2020年7月5日日曜日

2020年7月4日(土)明治安田生命J1リーグ第2節 横浜FCvs北海道コンサドーレ札幌 ~リアリズムへの不時着~

0.スターティングメンバー

メンバー&試合結果
  • 横浜はいつもと違う3バック+3センター。メンバーは最終ラインに若手2人、中央に田代。印象としては、札幌の前線に対し1on1で強く当たれる選手をセレクトしたように思いましたが、試合を見てから判明したのは、特に右CBの星が重要でした。中央は手塚ではなく瀬古。これも、よりゲームをオープンにしないための、バランスをとるための用兵に感じられます。
  • そして、中山ではなく松浦。これは意外というか、札幌相手には必ず前線に大きなスペースができます。なので、そのスペースを有効活用できる運動能力が高い選手を起用すると思いましたが、この松浦が星と並び、横浜の戦い方のキーマンでした。
  • 札幌は日刊スポーツ保坂記者の予想に反し、右サイドに駒井ではなく白井でした。もっとも、白井はメッシなので特に驚きはありません。また、公開されている情報から、ドグちんことドウグラスはまずまずフィットしつつあるように思えたので、アンロペ不在のこのゲームでベンチ入りもありかと思いましたが、すぐ4日後に鹿島でのゲームが控えていることもあり、温存するのも理解できます。また、ドウグラスは使われ方から察すると、トップでDFを背負ってプレーするよりも前を向いたプレーに特徴があるタイプなのではないかと予想していますフェジョン作りが上手そうな雰囲気ですね)。結果的には、札幌は深井は早めに温存したものの、3つの交代枠は終盤にまとめて起用であまり体力温存の意図は感じられず、特にジェイと武蔵を両方ともフル出場させたのは少し意外でした。

1.両監督の頭の中を予想する

1.1 下平監督の頭の中

  • 横浜から見ると、札幌は前線に能力が高い選手がおり、それらの選手にボールを届ける術も備えています。また、セットプレーでも優秀なキッカーと信頼のできるターゲットがおり、前線の選手は速攻(スペースがある状態)でも遅攻でも対応できるクオリティがあります。
  • ですので、普通に組み合うと、GKやDFに能力が高い選手がいないとゴールを守るという観点では難しいはずです。なので、下平監督としては札幌に全て好きにやらせるのではなく、札幌が得意な攻撃のシチュエーションのいくつかのうち、スペースがある状態で発動する攻撃(最も典型的なものは、チャナティップが前を向いて、裏に走る武蔵へのパス)の脅威を消したかったのだと思います。
  • 一方でボールを保持した時には、開幕戦で「ハイプレス」をやっていた札幌はどんどん前から人を捕まえてくる、言い換えれば簡単に食いついてくるのは陣営の誰もが思っていたはずです。そしてその仕組みは非常にシンプルで、基本的には人を決めて1人ずつ捕まえていくというもの。横浜はこの原理というか札幌の習性?を巧く利用すれば、札幌のマークをずらして前線にフリーな選手を作れる、ということは、4か月半でしっかり準備してきたと感じます。

1.2 ミシャの頭の中

  • 試合後のミシャのコメントは「(タフな日程もあり)ボールを保持してプレーしたかった」と至って普通でした。普通というのは、「人ではなく主体的にボールを動かす」というのはサッカーの世界ではごく普遍的な、それこそ静岡県民がさわやかを好きのような常識的な話で、(高地で空気が薄く走れないとされる)エクアドルでのアウェイゲームを戦う南米のナショナルチームは常にそのような戦い方を採用しています。また、ミシャという監督がボールを保持するプレーを好むことも知られているので、特段これについては掘り下げることなく、「いつも通りのサッカーをしたかった」でまとめられます。

