2024年8月8日木曜日

2024年8月7日(水)明治安田J1リーグ第25節 横浜F・マリノスvs北海道コンサドーレ札幌 〜逃れられぬ課税〜

1.ゲームの戦略的論点とポイント

スターティングメンバー:



  • 7/20以来のリーグ戦となる再開初戦。マリノスは7/21から7日間オフ→7/28からトレーニングを再開し、8/3にニューカッスルとの親善試合を消化してこの試合に臨みます。ですのでトレーニングとしては中断期間に7日程度しか行っていないようで、7/15にキューウェル前監督と契約解除、ハッチンソンコーチが指揮を執る体制変更があった割には、インプットよりもリカバリーを優先したという印象です。
  • メンバーはキューウェル体制とさほど変わらず。ニューカッスル戦では新加入のジャンクルード(アジアンベ)がCBで試されましたが、この日はメンバー外で上島を選択。
  • 前線は、植中はパリオリンピックからの敗退が決定したのが8/3でしたがベンチ入り。今節各地でオリンピック代表組は軒並みベンチスタートという状況です。トップ下は天野の出番も増えていましたが、セルヴェットから復帰した西村が復帰後初スタメン。主な負傷者は永戸と渡邊泰基。

  • コンサは7/25からトレーニング再開と、ややオフは短めで調整してきました。中断期間に「6人目の新加入選手」がシエラレオネ代表歴のあるFWアマドゥ バカヨコと判明し、彼以外の新加入選手は登録が済んでいる状況ですが、この試合のスタメンは中断前に(大﨑加入もあり)持ち直しているように見えるメンバーを送り込んできました。両チームとも夏加入の選手で、シーズンが異なるリーグから加入した選手はまだコンディションを上げている途上という状況でしょうか。
  • 7/30に予定されていたセビージャ戦が中止となったことで、これらの選手のクオリティを図ることが難しくなったのは残念だったかもしれません。主な負傷者はスパチョークとキムゴンヒ。

2.試合展開

強力トライアングルで先手を取ったマリノス:

  • ちゃんと測っていないのですが、気象庁等の情報を辿るとキックオフ時点での気温は32度くらい、「体感温度指数」はマックスの100(「外に出ると猛烈に暑さを感じる」らしいです)というコンディション。まぁ札幌でも体感温度指数は90だったらしいですが。
  • 時計が20時を回る頃(試合時間は前半の20分すぎくらい)にちょっと涼しくなってきたなと思ったら雨が降り始め、それはやがて猛烈な雨に変わり今度は視界確保も困難になる、という最近よくある天気でしたが、後半には落ち着いたのが幸いでした。

  • 高温多湿のコンディションということで、普段よりも動きが全般に鈍るとするなら、マンツーマンでずっとついていくという対応にはかなり不向きだと言えるでしょう。
  • そしてコンサは前半ほとんど自陣からボールを運ぶことができなかったのですが、これはさまざまな要因があるでしょうけど、守備で普段以上にエネルギーを使う状況下で、ボール保持の”ターン”になった時にはさらに疲れている状況だったのかもしれません。
  • 加入後、瞬く間に重鎮となっている大﨑にボールが入ることも少なかったですし、大﨑が受けた時に既にマリノスの選手に捕まっている状況で(マリノスもコンサのボール保持に対してはマンツーマン主体)、そこで我慢しつつ剥がしていくエネルギーは、大﨑も普段より欠けている印象でした。なお大﨑は交代まで、自身の背後や左右のカバーリングを非常に頑張っていた印象でした。
  • あとはボール保持⇆非保持の選手移動が多いコンサは、移動が完了してからプレーを開始することが望ましいのですけど、暑いとそうした移動の際の動きも鈍ります。GK菅野からすると、自分がボールを持っている時になかなか味方のポジショニングが整わない、その間に相手が寄せてくる、ということで、仕方なく前に蹴る選択をとっていたのかもしれません。

  • そんなコンディションということもあってか、ボールを持っている時のマリノスのアプローチは、人はあまり走らず、ボールを縦方向に走らせることで敵陣に侵入して攻撃機会を作ろうとしていたと思います。
  • ほぼ純粋なマンツーマンのコンサ相手ということで、やはりGKポープが唯一前を向いてボールを配給できる状態。ポープはFWのアンデルソンロペスか、中央に絞ったウイングに長いパスを出して、彼らがキープに成功すると一気に反対サイドのウイングに展開して前線のブラジリアン3人+西村という少人数で前輪駆動的にゴールに向かうというのを、まず試みていたと思います。


