1.ゲームの戦略的論点とポイント
エレベーターは悪なのか:
- 磐田の2024シーズンの売上は48.5億円で過去最高を記録。規模的にコンサとほぼ同等ですが、コンサはシーズン途中に選手補強のためスポンサー企業から臨時的な支援があった上での金額で、それを差し引くと磐田の方がやや上かもしれませんが、磐田もJ2だった2023シーズンは42億円程度の経営規模なので、まぁほぼ同等くらいと見ていいでしょう。
- 近年の磐田は19年-24年までの6シーズンでコロナ禍の20年(J2で6位)以外は毎年カテゴリを上下させており、よくエレベーターと揶揄されますがこれぐらいの動向なら経営規模としては一定は維持できるのが今のシステムなのかもしれません。これが例えば3年続けて下のカテゴリになると経営上の諸々の数値に響いてくるでしょう。
- 23シーズンはオフの補強禁止処分の逆風を乗り越えてJ1復帰、24シーズンに臨むにあたりGK川島、FWペイショット、シーズン途中にクルークスと割とコストがかかりそうな選手を獲得して、そのスカッドをJ2に持ち込みつつ25シーズン前にはDF江崎、FW佐藤凌我とこのカテゴリを意識した働き盛りの選手を集めている印象です。
- 一方で新監督がジョンハッチンソンということで、ここまでの戦いを見ると、やはりJ1から持ち込んだスカッドがそのまま適用できるかというとスカッド整理をしないと難しそうに見えます。この辺もコンサと似ていますが、江崎やGK阿部、期限付き移籍で倍井といった選手を確保する余地があったのはまだマシな方かもしれません。
スターティングメンバー:
- 磐田は7節で好調ジェフに初黒星をつけるなど開幕7試合を5勝2敗の好スタート。しかし8節以降はここまで6試合を3分3敗とブレーキがかかっています。リカルドグラッサの離脱もありましたが10節以降、彼が戻っても勝ちに見放されている状況で、上位に踏ん張れるか重要な試合との位置付けになります。
- それまでは割と固定メンバー気味でしたが、前節は前線を入れ替えており、トップに初先発となった渡邉りょう、DF登録の川崎が左ワイドで先発し1得点、ペイショットと倍井はベンチスタートでした。ターンオーバーの側面もあったかもしれませんが倍井がスタメン復帰、渡邉りょうは2試合連続の先発です。GKは開幕時は川島→5節から阿部→前節から三浦でこちらも2試合連続。
- コンサはスタメン、サブ共に2試合連続で同じ。配置は前節の前半途中からの、高嶺が左SB、青木が中盤センターの配置を継続しています。
2.試合展開
角のポジショニングとコンサのセンターラインの混乱:
- エンドを入れ替えてキックオフ。アウェイ側に陣取ってコンサのゴールを期待していたカメラマンの方がホーム側まで100m移動するのが大変だなぁと思って見ていました。そして前半のゴールラッシュはカメラマンが一斉にいなくなったアウェイ側のゴールで繰り広げられます。
- まず開始早々の磐田のファーストプレーで髙尾が、おそらく彼のキャリアでもワーストのミスで先制点を献上してしまいます。
- 試合を通じてグラッサや、他磐田の後方の選手のフィードは冴えていました(特にGK三浦には驚きました)が、スタンドの最上段から見てもわかるように髙尾は「やべぇ〜」みたいな様子で、しばらく切り替えられないようにも見えました。
試合開始から約35秒、電光石火の先制点⚡️
— Jリーグ(日本プロサッカーリーグ) (@J_League) May 6, 2025
🎦 ゴール動画
🏆 明治安田J2リーグ 第14節
🆚 札幌vs磐田
🔢 0-1
⌚️ 1分
⚽️ 倍井 謙(磐田)#Jリーグ pic.twitter.com/2XTe619JXq
- この先制点の場面もそうですが、磐田がボールを持っている時の特徴は、前線で角が渡邉りょうとほぼ並んで2トップのようなポジショニングからスタートすることが多かったと思います。
- 去年ヤマスタでコンサと対戦した時に角はリーグ戦デビューを飾っていて、左から仕掛けるアタッカーという印象であまり中盤の選手のイメージはなかったです。今年の磐田のシステムでは攻撃的MFとして表記されることが多いですが、中盤のギャップでプレーすると言うよりも昨年抱いた印象通り前を向いて仕掛けるタイプの選手かなと思います。
- そしてクルークスと倍井がタッチライン際に広がってスタート。
- 対するコンサは3日前に勝利を飾ったvs山形と同様、FWがサイドに誘導してサイドの選手が中切りをしてボールホルダーに寄せていく、というイメージだったと思います。
