2022年5月5日木曜日

2022年5月4日(水)明治安田生命J1リーグ第11節 ガンバ大阪vs北海道コンサドーレ札幌 〜あくまでトレーニング〜

1.ゲームの戦略的論点とポイント

スターティングメンバー:

スターティングメンバー&試合結果
  • ガンバはボール非保持の形を意識して、4バックの1-4-4-2と表記します。ただ中村がボール保持の際に中盤右寄りのインサイドハーフっぽく落ちてきて、1-4-1-2-3にも見えました。
  • シーズンでは3バックの1-3-4-2-1も併用しているようですが、宇佐美が長期離脱した現状は採用理由に乏しいでしょうか。福田がシャドーというのはもう少しパンチ力が欲しい印象です。あとは3バックなら昌子、三浦、クォン ギョンウォンを並べられますが、新監督の体制に代わってこの重厚なユニットのビルドアップ能力がボトルネックとして顕在化している印象があります。
  • 最終ラインは高尾と福岡が負傷で、左利きの黒川が右でスタート。小野瀬が下がる場合もあるようですが、黒川を”あえて”使った理由はガンバのオフィシャルで片野坂監督が丁寧に言及してくれています。
https://www.gamba-osaka.net/report/index/no/832/
Q 左利きの黒川選手を右SBで起用したのは、札幌対策だったのか、それともこちらが何か仕掛けたいという意図があったのでしょうか。 
 まずはチャレンジですね。黒川が右でどれだけ出来るかというところをチャレンジしてみました。
 何故かというと、右利きで右サイドというのも一つあるのと、これまでは柳澤亘が出ることが多かったんですけど、札幌さんの守備が非常に人にタイトに来るので、ああいったサイドのところから左足で潜ったり、左足で展開するとか、中を覗ける選手でもあるので、そういうところから前に対しての攻撃のフィードであるとか、逆サイドに左足で振るとかそういったところを右SBに入ったとしても(黒川)圭介の良さが出るかなというところのチャレンジです。
 彼自身も、右でも左でも出られるならどこでもやりますという選手なので、そういった思いがある選手というのも使いたいと思いますし、そういったチャレンジの中で彼のプレーの幅を広げる、成長に繋がることというのも、右も左も出来るようになれば非常に戦力としてもまた大きくなると思うので、そういうチャレンジを含めてトライさせました。

  • 札幌は、前節復帰した小柏が再度離脱で、前線はシャビエルがトップに入ります。
  • たまたまこの週、私は帰省していて練習を1日だけ観たのですが、(この程度は書いて全く問題ないと思うんですが)その際は紅白戦でルーカスが右サイドを蹂躙し、シャビエルが中央で合わせる形で主力組が圧倒しており、「あ〜シャビエルを真ん中で使ってるのはこのイメージなんだな」と納得しました。
  • なお宮澤が控え組、岡村が主力組で、シャビエルは宮澤のマークの背後を何度もとっていて、これはルーカスの対面(井川とか田中宏武)がイマイチで宮澤はそっちに気を取られていたのもありますが、シャビエルは「シュートがうまい人枠」で中央で考えられているのだなと感じました。

配置すらも異なる弟子:

  • ↑は札幌というかミシャの話なんですが、これはあらゆるチームやコーチに言える話で、前提として選手が違う、環境が違う、バックグラウンドが違えばアプローチもアウトプットも別物になります。
  • ただ、片野坂監督の場合は、大分時代とガンバとで共通点をいくつか感じています。まず基本スタンスとして、あまりpressingの意識は強くないようです。昨今はまずボールを自由に蹴らせないとするチームが主流になっていますが、片野坂監督は自陣のブロックでボールを回収するスタイルを好むのかもしれません。
  • ボールを回収した後の展開も大分時代とそんなに印象が変わっておらず、あまり速い展開を重視しない。自陣のブロックでボールを回収するチームは、相手を自陣に引き込んで背後を強襲するカウンターアタックとセットであることが多いですが、まずはre-positiioningを重視して、そこからわざと遅い攻撃にしているように見えます。

  • 大分時代には
「3人目が“いつ”“どこで”攻撃に関わるかというコンビネーションをつくり、選手に提示するのがミシャ(ペトロビッチ)さんはすごくうまい。そこで相手の守備を上回れば主導権を握り、チャンスをつくれる 

と言っていたようですが、ミシャは3人目というか、スペースがない(作ろうとしない)中で、前線のコンビネーション(ワンタッチプレー)で解決するスタイル。片野坂大分は自陣からのbuilding-upでスペースを作って最後にそれをゴール前で消費するスタイル。配置以外はあまり類似性のないサッカーだなと思っていました(が、配置すらも類似しなくなりましたね)。

