2024年12月2日月曜日

2024年12月1日(日)明治安田J1リーグ第37節 サンフレッチェ広島vs北海道コンサドーレ札幌 〜正しい方向に矢印を向けてから〜

1.ゲームの戦略的論点とポイント

スターティングメンバー:



  • 12月にリーグ戦2試合を消化するという日程に幾分か違和感なのか不慣れ感があるのですが、20チーム制になった以上は仕方ないのでしょう。それ以上に前節から3週間空くことについて、以前村井チェアマン?が「ACLが秋春制になったらそういう日程(終盤の盛り上がりに水を差す)になる」と言っていましたが、確かに3週間はちょっと長いなという気はします。
  • 新スタジアム初年にリーグ優勝の可能性を残す広島。前日に柏相手に引き分けた、首位の神戸とは勝ち点差4で、得失点差では上回る状況ですがリーグ戦では10/19の34節(vs湘南)から3連敗と失速し、タイトルには神戸の不運が必要な状況になりました。「例年この時期は調子が上がらない」とのことですが、9/19からACL2のグループステージが始まっており、35節、36節はミッドウィークのACL2から中2〜3日での日曜日開催ということは影響しているかもしれません。
  • ACL2が始まってからはほぼチームを2つに分けており、ACL2を戦うメンバーでは松本大弥や志知がDFとして起用されたりといった状況。この週は木曜日にフィリピンのイロイロという街でのゲームでしたが連戦となる選手には気温差など影響はあるでしょう。
  • ここ数試合は加藤がトップ、シャドーに松本とトルガイアルスランという布陣でしたが、試合前の私の予想は加藤が左シャドーに入って、トップにパシエンシアかピエロスソティリウを使うのもあると見ていました。トップを変えてくるのは予想が当たりましたが、加藤は右シャドーでスタートしています。

  • 前日の柏-神戸の結果が広島と同じく非常に気になっていたコンサでしたが、1-1のスコアで終わったことで2節を残してJ2降格が決まってのゲームとなりました。メンバーはスパチョークも怪我から復帰したようですがここ数戦と同様で、髙尾は間に合わなかったのか、大﨑を右DFとしています。

2.試合展開

WBの背後から始まる:

  • 広島がボールを持っている時は、コンサはいつも通りミラー布陣というか相手にマッチアップを合わせてマンツーマンでの対応が基本。
  • 訓練されていないチームだと、マンツーマンで対応されただけで誰にボールを渡したら良いかわからなくなって勝手に崩れてくれるのは、例年Jリーグあるあるなので(赤いユニのところとか水色のところとか…)、それを回避するためにJリーグは前線に強靭で競り合いに強い選手を置いてとにかく放り込むという選択が散見されますが、広島はこうしたミラーの状態から穴をあけて前進することが非常に巧みでした。
  • 特に↓の紫の円のところ、コンサのWBが前に出てきたところを広島は常に狙っており、ここを攻略するために複数のパターンを持っておりかつそれらを高速で繰り出してくることで、まずサイドでコンサが押されることになります。

  • 例えば↓で川辺がボールを持った絵としていますが、川辺やDFの選手からコンサWBの背後を狙ったロングフィード。これにWB(中野)やシャドー(加藤)が長い距離を走ります。
  • 菅はJ1基準で走力もありますし空中戦にもかなり強いですが、菅が中野に対して前に出たところで加藤に背後を突かれると菅だけでは対応できない。パクミンギュがついていきますが、意思疎通のとれた広島のパスと動き出しの方が早いので確実に後手に回ります。また中野と菅が空中戦で競り合うようなシチュエーションでは、広島はおそらく菅が後ろに下がりながらジャンプしないといけないようなボールを蹴っていて、全体的に広島はセットプレーもそうなのですがコンサがイージーにクリアできる浮き玉のパスをほとんど使わない印象でした。

  • ↓の図では左WBの東にボールのアイコンを置いていますが、このシチュエーションだと対面のコンサのWBは必ず出てきますので背後を取るのはより容易になります。
  • この際は左シャドーのトルガイもそうなのですが、1列下の松本もスペースに走るタスクを担っている。これだけでなく全般に広島は質・量ともに走ることに関しての要求が高く、序盤にラッシュをかけてから、試合途中でペースを落とす傾向があるので、コンサとしては序盤のラッシュを凌ぎたかったのですが8分でスコアが動いてしまいましたし、また広島がコンサを押し込んでコンサの選手が下がった状態にすると、たとえ広島がボールを失ってもセカンドボールのリカバリーが容易になり、広島のフィジカル的な負荷がいつもの試合よりも小さくて済む展開だったかもしれません。



東の左足:

  • 広島がコンサのWBの背後をとった際、コンサはサイドのDF(大﨑やパクミンギュ)がスライドして対応しますが広島は更にその背後に1人走ってパスコースを作るなど、ここでもゴールにより近づくための道筋を見出すオートマティズムがあり、コンサDFはサイドに追い込んだとして一息つくこともできず、頭と足を常に稼働させられることになります。
  • また構造的にはコンサを押し込んで、4〜5人のDFをゴール前に張り付かせることで、ペナルティエリアのすぐ外あたりでスペースができる。ここにサイドからマイナス方向のパスを通せば広島の前線の選手はマークを外した状態でボールをコントロールして前を向けるようになっていました。
  • これはコンサの青木や浅野が、中央ではほぼ塩谷や佐々木を背負ってプレーせざるを得ずなかなか前を向いてクオリティを発揮することができなかったのとは対照的です。トルガイは青木と異なり何度もゴール付近で、ゴール方向を向いてプレーできていましたし、最もマークを受けるはずのパシエンシアも前を向いて仕掛けるプレーを何度か見せていました。
  • 中央で彼らにボールを持たれると、コンサは前線の選手も下がっての対応を余儀なくされます。

  • こうして序盤から広島に幾度も侵入されてガードが下がり気味の状態からなんとか前に出て行こうとするコンサ。しかし8分にクイックリスタートから、東の、ベッカムのようなスーパーなアシストから加藤が先制します。
  • ボールの出所を逆サイドから見ていましたが、そんな小さいモーションで速く曲がるボールを蹴れるのかという衝撃的なプレーでした。

FWにプレスバックをさせるには:

  • 序盤のラッシュで先制点を奪った広島。広島は開始からだいたい15分くらいを飛ばしてからスローダウンする傾向があり、この試合も徐々にコンサがボールを持てるようになります。
  • コンサはいつもとボール保持の際の配置をいじっており、↓のように馬場が右SBに出てくるところからスタート。
  • …というか、ボール保持の形というより守備対応を変えてきたというほうが適切でしょうか。要はこれまでのように対応すれば馬場が右DFなのですが、なんらかの理由で馬場に右DFをやらせたくない(広島のシャドーとマッチアップしたくない)とか考えたのかもしれません。髙尾がベンチスタートですがもしかするとこれもコンディションではなく、右DFに大﨑(のようなサイズがある選手)を使うのを決めていたので、戦術的な理由で髙尾がベンチスタートになったのかもしれません。

  • 広島の対応は、コンサの選手の移動にそのままついていく(主に馬場→松本)形でマンツーマンでの対応がベース。
  • このコンサのボール保持の局面において、馬場は1人だけ移動の負担が大きい(望ましいポジションに移動するのに時間がかかる)ので、普通に考えたらコンサは馬場を避けてボールを運ぶことを考えるのではないかと思いますが、コンサはあまりそうした配慮なのか考慮は感じられず、とりあえず大﨑から始めることが多く、そして大﨑が岡村を切られたら馬場しかパスコースがない状況になったりもしていたと思います。

  • そしてこの試合、広島はコンサがボールを持った状態から、前線の選手のプレスバックからボールを奪ってカウンター、という場面が何度かありました。
  • コンサが普段、得意とする攻撃はオープンでスペースがある局面で、武蔵や近藤のような走力とフィジカルに優れる選手がスペースに走る形から。
  • この試合、近藤も武蔵も、シャドーに入った浅野も広島のタイトなマークを受けてなかなか持ち前のスピードを活かしたプレーを発揮できない状況になると、コンサは後方の選手がボールを持つ機会が増え、かつ前線の選手になるべくいい形で渡そうとしてボールをリリースするのが遅くなりがちです。

  • 広島はそうしてコンサが中央でボールを持つ…嫌な言い方をすれば、展開に時間をかけたりもたついた状況になると前線のパシエンシアやトルガイがすぐに逆方向に走ってボールホルダーにアタック。↓は一度コンサがサイドの馬場に渡した後の展開を表していますが、コンサは近藤や浅野に出しづらい状況もあって中央に結局戻すことが多く、その際に1人でアンカーになっている駒井は格好の狙い所になります。
  • あんまりFWの選手に過剰に走らせるとゴール前でクオリティを発揮するだけのエネルギーを残せていない、という状況にも陥りがちですが、広島の前線の選手は常に走っているというよりエネルギーを使うべき局面がわかっていて、チームとしても整理されている。
  • パシエンシアはこの試合、30分過ぎで既にきつそうな素振りを見せていて、結局45分でピエロスと交代するのですが、スポーツナビのモバイル版アプリでの集計では45分間で3回タックルを成功させている(試行3回で100%成功)。これは4度試行の佐々木と松本に次ぎ、加藤と並んでチーム2位で、コンサは岡村が5回、駒井、馬場、宮澤が3回試行というスタッツになっていますが、この数字を見ても広島の前線の頑張りと、それが無駄にならずボールを奪うという結果にも繋がっていることが読み取れるでしょうか。

  • このように広島のFWの選手が頑張るなら、コンサはGKへのバックパスを積極的に使ってもっとFWを走らせて疲れさせ、プレスを空転させられるとよかったですが、そこはいきなりやれと言われても難しい話で、このような攻防でも広島が上手だったと感じます。

