2024年5月26日日曜日

2024年5月25日(土)明治安田J1リーグ第16節 北海道コンサドーレ札幌vs鹿島アントラーズ 〜最後通告の日は寂然と〜

1.ゲームの戦略的論点とポイント

スターティングメンバー:



  • 鹿島は9勝2分4敗の勝ち点29で首位町田を勝ち点3差で追う状況。ここ6試合(ちょうど、三上GMが「7試合で勝ち点7!」を掲げた対象試合と一致)はガンバ、湘南、柏、ヴェルディ、広島、神戸に5勝1分と調子を上げてきたところです。
  • 一方で水曜日にはアウェイで町田とのルヴァンカップを戦い、GK早川の他、植田、関川、佐野といった主力をスタメンに送り込みましたがターンオーバー気味の町田に0-2で敗退。ここでの疲労は気になるところです。
  • メンバーは右ウイングのみ流動的で、藤井、樋口、チャブリッチと試してきましたが、ここ4試合は師岡が先発。トップ下は名古が先発した8試合で7勝1分と驚異的な結果で、好調を維持するチームのキーマンとなっています。この日の役割は、FWの鈴木と並んだ2トップとするのが妥当でしょうか。

  • 長野とのルヴァンカップをターンオーバーで乗り切ったコンサ。武蔵、浅野、青木を欠く前線は、新たに近藤もこの週の練習中の負傷で欠場。宮澤も同じく負傷ということで、右に原、中央に田中克幸の起用を予想するメディアもありましたが、それぞれより経験のある田中宏武と髙尾が最終的には選択されています。

2.試合展開

日刊スポーツさん、、北海道新聞さん、4バックというよりはいつも通りの単なるマンマークです。:

  • 一部のメディアでは4バックとしていますが、私が見た限りでは仕組みはいつもと変わらないかなと思いました(4バックと表記するのはいいけど、この試合だけ特別なことをしたと論じるのはおかしいのでは)。

  • まず鹿島は後方の選手、特にCBの植田と関川にボールを運ぶ能力があまりないので、全般に後ろからボールを運ぶというよりは、他の選手がボールを引き取ってプレーすると表現するのが適切でした。
  • ボールを引き取っていたのは主に、①左SBの安西と、②前線の鈴木と名古。関川(植田よりは運ぶ意思・能力あり)が安西に預け、安西が左サイドで預けられる選手を探すところから多くの局面は始まっていました。
  • ただこの形はマンマークで一応受け手を全員見ているコンサ相手にはあまり効果的ではなく、安西の仕事は味方にクリーンに繋ぐというよりは、関川(と、その背後にいる植田)に託されたボールを不用意に失わないようコントロールしながらリリースするといったところでした。

  • 前線の鈴木優磨と名古は、まず初期配置では横並びの2トップのような状態が多く、この状態では岡村と馬場も横並びで2人をマークするので見かけ上は4バックっぽくなるのは間違っていません。ただこれは、同様の振る舞いをする相手にはいつものことなので、この試合だけ急に4バックだと論じる論拠としては不十分です(地元メディアは互いに相談などしているのでしょうか)。
  • また初期配置よりもそこからの変化の方がより重要です。鈴木と名古の関係性はここでも2トップのそれに近く、鈴木が前、名古が後ろ、という固定的な分業だけではなく、鈴木が引いて名古が背後に飛び出す、というパターンもあったり、両方引いて仲間や師岡が斜めに走ってくる、という場合もあったりと、マンマークのコンサ相手に、岡村と馬場がついてくることを念頭に置いてスペースを創出しようとしていました。
  • この動きに対して、コンサはそれぞれ馬場と岡村が基本的にはついてくるので、コンサは4バックというよりは単に2v2、または4x4でかなり純度の高いマンマークをしているだけ、というのが(いつものことなのですが)実態に近いでしょう。

  • ただ名古や鈴木がトップの位置からかなり逸脱して、たとえばセンターサークル付近にいる場合は、馬場と岡村はこれを放置して時折マークを外している場合はありました。
  • この時は馬場か岡村がマーク対象がいない状態で最終ラインに残っているので、4バックという表現に意味はあるのかもしれませんけど、ただDF3人がマンマークして、残り1人は余っているけど結局やることは(あとから登場する選手を捕まえる)マンマーク、というならもうそれはDFの枚数が何枚とかいう点に着目するのは無意味で、枚数よりも守り方の方が重要、ということになるでしょうか。

build-upの意思がある人と希薄な人:

  • ボールを持っていない時の鹿島は、あまり高い位置からpressingを仕掛けてくるのではなく、鈴木と名古は荒野を消すところからスタート。
  • 両ワイドの師岡と仲間もあまり出てこないので、コンサは岡村、馬場、菅野のところでほぼ自由にボールを持てる状態でした。ですのでこの状態から、鹿島の選手を引きつけつつ敵陣にボールを運んで、4バックに対して5トップをぶつける得意の攻撃を展開したいところでしたが、この試合それがうまくいった場面はほぼありませんでした。
  • まず馬場、岡村、荒野のところで、誰が前方向にボールを運ぶかが見えないままパスを回し続けます。
  • ただこれは両サイドの髙尾と中村桐耶も共犯関係にあり、この2人が最初から高い位置を取って後方の組み立てにほぼ関与しないので、たとえば岡村を師岡が牽制した時に、中村桐耶を使えば簡単にそこを回避して前に運べたと思うのですが、そのオプションがないので岡村としては自分で運ぶか、出しどころが荒野しかない状況でした。
  • そして荒野もこのシチュエーションではアンカーとして味方を助けられたとは言い難く、基本的には荒野は鹿島の2トップの間または背後に立つことで馬場や岡村を解放することが望ましかったと思いますが、荒野はボールを引き取るために下がったり、左右に頻繁に動いたりして、色々やろうとしているけど結果何ももたらせていない状態に陥っていました。

黄金の呪縛:

  • 選手配置と鹿島の守り方を考慮すると、コンサはサイドチェンジを上手く使えれば鹿島相手には一定程度は効果があったはずです。
  • 鹿島はファーサイドのWBをSBが捨てずにマンマーク気味になる(シャドーとSB両方を見ているが、SBを意識しがち)ので、コンサは鹿島の軽めの1stDFを回避したら斜めのパスを入れるなどして前線で必ず誰かフリーになる選手を使いたかったのですが、まずボールが運べない状態を見かねて(恒例の)駒井が下がってきます。これで前線は4v4の枚数関係で、この状態でボールが出ても鹿島は難なく対処できてしまう。

  • そしてこの日のコンサは斜めのパスや縦パスが全般に精度が著しく悪く、何度も鹿島の選手に引っかかって易々と鹿島に攻撃機会を与えます。
  • これはそもそも、コンサの選手(主に中村)はタッチライン付近でボールを持った時に安易にサイドチェンジを狙いすぎで、タッチラインから反対側のタッチラインに60m?のパスをいきなり狙うのではなく、よりピッチ中央付近からだと距離もそこまで長くならない、他にもパスコースがあるので相手に決めうちさせない、となるのですが、まるで福森かのようにボールを持ったらすぐに縦パスや斜めのパスを狙う大味な展開に終始していました。

  • 前半コンサのシュート数はDAZNのカウントだと1本。菅野のゴールキックをゴニが頭で落とし、スパチョークがGK早川の意表をついたロングループシュートで、コンサはウイングバックを使った攻撃から枠内どころか枠外も含めてもシュートゼロに終わります。

最終ラインの異様な不安定さ:

  • 40分の名古の先制点は、鹿島の選手は練習でやっていた形だったと語っていますが、おそらくこれは斜めのパスを入れてファーからDF死角の選手が飛び出すといったことを指しているのだと思います。
  • 特にコンサの場合、大外の選手をほとんど視界に入れずに対応する傾向があるのでまず簡単に背後を取ることはできますし、またこの1点目の時もそうなのですが、絞ったサイドのDFの選手がマンマークで誰かを見るのかカバーリングするのかは、選手の判断に任されていて不明瞭になっている。

  • そして基本的に人を捕まえることしか考えておらずラインDFの概念がないので、何度も裏抜けを繰り返されるとライン(と呼んでいいのか分かりませんが)はぐちゃぐちゃになって簡単にスペースを与える構造になっています。この得点シーンは前半開始20秒ほどでも似た場面があって、その時もカバーリング意識で深い位置どりの選手だけが深いポジションをとっていて、まるで90年代のスイーパーシステムのような守り方のコンサは鹿島の選手が飛び出せば簡単に中央を使える状況でした。

根強い分業文化:

  • 後半も特に展開は変わらないまま、55分に馬場のミスから名古が決めて0-2。
  • 得点直後に鹿島は師岡→チャブリッチに交代。チャブリッチは鈴木と並んで2トップの一角なので、やはりコンサが4バックかどうか以前に、鹿島はこの試合2トップをコンサにぶつけることを意識していたのでしょう。

  • 62分にコンサは4人を交代(↓の図では、鹿島が70分に柴崎と樋口を入れた後の図で指名しています)。

  • 選手交代したからといって何かがよくなるわけでもないのですが、一応言及しておくと、コンサは田中克幸がボール保持時にシャドーのイメージのはず。
  • ですがカツはかなりボールを引き取りに下がってきて、対照的にDFに下がった菅が高い位置を取り続ける。
  • なので配置は↓ようになっていて、ここでも後ろでボールに触りたい選手と受け手にしかなれない選手がくっきり分かれて分業状態が強く、基本的には出し手がかなり頑張らない限りは前にボールを運ぶことすらできない状況で時間を浪費しました。


雑感

  • まず「4バックを採用した」という言説について。これを複数メディアが書いたのでわざわざこのつまんない試合をもう一度見直したのですが、いつもと変わらん…という感想でした。
  • 磐田相手に終盤、家泉を投入した時は確かにいつものマンマークと異なっていて、宮澤か家泉のいずれかを余らせる構造。この日は少なくとも岡村、髙尾、中村桐耶は特定のマーク対象を意識しているし、馬場が余るといってもそうすると名古がフリーになるだけなのでそもそもそれは構造的に無理(マークすべき人が残ってるのの自分だけ余ります、というのはこのチームでありうるか?)でしょう。
  • ただ全体的に馬場や岡村が相手のFWを捕まえるアクションが妙に遅いというか、強度がないようにも見えたので、何かしらやっていたのかもしれません。試合後に岡村が「気持ちが入ってないかのような試合」と言っていましたが、真意はわからないもののマンマークとかいわゆる球際に厳しくいくプレーは「気持ちが入ってる」と見られやすく、人を受け渡したりスペースを消したりするのは一見何をしてるかわからないので気持ちが入ってない、と見られがちなのは確かにあります(それをピッチ上の選手が自ら言うのも変な話ですが)。
  • いずれにせよ言えるのは、ミシャが持っているオプションは最終ラインに1枚増やしてスイーパーにする、ということがわかったのと、枚数の問題じゃなくて守り方の問題である(基本的に極端なマンマークで人を捕まえるだけなのは一切変わってない)ということで、ミシャの渾身の策もいくらでも攻略法があるし、そもそもスイーパー置いたところで今の時代守れるわけがないのは名古の先制点を見れば一目瞭然でしょう。

  • 三上GMが「7試合で勝ち点7」という目標数値を掲げた7試合目でしたが、多分これは単なる努力目標というか意味のないスローガンなのでしょうけど、客観的に見るとこの7試合は上位から中位、下位のチームとの対戦が分散されていて、見ていてシーズンの行く末がだいたい想像できるものでしたし、その最後の鹿島戦は現状のチームに対する、ここで危機感を持って何かを変えないと終わり、という最後通告のようなものだったなと感じます。
  • この試合に限らず根本的にコンサのフロントは「正しく評価できていない」という問題点があります。
  • 自分たちに都合のよいデータや謎の数値、内輪の関係者によるポジティブなコメントなどを論拠として「このチームはいい方向に向かっている」と言い続け、一種のエコーチェンバー現象なのか生存者バイアスなのかそうしたものを全開にした状態でこの数年間(野々村社長時代から変わらず)やってきたので、今年に限らずこのチームのプレー内容は順位や最終結果と照らし合わせて妥当なのかがわからない。
  • だから今ピッチ上で何が起きていて何が課題なのか、どこを改善したらよいのかが自分で考えれない。だからチームについて抽象的かつ前向きなコメントしかできないし、7試合で勝ち点7という(努力目標としてもちょっとおかしな)数値が出てくる。
  • それも未達っぽいぞ…となってから金子のレンタルバックについてトーンが変わるなど急に危機感を持ち始めている感じがしますが、心のうちを全て知れるわけではないものの、甘いと言われても仕方ないでしょう。

  • とはいえヴェルディと京都という、現状のボトム4+αとの対戦を続けて残しているので、ここで連勝できればまだ望みはあるはずです。できるか知りませんけど、少なくとも浅野は京都戦には間に合って欲しいところです。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。

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