2020年7月19日日曜日

2020年7月18日(土)明治安田生命J1リーグ第5節 ベガルタ仙台vs北海道コンサドーレ札幌 ~Stupid one~

0.スターティングメンバー

スターティングメンバー&試合結果

  • 両チームとも予想外の選手が1人ずつスタメンに名を連ねました。仙台は松下ではなく道渕、札幌はジェイではなくドゥグラス オリベイラ。松下は負傷だったのかもしれません。




1.両監督の頭の中を考察


  • スタメンから察すると、札幌は武蔵不在によりスコアレスドローに終わった前節の反省を踏まえてのドゥグラスの先発起用だったと予想します。詳しくは前節の記事で書いたため割愛しますが、”ゴールに背を向けてプレーする選手”ジェイはゲームを作ってくれますが、得点するためにはゴールに向かってプレーする選手が欲しいところです。スカッドの中で期待できそうなのはドゥグラスだとして、トップができる選手を1人ベンチに置いておきたい等の理由からジェイと入れ替えたのだと思います。他には、仙台相手に駒井とチャナティップがいれば、問題なくボールは収まる、回ると考えたのでしょう。
  • 仙台は基本的はファストブレイク狙いだったと予想します。松下はボールを引き出し、動かす選手ですが、道渕はファストブレイクの際にボックス周辺まで進出できる走力とミドルシュートを持っています。ジャーメインとのコンビで、スピードに難のある札幌の左のユニットを突くとしたら理にかなった選択でした。

2.基本構造

2.1 先制攻撃

  • 荒野が退場し、パワーバランスが大きく変わる32分までの展開です。正直なところ、事前に予想した展開ほぼそのままだったのであまり詳しくは書きません(仕事が立て込んでいることも理由です)。
  • 仙台の対応はやはり↓の形で、序盤は道渕を前に出して枚数を揃えてのプレスを狙います。しかし、前に出ている2人…深井への道渕、福森へのジャーメインの強度が足りないというか、福森はボールを蹴れますし、深井と道渕は最初のポジショニングの時点で距離があります。めんどくさいので図は省きますが道渕は関口と並ぶ2列目からスタートするためです。
仙台ははめようとするが微妙にかみ合わないのでチャナティップがフリーの問題が露見
  • なので、仙台は札幌のキーとなる左サイドである程度余裕をもってボールを持たせていましたし、チャナティップは道渕の背後でフリー、しかも仙台はここへの解決策が特に見当たりませんでした。
  • 1人で決定機を創出できるパスとドリブルを繰り出す、札幌のスーパースターにボールが渡ると、仙台は撤退を余儀なくされます。
  • この後の展開も「まぁそうだろうな」というもので、仙台は枚数をかけてゴール前に撤退。特にジャーメインがかなり献身的に頑張ります。札幌はトップの長沢の周囲でボールを持てるので、ここを起点にボールを動かしながら、監視が相変わらず甘めの福森に判断を委ねます
※色を変えてみた 長沢の脇を起点に札幌がポゼッション

  • 同じ話ばかりしてもつまらないので1枚絵を書きます。左サイドで思った以上にボールを持てたということで、完全に左で作って右で仕留めようとの共通理解がチームにありました。16分には進藤がチャナティップの斜めのパスに飛び出して惜しい場面を作りますが、こうした長い距離を人もボールも移動するプレーの発動には共通理解が欠かせません。仙台の対応は、札幌の選手たちに「このタイミングでボール出てくるだろ」を感じさせる、緩めのものでした。

左からの展開に右の選手が飛び出す

2.2 真夏の頑張りモード


  • そして保持/非保持の関係を入れ替えると、仙台がやりたいはずのプレーを札幌が繰り出していました。高い位置から全員が1人ずつをマークを決めて、マーク対象にボールが入りそうならプレスをかけます。
  • というか、ドゥグラスを少し下げて椎橋につければ簡単にこのマッチアップが成立するので、仙台はもう少し動いても良かったと思うのですが、

マンマークで前から行くで(5か月ぶり)

  • 仙台はGKの18歳・小畑をかなり信用しているようで、まず小畑に蹴らせるところから始まることが多かったです。選択は主に3つで、SBのどちらか、トップの長沢、そして右で張るジャーメインでした。サイズで優位な長沢へのフィードが一番成功していたように思えますが、他はイマイチでした。特に、SBへのフィードは札幌のWBが突っ込んでくると簡単にはまるので、札幌にとってはありがたい展開だったと思います。

