2022年5月23日月曜日

2022年5月22日(日)明治安田生命J1リーグ第14節 ジュビロ磐田vs北海道コンサドーレ札幌 〜暴露はないです〜

1.ゲームの戦略的論点とポイント

スターティングメンバー:

スターティングメンバー&試合結果
  • 磐田はここまで5ゴール4アシストと絶好調のラルフこと鈴木雄斗が欠場。後は、開幕時は前線に大津と大森が並んで機動力重視だったのが、前節は右シャドーに上原、杉本健勇を左シャドーに回してトップにファビアン、と幾分か試行錯誤しているようです。
  • 13試合で3勝、勝った相手はGKが退場した京都と、ホームでの名古屋とFC東京で予想通りですが結構苦戦してますね。札幌対策でもあれば、前節東京に勝った前線のセットを意識しているのかもしれません。
  • 札幌は宮澤が出場停止、高嶺が負傷で暫く離脱の見込み。この日は菅野、福森、中島がコンディション不良とのことで欠場。中村桐耶が遠州の地に凱旋のリーグ戦初スタメンで期待がかかります。外国籍選手のうち誰かを前線に入れて、青木を左、菅を最終ラインとかも考えたのでしょうけど、カップ戦の様子も見て中村のスタメンに踏み切ったのでしょうか。

2.試合展開

磐田…磐田の暴露はないです:

  • 開始から磐田は1-5-4-1で自陣にブロックを敷いて構える時間帯が多くなります。
  • 磐田のメンバーは、トップのファビアンは見た感じターゲットマンというか、身体の強さが特徴の選手で、杉本は身体を張るのが得意ではないけど、前を向いた時にゴールに向かう速さやシュート力は脅威になる。
  • 右シャドーの上原は、本来は中盤センターでバランスをとりつつ、アップダウンする選手。遠藤は説明不要。鹿沼はよく知らなかったのですが、2分ほどググるとハードワークが特徴なんですかね。
  • ウイングバックは、袴田は最終ラインのイメージが強いです。松本もウインガーというよりはサイドハーフっぽい感じでしょうか。

  • という感じで、磐田はすごい強烈なカウンターを持っている感じはしなくて、自陣に引いて構えることで、それが札幌に”罠”を仕掛けているようには見えませんでした。
  • 別の言葉で言うと、自陣に引くとボール回収位置は後ろ(札幌ゴールから遠い)になる。後ろでボールを奪ってから札幌ゴールまでボールを運んで、かつフィニッシュに持ち込む手段が必要なのですが、見た感じファビアンに当ててセカンドボールを拾う以外にあまり策が見えませんでした。

  • シーズン序盤に磐田の試合を見た時は、トップに杉本、シャドーに大津と大森で、このユニットだとシャドーに運動量や機動性があって前線からpressingを仕掛けることができる。
  • トップにファビアンだとちょっとpressingを仕掛けるのは無理そうな感じがして、杉本もシャドーで長い距離を走らせるために使っているわけでもないのでしょう。
  • ですので磐田は前線の守備はほとんど捨てて、自陣に人を集めてスペースを消す、後半の勝負どころで大森や大津を入れて、戦い方を変えていくのがゲームプランだったのでは、と推察します。

  • 伊藤監督は「札幌の斜めのボールを警戒」と言っていましたが、この”斜めのボール”はだいたい反対サイドのウイングバック、DFでいうと大外を守る選手を狙ったものが多い。守備側が最終ラインの横幅に5枚揃っていないシチュエーションになると危険で、伊藤監督としてはこのシチュエーションを避けるために、まずは引け、というメッセージもあったかもしれません。

  • その意味では、前半早々に山本のゴールで先制したのは、このディフェンシブな布陣で点が入ったこと自体は当然ラッキーなんですけど、これで札幌が前に出てくるとして、その背後をカウンターで強襲できないのが磐田としては勿体無い展開だったかもしれません。
  • なおゴールに関してコメントすると、山本のマークは金子。磐田は伊藤(6番)が中央からファーに動いて中央にスペースを空けて山本が入ってくる形でした。中村は伊藤に剥がされるんですが、直接的には金子が山本を離してしまったのが問題で、中村に当たってリバウンドが山本の前に転がったのはアンラッキーでしたね。