- この際コンサの対応は必ずFWのゴニが左を切るところから始まっていて、試合を通じた中村桐耶の振る舞いも参照すると、クルークスのカットインを警戒して磐田の右サイドには中村桐耶と高嶺で対応するため、まず磐田の左側に誘導して、中村桐耶がプレスバックする時間を稼ぎたかったのかと思います。
- まず角が絶妙に家泉から離れて荒野の背後くらいに移動します。
- 磐田の先制点の場面では、家泉が角にマンツーマンで対応するために前進した背後に髙尾のクリアミスが転がりました。この場面はいずれにせよ家泉だと角についていかずにステイしていても厳しかったかもしれませんが、相当足が速く(倍井とも遜色ないくらい?)危機察知にも優れる選手なら、最後にコースを制限させるくらいはできたかもしれません。
- そして荒野はこの角の移動を見て、自分が担当すべきかコンサのCBに任せるべきか迷いますが、普通はここにCBが最初から出てくるとラインがぐちゃぐちゃになってしまいますので荒野が見た方が良い、と考えたのでしょう。
- そうすると荒野が上原やその周辺のスペースを管理することが難しくなるので、荒野はバカヨコに対し「上原へのパスコースも気にしながら前に出て欲しい」みたいなコミュニケーションを前半早々に何らかとっていたように見えました。
- ただバカヨコと近藤が連動して磐田の左CBグラッサに制限をかけるのがコンセプトなので、バカヨコの寄せが遅くなると近藤も連動できなくなります。
- このような磐田のCBやGKにコンサのFWがあまりプレッシャーをかけられない(もしくは寄せるのに時間がかかる)構造があったうえで、先制点のようなフィードもありますが、松原が中央に入ってくると、近藤が担当していたグラッサ→松原の外のパスコースを切る対応も無力化されます。そしてコンサは前に3〜4人が出ているけどそこで奪えないので中央がスカスカな状態で磐田の攻撃に対処せざるを得なくなります。
- ハッチンソン体制で磐田はこの形をよく使っているので、率直にコンサはゲームの入りの選択を間違った感があります。確かに髙尾のミスで
自信がないことの証明:
- 最悪の立ち上がりだったコンサとは対照的に、磐田は非常に良い試合の入りをしていたと思います。
- DFがボールを持ったらコンサの前線の守備の仕方を確認しながら、先制点の場面以外にも低くて速いフィードを多用していました。「背後を取る意識を前節今治戦からサイド確認した」と実況アナウンサーの方が説明していましたが、倍井や角の足の速さとコンサのDFにそこまで速い選手がいないことを踏まえてキックの質を選択していたのかもしれません。
- 仮にそれがコンサボールになっても、DFがボールを落ち着かせようとしたりGKにバックパスすると必ず角か渡邉が全力スプリントで時間を与えない。ペイショットだとこうはいかないので、開幕10節を経てチームとしての基準を変えてきたのかもしれません。
- 角と渡邉の頑張りによって、捨てたくないボールを捨てさせられることも多かったコンサは、 9分に髙尾→家泉→斜めのパスでバカヨコ→ゴニ→バカヨコと渡って左の中村桐耶へサイドチェンジ成功。
- 初めてbuild-upが成功してハーフウェーラインを超えますが(結果はCK獲得)、2トップがバカヨコとゴニ、2列目が近藤と中村桐耶だと前線の選手はボックスで待つことになりますし、2列目は直線的なプレーが得意な選手なので、このようにラスト30mでボールが渡ってもゴールから遠ざかる方向にボールを置いてドリブルしてサイドからクロス、という選択肢しかなさそうには見えました。
- おそらくこれらの選手よりもコンサとしては青木にクリエイティビティを期待しているのでしょうけど、自陣低い位置で受けようとしていた青木がまたボールに関与するにはアップダウンが必要ですし、青木以外もそうですがそうした全体的なコンサのプレースピードは、中2日で乗り込んできた磐田に劣っていたように思えます。
- となるとスピードやフィットネスだけでなく仕組みや戦術で上回りたいのですが、先に述べたように磐田の前線の選手が元気なところを見せるとボールを捨ててしまうので、それも叶わず展開を落ち着かせられず、なかなか髙尾ショックから脱却できなかったかと思います。
- そうして落ち着かない展開の中で20分に磐田が追加点。最初はグラッサのゴールとされましたが、クリアに出た家泉が触らずGKに任せていれば防げたかもしれません。
🎦 ゴール動画
— Jリーグ(日本プロサッカーリーグ) (@J_League) May 6, 2025
🏆 明治安田J2リーグ 第14節
🆚 札幌vs磐田
🔢 0-2
⌚️ 20分
⚽️ リカルド グラッサ(磐田)#Jリーグ pic.twitter.com/kYFQA2SnwY