2.基本構造

2.1 札幌の習性を利用する横浜

  • 横浜が採用した[1-3-1-4-2]というシステムには、先述の、札幌の攻撃の選手の周辺にできるスペースを消したかったということ以外にも、ボールを保持して攻撃していくシチュエーションでも狙いが見られました。多少のコストは生じるにせよ、例えば守備(ボール非保持)の時は3バックで攻撃(ボール保持)の時は4バックに変えるやり方もあったと思いますが、横浜はボール保持の際も基本的には[1-3-1-4-2]でプレーしました。
  • 1枚絵で示すと下記のような構図になります。
横浜の基本形
  • 横浜は図の青いスクエアで示されたスペースから攻撃を開始していたように思えます。この時、札幌の中盤センター2枚の左を担当することが多い深井を動かすと、札幌はこのスペースに入ってくる横浜の選手を守ることが難しくなるので、ここから横浜は前半、何度か攻撃の形を作れていました。
  • 前線から逆算して見ていくと、横浜は2トップで、札幌はCB3枚の3バックで対処します。この3枚は、横浜の2トップを見る以外の仕事をしづらい状況にありました。なぜならば、前半16分の一美の得点シーンは典型ですが、一般にサッカーにおいてはボール保持側が非保持側よりも優位だとされており、2on2のような同数だとコンビネーションプレーで突破されてしまう余地は非常に大きい。この16分の場面では、FW斉藤が引く動きで進藤を引っ張り、斉藤に宮澤も釣られてしまった状況で一美と福森が1on1の状況で、福森が一美の対処に失敗してGKとの1on1というビッグチャンスが生まれました。これは札幌の3枚のDFのエラーによるところが大きいですが、セオリーとしては、2トップに対してはカバー役の選手を1人確保できる3人のDFで対応することが望ましいとされています。
  • 加えて、横浜は中盤が3人で、インサイドハーフの松浦や瀬古が飛び出してきた時にも備えておく(人を余らせておく)必要があります。
  • そして、アウトサイドを守る菅と白井は、それぞれマギーニョと志知をほぼ固定的に守ります。
  • となると、必然と中央は荒野と深井の2人で対処せざるを得ません。ここで、図の破線のように松浦が走ると、札幌は構造上最終ラインの5人は捕まえられないので、深井は危険を察知して松浦を捕まえる判断をしていました。これによって深井のオリジナルポジション周辺(青いスクエア)が空き、横浜は活用できる状況が生じますが、仮に深井が動かなければ、横浜は走っている松浦に展開するという、二択を強いることができる状況でした。
  • このように、青いスクエアまで到達できれば横浜はチャンスになります。青いスクエアまでボールを運ぶ役割を担っていたのが、プロ初出場のDF星でした。ここで、札幌の3トップ(ジェイ、チャナティップ、武蔵)と、横浜の3バック+GK六反の関係性がクローズアップされます。
  • ここでの横浜のミッションは、星をフリーにする(プレッシャーを受けることなくボールを扱える時間を数秒間、創出する)ことです。札幌は同数関係を活かして、横浜の3バックに1人ずつマンマーク的な対応で対抗します。同数だと攻撃側、というか、リスクを冒せる側が優位です。しかし横浜にはGK六反がおり、六反がボールを扱うことで4on3の数的優位関係になれます。対する札幌は、中央のジェイが時折、本来の担当であるCB田代を”捨てて”、六反がボールを持っている時に距離を詰めて圧力をかけることができます。「常にフリー」の選手がおり、その選手がボールに関与できる状況がある限りは、プレスが成功する見込みは0%であるためです。
  • 横浜のジェイ対策は、CBの田代が高めのポジションを取り…つまり六反と離れます。そうすると、「最初田代を見て、六反がボールを扱う状況になると田代から六反にマークをスイッチ」するジェイは、六反から離れたポジショニングにならざるを得ないので、ジェイが田代と六反の2人をマークする札幌の思惑は難しくなります
  • 札幌は計算が崩れます。この、思い通りにいかない時(ジェイの対応はまさに札幌の”スイッチ”なので、出だしから躓いているともいえますが)、2つの対処法が考えられます。①「ハイプレス」をやめる。②別の手段で「ハイプレス」を継続。ここで、札幌は②を選択します。ジェイの代わりに、チャナティップか武蔵が、GK六反がボールを保持した時に寄せる役割に変わります。これが札幌の「習性」で、とにかく1人ずつ、ボールを保持した相手選手を捕まえていくことを、敵陣では優先する戦い方をミシャは指南しています。
  • 話を戻すと、横浜は星をフリーにしたい。チャナティップを星から引き剥がすことが必要。なので、横浜は六反と星でパス交換をして、チャナティップが六反の方に寄ったタイミングで星がボールを持ち運びます。これで、横浜は使いたい(攻撃の起点としたい)青いスクエアに到達します。そのタイミングで、FWの一美が降りてきてボールを収めます。
  • これ以外では、マギーニョを経由したり、浮きやすいポジションのアンカー佐藤を使って青いスクエア付近に侵入していました。形や、関与する選手はそれぞれ異なるとしても、松浦が動けば(深井が動いて)必ず横浜はスペースを享受できる構図でしたので、共通した狙いでプレーしていたと言えます。また、GK六反はセーフティな選択も織り交ぜていたというか、フィードに自信があることもあってか、星から攻撃を開始せず、FWに低い弾道のフィードを蹴る選択をすることも、それなりの頻度で見られました。

