2023年7月3日月曜日

2023年7月1日(土)明治安田生命J1リーグ第19節 ヴィッセル神戸vs北海道コンサドーレ札幌 〜しあわせってなんだっけ〜

1.ゲームの戦略的論点とポイント

スターティングメンバー



  • イニエスタのJリーグでのラストゲームということで先発起用はわかるとして、ここまで全試合に先発し前線で絶対的なクオリティを見せている大迫をベンチスタートしたのは予想外でしたし、札幌にはかなりラッキーだろうな、というのがスタメン発表時の感想でした。武藤をトップに置いて、その下にイニエスタとしたのは、おそらくイニエスタは全くディフェンスの頭数としてほぼ全てのシチュエーションで計算できないので、その分多く走れそうなのは大迫よりも武藤だから、もしくは大迫を「イニエスタを使わなくていいシチュエーションのために温存したかったから」ということでしょう。
  • その武藤はリーグ戦1試合(札幌ドームでの札幌戦)を除くと全ての試合で右ウイングで先発しており、大迫がDFを背負って武藤が前を向く余地を作ってから中央に突っ込むのがここまでの神戸の生命線になっている。
  • この武藤の枠に収まるのは佐々木かと思っていましたが、ジェアンパトリッキを選択。札幌相手だと互いに局面で少ない枚数同士での攻防を予想しているとしたら、特定のシチュエーションだとより個人で突っ込めるパトリッキのチョイスは納得できます。なおカップ戦ではウイングを置かない3バックも試しているようで、それは相手との噛み合わせだけでなくウイングのバックアップの不足も影響していると思います。
  • 札幌は(私はあんまり考えてなかったけど)普通に考えたらイニエスタが出てくるのは予想が難しくなく、彼とマッチアップする選手としてここ数試合使われていた中村ではなく宮澤を選択したのは、そのあたりのイニエスタ起用による不確実性(どんだけ衰えてもボールを持って前を向いたらどんなクオリティが発揮されるか覚悟はしておく必要がある)に対処するのはキャプテンだと考えたのでしょうか。

2.試合展開

55分間のセレモニー:

  • 今のJリーグはピッチの後ろから前に一気にボールをかっ飛ばして、その相手からもボールがかっ飛ばされてくるみたいな試合が大半を占めていると感じます。そんなの前からじゃん、って言われるとそうかもしれないですけど、どっちかというと近年はボールを収めたりスペースを創出したり相手を引きつけたりすることができる選手が軒並みヨーロッパのクラブに買われて、一方でプレッシング自体は色々なやり方が開発されているので、数年前よりもJリーグでボールを保持するスタイルで戦うことはさらに難しくなったように思えます。
  • そんなリーグなので鹿島がなんだかんだ上位に来るのは想像できますし、神戸に関していうとCBとGKは微妙なところですけど、最強の9番である大迫の存在は、ボールを後ろから前に押し付け合うJリーグにおいては、いうまでもなくかなりのアドバンテージになる。そういうサッカー、試合展開だからこそ、イニエスタではなく橋本拳人だったり、齊藤未月だったり、要するに中央でボールを拾ったり個人でボールを奪える選手が重宝されるのは神戸以外のクラブを含めて今のJリーグでは必然なのでしょう。

  • その大迫が不在なので、神戸は他の選手にボールを押し付けて何とかしてもらうか、それかコンサにボールを持たせた状態から(なるべく高い位置で)ボールを奪って、札幌のDFが整う前に攻撃を完了するのが普通に考えれば解決策になる。
  • 前者に関していうと、武藤でそれができるかは一応試していた感じはします。が、フトチャンの元川えっちゃん氏の記事↓にある通り、武藤はその仕事に結構苦戦していて、岡村を背負った状態で結構神戸陣地側に下がってというか、岡村の圧力によって押し戻されながらプレーしていましたし、そんなにボールが収まらなかったと思います。

  • 一応、下がったりサイドに流れる武藤に岡村がついていくと、コンサのDF中央はガラ空きになる。41分に武藤のスルーパスに汰木が抜け出して中央のパトリッキにクロス…みたいなシチュエーションはコンサのマンマーク主体の対応を逆手に取ったような感じもしなくはないですが、全体を通して見た感じでは武藤はそれを意識していたわけではなかったと思います。だから大迫の役割を期待された武藤でしたが、大迫の代わりは誰もできないということで、神戸はここをどうにかしないと(単刀直入にいうとイニエスタのセレモニーをやめて大迫を投入しないと)どうしようもない感じではありました。


  • じゃあ神戸がイニエスタのセレモニーをやってくれている分にコンサは押しまくっていたか?というとそんなことはなかったです。
  • 神戸よりはコンサの方がボールを持つ気があるのと、CBに対するマンマークでの対応の徹底具合の関係でコンサの方が後ろではボールを持って何かできるか探るシチュエーションは多かったと思います。
  • ↓の再現性あるGKからの展開だと、神戸はコンサの3枚のところを武藤1人で頑張っていて、それでもコンサは3対1の関係性を活かせなくてボールを失ったりもしたけど、たまに菅野の浮き玉パスなどで田中駿汰にボールを逃して、駿汰が前を向くことはあった。


