2022年8月8日月曜日

2022年8月7日(日)明治安田生命J1リーグ第24節 湘南ベルマーレvs北海道コンサドーレ札幌 〜伝え方で決まる〜

1.ゲームの戦略的論点とポイント

スターティングメンバー:

スターティングメンバー&試合結果
  • 湘南は前節は磐田に屈したものの、リーグ戦では神戸、川崎、FC東京、京都、名古屋、ガンバ、広島、福岡相手に8戦負けなしで一気に順位を上げてきました。
  • メンバーはアンカーの田中聡のところに米本、その前のインサイドハーフに茨田がベンチスタートで瀬川を入れ、阿部を2トップの一角に、日本代表に選出された町野と組ませています。
  • 報道ではミシャの長い演説など、危機感を醸し出していた札幌。高嶺が復帰して、左のDFに入れて、ここ最近存在感が低下?な福森がベンチスタート。そしてダイナマイト小柏が初夏を通り越して4/29以来、スタメンだと3/12以来の復帰。これで駒井が右シャドー以外で使えて、青木も菅が出場停止の左WBに回すことができました。

伝え方がよくなかった:

  • 最近こんな本が出版されました。内容的には、まぁ守秘義務とか色々あると思うので読む人を選ぶと思いますが、なかなかない切り口ではあるかもしれません。

  • さて、湘南・山口監督の反省の弁からスタートします。



  • こんな感じで、試合については「ボールホルダーにプレスに行くところ、強度、行き方でパワフルさが出せなかった」としています。これは試合を見ても感じましたし、やはりこの点が一番のポイントになるでしょう。

  • お互いにGKが優秀で、かつそこまで得点力がない。私の予想は0−0のスコアとか、1点を争うゲームになると思っていて、それは湘南サイドも似た考えだったでしょうか。
  • おそらくこの点が、「球際でパワフルさ」が足りなかった理由の一つで、湘南としては、ある程度は札幌にボールを持たせて、後半足が止まったところで勝負する(ここ数試合は故障者もいて札幌は有効な交代カードも持っていない)とするゲームプランだったと予想します。多分「後半勝負」が前半の消極的なスタンスにつながったのでしょう。

どんどんやり直してくる:

  • 湘南の右DFで出場した館のコメントは、

  • ここから一つ切り取るなら、「どんどんやり直してくる」が表現として私は気に入りました。

  • 試合はこんな感じの構図になります。
だいたいの構図

  • まず、湘南は最終ラインに元々あまりパワーがないので、下がって守る(ペナルティエリア内で放り込みを跳ね返す)やり方を採用すると、そのまま押し切られてしまう恐れがあります。札幌の4点目のセットプレーもそういう感じでした(サイズのあるターゲットをマークできる選手が足りない)。
  • ですので湘南は最終ラインは高めに設定する。ただ、そうすると背後を取られて縦パス1本で決定機になるリスクがあるし、札幌にはダイナマイト小柏がいる。スピードのある選手が背後をとるともうファウル以外で阻止できないとするなら、策としてはパスを出される前にボールホルダーに圧力をかけて、ボールを出させないようにするしかない。みんなが認める通り、湘南はここがまずかったでしょう。
  • マッチアップなどは↑の図の通りで、札幌の配置がこれまでとちょっと違う点などは割愛します(これでわからなかったらTwitterとかで質問して下さい)。ポイントは、札幌のファーサイドにいるシャドーとウイングバックが離れる(シャドーは縦に走って、ウイングバックはサイドの開いている、など)と、湘南のファーサイドを守る選手はこの2人を同時に見ることが難しい。
  • 基本的にはゴールに近い、裏に抜けてくるシャドーの選手をマークするのですが、結果ウイングバックへのサイドチェンジが通りやすくなります。逆に、あまりシャドーが動かないタイプだったり、相手が完全に1対1で守る(裏抜けには気合いでついていくとか、GKにカバーさせる渡河)だと、ウイングバックへのマークがきつくてサイドチェンジが通らない、とかはあります。

2.試合展開

そもそものパワフルさに欠ける湘南:

  • そんな感じの構図だったことは、湘南の選手も言及していたり、札幌の試合を見ているとよくあるパターンなのでなんとなくわかる方もいると思います。
  • ただ、こういう図にもコメントにも出てこない要素で、かつこのゲームで最大のポイントとして挙げられるのが、湘南の最終ラインが、札幌の放り込みを跳ね返す・クリアする能力がかなり足りていないという点だったと思います。

  • (映像をサクッと貼れる中では)札幌の2点目が典型なのですが、左の青木がショートバウンドをワンタッチで前に蹴る。
  • トラップとかコントロールしないので雑と言えば雑な感じの”放り込み”ですが、この時は右DFの舘が右足を咄嗟に出すもののクリアできず、ボールは中央の小柏のところへ。最後、小柏のクロスの瞬間も、湘南のDFは誰も戻れてない(ゴールを守る、相手をブロックする姿勢が取れていない)状態でした。

  • 以前DAZNの番組で内田篤人氏が、リヴァプールのファンダイクのプレー(GK・DF間に蹴られた低いバウンドのクロスを右足でクリア)をみて、「簡単そうに見えるけどミスったらオウンゴールとかあるし、しっかりクリアしてるのはすごいしうまい」と言っていましたが、まさにこの舘のプレーはウッチーが指摘する点が重なるところがあって、(青木のボールは簡単じゃなかったにしても)ここでクリアできないなら、3バックだけで守るのは不可能ということで、簡単に3バックが晒されて相手のFWと勝負するのは無理ということになる。
  • じゃあどうするかというと、3バックだけでなくてもっと枚数をかけて中央を守るべきで、DFのすぐ前にMFを置いてDF・MF間を詰めて守る、MFは前に出ない、とか、本来ロジック的にはそういう策が求められます。

  • あるいは、札幌の話をすると、札幌は組織守備というより1対1で守るチームなので、この湘南以上に札幌のDFは簡単に相手のFWとの戦いにさらされることが多い。
  • ただ、札幌は田中駿汰や高嶺もそこそこの強度があって、何より中央に岡村がいる。この岡村が競り合いには非常に自信があって、相手が屈強な外国籍選手でも下がらずにあたりに行く。全勝とまではいかないのですが、重要なことは、①FWと対峙したときに簡単にDFが下がらない、②競り負けるにしても相手に自由にボールをコントロールさせない。岡村はこの2点が計算できる。湘南にはこうした”本物のDF”がいないので、シンプルなサッカーをやってくる札幌相手に後手に回ってしまいます。

前残りで採算が取れる:

  • 順番が前後しますが札幌の1点目を見ます。

  • 直前の、動画に映ってないところは、ここも札幌の放り込みから、札幌が前線でパスを繋ぐけど最後の駒井のパスが合わなくてゴールキックに。湘南がゴールキックから繋いでいくことを選択して、左サイドの高橋に渡ったところで札幌の守備に引っかかる…というところでした。
  • まず映ってないところ、札幌の放り込みなのですが、高嶺のロングパスを興梠が頭で落としてルーカスが拾う。(若い頃はともかく)興梠はそこまで空中戦が強くないのですが、湘南のDFは興梠のジャンプを自由にさせますし、セカンドボールにも反応できていない。
  • 先ほど重要な点として①②としましたが、競り合いが上手い選手は、ボールに触れなくても相手の選手を体でブロックしたり、ジャンプのタイミングを工夫して自由にプレーさせない対応ができます。FW側だと元札幌のジェイやヘイスが上手くて、ジェイに対して絶対にサイズのあるDFをぶつけてきますけど、ジェイはそれを背中でブロックして、ジャンプできない状態にしてからボールにチャレンジするので、ある意味でボールに触ることはあまり優先してないんですよね。
  • 昨今サッカーのスタッツが多様化していて、その中で空中戦勝利とかクロスボール成功とかは、「とにかくボールに触る」が重視されていると思いますけど、相手が体をぶつける状態で先にボールに触ってヘディングシュートしても、それで強いシュートを打てないとしたらあまり意味がないんですよね。ジェイやヘイスはバスケのスクリーンアウトみたいな感じで相手を潰して、ボールを活かすプレーができる。
  • これが先ほどの②です。DFも一緒で、ボールに触れないとしたら相手のFWに体を当てて(ファウルじゃない程度に)、コントロールできないようにする。そして前をむかせないようにする。いいDFはこれができるし、試合に出れない若手なんかはこの辺りが足りないのかもしれません。