2.2 優先順位と対応力

  • 「1.1」で幾分か言及しましたが、横浜は札幌の前線の選手に対し、スペースを与えないために、守備時は[1-5-3-2]という陣形(陣形は局面で絶えず変化するものですが、このシステムは3人のDFと3人のセントラルMFを確保できます)で中央を厚くして対抗します。
  • 特に、ここでもDF星の周辺の構図がポイントになってきます。
  • というのは、横浜の攻撃が、「2.1」で示した”スペース”から始まるとしたら、札幌は横浜とは異なり、スペースではなく”人”から始まります。それは誰なのか、というと、「攻撃」という言葉の解釈によるところがありますが、シュートシーンに直結するチャンスという意味合いでは①チャナティップビルドアップ(オランダ的な、敵陣にボールを運ぶこと)という意味合いでは②福森が挙げられます。そして福森の受け手として、チャナティップ以外に③ジェイも重要な存在で、札幌はスペースやポジショニングというより、この3選手がボールに関与すると攻撃の形が見えてくるのが、横浜との大きな相違点です(この試合に限らず)。
福森とチャナティップによる”攻撃の開始”
  • 特にスーパースター・チャナティップは札幌の11人の中でも、もしくはJリーグ全体を見渡しても異質な選手で、ピッチのどこにいてもボールが入れば1人でチャンスをクリエイトできる能力があります。
  • というのは、ジェイは自陣センターサークル付近でボールを保持しても、すぐにシュートチャンスにはなりません。が、チャナティップは引いたポジションまで下がって、自身をマークする選手から距離を取った状態でボールを受け、ターンしてから、その下がった距離分をリカバリーできるドリブル能力とパス能力を持っています。チームとして得点する、という最終目標から逆算した時に、ジェイはゴール前にいてナンボの選手であり、2017シーズンの札幌の"The Great escape"も、ボールに触りたがりのジェイが(スタッフやチームメイトによる説得によって)ゴール前で我慢するようになったことがトリガーとなりました。
  • チャナティップは常にゴール前にいなくても価値のある選手です。なので、相手としては、チャナティップに対しては、ピッチの広範な範囲で、とにかくボールが入った時に好きにプレーさせないことが重要になります。鹿島の永木選手や、当時川崎のエウシーニョ選手はチャナティップ番を任せられた時は、チャナティップが引いて、彼らに背中を向けてボールを保持した時に、背後からハードにアタックすることでまず対応していました。

  • ここで、話をニッパツ三ッ沢競技場に戻します。横浜が、永木やエウシーニョのような対応をすると一つの問題が生じます。↑の図に示しましたが、3バックの右の星をチャナティップ番としたときに、引いて受けるチャナティップについていくとその背後のスペースが空きやすくなります。ここに、小樽の鉄砲玉・ワイドストライカーの菅が突っ込んでいくのは札幌が持っているパターンの一つです(菅は、一時期ドリブルの仕掛けが非常に少なく、フリーランとデコイに徹していました)。ゴールから遠いチャナティップに気を取られて、よりケアしなくてはならないスペースを放棄しては元も子もありません。
  • ですので、横浜はチャナティップには他の策で対抗したい。これが[1-3-1-4-2]というシステムを採用し、[1-5-3-2]で守る理由の一つで、中央に3枚のDFがいれば、星が動かなくてもチャナティップが活動したい周囲のスペースを消すことができます。札幌は福森や深井が、横浜の2トップの脇からたびたびボールを持ちだしますが、横浜の中盤…松浦や佐藤はステイしてスペースを守ります。福森はボールは持てますが、供給先としたいチャナティップやジェイの周囲にはスペースがなく、ボールを送る際にはタイミングやアングルをかなり考えなくてはならない状況でした。
星はチャナティップについていかない
  • ここで、興味深かったのが札幌の選手の対応です。札幌は序盤から、↑の図の赤いサークル…マギーニョの背後を使ってチャンスを作っていました。このスペースが空くことも、ここに深井やチャナティップが入っていくことも珍しいです。というのは、通常は菅がもっと高いポジションをとり、対面のDFは完全に最終ラインに吸収されるためです。
  • 札幌の3分の先制点の場面は、まず横浜のボール保持時にマギーニョが高い位置取りで菅を押し込みます。横浜のボールロスト後、その背後をチャナティップがカウンターで突いたところからで、これは即興的なものでしたが、この場面以外にも深井やチャナティップは”マギーニョの背後”でプレーすることがありました。
  • なぜこれが興味深いかと言うと、札幌は恐らく横浜の3バックのシステムは予想外で、準備できていなかったと思います。この根拠は、状況的に、横浜が(ミシャとは対照的に)クローズドな準備をして試合に臨んできたこともありますし、横浜のボール保持に対して札幌の守備は「2.1」のようにかなり戸惑っていたことも挙げられます。
  • にもかかわらず、序盤からマギーニョの背後を狙っていたのは俯瞰的な構図だけで言うと非常にロジカルで、横浜の3バックとは関係なく何らかスカウティングに基づく指示があったのか、それとも完全に選手の個々の判断によったのかわからないですが、この対応は効果的だったと思います。

