2024年5月6日月曜日

2024年5月6日(月)明治安田J1リーグ第12節 北海道コンサドーレ札幌vsFC東京 〜片翼のCONSA〜

1.ゲームの戦略的論点とポイント

スターティングメンバー:



  • 試合前の時点で、FC東京は5勝3分3敗で勝ち点18と6位につけます。
  • メンバーは、CBの序列がおそらく木本・エンリケ→土肥→森重となっていて、偉大な父を持つ19歳の土肥が抜擢されようやくポスト森重問題に本格着手できそうな様子ですが、この日は土肥が欠場、木本は故障明けでベンチスタート。昨年小柏と浅野の2トップに蹂躙された森重とエンリケトレヴィザンのユニットのリベンジマッチとなるでしょうか。
  • この他、U23日本代表に参加していた松木と荒木、GKの野澤は休養で、松木と荒木がが務めることが多かったトップ下に仲川。大黒柱のディエゴオリヴェイラは10節から復帰しています。
  • コンサは3日前のアウェイでのセレッソ戦と同じスタメン。前節存在感を見せた家泉が引き続き起用され、復帰の岡村はベンチスタート。


2.試合展開

馬場のスーパーゴールと背後の危険性:

  • FC東京がボールを捨てる展開でスタートします。東京の、ボールを持っていない時の陣形は仲川とディエゴが1列目の1-4-4-2。時折この2人がコンサの1-4-1-5のCBである荒野と家泉にマンマーク気味のプレッシングを仕掛けることはありましたが、多くの場合はハーフウェーライン付近までステイしていました。
  • 東京は森重とエンリケのCB、GKに波多野と、ハイラインを敷いて高い位置でボールを奪わなくてもゴール前でクロスボールや放り込みを跳ね返すことができる選手が揃っている。加えて前線には仲川を筆頭に、ディエゴ、俵積田、安斎とロングカウンターが成立できるだけのスピードがある選手も揃っている。ですのでコンサにボールを渡して、前がかりになったコンサの背後を狙うことは非常に合理的です。

  • ボールを持たされたコンサが何をしていたか。この試合、一番顕著だったのは、↓のようにピッチ中央〜やや左後方に位置する荒野や駒井から、対角の右サイドへの長いフィードを蹴っ飛ばすことでした。

  • 駒井は早い時間帯から後方に落ちてきて中盤は空洞化するので、いつものことではありますがコンサは(中央にパスの受け手がいないし)中盤を省略して長いボールを蹴ることで東京のゴール付近でプレーできないか模索します。ただし、武蔵が森重とマッチアップするということと、東京が中央を固めている、そもそも敵陣には入れているので前進するというより崩しに移行したい、といった幾つかの要因があって、いつもの武蔵に蹴るのではなくて斜めのボールを多用していました。
  • この斜めのボールから馬場のスーパーゴール(狙ったらしいです)が飛び出して4分でコンサは幸先よく先制に成功します。

 

  • 先制点の後もこの形は何度か見られますが、荒野のパスの受け手は馬場ではなく主に近藤でした。
  • ここで、近藤が右サイドのどこでどのようにパスを受けるかというディティールの観点があるのですが、↑の図のように近藤はバングーナガンデ佳史扶(以下カシーフ)の背後や付近に走り込むようなパスの受け方をすることが多かったです。もっともこれは近藤はあくまで受け手でしかないので、荒野がそういうボールを狙っているということでもあるのですが。
  • そしてコンサは近藤がこのように東京のDFに突っ込んでいくような動きを繰り返すと、その後方の馬場もつられて?なのかかなり高い位置を取るようになります
  • 馬場のイメージとしては近藤のすぐ背後でサポート、という感じなのでしょうけど、そうすると馬場の背後はかなりのスペースができることになる。そのスペースのすぐ近くには東京の若きドリブラー俵積田がいますし、ディエゴやフリーマンの仲川もスペースに流れてスピードに乗ってプレーすることができる。

  • そして放り込まれたボールを処理することが多いカシーフは、こうしたワンパターンの放り込みに難なく対処できる優秀なDFで(余裕がある時はクリアというより味方にパスを選択できる)、近藤へのフィードが軒並み処理される展開となると、右サイドで近藤と馬場が妙に高い位置を取っているというかひたすら前に突っ込んでいる状況はたちまちリスクになりますし、実際にそこから何度かカウンターを喰らって、後方に残っている駒井や家泉が身体を張ってなんとか対処…という容易に予想できる展開が繰り広げられることとなりました。

実はウインガーではない?:

  • 近藤については、1本のパスでカシーフの背後を取るというのはそう何度も成功するプレーではないので、基本的にはカシーフに突っ込むのではなくてタッチライン付近でボールを受けて、カシーフをタッチライン付近まで誘い出して、その背後を味方が突く、みたいなプレーの選択がウインガーとしてはセオリーなのではないかと思います。
  • ただ、右サイドでのプレーを好む右利きのサイドアタッカーという触れ込みでコンサにやってきた選手ですが、実はタッチライン付近でボールを持った時にできるアクションが、スピードで縦にぶっちぎるパターンしかないのでは?とここ数試合を見ていて感じます。
  • これについても、セレッソの登里相手ならスピードやフィジカルで上回れて、かつセレッソがあまりサイドをケアしていなかったこともあって近藤のマッチアップは優位でしたが、カシーフは近藤が縦しかないことは完全に把握していて、かつ登里よりは少なくともスピードがある選手なので、近藤はウインガーとしての仕事(タッチライン付近でアクションをして東京のDFを中央から引き剥がす)がほとんど遂行できていなかったと思います。
  • 相手のDFと正対した状態で1対1に勝ってシュートやラストパス、クロスボールなどフィニッシュに絡める選手がいると攻撃の切り札となりえますが、実は近藤はそういうタイプではなくて、セレッソ戦のようにスペースがある時にそこに突っ込んでいくことを得意としてる選手のように感じますし、だとすると右サイドについては再考の余地があるかもしれません。