SBへのフィードは札幌が刈り取る

3.2つの想定外


  • という感じで両チームの展開はだいたい予想通りで、札幌はもっと体力温存かと思いきやマッチアップを活かして前から奪いに出てきたのだけが予想外でした。
  • 24分のジャーメインの得点も、このカウンターが発動してジャーメインがシュートモーションに入る瞬間まではだいたい予想通りです。何度も書いている通り、札幌は左サイドに長い距離の競争になると不利な選手配置をしている(年功序列的に一番立場が弱い菅は非常にも毎試合走らされますが、ミシャチームのWBはボール喪失時には最前線にいます)ので、相手の右サイドに速い選手がいると毎回被カウンターの脅威にさらされます。
  • そしてジャーメインはオーバメヤンっぽい風貌ですし足が速いです。どうなるかは誰もが予想できます。仙台は中盤が全員右利きなので、ジャーメインに展開するのは容易です。この得点シーンも右足で斜め右側に持ち出してからのパスでした。
  • 唯一予想外だったのは、ジャーメインがワンチャンスを決めたことです。筆者の印象では、失礼ながら3,4回くらいのチャンスで1本をたまに決めるタイプの選手だと思っていただけに、この全力スプリントからのシュートが巧く力を抜けて、菅野が届かないサイドネットに100点満点で流し込んだのは予想外でした。
  • そして32分には荒野が関口を接触プレーから蹴飛ばし、南の島での休暇に入ります。数分間、札幌は試行錯誤がありますが、以下の形に落ち着きます。特段語る話ではないですが、駒井とチャナティップのどちらもを下げず、深井1人で中央を見る形でした。

32分~

  • 同数で対応していたのが1人減る格好となります。どこを捨てたかと言うと、仙台のCB2人のところで、ここはドゥグラス1人で頑張ってくれ、として後方の枚数を確保します。
  • まずは0-1の折り返しでいいよ、というスタンスでしたが、46分に道渕とジャーメインが立て続けに枠外からミドルシュート。菅野が好セーブで何とか救われます。もっとも、1本は菅野のフィードからでしたが。

トップを捨てて一旦引く

  • 仙台の選手はこの時のピッチの状況は見えていました。CBが運んで、札幌のWBが出てきたところでSBにスイッチ。蜂須賀と石原から簡単に札幌陣内に入れるようになります。

SBのところから簡単に侵入
  • 札幌は36分に前線守備からスーパースター・チャナティップがボール奪取、DFを引きつけてドゥグラスにラストパスを出しますが、プレッシャーを受けてのシュートは中山元気選手の2006年@函館のシュートの半分くらいの角度で飛び枠外でした。

4.17 Lions


  • 前半を耐えた札幌がまず動きます。恐らく予定通りの深井→田中に加え、白井→ルーカス。深井は膝の負担もありますし、前半の荒野の乱をなだめてガッツを消費していました。
  • 幾つかポイントがありますが、まずドゥグラスを残したこと。数的不利になったことであらゆる局面で走ってほしい。ドゥグラスはその点では計算が立ちますし、特に後半どのような展開になるかわからない中で、ロングカウンターができる(私に言わせると”できそう”なのですが、練習で見ているミシャは任せられると思ったのでしょう)ドゥグラスはまだ残した方がいい。
  • そしてルーカスの投入も早めで、この決断がスコアを左右しました。
  • 最後に駒井の位置を再び前に出します。追いつくためにはどこかでボールを回収しないといけないので、リスクを冒すときだとの判断でした。

46分~

  • 仙台は前半のラスト15分と同じようにボールを保持しようと試みますが、札幌の形は微妙に変わっており、前3枚…ドゥグラス、チャナティップ、駒井で小畑から一番近い仙台の選手を捕まえます。
  • この時、誰がフリーになっているかと言うと仙台のインサイドハーフ2人で、特に道渕が味方を助けるために落ちていたと思います。

前3枚にしてプレスの準備だが田中の周囲に2人

  • 田中が最初に”勇気”を見せます。中央1人しかいないので、田中が出るとがっつりスペースが空いてしまいますが、それでも行くしかないと割り切って道渕を捕まえます。田中はこのリスクを勿論わかっている選手なので、この判断とアクションができることは非常に重要ですし、ミシャもそうした状況判断力も含めて買っているのだと思います。
  • ただ、仙台はこの時GK小畑にバックパスしてやり直せばいいですし、そうするとドゥグラスが小畑を追っても、椎橋が空いたり、まだ余っている関口も落ちてくるなどして結果的に仙台が前に運ぶことができていました。(面倒なので図は割愛)

