2024年10月20日日曜日

2024年10月19日(土)明治安田J1リーグ第34節 名古屋グランパスvs北海道コンサドーレ札幌 〜リトリートという社内用語〜

1.ゲームの戦略的論点とポイント

スターティングメンバー:





  • 名古屋はリーグ戦はここ5試合で3勝2敗。前節は福岡に敗れたものの、その前の3試合はいずれもホームで新潟、川崎、磐田という中位以下のチームにしっかり勝って9位をキープしている状況にあります。
  • また先週はルヴァンカップ準決勝、F・マリノスとのH&Aを戦っており、アウェイでの1戦目で1-3とリードを奪って逃げ切る形で決勝進出を決めています。長谷川健太監督はガンバ、FC東京に続いて3クラブ目のタイトル獲得となるでしょうか。

  • メンバーは、7/20の24節からCB中央に三國が入って、ハチャンレがサブとなることが多くなりましたが、前節福岡戦では久々にハチャンレがスタメンでした。
  • この他、後半戦に入って出場機会が増えているのが、FC東京から加入の左WB徳元、シャドーの山岸といった選手。徳元はカップ戦で1試合3アシストと存在感が高まっています。
  • システムは1トップ2シャドーが基本だと思いますが、この日はコンサ対策なのか森島がトップ下の2トップでした。

  • 気づけば3人の代表選手を抱えていたコンサ。中断期間にそのうちの一人であるスパチョークと、宮澤といった故障中の選手が復帰しています。
  • バカヨコはコートジボワールとの国際Aマッチ2連戦にいずれも先発して、21時間かけて札幌に戻ってきたようでメンバー外。パクミンギュは韓国代表で2試合出場なしで、コンサにとっては助かる形だったかもしれません。
  • こちらもシステムは普段と変えていて、2トップに武蔵と前節ガンバからゴールを奪った白井。青木を左インサイドハーフとする3センターの1-3-1-4-2でした。


2.試合展開

駒井が語っていた「社内用語」:

  • 試合後にコンサの駒井がインタビューで話していたと思うのですが(なせ断定的な書き方じゃないのかというと私が眠くて試合後すぐ寝てしまったのでインタビューもうろ覚えのためです)、この日のコンサは「マンツーマンではなくリトリート」だったとのことです。
  • 先日武蔵?も確か鈴木啓太氏のYouTubeにて、今年の勝てない時期に「マンツーマンを続けるか迷いが生じていた」と語っていたと思うのですが、これらの「マンツーマン」というのはある種の社内用語のようなもので、「同数でセットして高い位置から捕まえに行く対応」をマンツーマン、同数でセットしない場合のことをリトリート、のようなイメージなのだと思います。

  • 一般にはサッカーだとマンマークとかゾーナルディフェンスという観点で対応を決めたり定義することが多いと思うのですが、要はコンサの場合は高い位置から捕まえるかどうか、が論点で、対応自体は基本的にマンマーク(人を捕まえて、人が動くならそれについていく)というのはミシャ体制7年間で不変ですし、もっというと私がコンサを知っている限りは常にコンサは30年近くこの対応しかしていないと思います(三浦俊也監督も1-4-4-2で配置して、入ってくる人を捕まえるのでマンツーマン基調でしょう)。

  • そんな駒井の言葉と、名古屋の配置とを踏まえると、名古屋がボールを持っている時は↓の構図でスタートすることが多かったと思います。
  • 名古屋は前線のターゲットの選手にGKやCBから早めに長いボールを蹴ってくる選択が主で、まずこの点でコンサの「リトリート」の判断は有効でした。前から捕まえても、長いボールを蹴られるだけで無力化されてしまう場合もあるためです。

  • 名古屋のターゲットの山岸は、おそらくコンサのDFのうち岡村を避けて、パクミンギュを空中戦で狙う意図で右でスタートします。
  • あとは名古屋は、コンサがいつもの「同数のマンツーマン」だと予想していたのではないかと思いますが、その場合でも山岸が中央ではなくサイドに流れることで、岡村が「マンツーマン」ならそれをサイドに引っ張ることができると考えて用意していたのかもしれません。

