2024年8月26日月曜日

2024年8月25日(日)明治安田J1リーグ第28節 ジュビロ磐田vs北海道コンサドーレ札幌 〜形勢逆転〜

1.ゲームの戦略的論点とポイント

スターティングメンバー:



  • 磐田はここ5試合で1勝1分3敗。最低限ともいうか勝ち点4を積んではいますが、湘南に0-5、京都にホームで1-2と直接対決を落としたことは非常に痛い状況。
  • シーズン通算ではここまで27試合で7勝7分13敗の勝ち点28。7勝はいずれも複数得点で1-0勝ちはなし。クリーンシートでの勝ちは4試合ありますが0-0の引き分けはなし、ということで、勝ち点を積むにはもう少し失点を減らしたいという意味合いではバランス的にはコンサに割と近いかもしれません。
  • 11節までを4勝2分5敗で乗り切っていたところで、開幕から好調を維持していたジャーメインが12節(vsヴェルディ)で負傷し、そこから欠場の5試合(コンサ戦含む)で1勝1分3敗と失速。ジャーメインの有無が戦況に大きく影響を与えるのは事実なのでしょうけど、一方でGK川島を欠いた6試合でも1勝1分4敗と、結局はセンターラインはみんな大事ということになるでしょうか。
  • この試合で出場停止処分明けから復帰するFWペイショットを欠く直近2試合は、ジャーメインをトップに、その下に2人を置く1-4-1-4-1のシステムを採用していまいしたが、これも得点力を補うというよりは中盤センターの駒不足によるものでしょうか。最終ラインには左利きのCBハッサン ヒルが加わりましたが、中盤にももう1人くらい補強があっても良いように思えます。
  • この日のスタメンは、トップにジャーメインと、夏にセレッソから加入した渡邉りょうを並べる2トップでペイショットはジョーカーとして控えます。2列目はこれまたセレッソから加入したクルークスが右、中央はレオゴメスと、4試合目の先発となる中村駿で、よりバランスを意識した印象です。最終ラインはリカルドグラッサが右CB、左CBのハッサンヒルと初めてスタメンで同時起用で、コンサの放り込み主体の組み立てには強そうですが連携などはどうでしょうか。

  • 水曜日に千葉で天皇杯を戦ったコンサ。木曜日に札幌に戻って調整した上で磐田に乗り込んだようです。
  • メンバーは前節鳥栖戦から、カップ戦で45分出場した馬場を外し、駒井を中盤センターとし、菅を左に入れて青木をシャドーとしていますが、磐田が1-4-4-2のマッチアップなら噛み合わせでは大﨑がCB、青木と駒井が中盤センターになりますが、磐田が縦並びだったので大﨑はアンカー。また青木が左にいたのは些細なことのようですが、実は試合への影響は小さくなかったと思います。
  • 浅野は前節試合前の負傷は腿裏肉離れと発表されました。また長谷川も日大とのトレーニングマッチで負傷しており、こちらも肉離れで数試合離脱となるでしょう。
  • ベンチにはフランシスカンが初めて入ります。練習を見た感じではそこまでインパクトはなかったのですが、ワイドとしてはパワー不足でも、中央で意外性のあるプレーに期待ということと、センターFWを2人並べない方がよいと考えてジョルディを外したのでしょうか。3日前に90分出場したとはいえ、好調の田中克幸は入れても良いかなと思いましたがどうでしょうか。

2.試合展開

渡邉りょうの頑張りと、長い距離を走る構造の磐田:

  • 日本代表でも長らくそうでしたが、磐田のGK川島は足でボールを扱う機会では基本的にほぼ全て前線へのフィードを選択します。
  • このような”旧式”のGKを起用する際は、よほどボールを捨てた状態からのプレーに自信がある(自陣にかなり引いて守っても攻略されず、かつロングカウンターに長けた選手を要する、など)場合でなければ、GKのロングフィードをマイボールにできる選手を前線のどこかに置きたいところ(日本代表ではSBの酒井宏樹だったりもしましたが)。

  • しかしこの日の磐田はサイドにクルークスと松本、トップに渡邉、トップ下にジャーメインという布陣で見たところあからさまなターゲットはおらず、マテウス ペイショットはベンチスタートでした。
  • この布陣でどうするのか?と思って見ていましたが、キックオフから最初のプレーで早速磐田はロングフィードからチャンスを作ります。この時はジャーメインが左に流れて髙尾と競り、渡邉も岡村を引き連れながら流れてきて、岡村が渡邉にブロックされながら頭でクリアしたセカンドボールをSB松原が拾ってボックス内から右足シュート、という場面でした。
  • 以降、磐田は渡邉がトップ、ジャーメインがトップ下のような縦関係でプレーしていて、主に渡邉に長いボールを蹴る機会が頻繁にあったのですが、渡邉は中央で岡村と正面からやり合うのではなくサイドに流れたり、岡村(や、大﨑)が一度コントロールした次のボールを狙ったり、前で受けると見せかけて裏に抜けたりと多彩なプレーで”9番”としての役割を全うします。

