2025年10月5日日曜日

2025年10月4日(土) 明治安田J2リーグ第32節 北海道コンサドーレ札幌vsモンテディオ山形 〜30年漬け込んだ秘伝のタレ〜

1.スターティングメンバー



  • 山形は6/25に横内監督が就任し、以降11試合で6勝5敗。負けた相手は長崎、ジェフ、水戸、徳島、仙台…つまり上位チームに全く勝てていないが下位チーム相手には勝ち点を稼いでいる状況です。
  • 渡邉晋前監督の末期には3バックのシステムも試していましたが、ここのところは土居をトップ下に置くこのシーズンの開幕前からの形に戻しています。
  • メンバーは中盤センターの髙江が夏のマーケットで横浜FCに移籍し、田中渉と中村が務めることが多くなっていますが、この日は夏加入の寺山が初先発。CBは負傷の安部に変わって城和。

  • コンサは近藤がメンバー外で白井を右に移し(戻し)、トップにマリオ セルジオ。DFは軽傷が強調されていた西野が2試合連続の欠場で、新監督体制では初スタメンとなる中村桐耶を左に入れてきました。
  • また構造的には4バックとした方が実態に近いと思います(ミシャ体制で4バックのチームにマンツーマンで合わせやすくした時と同じ)。


2.試合展開

仕組みを作るか、特別扱いは不要か:

  • コンサは青木とスパチョーク。山形は土居。両チームとも1.5列目または2列目に典型的なシャドータイプ…小さくて、小回りがきき、足元にボールが入った時にはシュートや味方を活かすラストパスで攻撃面で貢献するが、フィジカル的にはそこまで優れておらず、走力がそこまでなく、あまり体を張って潰れ役になったりもせず、シャドー以外のポジションでも使いづらい…といった選手を起用しています。
  • このブログの読者の方だと何度も言及不要かもしれませんが、ヨーロッパのフットボールではこの手の役割がピッチ上に用意されることは近年かなり減っており、ボールを持って前を向いた時に輝きを放つ選手は、
  1. インサイドハーフになって、中央の守りを固めつつアップダウンして足元でボールを持つだけでなくてポケットなどスペースに何度も走り込む
  2. ウイングになって前線でプレッシングのために走ったり、ワイドでアップダウンしてSBと一緒にワイドを封鎖しつつ、ボールを持った時にはワイドから1v1で相手のDFを切り崩しカットインからのシュートを狙ったり、カウンターの際にはトップスピードで高速アタックを繰り出す
  • だいたいこのどちらかの役割を担当するためにハイブリッドな選手になっており、もちろん例外もいますが、トップ下という枠組みだと日本だとこの手の土居、青木…となるのに対し、ヨーロッパだと(ちょっと古いですけど)ビダルとかヤヤトゥーレみたいな、中央で複数の相手に囲まれても仕事ができるくらいの力強さがあり、かつ守備の時に中央にいることで相手のアンカーを牽制する守備ができる選手に置き換わっています。
  • 正直この時点で山形もコンサもある種のモダンさからはかけ離れる気がしますが、もちろんそこはJリーグという制約の下での話になるので、こうした選手を活かしたチーム作りができることは監督としては重要な能力になるでしょう。

  • さて、山形とコンサを比較すると、戦術で土居を生かそうとしているのが山形で、青木やスパチョークに特別扱いはせず彼らにとって都合の良い(やりやすい)チームには特段しない、いち選手として扱っているのがコンサ、だと見ています。
  • 山形はボールを持った時に縦横に選手が広がり、機を見てGKからDFにボールをサーブしてプレーを開始しますが、この時に山形のDFと中盤センターの選手が後ろ目にポジションを取り、土居から離れることで土居の周辺の相手選手を減らし、土居にボールが入れば前を向け、かつ前方にパスコースとなる3人のFW(國分、ディサロ、氣田)が待っている状態が狙っている形かなと思います。
  • ただ、こうした狙いがうまくいき土居にボールが入り、土居からの展開も成功すると良いのですけど、その過程で山形がボールを失えば、山形の選手は縦横に広がった状態でプレーしているので、そこから迅速に陣形を回復する(攻撃→守備に切り替えるので、基本的には下がってかつ中央を固める)ことができなければ、今度は山形が相手にスペースを与え危険な状態に陥ることになります。
  • ここまで31試合で45得点、45失点といずれも多めになっているのは、おそらくこのボールを供給する部分の確実性と、攻守の切り替えの部分に課題があるからでしょう。