3.序盤の攻防

3.1 横浜の攻勢から武蔵に幾つかのチャンス

  • 開始直後、横浜がウイングバックを高い位置に置いて攻勢に出ますが、札幌は先述の通り、トランジションからマギーニョの背後を突いた展開でチャナティップのラストパスに、武蔵のシュートで先制します。武蔵は開始6分ほどで3度のシュートチャンスがあり、1・2度目がこの先制点の場面(DFにブロックされたリバウンドを押し込んだ)、3本目は菅のグラウンダーのクロスに左足で狙いますが、これは大きくふかしてしまいます。3本目も枠に飛ばすことは十分可能なチャンスでした。
  • 8分くらいから「2.」で示した構図が互いの保持/非保持で見えてきます。
  • 11分に横浜のゴールキックから、札幌が前に3枚を置いてプレスを狙う。この時は、札幌が福森のところでボール回収に成功して、そのまま横浜陣内でトランジションが発生します。DAZNの解説の福田さんは、この試合の中ほどから「札幌はボールに対して弱い」と言いますが、この時も特に試合の中ほどの、福田さんが言及したあたりの状況とそこまで相違を感じません。この時に札幌のハイプレスが成功したのは、球際の強度の問題ではなく、横浜が十分、札幌の選手を引き付けられなかった…六反がチャナティップを引き付ける前にボールをリリースしたので、味方が時間を得られなかったことに尽きると思います。この時は武蔵の左足シュート(宇宙開発)で終わります。
  • 13分には「2.2」の構図から、福森が星の前でボールを保持して、マギーニョの背後には深井が侵入。深井の右足クロスで左サイドからフィニッシュ。深井は普段、「福森の背後を管理する」という仕事が最も重要です。その意味では珍しい局面でした。また、やはりこの構図を見ると、横浜はこのエリア(星の前方)でボールに食いつかないので、福田さんの言う「ボールに対して寄せが甘い」は、横浜のこのエリアの方が寧ろ当てはまっていたと思います。ここではボールホルダーをフリーにしては、それなりのリスクがありますし、ボールホルダーが福森だったら、リスクは”それなり”では収まりません。

3.2 「緩さ」を検証(横浜の1点目)

