2024年5月12日日曜日

2024年5月11日(土)明治安田J1リーグ第13節 川崎フロンターレvs北海道コンサドーレ札幌 〜ライオンは狩りの仕方を忘れない〜

1.ゲームの戦略的論点とポイント

スターティングメンバー:


  • 川崎は試合前の時点で3勝4分5敗の15位と出遅れています。エリソンが出場停止で、代役はゴミスと山田が考えられ、後者の方が起用自体は多い状況。やはりゴミスのスタメンはバランス的に難しいのだと思いますが、この試合はマンマークで守るコンサ相手にゴミスのポストプレーを突破口にしたく賭けに出たのだと思います。一方で山田もポジショニングや動き出しでマンマークを崩す能力は持っているはずなので重要なカードでしょう。
  • 最終ラインは再起をかけるジェジエウが、負傷から復帰後リーグ戦3試合はベンチスタートと慎重な使われ方でしたが、武蔵とマッチアップするこちらも重要な役割を担ってスタメンに復帰しています。高井はU23日本代表から戻って1週間ですが、こちらもコンディションを注視した結果のベンチスタートでしょう。
  • 脇坂、橘田と組む中盤の3人目は遠野が4試合連続のスタメン。山本悠樹はメンバー外、ゼヒカルドはここまでスタメン2試合と新加入選手がイマイチフィットしておらず、今後浮上のためにはキーとなるポジションかもしれません。

  • コンサは3試合連続で同じスタメン。岡村のコンディションは不明ですが、家泉がここ3試合である程度計算できると踏んではいるのでしょう。


チーム力 簡易カルテ(川崎編):

  • 不定期企画です。◎(基本的にはつけない)◯、△、×の4段階評価でリーグ平均を△。ここまでの川崎の印象は、
相手ゴール前のクオリティ:△ マルシーニョの飛び出しが頼み
自陣ゴール前の強度:△〜× 高井の急成長はあるがミドル・ローともブロックは緩め
前進してクリーンな状態を作る能力:× 数年間ずっとそうだが上手くない
相手のクリーンな前進を阻害する能力:△ エリソンのチェイスは嫌だが強度は落ちている
トランジションやゲームのコントロール:△ 平均くらい。押し上げる意識は強い
  • こんな感じです。とにかく前進が上手くないのは以前からの印象で、GKとCBのボールを扱う能力もそうなのですが中盤で受ける選手が全般にターンが上手くない印象です。
  • 前線は一見強力ですがセットした状態で勝負できるウインガーがいないので、マルシーニョがスペースを消されると手詰まり気味になります。

強い風が吹いて欲しいです(笑):

  • もう一つ、この試合の前提条件として、前半の札幌側陣地から川崎側陣地に向かって強い風が吹いていたことを押さえておく必要があります。それは川崎のGK上福元のゴールキックがハーフウェーラインのかなり手前で押し戻されるくらいの強さで、川崎としては前半はロングフィードが使いづらい状況、逆にコンサは小さいモーションでのキックでも飛距離が出るので、福森のようなフィードの達人でなくとも普段なかなかできないプレーもできるかも、といった状況でした。

2.試合展開

川崎の怠惰なpressingとコンサの狙い:

  • コンサがボールを持っている時の様子から振り返ります。
  • GK菅野周辺から始まるプレーの際の初期配置は概ね↓。川崎は、遠野が1列上がってコンサのアンカーを見る1-4-4-1の配置でセットします。トップのゴミスは基本的に右にいて、初期配置ではCB化する荒野を見ることになっています。
  • build-up段階におけるコンサの狙いは、敵陣に侵入して川崎のゴール前で何らか脅威となるアクションを繰り出したい。具体的には、武蔵、浅野、スパチョークのプレー関与もそうなのですけど、好調の青木が得意とするミドルシュートや中央でのプレーに関与できる状況になるとコンサには大きい。
  • さらに言うと、青木が中央に侵入するには、コンサがボールを持っていてかつ青木に特にタスクがない状態が必要なので、そうなるとコンサとしては青木と逆の右サイドにまずボールを展開して押し込んだ状態を作ることが、必然とこの状態でのマイルストーンになります。