- 前日に練習を見に行ったのですが、連戦の試合前ということでかなり軽度の調整だったものの、コンサのGK陣はスタッフが左足インスイングで蹴るクロスボールの処理の確認?をしていました。ただクルークスのキックの速度はこのスタッフの倍くらいはありそうで、敵味方がゴール前に配置された中であの速さと精度で蹴られるとそうしたトレーニングもあまり効果がないような気もしましたが…
- スコア2-0となって磐田はややスローダウンし、2トップがコンサのCBに距離を詰めるというよりは背後の中盤の選手を背中で消すようなポジショニングに変えてきます。
- ようやくコンサはDFやGKがボールを持つことができて、西野は割と前に運ぼうと頑張っていましたが、髙尾や家泉はそれまでの20分の負荷がデカすぎたのか、いつもの前に蹴る選択を続けてしまいます。
- ただ磐田の振る舞いの影響もありますが、ボール保持というのはある種の信念とかスタイルみたいなものでもあるので、結局はコンサの場合は自分のプレーにそもそもまだ自信を抱けていないからボールを捨ててしまうということなのでしょう。
- そして先にも書きましたが、前線が9番タイプ2人と縦突破型のサイドアタッカー、DF登録の選手の4人で構成されるコンサはこの4人に何らかボールを得意な形で届けてうまく使えると良いのですけど、そもそも4人の得意なプレーの幅が狭いというか限定されている上に、パスを出せそうな荒野や青木がボールを引き取りに下がってしまうと前線と距離が開いてしまってそれも難しくなっていたと思います。
- そして26分に金子の得点で磐田が3点目。
ジュビロ磐田が怒涛のゴールラッシュ🔥
— Jリーグ(日本プロサッカーリーグ) (@J_League) May 6, 2025
🎦 ゴール動画
🏆 明治安田J2リーグ 第14節
🆚 札幌vs磐田
🔢 0-3
⌚️ 25分
⚽️ 金子 大毅(磐田)#Jリーグ pic.twitter.com/5QynFtkxuO
- 最後はオフサイドっぽいですがここはVARがない世界なので泣き言は言えません。
- 直前のプレーで、磐田がまた前線でスイッチを入れた感じになって、ボールを持っていた家泉に渡邉りょうがアフターでちょっかいを入れる。プレーは続行しましたが家泉が文句を言ってちょっと集中が切れた感じになったな、と見ていましたがそこからミドルシュート、リバウンドが家泉のミスで渡邉に渡って…という勿体無いプレーでした。
「規律を守る」の難しさ:
- 0-3になって気持ちが切れたわけではないのでしょうけど、というか磐田がボールを持っている時に守備がはまらないのでアフター気味にいくしかないコンサは、荒野が幻影旅団のような闇討ちをかましたり、クロスボールにバカヨコが突っ込んでGK三浦に激突して警告を受けたりで”うまくいってない感”が露骨に現れ始めます。
- 流石に岩政監督も前半のうちに動くしかなくなり、その三浦へのファウルの直後35分にバカヨコ・ゴニ→克幸・ジョルディ。
- ボールを持った時には↓の形からスタートすることが多く、磐田相手に1-3-4-2-1でシンプルに”間”でプレーするというよりは、西野や家泉がローテーションして右サイドで磐田のマークを外そうとしていました(昨日ほのかで読んだ月刊コンサドーレでもキャンプでこのような形を仕込んでいたと書かれていました)。
- とりあえず克幸まではボールが渡るようになって、それは交代以前の青木や荒野に渡るのと受ける位置はあまり変わらないですが、克幸は低い位置からでも前線の選手を走らせることができるのでようやくコンサはスカッドとピッチ上でできることが一致し始めます。
- 磐田ボールの時は↓のような感じで運用していて、
- WBが下がって5バックとはならないのでクルークスと倍井に展開されるとかなり怖いのですが、磐田のDFも疲れてパフォーマンスが落ちてきたか、とりあえず前の枚数を増やして突っ込んでくるコンサの方が前半のラスト10分はリターンを得ていたかもしれません。
- 前残りの近藤が3度ほど抜け出す場面がありましたが、ミスマッチ状態でコンサが特攻してくる、グラッサと近藤とのマッチアップ、と考えると磐田から見てここが危険なのは言うまでもありません。40分くらいの近藤の右クロスにジョルディと中村桐耶が突っ込んだ場面は、突破はあるけど頭に合わせるクロスはイマイチな近藤の特徴を考えるとグラウンダーのボールがGKとDFの間を割ったこの場面は決めたかったところでした。
- 後半頭からコンサは荒野→スパチョークで青木を再び中盤センターに。
- コンサの後ろの枚数が増えたことからか?磐田の前線の選手が前半同様に突っ込んでくる場面はやや減ったかもしれません。ただ見ていて感じるのは、家泉の隣(西野と高嶺)がローテーションしてぐるぐる入れ替わるよりは、家泉が安心してボールを預けられる選手をある程度固定した方がやりやすそうに思えます。
