2016年5月24日火曜日

2016年5月22日(日)13:00 明治安田生命J2リーグ第14節 カマタマーレ讃岐vs北海道コンサドーレ札幌 ~厚みを生むfalso centralの攻撃参加~

スターティングメンバー

 北海道コンサドーレ札幌のスタメンは3-4-1-2、GKク・ソンユン、DF進藤、増川、福森、MF荒野、宮澤、深井、堀米、ジュリーニョ、FW都倉、内村。出場停止明けのジュリーニョが復帰、マセードは前節に続いて欠場。
 カマタマーレ讃岐のスタメンは4-4-2、GK清水、DF西、エブソン、岡村、砂森、MF仲間、永田、高木、馬場、FW我那覇、木島徹也。


◆讃岐のシステムについて


 讃岐は開幕戦に4-4-2で臨み、アンカーを置く4-1-4-1も何試合か試している。ここ3試合は千葉戦、町田戦が馬場をトップ下に置いた4-2-3-1、前節の松本戦は木島兄弟2トップの4-4-2だったが、これはどうやら相手の布陣によってかみ合わせを考えているようである。ただ、そうであれば結論としては、この試合はトップ下を置く札幌に対しアンカーを置く4-1-4-1で臨むべきだったと思われる。

1.前半の展開

◆讃岐のボール保持時のマッチアップと札幌の守備対応


 讃岐はボール保持時に馬場を最終ラインまで下げ、両サイドバックを押し出した3バックの形でビルドアップを行う。このとき中央は下図のように讃岐の3枚vs札幌の3枚で数的同数。讃岐のサイドバックには札幌の両ウィングバックが前に出て対応する。ここまでは札幌は数的同数で、マッチアップがはっきりしている。
 札幌の守備は普段と変わらず5-2-3だが、この日はプレッシングの開始ラインが高めである。札幌が数的同数で前線から当たると、讃岐はほぼ必ずサイドバックに逃げるが、この予期されたパスに荒野と堀米の両ウイングバックが厳しく当たることで、それ以上のボールの前進を阻害できていた。
数的同数を生かして高い位置から当たる。ウイングバックの所で前進を防ぐ

◆ボールを持たせてくれる讃岐


 讃岐は前線からの守備をあまり積極的に行わない。札幌の最終ラインはプレッシャーを受けないので、ロングボールをほとんど使わず、より確実なショートパスでボールを運ぶ。
 札幌がボールを運ぶと、讃岐は我那覇を前線に残し、木島徹也が下がる4-4-1-1のような陣形となる。ただ、木島もあまり積極的に守備を行うタイプではないため、讃岐は4-4のブロックの前方、MFとFWの間のスペースをほぼ札幌に明け渡すこととなる。ここで、2トップはあまり積極的に守備を行わず、中央にポジショニングしているだけで、札幌は後方で自由にボールを動かすことができるので、前半の立ち上がりから終始、札幌がボールを支配する。
4-4の前方をほぼ明け渡す
宮澤がこの位置で持っても木島徹也は歩いている

◆札幌ボール保持時のマッチアップと讃岐の守備対応:実態はマンマーク"気味"


 讃岐は4-4-2又は4-4-1-1のような形で守備をセットしているが、実態はゾーンディフェンスではなくマンマーク気味に対応する。特に明確に意識しているのは、WBにSBという部分のマッチアップで、札幌の左WB堀米と讃岐の右SB西のマッチアップが幾度となく繰り広げられた。一方、一段前のサイドハーフ、高木の見るべき対象は上がってくるストッパーの福森となっているが、福森が高い位置に攻撃参加してこない場合は高木もあまり守備に参加しない。
 讃岐は札幌の福森やボランチが4-4の前方、木島の脇のスペースでボールを保持しても、ほとんど守備らしい守備をしてこないので、札幌はウイングバックの堀米までは簡単にボールを運ぶことができるが、堀米にパスを渡すと讃岐はサイドバックの西が堀米に食いついてくる。これにより、サイドバックとCBの間のスペース(ニアゾーン)が頻繁に空くが、讃岐はここを誰もカバーしない。
 ニアゾーンは4-4-2のチームにおいて、ゾーンディフェンスを採用していても空きやすいエリアであるが、マンマークの讃岐の場合は更に空きやすい。例えば下図のようにSBがWBの荒野と対峙すると、ゾーンディフェンスであれば各選手はボールの位置を基準としたポジショニングをとる。一方、讃岐の選手はマークの対象(近くの選手)を見ており、サイドにボールがあるにもかかわらず全体をボールサイドに押し寄せるポジションをとらないので、誰もカバーできる選手がいない。
ボールの位置を基準としない(DFは札幌のFWのマークを受け渡さない)
ので、SBがWBに出てくるとニアゾーンが空く
札幌はSBをつり出してスペースに走り込む:右サイド