  • そしてこの状況…GK菅野とCB家泉が空いている状況は、コンサにとってはイージーという判断になります。菅野は武蔵へのロングフィードではなく、家泉へのパスを選択して川崎の出方を伺います。
  • 川崎はこの際、↓のような出方をするのですが、
  • ゴミスが戦術的なpressingにほぼ全く参加できないことが試合序盤で判明します。スタートは右FWの位置で荒野を見ているのですが、ゴミスはピッチの中央から反対側は全部遠野の担当範囲という認識で、家泉が持ったら遠野に指差し指示をしていました。
  • 遠野が出るとアンカー駒井が空くので、もう一人オープンなGK菅野を経由してコンサは難なく駒井に配球して川崎の1列目を突破することができていました。この時、家泉が持った時にゴミスが中央〜反対サイドまで寄せて家泉→菅野のコースを切れば、家泉は出しどころがなくなって厳しくなるのですが、そこまで寄せるのは俺の仕事じゃないとばかりに不動を貫くゴミスでした。

  • 川崎は両ワイドのマルシーニョや家長が役割を変えて、それまでコンサのSBを見ていたのからCBを見るようにします。
  • しかし例えばマルシーニョが家泉を見るようになったら馬場が空く。そして菅野がこの構図を最後方から把握する能力が毎回冴えていて、馬場や菅、駒井にたびたびパスを成功させて川崎のpressingを空転させます。
  • 「菅が珍しくサイドチェンジ成功していた」とする意見がありましたが、確かに2回ほど菅→近藤のサイドチェンジでコンサが川崎陣内に侵入成功していました。この理由は、①家長が動いて菅がフリーになったところで菅野からフィードを受けて完全にフリーで前を向く、②追い風で小さいモーションでも逆サイドにキックが届く状況で、菅は風の強さを考慮してうまくキックができていた、という2点がいつもとの相違点かもしれません。

  • 右サイドの近藤に展開した後は、近藤(実はドリブラーではない疑惑あり)が佐々木と勝負して勝つというのは稀で、コンサは浅野が下がってボールを引き取ることが多かったと思います。
  • 要するにそこからはあまり狙いがないというか前線アタッカーのアドリブ中心で、基本的にはコンサはクロスボールとそのこぼれ球がシュートチャンスでした。前半、青木と武蔵に1本ずつ惜しいシュートチャンスがありましたが、いずれも枠外でした。繰り返しますが風の影響を考慮すると、この2人だけでなく浅野も含めてミドルシュートはもっと積極的に狙ってもよかったかもしれません。

狩りの準備:

  • 対する川崎がボールを持っているときの話をします。
  • 川崎だけではないですが、JリーグはDFに右利きの選手が多く左利きが少ないこともあり、特に守備側が誘導をしないと右からの展開になることが多いですが、この両者の大戦でも似た理由で、(風で押し戻されると確認した)上福元は、右のジェジエウを最初に選択することが多かったと思います。
  • この際、川崎の配置は↓。ポイントは、①中盤3人のうち橘田と脇坂は下がり気味でボールを引き取ろうとするのに対し、遠野はゴミスの近くまで移動してここでもトップ下のような位置どりからスタートするのと、②マルシーニョは左の大外で張るのですが、コンサは(いつも通り)馬場がボールサイドに絞ったポジショニングをして、かつ(これもいつも通りですが)体の向きもボールサイドに寄ってマルシーニョは死角に入るので、マルシーニョは馬場の背後で常にフリーな状態からスタートします。

  • 脇坂と橘田はボールを引き取ろうとする、としましたが、あまり彼らはコンサのマンツーマンでのマーカーを背負った状態で無理して引き取ろうとはしないのと、実はそこまでターンが上手くない(後方正面からくるボールに対してボディアングルを作らないので180度ターンしがち)のもあってか、川崎としてはこれら中盤の選手を経由して前線のアタッカーに届けるというよりは、逆風下ながら比較的長いフィードを使ってゴミスかマルシーニョに早めにボールを入れる、という選択が多かったです。