いきなりオープン合戦の予感:

  • 上記のボールを持っている時の山形の振る舞いの特徴や構造から、山形の試合は結構スペースができた状態でオープンな展開になりそうに思えますが、山形はボールを持ったいない時の特徴や構造を見てもオープンな展開を誘発しそうな要素が感じられました。
  • コンサがボールを持っている時に、山形の前線の4選手はコンサのDFを躊躇なく捕まえに来て、土居やディサロはそのままの勢いでGK高木まで追いかけたりもしてくるのですが、そこをコンサが何らか回避した際にこれら前線の選手が後ろに戻るスピードは速くない。少なくとも前方向に走るスピードとは一致していない。
  • そして前線の選手が前方向に圧力をかけているときに、山形のDFはほぼDFラインを押し上げずDFの位置が変わらないことが多い。そうなると必然と中央にスペースができるようになります。

  • 「前残り」に関してはヨーロッパのトップクラブなどでもありますし、それを有効に使うというか、前線にスピードのある選手を前残りで守備免除気味にし、カウンターの威力を高めるみたいなやり方はとられている。
  • ただこれは前線にFW1人、またはウイングの1人か2人が残るという感じでFP10人のうち1〜3人が前残りなのですが、山形は4人が前に残っていることも全く珍しくないような構造でしたので、そうなると中央にスペースができている状態はほぼ恒常化します。

30年間のDNA:

  • 山形のそうした構造を踏まえて試合を振り返ります。
  • コンサは山形がボールを持っている時の対応を前節から変えてきました。
  • 前節は仙台相手に5バックを常時キープし、後方に人を多くしていましたが、その分、前線が数的不利となり、仙台に対し前から圧力をかけることができず後手に回った…というのが私の感想というよりコンササイドの公式見解なのではないでしょうか。
  • 柴田監督も「もっとアグレッシブに前に出ないとダメだと感じた」みたいなことを語っていました。

  • ですのでコンサは仙台戦の反省を踏まえて、システム的に仙台とほぼ同じである山形に対しては、5バックで前線を数的不利にするのではなく、相手に合わせた配置にして各ポジションで同数とする。結果4バックっぽい陣形になっていたと思います。↓
  • これは5バックにするとか4バックにするとか、それ自体が目的の場合とそうではない場合があります。
  • 今回の場合、DFの枚数が重要なのではなく、本来の目的は、山形のFP10人に対し誰が担当するのかを明確にしておくことで相手選手がボールに関与する時に(1v1関係を前提として)、”担当”の選手が必ず責任を持って対応し、山形の選手が常時コンサの誰かに監視されている状況を作ってプレッシャーをかけミスを誘い、山形の選手が何本もパスを繋ぐことを阻害し、何本目かのパスを奪ってなるべく高い位置でカウンターを仕掛ける…といった感じだったかと思います。

  • しかし実際は、山形がボールを持っている時にそこまで困っている感じがなく、またコンサがカウンターを仕掛けたりする場面になかなかならなかった、要するにマンツーマンベースで守ることは明確だったのにあまり強度というか機能している感じはしませんでした。
  • 理由としては、まず、どういうシチュエーションを誘発してボールを奪うのかが不明瞭だったこと。
  • 例えばコンサは高嶺が対人に強く1v1でボールを奪う能力があるので、山形のボールを持っている選手を高嶺のマッチアップ(高嶺vs中村)に誘導し、苦し紛れにパスを出させて中村が高嶺に背中を向けた状態で高嶺がアタックする…みたいな意図が見られず、とりあえずコンサは決められた山形の選手についていくけど、それだけで終わっているところがありました。

