2021年4月4日日曜日

2021年4月3日(土)明治安田生命J1リーグ第7節 アビスパ福岡vs北海道コンサドーレ札幌 ~閃きの母~

1.ゲームの戦略的論点とポイント

スターティングメンバー:

  • ドウグラス グローリが出場停止、ブルーノ メンデスを故障で欠く福岡は、いずれもリーグ戦初出場となる渡と奈良が先発。そして湯澤が左MFに入り、自陣では5バックで守る陣形を採用します。
  • 札幌は、U24代表招集中に負傷した田中に変えて岡村がリーグ戦初先発。2021シーズン初となる宮澤のCB起用は、岡村との兼ね合いを考えたのがまず思い当たります。第2節以降離脱していた小柏はベンチに復帰しましたが、青木はまたも体調不良でメンバー外。中野嘉大の鳥栖への期限付き移籍もあり、一気に手薄感を感じさせます。
スターティングメンバー&試合結果

アビスパのゲームプラン:

  • この試合に限った話ではないですが、福岡は基本的にはボールを持たないで戦うチームに仕上がっています。そして相手にボールを持たせた後の選択は、自陣ではね返してロングカウンターというよりは、機を見て敵陣高い位置からのプレッシングで積極的にボール回収を狙い、なるべくショートカウンターっぽい形からのフィニッシュを狙う。
  • これに対し、対・札幌ということで福岡は、札幌は90分間もたない戦い方をするので前半を耐えればチャンスはあると考えていたと予想します。これまでの札幌の試合を見てスカウティングしていると仮定して考えても、またこの試合での振る舞いからも、こうした空気?は感じられました。


試合を寝かせるための用意:

  • ゲームプラン遂行のため、福岡は2つの陣形を使い分けます。
  • 札幌が自陣でボールを保持している時は[1-4-4-2]。もしくはプレッシングを仕掛けるための陣形だと考えると1-4-2-4とも言えますし、いずれにせよ前線も最終ラインも横幅を4枚でカバーします。
  • これを何らか突破され、自陣で守らなくてはならない状況になると素早く撤退。そして時間を稼いだうえで最終的には、左MFの湯澤とFWの山岸が1列ずつ下がって[1-5-4-1]になります。

2つの陣形を使い分ける
  • 人気者・反町監督の松本山雅や、城福監督のサンフレッチェ広島が典型ですが、それなりに強いDFを揃えた5バックはやはり失点しないという点では一定の計算が立ちます。一方で、1-5-4-1にしてしまうと前線に1人しかいないので、その1人のFWがとにかくクリアボールを収めるとか、スペースに滅法強くてルーズボールを勝手に拾ってカウンターしてしまうとか、スーパーなFWがいないと、相手に押し込まれた状態が続いてしまいがちになることも定石となっています。四方田札幌が、2017年夏の、ノースロンドンのライオンハート・ジェイの獲得までは2トップを基本としていたのもこのためです(チャナティップの加入も大きかったですが)。
  • 福岡が1-4-4-2と1-5-4-1を使い分ける理由、もしくはずっと自陣で守る選択をとらないことも上記の考え方によるもので、引いて守るだけではジリ貧になってしまう。だから何らか札幌陣内でプレーすることが必要だが、最初からボールを持ってプレーする(撃ち合い)のは分が悪いので、プレッシング主体のやり方になる。スタメンもこの戦い方に合う選手がセレクトされています。

名将が炙り出す札幌の論点:

  • 福岡が札幌陣内である程度、リスクをかけてプレッシングを仕掛けてくる。これを札幌がなんらか突破して、前線の選手にボールが入った時に、前線に鈴木武蔵のようなスーパーなFWがいれば、前掛かりの福岡守備が整う前にそのスピードでゴールを強襲することができます。しかし武蔵はベルギーに旅立ったので、札幌が福岡のプレスを突破しても、福岡が素早く自陣に撤退すれば簡単にカウンターにはならない。
  • 三上GMやミシャが引き合いに出すアタランタは、サパタ、ムリエルといった「メンタルがタフなナザリト」みたいな強力なFWがいるので、速い攻撃ができますが、小柏とアンデルソンロペスが揃わない札幌相手だと、福岡は札幌の速攻を封じつつプレッシングを仕掛けることはできていたと思います。
  • ですので速いFWがいない札幌の攻撃は、必然とスローダウンして福岡のゴール前でプレーすることになりますが、この時に福岡は[5-4]ブロックで自陣ゴール前を動かない。ジェイ不在の札幌は、ハイクロスに対して純粋な強さで勝てるFWがいないにも関わらず単調な放り込みを繰り返す傾向にあるので、ゴール前に枚数確保しておけば全然怖くない、という分析を恐らくしていたと思います(放り込みが単調すぎる話は、ジェイが健在の時から指摘していますが)。
  • 福岡がこうして札幌対策を徹底すると、札幌のスペースはここ▼(黄色の円)しかなくなります。