  • マルシーニョはシンプルで、基本的に前のスペース、言い換えれば馬場の背後に蹴って走るだけ。コンサは馬場が必死で戻って縦のスペースを消して時間を稼いで、その間に駒井も戻ってきて中を切ってくれれば(遠野のマークは誰かに預けることになります)、ドリブラーというより「スペースに突っ込む人」であるマルシーニョの脅威はかなり低減できます。
  • ただ、全般に馬場はそこまで足が速くない上に攻撃参加の判断がイージーで、マルシーニョがどこにいようと、またコンサのボール周辺の雲行き(例えばボールホルダーの浅野や武蔵のところで失わずにキープできるか)を判断して、セーフティな時にセーフティなところまで攻撃参加する、というよりは簡単にマルシーニョを追い越すので、マルシーニョからするとここまでイージーに裏を狙い放題なチームも二十数年のサッカー人生で経験がなかったのではないでしょうか(ミシャの言い回しを真似してみました)。
  • もっともこれは馬場が悪いというよりは、田中駿汰や中村桐耶が誰かのYouTubeで語っていた感じを聞くと、とにかく前に行っていいぞと監督に言われているようなので、そうした背景によるものなのでしょう。

  • 結果的にはこの馬場の背後は、コンサはGK菅野が一か八かで飛び出すしかなく、前半開始早々にマルシーニョが抜け出した時は菅野が間一髪でボールに触ってクリア(一応VARチェックはするくらいの際どさでした)。しかし3点目は自陣からの長いボールで裏抜け、ではないにせよ、マルシーニョが馬場の背後をとったところを菅野がボックス内で倒してPK。絶対このマッチアップから何か起こるでしょ…と見ていましたが案の定の展開でした。

健闘する家泉と不気味なライオン:

  • 川崎のもう一人の前線の起点であるゴミスと家泉のマッチアップは、コンサの戦術上(相手に対し基本的に全部一人で対応しカバー役も置かない)最も重要なマッチアップ。
  • フランス代表で12キャップを持ち、近年は隠居気味生活気味のキャリアを送っていたとはいえ、ガラタサライやアルヒラルといった今のJリーグからすると相当なクオリティのチームでエースを張っていたゴミスと、去年までいわきFCでプレーしていた家泉のマッチアップは普通に考えれば90分間抑えるのは無理でしょう。
  • しかし前半開始から最初のゴールが決まる30分くらいまでは、ゴミスに対し家泉は善戦していたと思います。

  • 川崎のpressingにおいて、ゴミスは走って捕まえるタスクをほぼ遠野に命じていたので川崎はコンサ相手にpressingがはまらなかった、と先に書いた通りですが、川崎ボールの時もゴミスはほとんど動かず、最初に自分でボールを受けるポイントを決めたら、そこで腰を落として家泉を背中とお尻でブロックしてポストプレーができる体勢を早めに作ります

  • 家泉が直近2戦でマッチアップしたFW…セレッソのレオセアラとFC東京のディエゴオリヴェイラでいうと、レオセアラも家泉相手に身体を張ってポストプレーで起点を作ろうとしていたしそこからゴールも生まれていますが、家泉は前から来るボールには強いので、結構家泉が勝つ場面も多かったです。
  • そしてセレッソの場合は、フィード役がGKのキムジンヒョンで家泉&レオとはかなり距離があり、かつ家泉の正面にいるので、ジンヒョンがフィードの体勢に入ってからレオが動き出して家泉がそれをみて対処、というやり方でも、家泉はボールとレオを視界に入れながらプレーできるので、フィジカル的に完全に劣位でなければある程度は対応できる。レオはわざとサイドにいて中央のスペースを開けるとか、レオ自身がサイドから中央に斜めに走って裏抜けを狙うとか家泉に対して色々と工夫をしてきましたが、家泉はなんとかついていける状況ではありましたしその能力はあると示したと思います。
  • FC東京はもっとカウンターに寄ったチームなので、ディエゴはポストプレーというかは低い位置から前を向いてカウンターの展開に関与することが多かったでしょうか。

  • という感じで、レオセアラは家泉を背負う以外にもパターンがありましたがゴミスはこの試合、ほとんどボジションを移動せずひたすら家泉を背負ってポストプレーを狙います(ずっと歩いてました。もしかしてスプリントゼロでは?と思っていましたが61分間で2回計測されたようです)
  • かつゴミスは家泉と比較しても、見るからに身体が分厚くて簡単に動かない様子で、そのゴミスが背中とお尻でゴリゴリ押してくる状況下で、家泉はゴミスにかなり密着して背中とお尻の圧力にパワーで押し負けないよう対抗します。ここまでして、パワーでは互角くらいだったのでしょうか。30分まではゴミスに前を向かせなかったので、家泉は仕事をしてくれたということになります。