  • そしてガンバだと、GKとDFがまだスペースを作るプレーに慣れていないことが、低調なスタートの要因の一つと言えるでしょう。


2.試合展開

ゲームの重心はガンバ陣内:

  • 札幌のボール保持に対し、ガンバは2トップがCBの高嶺と宮澤を監視。ただそんなにボールホルダーに強く当たらないし、GK菅野にバックパスした時も、”狙う”素振りはあまり見せません。
  • アンカーの荒野には奥野が上がって見るようにはしていましたが、いずれにせよ、札幌はGK菅野か、オープンなCBによる長いフィードでビルドアップを”やったことにする”傾向が強いので、荒野や奥野の頭上をボールが飛び越えていくことが多かったと思います。

  • この札幌のフィードは、前線に金子、シャビエル、駒井とターゲットになり得ない選手が並んでいることもあって、札幌のWBを狙って蹴られるものが多い。なお高嶺と宮澤の関係性でいうと、宮澤がまだ高嶺にポジショニングの指示を細かく出すことはあるのですが、個人としてボールを持てる選手なのは高嶺の方で、最近は高嶺が持ち出しから蹴っ飛ばすことが多くなっています。
  • WBのルーカスも菅もそんなに空中戦には強くない(ただ菅は競り合い自体は強い)。ただ、ガンバは札幌が前線に5枚を並べる形に対し、基本的には横幅4枚で守っていて、SBの黒川と藤春が札幌のWBとマッチアップする。
  • ガンバのSBもそんなに空中戦に強くはないので、相対的な関係性でいうと、少なくともガンバのSBが札幌のフィードをクリーンに跳ね返すことはできない状態だったと思います。
  • そうするとセカンドボールはガンバの最終ラインのすぐ前方くらいに落ちる(ヘディングでのクリアの飛距離があまり出ない)のですが、このエリアにセカンドボールが落ちると、ガンバの1-4-4-2で守るブロックの2列目の「4」が、セカンドボールの処理のために後退しなくてはならない状況になります(福田、小野瀬、そして中村が前で待っていてもボールが配球されない)。

  • ですので札幌のフィードは別に成功しているわけではないのですが、ガンバの陣形を押し下げることはできていて、それは結果的に、札幌の前進を容易にする。下がったガンバは更にpressingの圧力が下がって、宮澤も高嶺も、荒野も自由にボールを持てるようになります。

空虚なスパーリング:

  • スポーツナビのスタッツだと、札幌は試合を通じて8本の枠内シュート。うち1本はシャビエルのPK失敗だとして、7本のシュートをガンバのGK一森にセーブされていることになる。一森のパフォーマンスが良かったのもありますが、ここまで1試合平均で得点数が1点未満の札幌はフィニッシュに問題があります。
  • さて、札幌は宮の沢でのトレーニングでは、ルーカスの右突破から、シャビエルや駒井が中央で合わせて得点を重ねて主力組が控え組を圧倒していました。
  • なんでこれができない?との問いに対する答えとしては、色々ありますが、トレーニングだとハーフコート強、10分か15分くらいを区切りとしたミニゲームなので、オフサイドがなく、またボールを持ったらどこからでも前線にフィードができるし、ピッチが狭いので選手間のデュエルやトランジションが多発する、といった特徴があります。
  • 特に最後の部分が重要で、控え組には若手選手も多いため、主力組がボールを奪うことが多く、それをすぐに前線やサイドに展開して、控え組の守備が整わないうちに速い攻撃を仕掛けてフィニッシュ…というものが多かったです。

  • 実戦ではこうはいきません。単純に選手の能力が違うから、もあるのですが、一番は前線の仕掛ける役割の選手にボールをクリーンに届けるには蹴っ飛ばしているだけでは不十分で、ビルドアップの仕組みが必要だからです。
  • ボールがクリーンに届いてようやく1on1での仕掛けになり、仕掛けて勝った時にDFラインにスペースがある状態になれる。札幌はクリーンにボールを届ける仕組みがないので、ルーカスフェルナンデスに渡るまでに時間がかかり、その間にガンバDFは戻っているので、シャビエルや駒井がゴール前で待っていてもシュートまで持っていけるスペースがない。
  • 一応、前半に駒井、後半に荒野、菅がGK一森を脅かすシュートを放ってはいるのですが、これらは全てクロスボールをダイレクトでシュートしたもの。ワントラップせずにダイレクトで狙うと、スペースがない中でもシュートまで持ちこめることもありますが、ゴールとGKを見てシュートすることが難しいため成功率は下がります。GKのビッグセーブは誉めるべきですが、この点は攻撃側にも改善の余地はあるでしょう。

one playで帳消し?:

  • 一方のガンバは、同数で守ってくる札幌に対し、序盤はボールを簡単に蹴ってイーブンにすることが多かったと思います。
  • 片野坂監督の期待は、右に入った黒川だったり、トップの中村だったりがなんらかボールを運ぶことだったかもしれませんが、「受け手を全員マークしている」札幌の性質上、ドリブルがある後者のような選手の方がより重要だったでしょうか。

  • ガンバのボール保持時の均衡状態が徐々に崩れていったとしたら、札幌の左FWを務めるシャビエル周辺だったと思います。
  • ガンバのDFとMFには札幌のマンマークの守備を剥がすクオリティがそんなになく、個で剥がされるよりはマークのずれから何かが起こる。ガンバは後方の選手があまり近くに寄りすぎないことはおそらく意識していて、そうなるとボールに寄せて奪いにいきたい札幌の選手のマークが外れることがある(▼でいうと駒井と奥野の関係)。
  • 札幌のこのあたりの対応は、常に人についていくというよりは個々の判断で原則通りに動かないことがあるのですが、その際は近くの選手がマークを捨ててフォローすることで成り立っているのですが、シャビエルはそこまで気が利かないというか、長い距離を走れないので、シャビエル自身がGKに出ていけばCBが空くし、他の選手のカバーにも走れないという状況だったと思います。
ガンバが拡がってプレーすると札幌は走る距離が長くなり次第に綻び

  • この中盤で奥野がフリーになり、ガンバの選手がかなり大きめのスペースを享受している状態がガンバにとって最大のチャンスだったでしょうか。それ以外だと、札幌のDFを明確に個で打開できる様子がなく、ガンバにとっても前半は閉塞感のある展開だったと思います。
  • ただ、前半終了間際、札幌のCKからクォン ギョンウォンが宮澤を倒してPK。これを一森がシャビエルのキックを読みきってセーブし、吹田スタジアムの雰囲気は一気に盛り返した感がありました(逆にこれがなければどうなってたのか)。

貯金の枯渇:

  • ガンバは後半頭から黒川→柳澤、レアンドロペレイラ→山見。ただ山見が宮澤に対し、スピードで脅威となっていた感じもなく、57分に中村→パトリックで再び「9番」を入れる布陣とします。

  • 札幌は60分にシャビエル→トゥチッチ。
  • 先述の通りビルドアップがクリーンにできないので、まず前線にボールをどう届けるか、から考える必要があります。
  • この点で、シャビエルはポストプレーがそんなにうまいわけではないし、そもそも「シュートがうまいから」でトップ起用してるとしたら、ボールを収めるために下がってくるのはチームにとってプラスと言えるかは微妙です。
  • ただシャビエルは、”なんらかボールが札幌ボールになった後”(例えばシャビエルが頑張って競り勝つとか、ガンバDFのクリアが不十分とか)に、味方にボールを展開するのは流石にスムーズ。トゥチッチにはこのスムーズさはなく、ほとんど前で張っているだけで、トゥチッチが入ると、終盤更にオープンな攻防になるまで、札幌はほとんど、頭を狙ったクロスボールしかなくなってしまいます。

  • 終盤は恒例のオープンなオフェンスから札幌に3度ほど、ガンバに1度ほどチャンス。両GKが見事なパフォーマンスで、スコアレスドロー。札幌は4試合連続の完封ゲームですが、「安定」や「堅守」といったワードが適合するかは、いまいち実感のないところです。

3.雑感

  • トレーニングだとシャビエルが足でシュートを決めまくっていますが、実戦だと相手のブロックを崩すに至るリソースがないので、やはり頭を狙ったクロスボールが頼みの綱になります。
  • その意味では、たらればはないですが、前半に金子?が右から浮き球のクロス→ファーサイドでフリーのシャビエルがヘッド…も空振りの場面。たらればはご法度ですが、FWの選手ならこれは頭には当てれていたと思います。
  • 「左右に揺さぶる」という意味ではクロスボール自体は有効ですが、トレーニングでやっていたような低くて速いクロスは、相手DFにスペースがないと成功しないんですよね。となると頭しかない。じゃあトップの人選は…。それではみなさん、また逢う日までごきげんよう。

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