スペースを享受できるのはDFのみ
  • 前線のアンデルソンロペス、チャナティップ、そして今や前線のジョーカー的な存在の金子。単独突破可能なこの3人にボールが渡れば札幌にとってビッグチャンス。ただし、前を向いてボールを持ち、周囲にスペースがあり、かつ相手DFと1on1になりやすい状態、という注釈がつきます。
  • それこそ「ドリブルデザイナー」の動画でもないですが、金子が常に志知と1on1で仕掛けられるならともかく、これだけ福岡が人を用意すると、金子にボールが入ると前後左右から挟み込んでの複数での対応が容易になります。これだとメッシかイニエスタでなければ、ボールを受けても何かが起こる予兆はありません。
  • その分、福岡は黄色の円の部分は”捨てている”状態。ここで誰かがボールを持っても、すぐに得点にはならないでしょ、という対応です。
  • ですので、札幌はまず福岡が捨てているスペースを使ってボールを持つとして、最終的に前線の選手が勝負するなら、捨てているスペースを使って福岡のDFを引き付ける、そして前線の選手が得意なプレーを発揮するためのスペースを作ってあげる必要があります。

※音デカいので、在宅勤務じゃない人は音量最小にして再生してください↓

  • 整理すると、福岡がこれだけ引いて守るなら、札幌としてはまずやめたほうがいいのは、DFや後ろに落ちる選手が簡単にボールをリリースしてしまう(放り込む)こと。福岡の選手が食いついてきてスペースができるならいいですが、そうでないなら相手が食いつくまで待つべきです。
  • ミシャがキムミンテにせよ、荒野にせよボールを持っている選手の名前をよく呼ぶのは主にこれを指摘していて、簡単に手放さなくていい状況なら落ち着いて、相手を引き付けて味方を助けろ。宮澤はこれができてサイズがあるということで最終ラインでしばしば試されるのだと思います。
  • ようやく論点に入りますが、この点で岡村はかなり微妙、というか田中駿汰と比べると明らかに見劣りし、ボール保持においては殆ど役割を果たせなかったと思います。
  • 後半の失点シーンも、CKで岡村が奈良に競り負けたところが直接的な原因でしたが、その前にCKに繋がる福岡のショートカウンターも、岡村がスペースがある状態でボールを受けたにもかかわらず、相手を引き付けることなくイージーにボールをリリースしたところから福岡がボールを回収しました。
  • ですので、ボールを持たされることが分かり切っているゲームだと、まだ岡村は戦術理解というかボール保持の際に足りない部分があります。ただ、実績のあるDFが3人しかいないこともあって、伸びてほしい選手ということで起用に踏み切ったところもあるのかもしれません。
  • ボールを持っている際に前線に上がったり、ターゲットになろうとしたりもしていましたが、これは進藤と似たようなムーブであまり推奨されません。進藤も徐々に「ボールに関与しない攻撃的DF」にプレースタイルが落ち着いていき、結果、相手を引き付けてプレーすることを半ば放棄してしまったような状態で移籍したと思っているのですが、まだロティーナの記憶が残っているセレッソで苦戦しているとしたらその要因の一つかもしれません。


2.試合展開(前半)

時間の創出方法:

  • 基本的な構図は既に書いた通りです。福岡が1-4-4-2でプレスをして撤退後は1-5-4-1でスペースを消す。
  • この時、特筆するとしたら福岡は自陣でクリアが非常に多い。単に繋げないからクリアしていたと見ることもできるのですが、特にタッチラインを割ってスローインになったり、長いクリアで札幌のGK菅野までボールが届くと、アンアクチュアルなプレーイングタイム(そういう言葉があるのか知りませんが)が増えて、その間に1-4-4-2⇔1-5-4-1の可変がしやすくなります。
  • 福岡のプレスに対して、札幌は深井が落ちる形。駒井は比較的、この試合は中盤に残ってプレーしていたと思いますが、岡村と福森は高めの位置取りであまりボール運びに関与しない。福岡は、札幌がどう変化しようと基本的にはゾーナルに守り、あまり人に釣られてスペースを与えない状態でセットして前4人でプレス。札幌が出しどころに困ってイージーに中央に蹴る(後半の、先述の岡村のロストはそういうのでした)と、重廣と前寛之が回収、という狙いでした。
  • 札幌は福森と岡村がそのまま高い位置をとって、そこに長めのフィードを当てて空中戦のターゲットいしていく、というパターンは割とよく使われるのですが、そんなに推奨されていないのかこの試合ではあまり発動せず。最終的には、宮澤なり菅野なり(日に日に上手くなっている印象があります)がフィードを蹴って、福岡が跳ね返す、という形が多かったと思います。

苦し紛れの…?

  • 福岡の割り切った対応に、札幌は予想通り手詰まり気味になるのですが、30分に例の「福岡が捨てている黄色の円のスペース」から先制点が生まれます。

  • 中央右で宮澤→駒井。駒井は福岡の1列目(1人だから列ではないですが、便宜上、列とします)の渡を越えてもいないポジション。「引き付けてパス」というと、なんらか渡を越えて、前寛之か山岸の近くまで侵入→両方ないしどちらかが動いたところでパス、というイメージになりますが、駒井はルックアップからすぐにリリースで引き付けてはいない。
  • しかし、この浮き球のパスが、裏で動きなおしたアンデルソンロペスにピンポイントで合い、アンロペの珍しいヘッド、それも難易度がかなり高いバックヘッド気味のシュートがゴールに吸い込まれます。
  • よくヨーロッパのトップリーグだと、1列目に1人を残して撤退すると、こうした裏への高精度のフィードが飛んでくるのであまり推奨されないと思いますが、Jリーグ、少なくとも札幌ではあまり見ない質のボールでした。実際ピンポイントでここに落とすのはかなり難しいと思いますが、ともかく脈略のない形ではありますが、福岡の急所を突いた形の素晴らしいパスとゴールで先制します。

3.試合展開(後半)

スペースは閃きの母:

  • 50分頃に例の岡村が関与するボールロストから、52分に福岡がセットプレーで同点。どうも岡村がサイドバックの役割をするのは難しいので、こんなことを思っていた矢先でした。
  • が、直後に最終ラインのスーパータレント・福森がクオリティを見せつけます。

  • 奈良の股を抜けたのはたまたまだったようですが、まるでJ1のチームのような見事のな切り返し+スーパーなシュートでした。
  • 福岡は、金森が突っ込んでかわされたのが悔やまれますが、ただこの時も得点は結果的には「福岡が捨てている黄色の円のスペース」で福森がボールを持ったところから。一定のクオリティがある選手と対峙した際は、多少ゴールから遠くてもスペースを与えるのは勇気が必要になりますし、前半はそうでもなかったですが、福岡としても駒井や宮澤はともかく、福森に対しては簡単に蹴らせるな、という意思疎通があったかもしれません。


ギアチェンジの時間:

  • ちょうど60分を過ぎたところで長谷部監督がカードを切ります。ファンマ、吉岡、石津の投入で前3人をフレッシュな選手に。そしてファンマと山岸の2トップにして、5バックへの可変を最小限にします(石津の投入で、引く気がない意志表示になりました)。
  • 札幌はすかさずキム ミンテと小柏を投入。ミンテはファンマを意識したのか、チャナティップを下げたい時にこのポジションの選手がいないので、やりくり上必要になったのかはわかりません(個人的には、社長がラジオで喋るよりも監督にこういう内容を誰かが突っ込んでくれた方が「現在地の共有」に役立つと思うのですが)。
  • 札幌は、この日も相手2トップに対してキムミンテと、宮澤が下がっての対応。いつものやり方ですが、そうするとアンカーポジションが空きがちになります。