  • 早速4分にその形からエウベルのゴールで先制。この試合最初に、マリノスがスピードアップしたプレーで、コンサはエウベルが中央に入ってきた時に馬場と岡村でマークをスイッチしましたが、最終的には岡村がエウベルに置き去りにされてフリーでシュートを許してしまいました(こうしたスピードでプレーされると個人で対応というよりはカバーリングしてなんとか守るしかないでしょう)。


頑張って止めれば勝機あり:

  • 一方で前線の選手にGKやDFから長い縦パスを入れていくというプレーをコンサのDFが寸断できれば、↓のようにマリノスの選手が広がった状態でコンサは攻撃を仕掛けることができます

  • マンツーマンで対応していてマークは決まっている、ボールの受け手は基本的にバレバレである、パスの距離が長くボールの軌道を見て前に出るだけの時間はある…となると、コンサのDFにこうしたプレーを要求するのはそこまで難しいことではない。
  • 選手特性的に、岡村とアンロペのマッチアップはDFにとってパワーが問われる状況で、岡村はここでは簡単に負けていなかったと思います。一方でエウベルと馬場のマッチアップは、マリノスの3人のアタッカーの中で最もエウベルが曲線的な動きをするということで、馬場は苦戦を強いられていたと思います。そしてヤンマテウスはあまりコンタクトプレーをしたくないのか、背負って受けてからリリース(背負うのを諦めて味方に任せる)が早いので、マリノスは松原や喜田が近くに寄ってサポートする必要がありましたが、コンサもそこに大﨑や菅が寄せることで、ヤンマテウス付近が最もボール回収がしやすいエリアだったかなと思います。

  • その辺の問題を個人でなんとかして、コンサがボールを握ってマリノス陣内に入ると、マリノスは前線の3選手が戻れないことが少なくなく、ペナルティエリア付近でDF4人+喜田と渡辺で対処する、たまに西村が戻ってくる…という脆弱な体制でなんとか凌ぐという構図が頻発します。
  • 特にサイドでマリノスのSBがコンサのWBに対応すると、SB-CB間をカバーするのは喜田や渡辺になるけども、彼らはまず中央にいなくてはならないので明らかにサイドを突かれるとマリノスは枚数不足に陥っていたと思います。

  • この形(戻らないマリノスのウイングの背後を突く)から生まれたのが13分の、浅野の同点となるゴール。


  • マリノスの危なっかしさというか脆弱さは、コンサゴール付近でプレーしているシチュエーションでも散見されます。
  • マリノスはCB2人だけを後方に残して、コンサは武蔵だけが前残りという構図が多かったですが、武蔵はスペースがあってスピードに乗れる状況なら1人で数十メートルを運ぶことができますし、そうした特徴は絶対わかっているはずなのですが、上島はたびたびそうした得意なパターンに持ち込ませてしまっていました。

  • マリノスはDF1人あたりが担当するスペースが広大すぎて、かつ敵陣でボールを大切にするというよりは、割とシンプルに縦パスを入れる、人が追い越すというよく言えばアグレッシブなスタイル。
  • チアゴマルチンスくらいの能力があるDFがいない現状では、常にリスクと隣り合わせで、より能力のあるアタッカーと対峙するACLでGKやDFの退場が相次いだのは必然という感じがしました(選手個々のパフォーマンスの問題もあるとは思いますが)。

  • 17分には近藤が裏抜け→GKポープが処理→エウベル渡ったところで馬場がインターセプト→近藤にスルーパスでGKと1on1…のビッグチャンスがありましたが、近藤の右シュートはポストの外側を叩いてしまいました。なおこの際、馬場がスライディングしたあたりを見ているとマリノスのDFも馬場も身体が重そうで、この時点でコンディション的に相当きつそうには見えました(完全に投げ出してのスライディングだったので立ち上がるまでに時間かかりますが、マリノスの選手も滑った馬場にあまり反応できていない感じでした)。


増税おじいちゃん:

  • 31分にマリノスがヤンマテウスのゴールで勝ち越し。

  • 中村桐耶があっさり背後を取られてしまったのは寄せ方やタイミングもそうですが、体の向きが足元へのインターセプト決めうちになっていて、背後を取るスルーパスが出てくると反転が遅くなってしまったのはあったと思います。
  • 一方でこれはリスタートからのプレーでしたが、喜田→アンデルソンロペス→松原、と渡ったところでコンサはいずれもボールホルダーに対して寄せられていない。この状況ではボールを持っている選手は簡単にルックアップしてボールを扱えるので、背後を取られたDFだけの問題というよりは、これもコンサの対応だと”税金のような失点”(毎回必ず払う性質のもの)だとは思います。