片翼化はアドリブなのか:

  • そして右サイドにボールが入ると、コンサは青木が左からハーフスペース〜場合によっては中央にも移動するなどかなりフリーダムなポジショニングでプレーしていたことも顕著な現象でした。
  • これについては伏線というか、青木が試合前にモロに「そういうふうにプレーします」とメディアに話していて、まさにその通りのことを(おそらく選手主導で)やってるな、と思いました。


  • 青木は近藤以上にウインガーではないので、ボールを持っている時に青木の特徴が活きるとしたらミドルシュートのレンジに入って狙っていくことだろう、というのは皆さんイメージできると思います。
  • それは湘南戦の2点目のように、Jリーグには大外にサイドチェンジされることをあまり想定していないかのようなチームがいくつかあるので、大外で待っているだけでフリーになってシュートチャンスができることもありますけど、基本的にはウイングバックの位置から直接ゴールを狙うのは普通は難しいです。だから青木は本質的にはウイングバックではなくてシャドーだと思います。
  • その青木が中央に入ってシャドーのプレーをしようとすると、↓のように(それまで後方で荒野や青木にボールを預ける程度しかしていなかった)菅が高い位置を取って左サイドで縦に突っ込んでいく見慣れたプレーをするようになります


  • 勘が良い方ならわかると思うんですけど、こうなると構造的にコンサは本来SBの役割の選手が両方とも常時上がりっぱなしになって、東京としては左にも右にもスペースがあるのでそこに選手が出ていけば速攻し放題になる。

 

  • ただ27分の俵積田のゴールはコンサの左サイドを突いたものではありますけど、カウンターというかはリスタートからでちょっとコンサが集中を欠いていた状況でした(ので、↑の絵の形とはいえない)。

  • そもそもこのチームは実践的な守備練習をしないで毎回トレーニングはミニゲームですし特に約束事もないので、コンサの失点に対して何が良いとか悪いとか論じること自体ナンセンスな気もしますが、一つ言えるのはやはりファーサイドを誰が見るのかは不明瞭だなと感じます。
  • コンサから見て左サイドにボールがある時に右サイドのDFが絞ったポジショニングになって、WBが戻れる時は戻ってくる、みたいな対応は前からそうなのですが、この際にコンサの右サイドのDFは全然大外の選手を見ないのは田中駿汰が担当していた頃からそうで、となるとWBに任せているのか?と思いますけど、WBも本来は相手の一つ前のSBを見るタスクがあったり、そもそもWBにそうした下がって対応することが得意そうな選手を起用することは稀であるので、WBが見るのも無理があるんじゃないかと思います。
  • それでもこのプレーに関しては、ディエゴのスルーパスに抜け出した髙、最後に合わせた俵積田とも長い距離をトップスピードで走って高精度のフィニッシュを完結させたという点で、東京の選手がかなりいいプレーをしたのも事実だと思います。

やはり幅を求める:

  • 後半もピッチ上で起こっている事象は特に変化がない中で、65分にコンサのミスを突いてディエゴのゴールで東京が逆転します。
  • これもまぁ、そもそも大して実践的な練習をしていないと思うので論じることに意味がなさそうな気もしますが、菅野→荒野でプレーを開始して東京のpressingを引き付けて背後にスペースを作りたい、とかなら、荒野はもっと菅野の近くに立っていてもいいし、菅野はそれを確認してからリスタートすればいいので、その辺もディティールの面で共通理解がないまま普段やってるんだな、という感想です。

  • スコアが動いて71分に両チームとも交代カードを切ります。
  • 東京は負傷のカシーフに替えて白井、仲川に替えて原川。コンサは荒野→高尾、近藤→ゴニ、スパチョーク→中村桐耶で交代選手以外もポジションと役割をシャッフルします。

  • おそらくコンサとしてはサイドで勝負して東京のDFを拡げたりクロスボールを供給できる選手がいなかったので(いるはずなんだけど機能していなかったので)、馬場よりもスピードのある髙尾と、左サイドで高い位置を取れる中村を両方入れて、フィニッシュとしては武蔵よりも(多少)空中戦で期待できそうなゴニを入れてなんとかしたい、というところでしょうか。
  • 髙尾のアーリークロスとオーバーラップからのマイナスクロスで2度ほどはチャンスがあったと思いますが、コンサのセンターFWがゴニと武蔵で2枚になっても、東京の森重とエンリケの対応は的確で、そこも特に練習してるわけではなさそうなコンサのシンプルなラストパスでは攻略に至りませんでいた。

雑感

  • まず東京のゲームプラン(コンサにボールを持たせて後ろで跳ね返す)が非常に適切でした。近年のこのカードだと割とオープン、コンサが得意とする無秩序な展開になることが多くてそれならチャンスはあるか?と思いましたが、東京のゴール前はかなり硬くて今のコンサではこじ開けるのが無理そうでした。
  • これについては森重の起用と土肥の負傷も影響していますが、そこは運がなかったかもしれませんけど、コンサが唯一勝利したガンバ戦はガンバがターンオーバーしてくれたおかげでもあるので”運”は収束するのかもしれません。
  • あとは、近藤のプレーを見ていると、浅野をWBで使いたくなる理由がわかってきました。これについてはどこかで説明しようかと思うのですが、ただそれでもコンサのWBは守備負担が大きいので浅野は前がいいとは思いますが。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。

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