  • ただ、渡邉が競る、というか潰れて、ジャーメインがサポートして…というところでなんとかコンサ陣内でマイボールにはしたとして、磐田のフィニッシュはほぼ全てがサイドからのクロスボール。右のクルークスと左の松本の攻撃参加を待たないと磐田はシュートに持ち込めなさそうですし、その間にコンサのDFは揃ってしまいます。
  • かつ、ジャーメインも下がった位置からスタートするので、磐田のサイドの選手がクロスを供給したい時になかなかゴール前にポジショニングできない状況でもありましたので、磐田はサイドの選手の片方というかは両方が長い距離を走って攻撃参加することが必要で、体力的にかなりきついサッカーだったという印象です。

渡邉りょうの頑張りと、ボールにアタックできない構造の磐田:

  • GK川島と菅野の能力差もあって、ボールを落ち着かせることはコンサの方が磐田よりも数段上ということで、徐々にコンサが後方でボールを持つシチュエーションが増えていきます。
  • 磐田は1-4-4-1-1の陣形でセットしますが、全体的に重心は高めで、DFの背後には武蔵なら十分に強襲できるスペースがありました。それにもかかわらず、GK川島はあまり飛び出しの判断が良くないため、高めのライン設定で守るのはまずこの点で難しそうに見えました。
  • コンサのGKとCBがボールを動かしているところに、渡邉が基本的には1人で追い込もうとしてきますが、このシチュエーションはかなり無理があります。仮に中央で詰まればコンサはサイドのDFを使えばいいし、そこに磐田のSHはあまり出てこないので、この磐田の前線守備での対応には連動性を感じませんでした。

  • おそらく磐田のイメージは、コンサが2CB+アンカー1人の形になるので、アンカーのところにジャーメインをつけて中央で自由に展開させないというイメージだったのだと思います。しかしこの日のコンサはそのいつもの形とは異なっていて、青木と駒井が常に中央に2人並ぶ形で、前線は完全に武蔵とスパチョークの2トップでした。

  • 普段ならこの並びならスパチョークが左シャドー、青木が右シャドーで武蔵が頂点なのですが、おそらく青木も左が得意なので、無理やり右に当てはめるのではなく左に置くことにした(選手の判断なのかチームで決めたのかは知りませんが)のでしょう。
  • これによって、青木が普段よりも1列か0.5列低い位置にいて、ボールに触ることが容易になったことに加え、磐田はジャーメインが青木と駒井どちらかを見ているだけでは中央を管理する役割を遂行できなくなりました。
  • 磐田はここでシステム変更をして、ここ2試合と同様に1-4-1-4-1にすれば青木と駒井に両方マークをつけることができて対応がはっきりしたかもしれませんが、おそらく磐田の優先順位はそれよりも別のところがより上位だったのでしょう。

クルークスの仕事と岡村の奮闘:

  • セットした状態からの磐田の対応は、基本的には中央密集でサイドは空けていました。コンサは相手がなんだろうと大体はサイドに展開するところから始まりますが、磐田のこの対応は助かったと思います。
  • 磐田はコンサのWBに対してはSBが出るのでしょうけど、そのSBの背後のスペースをどう管理するのかが不明瞭なのか、植村と松原はあまりスライドを全力でできず背後をきにするように慎重にWBに対して出ていたと思います。
  • ここで磐田が特徴的なのは、左の松本はまずまずプレスバックというか後方に下がって対応するのですが、右のクルークスはコンサが磐田陣内に入ってもあまり下がらず、前残り気味になることもありました(下がることもありましたが)。
  • クルークスは磐田のカウンターアタックにおいて重要な役割を担っていました。磐田はサイドにそんなに強く出てこないし、中央も武蔵にはマークがついているけど、青木、スパチョーク、駒井への対応は不明瞭で、正直どうやってボールを奪うイメージなのかわかりませんでしたが、磐田はとにかくなんとかボールを奪ったら中央のジャーメインやレオゴメス、中村を経由して、右のクルークスに展開して、スピードに乗った状態でのカットインからクロスなりシュートなりで決定的な仕事を…というイメージだったのでしょう。
  • コンサはサイドのパクミンギュもそうですが、中央にカットインしてきたクルークスには大﨑と岡村、特に岡村が何度かストップしていて、クロスも難なくカットしていて、この日の岡村は、頼りになる彼が戻ってきたなという印象でした。
  • 先述のように磐田は前線の選手が長い距離を走る必要があるし、またジャーメインが低い位置で関与すると彼も前線のカウンターに加われず枚数不足になるということで、ただでさえクルークスはかなり質の高い仕事が求められる状況だったと言えるでしょう。

