2025年9月28日日曜日

2025年9月27日(土) 明治安田J2リーグ第31節 北海道コンサドーレ札幌vsベガルタ仙台 〜フットボール的な”規律”とは何か〜

1.スターティングメンバー



  • J2は30節を消化して依然として水戸が首位をキープ(勝ち点55)も、直近7試合は勝ち点7とブレーキ。このリーグでは別格のスカッド(カードゲーム風にいうと「デッキパワー」?)の長崎が勝ち点55で2位に並び、ジェフ(54)が続く。
  • 以下、仙台(51)、鳥栖(49)、コンサに前節敗れた徳島(48)、磐田(48)、大宮(47)、今治(46)、そして10位にコンサ(43)と続いていますが、直近の試合内容を考慮すると私の予想は長崎とジェフが有力で、水戸は6位確保も怪しいかもしれません。先日新監督を迎えた大宮も夏場の戦術変更以降は元気がなく、第二グループに残れるかの当落線上からやや遅れをとっているように見えます。

  • 「仙台のFWの選手のゴール数を全て足してもマテウスジェズス1人に負けている」みたいな投稿が先日流れてきましたが、点取り屋が不在でもこのシーズンを通じて上位をキープしています(そもそもこのシーズンは10ゴールを挙げている選手が今の時点でリーグ全体でも5人しかいない)。
  • この日のスタメンは武田が出場停止のほか、FW荒木とGK林がメンバー外で郷家をトップに移し、夏のマーケットで川崎から加入した山内が右MFで初スタメン。

  • コンサは出場停止からマリオ セルジオ、バカヨコ、宮澤が復帰も、「勝っているチームは変えない」がポリシーなのか白井をトップにする前節と同じ構成。
  • 西野の前節試合中の負傷については楽観視されていましたが、今週のトレーニングでは左DFには主に中村桐耶が入っていたようです。実際にはその中村桐耶でもなく家泉を中央、浦上を左に移す選択でした。前線は長谷川が欠場で青木が左、スパチョークが右。


2.試合展開

上位の練度に対し不明瞭だった前線:

  • 仙台は自陣でボールを持った時に、前線に2トップ+両SHの計4人が並んだ状態で宮崎にロングボールを蹴るプレーから始まることが多い。コンサはまずこの仙台の始まりとなるプレーに対し、両WBを下げて自陣に5枚を残す形を常に作って迎え撃つ意識は非常に高かったと思います。
  • 一方で仙台はいきなり放り込むというよりは、自陣で相手の前線守備の形や出方を見てボールを動かすプレーも一定はできる”練度”みたいなものが備わっている。

  • 仙台はボールを持っている時にシステム1-4-2-2-2もしくは1-4-2-4みたいな陣形でプレーするとして、コンサは1-5-2-3で迎え撃つのですが、
  • コンサは仙台の後方の6人に対し数的不利ではあるものの、マンツーマンベースである程度決めて対応すれば、仙台のボール保持をハメていくこともできそうに思えましたが、この日のコンサはここでハメていくのか我慢するのかがまず中途半端に見え、結果的に仙台がボールを持っている時に前の5人が動かされ、後方と分断された状態になってから仙台が前に放り込んだり縦パスを入れることになっていたと思います。
  • 仙台の中央の松井と鎌田に対し、コンサの中央の高嶺と木戸はマーク関係がはっきりしており、この2人は松井と鎌田にボールが入るシチュエーションでは何らか高い位置でボールを奪ってショートカウンターに持ち込めないかと考えていたように思えます。
  • 一方で、コンサのシャドーには青木とスパチョークという、そこまでスプリントの強度や連続性が持ち味とは言えなさそうな選手が並んでおり、例えば長谷川だったら45分で交代することを念頭において仙台のSBとその隣のCBに対して長谷川1人で両方見る、みたいな対応ができたかもしれないし、長谷川は自分でその基準を決めてうまくやってくれたかもしれません。
  • ただ青木やスパチョークを起用するなら、彼らは長谷川のように空気を読めてかつ自分が犠牲になる形でのアウトプットとなることに抵抗がない選手ではありませんので、仙台の誰にどこまでpressingに出るかは決めておくべきだったでしょう。