個人と戦術の色分け:

  • 15分前後くらいで札幌は荒野と駒井を入れ替えます。荒野は序盤からあまり前で、ゴールに向かってプレーする雰囲気が感じられなくて、駒井と入れ替わった時も最初、流れの中での動き(勝手に荒野が下がっているだけ)かと思った程でした。
  • 全然仕掛けてこない磐田に対し、リスクを冒せる状況でしたので、前線に積極的に仕掛ける選手を置いた変化はプラスに作用したと思います。

  • 今日のサッカーだと、最後に相手のDFを崩してシュートを撃つところは個人の特性や感性を制限しないで、その前の段階:崩しのキーとなるドリブルやパスを持っている選手にボールを届けるまではより戦術的、というかプレーのパターンだったり原則を重視した設計が主流になっています。札幌だと金子やルーカスの仕掛けはDFを破壊するポテンシャルがあるから彼らを活かす攻撃をしたいけど、彼らにボールを届けて、かつドリブルで突っ込めるスペースを提供するまでは効率重視で行きたいよね、という考え方です。
  • 駒井はこの考え方に当てはめると、パターンとか原則を守ってプレーするよりは感性や閃き、本能でプレーする役割の方がキャラクター的には本来向いている印象があります。荒野も割とそっち系ではありますが、この日はあまり元気がなかったかもしれません。

ボーイズルール:

  • 磐田は荒野以上に元気がなかったのですけども、ね。元気がない磐田に対し、札幌は後方の選手の攻撃参加も目立ちます。
  • 田中駿汰が以前、クラブ会報誌で語っていたので言質は取れたと個人的に思っているのですが、ミシャは対面の選手がついてくるとかでカウンターの直接的な脅威にならないなら、DFもどんどん攻撃参加すればいい、とする考え方のようです。ここでも1on1主体でサッカーを捉えていることがわかります。

  • 駿汰がCB中央ではなくて右で使われる理由もこれで説明がつきます。CB中央だと、相手のFWは必ず前残りになるのでカウンターに備える仕事がなくなることはなく、だから流れの中で攻撃参加することが難しい。右だと対面はサイドハーフとかシャドーで、一定の守備タスクを持っている(最終ラインに入るとか、駿汰をマークするとか)ので、駿汰が高い位置をとっても背後ガラ空きにならないシチュエーションが生まれやすい。
  • さらにいうと、駿汰にしろ進藤にしろ、攻撃参加したDFが明確なタスクで縛られていないのもミシャのチームの特徴で、だいたいこの手の攻撃参加はサイドでクロスボールを上げるかウイングのサポートをしているのですが、流れの中でシュート撃ったりも全然OKというか個人に裁量が与えられている。
中村etcの攻撃参加
  • 中村に話を戻すと、以前ニッカン保坂記者の記事か何かに書かれていたのですが、「福森の真似をしないことにした」みたいなことを言っていて、それがこうした攻撃参加なんだろうな、とカップ戦のプレーを見ていても感じるところがあり、磐田の選手との関係性を度外視しても攻撃参加が好きなんだろうな、とは思っていました。
  • 加えてこの試合だと、対面が本来は中盤センターの選手である上原なので、上原から即座にカウンターアタックを受ける感じはないし、ファビアンがサイドに流れて中村の背後を突く雰囲気もない、と感じとったのはあったと思います。これについては岡村がうまくファビアンの相手をして、周りの選手を助けていたとも言えます。

