBに食いついたため菅のサイドの選手への対応が遅れ、
「3」のラインを突破される
事例②…24:16
CBの田代からSBにボールが着けられる
菅がうまく追い込めないと、SBの高木が前を向いて持てる
高木から中央の松岡へのパスコースができる

◆札幌のビルドアップと山形の守備戦術


 札幌はボール保持時、3バックで組み立てる場合、ボランチの1枚が最終ラインに加わり4枚で回す場合があるが、前線が2枚の山形相手のこの試合では、基本的には3枚で組み立てる。序盤はマセードと福森が高い位置に張る場面がよく見られた。
札幌のセット攻撃時のマッチアップ

 山形は守備を4-4-2でセットする。1列目の大黒、ディエゴはいずれもベテランで、抜群に守備貢献が高い、走力があるといったタイプではないが、タイミングを見て札幌のセンターバック、増川にプレッシングを仕掛ける。増川が隣の進藤、櫛引にパスすると、山形は連動して2列目の伊東、汰木が進藤や櫛引を捕まえる。特に左足でボールを持たされる櫛引にパスを出させ、伊東が櫛引を狙う局面が何度か見られたが、山形が石崎監督であることもあり、意図的に狙っていたと思われる。
 ただ山形の4-4-2の3ラインは、札幌が2週間前に対戦した町田のそれと比べるとライン間の距離が空いており、SHやSBがそれぞれ前に出てプレッシングを行う際に走らなくてはいけない距離が長い。そのため体力が残っている前半はハードワークでカバーできるが、時間が経過してくると徐々にほころびを見せ始める。
山形のプレッシング
大黒がスイッチを入れると連動して奪いに来るが、SH、SBがかなり長い距離を走る必要がある

15:11、札幌のボール保持時
増川→櫛引に展開するとSHの伊東がプレッシング、FWと同じ列まで出てくる
櫛引→福森と繋ぐとSBの山田が出てくる
後半25分頃のプレッシング
FWがスイッチを入れられず、SHが単騎で突っ込んでくる
マセードが持った時に寄せ切れておらず、走力だけでカバーできなくなっている

◆考えるより蹴ったほうが早い


 序盤、札幌は長いボールを蹴った後、もしくは蹴られた後のセカンドボール回収で優位に立つ。札幌がセカンドボールを拾えた理由は、①風上で山形のキックは押し戻され、札幌のキックは伸びる、②大黒vs増川、都倉・ジュリーニョvs田代・渡辺という空中戦のクオリティ、などが考えられる。
 セカンドボールを拾うと、札幌は素早くサイドに展開。福森、マセードが高い位置を取り、山形の守備網を横に広げようとする。札幌が4トップ気味に両ワイドが高い位置を取ると、山形は汰木が最終ラインに加わり5バックでの対応も見られた。
 山形は風下に加え、ジュリーニョ、都倉の肉弾戦に押される格好となり徐々にラインを下げられ、最終ラインとボランチの間が空く。そこへ菅や宮澤が侵入していき波状攻撃を仕掛けることで札幌がペースを握る。強風に加え、前半途中から雷雨で一時中断した試合だったが、「繋ぐよりも都倉に蹴ったほうが早い」、こうしたピッチコンディションの試合では特に顕著である。

◆不安定な左サイドを攻略される


 10分に山形が先制する。右SBの山田から札幌の3バックの脇、櫛引のエリアに蹴り込みスローインを獲得すると、山形はリスタートに4人の選手(右SB山田、右ボランチ川西、右SH伊東、トップ下ディエゴ)を集める。対する札幌は左WB福森と左ボランチ深井のみの4vs2と数的不利が生じる。
 そして山形の3人がそれぞれボールホルダーの山田の真横、縦、斜めにパスコースを作るので、2枚で防ぐことは不可能な状況が生じる。


スローイン直後
サイドで4vs2
川西がスペースに移動


 山田は札幌にとって一番危険なエリアに侵入する川西にパスすると、福森がスライディングでカットを試みるが届かず。またヘルプの櫛引も川西に釣られて大外の伊東が完全にフリーになる。川西の落としを拾ったディエゴは見逃さず、伊東にスルーパス。ここで慌てて宮澤が伊東のカバーに走るが届かず、伊東のクロスをソンユンが弾き、こぼれ球を汰木が流し込み山形が先制。
ディエゴからのリターンを山田が受ける
山田から川西へのコースができる
山田から川西へ、福森スライディングも届かず

 この時、サイドでの札幌のディフェンスはいくつものミスが重なっている。①深井がディエゴを意識して中央のコースを空けている、②宮澤が深井のカバーリングポジションをとれていない、③福森のスライディングによるカットの失敗、である。特に③は致命的で、スライディングしたことで伊東のカバーができずフリーでクロスを上げさせてしまったが、福森と櫛引がボールに食いついたそもそもの理由は、深井・宮澤の2人でバイタルエリアを守り切れていないことである。
 3-5-2の布陣を採用した清水戦でも、サイドのスペースで持たれたときにWBとボランチのいずれが見るかが曖昧でピンチを作られていたが、2ボランチの3-4-1-2を採用したこの試合では、更にサイドの守備における役割分担が曖昧・不明瞭になっている。