いかにしてFWにシュートを撃たせるか:

  • 名古屋はトップ下の森島と、右WBの菊地の流動的な動きが目立ちました。森島は普通に考えれば、永井や山岸、菊地に配球する役割なのでしょうけど、その割にはFWとMFの間にいたというよりは、山岸が空けた前線のスペースに入って行ったりで、出し手というよりむしろ受け手になることを意識していたように思えます。
  • 菊地に関しては、まず左の徳元とのバランスの観点があったと思います。名古屋はこの両サイドのWBに高い位置を取らせるということを、おそらくリスク管理の観点で避けていました。バランスを取っていたのはSB兼任、この日は近藤とマッチアップする関係性になる左の徳元。菊地は割と自由に動け、コンサ陣内でリスクを冒すプレーの選択ができるようにしていたと思います。
  • ですので名古屋は数字で表すと、1-3-4-1-2というより森島と菊地が2列目の1-4-4-2くらいのバランスだったかもしれません。
  • 菊地はサイドに張るだけではなくて、真ん中に入って行ったりもして、これもマンツーマン(マンマーク)のコンサの対応を逆手に取るというか、菅が菊地を見る関係性になるので、菅の主戦場のワイドではなく中央に入っていくことでフリーになろうとしていたのだと思います。

  • ただ名古屋は全体として見ると、中央に森島がいない(サイドに流れてくる)ことが多く、逆に菊地はサイドから中央に入っていくのですけど、この関係性は中央にいて欲しい時に人がいないことのデメリットの方が目立っていたように思えます。山岸が最初サイドからスタートするのも大きいでしょう。
  • ですので名古屋はペナルティエリア付近では、サイドから放り込む選択で終わることが多く、それはコンサのDFに簡単に跳ね返されることも多く、菅野を脅かすには至らなかったと思います。
  • クロスが入った時のコンサのDFは普段より1枚多いので、岡村か大﨑、場合によっては両方が余っている。マークの役割を持たずに入ってくるボールを跳ね返すことに専念できる岡村はかなりの強さで、名古屋はこの岡村や大﨑を外したクロスで勝負(GKとDFの間に速いボールを蹴るなど)必要があったかもしれません。

またも価値を証明する近藤:

  • コンサがボールを持っている時の構図は↓のような感じでした。
  • 面白いのはコンサの3DF+大﨑に対し、名古屋はパクミンギュのところを開けていて、ただここに出てくると菊地が前に出て捕まえる役割になっていました。基本は名古屋の対応は駒井のいうところの「マンツーマン」だったでしょう。
  • 序盤コンサは武蔵(左にいることが多かった)に当てて様子を見ますが、武蔵は名古屋の長身DFケネディが見ているので、武蔵も山岸と似た対応…サイドに流れてよりフィジカル的に戦いやすい選手と勝負してボールキープ、を試みます。異なっていたのは、武蔵は反転に成功するとそのままゴールに向かえるので、そこは山岸よりも武蔵の方が単体での怖さはあったかもしれません。

  • そしてコンサが名古屋陣内にボールを運ぶことに成功すると、自陣での名古屋は↓のような対応になっていて、最終ラインに菊地が戻って5バック。ブロックは5-2の配置なので、椎橋と稲垣の脇にコンサの選手が出てくる分には、野上や内田が前に出て早めに捕まえるようにしていたと思います。
  • 特徴的なのは、FWの永井がしっかり戻って髙尾を見ていました。おそらく髙尾から縦パスや組み立てを警戒するというのもあったと思いますけど、フリーにした時に前線や中央に入っていくのが嫌なので封鎖しておくということじゃないかと思います。この対応をさせるならパトリックやユンカーをスタートから使うのは難しいでしょう。