  • この様子を見ての、15分くらいの私の感想が↓

  • だったのですが、簡単に言うと相手に密着して前方向にパワーと重心をかなりかけているので、反転されたら一発で置いてかれると感じたんですよね。素人の柔道みたいな状態だなとも思ったのですが、

  • あとはセレッソ戦の後もこんなやりとり↓があって、 

  • 前には強い(福森も同じ)のは見せましたが、横や背後の揺さぶりにはどうか、という状況でした。

  • そんな家泉に対し、試合開始からひたすら背負ってパワー勝負だけで、かつほとんど動かないゴミスは、(彼のキャリアや能力を考えると)絶対他のオプションがあるのにそれを見せないという意味で非常に不気味で、なんとかやり過ごしてほしいと見ていたのですが…

衰えないライオンの本能:

  • 30分に初めて「背負う」以外のオプション、反転してシュートを見せます。

  • この時は家泉が、それまで以上にゴミスに密着して後方から手を使って抱きつくような体勢になっていたのですが、反転する直前は家泉の顔がゴミスの背中の上、首くらいにあって全然視界確保できなくなってしまっていました。
  • なので、ボールが見えない家泉に対し、フットサルでよく使うプレーですが足裏で右に一度ボールをずらして、そこで家泉がゴミスの身体の右から覗き込むようにして(あれ?ボールどこ?と)バランスを崩したところで、その重心変化を待っていたゴミスがこれもフットサルでよくやる小さい回転軸の反転からのシュート、という場面でした。

  • このオプションを見せられて家泉としては、ゴミスに前方向の圧力をかけ続ける、ずっと密着し続けるといったそれまでの対応が難しくなったと思います。
  • 43分の2点目も同じくポストプレー、というか遠野とゴミスの見事なワンタッチプレーから。
  • これも非常にフットサルっぽい、ポストプレーに出し手が寄ってリターンをもらうプレーなのですが、コンサの対応は荒野や駒井が出し手(遠野)の動きとボールに遅れてついていくだけで、みんな人を見ていて誰もスペースを見ていないんですよね。まぁこれもいつものことだしそもそも守備練習していないので突っ込んだら負け感ありますが…
  • 極端にマンマーク主体のコンサの対応は確かにフットサルっぽいので、こういうプレーは非常に有効なのはよくわかりますが、それにしても川崎がそこまで考えていたとしたら見事だと思います。

  • あとは、コンサはDFが各自で相手を見てポジショニングするので、オフサイドトラップやラインを押し上げて対応するというのが非常に難しいんですよね。ゴミスが全然動かないなら家泉はラインを押し上げるという選択もありましたがそれができないのは、そもそもそういうライン管理みたいなのを想定していないし練習もしていないから。
  • 一応前からpressingというかそれのもどき、みたいなことをするなら、高いラインを敷いて押し上げてスペースを奪うというのはセットでもいい気もするんですが。まぁ今はそこまでpressingらしきものもしませんからね…

  • 後半はそこまで面白い展開がなかったので割愛いたします。

雑感

  • 川崎はボールを持っていない時のpressingも適当、コンサの選手が簡単に前を向ける割にラインコントロールも適当、という感じだったので、その適当さが放置されていてかつ風上という条件が揃っていた前半のうちにゴールが欲しかったですし、そのためのアクションがもう少し量的にも質的にも伴わないと厳しかったと思います。
  • コンサは武蔵が相変わらずポストプレーでいっぱいいっぱい(しかしチームで最も重要な役割の一つ)で、往年の裏抜けからのシュートが鳴りを潜めている中で、近藤が右から斜めに走る動きで2~3度ほどチャンスがありました。彼もドリブルで打開して決定機を作る、という感じではなくてスペースに走る方が得意だとしたら、そこはより連携が向上して味方が特徴を理解するとなんとか上向いてくれるかもしれません。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。

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