2021年11月27日土曜日

2021年11月27日(土)明治安田生命J1リーグ第37節 北海道コンサドーレ札幌vs柏レイソル ~クラシカルの対峙~

1.ゲームの戦略的論点とポイント

スターティングメンバー:

スターティングメンバー&試合結果
  • 柏はここ3試合は同じメンバー(1-4-4-2で、最終ラインが右から大南、上島、古賀、三丸、中盤がサヴィオ、三原、ドッジ、仲間、2トップがクリスと武藤)、その先まで遡っても1-4-4-2は固定されていましたが、やはりミシャ対策ということで5バックになる1-3-4-2-1、それも前線を1枚削って大南が右WBに入る、消化試合としてもかなり慎重な選択をしたと思います。
  • 札幌は離脱していた宮澤、青木が戻ってきて、ようやく頭数は揃ってきたところ。トゥチッチは31節以来のスタメン起用で、試合前に契約非更新と引退を示唆している”ライオンハート”ジェイはベンチスタート。

2.試合展開(前半)

お決まりのパターン:

  • 柏は立ち上がりから1-5-4-1の陣形で自陣に引いてセットします。ネルシーニョのミシャ対策はだいたいこのパターンで、スタメンのチョイスを見ても容易に予想できる選択ではあります。結果的に、札幌が30分ほどで2点を奪うまでこのスタンスが続くことになります。
  • 一昔前に、1-3-4-2-1が流行っていた頃はだいたいどのチームも1列目に3人並べて1-5-2-3で構えるのと、1人だけ残す1-5-4-1をシチュエーションで使い分けていましたが、この試合の柏はほぼ完全に1-5-4-1。
  • 札幌がボールを保持していると、クリスティアーノが緩めのランニングで宮澤や高嶺を追いかけはするものの、1人で何かができるわけでもないし、何とかしようと思っていないので、ボールホルダーに対する制限は殆どゼロに近かったと思います。

  • 柏は最終ラインは基本的にマンマーク気味で、中盤はセンターの2人は「入ってくる人」を捕まえる。シャドーはその中間で、スペースを守りながらも田中と福森にボールが入ると捕まえられるようにポジションを取っていて、田中が高い位置を取ると仲間は下がっての対応も厭わない姿勢を見せます。

  • よって柏は札幌の最終ラインにはある程度持たせていて、そこから縦パスが中央に入ったところでまず受け手を捕まえて、奪えればカウンター、というのが狙い。
  • 札幌はこれを、得意のロングフィードで回避するか、それか「取られない選手」が何とかするか、これまた得意のワンタッチプレーで回避するか、といったオプションになります。
  • もしくは見方を変えると、柏はシンプルなマンマーク主体なので、札幌の得意の大胆なポジションチェンジによって対応が曖昧になるところも一部ある。具体的には、田中が金子を追い越すくらいの高い位置を取ると、仲間はついていくのがめんどくさそうで(対応はするんだけど)、その田中に長いフィードを蹴ると何らか触って起点にはなれそうな様子ではあります。
  • そしてチャナティップがいつも通り、左シャドーの役割にとらわれないように広範に動く(下がってくる)。柏のDF高橋が全部ついていくのは現実的ではなくなります。ただ、柏は中央に三原とドッジが遊撃部隊として残っているので、チャナが完全にフリーになれるというシンプルな構図ではなかったと思います。

「マンマーク」で終わりでいいのか:

  • 試合を見ていくと、徐々にお互いにトランジションに問題があることが露見されます。
  • 7分の展開が典型で、発端は柏の三原がスリップしてボールを失ったところから札幌のカウンター。これを柏が守って素早く縦のクリスティアーノにつけてシュート(宮澤がブロック)。
  • 続いて10分には札幌がボールを失って、いつものマンマークで人を捕まえようとしますが、小柏がスリップしたところで古賀が運び仲間へスルーパス。最後はマテウス サヴィオのシュートを菅野が右足でビッグセーブ。

  • という具合に、まず札幌が、「柏が縦にパスしてるだけでシュートまで持っていかれる」守備であることを、入場制限が緩和されたドームの観客に開始10分でお披露目します。
  • 10分の場面は小柏が滑ったことが直接的な原因であり、選手が滑るのは想定外ではあるのですが、原則的に「一人ひとり相手に突っ込んで奪う」以外に決めごともなさそうで、例えば誰かが誰か(または”どこか”)に誘導して制限をかけて奪う、リスクヘッジもしておく、みたいな設計がないとするなら、そりゃ1人置いていかれて、古賀のような足元に秀でる選手がオープンになったらパス出されて終わりよね、となってしまいます。
  • これまでは「相手DFに突っ込んでおけば何とかなる」(大体のチームはロングぢフィードで蹴って回避して終わり)なので、この辺りは曖昧でしたが、やっていることはミシャ体制で全く変わっていません。