  • 2つ目は、トップのマリオ セルジオとスパチョークのところであまりエナジーがなかった点。
  • やはりJ2はどのチームもCBにそこまでボールスキルやプレス耐性がなく、山形も例外ではないので、CBを監視するこの2人のところで、山形のCBがボールを持った時にすぐに近い距離まで寄せるなどして嫌がるアプローチをしてもよかったし、このやり方(いつぞやの「オールコートマンツーマン」と一緒。誰も指摘しないが)を採用するならFWがCBに圧力をかけないと意義が半減すると思います。
  • しかしマリオとスパチョークは、ボールを持っている時にポジション移動をしていることもあって(マリオが下がってくるなど)、まず山形ボールになった時に山形のCBの近くにいない、離れている時にそこに迅速に移動しない…まずこの2人のマンツーマンで守る能力がそこまで高くないので後ろの選手が連動しづらいところはあったかと思います。

  • そして↑の2トップの能力の部分に情状酌量の余地がある的な話でもあるのですが、↑のアニメーションで示した、例えば山形の中盤の中村がDFのところまで下がって、SBが高い位置を取る…みたいな変形をしてくることがある。
  • この時にコンサは3バックのような形に変形した山形に対し、コンサも誰か(普通に考えれば高嶺か木戸)が前に出て枚数を合わせるのか、何らか別のやり方にするのかが不明瞭で、ピッチ上で選手間でコミュニケーションをとって対応していくのも難しそうだったので、こうなるとマンツーマンで対応するというコンセプト自体が機能しなくなります。
  • マンツーマンベースだとこのシチュエーション(相手が移動する)はいくらでも生じるので、事前にどこまでついていくか対応を考えて然るべきかと思いますが、急造の対応だからか?コンサの準備は不十分でした。

  • そしてオールコートっぽい対応にも関わらずボールホルダーに圧力がかからない、DFは押し上げられないということで、コンサも山形と同じく間延び気味になっていきます…。

ミッシングリンク:

  • コンサがボールを持っている時の話をします。
  • 15分に、右のDF付近に下がっていた木戸から中央のスパチョークに縦パス、青木を経由して左に展開し、オーバーラップしたパクミンギュがボックス内左からシュート(枠外)。この時は↑で見たように、中央が開きやすい山形のウィークポイントを突いてシュートまで持ち込むことができた場面でした。

  • しかしそれ以外の場面ではコンサは前進に苦労します。
  • 割とルーズな山形の中央で待つ青木とスパチョークにボールを届けたいところでしたが、コンサがそれをスムーズにできなかった理由として、ワイドで幅を取ってビルドアップの出口を作る選手が不在だったことが挙げられると思います。
  • コンサはGK高木、浦上、木戸、高嶺といった中央の選手が、中央のエリアだけでほぼボールを動かして山形の前線の選手を剥がそうと頑張っていましたが、システム的に山形相手だとワイドの低めの位置に1人ずつ左右に置いて、中央からボールを逃す役割、斜めにシャドーにパスを入れる役割を明確にした方が効果的だったかと思います。

  • この試合、白井とパクミンギュはボールを持った時に高い位置を取っていて、山形のSBをアタックする意識は強かったと思いますが、ビルドアップに関与する機会はかなり少なめでした。
  • 29分にアクシデントで白井がピッチを去り田中宏武に交代しますが、彼もどんどん前に仕掛けていくタイプですし(試合後のインタビューに応じていましたが、基本的にビルドアップにあまり問題意識がないというか、ボールが自分のところに供給される前提で喋っている印象でした)、この構造的な課題は変わりませんでした。

  • その田中宏武のコメントでもありましたが、コンサはボールを持った時に対角の山形のSBのところにWBをぶつけて、そこに斜めのロングボールを蹴るという選択が何度か見られました。
  • ただ本来の意図としては、ロングボールを空中戦で競ってイーブンな局面から次の展開へ…というよりは、山形が4バックで反対サイドが手薄になった時にフリーのWBに展開して横幅を使って攻撃したい…というイメージだったように思えます。とりあえずWBが空中戦を頑張る、で終わっていました。

マークを明確にするためのマンツーマンのはずが…:

  • 山形は後半、SBが高い位置を取り中村or寺山が落ちて、1-3-1-6みたいな形からボール保持を開始。青木と田中宏武は終始ワイドの低い位置に押し込まれます。
  • そして49分、山形のストライカー・ディサロのスーパーボレーでスコアが動きます。
  • 山形がコンサ陣内に入って、やはりこの時もコンサはマンツーマンベースでワイドの選手(田中宏武と青木)が下がって6バックのような状態。最後は中村の浮き玉のパスも見事でしたが、コンサは2列目が高嶺と木戸の2人で1-6-2-2のみたいになってしまい、出し手周辺の山形の選手に全体的に時間を与えすぎな状態になってしまいました。