  • そんなコンサですが41分にスローインから近藤が東の背後をとって(前半ではほぼ唯一だったでしょうか)、武蔵が詰めて一矢報いることに成功します。
  • 遡って19分にも逆サイドで似たプレー…スローインから浅野が意表をついた抜け出しを見せ、武蔵にマイナス方向に折り返すもシュートは枠外、というプレーがありました。こうした意表をついて屈強な広島のDFの背後を取らないと、この日のマッチアップではコンサが相手を崩すことは難しかったと思います。

  • 前半AT、ほぼ前半のラストプレーで広島のCKから浅野のファウルで広島にFK。東のクロスがそのまま入って、広島としてはラッキーな形でスコア1-2となりコンサはビハインドで折り返します。

基準を生み出す日常:

  • 後半頭からコンサは大﨑→白井で馬場と青木をそれぞれ1列下げます。青木と駒井が中盤センターという、キャスティング主義なミシャの選手起用を見れるのもあと1週間だと思うと胸がいっぱいになりますが、単に麺の上に小麦粉を乗せた食べ物を食べすぎただけかもしれません。
  • 一応真面目に考えると、シャドーの浅野が佐々木翔にほぼ封じられ、青木もそこまで目立っていなかったのでシャドーにテコ入れはわかりますし、大﨑の役割もそこまで良くなかったのでこの2人を入れ替えるのは一定理解できます。ただ復帰後の浅野はこの日もイマイチというか以前の力強さがなく、青木をシャドーで残して白井と組ませる方が個人的にはしっくりきます。
  • 広島は45分で出し切ったパシエンシア→ピエロスに交代。


  • 53分、近藤のバックパスを加藤が狙って、菅野に倒されてPK。これをトルガイが真ん中に決めて広島のリードは2点に広がります。
  • このプレーに限らず全般に広島のプレースピード、特に、狙うと決めたシチュエーションでコンサの選手にpressingを仕掛ける際の速さはコンサの基準:宮の沢での紅白戦よりも数段上で、近藤のバックパスもそうですが日頃プレーしている環境の差をひしひしと感じます。

  • ここからコンサは65分に浅野→宮澤で宮澤が右DFに。71分に広島はトルガイ→中島。77分にはパクミンギュ→中村桐耶、菅→荒野とコンサは後方の選手を次々と入れ替えますが、後ろの選手のうち誰が出てもコンサは広島のpressingを回避するようなプレーにはほぼ繋がらない(中村桐耶の強引な突破くらいか)ので、武蔵や近藤といったフィジカルが強靭で無理がきく選手にボールを押し付けて頑張ってもらうしかなかったと思います。

  • 78分に武蔵に押し付けたボールをインターセプトされて、綺麗なカウンターからピエロスに決められて1-4。

  • ここでスキッベ監督が引退を表明している青山と柏の投入を決めますが、ほぼ試合は決まったと言っていいでしょう。なお青山はたとえ10分でもこの広島のスーパーな強度でプレーするのは無理なんじゃないか?(だからスタメン予想をしていた一部メディアは何もわかってない)と思っていましたが、やはり見た感じそこは限界があったと思います。

雑感

  • 昨今、「自分に矢印を向ける」という言葉がいつからか流行り出した印象があります。
  • 一部で話題になっていた宮澤の発言「誰がこのチームを引っ張っていくんだろうな」は、その意味では自分もしくは自分たち選手に矢印を向けた発言だとは思いますし、それは悪いことではないのですけど、たとえばこの試合でWBの背後を何度も取られたり、相手のプレッシングに何度も引っかかってカウンターを食いまくったりするのは戦術的なアプローチによって生じている部分も大きく、コンサの選手の足が遅いとかやる気がないとか、誰がチームを引っ張るとか注意力散漫とか、そういう次元の話ではなくて、単にこの7年間のコンサの基準が広島と比べて低すぎるということが大きいように思えます。

  • もっとも、たとえば武蔵野ゴールで追いついて1-1となった直後の43分に、大﨑が自陣右サイドでトルガイのプレスバックを受ける→焦って馬場にハメパスして馬場がロスト→パシエンシアが拾ってシュートも菅野が正面でセーブ、という場面がありましたが、馬場が失った後の大﨑の振る舞いは自分にも十分責任があるにもかかわらず散漫な感じがしましたし、こういうのは確かにちょっと選手個人を見て元気がないと感じるところはありました。
  • ただ大﨑のこれまでのプレーを見ていればこんなところで心が折れる選手ではないはずですし、これも戦術的な要素が背景にあっての現象ですので、選手に矢印を向けすぎてもそこから何も生まれない場合もあります。

  • 荒野や武蔵が筆頭ですが、心無いサポーターや心あるサポーターによってこのシーズン既に選手には十分すぎる矢印が向けられていますし、フロントというか三上GMもそれは同様で、他にももっと矢印を向けるべき場所があるということを適切に理解しないと、誠に残念ながらこのクラブは一生同じような運命をループすることになるかもしれません。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。

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