健康ならば:
  • 13分に札幌がトランジションから先制します。ルーズボールを拾った高嶺からチャナティップに渡って、ドリブルで相手の視線を誘導してからトゥチッチにラストパス。
  • トゥチッチは多分このパターン(左に膨らみながら走って相手DFと距離を確保してから左足に置いてシュート)が得意で、毎回この形で走っているのは既視感があります。右シャドーじゃなくて中央~やや左でスペースを享受できるように何らかサポートしてあげるといいかもしれません。
  • 柏のトランジションの話にfocusすると、「中盤にもう一人ほしいな」と思うことがたびたびあって、それは中盤2人のタスクが多い、もしくは厳しめであることを意味します。
  • おそらくですが、1-5-4-1で守っている時間帯が多いのもあって、シャドーは「4」の両端としてサイドをアップダウンするタスクの要求が強め。だいたい、このシステムでとトップに当てたボールをシャドーが処理するとか、背後に抜け出すとかそういう役割になっているのが、柏はそうした”本来の意味でのシャドー”の不足感があり、この時は中盤センターのドッジと三原が両方とも前に出てしまって後ろに誰も残っていない。
  • だからチャナティップに簡単に渡りましたが、試合を通じて柏の中央のフィルター機能は弱めで、柏も札幌に負けじと「縦パスしてるだけで簡単にシュートチャンスになる」みたいな状態でもありました。

  • そして両チームの違いはシンプルにチャナティップ。柏はクリスティアーノがカウンターアタックの専任っぽく前残りしますが、札幌はチャナがその全権を担っていて、より低い位置で関与して、一人でゾーン2からゾーン3まで運んで仕上げてしまうチャナティップの存在が、シンプルにお互いのカウンターアタックの差だったと感じます。

  • 札幌の、チャナを経由する攻撃に関して言うと、あまりよくない点もあって、それはチャナがあまり低い位置で受けると、トップの選手との距離が遠いので、小柏も下がってチャナを助けようとする(トゥチッチとチャナティップの間でプレーしようとする)。小柏のいいところは、DF背後に走っている時なので、チャナに寄ってゴールに背中を向けた状態でプレーしても何かが起こる気配はない。
  • だから、チャナは時々低い位置から一人で運んでしまう時もあるけど、ゴールから逆算して考えると、基本的には小柏とトゥチッチが前で勝負して、チャナティップはその2人と距離が離れすぎないように、あまり下がらない方がいい、ということになります。

  • なのですが、28分に再びチャナティップのアシストから小柏。
  • シンプルにこれは、チャナティップのクイックネスとプレーの精度(この速さでターンして裏に出されると難しい)が優れていたのがまず一つ。柏の対応にも目を向けると、右DF(高橋)と右WB(大南)の役割分担が曖昧だったことも指摘できると思います。

  • 冒頭に書いたように、スコアが0-2となって柏が前に出てきます(マッチアップは曖昧だけど、マンマークでとりあえず前から捕まえようとしてくる)。やや落ち着かない展開になったところで、30分に福森のパスが引っ掛かったところからのカウンターでクリスティアーノ。福森はミスの後ですぐに切り替えていたと思いますが、近くにいた高嶺の危機察知が不足していて、大南→中央のクリスティアーノへの斜めのパスが簡単に通ってしまいました。

3.試合展開(後半)

マンマークDFvsワンタッチプレー:

  • 柏は後半開始からマテウス サヴィオ→武藤、仲間→神谷でシャドーを2枚交代。が、早々に札幌に3点目が入ります。
  • これもスローインから、というのはあまり2点目とは関係ないとして、金子→駒井の得意のダイレクトで出すパスで柏の選手2人を外したところでチャンスに。後は小柏、チャナティップ、金子とボールに関与した選手が珍しく全員落ち着いていて、特に金子がしっかり中の状況を見てラストパス(たぶんリーグ戦では初アシストですね)は金子らしくないというか完璧なお膳立てでした。

柏の変化:

  • 柏の変化は徐々に見えてきます。おそらくボールサイドのシャドーが降りてボールに関与するように変えてきていて、その分ウイングバックは高めの位置取りをする。
  • 52分には神谷が降りてボールを迎えに行きますが、田中駿汰がそのままついいく対応の札幌はアプローチが遅れ、神谷→クリスティアーノ→武藤から最後はクリスティアーノが宮澤を外してシュート(菅野が左手1本でセーブ)。
  • その後は再びゲームはスローダウン。74分にクリスティアーノ、76分にチャナティップが下がってお互いにカウンターの機会も減り、目立った決定機もなく、ジェイの別れの挨拶以外は静かに終了しました。

4.雑感

  • お互いにシンプルな原則の下でプレーする。柏はプレッシングというか相手ビルドアップへの圧力を捨てていましたが、札幌もカバーリングの概念が殆どないという点では、お互いに現代サッカーで「そこ捨てていいんか?」という部分が欠落している。セットしたときのタイトさも感じないし切り替えも(一部の選手を除くと)速くない。クラシカルな香りのするゲームでした。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。

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