  • 失点直後にコンサは交代を用意し55分にマリオ・木戸→バカヨコ・宮澤。


  • しかし直後の58分に國分のFKが直接決まりスコア0-2。
  • このプレーは髙尾のファウルからでしたが、やはりこの時もコンサは6バック状態になっていて、まず下がって枚数確保、マーク確認…から始まり後手に回って、DFが無理めなチャージをしてファウルを与える…という印象が否めませんでした。

  • 0-2となってコンサがよりダイレクトになったからか、山形が疲れたからかコンサが山形陣内に入る場面が増えます。
  • 60分以降、69分の選手交代までにコンサは田中宏武の右クロスからスパチョークと宮澤のヘッドで惜しい場面がありました。バカヨコの投入もあってか、宮澤はなるべくゴール前に出ていけるように振る舞っていた印象でした(またパクに対しあまり高い位置を取りすぎないように、とコミュニケーションをしていたのも私の印象と一致でした)。



  • 69分にコンサはスパチョーク・パク ミンギュ→田中克幸・荒野。山形は土居・國分→高橋・坂本。
  • 直後、71分にスローインから、山形のガードが下がっていたところに宮澤のミドルシュートでスコア1-2。

  • 山形は前線の選手を変えてきますが間延びしてスペースがある状態は変わらず、終始コンサが山形陣内に入る展開になります。
  • ですのでコンサはワイドに青木と田中宏武、シャドーに荒野と克幸、トップにバカヨコの5トップを維持している時間が多く、後方は宮澤がカバーしたりでとりあえず”前”での展開に集中できる様子でしたが、78分に山形が右サイドでポケット侵入からボックス内で高橋がシュート、という場面があったように、パクミンギュの役割を青木にしたことで、ここでの対応は曖昧でしたしギャンブルに出ていたと感じます。

  • ラスト15分は互いに平等にオープン展開のメリットを享受するような展開。ATに高嶺のミドルシュートがGK渋谷を襲いますが、ポストを叩いて万事休す。

雑感

  • まずコンサは前節vs仙台の機能不全を踏まえ、ミシャ時代を思わせる純粋なマンツーマンディフェンスに近いというか、マンツーマンベースの対応に切り替えてきましたが、これがあまり機能しませんでした。
  • 理論上、マンツーマンでずっと対応できていれば、簡単にマークが外れることはないはずですが、山形が多少出方を変えてくるだけでコンサのピッチ上の選手には混乱が生じ、監督が望んでいたと思われる強度は出せませんでした。

  • そのマンツーマンベースで守ることが機能しなかったということもあるのでしょうけど、柴田監督就任から7試合目を数え、ある程度こちらのやり方がお披露目されてデータが集まってきたことで、コンサ相手にどのような準備をするか各チームとも見えてきた状況でしょうか。
  • 結果、コンサからは監督交代時のエナジーというかピリッとした感じも失われて、規律もスピードも感じられない以前までのコンサに戻ったなという感想です。

  • 私の知る限りコンサは過去30年間ほぼ一貫してマンツーマンベースの対応をしており(以下敬称略で岡田、柱谷、ジョアンカルロス、柳下、三浦:よく勘違いされるが、石崎、財前、バルバリッチ、四方田、ミシャ)、このやり方のデメリットをずっと見てきたので、別のやり方で守れる監督を待望していたのですが、正直なところ(守備練習をしないとされることで有名な)ミシャ体制を思わせる純粋なマンツーマンスタイルを採用し、かつ山形相手に機能しないということで、今回は柴田監督に初めてがっかりしました。
  • ただコンサのスカッドを考えると、中盤から前に運動量というか走力があまりないですし、DFもそこまで個人能力がないですし、繰り返しですが基本的に30年間マンツーマンベースの守り方しかやってないので、そうした制約から逆算するとこのようなアウトプットを想起したことは一定は理解します。それでも結局誰が監督をやってもこういうやり方になって同じようなやられ方をするのか…という思いはありますが。

  • 山形はなんというか、岩政前監督を思わせるスローさと密度の薄さを感じました。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。

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