  • ジャーメインはこの日、開始早々のセットプレーを除けばシュート1本に終わっていて、それは前半終了間際にクルークスを追い越したSB植村のクロスを中央で合わせたもの。大﨑のチャージを受けていたこともあって枠外でしたが、これが磐田の最大のチャンスだったかもしれません。
  • このプレーがクルークスの単独突破ではなく植村のオーバーラップ(植村の攻撃参加もほぼこの1回だけでした)から生じているということで、磐田としてはクルークスのところをコンサに対処されたのは誤算だったでしょう。

  • 対照的にコンサの右サイドの近藤は開始早々に期待通り?期待以上?の仕事をします。
  • この時を見ても磐田はそんなに引いて守るイメージはないようで、おそらくそれはカウンターを仕掛ける為なのでしょうけど、CBリカルドグラッサが武蔵に食いついたところで、駒井の(得意の?)体の向きとかなり違う方向に足首で蹴るスルーパスが効いたプレーでした。ボールを奪いたいのはわかりますが、近藤や武蔵にこれだけスペースを与えるとそれは”崩れている”状態なのでしょう。

構造は変わらず:

  • 後半頭から磐田は松本→古川。クルークスはまだ様子見で残し、負荷の大きい左サイドを入れ替えるという選択ですが、古川が仕掛けるには足元にボールが必要。基本的に長いボールを放り込むしかないこの日の磐田で、彼の特徴が生きる局面は少なかったと思います。また2トップの消耗も目に見えて明らかですが、戦術的に代わりがいないということで引っ張る印象の磐田でした。

  • コンサは61分に負傷の近藤→宮澤。浅野をシャドーにするために獲得したと思われるフランシスカンですが、見たところWBで使うのはまだ勇気がいるということで、ここはコンサも慎重なカードの切り方をするしかない状況だったと思います。青木が右に回って、磐田としては厄介というかボールを奪うのが難しい選手が中央からサイドに移動したことは、少しは助かる交代策だったかもしれません。
  • 同じタイミングで磐田はクルークス→角。

  • 角は全く知らない選手でしたが右利きのMFのようで、投入直後にカットインから中央で決定機を迎えましたが左足シュートはフィットせず。
  • その後は右サイドまたはやや中央寄りでプレーし、その後右SBに投入される西久保とともに何度か右足アウトスイングのクロスを供給するのですが、この2人が大外から放り込むボールは菅野が難なく処理できる質のもので、いわゆる”工夫”が欲しい(もっと内側から蹴るとか菅野が出られないところに蹴るとか)という感想で、クルークスを下げても磐田は生命線のサイドアタックがイマイチでしたし、札幌がうまく対処したと言えるでしょうか。

  • 磐田が切り札のペイショットのカードを、西久保と共に切ったのは75分。もう少しオープンというかコンサが崩れている状況を待っていたのでしょうけど、なかなか思い通りの展開にならず、サイドにフレッシュな選手を入れて強引にクロスを放り込んでなんとかしたいという意図を感じましたが、結果的にはペイショットが活きるボールはほとんど供給されませんでした。
  • コンサは71分にバカヨコ、馬場、中村桐耶を投入。中村はこの日の磐田相手だと、対面の角と西久保がサイドから右足のアウトスイングクロスしかないこともあり、再三クロスをカットして難なく対処できていたと思います。


  • なんとかチャンスを窺う磐田でしたがセットプレーから終了間際にコンサが追加点。

雑感

  • 数字的にはまだ可能性がある方だとはいえ、この様子だと磐田もかなり厳しくなってきた印象を受けました。コンサが不用意にボールを捨てるようなプレー(馬場はそういうのが多かった)をしなければ磐田がボール回収することも難しかったですし、守備と攻撃のバランスをどのあたりに設定するかも見出せていないように思えます。
  • そんな磐田相手ということで、また序盤の近藤の個人技爆発もあり、コンサらしくない2-0というスコアでの勝利でした。そんなにシュートチャンスがたくさんあったわけでない(スポナビ集計ではシュート6本)ですが、結局はいかに失点を減らせるかが今後もポイントになるでしょう。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。

0 件のコメント:

コメントを投稿