  • 16分の一美の得点について。先に結論を言うと、この時は確かに「ボールに対して甘い」状況だったと思います(チームとして)。
  • 横浜がバックパスでCBのマーシー(田代)に戻したところから始まります。この時、ジェイは直前のプレーから復帰が遅く、本来の持ち場(中央)からやや逸脱しています。ただ、ジェイはロボットのように攻守を切り替えられないのはわかりきっていますし、そもそもこの時札幌は[1-5-4-1]に近い陣形で対応しているので、ワントップのジェイ1人でできることは限られています。
  • なので、ここは2列目の[4]の前で横浜が前を向いてボールを持つとき、もう少し警戒しても良かったのですが、札幌の[4]は、荒野はスペースというより横浜の選手(瀬古)を警戒しています。そして、田代→小林と渡ったタイミングで、瀬古と佐藤がポジションをスイッチし、佐藤がパスを受けたところが、細かい点ですがポイントで、このスイッチする動きで、瀬古を警戒していた荒野は一時的に無力化され、佐藤が中央でフリーになります。
横浜の1点目:瀬古と佐藤のスイッチ、瀬古を見ていた荒野
  • 守備のやり方や対応のセオリーはシチュエーションによって変わります。札幌の場合は、敵陣の奥深くから所謂「ハイプレス」をする時は、誰が度の相手、と決めて1on1の関係が強くなります。が、この時のような自陣に全員で撤退している場合は、人だけでなくてスペースも見ながら、複数の仕事をこなす必要があります。
  • その意味では、このブログで犯人探しや裁判ごっこをしたいわけではないですが(そもそもチームでのアクションに犯人がいるかというと微妙ですが)、中央で佐藤がフリーで受け、直後に荒野と深井の間を通すパスで、一気に札幌DFvs横浜の2トップという非常にクリティカルな状況を招いている以上、福田さんの言う「緩い」という印象は肯定的に捉えざるを得なかったと思います。
  • そして、佐藤のパスの選択もポイントでした。
  • 佐藤が持った時に、横浜の2トップは斉藤が引いて受ける準備、一美は逆に、裏を狙います。これは2トップの定番の動きで、簡単に言えば2人が逆のベクトルに動くことで、相手守備に二択を迫りますが、宮澤はこの瞬間、斉藤を捨てて、裏を狙う一美をケア(福森をカバー)しようとします。
  • が、佐藤の縦パスは福森の裏ではなく前でした。佐藤が宮澤のカバーや、一美周辺の雲行きを見てパスを選択したとしたら流石です。一美も準備していたのと別のボールでしたが、すぐにリカバリーして足元で受けます。混乱したのは札幌で、宮澤は(結果的にはそのまま福森の背後をカバーでよかったですが)裏に出されなかったことで、一美にアタックにプレーを切り替えます。が、一美の鋭いターンで福森共々置き去りにされてしまいました。
「一美の背後」の予想とは異なり足元へのパスだった

4.リアリズムへの不時着

4.1 理想は一旦捨てよう

  • 20分以降はスコアが動かず、そのまま前半が終了します。
  • この間の傾向としては、札幌は基本的に自陣で守る際は[1-5-4-1]で守っていました。この数字の羅列が何を意味するかと言うと、自陣に一度撤退すると、そこから重心を上げてプレスを仕掛ける、という選択を殆ど考えられていなかったということです。ハイプレスをするには、それなりに重心が前目の人の配置をしておく必要があります。その点で、5バック系のシステムはそもそもあまり向いていないとも言えるのですが、ジェイ1人を前に残した形を継続しているということは、あまり前からの守備に拘っていなかったことを指します。
  • ハイプレスをせず、重心が低くなると、選手に要求される要素が変わります。プレスをしたいなら、まず色々な意味で”走れる”ことが重要です。相手のボールホルダーにスプリントして圧力をかける。背後を取られたら頑張って戻る。高い位置で回収して、そのまま速攻を仕掛ける時も走る。なので、アップテンポなゲームになりがちです。一方、重心を低くして守るなら、そのような質のスプリントは幾分か減るとして、問題は、相手が押し込んでくるので、ボールを奪った後に誰かが起点を作らないとずっと押し込まれたままに陥りがちな点です。
  • が、札幌にはボールを収められる選手がいます。ジェイとチャナティップです。このコンビはそれぞれ空中戦と地上戦でめっぽう強く、押し込まれる→ボールを回収する→どちらかに預ける、でシンプルに、局面を切り替えることができます。
  • 特にこの試合はジェイの起点創出能力が徐々に際立ちます。言い換えれば、札幌は理想としていた「高い位置でプレスをかける、ボールを奪う、ボールとゲームを支配する」は一旦引き出しの奥にしまい込んで、元々保有している資産である、ジェイやチャナティップの個人能力を活かしてゲームをコントロールする戦い方を選択していたとみることができます。