 この対応により特に問題が生じていたのは、福森が頻繁に攻撃参加してくる札幌の左・讃岐の右サイドで、福森の担当は讃岐の右サイドハーフの高木だが、それでいて、完全なマンマークというわけではないようで、高木は福森の動きにずっとついていくのではなく、例えばあからさまに福森がドリブルで運ぶ際などは高木が見ようとするが、一度堀米に縦パスをつけて福森がオーバーラップするようなやり方をすると福森の動きについていかない。もしくは、堀米と福森の上下関係が入れ替わった時に、どちらがボールホルダーを見るのかもはっきりしない。
 よって左サイドでは、ボール周辺で堀米+福森vs西という2vs1の局面や、福森が持っているときにどちらが高木と西のいずれもボールにアタックしないといった状況が頻発しており、札幌としてはこの左サイドを基点に容易にポゼッションができる。

◆ボールを持たせてくれる讃岐②


 特に札幌はサイド、主に左の福森のドリブル等でボールを運ぶが、福森やボランチがドリブルで持ち上がっても讃岐の守備は誰が福森を見るのかがほぼ全く考慮されておらず(恐らくマッチアップ的に高木の役割だが)、4-4のラインがズルズルと下がってリトリートするだけ。
 前線2枚が守備をしないとなると、讃岐は2列目の4人のMFによる、4-4のブロック前方をケアする動きが求められるが、札幌がこのゾーン付近まで運んでようやく讃岐のMFはボールホルダーをケアする様子を見せ始める。
 それでいて下の写真のように、4-4のブロックと距離があるポイントでは、ボールホルダーもフリー、間受けを狙う選手(ジュリーニョや内村)もフリーということで、守備の基準点がほとんど存在しないかのような非常にルーズな状況が散見された。またジュリーニョは、この試合はDFとボランチだけでボールを簡単に運べるので下がって受ける必要がほとんどなかった。
ボールにプレッシャーがかかっていないにもかかわらず、人も放置しているのでジュリーニョも内村もフリー

 では讃岐の2トップ、我那覇と木島の役割は、というと、守備ブロックに加えない代わりに、守備時に再前線に我那覇が張り、自陣深くで奪った時の収めどころとする。木島は我那覇と4-4-ブロックの中間に位置し、ボールを運んだり素早く我那覇をサポートしたりする。
 この2人が守備をせず、体力を温存できていることが大きく、讃岐はマイボールにした後、攻撃機会をそれなりに確保できていたのを見ると、このベテランの2トップに無理をせず攻撃に専念させるという、北野監督の戦術的判断は妥当と言えるかもしれない。守備をしない分はマイナスだが、攻撃の形を何度か作れれば収支はプラス、という考え方である。
 ただ、この試合での讃岐のカウンターは、2トップを経由してボールを運ぶことよりも、前で張る我那覇や木島の動きで札幌の残っている増川や進藤を動かして、中盤に空いている広大なスペースを、馬場や西などがロングドリブルで運ぶことでカウンターを成立させることが多いように思えた。

◆"false central"(偽のセンターバック)福森の攻撃参加


 一方、札幌は福森がボールを運ぶと、そのまま高い位置に残らせ、左サイドで4バックのサイドバック然としてた動きを見せる。これは恐らく讃岐が我那覇1枚しか残っていないので、後ろに進藤と増川の2人がいれば十分だろうという判断だと思われるが、この福森の攻撃参加に讃岐は無防備(昨年も対戦しているので福森の特徴もわかっているはず…)で、札幌はここを基点にボールを保持することができる。
 この試合の福森は讃岐が4-4の前を殆ど放棄しているのをいいことに、3バックのストッパーというポジションを超えてサイドだけでなく中央にもどんどん侵入して攻撃に絡んでいく。福森の攻撃時の特徴は、サイドの選手としての資質であるクロスや縦へのオーバーラップだけでなく、中央の選手としてのドリブルや楔のパスも選択肢として持っていることで、サイドでの攻撃参加も、3-4-1-2という布陣でサイド攻撃の厚みを生むために重要であるが、特に今シーズンからジュリーニョが加入したことで、中央突破に繋がるプレーがより活きるようになっている
ストッパーの位置から、サイドにとらわれず中央にも出てくる