  • その駿汰から金子に渡って、金子がドリブルで神戸DFに突っ込むのもありました。ただコンサは逆足配置の選手がカットインや切り返しから、ボックスのやや外暗いからシュートアングルを作ることはできていた(ルーカスや浅野も含め)けども、結局ゴール前で相手のDFとGKを動かして攻略するのはそのドリブルの個人技が封じられる難しく、最終的にはコンサはとりあえず放り込むといった形でリソースを消化していました。
  • もっとも神戸のGK前川のクロス対応が全体的に怪しくて、最近前川のプレーをちゃんと見ていなかったのでこんな選手だったかは覚えていないのですが、かなりクロスボールに対してアグレッシブに出るのですけどパンチングとしては中途半端なのは序盤から気になっていて、コンサの適当な放り込みでも何か起きそうな予感はなくはなかった。
  • 結局スパチョークの先制点も、前川の半端なパンチングから生まれます。

  • それ以外だと、「セレモニー」の時間帯でチャンスを作っていたのは神戸のパトリッキ。前を向くと速さと強さのある彼に対して、菅も弱くないはず(というか他の選手よりも強いから使われているはず)なのですが、前半2度パトリッキが菅とのデュエルを制したり、入れ替わることに成功して前を向いてゴールに突っ込むまでは成功しました。いずれも菅野のセーブでゴールは割れませんでしたが十分に仕事はできたと言えるでしょう。
  • ただ、「蹴って拾ってすぐに相手ゴールに向かう」展開が徐々に落ち着いて、パトリッキの前にスペースがない状態でボールを受けると、彼のウィークポイントというかボールを持っている時にはそんなに仕掛けるクオリティがないことが露見されて、彼の突破を頼りにしていた神戸はやや膠着します。


セレモニー後:

  • 後半開始から神戸は汰木を下げて大迫を投入。武藤が右、パトリッキが左に回ります。この辺りが神戸の監督として常に難しいところですね。45分でイニエスタを下げるとスタンディングオベーションしてもらえないので、まだセレモニーは続ける必要がある。けど流石にこの展開で時間を浪費したくない。折衷案で汰木を下げたのでしょう。
  • ただ汰木とパトリッキなら、先述のようにパトリッキはややバレてる感があったので、個人的には前者を残した方が良かったように思えます。
  • 札幌ドームでの対戦でもそうでしたが、大迫は簡単に下がらないし、岡村と五分以上に戦うことができるので、大迫への放り込みによって、それを簡単にクリアすることが難しくなったコンサは少しずつ後退を余儀なくされます。これは予想通りだったとは思いますが、コンサは選手交代でなんか手を打てるかというと決定的な手がないのが厳しいところです。

  • 公式記録では57分にイニエスタを下げて佐々木。大迫はポストプレー(というビルドアップにおける仕事の一種)の比重が大きいので、クロスボールなどでフィニッシュするにはもう少し前線に顔を出せる選手が欲しい。佐々木はそうした仕事ができるので適任でした。パトリッキはクロスボールを上げるのも飛び込むのもあまり上手くなさそうなので、SBの攻撃参加がないなら武藤だけでは厳しいです。ただ73分の武藤のクロス→大迫のヘッドのように、場合によっては大迫がポストプレーだけでなくてそのままフィニッシュにも絡んでくるので少ない枚数でも攻撃を完結する能力もあります。
  • 札幌は「セレモニー」が終わったのを見て60分に宮澤→中村。一気にゲームのスピードが上がることを見越して、こちらもプレースピードに難のある選手を下げる。オープンな展開になりそうだな、と見ていましたが、中村は64分に攻撃参加から浅野へのラストパスで決定機を作ります。この浅野のシュートは本多の手に当たりましたがPKなしの判定。これは「手が不自然な位置」にあったのでPKだと思いましたがスルーでした。
  • あとは特に語るようなプレーはないまま85分にセットプレーから神戸が追いついて終了。

雑感

  • ゲームに関していうと、大迫が45分しか出なくてラッキーでした。あとは、コンサのビルドアップの問題(小さい選手しか前線にいないのに放り込んでるだけ)は、いいとして、それでもたまにチャンスが到来した時に、誰がシュートを打つのかはもう少し詰めが必要な気もします。この試合だと、左サイドに右利き、右サイドに左利きの選手が並んでいて、誰が持っても逆足でシュートを狙えるシチュエーションにはなる。特に右の金子のドリブルからルーカスがフリーになるのは何度かあって、狙い目に見えましたがあまりシュートの準備ができていないのは気になりました。
  • 試合以外の話で言うと、Jリーグの価値をどう向上させるか?という観点でイニエスタだったり引退したトーレスだったりの移籍を捉えると、マーケティングや興味喚起の観点ではイニエスタは絶対必要なんですけど、プレーに関してはロートル化したイニエスタを起用して勝てるチームを作るのはかなり難しい気がします。マイアミにメッシ、ブスケツ、イニエスタ、ジョルディ・アルバが集結しても難しいのではないでしょうか。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。

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