4.2 構える横浜

  • 横浜も基本的には、ボール非保持時の重心は低めで、2トップは自陣まで引いてからディフェンスのアクションを開始します。この時、インサイドハーフはあまり出てこない(CBの前のスペースを空けない)のは先述の通りです。ですので、札幌はCB(この試合は、進藤のボール保持はあまりなく、大半が福森のサイドから、福森か深井でした)がボールを持てるのですが、その先の選手はスペースを限定されています。
  • これも福田さんが指摘していましたが、「ジェイがあまり関与していない」。ジェイは田代が監視するとともに、その前方を横浜のMF3枚で締められているので、ジェイへの供給は上空を舞うボールに限定されますが、左サイドから福森→菅と展開しても、菅の仕掛けからクリティカルなクロスはあまり生じていなかったです。
  • やはり白井の右サイドの方を札幌としては使いたいですが、福森からの1発のサイドチェンジはあまり見られず、また、繰り出されたとしても5-3ブロックで守る横浜のスライドが間に合っていたと思います。こう振り返ると、全般に横浜が上手く守っていたと思います。
  • 横浜は一旦引いてから、奪った位置によりやり方は異なりますが、基本は速い攻めを志向します。後ろに3バックとアンカー1枚がいるということもあり、横浜の4人のMF(アウトサイドとインサイドハーフ)はポジティブトランジションでは元気よく飛び出していきます。横浜が右利きの選手が多いこともあり、松浦とマギーニョがよく使われていた印象です。また、37分にはこれらのMFの攻撃参加を待たず、斉藤が単独突破から左足シュート。宮澤は完全に後手に回っていましたが、菅野が左手1本でセーブします。やはりポジションチェンジに積極的なミシャチーム相手ということで、特に構図を説明しなくとも、横浜のMFが飛び出せば使えるスペースは潤沢にあります。

5.勝負を決めるクオリティ

5.1 横方向からの侵入

  • 前半のボール支配率は、ホームチームが57%という数字が紹介されていました。札幌としては不本意というか、仕切り直しで何かを変えてもおかしくない状況の、裏付けにもなる数値だと言えます。
  • 札幌が何かを変えたとは言い切れないのですが、後半の立ち上がり、目立っていたのは左サイドからの侵入です。サッカーはゴールが中央にあるので、中央から起算して人を並べてブロックを作ります。この”人の列”で構成されるブロックを越えていくために、ドリブルやパス、パスを受けるポジショニングといったプレーを使っていくことになるのですが、札幌は正面から列を越えようというよりも、左サイドのある地点(マギーニョが守っているところの手前)までは迂回して進めるので、そこまで進んでから横方向にボールを動かして、ブロックの内部…よりゴールに近いところに侵入しようとしていたように見えました。迂回して侵入できる理由は、先述の通り、横浜の3センターは中央を守ることを優先し、あまりサイドにスライドしてこないためです。
ブロックを迂回して攻撃する札幌
  • 福森は前半よりもポジションを上げて、最初から左サイド、マギーニョの手前くらいまで進出していました(これ自体は珍しいことではありません)。
  • これに、チャナティップや荒野が寄ってきます。一般に、人が寄れば「いい距離感」でもないし、サポートしている状態だとは言い切れません。それこと、前半の六反と田代、ジェイの関係のように、田代が六反から離れた方が”サポート”になるようなシチュエーションはいくらでもあります。が、札幌の場合は、このように人が近い距離を獲ったほうがプレーしやすいのだと思います。特に、スペースが全然なくても自分のプレーができるチャナティップが関与して、左サイドからボールがゴールに近づいていくようになっていたと思います。