  • 湘南に話を戻すと、湘南のDFは興梠や札幌の前線の選手に自由にさせすぎている印象で、興梠がこれだけ潰されずにボールに触れた試合はかなり珍しいと思います。

  • 先ほどの①は、②とも関連するのですが、放り込まれるボールや縦パスに対してDFがすぐ対処できるなら、あまり下がることにはならないはず。すぐ対処できない、縦パスを潰せない選手は相手にキープを許したり、クリアが前方向に飛ばなくて、攻撃を1発で切ることができずに二次的な対応が必要になる。そして(最近の札幌のキャプテン宮澤がそうなのですが)競り勝てるか自信がない選手は、自分が競り負けて裏を取られたら終わりなので、前に出るか出ないか微妙なシチュエーションではまず下がってしまう。
  • 一人が下がるとみんなでラインを形成しないといけない関係で、全体としてズルズル下がってしまいます。札幌に対する湘南も、こうしたいろいろな要素がありますが、総じてパワフルさに欠けていて、放り込んだだけで簡単に下がってしまう。

  • 先制点のところは、ちょっと怪しいなと思っていたのが、札幌は前に放り込むだけで簡単に前進できるのが多分開始8分ほどで分かったのと、あとは、相手のDFがビルドアップするときに、今日は高い位置から捕まえることを決めていたらしく、となると攻守両面で特に前線の選手は前方向への意識が強くなる
  • 意識が強いだけでバランスも考えているといいのですが、見た感じ、小柏、興梠、駒井は前にずっといる状態になりかけていて、そのスペースを使って湘南がボールを運ぶとチャンスになるかな?と思って見ていました。
  • ただ、湘南が、札幌のマンマークに対して、間延び気味のスペースを使って運べる感じはなくて、田中聡がいたら違ったかもしれませんが、苦しんでボールを下げてしまう。

  • ですので札幌はボールを持ったら放り込みで前進できる、前からの守備も割とハマる。湘南は守っている時は簡単にクリアできなくて押し込まれ、ビルドアップにも苦戦する。ゲームの重心は湘南側の陣地に傾いて、小柏や興梠はあまり下がらなくてもOK、な構図だったと思います。そんな中で、先制点はプレスがうまく引っかかって、かつ札幌の前の選手が高い位置を取っていたのが有効でした。

  • 最後に札幌の3点目にも触れます。
  • これも高嶺→興梠。またも大野は興梠をフリーにしていて、胸でセーフティにコントロール。
  • 興梠がパスをした方向と、湘南の左DF杉岡の動きに注目してほしいのですが、まず杉岡は大野の背後を守る(カバーする)ように動いている。先ほども書きましたが、DFが1人で守れないなら誰かがカバーするしかない、という判断になります。
  • 興梠がパスしたのは、大野から見て左。ここは本来杉岡が守っているところの前方で、杉岡が大野の背後に回っていなければ、前に出て最後シュートをブロックするとかは間に合ったかもしれません。これはミスっていうか構図の問題で、札幌の選手1人(興梠)への対処に湘南は人を割きすぎていて、他のところで足りなくなっている。この試合の典型的な図式が垣間見れたゴールだったかもしれません。

雑感

  • ここ最近は湘南には相性が良くて、それはコンサが個人能力重視の戦い方を押し付けて、湘南がそれを受け入れると、年間予算ないし純粋な個人能力が問われる展開になるため。これは分かっていたのですが、最近のチーム状態からはあまり景気の良い試合展開が予想できませんでした。予想がいい方向に外れてくれてよかったです。
  • それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。なお次節はドームに行くのでスペースはお休みです。戦術的には、湘南や柏相手には、中盤から一人が下がって1-4-1-5じゃなくて1-3-2-5みたいな感じで放り込み中心でしたが、多分そんなにpressingができない神戸相手にはボールを持つ展開でもいいのかな、と思います。前回は駿汰がいなくて岡村を右で使っていましたが、怪我人が戻って、岡村の使い方も分かった今は、自分たち(と神戸の出来)を信じるべきでしょう。

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