福岡のポジショニングと札幌の対応
  • 福岡はファンマにアバウトなボールを入れるのではなく地上戦で対抗。マンマークの札幌は空くスペースが必ずできるとわかっているからか、ファンマが収めて中央のスペースに石津や重廣が侵入する形、そして左の志知のオーバーラップで札幌ゴールを脅かします。
  • 石津が絞ると、岡村がそのままついていくのか他の選手に任せるのかも不透明。なので、金子も”保険”のため絞ったポジションを取らないといけないので、志知はしばしばファーサイドでフリーになります。
  • 65分にはその志知のクロスからファンマのヘッド。菅野のビッグセーブ(ライン際でボールだけ残すのは得意なんですかね)で難を逃れます。ATにも志知の攻撃参加から左足の強烈なシュートがありましたが、これはポストに嫌われます。

  • 札幌はこのあたりの時間帯、運動量を落ちた/落とした、というよりは、この試合は頭からセーブしていたように思えます。2020シーズンの試行錯誤していた時期も、最終的にはプレッシング強度を下げることでボール回収位置を調節していましたが、2021シーズンは第2節の名古屋戦をピークに強度が下がっているように思えます。
  • それもあって、福岡が特にサロモンソンのところでボールを持てていました。札幌は可能な限りのカード…柳を金子に替えたり、高嶺を宮澤に替えたりとありましたが、印象としてはそこまで守備固めになっていなかったというか、柳は志知に簡単に背後を取られたりで、中央/サイド共にラスト15分は福岡の時間帯でした。


4.雑感

  • まず福岡のゲームプランと対応が見事でシリアスなゲーム展開になりました。非常に妥当というか、札幌の明確なウィークポイント、設計が甘いところを突いていくやり方でしたが、菅野のビッグセーブもあり辛くも逃げ切ったと言えるでしょう。
  • よく「ゴール前で工夫が足りない」「アイディアが足りない」と言いますが、サッカーにおいて一般的な意味でのアイディアで解決する部分とそうでない部分があります。
  • この時、前者についてはアイディアは勝手に湧いてくるのではなく、アイディアが湧いてくる土壌が必要になる。それはトレーニングでいうと創造的なプレーをするための練習だったりするのですが、ゲームにおいてはこれもスペースがあればあるほどアイディアは発揮しやすくなります。福森のミドルシュートも殆ど決まる機会がないですが、福岡の対応は、いつもよりはそうした土壌を与えやすいものだったと感じます。

4 件のコメント:

  1. いつも拝読しております。
    記事にもあったように、二節以降、走行距離が相手チームより劣っているとのデータをTwitterで見かけてから気になっていたのですが、走れないのではなく走らないのかもと思うようになってから腑に落ちたので、個人的にも意図的にプレス強度は下げているのかなと感じていました。
    オールコートマンツーが成熟するのか先なのか、それこそ武蔵やジェイのようなスーペルなFWが加入するのが先なのか(ガブ?)、クラブの行く末は分かりませんが、これからもベコムさんのブログを楽しみにして毎試合楽しんで行きたいと思います。

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    1. どうもありがとうございます。走行距離とか定量データで測れない部分もありますが、アンロペと小柏(金子)のプレスの速さは明らかに落としているように感じてます。

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  2. いつも拝読しています。
    アタランタは宮澤が降りて最終ライン作る時にバイタル空く問題はどうクリアしているんですか?
    あとこの役割は宮澤以外でも田中駿太なら出来ないでしょうか?

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    1. 相手が3バックなら1-3-4-2-1、相手が4バックなら1-3-4-1-2が多いですが、基本的に中盤が下がるんじゃなくてCBが余るなら前に出てマンマーク関係を作って守ってます。

      前者なら、前3人で相手3バックをマーク、WBも対面の選手をマーク、残りの3-2の関係で同数ならそのまま捕まえますし、相手が2トップの1-3-1-4-2とかだとアタランタのDFが1人余って中盤は枚数不足になるんですが、そこはDF1人が前進して捕まえます。
      後者なら、2トップがCB2人をマーク、WBは前進してSB(これはコンサドーレと同じ)。相手にアンカーがいる1-4-1-2-3ならアンカーをトップ下がマークするのでずれが生じない。相手が1-4-4-2なら相手2トップをCB3人のうち2人でマークして1人が中盤の選手をマーク。ただ総じて思うのは、1-4-4-2と言いつつCBの間に1人落ちてプレーするので、その選手を捕まえるのにトップ下を置いているのがはまってますね。

      駿汰ならできると思いますが、そうなるともう最初から4枚でいくないか?って感じですよね。

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