◆ニアゾーン・ペナ角の攻略


 先述のように、讃岐は右SBの西が釣り出されたスペース(所謂ニアゾーン)が頻繁に空くが、ここの対応を見ていると、ゴール前ではマンマークで、特に空中戦に強いCBのエブソンと岡村は都倉と内村を見るためにゴール前から動かしたくないので、4バックがスライドする対応は考えられない。また両サイドハーフもあまり下げたくないようである。
 となるとボランチの馬場と永田のタスクだと考えられるが、この時、ボールサイドのボランチがSB裏のスペースを埋めにカバーすると、今度はこのポジションをMFがスライドして埋めることが必要になるが、讃岐は中盤の4人の選手もマンマーク気味に対応していることもあり、スライドしてこのスペースをケアできない。すると札幌はここをジュリーニョや深井が見逃さず、下図のようにポジショニングし、前を向いてボールを受けることができる。この時はエブソンが飛び出してジュリーニョを迎撃しているが、すると今度は内村がフリーになる。
ボランチが裏をカバーすると3人目の選手(この場合ジュリーニョ)が空く

 または、ジュリーニョが4-4の2ラインの前まで降りることで、ボランチの永田や馬場によるニアゾーンのケアを更に難しくしたうえで深井、宮澤が走り込んで受けるというもので、これは前半に深井、宮澤で各1回ずつ見られた。
ニアゾーン(というかペナ角)にボランチが飛び出す

 他にはサイドの深い位置で一度堀米が受けて西を誘い出し、福森やボランチに戻してから堀米がインナーラップするといったパターンもあり、讃岐のサイドバックを釣りだしてできたスペースを使うパターンは非常に多く用意されていた。
堀米のインナーラップ

 まとめると、讃岐の特徴(というか問題点)を踏まえた札幌の前半の戦い方は、
・サイドを迂回してボールを運び、讃岐のFW~MF間、中央から左サイドにかけてを起点にする
・左サイドで福森と堀米の2人でSBをつり出す、空いたスペースをジュリーニョや宮澤が使う
 といったところで、この日の札幌は上記をファーストプレーから徹底している。

◆徹底した左狙い①


 上記のSBの裏を使うプレーと共に、札幌が前半再三狙っていたのが、左サイドからファーサイドに都倉を待たせてクロスをあげ都倉のヘディングの強さを活かしていくプレーで、結果的に先制点もこの形から生まれている。この試合、札幌が上げたクロスは殆どが左からで、右サイドの進藤や荒野は殆どクロスを上げていない。なぜ左からなのかというと、左にいいキッカー(福森、堀米)がいることに加え、讃岐の右サイドには長身のエブソンがいるので、エブソンと都倉を競らせないためだと考えられる。
 まず開始30秒頃、札幌は敵陣でルーズボールを内村が競り、こぼれ球をピッチ中央で讃岐が拾うが、宮澤が素早くフォローしマイボールにする。内村がドリブルで前線に運ぶと、左サイドに展開。この時、讃岐はペナルティエリア角付近でエブソンが出て対応する。左サイドで受けた深井が右足インスイングでクロスを上げると、ファーサイドの都倉が頭で競り勝ち、内村とジュリーニョがゴールエリア付近に突っ込んでくるが、このセカンドボールは讃岐がクリアする。
内村のドリブルにエブソンが出る
深井がクロスを上げた瞬間のディフェンス

◆徹底した左狙い②


 そして次の札幌の攻撃、3:59頃も左サイドからの展開で、堀米を高い位置に張らせて讃岐のCBを牽制してから、最後は福森が右足でファーサイドの都倉にクロス。この時も、都倉は最初ボールサイドにいたが、クロスが上がるときに内村とポジションを入れ替えている。これがクリアされた後の2次攻撃でも、三たび左サイドからファーの都倉へ、という形を見せている。
都倉はボールサイドにいる
クロスが上がるときには都倉はファーサイドへ移動

◆徹底した左狙い③:先制点の場面


 札幌の先制点は前半41分、一度右サイドで展開し、荒野からジュリーニョへ戻すと、ジュリーニョは左で張っている堀米に大きくサイドチェンジ。このジュリーニョのサイドチェンジの瞬間、讃岐はエブソンが都倉、内藤が内村を見ているが、サイドを変えられたことでこの守備セットがリセットされる。堀米が福森に戻すと、この時都倉と内村がポジションをチェンジし、内村がニアでエブソンの前、都倉はプルアウェイで内藤の背後をとる。この札幌2トップの入れ替わる動きで内藤はマークを見失い、福森のファーサイドへのクロスを都倉が頭で折り返し、内村が押し込んで札幌が先制。
 右で荒野に展開したのは完全におとりで、前半頭からずっと繰り返してきた、「左からのクロスに都倉がファーで合わせる」形が決まり、札幌が先制する。このゴールは先に図示したプレーと堀米や福森、都倉、内村のポジションが殆ど同じで、非常に再現性の高い攻撃であることが分かる。
ジュリーニョのサイドチェンジ。中央に都倉、右サイドに内村。
左からのクロスとペナ角への侵入
再三狙っていたパターンで崩す