5.2 若手2人の難しい判断

  • 後半立ち上がりの悪いくない入りから、53分にピッチ中央のチャナティップから、武蔵へのロングスルーパスが通って武蔵が決めて1-2。この時、横浜は直前のCKからの流れでハイプレスを選択。札幌は、菅野→宮澤→荒野→武蔵→進藤→チャナティップと繋いで横浜のプレスを突破します。横浜は、直前のプレーからの切り替えの関係で、志知と瀬古が入れ替わっていた等、やや落ち着いていなかった印象ですが、武蔵に入った時に進藤が大外から中央寄りにポジションを変えてサポートしたのは好判断、進藤の戦術センスの高さが光りました。受け手を増やすことができますし、アウトサイドが持ち場の志知にどこまでついていくのかを迷わせます。迷いや意志の揺らぎはプレーの強度や一貫性に影響を及ぼします。
(札幌の2点目)シャドーが降りるとCBはついていくか迷う
  • 横浜の選手で、札幌のポジションチェンジ発動で判断が狂った選手が他にもいます。シャドーの2人を見ているDFの星と小林です。武蔵が落ちると、小林は武蔵についていきます。この判断は難しくないですが、武蔵はダイレクトで進藤に落としてから、急旋回して再びMFから背後を狙うストライカーへと変貌します。これに対し、小林は自分の判断で、武蔵から進藤のマークへと切り替えますが、これで武蔵がフリーになります。こうなると、裏を走った武蔵は止められません。
  • なので、こうなると横浜は武蔵に出る前にストップしないといけないのですが、進藤からボールを受けたのはチャナティップ。チャナティップと星も、武蔵と小林のような関係性と比較すると面白いのですが、チャナティップが落ちる(先述の通り、チャナティップの得意なプレーですね)と、星は「そこまでは追わない方がいいな」とソーシャルディスタンスを確保して持ち場である最終ラインへ帰還します。これは小林の判断とは逆なのですが、チームとしてみると「追うのか、引くのか」で判断がずれてしまっています。福田さんが札幌の守備について「行くなら行かないと」と言っていましたが、横浜もこの局面に関しては同じことが言えます。
追う小林とステイの星で判断が分かれた末に場が整う
  • 星知事のソーシャルディスタンス政策によってチャナティップがフリー。武蔵も前線でフリー。後は2人がクオリティを発揮して六反はノーチャンスでした。
  • まとめると、ハイプレスから始まる局面だと、選手は都度動きながら的確な状況判断が求められます。正解は都度異なりシンプルに言えないのですが、札幌の前3人に対して潰しきれないなら、小林は引くべきだったと(勿論結果論ですが)感じます。そして、冒頭に書いたように札幌のチャンスの大半はチャナティップから始まり、チャナティップは(所謂”推進力”に長けるので)定位置以外でも仕事ができます(この時は自陣にいましたし、センターサークルの手前よりも右サイドでした)。下平監督が避けたい状況でしたが、選手個々の判断の難しさや、セットプレー直後のイレギュラーなシチュエーションなど、計算が立ちにくい要素もいくつかあり、このような結果(正面からぶつかれば札幌に分がある)になったと感じます。

6.スペースよりも人優先

  • 先に札幌が動きます。58分に深井→田中。横浜が65分に3枚替えで、中山、竹田、皆川を投入。両サイドにフレッシュな選手を起用します。
  • 66分に、10分前の逆のような関係で、武蔵のスルーパスにチャナティップが抜け出す。チャナティップは引き付けてジェイに落としますが、右足シュートは枠外でした。
  • ここまでで投入された選手で、ゲームに影響がありそうな選手は札幌の田中駿汰でした。田中はボールを持っていない時は、人を捕まえる傾向が強かったです。深井か荒野で言うと荒野に近いです。その田中と荒野のユニットになると、札幌のDFラインの前方にスペースができることが増えていました。2人はそれぞれ、横浜の中盤の選手を捕まえています。
駿汰はスペースよりも人を優先
  • なので、福田さんが気にしていたような、「ボールホルダーに対して甘い、緩い」は幾分かの解決をみます。受ける前にそれらの選手はマークされる状況になったためです。横浜にはこのスペースを使える選手がいなかったことが幸いしました。斉藤はどちらかというと、後半はボールサイドで寄ってプレーしていました。
  • そんな状況で、75分前後に札幌は荒野→高嶺、横浜は瀬古→松井。高嶺は投入直後からミシャに名前を呼ばれまくります。情報が少ないので何とも言えないのですが、「ともき」連呼前後で比べると、やはり高嶺もスペースを守るというより、前方にいる横浜のMFの選手(マッチアップ上、松浦が多かったです)を早めに捕まえろ、と言われていたのかもしれません。だとすると、校長先生は深井の名前を呼ばないのは謎ですが。
  • 80分前後くらいから、横浜は斉藤が中央で仕掛ける機会が何度か見られました。終盤で一番危険なシナリオだったと思いますが、ミシャ的にはそれはCBが前進守備で潰せばええやん、と見ていたのだと思います。一度、福森が物理的に潰して、ファウルっぽかったのですがこれは流されて命拾いをします。終盤にもファウルから、いい位置で直接FKがありましたが、菅野が見送ったシュートは僅かにクロスバーの上でした。