  • 対するコンサはこの前線の構成(トップに武蔵と白井、ワイドに近藤と菅)だと、後半戦で好調の近藤に期待が集まりますが、コンサが近藤にボールを供給するパターンは、①1発サイドチェンジでどかーん、か、②オープンな展開で相手がスカスカな時に特に苦労せず渡す、みたいな形が多い。名古屋はまだそこまでオープンにしてくれないし、徳元が監視している状況下で、敵陣で近藤にボールが初めて入ったのは23分だったと思います。
  • ただこの23分の場面で、近藤が右からカットインして引きつけて、中央で青木が左足ミドルシュート、というのがコンサの初めてのシュート機会につながっていて、早速近藤が仕事をしたということになります。どうしても右足でぶっちぎりたいところなのでしょうけど、ギリギリまで我慢して中央が空いたところで中央方向をうまく割れたのは、ここのところの好調がフロックではないことを感じさせました。

  • "5-2"ブロックの名古屋は、近藤に対しては徳元1人か、椎橋が中央から左に走ってきてカバーという対応もあったと思いますが、椎橋が毎回それをするのは(中央を開けられないので)難しく、基本は徳元1人での対応だったでしょう。
  • 徳元としては「右利きで速い選手」だと、どうしても縦を警戒する。そこで中を選択して左足も使いながらプレーできるのが今の近藤の良さなのですが、1回目で「中」を見せたことが先制点の場面で効いたかもしれません。
  • もう一つ言及すると、↑の動画では見切れていますが、大﨑の縦パス→名古屋が処理しきれず再びコンサボール(青木が拾う)→DFが中央に寄っていたので近藤に容易に渡せる という構図がありました。大﨑のパスというか名古屋の中央が稲垣・椎橋の2人で守っているのでスペースがあり出せるとする判断、構造的に相手の弱みをうまく突くプレーだったと思います。

「色々やろうとして結果全てが中途半端になる」(通訳日記):

  • 後半頭から名古屋は永井→ユンカー。右が得意なユンカーが入ったことで山岸が左に回り、永井の役割だった髙尾の監視も山岸に引き継がれていました。よって、ユンカーにそんなに難しいタスクがないので、シンプルにゴール前でのプレーが評価点になるという印象でした。

  • 山岸が左に入ったので放り込みのターゲットも左に移動しますが、名古屋がロングボールが多いこと自体は変わりませんでした。一見すると、左で山岸がキープして、森島が右に展開(右利きなので右展開の方がやりやすいでしょう)、ユンカーが1v1で仕掛ける…というのは噛み合わせは悪くなさそうですが、あまりそうした場面はなかったと思います。
  • どっちかというと、51分にユンカーの前に放り込んだボールに山岸が突っ込んで、菅野の眼前で触ったシュート(ポスト直撃)のような、DFから直接前線への放り込みが相変わらず名古屋は目立っていました。
  • 57分には内田が持った際に、ユンカーが引いて菊地が裏に抜けるというこの試合の中ではかなり意表をついたプレーでGK菅野と1v1のチャンスを迎えますが、菊地の右足シュートは左ポスト直撃。

  • 後半の名古屋は↓の形が目立っていました。野上の隣に椎橋が出てきて、そこからコンサのFWとMFの間に縦パスを入れてコンサの1列目(FW)を突破し前を向く。
  • 椎橋から、前に出て行った野上が引き取ったり、森島に渡したりして前を向くと、ユンカーと山岸が察知して裏抜けを試みます。
  • この時、椎橋ではなくて森島が落ちてくる時もありましたが、ここまで動くとなると流石に森島は色々やりすぎ、動きすぎが気になるところです。逆に野上の攻撃参加やコンサのFWを剥がすプレーは前半から目立っていて、持たされる展開では名古屋のDFの中で最も頼りになる存在でした。
  • 中央を一度使ってからの場面では、65分に徳元の左クロスが流れてからボックス内で稲垣のシュート(菅が間一髪でブロック)が、名古屋が最もコンサゴールに迫ったケースだったでしょうか。徳元はなかなか高い位置を取れず効果的なクロスが供給されないところで、この場面のようなチームのサポートが全体的に少なかったと思います。

ポストに3度救われる:

  • 名古屋はコンサの5バックを動かした状態までは至らないのですが、コンサはマンマークと言いつつ時間経過と共に中央でマークがイージーになる傾向がありました。おそらくそれはこの試合、コンサは「リトリート」と言っていましたが、その分どこでスイッチを入れて人を捕まえるのか、FWとMFのところでは不明瞭になっていたというのが大きいと思います。
  • 66分にコンサは菅→中村桐耶、青木→スパチョークの交代。名古屋は徳元→山中。

  • 直後69分に稲垣のスルーパスでユンカーが抜け出してシュートはこの試合3度目のポスト直撃、という場面がありましたが、この時は稲垣が浮いた時に武蔵がケアして、武蔵は誰かに受け渡したかったけど誰も気づいてくれないという場面。
  • 一応インサイドハーフとして入ったばかりのスパチョークが浮いていたので、「スパチョークがまだ試合に入れていない」みたいな言い方をしたいならすればいいのですけど、全体的にコンサはこのようなシチュエーションで人を捕まえるのかリトリートするのか不明瞭なのがまず指摘できるかなと思います。

  • 73分に名古屋は椎橋→中山。コンサは髙尾→馬場、白井→宮澤。77分には大﨑→荒野。名古屋は足が止まってくる時間帯に一芸のある選手を入れ、コンサは後ろの選手を変えていきます。また中山対策か?(疲れているはずの)パクミンギュがWBに回って中村桐耶とスイッチします。

  • 82分に名古屋が最後のカード:山岸と内田を下げ、パトリックと重廣(稲垣をDFに)。しかし直後にケネディが2枚目の警告を受けて退場。
  • ただコンサが数的優位を活かせるかというと、どこかで1v2みたいな関係性を作るということでもないので案外名古屋が数分間は互角というか、パトリックに当てるなどしてコンサ陣内でプレーできていましたし、DFもなんとか戻って枚数確保して、退場で即崩壊とはなりませんでした。
  • 試合を決めたのは88分、スローインから武蔵が競り、スパチョークが拾って、パクミンギュのオーバーラップから。もはや驚かないですがこの時間帯でも元気いっぱいのスプリントから冷静なラストパスでさすが韓国代表というクオリティを見せつけます。


雑感

  • 全体としてはまず、お互いに典型的なJリーグのチームというか、DFがボールを運ぶよりもセンターFWにボールを押し付けることから考える、FWのタスクが多いチーム同士の対戦だったと思います。
  • 相違点は武蔵は独力で突破もできるけど、山岸は味方とどう関与させるかが重要で、その意味では名古屋は山岸のポストプレーからどうするのか、があまり設計されていなかった印象でしたし、森島(やはり動きすぎが気になります)が出し手、永井が裏抜け役やフィニッシャーなのだと思いますがそうした噛み合う場面は少なかったです。

  • 一方で名古屋のいいところは中央を簡単に割られないところですが、特にケネディとのマッチアップで武蔵の奮闘が光りました。前半ケネディが1枚目の警告を受けたところも、中央で武蔵がターンしたプレーから。セットプレーでも武蔵がケネディをマークしており、たとえゴールがなくても(毎試合ながら)貢献度は非常に高かったです。

  • ただ一番大きいのは、名古屋の3バックに対し2トップを採用したことで、コンサの場合は相手と枚数を合わせない限りはほとんど相手に対してプレッシャーをかけたり制限をかけることにならないため、駒井のいう「リトリートする」という方針というか意思レベルの話と相まって、相手にボールを持たせると同義になりました。
  • 名古屋というチーム、長谷川健太監督のチームがボールを持たされると苦しいというのもありますし、コンサとしても、7年間やってきて、ボールを自分たちで握ったところで何が起こるかというと、福森・ジェイ・チャナティップがいないと無理ということがわかっていますので、(お尻に火がついた状況によって)そうした割り切った戦い方にシフトできるようになったことは大きいと思います。
  • あと残り4節ですが、おそらく今後の相手に対してもいずれもボールを持たせることが有効だと思いますので、J1で17位に滑り込めるかはよそのポイントの状況次第ですが、試合自体はまずまず勝負になるのではないでしょうか。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。

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