2.後半の展開

◆縦幅を使ったプレッシング回避


 ビハインドを負う讃岐は後半、ポゼッションプレーを一部修正して反撃に出る。一つはビルドアップにおいて、ボランチ永田と馬場の縦関係を変更し、永田を後ろ、馬場を前にしている。54分には以下のような、GKの清水を経由するような縦幅を使ったビルドアップにより札幌のプレッシング回避にも成功している。
ピッチを広く使ったビルドアップによるプレッシング回避

◆外→中→外での勝負


 もう一つは、サイドハーフの高木と仲間を中央に絞らせたことで、最終ラインからのビルドアップで一度中を使い、札幌の守備を中央に寄せてからサイドのスペースを流れてきた木島に使わせ、木島がサイドで1vs1で仕掛ける状況をつくることである。
 下図は55分頃、右サイドのからの展開で西がタッチライン際に開くと堀米が西に着く。サイドハーフの高木は宮澤と堀米の中間で受ける(この時は厳密には宮澤に寄った位置で受けたため、宮澤がタックルに行ったが高木がかわした)と、札幌はストッパーの福森が対応するので福森の背後が空く。このスペースに木島が流れ、高木からのパスを受けて1vs1で仕掛けてクロスを上げている。
外→中のビルドアップから外を木島に使わせる

 逆に、高木が外で受けた場合の展開が下図で、右サイドの展開で高木が外に出ると、讃岐は中央を使える選手が馬場しかいなくなる。下図(63分頃)は右サイドでの展開に馬場がサポートに行けなかったため、讃岐はサイドに3選手が密集するが、そこからの展開が乏しく手詰まりになっている。
中央を使う選手がいない

◆奪いに来ないならボールを走らせる


 讃岐は攻撃面では上記のような改善がみられたが、守備面では後半も依然として2トップを守備に組み込まず、時折、木島や我那覇が札幌の最終ラインや深井、宮澤をチェイスするが、複数で連携したプレッシングではなく一人で追い回すだけなのでなかなかマイボールの時間を増やすことができない。一方の札幌は、讃岐の守備が機能しないため後半立ち上がり~60分頃までもボールを保持する展開が続くが、執拗に左サイドからクロスを狙った前半と異なり、讃岐のブロックの前~側面で無理せずボールを回す。
 61分、讃岐は我那覇→ミゲルに交代。65分には讃岐:高木→大沢、札幌:内村→小野の交代が同時に行われている。
61分~65分の交代後

 大沢がボランチ、永田が右サイドに入ったことで、讃岐はこれらの選手に近いゾーンではややボールに対して積極的に当たるようになるが、それでも連動したプレッシングとまでは言えず、小野を投入した札幌が讃岐の選手による単騎での守備をパスワークでをいなし、讃岐は札幌の選手のパスミスや無謀なチャレンジ以外ではボールを拾えない展開となる。
 71分、72分には讃岐:木島→森川、札幌:ジュリーニョ→ヘイスの交代が行われる。
71~72分の交代後

◆西の攻撃参加


 讃岐は永田が右サイドハーフに入ってから、右サイドでの仕掛け役をサイドバックの西に託す。永田は低めの位置でボールを受け、そこからサイドに張る西や前線に投入されたミゲルへのくさびのパスなどを狙う。
 この讃岐の右サイドの変化が、札幌の疲労による運動量低下や、途中投入された、主に左サイドの守備を担当するヘイスの微妙な守備面でのフィットしなさ(対面の選手が持った時の寄せが甘い)とかみ合わさって、讃岐の右サイド(札幌の左)から前線にボールが入りやすくなる。
永田が西を押し出す

 こうした状況を見て、札幌は79分に堀米に代えて河合を投入。ポゼッションプレーを諦め、自陣低い位置での守備を強化し逃げ切りを図る。結果的にこのまま札幌がリードを守り、1-0で5連勝を飾った。

カマタマーレ讃岐 0-1 北海道コンサドーレ札幌
・42分:内村 圭宏


【雑感】


 やはり終盤やや攻め込まれたが、ここ数試合では比較的安定した試合運びだった。讃岐の守備の問題(どうやってボールを奪って攻撃に繋げるのかが終始見えなかった)を別にしても、札幌がここまで安定したポゼッションを続けられた試合というのが近年記憶になく、ボールを回すことで終盤まで大幅に失速することなく、試合をクローズできたことは大いに評価すべき点だと考える。恐らく徳島戦や金沢戦など、終盤失速した試合を教訓としていて、この日は前線の選手を無駄に消耗させるロングボールをあまり使わなかった点など明らかな改善点が見られた。

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