2.後半の展開

◆水を得た魚、スペースを得たジュリーニョ


 後半から札幌は菅→内村。ジュリーニョをトップ下にシフトさせる。この交代により、この日切れていたジュリーニョが中盤でボールを拾い、仕掛ける場面が増える。選手交代以外にも要因はあるが、後半は札幌、山形共にDFライン~前線が間延びし、ジュリーニョやディエゴ、伊東といった選手がボールを受けやすくなった。またジュリーニョに付くことが多い山形の川西の守備が明らかに軽く、寄せても簡単にジュリーニョがかわしてチャンスを量産する。
 互いに殴り合うオープンな展開の中で得点を挙げたのは札幌。58分の札幌の同点ゴールもジュリーニョの仕掛けが起点だった。自陣でボールを受けたジュリーニョがチェックに来た川西を股抜きでかわし、裏を走る都倉にスルーパス。都倉が左サイドで一対一を制し、最高のタイミングで走り込んできた内村がグラウンダーのクロスに合わせた。
川西をかわしたジュリーニョから裏の都倉へスルーパス

 また札幌は裏に抜けるだけでなく下がってポストプレーのできる内村がトップに入ったことで、前線への縦パスが収まるようになる。逆に山形は60分前後、札幌が攻勢に出た時間帯には前線のディエゴ、大黒の運動量が落ちてきており、4-4の2ラインと前線2枚が分断され、なかなかセカンドボールを回収、キープできない時間帯が続く。

内村に収まる

◆試合終盤

70分過ぎになると山形は更に全体が間延びし、また一旦攻撃を跳ね返した後、押し上げられなくなる。札幌はマセード、福森の両アウトサイドが上がりっぱなしで、前線のジュリーニョ、都倉、内村がライン間で自由に活動するといった展開になる。
押し上げられない山形

 特にジュリーニョは足元で受けるだけでなく、一度3列目に落ちてパスを受け、一度視界から消えてから山形の選手間のギャップに飛び出す動きが非常に効果的で、得点は時間の問題かと思われたが、ラインを下げて守りに入った山形が最終局面で凌ぐ展開が続く。
一度下がって受ける
相手の意識がボールに集まる
相手の意識がボールに集まったところでスペースに動き出す

◆小野投入は悪手


 83分、札幌は進藤に代えて小野を投入。4バックに変更し、小野をトップ下、内村を右、ジュリーニョを左、都倉を中央の4-2-1-3のような布陣となる。ただこの戦術変更により、中央で攻撃のリズムを作っていたジュリーニョ、内村がサイドに追いやられ、またマセード、福森も上がりにくくなり、中盤以降の攻勢のリズムを完全に壊すことになる悪手だった。
 札幌は86分にジュリーニョに代えて上原を投入するが、ゴールを割ることができず1-1の引き分けで試合終了。

モンテディオ山形 1-1 北海道コンサドーレ札幌
・11分:汰木 康也
・59分:内村 圭宏


【雑感】


 ジュリーニョは攻撃面では加入以来最高の出来で、劣悪なピッチコンディションにも関わらず競れる、仕掛けられる、キープできる、と高い万能性を示した。特に裏を取るのがうまい内村と同時にプレーすると、相手に与える脅威は更に大きくなる。
 ただ、ジュリーニョが前線で機能すればするほど、今後小野をどのようにチームに組み入れるのか?という疑問が膨らむ。そもそもトップ下を置く3-4-1-2の採用は小野の起用が前提であり、トップ下でのジュリーニョや宮澤の活躍、京都戦などで3センターの3-5-2が一定の成果を見せていることで、今後小野のコンディションが上がってきたとして、再び軸に据える必要性が今のところ見えない。

 失点シーンはいろいろな見方があると思うが、今回に限らず、福森はWBでの出場時にサイドのボールホルダーへのチェックが甘くなる状況がよく見られる。ただ福森だけの問題ではなく、例えばWBがサイドに出て対応した際に全体がボールサイドに寄せきれていない。

 攻撃時のトップ下→守備時の3トップの頂点への移動に際し、札幌は後ろでボールを回してポジションチェンジする時間を作れないので、以前からやり方を変えた方が良いと思っていた。この試合、前半は菅がトップ下から3トップの右に移動する形式としたことで、攻⇔守の転換がスムースになった。

 石崎信弘氏が札幌を指揮していた4年間の印象としては、極端な方針転換をしたことが印象に残っている。石崎氏の1・2年目は潤沢な戦力を与えられながらJ1昇格に失敗し、迎えた3年目は緊縮財政により選手を揃えられなかったこともあったが、まともにプレーすることを放棄したようなサッカーが繰り広げられた。イ・ホスンや山下を中心とした我慢の守備から内村や近藤のカウンターで仕留める、といった必勝パターンを確立し3位に滑り込んだが、内容的には到底J1では難しいな、と感じたことはまだ鮮明に覚えている。
 開幕から8戦勝ちなしの山形が監督を交代するかはわからないが、個人的には石崎氏はまだ"形態変化"を残していると予想する。

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