雑感

  • スコアについては、武蔵が4回ほどのチャンスのうち2点をゲット。ジェイはチャンス1回で枠外でした。横浜は一美がワンチャンスを決めましたが、このような決定機の数からすると妥当なスコアだったと思います。札幌は2桁得点を期待できるようなFWが複数いるので、横浜としてはシュートチャンスを作りたくない。クローズなゲームにしたかったですが、やはりチャナティップをはじめとする選手のクオリティの前では、ミッションをコンプリートすることは難しかったと思います。
  • 2年ぶりに、週2でリーグ戦を消化する過密日程が訪れたことで、やはり戦い方に大きな影響を及ぼします。札幌は開幕戦に比べるとペース配分を意識した戦い方でしたし、横浜も全体的にはそれほどアップテンポではありませんでした。リーグ全体で見ると、札幌が次節対戦する鹿島のようなチームが志向するスタイルにとっては、厳しいシーズンになると予想します(といっても、降格はないし、賞金の傾斜配分も控えめになるそうですが)。
  • ブログを書いた後に発見したのですが、横浜はなるべく同数にして長いフィードを蹴らせて回収したかった、星はジェイを意識して起用した、とのことです。正直あまりピンとこない印象なのですが、確かに伊野波よりはサイズがあるので、星個人としてはそのような思惑で起用されたのはなるほどと思います。ただ、であれば田代と競るようにしていたジェイが巧かったと思いますし、そもそも札幌と同数にすると、田代とジェイのマッチアップになりやすいのは当然です。星にジェイと競ってほしいなら、寧ろ4バックにして2人でサンドするやり方もありだったのではないでしょうか。

用語集・定義

1列目守備側のチームのうち一番前で守っている選手の列。4-4-2なら2トップの2人の選手。一般にどのフォーメーションも3列(ライン)で守備陣形を作る。MFは2列目、DFは3列目と言う。その中間に人を配する場合は1.5列目、とも言われることがある。
守備の基準守備における振る舞いの判断基準。よくあるものは「相手の誰々選手がボールを持った時に、味方の誰々選手が○○をさせないようにボールに寄せていく」、「○○のスペースで相手選手が持った時、味方の誰々選手が最初にボールホルダーの前に立つ」など。
ゾーン3ピッチを縦に3分割したとき、主語となるチームから見た、敵陣側の1/3のエリア。アタッキングサードも同じ意味。自陣側の1/3のエリアが「ゾーン1」、中間が「ゾーン2」。
トランジションボールを持っている状況⇔ボールを持っていない状況に切り替わることや切り替わっている最中の展開を指す。ポジティブトランジション…ボールを奪った時の(当該チームにとってポジティブな)トランジション。ネガティブトランジション…ボールを失った時の(当該チームにとってネガティブな)トランジション。
ハーフスペースピッチを縦に5分割した時に中央のレーンと大外のレーンの中間。平たく言うと、「中央のレーンよりも(相手からの監視が甘く)支配しやすく、かつ大外のレーンよりもゴールに近く、シュート、パス、ドリブル、クロスなど様々な展開に活用できるとされている空間」。
ビルドアップオランダ等では「GK+DFを起点とし、ハーフウェーラインを超えて敵陣にボールが運ばれるまでの組み立て」を指す。よってGKからFWにロングフィードを蹴る(ソダン大作戦のような)ことも「ダイレクトなビルドアップ」として一種のビルドアップに含まれる。
ビルドアップの出口ビルドアップを行っているチームが、ハイプレスを突破してボールを落ち着かせる状態を作れる場所や選手。
マッチアップ敵味方の選手同士の、対峙している組み合わせ。
マンマークボールを持っていないチームの、ボールを持っているチームに対する守備のやり方で、相手選手の位置取りに合わせて動いて守る(相手の前に立ったり、すぐ近くに立ってボールが渡ると奪いに行く、等)やり方。
対義語はゾーンディフェンス(相手選手ではなく、相手が保持するボールの位置に合わせて動いて守るやり方)だが、実際には大半のチームは「部分的にゾーンディフェンス、部分的にマンマーク」で守っている。

2 件のコメント:

  1. 荒野とかはともかくジェイについては鹿島戦の起用は(短時間であっても)しにくくなったと思います。
    先の練習試合でも鹿島守備陣がジェイに対抗する難しさは見せていたのに、あえてそういう状況となった理由が気になります。
    なんとなくですが去年もシーズン序盤にジェイを甘やかさずに使って離脱させたような気がしますけど…笑

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    1. ジェイはスロースターターというか夏場に調子が上がってくる印象があります。ただ夏場と言えども実質開幕直後なので無理はさせられないでしょうね。プレビューに書きましたが、植田も昌子もいなければかなりジェイは怖いはずなので、個人的には休ませても良かったかなと思いました。

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