  • 深井の同点ゴールもこうした構造がいくつか見え隠れします。
  • 磐田はやはり(CV杉浦コーチ)、ゴール前に枚数を用意してスペースを埋めることを優先することもあって、あまりDFがボールにアタックできない。この時はシャドーの杉本が最終ラインまで下がっていますが、まず杉本がここまで下がる構図が既に問題というか、リソースをうまく活かしきれていないとも言えますね。
  • その杉本と対峙したルーカスが小さいモーションで中央にクロスボール。札幌は中央付近に駒井と深井で最低限の枚数が揃っていました。青木のように動いてゴール前からいなくなる選手がいると枚数不足に陥りがちなのですが、深井も中村の話と同様、対面の選手に脅威がなくて、かつ荒野も岡村も後ろにいるということで攻撃参加した判断やゲームを読む能力が、まず賞賛に値するでしょう。

  • シュート自体は結構難しいと思います。速いボールがこの高さに来ることを予測していたんでしょうか?DFの山本も虚をつかれた感じの対応になりましたが、ルーカスにも深井にも磐田はアタックできずに後手に回っていて、DFが残っているだけの対応になってしまいました。

「運ぶドリブル」の重要性:

  • 特に展開変わらず、札幌的にはイージーな力関係のまま後半。磐田はまだ我慢の時間だったかもしれません。55分に駒井のゴールで札幌が逆転します。

  • 私が月一くらいで「conducción」(運ぶドリブル)ってTwitterに書いていたと思いますがこのプレーを見れば重要性がわかると思います。
  • 中村が中央で受けて(この、受けれるところに入っていった動きも良かったですね)、スペースがあるところではドリブルでとにかく前に運ぶ。厳密には遠藤がいたのでスペースは埋まってるんですけど、遠藤に中央を1人で守るディフェンスのクオリティは予想通りないですね。
  • 磐田はこのことは覚悟で遠藤を使っているのでしょうけど、だとしたらもっとボールを保持して札幌の速い、ダイナミックな展開に遠藤が晒されるような試合を避けなくてはならない。

  • 動画の5秒(中村が遠藤をかわしたところ)から9秒(青木へのパス)くらいまでを俯瞰的に見てほしいのですが、中央のスペースにドリブルすると絶対にDFを引きつけることができるので味方がフリーになるんですよね。
  • このプレーで青木がDFの背後を取った状態でボールを受けて、得意の仕掛け(切り返し)が発動して、ガタガタになっている磐田DFの背後でフリーの駒井に完璧なアシスト。前節40メートルくらい全力で走った後にシュートミスした青木に文句を言っていたおじさん達は、ボールをクリーンに届けることの重要性が少しはわかるのではないでしょうか。

  • スコア的にも後手に回ってしまったところでようやく磐田が動きます。59分にファビアンゴンザレス→大津、袴田→吉長。65分に鹿沼→大森。大津はそのままセンターFWに入って、ファビアンにはない裏抜けをしたりで岡村を困らせようとする役割。
  • そして右WBに吉長、右シャドーに大森で、ここでマークが緩くなると突っ込ませて打開を図るイメージだったのかもしれません。ただビルドアップにあまり仕組みがなくて、彼らにボールが入っていた印象は乏しいです。札幌は、中村を下げて菅をDFに回したのは、これらの対策だったのかもしれません。

  • 最終的には磐田は枠内シュート1本、ゴールだけだったようです。終盤オープンになるかなとも思ったのですが(コンサには珍しく)そんなこともなくて、ドドちゃんが時間稼ぎを遂行してゲームを寝かせ、見事な試合運びで勝ち点3を持ち帰りました。

雑感

  • まず磐田が元気がなく、加えて札幌に対して受け一辺倒でゲームプランをミスってるな、という印象でした。ミシャチームに対して5枚のDFと4枚のMFで引いて守るというのはかなり陳腐化したやり方で、数年前のJ2チックなスタイルは自らの首を絞める選択だったと思います。
  • 札幌は引いてスペースを消してくる消極的な相手に対して、ベテランの技術が使えない中で、若手の勢いというか積極的な仕掛けが勝利につながりました。「誰が出るか」は確かに大事なんですけど、「どうプレーするか」がポイントなので、その意味でも指針となる振る舞いを若い選手が見せてくれたのは非常にいい材料でしょう。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。

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