  • そして雨が止み、気温が下がった後半は立ち上がりから、マリノスがよりボールを大事にするプレーを試みたのに対し、コンサのマンツーマンは相変わらず遅れぎみについていく対応。そんな中で51分にヤンマテウスの抜け出しからアンデルソンロペスが3点目。
  • これも形としては中村桐耶が背後を取られたもので、おそらく渡辺に出たところで駒井がついていくのが遅れたので前に出て渡辺を捕まえようとしたのでしょうけど、この判断はちょっと軽率だったかもしれません。ただコンサの対応がズレていたのは事実ですし、そうしたズレが生じた時にどう対応すべきか定まらないままなのも相変わらずでしょう。

  • マリノスは55分に西村→植中。西村は前線3人があまり行わないアクション…コンサDFを押し下げる、切り替え時のプレスバックなどで非常に効いていた印象でした。
  • 58分にコンサは武蔵の突進から菅。
  • 武蔵は前半にも2,3度ほど1人で突進からボックス内に侵入していて、この日のオープンかつ組み立てが難しい展開だとジョルディよりも武蔵で良かったと思います。

  • スコア2-3となってコンサは中村桐耶、大﨑、駒井→パクミンギュ、宮澤、長谷川。長谷川が駒井の位置に入るのかと思いきや、近藤を最終ライン右に、菅を左に置いたのはマリノスのウイングのスピードを意識してでしょう。
  • 近藤はフィジカルが持ち味で、その意味ではマンツーマンで守るサイドのDFは選択肢としてなくはないでしょう。システム変更直後に2度エウベルからボール奪取に成功していました。ただボールを持っている時は、縦に突っ込むプレーが主なので、そこを田中克幸でバランスをとりたかったのはあるかもしれません。さらに対面が(これまた直線的な)宮市に変わったのもラッキーではありました。



  • 68分にコンサは馬場→田中克幸。70分にマリノスはエウベル、加藤聖→宮市、加藤蓮。エウベルは熱中症に近い症状があったということです。


  • 最後のカードはマリノスが79分にヤンマテウス、渡辺→井上、天野。コンサが84分に浅野→白井(この日15時発の便で横浜に向かったそうです)。
  • 終盤はお互いに速い選手を入れて1発を狙うけど、そうした選手にボールを届けられるかも併せて重要で、コンサは田中克幸がその役割だったのでしょうけど、決定機は少なかったと思います。


雑感

  • 東京都内で土日の昼に外で運動している(屋内のコートが取れないので仕方なく屋外)身としては、基本的にこの時期に外でサッカーのような負荷の高い運動をするのは19:30キックオフでも無理があるというのは理解しているつもりで、このゲームも走行距離とかで定量化できない部分も含めて間延びした大味な展開になった、ということをまず明記しておく必要があるでしょう。
  • 間延びした大味な展開であっても、サッカーはサッカーなので基本原則みたいなのは本来変わらないのかもしれませんけど、コンサの場合は三上GMが「勝ち点を積むには複数得点が必要」として前線の、それもゴール前でプレーするタイプの選手を多めに調達したということで、それらの選手が狙い通り(というか三上GMの場合は”想い通り”か)クオリティを発揮してくれるとするなら、酷暑の横浜よりは空調が効いている大和ハウスプレミストドームでのゲームになるかな、と見ていました。

  • ですので捨てゲームまでは言わないけど、勝ち点1を持ち帰ることができれば上出来くらいの位置付けだと私は思っていて、この試合に関しては結果も内容もあまり追及しても(暑いのはどうしようもないし)ちょっと限度があるな、というところです。ただ今月末の磐田でのゲームもおそらくまだ気温は下がり切っていないので、そこではなんとかしなくてはならないのですが。
  • 繰り返しですがシーズン移行というか、このレベルの気候条件下で屋外でプレーしなくても良い方法はなんらか考えるべきですし、プレーについて何が良いとか悪いとかといった視点で細かく見ていくのはこの問題が解決されてからにします。私は。
  • 選手に関して一ついうと、パクミンギュはDFではなくMFで出場したのが気になりました(菅や中村桐耶のDF起用を解決するために獲得したのだと思っているので…)。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。

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