- 55分に磐田は渡邉りょう・クルークス・グラッサ→ペイショット・川崎・森岡で3人を交代。まず後半頭は様子を見て、ある程度守れそう(コンサがやってくることは放り込みだけ)と見てシステムは変えず、ペイショットを入れてクリアやロングボールで回避しやすくしたのかもしれません。
- コンサの放り込んでくるだけの攻撃をやり過ごした磐田は、65分に三浦の左へのフィードをペイショットがコントロール。右WB(髙尾)は最初から後ろにいない、中央CB(家泉)とペイショットが入れ替わって、倍井が右DF(西野)の背後を取って…と簡単にコンサの中央〜右の3人を突破して最後は対人が強くなさそうな克幸という、本来難しいはずのドリブルからのゴールですけど状況としてはかなりイージーな形から4点目。
#倍井謙 が得意のドリブルから今日2得点目!👏
— Jリーグ(日本プロサッカーリーグ) (@J_League) May 6, 2025
🎦 ゴール動画
🏆 明治安田J2リーグ 第14節
🆚 札幌vs磐田
🔢 0-4
⌚️ 70分
⚽️ 倍井 謙(磐田)#Jリーグ pic.twitter.com/WyIGePnXK7
- 以降はコンサが家泉を前線に上げて放り込み先を増やし、終盤に2点を挙げて2-4で終了。
雑感
- 試合についてはまず磐田がロングフィードを非常に上手く使っていました。磐田はボールを持っている時の展開が江崎から始まる印象があり、コンサのスカウティングもそういう話をしていたのかもしれませんが、1点目はグラッサ、3点目はGK三浦のフィードから。特に久々登場の三浦のフィードが冴えていました。
- その上で、グラッサに渡ったところで2〜3人で制限をかけようとしていたコンサは磐田のロングフィード攻勢で裏を書かれた形に。角が前に張っていたこともあって4v4の同数対応になりましたが、コンサはDFがあれだけ簡単に1v1の局面に晒されることは全く想定していなかったように見えました。
- あとは昨年に続いて、渡邉りょうの頑張りというか前線での粘り強さが目を引きました。
- 先日クラブからは「クラブフィロソフィー」として、「走る・戦う・規律を守る」が制定されたとリリースがありました。個人的にはこの言葉をそのまま受け取ると当たり前すぎるというか、その辺の部活レベルで、名将ミシャを招聘しこれまで7年間「負けてもいいからクラブの哲学を作りたい」みたいな荘言を何度も目にしていただけに、7年後のアウトプットがこれかい〜と盛大にずっこけました。
- しかしこの試合を見ると、確かにコンサにとって「走る・戦う」(これって何が違うの?)と「規律を守る」を両立するのは難しいというか現状はできてないのは事実でしょう。家泉を前線に上げてパワープレーで確かに戦う姿勢みたいなのをラスト30分で見せることはできましたが、そうして一生懸命に戦った結果ポジションもプレーの基準もめちゃくちゃな、とても規律があるとは言えない光景が繰り広げられました。
- 思えばコンサにおいて「走る・戦う」と「規律を守る」が両立されていたのは四方田監督期などごく一部でしょう。ですのでフィロソフィーというか、とりあえずそこを目指そうや〜的な位置付けとしてはコンサにはちょうどいいかもしれません。
- 15年前のクラシコで、バルサのGKビクトルバルデスが開始25秒、髙尾のミスと同じくらいの時間帯にミスから失点します。しかし磐田の圧力に押されて下を向いたままの髙尾やコンサの選手と異なり、トップ選手は一度ミスしてもそれが戦術的に正解だと信じていれば同じことをトライし続けます。バルサは何度もバルデスにバックパスしますし、バルデスは相手FWが突っ込んできても絶対クリアせずトライを続けます。
- 本来「フィロソフィー」とはこういう拠りどころというか自分自身やチームのことを信じられる、信じるに値すると思わせる何かなのでしょうけど、まぁそこは新社長の元これからブラッシュアップしてもらって、いつか本当の意味での哲学みたいなものが結果的に獲得できるとよいかもしれません。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。
El Clásico - Resumen de Real Madrid vs FC Barcelona (1-3) 2011/2012 https://t.co/nAHpstPnUD @YouTubeより
— AB (@british_yakan) May 6, 202
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