  • 仮にコンサが仙台に対し「前からプレッシングを仕掛ける」と決めていた場合、ミスマッチの仙台のSBを青木やスパチョークが捕まえられずズレてSBがフリーになった際に、コンサのWBが1列前に出て捕まえるという対応が本来はできるのですが、仙台が放り込んでくる展開に備えてコンサのWBの近藤とパクミンギュは後ろから動かさない(前の選手のサポートをしない)と決めていたのであれば、いずれにせよコンサは仙台に対し前からハメてボールを奪ってショートカウンター、という展開はおそらく難しかったと思います。
  • ただこれについては、WBが前に出た背後に放り込んで攻撃するのはこのマッチアップ(システム1-4-4-2系と守備側1-5-2-3)の定石でもあるので、コンサのWBを前に出さない選択も決して間違ってはいなかったと思います。

  • FWに入った白井は長谷川くらい走れる選手かもしれませんが、スパチョークと青木のところで決めておかないと、白井1人で仙台のCB2人とGKの計3人を見ることになってしまうので、やはりvs1-4-4-2系の仙台としてみると、シャドーの対応をどうするかがまず重要だったかと思います。

  • そしてコンサは高嶺や木戸のところでボールを奪って、仙台のDFの間に白井やスパチョークが走る展開になればショートカウンターに持ち込めそうですが、仙台が注意深くプレーして松井や鎌田のところでのボールロストを避ければ(そうなる前に無理せず前に放り込めば)、コンサのボール回収位置は低くなり、そこから前進するにはFWのポストプレーに頼りたい展開になってきます。
  • コンサのボール回収位置が低くなると、白井は前に走るのではなくまずポストプレーが求められる展開になります。

  • 19分に木戸と鎌田のマッチアップのところでハメて木戸が仙台陣内のペナルティエリア付近でボール奪取、という場面がありましたが、ボールを奪えるのはいいことですが、これも相手をどこに、どのような状況に誘導するか意図がないとなかなかショートカウンターというのは成立が難しいところがあります。
  • この時も木戸が奪った後の出しどころがなく、相手ゴールではなく自陣方向にプレーすることを強いられ、プレスバックしてきた仙台の相良に奪われて逆にカウンターを受ける結果となりました。

コンサの片翼飛行を撃墜する仙台:

  • 反対にコンサがボールを持っている時にもミスマッチになりやすいので、コンサとしてはその局面をうまく活かして前進したいところでしたが、仙台はコンサとは異なりミスマッチを念頭に置いた上で前線守備を整理しており、この局面でも仙台の方が上回っていました。

  • まずコンサはGK高木があまり家泉を信用していない、というとカドが立つ表現になりますが、仙台が前からpressingをを仕掛ける素振りを見せた時に家泉に最初にボールを渡すことがあまり良い選択ではないのは事実なので、浦上に渡すか、高木が前に蹴るかの選択にするのはほぼ決まっていたように思えます。
  • 浦上が持った時に、仙台はボールサイドのSH(山内)とSB(真瀬)がオリジナルポジションを捨てて前に出て、浦上とパクミンギュを捕まえ、高嶺と木戸には松井と鎌田がマンツーマン気味についていくという対応で整理していました。
  • コンサが背後を気にしてWBをステイさせていたのは↑に書いた通りですが、仙台は真瀬が出ることのリスクを承知で前からコンサを捕まえにいくアグレッシブさを見せていました。
  • 浦上とパクミンギュのところで仙台に捕まるなら、コンサは高嶺が強引に中央を割っていくか、背後に蹴って前線の選手が走るか、やり直してサイドを変えるか、といった対応が考えられますが、まず背後を狙うのがこの試合は前線の選手と元々あまりコンセンサスがないのかわかりませんが機会として少なかったと思います。
  • やり直す場合は、左でボールを持っていたので戻して右へ、ということをまず考えますが、この際も右に置かれているDFが家泉ということで、チームとして家泉を飛ばしてボールを動かそうとしているように見えました。
  • 結局はコンサは、出しどころに困って長めのパスで遠くの選手が抜け出して1発チャンスを作れないか…という選択に陥りがちで、それも受け手と出し手の呼吸が合わずほぼ不発に終わっていたと思います。

セットプレーから動く:

  • 20分前後から仙台がコンサのWB背後のスペースを突く、もしくはコンサWBと仙台SHのマッチアップで仕掛けていく、といった狙いが明確になっていきます。
  • 23分に近藤の背後に宮崎が裏抜けしてチャンスメイク。29分には中央から浮き玉のサイドチェンジで左の相良が受けて近藤と1v1。26分の山内が警告を受けたプレーも。サイドを取ろうとするプレーの攻防からだったりします。
  • 33分には、仙台陣内の真瀬に対しパクミンギュが前に出て捕まえようとしますが、おそらくこれはコンサ的には避けたかったプレー。真瀬は浮いている山内を見つけて難しい局面でしたが縦パスを通し、山内のワンタッチパスから郷家が抜け出すも、こちらはしっかりタスクを遂行して最終ラインに残っていた近藤がカバーリングで難を逃れます。

  • コンサは35分頃には近藤が右サイドを突破しますが、この際も単独突破のみで不発に終わったのは、依然として前進の形を見出せずチームとしてのアタックの形になっていないからです。
  • そうした中で39分にセットプレーから相良のゴールで仙台が先制。空中戦は近藤vs奥山のマッチアップだとそこまで近藤不利には思えませんでしたが、助走をつけてのジャンプだったのと、このマッチアップ以外にも全体的に仙台が虚を突く感じの一連のプレーでした。

  • そしてATに山内が25m?くらいの距離からFKを決めて0-2。
  • ファウルとなった一連のプレーも、近藤vs相良のマッチアップへの浮き玉の放り込みからでした。

ボトルネックが解消されないままもがき続けるが:

  • 後半開始時点では、コンサは選手交代よりもピッチ上の役割変更によって局面を変えることを考えていたと思います。自陣でのボール保持の際に高嶺が下がる形へ(厳密には前半の終わり際から見られましたが)。


  • しかし高嶺は結局この位置だと山内に捕まりやすいことはそれ以前の形と変わらないため、コンサのチャンスは自陣から前進する形からというよりも、例えば53分にスパチョークが仙台の左CB-SB間のポケットにうまく抜け出してシュートを放った場面は、まず放り込んでセカンドボールを拾って、その間に仙台の陣形が整わなかった隙をついた攻撃でした。
  • コンサは高嶺が下がった状態で放り込むと、中央は木戸1人になってセカンドボール争奪戦で苦労します。青木が下がってくるのはおそらくその状況に気づいたからだったのでしょうけど、青木が下がると前線でより孤立気味になる白井が前を向くのは更に難しい状況になります。


  • 対する仙台は前半に引き続き、前に出てくるようになったパクミンギュの背後を突くシンプルな展開からコンサ陣内に侵入。引っ張り出されて1v1の局面が生じた際の浦上の対応(基本的にはディレイが多い)もあり、前に出たいコンサを再び押し込むという観点でこの選択は有効でした。

  • 60分にコンサはスパチョーク・家泉・木戸→マリオセルジオ・中村桐耶・宮澤。仙台は65分に山内・奥山→高田・石尾。


  • 仙台の交代はこのシーズンよく見られるパターンだと思います。石尾の投入は近藤対策でフレッシュな選手をという意図もあったかもしれません。
  • コンサは後ろから剥がしていくというよりは、前に長いボールを入れて拾うことをどちらかというとメインで考えていたように見え、ターゲットとしてマリオかバカヨコ、後者の方がポストプレーには長けますが9番としてはマリオの方が期待できるということでしょう。
  • 宮澤のポジショニングが特徴的で、木戸はほぼ仙台の2トップの背後にいましたが、宮澤は右インサイドハーフのようなやや高めの位置からスタート。おそらく宮澤がセカンドボールを拾ったり前線の選手をサポートしてほしいという狙いでしょう。高嶺をアンカーとして、中央に移った浦上がボールを出す役割。中村桐耶の投入は浦上を中央右に動かすためのカードだと思われます。

  • ただそうしてコンサが放り込みがしやすそうな選手を投入しただけでは、仙台は簡単に崩れることもなく、むしろ縦に間延びしたコンサはセカンドボールを拾われ、この試合幾度となく繰り返される、仙台がサイドのスペースを突く攻撃に晒されます。

余裕のブーイング:

  • そこからコンサは、どこまで意図していたのかわかりませんが、高嶺が下がってサイドのDFが開いたり高い位置を取る…あの「ミ」で始まる名前の監督時代によく見られた陣形へと変化してボールを持ちますが、↓の図のように高嶺が下がり、サイドのDFが浦上や高嶺から離れると、浦上は出しどころほぼなくなってしまい、コンサはそれまで以上に前進できなくなる。
  • 浦上、高嶺、GK高木だけがボールに触れる状態のコンサに対し、ゴール裏に陣取る仙台サポーターが余裕のブーイング(指笛?)を浴びせます。

  • 73分にコンサはガス欠の白井→バカヨコ。2トップの下に青木という形を明確にします(その前も青木は半フリーマン化していましたが)。78分にパクミンギュ→田中宏武。仙台は80分に相良・宮崎→中田・エロン。


  • この時間帯になると互いに間延びしてきて、コンサは中央でマリオとバカヨコが縦関係になれば引いている後者が簡単にスペースを享受できるような状況でしたが、そこまでボールが届けられることはありませんでした。
  • 互いにやや大味になった展開から、83分に仙台が石尾の得点で0-3。近藤直也氏のコメントではDFの押し上げが指摘されていますが、この時点で皆完全にバテていたのでそこは頭に入れておく必要があるかと思います。

雑感

  • コンサは90分を通じて枠内シュート0、前半もシュート2本だったようですが、スコアに関しては山内の見事なFKを含むセットプレー2発で動いたので、流れの中でめちゃくちゃ崩されたというわけではなかったのも事実です。
  • ただ内容的には仙台の方が上手というか、フラットに見てどちらが上位のチームかというと間違いなくアウェイチームだったでしょう。プレッシングもビルドアップも仙台の方が上回っており、特にコンサのプレッシングがハマらないので、仙台はボールを持った際に慌てることなくやり直せていました。

  • コンサは選手の気持ちに寄り添うと言っていた岩政前監督が一部の選手にノーを突きつけられた結果、無政府状態または学級崩壊気味だったチームに柴田監督が就任。チームに最低限の基準を示し、改めて最低限の規律を(というか、プロ意識みたいなもんを再教育?)意識させマネジメントし、ピッチ上では比較的イージーだった日程にも恵まれ(デッキパワーが高そうな長崎や磐田との対戦は避けられた)、我慢して相手のミスもしくはスーパーゴールで得点する…という展開で、ここまで就任後6試合で3勝3敗としています。
  • まずこの日の仙台は、少なくともこのシーズンにおいては柴田監督が見出した、上記のようなアウトプットの質(我慢してスーパーゴールか相手のミスで得点)では現状は上回ることができない相手だったかと思います。

  • また学級崩壊のコンサにおいて論点となった「規律」とは、フットボール以前のソーシャル的なものである部分が大きいのに対し、それとは別にフットボール的な規律というものが世の中には存在します。
  • この日、仙台がコンサに対し見せつけたのはまさにそうしたフットボール的な規律であり、11人+ベンチメンバーを含めて各々がゲームプランと共に役割を理解し、汗をかき、ゴールは水物であるとしても隙を作らないという点では確実に仙台は規律を感じられるチームでした。コンサの場合はまず「規律」を掲げたフロントがその意味を理解するところから始まるのかもしれません。

  • …というのはおいといて、よりフットボール的な部分に改めてフォーカスすると、DF陣の中で最もプレス体制がありここ最近は(それこそ岩政前監督によって)列移動により相手のプレッシングの基準をずらすプレーも会得した、西野の不在が極めて痛かったと思います。
  • コンサの場合、前線に「足元でボールを持った時に力を発揮する選手」を抱えたがる傾向や、中盤にハードワーカータイプが少ないこともあるので(それこそ仙台が前線に宮崎のような選手を起用しているのとは方向性が真逆)、やはりコンサは編成の方向性というか担当者が変わらない限りは、DFに跳ね返すだけではなく相手のプレッシングを回避したり、ボールを動かせる西野のよう選手の確保は必要でしょう。
  • かつ西野のような選手を外から買ってくるのはおそらく難しいので、となるとコンサに入団してから日々のトレーニングでそうしたプレーを指導していくことが必要になってくる。
  • 前監督はそうした個人戦術に問題意識があり、西野には効果あり、家泉には…という状況ですが(家泉も久々にスタメンで見ると少しはよくなっている気がしますが)が、柴田監督体制で誰がその役割を担うのか、そもそもこの点もフロントを含めて重要性を認識できるのかなどが改めて問われそうだなと予想します。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。

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