邪念を捨てて突っ込む駿汰

  • 後半の開始数分で特段やり方を変えた、とは考えにくい(そんなに臨機応変に動くのは多分無理)ですが、札幌は仙台に対してハマりにくいと見ると、以下のように対抗していたと思います。
  • 11人揃っている時は、ミシャの理想通りというかピッチの全域で相手がボールを保持している時にプレスをかけますが、この局面では明らかにピッチの横半分を捨てます。そのために、トップのドゥグラスがまず仙台のCBがボールを運んでくるまで我慢して、どちらか一方のDFのみがボールに関与できるようにワンサイドカット。ボールサイドを限定させれば、数的不利でも枚数…枚数が揃っていれば密度と強度が確保できるので、そこでの頑張りでボールを奪える、という算段でした。
  • 下の図で言うと、ジャーメインに展開されると1発で仙台はチャンスですが、そうすると頑張って戻る、で割り切って、点を取るためのアグレッシブな守備を仕掛けます。失点したくないなら、ゴール前に撤退すればいいですが、そうなるとジェイもいないので、ボールを跳ね返しても二次攻撃に繋げにくいためです。

反対サイドは捨てて刈り取る守備に全力
  • 札幌は「奪ってカウンターできそうなところ」以外は基本的に捨てます。後半早々の長沢のヘッドは菅野のビッグセーブで逃れましたが、これも11人の時であれば、クロスを上げた関口も、ターゲットの長沢もしっかりマークしていました。

5.One more…


  • 仙台は57分に赤﨑と田中が入るので入れ替えておきます。
  • 札幌のボール保持時も田中がキーになっていました。通常1-4-1-5…最終ラインを4枚にしてプレーしますが、田中は安易に最終ラインに落ちず、特に福森や宮澤と距離をとることで、仙台の監視を2手に分散させます。というのは、田中が最終ラインに落ちると札幌の中盤底には誰もいないので、仙台は一気に人を前に出してプレスをかける判断がしやすくなります。宮澤や福森がいくらボールを持てるといっても、メッシとイニエスタ以外の全てのサッカー選手はプレーするのにスペースが必要ですので、「味方と離れたポジションに立つこと」は結果的に見かたを助けることになります。

田中は簡単に下がらず中央で我慢

  • 仙台はここで札幌の3バックに同数でプレスをしていたら、札幌としてはかなり嫌だった(繋げないので、ジェイ投入が早まったかもしれません)はずですが、そうならなかったのは田中の存在と、単に仙台が様子見をしていた、というところかと思います。
  • 痛恨だったのは60分、福森が安易なパスを拾われて椎橋のミドルシュートで2点目を失ったことです。荒野もそうですが、10年のプロ経験がある選手の判断としては残念だったと思います。
  • しかし札幌には切り札のルーカスがいました。仙台は終始SBがスタート当初はスペースを塞ぎ、札幌WBにボールが出てから寄せる対応をします。菅にはそれで十分でしたが、ルーカスには不十分で、62分のチャナティップの得点は「ルーカスにサイドでスペースを与えるとどうなるか?」を端的に示していたと思います。普段ルーカスはもっとスペースがない状況からの仕掛けを担うので、フィニッシュ(クロス)も小さいモーションから繰り出されますが、このときはベッカムのような左手を存分に使ったモーションからのクロスでした。この後もルーカスの仕掛けは何度か陣地を押し返す要因となり、また福森を下げた後、ATの同点ゴールもルーカスのCKからでした。

雑感

  • いくつか想定外はありましたが、確実に言えるのは札幌は「どんなサッカーをしたいのか」は一貫して表現していました。特にドゥグラス(パウロンフェホの系譜とか言ってごめん反省してないけど)は意外にも?戦術理解度が高く、アンロペが成田近郊で未だビルドアップしている状況では貴重な戦力となりうることを示したと思います。
  • ミシャは自軍の選手が何人になっても必ずウイングだけは削りません。後半は、陣地争奪戦であるサッカーにおいて横幅を作るウイングの重要性とそのクオリティの差が現れた展開だったと思います。

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